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京都地方裁判所 平成8年(ワ)1117号 判決 2001年2月08日

原告

高橋雅夫

外七名

上記八名訴訟代理人弁護士

飯田昭

藤浦龍治

小林務

被告

山中敏弘

安藤建設株式会社

上記代表者代表取締役

長澤光一

上記訴訟代理人弁護士

植松繁一

上記訴訟復代理人弁護士

鈴木治一

主文

1  被告らは連帯して、原告らに対し、それぞれ別紙(2)「請求額・認容額一覧表」の認容額欄中の損害額合計欄記載のとおりの各金員及びこれらの各金員に対する原告高橋雅夫に対しては平成九年六月一六日から、その余の原告らに対しては平成八年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用はこれを四八分し、その二四を原告高橋雅夫の、その四を原告山川弘皓の、その各二を原告浅井増雄、原告小澤稔子の、その各一をその余の原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決第1項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

被告らは連帯して、原告らに対し、それぞれ別紙(2)「請求額・認容額一覧表」の請求額欄記載のとおりの各金員及びこれらの各金員に対する遅延損害金の起算日欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件は、被告山中敏弘(以下「被告山中」という。なお、原告らもその氏に従って、「原告高橋」などという。)が被告株式会社安藤建設(以下「被告会社」という。)に請け負わせたマンション建設工事によって、原告らが居住する建物が損傷し、騒音、振動等による被害を受けたほか、完成したマンションによって、日照、通風の阻害等による被害を受けたとして、原告らが被告らに対し、被告らとの間で交わした工事協定書、覚書等に違反する債務不履行又は不法行為に基づき、これらの損害及びこれに対する遅延損害金の起算日欄記載の日(訴状送達の日又は請求の趣旨拡張申立書(二)の送達の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

1  争いのない事実、並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実(証拠等は、各事実末尾のかっこ内に記載した。)

(1)  当事者

ア 原告らは、別紙(3)「物件目録」(3)記載の建物(「ランブラス二条御幸町」、高さ19.05メートル(平均地盤面からは19.07メートル)。以下、計画段階のものも含めて「本件マンション」といい、本件マンションの建築工事を「本件工事」という。)の近隣に居住する者であり、原告らの居宅と本件マンションの位置関係はおおむね別紙(4)「付近現況図」記載のとおりである(甲32、乙3、30、80、弁論の全趣旨)。

イ 被告山中は、本件マンションの建築の注文者であり、所有者である(争いがない)。

ウ 被告会社は、本件マンションの建築を請け負った者である(争いがない)。

株式会社髙松設計(以下「髙松設計」という。)は、本件マンションの設計を行った者であり、株式会社アレフ・ゼロ(以下「アレフ・ゼロ」という。)は、本件マンションの建築の企画等を行った者である(証人篠原博巳、同髙松武夫、甲117)。

(2)  本件マンション建築の経緯

ア 被告山中は、その所有にかかる別紙(3)「物件目録」記載(1)及び(2)の土地(以下「本件マンション敷地」という。)に建っていた木造家屋(以下「旧山中建物」という。)を取り壊して、跡地に本件マンションを建築する計画を立て、平成七年二月上旬、近隣住民に対し、「仮)ランブラス二条御幸町建築工事に伴うご挨拶」と題する書面を配布した(甲1、弁論の全趣旨)。

イ これを知った原告ら近隣住民は、本件マンション建築に伴う居住環境の悪化などについて不安を覚え、住民集会を開き、「御幸町二条を守る会準備会」なる団体を結成するなどして対策を検討した。被告山中、髙松設計、アレフ・ゼロは、同年四月一日から数度にわたって説明会を開くなどして近隣住民の理解を求めたが、近隣住民の納得するところとはならず、かえって近隣住民は、本件マンションの規模、構想、設計の見直しなどを求め、同年五月下旬には、京都市議会に対して、施主と住民の間で納得がいく結論が出るまで被告山中申請にかかる建築確認をしないよう指導することを求める請願をした。同年六月中旬、原告ら近隣住民は、被告山中に対し、本件マンションの階数を五階に変更すること及び隣地境界線から本件マンション外壁までの距離を原計画の47.5センチメートルから一〇〇センチメートルに変更することを要望することとし、京都市建築指導部指導課に対してもその旨を伝えた(甲2ないし12、129、乙9、12、13、78)。

ウ 被告山中は、同年六月一六日ころ被告会社との間で本件マンションの建築請負契約を締結した。同月下旬、被告らは、近隣住民らの右要望の一部にこたえて、敷地の北側境界線から本件マンション外壁までの距離を八〇センチメートルと変更し、南側の地下部分については、柱の位置は原設計のままで、外壁面を建物内側に二〇センチメートル後退させる内容の設計変更をすることを表明した。同年八月一〇日、被告らと原告らを含む近隣住民は、旧山中建物の解体工事に関する「解体協定書」(甲14、乙6。以下「本件解体協定書」ともいう。)を交わした。これには、①解体工事着工前に、被告らが隣地建物等の現況調査をすること、②解体工事終了後、被告らが隣地建物の現況調査をし、損害があれば補修及び賠償をすることなどが記載されていた(甲14、129、乙6、12、78)。

エ 更に同月17日、被告らと近隣住民(原告高橋、原告山川、原告藤原は含まれるが、その余の原告は含まれない)は、本件マンション建設工事に関する覚書(甲13、乙3。以下「本件覚書」ともいう。)を交わした。これには、①北側境界線から本件マンション外壁までの距離を八〇センチメートルとすること、②南側の地下部分については、柱の位置は原設計のままで、外壁面を建物内側に二〇センチメートル後退させることの外、③山留め工事の工法については、旧山中建物の解体工事後のボーリング結果を基に改めて近隣住民及び被告らで協議し、決定すること、④バルコニーや窓の仕様等についての合意内容が記載され、更に、⑤今後工事協定書及び管理協定書を作成、締結した段階で、近隣住民は本件マンションの建築を承認する旨記載されていた(甲13、乙3)。

オ 同月三〇日、被告会社は旧山中建物の解体工事に着手し、同年九月八日に右工事を終えた(弁論の全趣旨)。

カ 同年九月一日、被告らは、「御幸町二条を守る会準備会会長」の横山登(以下「横山」という。)との間で、「工事協定書」(乙4。以下「横山工事協定書」ともいう。)を交わした。これには、工事の前後に近隣建物の現況調査を行うことの外、工事期間、作業時間、近隣建物の保全方法、工事用資材及び工事用車両の管理方法、騒音及び振動の防止対策、電波障害の改善方法、井戸水の対策、プライバシーの保護対策等が記載されていた。さらに、被告山中は、同月一〇日、横山との間で「管理協定書」(乙5。以下「横山管理協定書」ともいう。)を交わした。これには、本件マンション完成後の管理方法、ゴミ処理、駐車場及び自転車置場等に関する取り決め等が記載されていた(乙4、5、12、78)。

キ 被告山中は、同月四日付で本件マンションの建築確認通知を受け、同月二八日、地鎮祭を挙行し、同年一〇月一四日から本件マンション建築工事に着手した(甲129、乙10、12)。

ク 同月一八日、原告らは、被告らを相手取り、京都地方裁判所に本件マンションの建築工事禁止の仮処分を申し立てた(同裁判所平成七年(ヨ)第一〇三九号)。原告らは、その理由として、被告らが本件覚書において、原告らとの間で工事協定書及び管理協定書を作成、締結し、原告らの承認を得た後に着工することを約していながら、これを締結しないで工事に着工したことなどを主張した。平成八年四月三日、この仮処分事件の第八回審尋期日において、原告らと被告ら及び利害関係人であるアレブゼロとの間で、横山工事協定書及び横山管理協定書が被告らと原告らとの間でも効力を有していることを確認する(ただし、一部補充修正する)ことなどを骨子とする裁判上の和解が成立した(以下「本件和解」といい、これによって原告らと被告らとの間で効力を生じた工事協定及び管理協定をそれぞれ「本件工事協定」、「本件管理協定」という。)。これによって、「本件工事に関して被告らの責に帰すべき事由によって原告らの身体財産に損害を与えたときは、被告らは連帯して原状回復をなすとともに、損害を賠償すること」(横山工事協定書八条一項、本件和解条項の一の2の(3)及び(4)、以下、「本件工事中の賠償条項」という。)及び「本件工事終了後において、本件マンション及びその建築工事に起因して、地盤沈下等による建物の損害、井戸水の枯渇、風害等、原告らに何らかの被害が生じた場合には、被告らは連帯して、将来にわたって被告らの費用負担のもとに速やかに原状回復し、原状回復が不可能な場合には補修及び賠償を行うこと」(横山工事協定書一五条、和解条項の一の2の(5)、以下「本件工事後の賠償条項」という。)が明示されることとなった(甲32、67)。

ケ 本件マンション建築工事は、平成七年一〇月一四日から山留めのための杭打ち工事が開始され、同月下旬から掘削工事が始まり、同年一一月から一二月にかけて基礎工事がなされ、同月下旬から地下一階の躯体工事が始まり、平成八年二月初旬に一階の躯体工事が始まるとともに外部足場及びクレーンが設置され、その後順次上層階の躯体工事に移るとともに、併せて下層階の仕上げ工事がなされ、同年八月上旬には外部足場が、下旬にはクレーンがそれぞれ解体され、外構工事を経て竣工し、同年九月二七日に被告山中に引き渡された(甲129、弁論の全趣旨)。

コ 被告らは、本件解体協定書及び本件工事協定に基づき、株式会社パックサービス(以下「パックサービス」という。)に原告高橋方の調査をさせた。その詳細は次のとおりである(乙41ないし46)。

(ア) 平成七年八月一七日 事前調査

(イ) 同年一一月二日

第一回中間調査

(ウ) 同年一一月六日

第二回中間調査

(エ) 平成八年一月一八日

第三回中間調査

(オ) 同年八月三〇日及び九月三日

事後調査

2  争点

(1)  被告らの履行義務、義務違反ないし不法行為

(原告らの主張)

ア 被告らの責任

(ア) 本件工事協定に基づく損害賠償責任

本件工事協定の本件工事中の賠償条項及び本件工事後の賠償条項に基づき、被告らは、本件マンション建築工事及び完成後の本件マンションによって原告らに損害が生じたときは、原告らに対し、連帯して、原状回復、補修又は損害賠償を行う義務を負う。

(イ) 本件工事協定等の違反に基づく損害賠償責任

被告らが、本件工事協定、本件管理協定及び本件覚書(以下「本件工事協定等」という。)に定められた被告らの義務に違反したときは、被告らは原告に対し、右違反行為によって原告らが被った損害を賠償する責任がある。

(ウ) 不法行為に基づく損害賠償責任

原告らに対し、被告山中は、本件マンションの建築主として、本件マンション建築工事及び完成後の本件マンションによって原告らが被った受忍限度を超える被害について、被告会社は、本件マンション建築工事の施工者として、右工事によって原告らが被った受忍限度を超える被害について、それぞれ損害賠償責任を負う。

イ 原告らの具体的な被害

本件マンション建築工事に伴う被告らの加害行為及び完成後の本件マンションの存在及び管理にかかる加害行為及びこれらによって原告らが被った被害は次のとおりである。これらは本件工事中の賠償条項及び本件工事後の賠償条項にいう「損害」ないし「被害」に当たるとともに原告らに対する不法行為であり、かつ、その多くは、各項に記載したとおり、本件工事協定等に違反する。

(ア) 隣接建物等に対する加害行為

a 本件工事による地盤沈下等

(a) 本件工事の結果、原告高橋及び原告山川の各居宅敷地が地盤沈下し、各家屋等に著しい被害が発生した。本件工事着工前の平成七年一〇月二〇日から工事完成後の平成八年一〇月二三日までの間に、原告高橋方居宅の南西端付近であるD点(別紙(6)隣家レベル測定表記載の点。以下、E点、I点、J点とあるのも同表記載の点である。)では八ミリメートル、原告高橋方居宅南面の中央付近であるE点では九ミリメートル沈下した。また、本件工事着工前の平成七年一〇月二〇日から工事完成後約一年が経過した平成九年九月一二日までの間に、原告山川方敷地の南西端付近であるI点では九ミリメートル、原告山川方敷地の南東端付近であるJ点では7.5ミリメートル沈下した。

その結果、原告高橋方居宅では、柱と壁とのすき間の発生、拡大、腰壁及びたたきの亀裂の発生、タイルの目地切れ、壁クロスの破れ、廊下や階段の傾斜の発生、廊下や階段を歩くときしみ音が発生する、サッシや雨戸が閉まりにくくなるなどの被害が、原告山川方では、裏庭のコンクリート床の亀裂の発生、塀の腰壁の土台の亀裂の発生等の被害が、原告浅井方では、排水ジョイント管の損傷等の被害が発生した。

(b) 本件工事協定には、被告らは、本件工事を行うに際して、あらかじめ近隣建物の地盤を補強し、地盤の沈下、緩み又は崩壊を防止する措置を講じる旨の規定(横山工事協定書六条三項)がある。しかしながら、被告らは、原告ら方居宅について何らの措置も講じなかった。加えて、被告らは、平成七年九月八日、本件マンションの敷地内の原告高橋の居宅基礎から約1.7メートルの地点に生えていた樹木を掘り返して撤去する際、原告高橋の居宅基礎の保全措置を講じることなくその近くを掘削し、更に、右基礎の下に食い込んでいる枝根を除去しなかった(将来右枝根が腐敗すると、地中が空洞化し、原告高橋の居宅に影響を与える恐れがあった)。

さらに、本件工事協定には、被告らは、近隣住民の身体財産に損害を与えたときは適切な応急措置を執る旨の規定(横山工事協定書八条一項)がある。しかるに、被告らは、パックサービスが原告高橋方居宅の損傷が本件工事に起因するという報告をした後も何らの措置も講じなかったし、被告会社が行った地盤沈下レベル観測により、原告高橋、原告山川、原告藤原方居宅に地盤沈下による損害が発生していることを知ったにもかかわらず、何らの措置も講じなかった。

b 隣接建物に影響を与える工事の無断実施

(a) 原告高橋方の塀の支え木の撤去

被告らは、平成七年一二月二八日、原告高橋に無断で、原告高橋の居宅南側塀の倒壊を防ぐために設置してあった支え木を取り外した。これは、被告らは、工事の施工に関し、近隣建物に影響を与えないよう最大限の保全措置を講じなければならないとの規定(横山工事協定書六条一項)及びその保全措置、工法及び施工手順については原告らと協議するとの規定(横山工事協定書六条二項)に違反する。

(b) 原告藤原との境界付近の無断掘削

被告らは、同年一〇月一七日及び一九日、原告藤原に無断で、同原告の居宅敷地との境界付近を掘削した。これは、横山工事協定書六条一項、二項に違反する。

c 事故による原告ら方居宅の損傷

(a) 原告山川方の塀の損壊

被告らは、旧山中建物の解体工事の際、原告山川方の塀にパワーショベルを衝突させ、塀をへこませる損傷を与えた(平成八年二月二〇日にそのことが判明した)。これは、横山工事協定書六条一項に違反する。

(b) 原告高橋方の塀の損壊

被告らは、同年三月二六日、クレーン作業をする際、玉掛け等の保全措置を講じずに電線と接触せざるを得ない位置関係で作業を行い、吊り下げた荷物を電線に引っ掛け、この電線の端が接続されていた原告高橋方居宅の北側塀を破損した。被告らは、この修復工事(以下「クレーン事故修復工事」という。)をしたが、その着工までに一か月半もの長期間を要し、しかも手抜き施工をしたり、施工を失敗したりした。これは、横山工事協定書六条一項、八条一項、二項(万一近隣に重大な損害を与える事故が生じた場合は、いったん工事を中止するとともに、直ちに近隣住民と協議の上、その責任において万全の措置を執るものとする)に違反する。

(c) 原告鬼頭方へのガス供給停止

被告らは、平成八年八月一四日、ガス配管工事をする際、午前中から午後八時までにわたり、原告鬼頭方居宅へのガス供給を停止させた。これは、横山工事協定書六条一項に違反する。

(イ) 主として本件工事中の作業による加害行為

a 騒音及び振動

(a) 本件工事協定には、次の条項がある。

file_3.jpg被告らは、工程表に変更があった場合には、変更内容を近隣の住民に通知しなければならず、著しい埃、騒音又は振動を伴う作業の日等、近隣住民に対する迷惑の度合いが高い作業日については、事前にその旨を作業所の前面に掲示するとともに、近隣家屋にビラを配布する(横山工事協定書三条三項、五項)。

file_4.jpg作業時間は午前八時から午後六時までとし、重機の稼働時間は午前八時三〇分から午後五時三〇分までとする(横山工事協定書四条)。

file_5.jpg被告らは、①最も騒音及び振動が小さい工法を選択し、重機は防音型を使用するとともに、②著しい騒音又は振動を伴う作業を行う場合には周囲に防音壁を設置するなどの騒音及び振動の伝搬防止措置を講じ、③高齢者等、安静が必要な者を抱える者については、協議の上で適切な措置を講じる(横山工事協定書一二条)。

file_6.jpg被告らは、作業所の管理を完全に行い、作業所の周囲には堅固な外部保護施設を設ける(横山工事協定書九条一項)。

(b) しかるに、被告らは、近隣住民への事前の予告なしに山留め工事等を行い、また何らかの騒音、振動防止対策を施さずに山留め工事、コンクリート打設工事及びモルタル打設工事、内装、設備工事、屋外のコンクリート掘削工事等を施工して著しい騒音、振動を発生させた。約定の時間を超えて作業を継続し、深夜まで騒音をたてたこともあった。被告らが原告らの要求に応じて漸く防音シートを設置したのは、着工から七か月半が経過した平成八年五月末であった。また、作業所の前のバリケードフェンスが風で鳴るのを放置して、夜間騒音を発生させた。

騒音、振動が顕著だった工事の具体的な内容は次のとおりである。

file_7.jpg山留め工事

杭打ち機が巨大ならせん状のきりを地面にねじ込むことから、「ガイン、ガイン」という連続音が発生した。また、杭打ち機が移動するたびに地響きを伴う騒音、振動が発生した。

file_8.jpgコンクリート、モルタル打設工事

ミキサー車が「ヴィーン、ヴィーン」という連続音を、ポンプ車は「ガオーッ」、「ザンッ」という巨大音を発生させた。深夜二時まで左官工事を続けたことがあった。

file_9.jpg型枠工事

型枠を投げ落とすため、「バーン」という爆発音様の音が突発的に発生した。金属角材が落下するときには「ガラガラ、カンカン」という凄まじい金属音が発生した。

file_10.jpg屋外工事

コンクリート掘削機は「ガガガガガッ」という騒音と振動を発生させた。

さらに、約定の時間以外の時間に重機を稼働させたり、エンジンを掛けたまま工事用車両を路上駐車したりして騒音、振動を発生させた。

(c) その結果、原告らは、著しい騒音、振動に長期間さらされ、精神的、肉体的に多大の苦痛を被った。特に、病人や高齢者(原告小澤は七四歳で腰椎骨折の後遺症があり、原告浅井は八二歳で心臓疾患にり患し、原告船本は八〇歳で高血圧であり、原告鬼頭は七七歳、原告古澤は八一歳で脳梗塞の後遺症がある。そのほか、原告らの家族にも高齢の病人は少なくない。)には、その苦痛が甚だしかった。また、テレビの音声が聞き取れない、電話のベルを聞き逃す、店舗の客足が遠のく、自宅の閉め切りを余儀なくされ、換気が悪くなったり、季節外れにエアコンの使用を余儀なくされるなどの支障を生じた。

b ちり又はほこり等

(a) 横山工事協定書六条一項、四項、七項ないし九項には、①くず、ごみ等の飛散を防止するための措置を執る旨、②近隣建物等や周辺道路を汚さないように適切な措置を講じるとともに汚したときは直ちに清掃する旨、③散水を励行し防塵に努め、散水後の水の処理を適切に行う旨の規定がある。

(b) しかるに、被告らは、山留め工事、型枠切断工事、コンクリート打設工事、コンクリート掘削工事により、原告ら方居宅にまで拡散ないし吹き込むちり又はほこりを発生させる等して、原告ら方居宅や洗濯物等を汚した。原告高橋方の塀の解体工事の際には、多量のちり又はほこりが発生することが予想されるのに散水しないで作業を行い、大量のちり又はほこりを発生させた。平成八年七月には、作業用足場にたまった粉じんを原告ら居宅に向けて大量に掃き散らした。

また、被告らは、原告高橋方居宅の入口通路等に、コンクリート塊及び金具等を落とすなどした。

その結果、原告らは、居宅の屋根、外壁、塀、ガラス戸、洗濯物等を汚損され、窓を閉め切ったり、頻繁に掃除をすることを余儀なくされた。

c 異臭等

横山工事協定書には、①近隣住民に対する迷惑の度合いが高い作業日については事前に周知徹底させる旨(三条五項)、②仮設トイレを作業所内の隣地境界線及び道路境界線から離れた場所に設置する旨(九条四項)の規定がある。

しかるに、被告らは、原告高橋方居宅との境界線のすぐそばに仮設トイレを設置した上、この仮設トイレの管理が不十分であったため、平成八年五月一二日及び同年六月一三日に原告高橋の居宅にまで届く異臭を発生させた。さらに、被告らは、同年六月六日にはセルロイドが焼けるような異臭を発生させ、同月一七日、同年七月二六日、同月三一日、同年八月一二日には予告なく塗装工事等を行ってシンナー様の異臭を発生させた。

これによって、原告らは、不快感にさいなまれた。

d 排水の不備

横山工事協定書七条二項には、本件マンションの雨水等が隣地に流れていかないよう、また、隣地との間にたまらないよう措置を講じる旨の部分がある。しかるに、被告らが、何らの措置を講じなかったため、平成八年七月二三日及び同年八月一三日の降雨の際、本件マンションと原告高橋方居宅及び原告山川方居宅との間に大量の水がたまり、原告高橋方及び原告山川方各居宅に浸水した上、しぶきによりこれらの建物が汚損した。

e 交通妨害等

(a) 横山工事協定書には、次のとおりの規定がある。

file_11.jpg被告らは、工事の施工に際し一般通行人の安全を図る(六条一項)。

file_12.jpg①工事用車両の通行時間を午前八時から午後六時までとし、②誘導整理員を常駐させるとともに、③工事用車両及び工事関係者車両は駐車場を確保し、周辺道路には駐停車してはならず、④工事用車両を工事現場に駐停車させる場合には必ずエンジンを切る(一一条)。

(b) しかるに、被告らは、コンクリート打設工事、モルタル打設工事及び搬入・搬出作業の際等に、約定の時間以外にも工事用車両等を通行させたり、工事用車両や工事関係者車両を作業所の前の道路にエンジンを掛けたまま路上駐車させたりする等して、作業所前の道路に交通渋滞を発生させ、騒音や排気ガスを生じさせた。とりわけ、コンクリート打設工事の際には、多数のミキサー車を入れ替わり立ち替わり駐車させた上に、被告らが町内会長に対し三台縦列駐車をしないことを約束していたにもかかわらず、常時、ポンプ車一台とミキサー車二台を縦列駐車させていた。

また、被告らは、平成八年五月二二日、工事用トラックが原告高橋方居宅の南側塀に接する工事用仮塀に追突する事故を起こした。

(c) これによって原告らは、排気ガスに苦しみ、乗用車の出し入れに困難を来し、道路に出ると身の危険を感じ、店舗への客足が遠のくなどの被害を受けた。

f 火気の管理の不備について

横山工事協定書には、①作業所に消火器等を常備する(九条二項)、②危険物を使用する場合は安全管理を十分にするほか、使用区域内を不燃材で防護する等、火災の発生を防止する措置を執る(六条五項)等の規定がある。

しかるに被告らは、作業所内でたき火をしたり、作業員に木製型枠の上でくわえ煙草をするのを放置したり、何らの安全対策を執らないで溶接作業や金属切断作業を行うなどした。

そのため原告らは、火災発生の危機感を抱き、精神的な苦痛を感じた。

g 防護フェンス等の不備

横山工事協定書六条一項には、一般通行人の安全を図る旨、また九条一項には、作業所の周囲に堅固な外部保護設備を設けるなどして第三者が侵入できないようにする旨の規定がそれぞれある。

しかるに、被告らは、十分な高さのフェンスを設置せず、また設置した鉄製フェンスの管理が不十分なため、これが風で回転したり、転倒したりして、通行人に当たりそうになった。また、被告らは、平成八年八月二六日から二九日までの間、本件マンションのベランダ北側に格子状の足場を設け、原告高橋方及び原告浅井方居宅に第三者が侵入する危険を生じさせた。

そのため原告らは、警戒感を強いられ、精神的苦痛を感じた。

h テレビ受信障害

横山工事協定書には、本件マンションにより近隣住民のテレビ電波(衛星放送を含む)の受信に障害が発生した場合又はその可能性がある場合には、被告らは、共同受信設備を設置する等適切な措置を講じる旨(一三条)の規定がある。

しかるに、被告らは、旧山中建物の解体工事等によって本件マンションの北側の原告らのテレビ受信及び原告高橋の衛星放送受信に障害を発生させた上、原告高橋については受信不良修復工事をせずに放置したり、不十分な修復工事を行ったりした。また、被告らは、平成八年九月二日、同月三日及び同月一七日、ケーブルを誤って取り外し、原告らのテレビ受信を不能にした。

i プライバシー侵害

横山工事協定書一六条には、近隣住民のプライバシーを侵害するおそれが生じた場合には直ちに工事を中止しプライバシー保護の措置を執る旨の規定が、本件覚書七条一項には、本件マンション六階のルーフテラス及び東面のバルコニーとテラスについては、プライバシー保護等のため、工事期間中に住民立会いの上調査を行い、住民の要望があれば、目隠し、フェンス、手すりの設置等、必要な措置を講じる旨の規定がある。

しかるに、被告らは、当初はシートを張らないで作業し、その後シートを張ったものの、完工前にこれを撤去したから、作業員が原告らの居宅内をのぞくことができる状態になった。しかし、被告らは、プライバシーの保護のための原告らの立会いの上での調査を実施しなかった。これらによって、原告らは精神的苦痛を感じた。

j その他

(a) 承認がないままでの着工

本件覚書には、原告ら及び被告らが本件覚書に合意した後、工事協定書及び管理協定書を作成、締結した段階で、隣接居住者及び建物居住者は本件マンションの建築を承認するものとする旨の規定がある(八条)。

しかるに、被告らは、これに違反し、原告らと工事協定書及び管理協定書を締結せず、原告らの承認がないままに本件工事を着工した。

(b) 工程表の配布及び掲示の不実施

横山工事協定書三条二項、四項には、被告らが原告らに対し、全体工程表及び月間工程表を配布し、全体工程表、月間工程表及び週間工程表を作業所の前面に掲示する旨の部分がある。しかるに、被告らは、平成八年六月二一日ころの三週間及び同年八月二〇日以降週間工程表を掲示せず、同年九月分の月間工程表を配布しなかった。

(c) 約束時間外、約束期限外の工事

被告らは、工事の作業時間を定めた横山工事協定書四条、工事用車両の通行時間帯を定めた原告一一条二号に反して、約定された時間外に作業を行ったり、エンジンを掛けたまま路上駐車したりする等した。

また、被告らは、工事期間を平成八年九月三〇日までと定めた横山工事協定書三条一項に反して、同年一〇月一日、同月三日、同月二三日にも、工事作業を続けた。

(ウ) 主として工事終了後の加害行為

a 北側境界線との間隔保持の不十分

本件覚書二条には、本件マンションと北側隣接地境界線との間の距離を八〇センチメートル以上確保する旨の部分があるが、この距離は現実には七八センチメートルしかない。

b 日照阻害

本件マンションの建築により、次のとおり、原告ら方居宅の日照が悪化した。

(a) 原告高橋方居宅は、終日日影となり、屋内が暗くなり、室温の低下及び湿気が著しく、洗濯物が乾かなくなった。

(b) 原告山川方居宅は、一部で八時間日影、開口部で七時間日影となっているものの、現実には主要な開口部である二階及び三階の南面の窓の日照が遮られており、実質上終日日影に等しい。そのため、屋内が暗くなり、室温の低下と湿気が著しく、洗濯物が乾かなくなった。

(c) 原告小澤方居宅は、一部で六時間日影、開口部で5.5時間日影となり、その主要な開口部の日照が午前中から午後一時三〇分まで遮られ、屋内の寒気と湿気が著しくなり、洗濯物が乾かなくなった。

(d) 原告浅井方居宅は、一部で五時間日影、開口部において四時間日影となり、その主要な開口部である南側の日照が遮られ、二階南側居室及び物干しへの日照が四時間にわたって遮られた。午前一一時まで建物全体に日影が及び、午後零時をすぎても建物の東半分は日影のままであるため、屋内の寒気と湿気が著しくなり、洗濯物が乾かなくなった。

c 通風の阻害及び風害

(a) 本件マンションにより、梅雨から夏にかけて南風が遮られるようになり、原告浅井、原告小澤、原告高橋及び原告山川の各居宅の通風を悪化させ、湿気が著しくなり、大量のカビが発生するようになった。

(b) 本件マンションの近辺は一年を通じて北風が多いため、本件マンションによって遮られた北風が、原告浅井、原告小澤、原告高橋、原告山川の各居宅に吹き下ろすようになり、これらの各居宅の物干し竿等が風に飛ばされそうになったり、ベランダにおいていた鉢植え植物が倒されたり、ガラス戸やすだれが大きな音を立てて安眠を妨害されたり、雨が吹き込むため、小雨のときでも窓を閉め切らなくてはならないなどの被害が生した。

d プライバシー侵害

本件覚書七条一項、横山工事協定書一七条には、近隣住民のプライバシーを侵害するおそれが生じた場合にはプライバシー保護の措置を執る旨の部分がある。

しかしながら、被告らは、原告らのプライバシー保護措置の要求に応じなかった。具体的には、次のように原告らのプライバシーが侵害されている。

(a) 本件マンションの四階ないし六階の東面の室内及びバルコニーより原告藤原方居宅の居間、台所、浴室及びベランダ物干しが丸見えの状態である。

(b) 本件マンション六階北面のルーフテラスから原告小澤方居宅の室内及び物干し場が見通せる状態である。

(c) 本件マンション二〇六号室のLDKの窓のガラリの隙間から原告高橋方居宅の二階和室の室内が間近に見える。

(d) 本件マンション西面の二階ないし六階のバルコニー及び六階のルーフテラスから原告浅野方居宅の二階、三階の室内及び南側のベランダが丸見えの状態である。

e マンションの管理不備

(a) 引越し等

被告らは、横山管理協定書三条一項(被告山中は、本件マンションの管理運営上の一切の問題について責任を持って対処する)、二項(被告山中は、入居と原告時に管理人を常駐させる)、七項(被告山中は、入居者が決定、変更した場合は、速やかにその氏名を原告らに通知する)、四条四項(騒音等、近隣住民への不快な行為又は迷惑を及ぼす行為を行わない)、六項(周辺道路に自転車、自動車等を駐車し、近隣住民に迷惑をかけない)に反し、予告なしに本件マンションへの入居者の引越作業が行われ、入居のための車両が本件マンションの前や原告高橋方前に路上駐車して、迷惑を被った。また、本件マンションに管理人を置かなかった。

(b) 町内会

被告らは、横山管理協定書三条七項に反し、町内会長に対して本件マンションの管理人及び入居者等を通知しなかった。

(c) ごみ

被告らは、平成九年一〇月一四日、一五日、管理協定書四条五項(ごみは本件マンション内の指定場所に置く)、五条(被告山中は、ごみ処理に関して近隣住民から苦情が出ないように適切な措置を講じる)に反し、ごみの入った袋が本件マンション前面駐車場に置かれているのを放置した。

(被告らの主張)

ア 被告らの責任について

(ア) 本件工事協定に基づく損害賠償責任の主張について

本件工事中の賠償条項は、「近隣住民の身体財産に損害を与えたとき」の損害賠償の定めであるから、原告らは、原告条項に基づいて、人格権、プライバシー等の精神的損害に対する損害賠償請求をすることはできない。

(イ) 本件工事協定の違反に基づく損害賠償責任の主張について

被告らが、本件工事協定ないし本件覚書に違反した建築工事をした事実はない。

(ウ) 不法行為に基づく損害賠償責任の主張について

一般に、土地の所有者がその地上に建物を建築することは適法な行為であって、これにより隣接住民に騒音、振動、悪臭、交通の危険性等が生じても、それだけで直ちに不法行為が成立するものではない。権利の行使が、その態様ないし結果において社会観念上妥当と認められる範囲外である場合において、これによって生じた損害が社会生活上一般的に被害者において受忍するを相当とする程度を超えたときに、初めてその権利行使が社会観念上妥当な範囲を逸脱したものとして不法行為責任を負うのである。

被告らの行為は、いずれも社会観念上妥当と認められる範囲を超えるものではなく、かつこれによって原告らが受けた損害も、社会生活上一般に建設工事現場の近隣住民において受忍するのが相当である程度を超えないから、被告らの行為は不法行為とならない。

(エ) その他

a プライバシー侵害及び日照侵害を理由とする損害賠償請求に対し―放棄

本件マンションが原告らに与えるプライバシー侵害及び日照被害については、既に本件覚書で解決済みである。すなわち、被告らは、原告らの要求を入れ、バルコニーや窓等の仕様変更に応じるとともに、本件マンションと境界との距離を八〇センチメートル離すこととし、原告らは、被告らに対するプライバシー侵害及び日照被害を理由とする損害賠償請求権を放棄した。

b 原告高橋の家屋等の損傷を理由とする損害賠償請求に対し―停止条件

本件工事協定(横山工事協定書一五条、本件和解条項一の2の(5))には、「工事終了後において、本件マンション及びその建築工事に起因して、地盤沈下等による建物の損害等、原告らに何らかの被害が生じた場合には、被告らは連帯して、将来にわたって被告らの費用負担のもとに速やかに原状回復し、原状回復が不可能な場合には補修及び賠償を行う」旨定められている。したがって、被告らが損害賠償義務を負うのは、被告らが原状回復工事を施工したが、原状回復ができなかったことを条件とするのである。そして、被告らは、原告高橋に原状回復を申し出ているが、原告高橋はこれを拒否している。したがって、上記条件が成就していないから、被告らに損害賠償債務は発生していない。

c 原告山川の塀等の損傷を理由とする損害賠償請求に対し―放棄

原告山川は、平成八年九月上旬、被告会社の現場作業所長井出純明(以下「井出作業所長」という。)と①原告山川方南側塀の上部鉄板の変形については鉄板二枚を張り替えること、②コンクリート土台の亀裂についてはモルタルを上塗りすること、③コンクリート床の亀裂については現状のままとすることで合意し、被告会社は、この合意に基づいて同年一〇月、①及び②の工事を施工した。これによって、原告山川は、塀の損傷及びコンクリート床の亀裂に関しては、被告らに対する損害賠償請求権を放棄した。

イ 原告らの具体的な被害主張に対する被告らの主張

(ア) 隣接建物等に対する加害行為

a 本件工事による地盤沈下等

(a) 全体について

原告の主張する原告高橋、原告山川及び原告藤原の各居宅敷地の地盤沈下の数値は、測定誤差を含むものである上、その地上建物に影響を及ぼす程大きなものではない。

(b) 原告高橋について

原告高橋方居宅の敷地は地盤沈下しているが、この居宅の損傷は地盤沈下とは関係がなく、経年変化等によるものである。なお、原告高橋方居宅の基礎の下に食い込んでいた枝根は直径一ないし二センチメートル程度であり、これによって地中が空洞化する恐れはない。

(c) 原告山川について

原告山川宅方の裏庭及び塀の被害は、本件工事とは関係がない。

(d) 原告浅井について

原告浅井宅の排水管ジョイントの損傷は、本件工事とは関係がない。

b 隣接建物に影響を与える工事の無断実施について

(a) 原告高橋方の塀の支え木の撤去について

原告高橋方の塀は、旧山中建物の北面に打ち付けられていた。そこで被告会社は、旧山中建物を解体する際に、この塀の保全のために支え木を取り付けたが、工事施工上危険なため、これを取り外し、その替わりに、残しておいた旧山中建物の北側の柱二本に右塀を固定して保全した。

(b) 原告藤原の土地との境界付近の掘削

被告会社は、原告藤原方居宅の基礎コンクリートが本件マンション敷地内に五〇ないし六〇センチメートル越境して流し込まれていたことを発見したので、原告藤原に立会を求めたが、同原告は立会をしなかった。そこで被告会社は、この基礎コンクリートをドリルで削り取ろうと試みたが、この基礎コンクリートが大量であったので、これを断念したのである。

c 事故による原告ら方居宅の損壊について

(a) 原告山川方の塀の損壊について

旧山中建物の解体工事の際、原告山川方の塀にパワーショベルが衝突した事実はない。この塀は、旧山中建物の外壁に打ち付けてあったため、旧山中建物を解体する際にそのトタン部分に凹みができた。この凹みは、前記アの(エ)のcのとおり、被告会社が平成八年一〇月に修復している。

(b) 原告高橋方の塀の損壊について

クレーン作業中に原告高橋方の入口北側塀を破損したことは認める。被告会社は、そのため、この塀をすべて撤去し、新しい塀を設置するという修復工事をした。この工事に手抜き工事はなく、施工の失敗もない。新設壁の白壁に雨水によるシミが生じているが、これは、この塀の構造からやむを得ないものである。

(c) 原告鬼頭方へのガス供給停止

都市ガス配管工事は大阪ガス株式会社が行ったものであって、被告らが行ったものではない。

(イ) 主として本件工事中の作業による加害行為

a 騒音及び振動

(a) 全体について

file_13.jpg本件工事において生じた騒音及び振動は、建築工事において通常発生する騒音及び振動であって、受忍限度内のものである。

file_14.jpg防音シートは建物解体工事で使用されるもので、建築工事では通常使用されないものであるから、被告らが防音シートを設置すべき義務はない。

なお、被告らは、作業場の足場外周をシートで覆い、騒音対策を図っていたが、原告らの申入れに応じて、このシートの上から更に防音シートを張ったのである。

file_15.jpg工事協定書は、作業時間を定めたもので、作業員及び作業車両が作業時間前に作業所に到着することを禁じるものではない。作業員等が作業時間前に到着することは社会的常識である。

(b) 山留め工事について

被告会社は、山留め工事に際しての杭打ち工事は最も騒音の少ないオーガーねじ込み工法で行っており、これによる騒音は六〇デシベル以下であった。また、この工法による振動は、機器の移動の際の軽微なものにすぎない。

(c) コンクリート及びモルタルの打設工事について

モルタルの送出は電動モーターで稼働する圧送ポンプを用いて行っており、騒音は少なかった。平成七年一二月一九日、コンクリートの仕上げ作業が深夜にかかったが、これは、冬季でコンクリートの硬化が遅かったためであって、やむを得なかった。被告会社は、コンクリート打設工事が約定時間を延長することが予想される場合には、事前に作業時間の延長の通知をしていた。

(d) 型枠工事について

被告会社の作業員が型枠や金属角材を投げ落としたことはない。型枠解体作業中にコンクリート面から合板等を外す時に騒音を立てたにすぎない。

b ちり又はほこり

(a) 被告会社は、本件マンションの周囲をシートで覆って埃の拡散を防止したり、養生シートを張って物の落下を避けたり、常駐の警備員に作業所の前面道路の清掃状況の管理をさせたりした。作業用足場は定期的に清掃しており、隣接建物や道路に向けてちり又はほこりを掃き出したことはない。

(b) 被告会社は、原告高橋方の塀の解体作業の際、狭い通路での作業であったので、シート張り及び散水をせずに作業をせざるを得なかった。原告高橋及び原告浅井には事前にその旨の通知をし、作業後は清掃を行った。

(c) ちり又はほこりの発生は受忍限度の範囲内である。

c 異臭等

本件工事により原告らが主張するような異臭は発生しておらず、仮に発生していたとしても、いずれも受忍限度内のものであった。なお、被告会社は、本件マンション敷地の中央部付近(一階の躯体工事が完成した後は、建築中の建物内部)の仮設トイレを設置していたが、本件マンションの内部仕上げが進行し、屋内に設置することができなくなった時点でこれを原告高橋方との境界近くに移動した。仮設トイレは水洗式で、シートで囲われ、汚臭を拡散させない構造であった。

d 排水の不備について

被告会社は、本件マンションの外構工事が完成する前は、雨水等を地下集水水ピットに導入して、ポンプで外部に排水し、外構工事完成後は外溝によって排水したので、隣家が浸水した事実はなかった。なお、横山工事協定書七条二項の規定は本件マンション完成後に適用されるべき規定である。

e 交通妨害等について

(a) 特定の時間後に作業所の前面道路に駐車していたことがあったとしても、それは資材等の搬入のために一時的に駐車したものであって、やむを得ない。その時間もおおむね一時間以内の短時間であった。

(b) 被告会社の常駐警備員は、十分に任務を遂行し、作業所前面道路の保全を行った。

(c) コンクリート打設工事には、小型の生コン車を使用した。なお、三台縦列駐車をしない旨の約束をしたことはない。

(d) 平成八年五月二二日の事故は、被告会社のトラックが中寄せの際に移動式の囲障に接触したにすぎないもので、原告高橋宅南側塀に影響を与えていない。

f 火気の管理の不備について

(a) 被告会社の作業員は、消火用水や防火のためのシートパネルを用意して、溶接工事を行った。また、金属切断機から大きな火花が生じたことはない。

(b) 被告会社の作業員は、冬季に小さい空き缶でたき火をした程度にすぎない。また被告会社は、作業員に対し、喫煙場所を指定し、注意を促すなどの措置を講じた。

g 防護フェンス等の不備

(a) フェンスの不設置等について

被告会社は、作業所の前面に容易に乗り越せない高さ1.8メートルのバリケードフェンスを設置した後、原告高橋の申出に応じ、さらに高さ三メートルの移動式囲障を設置した。

(b) 防護フェンスの転倒について

工事終了後に設置する折り畳み式フェンスを作業所の片隅に置いていたところ、これが昼休み中に倒れたにすぎない。

(c) 平成八年八月二六日に足場を設置したが、第三者が容易に侵入できるものではなく、原告高橋及び原告浅井の居宅への第三者の侵入の危険は生じていない。

h テレビ受信障害について

(a) 原告高橋は隣接する武村ビルの屋上から、原告浅井及び原告小澤は渡賢ビル屋上から、原告山川及び原告藤原はコープ野村ビル屋上からそれぞれテレビ共聴配線を引いていた。

(b) 原告高橋のテレビの受信障害は本件工事と関係がない。被告会社はサービスでテレビの映り具合を調整したにすぎない。また、同原告の衛星放送の受信障害はブースターの不調が原因であって本件工事によるものではなかった上、画面に影が生じた程度の軽度のものであったか、又は本件マンション竣工直前の一時的なものにすぎなかった。そして、被告会社は、本件工事中は足場の上に衛星アンテナを設置して原告高橋宅にまで共聴配線を引き、本件工事後は本件マンションから原告高橋宅まで共聴配線を引いて衛星放送の受信障害対策をしたほか、ブースターを交換して受信障害を解決した。

(c) 原告浅井、原告小澤のテレビ受信障害は本件工事と関係がない。被告会社は、渡賢ビルが本件マンションの影になった時点で原告ビルのアンテナを足場上に仮設し、本件工事後は本件マンション屋上の共聴アンテナから原告ビルの共聴配線に配線した。

(d) 原告山川、原告藤原のテレビ受信障害は、同原告らが加入している日本ケーブルテレビジョン株式会社が行った改修工事によるものであって、本件工事とは関係がない。

i プライバシー侵害

(a) 被告会社では、原告山川及び原告高橋の要請に応じて、シートを張って作業を行った。外部作業を終え足場を撤去する時点で、シートを撤去したが、この時点では高い場所での外部工事がなく、内部工事に入っており、本件マンションから原告ら方居宅が見えやすくなったのは一時的過渡的なことにすぎなかった。

(b) 本件マンションではガラリが目の高さよりも高い位置に設置されており、原告高橋宅の室内が丸見えの状態ではなかった。

(c) また、近隣住民から本件マンション内への立入りの申出があったが、工事中で危険であった上、プライバシー保護措置の工事が未了であったため、本件工事終了時まで待ってもらうよう回答した。

j その他

(a) 承認がないままでの着工

被告らは横山工事協定書、横山管理協定書を作成、締結した上で本件工事に着工したものである。

(b) 工程表の配布及び掲示の懈怠

被告会社が平成八年九月分の月間工程表を原告らに配布しなかったのは、当時既に建物本体の工事がおおむね完成していたからであり、週間工程表を掲示しなかったのは、本件マンション前面の工事が集中しており、本件マンション前面に掲示する場所がなかったからである。

(c) 約定時間外、約定期限外の工事

file_16.jpg被告会社の作業員は、朝の通勤ラッシュの交通渋滞を避けるため早く出勤することがあったが、作業員が作業時間よりも早く作業所に到着するのは社会一般の常識である。また、約定時間を超えて工事を行ったことはあるが、それも一時間程度にすぎなかった。

file_17.jpg被告会社は、本件マンションを約定どおり平成八年九月末に完成させ、引渡しを終えており、約定期限を越えて工事を行っていない。

(ウ) 主として工事終了後の加害行為

a 北側境界線との間隔保持の不十分

北側境界線は直線でないので、北側境界線と本件建物との間の距離は一部では確かに七八センチメートルであるが、平均すると八一センチメートルであるから、本件覚書に違反していない。

b 日照障害について

(a) 全体について

本件マンションは建築確認、竣工検査を受けた建物であって、京都市中高層建築物に関する指導要綱に反していない。

そもそも京都市の旧市街の建物敷地の形状は、間口が小さいウナギの寝床状であり、かつ境界に接近して建物が建てられているのが一般であるから、低層の建物でも大きな日影が生じているのが普通である。本件マンションの周辺でも、既に原告藤原方居宅(四階建て)によって日影が生じており、原告藤原以外の原告らの居宅の日影は複合的なものである。(本件マンションが建築される以前から、原告山川及び原告小澤方居宅には東西から、原告浅井方居宅には東から、原告舩本及び原告鬼頭方居宅には南から、それぞれ日影が生じていた。)

(b) 原告高橋方居宅について

原告高橋方居宅は南側境界一杯まで建てられており、有効な採光は東西のみで南側にはほとんど開口部がなく、元々採光条件のよい建物ではなかった。その上、原告浅井方二階ベランダには工作物が設置され、西からの日照を遮っていた。

(c) 原告山川、原告小澤及び原告浅井方居宅について

原告山川方居宅には元々原告藤原方居宅の日影が、原告小澤方居宅には元々原告高橋方居宅の日影が、原告浅井方居宅には元々原告高橋方居宅の日影がそれぞれ及んでおり、本件マンションによる日影のみではない。

c 通風の阻害及び風害について

(a) 通風の阻害

本件マンションの完成後でも、本件マンションの周辺では、南風(5.2パーセント)及び北風(7.2パーセント)が吹いているから、本件マンションによる原告ら方居宅の通風の阻害はない。

(b) 風害

本件マンションの北側には、原告山川の三階建ての建物、中村の三階建て建物及び渡辺の四階建て建物が建っている上、本件マンションの六階部分は後退傾斜しているので、本件マンションのうちで北側から風を受ける部分は四階及び五階部分にすぎず、原告ら方居宅に対する風害はあり得ない。

d プライバシー侵害について

そもそも本件マンション周辺は建物が極端に密集して建築されており、プライバシーはおのずから制限される。

のみならず、本件マンション北側の窓にははめ殺しの不透明のガラスが設置されている上、また壁がコンクリート製のベランダはこの壁に身を寄せなければ原告ら方居宅が見えないものであるから、原告ら方居宅の室内は見えにくく、原告らが主張するプライバシーの侵害の事実はない。

e マンションの管理不備について

本件マンションには、管理人が置かれており、町内会へも必要な通知をしていた。

(2)  損害及び因果関係

(原告らの主張)

ア 原告ら方居宅の損害

(ア) 原告高橋

前記(1)(原告らの主張)のイの(ア)及び(イ)のaの義務違反ないし不法行為によって生じた地盤沈下及び振動等により、原告高橋方居宅には別紙(9)「原告高橋居住建物損傷一覧表」の「損傷位置」欄記載の位置に、「損傷内容」欄記載の各損傷が生じた(ただし、同表の5番、8番⑥、11番の各損傷はクレーン事故修復工事の施工上の手落ちにより、同表の2番②の損傷は、原告(1)のイの(イ)のbの(b)のアスファルト塊等の落下等により、同表の2番②の損傷は、前記の浸水により、同表の6、7番及び8番⑤の各損傷は、本件工事の施工上の手落ちによってそれぞれ生じた。)。以上の損傷から原告高橋方居宅を原状に復するためには、同表の「工事内容」欄記載の工事が必要であり、そのためには同表の「工事金額」欄記載の費用(合計一二六三万四九〇五円に消費税相当額六三万一七〇〇円を加えて金一三二六万六六〇五円)を要する。

また、この修復費用を算定するため、原告高橋は鑑定費用二〇万円を支出した。

(イ) 原告山川

前記(1)(原告らの主張)のイの(ア)及び(イ)のaの義務違反ないし不法行為によって生じた地盤沈下及び振動等により、原告山川方居宅には南側裏庭コンクリート床及び南側塀コンクリート土台に亀裂が生じた。これらの損傷を原状に復するための費用は合計三四万一二五〇円を下らない。

(ウ) 原告浅井

前記(1)(原告らの主張)のイの(ア)及び(イ)のaの義務違反ないし不法行為により、原告浅井方居宅の敷地に地盤沈下が生じ、トイレの排水施設のジョイント部分が損壊した。このジョイント部分の補修に要する費用は一三万四九三〇円を下らない。

イ 本件工事による慰謝料(ただし、日照又は通風の阻害による慰謝料を除く)

前記(1)の(原告の主張)のイの(ア)及び(イ)の義務違反ないし不法行為により、原告らは精神的苦痛を受けたが、これを金銭に見積もるときは次のとおりの各金員を下らない。

(ア) 原告高橋 一五〇万円

(イ) 原告山川 一〇〇万円

(ウ) 原告小澤、原告浅井、原告藤原、原告舩本、原告古澤及び原告鬼頭 各七〇万円

ウ 日照又は通風の阻害による慰謝料

前記(1)(原告の主張)のイの(ウ)の義務違反ないし不法行為により、原告らは日照及び通風の阻害の財産的損害並びに精神的損害を受けたが、これらを金銭に見積もるときは次のとおりの各金員を下らない(ただし各原告についての合計額)。

(ア) 原告高橋 二〇〇万円

(イ) 原告山川 一六〇万円

(ウ) 原告小澤 一〇〇万円

(エ) 原告浅井 四〇万円

エ 合計額

以上の合計額は、次のとおりとなる。なお、原告山川は、本訴において内金二九〇万円を請求する。

(ア) 原告高橋 一六九六万六六〇五円

(イ) 原告山川 二九四万一二五〇円

(ウ) 原告浅井 一二三万四九三〇円

(エ) 原告小澤 一七〇万円

(オ) 原告舩本、原告鬼頭、原告古澤、原告藤原 各金七〇万円

オ 弁護士費用

原告らは、その訴訟代理人に本訴の提起及び追行を依頼した。被告らの債務不履行ないし不法行為と因果関係のある弁護士費用は、請求金額の一割相当額(ただし、原告高橋については一六七万円、原告浅井については一一万五〇七〇円)を下らない。

(被告らの主張)

ア 原告ら方居宅の損害

(ア) 原告高橋

原告高橋方居宅の個々の損傷の有無、本件工事との因果関係についての主張は別紙(9)「原告高橋居住建物被害一覧表」の「損傷に関する被告の主張」欄記載のとおりであり、工事内容についての主張は同表の「工事内容に関する被告の主張」欄記載のとおりである。

(イ) 原告山川

原告山川宅の裏庭コンクリート床及び南側塀コンクリート土台の各亀裂の存在は認めるが、各亀裂と本件工事との因果関係は否認する。これらは、いずれも本件工事着工前から存在した。

(ウ) 原告浅井

争う。問題となった原告浅井宅の排水管ジョイント部は同原告方居宅の中庭にあり、山留め工事を行った場所から五メートル以上も離れているから、このジョイントの損傷(ずれ)は本件工事によるものではない。長期にわたって圧密沈下したこと及び配管からの漏水による沈下等により、ずれが生じたものと考えられる。

イ 本件工事による慰謝料

争う。

ウ 工事終了後の行為による損害

争う。

エ 弁護士費用

争う。

第3  当裁判所の判断

1  前提事実

証拠(各事実末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。

(1)  本件マンションの周囲の状況

ア 本件マンションは、京都市内の旧市街の中心部にあって、東西方向に走る公道の二条通と御池通の中間にあり、南北方向に走る公道の御幸町通(幅員約6.5メートル)に面している。本件マンションの周辺は、都市計画上、商業地域、第五種高度地区(高さの上限三一メートル)、容積率の上限四〇〇パーセントとされており、住宅及び小規模の商工業施設が建ち並び、木造中低層の建物が残存する一方、中高層のマンション等が増えつつある地域であるが、恒常的に大きな騒音、振動等を出す施設等は存在しない。本件マンションの周辺では、間口が狭く奥行きが長いいわゆるウナギの寝床状の土地が多く、建物はほぼ敷地一杯に立てられていることが少なくない(乙1、2、79の1ないし9、弁論の全趣旨)。

イ 本件マンションと原告ら方居宅との位置関係は、次の(ア)ないし(カ)のとおりである(別紙(4)「付近現況図」参照。甲122、乙30、38、39、67の1ないし11、原告山川本人)。

(ア) 原告藤原宅について

原告藤原方居宅は、本件マンション敷地との境界近くまで建てられており、原告方居宅の西側壁と本件マンションの東側壁との間の距離は約四〇ないし五〇センチメートルである。

(イ) 原告山川宅について

原告山川方居宅の二階南側ベランダと本件マンション敷地の北側境界との距離は約一メートルであり、原告山川方居宅の南側壁と本件マンションの北側壁も近い距離にある。

(ウ) 原告高橋宅について

原告高橋方居宅の南側壁及び南側塀と本件マンション敷地の北側境界はほぼ接しており、原告南側壁及び南側塀と本件マンションの北側壁との間の距離は約八〇センチメートルである。

(エ) 原告小澤宅について

原告小澤方居宅は、その南側に原告高橋方居宅の敷地(南北方向の長さ約5.8メートル)をはさんで本件マンションと面している。

(オ) 原告浅井宅について

原告浅井方居宅は、その南側に原告高橋宅の通路(南北方向の幅約1.8メートル)をはさんで本件マンションと面している。

(カ) 原告舩本、原告鬼頭、原告古澤の居宅について

原告舩本、原告鬼頭、原告古澤方各居宅は、いずれも本件マンション敷地とは御幸町通をはさんだ反対側(西側)にある。

(2)  建物の所有者

原告高橋、原告舩本、原告山川、原告浅井、原告小澤はそれぞれの居宅及び敷地を所有している。原告鬼頭方及び原告古澤方各居宅及び敷地の所有者はいずれも瀧野方子である。原告藤原は、その居宅及び敷地を所有していたが、平成九年二月四日、吉田克弘にこれらを譲渡した(甲120、154の1ないし5、乙49、54)。

(3)  本件工事の各工程の内容

ア 杭打ち工事及び山留め工事

被告会社は、平成七年一〇月一四日ないし二一日の間、直径四五センチメートルのオーガーねじ込み機(ら旋状のきりを地盤にねじ込む機械)を用いて長さ六メートルのH型鋼の親杭八一本を本件マンション敷地の周囲に打ち込み、セメントミルクを注入してこれらの親杭を固定した。そして、本件マンション敷地の周囲部分に土留めの矢板を差し込んだ。なお、この矢板のうち北側に差し込まれたものと本件マンション敷地の北側境界との間の距離は約八〇センチメートルであった。

杭打ち工事の間、オーガーねじ込み機の「ガインガイン」という稼働音、被告機械の移動音、コンクリート掘削機の作業音等が発生し、また振動及び土ぼこりが生じた(甲129、147の2、乙59、63、70、弁論の全趣旨)。

イ 掘削工事

被告会社は、同月二七日から一一月一五日までの間、別紙(5)「地下工事施工順序説明図」記載のとおり、途中、切梁で上記アの矢板を支えながら、本件マンション敷地の矢板で囲まれた部分を約3.75メートル掘り下げた。そして、この切梁は同年一二月二〇日ないし二二日ころ撤去された(乙59、70、72)。

ウ コンクリート打設工事

(ア) 被告会社は、平成七年一二月一九日から約九か月間、配筋工事、型枠工事、コンクリート打設工事の順で繰り返す形で、順次地下部分の基礎コンクリートから各階のコンクリート部分を積み上げていく工事(モルタル打設工事を含む)などを行った。配筋工事及び型枠工事は、各階ごとに二週間程度を要し、コンクリート打設工事は、次のとおり、各階につき一ないし二日を要した。コンクリート打設工事及びモルタル打設工事は、本件工事全体で延べ三七日間行われ、これにコンクリートミキサー車(大型及び小型)延べ四九六台、ポンプ車延べ一四台が投入された。コンクリート打設工事のうち、主なものは次のとおりであった(乙59、76、弁論の全趣旨)。

a 工事の部位 地中梁

年月日 平成七年一二月一九日

用いられた大型コンクリートミキサー車の延べ台数 三二台

b 工事の部位 地下一階部分

年月日 平成八年一月三一日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 六八台

c 工事の部位 一階部分

年月日 同年二月二三日、二四日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 六三台

d 工事の部位 二階部分

年月日 同年三月一九日、二一日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 六三台

e 工事の部位 三階部分

年月日 同年四月一一日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 四八台

f 工事の部位 四階部分

年月日 同年五月二日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 四七台

g 工事の部位 五階部分

年月日 同年五月二五日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 五一台

h 工事の部位 六階部分

年月日 同年六月二一日

用いられた小型コンクリートミキサー車の延べ台数 五〇台

(イ)a 上記(ア)のコンクリート打設工事のうち、平成七年一二月一九日の工事においては、冬季でコンクリートの硬化が遅かったため、打設工事に引き続いて(月間工程表では午後一〇時ころまで左官工事をする予定となっているところを)翌日午前二時ころまで、コンクリートをコテでならす左官工事が行われた(甲129、147の3)。

b 上記(ア)のコンクリート打設工事のうち、平成八年一月三一日の工事においては、午後八時三〇分ころまで打設工事が行われた(甲129、乙76)。

c 上記(ア)のコンクリート打設工事は、午前八時よりも前から開始されたことがあった(甲129)。

(ウ) 上記(ア)の型枠工事に関しては、作業に伴う騒音、振動、ちり又はほこりが発生し、また型枠を解体する際に型枠の一部が落下したことなどによって「カラン、カラン」という大きな音が発生した。また、コンクリート打設工事などの際には、コンクリートミキサー車及びポンプ車のエンジン音及び稼働音、機械の振動、排気ガス等が生じた(甲129)。

エ 内装工事等

被告会社は、上記ウの(ア)のコンクリート打設工事と並行して、本件マンションの内装工事及び設備工事を行ったが、その際、使用したドリル等によって騒音、ちり又はほこり、振動が生じた。なお、被告会社では、平成八年五月二九日から同月三一日の間は、原告らの要望にこたえて防音シートを張って工事を行った(甲129、乙76)。

オ 外装工事

被告会社は、上記ウの(ア)のコンクリート打設工事と並行して、本件マンションの屋外工事を行ったが、その際、使用したモルタル送出機の作動音、コンクリート掘削機、コンクリート切断機、金属切断機等の作業音等が生じ、ちり又はほこりや振動が発生した(甲129)。

(4)  原告ら居宅敷地の地盤沈下等

ア 本件マンションの周辺の地盤沈下

本件工事の前後の本件マンションの周囲の土地の変位は、別紙(6)「隣家レベル測定表」記載のとおりであり、本件工事開始後から平成九年九月までの間に、原告高橋宅との境界付近(D点、E点)で最大九ミリメートルの、原告山川宅との境界付近で(I点、J点)最大九ミリメートルの各沈下が生じた。なお、原告高橋方との境界付近では、平成八年一月一一日から一七日までの間に大幅な沈下を示した(乙72)。

イ 原告高橋宅の沈下

パックサービスが、本件工事の着工前の平成七年八月一七日、工事中の同年一〇月二一日、同年一一月一六日、平成八年一月一八日、同年八月三〇日において原告高橋方居宅の柱の傾きを測定した結果は、別紙(11)の1「原告高橋宅傾斜量一覧表」記載のとおりであり(なお、測定点の位置は別紙(11)の2のとおり)、原告高橋方の柱は、本件工事着工前から相当傾斜していたが、本件工事によって傾斜量は若干の増加を示した。パックサービスは、本件工事が完成に近づいていた平成八年八月三〇日における原告高橋方居宅内部の各地点における沈下量(右建物の一点を基準点とし、その他の点と基準点との高低差を測定したもの)を測定したが、その結果は、別紙(12)の1「水準測定表」記載のとおりであり(なお、測定点の位置の詳細は別紙(12)の2ないし6のとおり)、原告高橋方居宅はその南側部分が沈下しており、とりわけ西南隅のヒ点の沈下量は三四ミリメートルに達していることが判明した(乙28、41ないし46)。

ウ 原告高橋方居宅南側塀の保全

原告高橋宅南側塀は、自立しておらず、旧山中建物の北側壁によって支えられていた。そこで、被告会社は、旧山中建物の解体工事に当たり、いったん支え木を取り付けたが、工事の支障となることからこれを取り外し、同建物の北側柱を二本残し、さらに、本件マンション完成後は、この二本の柱を鋼材で補強して同塀を維持している(検乙14ないし16、弁論の全趣旨)。

エ 原告山川宅南側塀の保全

原告山川宅の南側塀は、自立しておらず、旧山中建物によって支えられていた。そこで、被告会社は、旧山中建物の解体の際、原告塀に外部から鋼板を張った上で原告山川のベランダから支えを付け、本件マンション完成後は本件マンションから支えを延ばして原告塀を支えている(証人井出純明、乙61、検乙1ないし3)。

オ 浸水

本件工事の期間中の平成八年七月二三日、同年八月一三日、同月一五日及び同月二七日、外溝工事が済んでいなかったため、本件マンションと原告高橋方居宅の南側壁及び南側塀並びに原告山川宅の南側塀との間に、雨水がたまり、最深二〇センチメートルに及んだ(甲129、検甲52、55、弁論の全趣旨)。

(5)  日照及び通風の悪化等

ア 日照の阻害

(ア) 本件マンションは、商業地域内にあるから、建築基準法の日影規制の対象外である。もっとも、京都市は、法令による規制の対象とならない住環境に係る諸問題について、市民の理解と協力によって住み良い街づくりを達成する事を目的として「京都市中高層建築物に関する指導要綱」(以下「指導要綱」という。乙7)を定めている。指導要綱には、その第3の1で、「商業地域内の高さ一七メートルを超える建築物については、「当該日影の生じる敷地の住民の同意があるとき」、「周囲の状況により市長がやむを得ないと認めるとき」などを除いて、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える範囲において、冬至日の真太陽時における午前八時から午後四時までの間において平均地盤面から四メートルの高さの水平面で、五時間以上日影となる部分を生じさせないものとする旨定めている。

(イ) 原告高橋方居宅の二階は、南面には開口部がなく、南西角付近と東面に二箇所ずつ開口部がある。原告浅井方居宅の二階は、南西角から南東角にかけての折れ曲がった南面に開口部(四箇所)がある。原告小澤方居宅の二階は、南面に開口部(一箇所)がある。原告山川方居宅の二階には、南面に開口部(一箇所)がある。

(ウ) 本件マンションによる原告高橋方居宅、原告浅井方居宅、原告小澤方居宅及び原告山川方居宅への日影(冬至における午前八時から午後四時までの間の平均地盤面から高さ四メートルの水平面のもの。以下の日影において同じ。)の状況は、おおむね別紙(7)の1「開口部を示した日影図」及び別紙(7)の2「日影図」記載のとおりである(甲125の1、2、乙56、弁論の全趣旨)。

a すなわち、原告高橋方居宅においては、午前八時から午後一時半ころまでは、建物全体が本件マンションによる日影の範囲内に入り、午後一時半ころから建物の北西角から順次北西部分が日影から脱するが、午後四時までに日影から脱するのは建物全体の二分の一以下であり、開口部では南西角付近のもののごく一部が午後四時ころに日影から脱するのみで、ほぼ終日(八時間)日影の範囲内である。

b 原告浅井方居宅においては、午前八時からしばらくは北東角が本件マンションによる日影の範囲外であるが、午前九時までには建物全体が日影の範囲内に入り、午前一一時過ぎから西側から日影から脱し、午後二時ころにはほぼ建物全体が日影の範囲外となる。南側の開口部では、午前一二時ころまでには、西側の三箇所の開口部は日影の範囲外となり、最も東側の一箇所の開口部も午後二時までには日影から脱する。

c 原告小澤方居宅においては、午前八時には、建物の北側約二分の一が本件マンションによる日影の範囲外であるが、その後、午前九時までには建物全体が日影の範囲内に入り、午後一時前から北東部から順に日影から脱し、午後二時過ぎには建物全体が日影から脱する。南側の開口部においては、午前八時から午後一時過ぎに一部分が脱するまでが、日影の範囲内である。

d 原告山川方においては、午前八時には、南西側の一部分が本件マンションによる日影の範囲内にあり、その後、日影の範囲は北あるいは東に大きくなり、午後〇時半ころ、建物全体が日影の範囲内に入り、午後三時半ころから、北西角から日影の範囲外となる。南側の開口部においては、午前九時以降は、ほぼ完全に日影の範囲内となる。

イ 通風の阻害

本件マンションの建設により、北側にある原告浅井、原告小澤、原告高橋、原告山川方居宅では南風が遮られることとなった。なお、本件マンションのある京都市内の風向及び風速の状況(ただし、昭和五一年ないし平成三年の各月の上旬、中旬、下旬毎の統計の結果)は、おおむね別紙(8)「風向及び風速一覧表」記載のとおりであり、南風の割合は通年では4.2パーセント、六月から九月の間で最大6.1パーセントである(甲126、弁論の全趣旨)。

(6)  異臭の発生

ア 本件工事の期間中の平成八年六月六日、一七日、七月二六日、三一日、八月一二日、内装工事などに伴って異臭が発生し、原告ら方居宅の内部に漂った(甲129)。

イ 被告会社は、平成八年五月ないし七月ころ、本件マンション敷地のうちの原告高橋宅の近くにトイレを設置したため、同原告方居宅に異臭が漂った。とりわけ、同年六月一三日には、仮設トイレの処理を誤り、ふん尿をこぼしたため、異臭が漂った(甲129)。

(7)  事故の発生及び補修

ア タワークレーンによる原告高橋宅南側塀の損傷

平成八年三月二六日、被告会社の作業員は、タワークレーンを用いて本件マンションに建設資材を搬入する作業中、建設資材を電線のメッセンジャーワイヤーに引っかけたため、これにつられて電線が引っ張られ、接続先の原告高橋方居宅の北側塀の上部及び門横の壁が損傷した。

そこで、被告会社は、調査の後、同年五月九日、原告北側塀を一旦取り壊し、同年六月一五日までに新たな塀を築造した。また、原告塀の築造後、原告高橋の指示に基づいて、同月二五日までにインターホンと郵便ポストの位置等を修正した(証人井出純明、乙65)。

イ 原告山川宅南側塀の損傷

旧山中建物の解体工事の後、原告山川宅南側塀のトタン部分には、凹みができていた。しかし、被告会社は、遅くとも平成八年一〇月までに、この凹みを補修した(原告山川本人、検甲34、35、乙61、弁論の全趣旨)。

(8)  テレビ受信障害

ア 原告高橋

(ア) 原告高橋宅では、平成七年八月末ごろから一二月ころまでの間及び平成八年四月から五月までの間、テレビの一般放送の受信状態が悪化した。被告会社では、訴外植田電機に原告高橋宅のテレビの調整を依頼し、複数回の調整の後、原告高橋宅のテレビブースターを交換して、受信状態を回復させた(甲129、乙64)。

(イ) 原告高橋宅では、平成八年四月から五月までの間及び八月から九月までの間、テレビの衛星放送の受信状態が悪化した。被告会社は、本件マンション完成前は本件工事現場の足場の上に衛星放送のアンテナを設けて原告高橋宅まで衛星放送のケーブルを引き、本件マンション完成後は原告マンションの屋上に設置した衛星放送のアンテナから原告高橋宅まで衛星放送のケーブルを引いたほか、原告宅のブースターを交換することで、受信状態を回復させた(甲129、乙64)。

イ 原告小澤、原告浅井

本件マンションの北側に住んでいる原告小澤、原告浅井は、それぞれ共聴配線を用いてテレビの一般放送を受信していたが、平成八年五月初旬及び同年九月初旬、テレビの一般放送の受信状態が悪化した。そこで、被告会社は、本件マンション工事中は本件工事現場の足場に共聴アンテナを設置してこれから共聴配線を引き、また本件マンション完成後は原告マンションの屋上に共聴アンテナを設置してこれから共聴配線を引くことによって、受信状態を回復させた(甲129、乙64)。

(9)  その他

被告会社は、本件工事中、建築中の本件マンションから原告高橋方の入り口通路等に、何度かにわたり、アスファルト塊、金具等を落下させた(甲129、検甲37、40、51、66)。

2  判断

(1)  本件工事中の賠償条項及び本件工事後の賠償条項の趣旨について

本件工事中の賠償条項及び本件工事後の賠償条項の趣旨は、その文言に鑑みると、被告らの不法行為責任と別個な責任を定めたものではなく、被告らの一方又は双方が本件工事ないし本件工事後の本件マンションの存在自体によって原告らに損害を与え、不法行為責任を負担するときは、被告らが連帯してその賠償責任を負担することを定めるとともに、原告らの選択によって、原状回復ないし補修責任を負担することを定めたものと解せられる。

なお、被告らは、本件工事中の賠償条項中に、「近隣住民の身体財産に損害を与えたとき」との文言があるから、原告らは、同条に基づいて、人格権、プライバシーの侵害等による精神的損害に基づく損害賠償請求をすることはできない旨主張する。しかし、本件和解をするに当たって、特に本件工事中の損害のうち精神的損害を除外する趣旨であったことをうかがわせる事情もないから、「身体財産」という文言は例示であると解釈するべきであって、本件工事中の賠償条項も、原告らが本件工事によって被る受忍限度を超える全損害について被告らが連帯責任を負うことを約したものというべきである。

(2)  原告ら居宅の損害について

ア 原告高橋方居宅の損害

(ア) 損傷の有無及び本件工事との間の因果関係

a 地盤沈下及び振動による損傷について

前記1の(1)のイの(ウ)のとおり、原告高橋方はその南側で本件マンション敷地と境界を接している。そして同(4)のア及びイのとおり、本件マンション北側では地盤沈下が生じ、かつ原告高橋方敷地と本件マンション敷地との境界付近(別紙(6)のD点、E点、F点)では本件工事中に地盤沈下が生じており、とりわけ切梁を撤去した平成七年一二月二五日以降、これが拡大している。

また、証拠(証人久永雅敏、同坂本哲郎、甲120)によれば、①原告高橋方居宅の建築年月日は不詳であるが(原告高橋方居宅の建物登記簿(甲120)には、昭和五七年に三月二六日に新築された旨の記載があるが、検乙9、10によると、昭和二一年一〇月二日及び昭和五〇年一月七日各撮影の航空写真に原告高橋方と思われる建物が写っていることが認められる。これらからすると、建物登記簿の記載のとおり同建物の建築年月日を認定することはできない。)、原告高橋は原告建物を平成六年一月一一日に買い受けたこと、②一般に、土の掘削によって周囲の地盤に与える影響は、掘削した地点から、掘削した深さと同じ距離の範囲で現れること、③切梁を用いた場合には、これを撤去した後に掘削による影響が出やすいこと、④北側の土留め矢板と原告高橋宅の南側壁との間の距離はおおむね八〇センチメートルであったこと、以上の事実が認められる。

以上の事実に鑑みれば、本件マンション北側の地盤沈下は、本件工事がその原因であると認めるのが相当である。そして、原告高橋方居宅では、本件工事着工前から柱が相当程度傾斜していたこと、その沈下量は、大きいところで地盤の沈下量の四倍近くにまで及ぶことに鑑みると、原告高橋方居宅の不等沈下は、本件工事着工前から生じていた可能性があり、地盤の沈下のみがその原因であるとまではいえない。しかし、原告高橋方居宅の敷地の沈下は、南にいくほど沈下量が大きいこと、他方、建物の沈下も南側が激しいことに鑑みると、地盤沈下が居宅の沈下の大きな原因の一つであって、本件工事期間中に居宅の沈下も進行したものと推認するべきである。なお、本件工事期間中の柱の傾斜の進行がわずかであることは、原告高橋方居宅のような木造軸組工法による居宅の場合、柱、梁等が頑丈には結束されていないことが一般である(証人久永雅敏)から、右推認を左右しない。

また、本件工事現場と原告高橋方居宅との距離が極めて近いことに鑑みると、杭打ち工事及び山留め工事等による振動が原告高橋方居宅に影響を与えた蓋然性も認められる。

そして、原告高橋が本件工事に起因する地盤沈下及び振動による損傷と主張するものは、いずれも地盤沈下、居宅の沈下及び振動によって生じうるものであること、被告らは、本件工事が隣接建物に与えた影響の有無を明らかにすることを目的として、パックサービスをして、本件工事着工前、工事中、完工後における隣接建物の現況の調査をさせたこと等の事実に照らすと、これらの損傷については、本件工事期間前から存在していた等の特段の事情が認められない限り、本件工事と因果関係のある損傷であると推認するのが相当である。

そうすると、別紙(9)の表の2番の①及び④、3番の①及び②、4番の①、8番の②ないし④、10番、12番ないし30番、32番ないし34番、37番、38番、40番、41番、42番の②、43番ないし60番の各損傷については、特段の事情を認めるに足る証拠はなく、本件工事と因果関係のある損傷であると推認するのが相当である。

これに対し、同表の3番の③、4番の②、9番、31番、35番、36番、39番、42番の①は、本件建物の沈下によって生じうる損傷ではあるが、証拠(甲121、乙41、43、検甲14、94、97)によると、これらの損傷は、本件工事前から変化がないことが認められるから、本件工事と因果関係のある損傷と認めることはできない。また、8番の①の損傷は、証拠(検乙15、16、証人坂本哲郎)によると、南側板塀はもともと自立しておらず、旧山中建物によって維持されていたことが認められるから、旧山中建物の解体によって南側板塀が不安定になったことの原因は、もともとこれが自立していなかったことにあるというべきであって、この損傷と本件工事との因果関係はないというべきである。

b その余の損傷について

(a) 別紙(9)の表の2番の②の損傷については、証拠(乙41の外部比較写真18、乙45の外部現況写真18、検甲47、48)によると、パックサービスの事後調査時において、原告高橋方南面外壁の数か所に、着工前にはなかった傷が付いていたことが認められる。なお、パックサービスは、この場所について「変化なし」との判断をしている(甲121の二頁No.17)が、乙45の外部現況写真18の説明部分の記載によると、この判断は、亀裂についてのものとの疑いがあるから、前記認定を左右しない。そして、前記のように作業員がアスファルト塊等を落下させたこと、他にこのような傷がつく原因が考え難いことを考慮すると、これらの傷は、作業員のこの落下行為によって生じたものと推認するのが相当である。

(b) 同表2番の③の損傷については、証拠(検甲58)によると、前記浸水によって原告高橋方居宅南壁面下部が汚損したことが認められ、これは本件工事と因果関係のある損傷であるというべきである。

(c) 同表の5番の損傷については、乙41の「第二回中間調査新規撮影との比較写真4」によっても損傷の有無は判然とせず、パックサービスの施工誤差ではないかとの見解(甲121の六頁No.4)も考慮すると、乙41によっては、この損傷を認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(d) 同表の6番の損傷については、証拠(乙41の外部比較写真27、外部比較写真10)によると、本件工事期間中に生じたものと認められる。そして、この損傷箇所が高さ三メートル以上の屋根の端であって、本件工事現場以外からは近づくことができないこと(前掲証拠、弁論の全趣旨)に鑑みると、本件工事によって生じた損傷と推認することができる。

(e) 同表の7番の損傷については、証拠(乙41の内部比較写真72、乙45の外部現況写真72)によると、この損傷が本件工事期間中に生じたことが認められる。そして、この損傷箇所が高さ三メートル以上の屋根の端であって、本件工事現場以外からは近づくことが困難であること(前掲証拠、弁論の全趣旨)からすると、本件工事によって生じた損傷と推認することができる。

(f) 同表8番の⑤の損傷については、証拠(検甲92、93)によると、単なる水跳ねであると認められ、損傷には当たらないというべきである。

(g) 同表8番の⑥の損傷については、証拠(検甲59、60)によると、平成八年八月三一日に通路板塀の南側壁の白壁部分を雨水が伝った事実が認められるが、この事実のみで、右南壁に何らかの損傷があるとまでは認め難い。

(h) 同表11番の損傷については、証拠(乙41今回新規撮影写真29)によると、パックサービスの事後調査の際、門の北柱と格子戸との間に隙間が存在したことが認められる。しかし、本来屋外の門扉は、屋内の建具とは異なり、厳密な精度を要求されるものではないから、この程度のすき間が存在したからといって、これを損傷とまで評価することはできない。

(イ) 被告らの責任

建築工事による騒音、振動等がある程度は避けられないものとはいえ、建築業者は、これらによって隣接家屋に損傷を与えないように万全の注意をして施工するべきであり、またそれが可能である。工事によって隣接家屋が受けた損傷は、軽微なものであっても、その所有者が受忍すべき理由はない。したがって、原告高橋は、被告両名に対し、不法行為による損害賠償として(被告山中においては、本件工事中の賠償条項及び本件工事後の賠償条項が定める連帯責任に基づいて)、その損傷の補修費用相当額の支払を求めることができる。

なお、原告らは、本件協定等の債務不履行による損害賠償も主張する。しかし、本件協定等が、被告らがそれに反した場合に、債務不履行による損害賠償を求めることができるような契約であるかどうかはともかく、少なくとも、本件協定等が存在することを考慮した上でも、なお不法行為とはならないような行為ないし不法行為であっても損害賠償を請求し得ないほどの損害についてまで、損害賠償を求めることができる根拠となるものとは解されない。このことは、以下についても同様であるから、以下では、不法行為基づく損害賠償請求(本件工事中の賠償条項及び本件工事後の賠償条項に基づく連帯責任の請求も含む。)についてのみ判断する。

(ウ) 被告らの停止条件の主張について

被告らは、原告高橋方居宅の損傷を理由とする損害賠償請求権の発生には停止条件の定めがあった旨主張し、なるほど、横山工事協定書一五条、本件和解条項一の2の(5)には、被告ら主張どおりの条項がある。

しかしながら、証拠(甲36、67、乙4、5)及び弁論の全趣旨によると、横山工事協定書では「被告らが補修及び賠償を行うものとする。」となっていたものが、本件和解において、原告らの要望によって、「速やかに原状回復し、原状回復が不可能の場合には補修及び賠償を行うものとする。」と修正されたことが認められる。この経過からすると、この修正の趣旨は、被告らに、一次的に原状回復義務を課することにあったと解するのが相当であり、逆に原告が損害賠償請求を選択することまで制約する趣旨であったとは解しがたく、原状回復の不能が損害賠償義務発生の条件であったとは認められない。

よって、被告らの上記主張は採用できない。

(エ) 損害額(請求額 一三四六万六六〇五円、認容額 三四六万四五四四円、なお、認容額の明細は別紙(10)「原告高橋宅修復費用一覧表」記載のとおり)

次のaないしsのとおり、原告高橋方居宅に生じた本件工事と因果関係のある損傷を修復するためには、各項記載の費用(合計四三一万二一八〇円)を要すると認められ、これが本件工事と相当因果関係のある被告高橋方居宅の被害についての損害額である。

a 建物全体の不等沈下の修復(別紙(9)の表の1番)

建物全体の不等沈下の修復方法として、基礎部分を持ち上げるジャッキアップ工事(設備の脱着工事を含む)が必要であり、その費用は一一三万六〇〇〇円をもって相当と認められる(甲138、証人久永雅敏)。なお、株式会社前田英工務店が作成した見積書(乙58(以下「前田英見積」という。))では、ジャッキアップ工事が二九万二三九〇円と見積もられているが、これには設備の着脱工事が含まれていないから、これに基づいて費用を認定することができない。

ところで、原告高橋は、地盤への薬剤注入が必要であると主張するが、証拠(証人久永雅敏)によれば、この薬剤注入工事は、地盤沈下が進行している段階において、この進行を止めるためにされる工事であること及び原告高橋宅の地盤沈下は現在ほぼ止まっていることが認められるから、薬剤注入工事の必要性は認められない。

b 外壁の補修(別紙(9)の表の2番の①ないし④、3番の①及び②、4番の①)

弁論の全趣旨によれば、外壁の損傷の修復の方法として、亀裂部分のシーリング材充填工事(壁面を洗浄し、亀裂及び傷の部分にシーリング材を充填し、壁面全体にアクリルリシンを吹き付ける)が必要であると認められる(別紙(9)の表の2番の③の汚損は、上記の洗浄によって修復されるものと認められる)。原告高橋は、既存の壁面を解体し、改めて壁面全部のモルタルを塗り直す工事が必要である旨主張するが、外壁の損傷の程度に鑑み、これでは原告高橋に原状回復を超える利益を与えることとなるので、この主張は採用できない。

そこで、シーリング材充填工事に要する費用を検討するに、前田英見積では一七万〇八〇〇円と見積もられているが、その記載自体からこれは南面の工事だけを想定していると考えられるところ、前記のように本件工事と因果関係のある亀裂は西面及び東面にもあるから、少なくとも上記見積額の二倍の費用、すなわち三四万一六〇〇円を要すると認めるのが相当である。

c 屋根の補修(別紙(9)の表の6番、7番)

証拠(前田英見積、弁論の全趣旨)によれば、別紙(9)の表の6番及び7番の損傷の補修のため、銅線九本を結束し直す工事(6番)及びずれ直し工事(7番)がそれぞれ必要であり、その費用として八〇〇〇円(前者)及び一万六〇〇〇円(後者)を要することが認められる。

d 通路板塀の補修(別紙(9)の表の8番の②ないし④)

通路板塀については、別紙(9)の表の8番の①の損傷が認められないから、その取替えの必要性は認められない。そして、弁論の全趣旨によると、同②ないし④の損傷については、補修工事に少なくとも三万円は要するものと認められる。

e 門屋根の補修(別紙(9)の表の10番)

証拠(甲122(久永雅敏作成の高橋邸補修工事検討書。以下、「久永検討書」という。))によると、門屋根の補修に一〇万円を要することが認められる。

f ポーチの補修(別紙(9)の表の12番)

証拠(証人久永雅敏、前田英見積)によると、ポーチの補修のためにはタイルの張り替えが必要であり、その工事に九万一八〇〇円を要することが認められる。

g 玄関の補修(別紙(9)の表の13番、14番)

証拠(久永検討書)によると、玄関欄間戸の補修工事及び天井の補修工事(天井板一枚の取替え工事)の費用として各五〇〇〇円(合計一万円。ただし、欄間戸の補修については、その作業内容に照らし、扉等の調整という同種作業(後記のi、mの(b)、p)を要することから、後記のi、mの(b)、pの補修工事をも含めて五〇〇〇円を要するものとする。)、床タイルの補修工事として五〇〇〇円を要することがそれぞれ認められる。

h 一階廊下の補修(別紙(9)の表の15番ないし23番)

(a) 証拠(証人坂本哲郎、前田英見積)によれば、一階廊下の損傷のうち、別紙(9)の表の15番ないし17番の損傷の補修の方法として、アルミサッシの下受枠を取り替え、アルミサッシを調整し、再取付けすることが必要であり、その費用として八万四〇〇〇円を要することが認められる。なお、証人久永雅敏は、アルミサッシ自体がゆがんでいる可能性があるので、その取替えが必要であると供述するが、そのゆがみの事実を認めるに足る証拠はない。

(b) 証拠(証人久永雅敏、前田英見積)によると、一階廊下の損傷のうち、同表の18番ないし21番の損傷の補修のため、床材張り替え等が必要であり、その費用として一五万八一〇〇円を要することが認められる。

(c) 証拠(証人久永雅敏、久永検討書)によると、一階廊下の損傷のうち、同表の22番及び23番の損傷の補修のために、23.84平方メートルの壁面の既存仕上材を撤去し、改めて下地調整の上、ジュラクサテンを吹き付ける工事が必要であること、その費用として一〇万二二五五円を要することが認められる。

i 一階和室の補修(別紙(9)の表の24番ないし26番)

証拠(証人久永雅敏、久永検討書)によれば、一階和室の南西角柱、作り付け食器棚扉の損傷の補修のため、鴨居の取替え及び扉調整が必要であること、その費用として、前者に二万円を要することが認められる(後者についてはgで考慮済み。)。

j 一階書斎の補修(別紙(9)の表の31番)

証拠(証人久永雅敏、久永検討書)によれば、一階書斎の床の損傷の補修のため、床の張り替え等が必要であること、その費用として一一万三五五〇円を要することがそれぞれ認められる。

k 一階階段下物入れの補修(別紙(9)の表の28番及び29番)

証拠(証人久永雅敏、久永検討書)によれば、一階階段下物入れの壁の損傷の補修のため、ビニールクロスの張り替えが、床の損傷の補修のため、その張り替えがそれぞれ必要であり、その費用として前者に三万一六二四円、後者に二万九五四一円を要することが認められる。

1  浴室の補修(別紙(9)の表の30番、32番ないし34番、37番、38番)

(a)  証拠(証人久永雅敏、久永検討書)によれば、浴室壁タイルの損傷の補修のため、浴室壁全面のタイル張り替えが必要であり、その費用として二八万一二八〇円を要することが認められる。なお、浴室壁の損傷については、前記のとおり、同表の31番、35番、36番の損傷については本件工事と因果関係が認められないが、これらを除いても、浴室全面のタイル張り替えが必要と認められる。

(b)  証拠(久永検討書)によれば、浴室床タイルの損傷の補修のため、目地補修工事が必要であり、その費用として五〇〇〇円を要することが認められる。

m 洗面所の補修(別紙(9)の表の40番、41番)

(a)  証拠(久永検討書、前田英見積)によれば、洗面所の床の損傷の補修のため、床の張り替えが必要であり、その費用として二万八四六〇円を要することが認められる。

(b)  証拠(久永検討書、前田英見積)によれば、洗面所の引戸の損傷の補修のため、開閉調整が必要であるが、その費用はgで考慮済みである。

n 台所の補修(別紙(9)の表の42番の②、43番、44番)

証拠(久永検討書、前田英見積)及び弁論の全趣旨によると、台所のクロスの損傷の補修のため、ビニールクロスの張り替えが、南東角壁タイルの損傷の補修のため、タイルの張り替えが、床の損傷の補修のため、床シートの張り替え(下地調整を含む。)がそれぞれ必要であり、それらの費用として、順に、二万二八〇〇円、五万七二〇〇円、四万八六三〇円をそれぞれ要することが認められる。なお、前記のとおり、42番の①の損傷は本件工事と因果関係が認められないが、これを除いても、ビニールクロスの張り替えが必要と認められる。

o 階段の補修(別紙(9)の表の45番ないし49番)

証拠(証人久永雅敏、久永検討書)によると、階段の損傷の修復として、階段の取り替えが必要であると認められ、その費用として三六万五〇〇〇円を要することが認められる。なお、被告らは、階段の傾き、すき間はジャッキアップ工事によって床が水平になることによって緩和する上、残存する傾き、すき間はくさびの打込み等の方法で調整が可能であると主張する。しかし、現在階段が二〇ないし三〇センチメートルにつき、1.5ミリメートル程度という相当の傾斜をしていること(検甲18)からすると、階段自体が相当ゆがんでいる可能性が高い上、被告ら主張の方法による補修では、多数のくさびが必要となる可能性が高く、耐久性や美観上の問題が残るから、この方法による補修で相当とは認められない。

p 二階廊下の補修(別紙(9)の表の50番ないし56番)

証拠(久永検討書、前田英見積)によると、二階廊下の損傷のうち、壁の損傷(同表の50番ないし52番)の補修のため、壁面の既存仕上材を撤去し、ジュラクサテンを吹き付ける工事(下地調整を伴う。)が、床の損傷(同表の53番及び54番)の補修のため、床材の張り替えが、押入扉の損傷(同表の55番)の修復のために片開戸調整が、押入柱の損傷(同表の56番)の修復のために、突板張り工事がそれぞれ必要であり、その費用として、そのうち、片開戸調整はgで考慮済みであり、他は順に、八万三三三三円、一六万四三六三円、五〇〇〇円を要することが認められる。

q 二階洋室の補修(別紙(9)の表の57番ないし59番)

証拠(久永検討書)によれば、二階洋室の損傷のうち、床の損傷(同表の57番及び58番)の補修のため、床材の張り替えが、入口鴨居の損傷(同表の59番)の補修のため、鴨居の取替えがそれぞれ必要であり、それらの費用として、前者について一六万七八二六円、後者について二万円を要することが認められる。

r 二階物干し場の補修(別紙(9)の表の60番)

証拠(久永検討書)によれば、二階物干し場の損傷の補修のため、片引アルミサッシの調整工事が必要であること、その費用として一万円を要することが認められる。

s 諸経費相当額等

弁論の全趣旨によれば、上記aないしrの諸工事に伴って生じる諸経費の相当額は、この諸工事の費用の総合計額三五三万六三六二円のおおよそ一割相当額である三五万円をもって相当と認められ、これら費用の消費税相当額分(一九万四三一八円)も原告高橋が被った損害として評価すべきである。

t もっとも、原告高橋方居宅は、相当古くに建築された建物であることがうかがわれるところ(前記2の(2)のアの(ア)のa)、経年変化等のために振動、地盤沈下等によって損傷が生じやすくなっていたことが推認することができること、上記補修工事によって、例えば、クロスの張り替えによって、(他に補修の方法がない以上、張り替えによる補修が相当であり、かつその費用が損害と認められるものの、)クロスが新しくなることなど原状よりもよくなる部分もあること等を考慮すると、損害の衡平な分担の観点から、被告らが賠償すべき損害は、上記費用のうち八割(三二六万四五四四円)とするのが相当である。

u さらに、証拠(甲123)によれば、原告高橋は、自宅の損傷の有無、損害額等の検討・見積もりのため、建築士の久永雅敏に対し、調査検討書の作成方を依頼し、二〇万円を支払ったことが認められるところ、事案の性質、難易等を考慮すると、この調査検討書作成料相当額は本件工事と相当因果関係のある損害であると認められる。

v 結局、本件工事と相当因果関係のある損害であって、被告らが賠償すべき被告高橋方居宅についての損害額は、三四六万四五四四円と認められる(別紙(10)の表の総合計欄参照)。

イ 原告山川方の損害

(ア) 損傷と本件工事との間の因果関係

原告山川宅の裏庭コンクリート床及び南側塀コンクリート土台に亀裂が存在することは当事者間に争いがない。そこで、本件工事とこれらの亀裂との因果関係について検討する。前記アの(ア)のaの事実のほか、証拠(証人久永雅敏、同坂本哲郎、甲120)によれば、掘削工事時に差し込まれた北側矢板と原告山川宅の南側塀との間の距離は最小でおおむね一メートルであり、この塀の北側にはコンクリートのポーチがあることが認められる。これらの事実に、前記1の(4)のア及びイのとおり、原告山川宅と本件マンション敷地との境界付近のI点、J点で本件工事中に地盤が沈下し、とりわけ切梁を撤去した平成七年一二月二五日以降の沈下が大きいこと、これらの亀裂が地盤沈下によって生じうるものであること、本件コンクリート床の亀裂についてはそれが本件工事前から存在したことをうかがわせる証拠はないこと、これらを併せ考えると、これらの亀裂が本件工事前から存在した等の事情が認められない限り、これらの亀裂は本件工事によって生じたものと推認するのが相当である。しかし、前記塀の土台部分の亀裂については、証拠(乙61、62、検乙1、2)によると、本件工事着工前から存在したことが認められるから、本件工事によって生じた損傷と認めることはできない。

(イ) よって、原告高橋方居宅の損傷について述べたと同様、原告山川は、被告らに対し、不法行為による損害賠償として(ただし、被告山中については、前同様の連帯責任に基づく)、本件コンクリート床の損傷の補修費用相当額の支払を求めることができる。

(ウ) 被告らの放棄の主張について

被告らは、コンクリート床の亀裂については、現状のままとすることで合意した旨主張し、証拠(乙61)によると、平成八年九月上旬、原告山川と井出作業所長が、被告会社が上記亀裂の修復工事はしない旨合意したことが認められる。しかしながら、他方、証拠(原告山川本人)によると、原告山川は、被告会社に対する不信感から被告会社が修復工事を施工することを断った事実が認められるから、上記合意の事実だけから、原告山川が被告らに対する損害賠償請求権を放棄したとまで認めることはできない。

(エ) 損害額

証拠(甲133)によれば、前記のコンクリート床の亀裂を修復するためには、コンクリート床解体打ち直し工事等が必要であること、これに要する費用が三二万五五〇〇円であること(同号証の合計額から、塀基礎補修費一万五〇〇〇円及びその消費税相当額七五〇円を控除した金額)が認められる。

ウ 原告浅井宅の損害―損傷と本件工事との間の因果関係

証拠(甲69、70、原告浅井本人)によると、平成八年二月ころ、原告浅井方排水設備のジョイント部分がはずれ、トイレの排水に支障が生じたことが認められる。

そこで、本件工事と上記ジョイント部分の損傷との因果関係の有無について検討するに、損傷したジョイント部は本件マンション敷地北側の土留め矢板から五メートル以上離れていること(原告浅井本人)、前記ジョイント部分がはずれた時期にこのジョイントがはずれるような大きな振動が生じる工事が行われていない(前記のように、杭打ち工事、山留め工事、掘削工事は平成七年一一月には終了しており、平成八年一月三一日には地下一階のコンクリート打設も終了し、同年二月は一階ないし二階の躯体工事が施工されていた。)ことを考慮すると、前記のジョイントがはずれたことが本件工事によるものであると認定することはできない。

なお、原告らは、①平成七年一二月以降原告高橋方の地盤沈下が拡大し、原告浅井宅に接する北側塀の柱に亀裂が発生していること、②上記ジョイント部分は修繕後間がなかったことから、その損傷と本件工事との間には因果関係がある旨主張する。しかし、原告高橋方敷地のうち本件マンション敷地の直近の部分の地盤が沈下したからといって、原告浅井方敷地も沈下したと推認することはできない。また、②の事実も前記認定判断を左右するに足りる事情ではない。

(3) 主として本件工事中の原告らの精神的損害について

ア 居住建物の損傷等による精神的損害

(ア) 原告高橋

a 前記(2)のアのとおり、原告高橋方居宅には本件工事による損傷が生じているが、原告高橋は、この損傷が補修されるなどして財産的損害がてん補されてもなお回復されない慰謝料をもって慰謝するのが相当な精神的損害を被っている場合には、別に、精神的損害に対する損害賠償を求めることができる。そして金銭的にこの損傷による原告高橋の精神的損害についての損害賠償をも生じたというためには、同原告に財産的損害が填補されてもなお回復されない精神的損害が生じていることが認められなければならない。そこで、以下、このような精神的損害が生じているか否かを検討する。

b 事故以外の原因に基づく損傷による精神的損害について

前記1の(4)のイ及び2の(2)のアのとおり、原告高橋方居宅は、全体的に不均等に傾斜しているほか、その壁に亀裂又は隙間が発生又は拡大するなど、建物各所に損傷が生じているところ、原告高橋は、この建物内で、これらの損傷が生じて以降現在まで五年以上もの間、生活上の不便を我慢して生活してきたのであるから、同原告には財産的損害がてん補されてもなお回復されない精神的損害が生じていると認められる。

そして、これについても、原告高橋は、被告両名に対し、不法行為による損害賠償として(ただし、被告山中については、前同様の連帯責任に基づく)、慰謝料の支払を求めることができる。

c 事故に基づく損傷による精神的損害について

前記1の(7)のアのとおり、原告高橋宅の北側塀及び南側壁の一部がタワークレーンを用いた作業の際に損傷したが、これは既に補修済みであり、原告高橋には財産的損害は存しない。そして、この損傷によって、同原告に財産的損害が填補されてもなお回復されない精神的損害が生じていると認めるに足りる証拠はない。

同原告は、被告会社の修復工事の遅れ、手抜き施工等によって、精神的損害を被った旨主張するが、証拠(乙47、65)によれば、この北側塀は腐食がひどかったので、被告会社は、ほぼ原状のとおりの北側塀を建て替えたこと、被告会社は、損傷の調査、修復方法の検討等に相当の時間を要したことが認められ、手抜き施工を認めるに足る証拠はないし、この工事にある程度の期間を要したのはやむを得なかったというべきである。

d 木の根の不除去等に基づく精神的損害について

証拠(乙29)によれば、旧山中建物解体工事の際、被告会社が原告高橋の居宅敷地との境界付近まで掘削したこと、その際被告会社は、同原告方の基礎の下に食い込んでいた樹木の枝根を除去しなかったことが認められる。しかしながら、仮にこれらが違法であるとしても、原告高橋方居宅の基礎がこれらの残根が除去されなかったことによって不安定になったことないし将来不安定となる蓋然性があることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、残根の存在によって原告高橋が不安を感じたとしても、根拠のない主観的危ぐにすぎず、損害賠償の対象となるようなものではない。

e 突っ張りの除去等による精神的損害について

前記1の(4)のウのとおり、被告会社は、原告高橋宅南側塀の支え木(突っ張り)を取り外しているが、同認定のとおり、同塀の転倒を防止する方法を講じており、同塀の転倒防止法として不十分とは認められないから、仮に、支え木を取り外したことが、違法であるとしても、原告高橋には、これによる損害があるとは認められない。

(イ) 原告山川

原告山川には、同原告方居宅の裏庭コンクリート床の損傷及び南側塀のトタン部分の旧山中建物の解体工事の際の凹みについて、財産的損害をてん補されてもなお回復されない精神的損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

(ウ) 原告浅井

前記(2)のウのとおり、原告浅井宅の排水施設の損傷と本件工事との間に因果関係を認めるに足りる証拠はないから、仮に原告浅井に精神的損害が生じていたとしても、この精神的損害と本件工事との間に因果関係がない。

(エ) 原告藤原

第2の2の(1)の(原告らの主張)のイの(ア)のbの(b)記載のとおり、被告らが原告藤原に無断で同原告方との境界付近を掘削しており、これが違法であるとしても、この掘削によって、原告藤原方居宅に何らかの影響が現れた事実を認めるに足りる証拠はなく、慰謝料をもっててん補するのを相当とする損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

(オ) 原告鬼頭

第2の2の(1)の(原告らの主張)のイの(ア)のcの(c)記載のとおり、平成八年八月一四日に原告鬼頭方のガスの供給が停止された事実が存したとしても、この供給停止と本件工事との間の因果関係を認めるに足りる証拠はないから、これによって原告が被った損害の賠償を被告らに求めることはできない。

イ 騒音、振動、ちり又はほこり、異臭、排水、交通妨害、火気管理不備、テレビ受信障害、プライバシー侵害等による損害

(ア) 騒音及び振動について

a 本件工事に関しては、騒音の音量、振動の大きさ等は測定されていないものの、次のとおりの事実が認められる(前記の認定事実のほかは、末尾かっこ内に記載の証拠等によって認められる。)。

(a)  前記1の(1)のとおり、本件マンションの周辺は、住宅及び小規模の商工業施設が立ち並ぶ地域であり、恒常的に大きな騒音を出す施設等は存しない。また、原告らのうち原告高橋、原告山川、原告藤原はその居宅の敷地と本件マンション敷地とが接しており、本件マンション敷地と同原告ら方居宅は近接している。また原告浅井方居宅も幅約1.8メートルの通路を挾んで本件マンション敷地と面しており、近い距離にある。一方、原告舩本、原告鬼頭、原告古澤方居宅は、その西側で幅6.5メートルの公道を挾んで本件マンションと面している。

(b)  前記1の(3)のとおり、本件工事の各工程で騒音が発生し、とりわけコンクリート打設工事には多数のコンクリートミキサー車(小型のものを併せて延べ四九六台)のほかポンプ車が用いられて工事がされ、ときには午前八時よりも前から打設工事がされたり、また午後六時を超えて打設工事がされたりしたことがあった(特に平成七年一二月一九日には、深夜午前二時までコテならし作業がされた)。

(c)  本件工事のうち、特に騒音及び振動が大きな工程は、旧山中建物の解体工事、杭打ち工事、山留め工事、掘削工事、コンクリート打設工事などであって、それは少なくとも延べ六三日に上る(甲129、135)。

(d)  被告会社では、平成八年五月末に至るまで防音シートを張らずに工事を行った(前記1の(3)のエ参照、甲129)。

(e)  原告らの家庭には、病人や高齢者が多かった。すなわち、原告山川の母(八〇歳ぐらい。膵臓疾患にり患)、原告浅井(七九歳から八〇歳。高血圧症等にり患、脳梗塞の後遺症がある。)、原告浅井の妻(七二歳ぐらい。耳の疾患にり患)、原告浅井の妻の母(八八歳ぐらい。心臓疾患にり患)、原告小澤(七二歳から七三歳。腰椎骨折の後遺症がある。)、原告舩本(七九歳から八〇歳。高血圧)、原告舩本の妻(七八歳ぐらい。虚血性心疾患、高血圧、慢性肝炎等)、原告鬼頭(七五歳から七六歳)、原告古澤(七九歳から八〇歳。高血圧症等にり患、脳梗塞の後遺症がある。)、原告古澤の妻(七七歳ぐらい。肝硬変等にり患)らであり、少なくとも被告山中はそのことを知っていたか、知り得べきであった(原告山川、原告小澤、原告浅井、原告舩本、原告鬼頭、原告古澤各本人、甲71ないし74、弁論の全趣旨)。

(f)  原告らのうち、原告藤原は輸入雑貨販売等を、原告山川は家具、インテリア小物販売を、原告浅井は骨董品販売を、原告鬼頭は糸雑貨販売、縫製業を、それぞれ肩書地の自宅で営んでいたが、本件工事に伴う騒音、振動のために経理事務等の細かい作業の能率が低下し、取引のための電話での会話に支障を来す等の影響を受けた。また、原告古澤はレタリング業を、原告高橋は貸店舗業をそれぞれ営んでおり、その仕事を自宅で行っているが、仕事に集中できない、仕事の能率が上がらない等の影響を受けた。また、多くの原告らの家庭で、窓を閉め切らなくてはならず、季節外れにエアコンを利用することを余儀なくされ、テレビの音が聞こえない等の影響を受けた。作業が深夜に及ぶときは安眠を妨害された。高齢者や病人の受けた苦痛は、より甚大であった。(証人高橋雅子、原告高橋、原告山川、原告小澤、原告鬼頭、原告浅井、原告古澤、原告舩本各本人、甲129、弁論の全趣旨)。

(g)  本件工事協定には、被告らは、①最も騒音及び振動が小さい工法を選択し、重機は防音型を使用するとともに、②著しい騒音又は振動を伴う作業を行う場合には周囲に防音壁を設置する等の騒音及び振動の伝搬防止措置を講じ、③高齢者等、安静が必要な者を抱える者については、協議の上で適切な措置を講じる等の規定があった(横山工事協定書一二条)。

b 前記aの各事実によれば、本件工事による騒音及び振動は、地域性、原告及びその家族等の年齢、職業からすると、相当激しいもので、かつ、相当の期間に及んでいると評価することができる。他方、本件工事協定の内容に照らしても、被告会社がした騒音、振動の回避措置は十分なものとはいえない。そうすると、これらの騒音及び振動によって原告らが受けた被害は受忍限度を超えており、これらを発生させた被告会社の行為は違法であるというべきであるから、被告らは、それによって原告らが被った精神的損害を賠償すべきである(損害額については後述)。

(イ) ちり又はほこり等について

a 本件工事においては、前記(イ)のa、1の(3)の各事実が存するほか、証拠(原告高橋、原告山川、原告小澤、原告鬼頭、原告浅井、原告古澤、原告舩本各本人、甲83、129、検甲37ないし40、50、51、61、74、86、87、94、107)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。

(a)  杭打ち工事、山留め工事、掘削工事の際、土ぼこり等が生じ、原告ら方居宅に吹き込んで、物干し、洗濯物等が汚れた。

(b)  コンクリート打設のための型枠工事の際、型枠を切断したことによる木ぼこりが発生して、原告ら方居宅に吹き込んだ。コンクリート打設工事及び外装工事、タワークレーン解体工事などの際、コンクリート粉じんなどが発生し、原告ら方居宅に吹き込んだ。

(c)  本件工事現場の発泡スチロールくずなどが風で運ばれ、原告ら方居宅に吹き込んだ。また、前記1の(9)のとおり、原告高橋宅南側通路等に、アスファルト塊等が落下したことがあった。

(d)  平成八年五月一〇日ころ、原告高橋方の北側塀の解体工事の際、防塵シートも施さずに施工したため、多大なちり又はほこりを発生させた。

(e)  同年七月中旬、作業員が足場の粉じんをほうきで掃き散らしたので、原告ら宅が汚損された。

(f)  これらのちり又はほこりの吹き込みの結果、原告ら方では、玄関、塀、外壁、屋根、ガラス戸、植木、鉢植え、自転車等が汚損されたり、洗濯物が汚れ、洗い直しを余儀なくされたり、物干しに洗濯物や布団を干すときにビニールシートをかぶせることを余儀なくされたり、家屋内の掃き掃除、ふき掃除を強いられたり、窓の締切りを余儀なくされたので住環境が悪化し、季節外れにエアコンを使わざるを得なくなったりした。

(g)  本件工事協定には、①くず又はごみ等の飛散を防止するための措置を執る旨、②近隣建物等や周辺道路を汚さないように適切な措置を講じるとともに汚したときは直ちに清掃する旨、③散水を励行し防塵に努め、散水後の水の処理を適切に行う旨の規定があった(横山工事協定書六条一項、四項、七項、八項、九項)。

b 前記aの各事実によれば、本件工事によって原告ら方に飛散したちり又はほこりは相当大量であるし、本件工事協定にもかかわらず、被告会社がしたちり又はほこりの飛散の防止措置は不充分であったとの評価を免れず、これによる原告らの被害は受忍限度を超えたものであるから、被告会社は、作業員がこれらのちり又はほこりを原告ら方に飛び散らせるなどしたことによって原告らが被った精神的損害を賠償する責めを負う。

(ウ) 異臭について

a(a) 前記1の(6)のとおり、本件工事に伴って異臭が生じたものであるが、これは原告高橋宅の部屋等に染みつくほどのセルロイドの焼けるようなにおい、シンナー様のにおい、ふん尿のにおい等であった。(甲129)

(b) 他方、被告会社では、平成八年七月二二日ころに原告らに対し、「同月二五日以降の二週間内に四日間異臭のする工事を行う」旨通知した(甲87、129)が、それ以外に、被告会社が原告らに対し、異臭の発生を事前に通知したことを認めるに足る証拠はない。

(c) 本件工事協定には、近隣住民に対する迷惑の度合いが高い作業日については事前に周知徹底させる旨(横山工事協定書三条五項)の規定があった。

b これらの事実によると、異臭は相当強いものであり、他方、本件工事協定書に基づく被告会社の義務の履行は十分でない。そうすると、これらの異臭は、原告らの生活の平穏に対する受忍限度を超えた侵害であり、被告会社は、作業員らがこれを発生させたことによって原告らの被った精神的損害を賠償すべき責めを負う。

(エ) 排水について

前記1の(4)のカのとおり、平成八年七月一八日等に原告高橋宅の南側壁及び南側塀、原告山川宅の南側塀と本件マンションの壁との間に雨水が最深二〇センチメートル余りたまったが、証拠(検甲58)によれば、これによって原告高橋宅の南壁の土台部分が変色したことが認められる。

しかしながら、原告高橋方外壁南面の汚損は、建物被害の一部として、その損害賠償を認めたところであり((2)のアの(ア)のbの(b))、同原告がこれによっても回復できないほどの精神的損害を被ったとは認め難い。また、原告山川方の汚損については、これを認めるに足りる証拠がない。

(オ) 交通妨害等について

前記1の(3)のとおり、本件工事では多数のコンクリートミキサー車(延べ三五九台)等が用いられたほか、証拠(検甲3、67、123、124、129)及び弁論の全趣旨によれば、本件工事現場の西側前付近の道路の端(以下「本件道路端」という。)にコンクリートミキサー車等三台が縦列に駐車したことがあったこと、作業員が通勤するのに用いる乗用自動車が本件道路端に止められていたことがあったこと、建設資材の搬入・搬出に多数のクレーン付きトラックなどが本件道路端に止められたことがあったこと、平成八年一月二七日などの午前八時前又は昼ころなどに、作業員の乗用自動車等が本件道路端などに一時駐車していたことがあったこと、これらによって、原告らは、排気ガスに苦痛を感じ、乗用車の出入れに困難を来したり、道路に出た際に危険を感じたこともあったこと、本件工事協定には、被告らは、工事の施工に際し一般通行人の安全を図り(横山工事協定書六条一項)、工事用車両の通行時間を午前八時から午後六時までとし、誘導整理員を常駐させるとともに、工事用車両及び工事関係者車両は駐車場を確保し、周辺道路には駐停車してはならず、工事用車両を工事現場に駐停車させる場合には必ずエンジンを切る(横山工事協定書一一条)との条項があったこと、以上の事実が認められる。

しかしながら、前記第2の1の(1)のアのとおり、本件マンションが六階建てで鉄筋コンクリート造りであることから、道路交通法等に違反しない限り、多数のコンクリートミキサー車等が順次本件道路端に駐車して作業するのはやむを得ないといえること、証拠(乙76、証人岸本信一郎)によれば、被告会社では、本件工事の期間中、本件工事現場の近所に駐車場を借り受けてこれを作業員に使用させていたこと、本件工事現場の西側前の道路では、常時被告会社のガードマンが交通整理をしていたこと、被告会社の作業員が朝早く出勤してきたといっても、それは多くとも数十分であったこと、昼にした路上駐車は休憩のための一時的なものであったこと等の事実が認められ、これらの事実を併せ考えると、本件工事協定もおおむね守られたというべきであって、被告らに本件工事協定の不履行があったとは認め難く、また、工事車両が本件道路端などに駐車したことによって生じた上記の被害は、受忍限度を超えたものとは認められない。

なお、原告高橋は、工事用トラックが工事用仮塀と接触する事故を起こしたことによって精神的損害を受けたと主張するが、この事故によってひやっとしたり、びっくりしたというだけでは、慰謝料をもって賠償するほどの精神的苦痛とはいえず、またこれを超える損害があったことを認めるに足りる証拠はない。

(カ) 火気管理について

証拠(甲129)によると、被告会社の作業員が作業所内でたき火をしたり、木製型枠の上でくわえ煙草をしていたことが認められる。また、本件工事協定には、作業所に消火器等を常置する(横山工事協定書九条二項)、危険物を使用する場合は安全管理を十分にするほか、使用区域内を不燃材で防護するなど、火災の発生を防止する措置を執る(同六条五項)との条項があったことが認められる。また、証拠(乙76)によると、①作業員が、冬季に暖をとるため、一斗缶を用いてたき火をしたことがあったこと、②被告会社は、喫煙場所を設け、作業員に対しては喫煙場所以外での喫煙を禁止していたが、必ずしも徹底していなかったことが認められる。しかし、被告会社の作業員が溶接作業や金属切断作業を何らの安全対策を執らないでしていたと認めるに足る証拠はなく、かえって証拠(乙76)によれば、これらの作業は消火器や消火バケツを準備した状態で行われていたことが認められる。

そうすると、被告会社は、おおむね本件工事協定にしたがった措置をとったということができ、被告らに本件工事協定の不履行があったとは認め難い。また、現場の作業員にまで指示が徹底しなかったことが一部あったため、原告らが、不快の念や火災発生の危ぐを抱いたとしても、いまだ慰謝料をもって損害を賠償すべきほどの精神的苦痛とまでは認められない。

(キ) 防護フェンスの不備について

仮に、原告らの主張するとおり、被告会社が本件工事現場の前などに十分な高さの防護フェンスを設けていなかったり、原告フェンスが風にあおられて通行人又は原告高橋にぶつかりそうになったり、本件工事現場の北側に梯子状の足場を設けたため、原告らの居宅に第三者が侵入する危険が生じた事実があり、被告らに本件工事協定違反の事実があったとしても、これによって、原告らは、ひやっとしたとか、危ぐの念を抱いたにすぎず(とりわけ、フェンスが通行人にぶつかりそうになったことは、原告らとは別の第三者が受けた被害にすぎない。)、いまだ慰謝料をもって損害を賠償すべきほどの精神的苦痛とまでは認められない。

前記1の(8)のとおり、原告高橋宅ではテレビの一般放送及び衛星放送の、原告小澤、原告浅井宅ではテレビの一般放送のみの受信障害が一時的に発生したものであるが、証拠(甲129、150、乙64、証人近藤敏宏)及び弁論の全趣旨によれば、これらは旧山中建物の受信施設の撤去に伴う電界強度の変化、本件マンションの建築による電波状況の変化等が原因であったと認められる。そして、テレビ受信障害は、高層建物の建築の際には当然予想できることであり、事前に十分な対策をとれば防げる事態である上、本件工事協定には、本件マンションにより近隣住民のテレビ電波(衛星放送を含む)の受信に障害が発生した場合又はその可能性がある場合には、被告らは、共同受信設備を設置する等適切な措置を講じる旨(横山工事協定書一三条)の規定があったのであるから、これによって原告高橋、原告浅井、原告小澤が受けた被害は受忍限度を超えるというべきである。

他方、その余の原告らに受信障害があったことについては、これを認めるに足る証拠がない。

(ク) プライバシー侵害について

a 前記1の(1)のアのとおり、原告らの居宅を含む本件マンションの周囲では、建物が密集して建てられている事実があるほか、証拠(検甲7、112、113、129)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(a)  被告会社は、おおむね本件工事中の平成八年八月二二日ころまで、本件工事現場の周囲に作業用足場を巡らせた上保護シートで覆っていたが、同日ころ、この足場及び保護シートを二日間くらいかけて取り除いた。この時点で高い場所の外装工事は終了し、内装工事が主体となった。

(b)  本件マンションの北面の窓には全てはめ殺しの不透明なガラスが設置されており、本件マンションの北面内部から外部を見ることはできない。

(c)  本件マンションの北側にはバルコニーが設けられておらず、二階ないし六階の東側及び西側にバルコニーが設けられているのみである。これらのバルコニーからは、北側に一杯に身を寄せて見なければ、原告高橋宅、原告山川宅、原告小澤宅、原告浅井宅を見渡すことができない。

(d)  原告高橋宅二階の東側居室、東側物干し場は、原告山川宅の二階ベランダ、原告舩本宅の二階東側窓、三階東側窓からよく見える状態にある。原告山川宅のベランダは、原告高橋宅の東側物干し場、窓からよく見える状態にある。原告藤原宅の四階のリビングダイニングキッチンの一部、ベランダは、本件マンションの四階及び五階からよく見える状態にあるものの、このうち少なくともベランダは、その東側にある建物からもよく見える状態にある。

b 判断

前記aの各事実によれば、原告らの居宅は本件マンションの建設前から密集し、もともと周囲の建物から見えやすい場所、位置関係にあった上、本件マンションは、北側に透明な窓や開閉可能な窓が設けられていないため、原告らの居宅の内部が必ずしも見えやすい位置関係にあるとはいえない。そして、作業員が原告らの居宅の内部をのぞいた等の事実を認めるに足りる証拠はない。とすれば、本件マンションの建設工事により原告らの居宅の内部の一部又はベランダ等が以前より見えやすくなったとしても、いまだ原告らの受忍限度を超えるとは認められない。

また、原告らは、被告らは、被告らに工事期間中に原告ら住民にプライバシー問題についての立会調査をさせることを義務づけた本件覚書七条一項に違反した旨主張する。なるほど、証拠(甲129)によると、原告らは、平成八年八月上旬から被告らに対して本件マンションの立会調査を要求していたのに、被告らはこれに応じず、同年九月二〇日になって初めて立会調査ができたことが認められる。

しかしながら、立会調査をいつ実施するかについては、本件覚書に定められていないところ、これを同年九月二〇日に実施したことが本件覚書の趣旨を没却するもので、本件覚書違反とまで解することができない。そして、他に、被告らがプライバシー問題に関し、本件工事協定書に違反したと認めるに足りる証拠はない。

(ケ) その他について

a 第2の1の事実によると、本件覚書には、「今後工事協定書及び管理協定書を作成、締結した段階で、近隣住民は本件マンションの建築を承認する」との条項があったのであって、被告らが原告らとの間で工事協定書及び管理協定書を締結しない限り本件工事に着手しないとまで明言はしていないものの、この条項は、実質的にはその趣旨を含むと解せられる。そして、被告らは、平成七年九月一日に横山との間で横山工事協定書を締結したことによってこの条項に基づく義務を果たした旨主張するが、証拠(甲129、148、乙12)によると、同年八月三一日に原告高橋が近隣住民に対し、近日中に住民集会を開くので工事協定書案及び管理協定書案を検討して欲しい旨呼びかけたこと、同年九月四日、住民集会が開かれたこと、同月六日、近隣住民一七名と被告ら施主側五名が出席して工事協定書及び管理協定書について協議がもたれたが、合意にいたらなかったこと、以上の事実が認められ、右事実によれば、少なくとも同月一日の段階で、横山が原告らを代表していなかったというべきであるし、原告らが横山工事協定書に賛成していたともいえないから、被告らは、実質的に前記条項に基づく義務を果たしていないというべきである。

しかし、第2の1の事実によれば、原告らは、その後本件和解をし、被告らとの間で本件工事協定書を結ぶことによって、被告らの着工を追認したのであるから、原告らの承認を得ないで着工したことについて損害賠償を請求することはできないというべきである。

b 仮に、被告らに、月間工程表や週間工程表の一部の掲示又は配布を怠る本件工事協定書違反行為があり、これによって原告らが不満を感じたとしても、その程度では、慰謝料をもって損害を賠償すべきほどの精神的苦痛が生じたとはいえない。

c 本件協定書等に定められた時間外又は期限外の作業は、これによって、原告らに慰謝料をもって損害を賠償すべきほどの独立した精神的苦痛があったということはできない(前記(ア)ないし(ク)の各損害において一事情として考慮していることは、前記説示のとおりであり、これをもって足りる。)。

(4) 主として本件工事終了後の原告らの精神的損害

主として本件工事終了後の原告らの精神的損害についても、原告らの受忍限度を超えたもののみが被告らの賠償すべき損害となることは前記(3)のイの(ア)のとおりであって、以下この基準に従って判断する。

ア 北側境界線との間隔保持の不十分について

証拠(甲13)によれば、本件覚書二条中には、「隣地境界線から本件マンション外壁面までの距離は、北側については八〇センチメートルを確保する。」旨の部分があることが認められるところ、弁論の全趣旨によると、本件マンションの北側外壁面と北側境界との距離は、境界線が直線でないため、一部では七八センチメートルしかないが、平均すれば八一センチメートルあることが認められる。そうすると、この事実は、厳密には本件覚書違反であるが、このことによって、原告らに慰謝料をもって損害を賠償すべきほどの精神的苦痛が生じたとはいえない。

イ 日照阻害について

(ア) 証拠(甲129、144)によれば、次のとおりの事実が認められる。

a 原告高橋宅では、本件マンションが建設されて以後、二階和室、洋室、一階キッチン、広縁で終日照明をつけるようになったほか、室内が寒くなって一〇月上旬から五月下旬までの約八か月間、暖房器具を使用するようになった。また、二階物干し場では、冬季は洗濯物が乾かないので、同原告は室内の暖房でこれを乾燥させるようにしている。

b 原告山川宅は、その北面が二条通に面し、東西に隣の建物が建っているため、南面に主要な開口部があるが、本件マンションが建設されて以後、二階及び三階の居住部分で日中から照明をつけるようになったほか、室内が寒くなり、これらの居住部分で一〇月中旬から五月上旬までの約七か月間、暖房器具を使用するようになった。また、ベランダでは冬季は洗濯物が乾かないので、同原告は室内の暖房でこれを乾燥させるようにしている。

(イ) 原告高橋方居宅、原告山川方居宅、原告浅井方居宅及び原告小澤方居宅の日影の状況は、前記1の(5)のア認定のとおりであり、そのような日影の結果、原告高橋及び原告山川は、上記(イ)のbに記載したような日常生活を送ることを余儀なくされている。

(ウ) しかしながら、原告高橋方居宅は、もともと幅員1.8メートル程度の通路で公道に接するほかは、四周を建物で囲まれていたものであり、さらに、南側境界にほぼ一杯に建てられており、その大部分は南側境界(本件マンションの敷地との境界)から五メートルの範囲内にあり、しかも、開口部はその範囲内に限られている(前記1の(1)、(5)のア、別紙(7)の1)その上、本件マンションをその位置、形状は同一のままで、三階建て(高さ10.67メートル)とした場合でも、午後一時三〇分ころから、その北西隅が日影から脱し始め、午後四時ころに開口部のごく一部分が日影から脱するのみで、高橋方居宅の大部分は、日影の範囲内にあり、本件マンションによる日影とほとんど変わりはない。さらに、これを二階建て(高さ7.87メートル)とした場合であってもほとんど変わりはない(前記北西隅のほか、午前一一時ころから午後一時ころまでの間北端部分が線状に日影から脱する程度である。甲125の1、2、乙31、56、57)。

(エ) 原告山川方居宅も、その東側では原告藤原方の三階建て建物と、西側でも三階建ての建物とほぼ接するように建築された建物であって、南側にある開口部は、本件マンションとの敷地境界から五メートルの範囲内にある(前記1の(1)、別紙(4)、別紙(7))。建物全体として見た場合には、本件マンションが三階建て、あるいは二階建てになったときには、本件マンションによる日影から脱している部分及びその時間は大きく、長くなるものの、開口部においては、午前八時ころから午前九時ころまでの間の一定の時間に限られ、大きな差はない。その上、原告山川方居宅全体が午前中一〇時すぎまでは(開口部はさら後まで)、東側の原告藤原方居宅からの日影の範囲内に入っており、原告山川の前記生活の支障は、本件マンションによる日照の阻害による影響のみではない(甲125の1、2、乙31、34、56、57)。

(オ) 原告浅井方居宅においては、南側の開口部が午前一二時前から本件マンションによる日影から脱しはじめ、午後二時までには建物全体がほぼ本件マンションによる日影からは脱する。開口部における日照を見ると、本件マンションを三階建てとした場合には、日影から脱する時間が多少早くなるほか、大きな差はない(原告浅井方居宅全体が日影から脱している時間、部分は、相当に長く、大きくなる。また、二階建てとした場合には、午前一一時前から開口部の一部は本件マンションによる日影の範囲内から脱する。甲125の1、2、乙31、34、56、57)。

(カ) 小澤方居宅においては、その南側の開口部が本件マンションによる日影からほぼ完全に脱するのは午後二時ころであるが、この開口部は、もともと午前八時から午後三時ころまで原告高橋方居宅及び原告藤原方居宅による日影の範囲内にあった。さらに、本件マンションを三階建てとした場合においても、この開口部における日影の状況に大差はない(甲125の1、2、乙31、34、56)。

(キ) そして、本件マンションの周辺地域は、可能な限り敷地一杯に建築されている建物、中層の建築物も少なくない(原告ら方居宅にも、それに該当するものがある。前記1の(1))から、このような利用方法が、土地の有効な利用という観点からしても、合理的と評価される地域ということができる。本件マンションは、建築基準法上の日影規制の対象とならないものであり、京都市の単なる行政指導の指針にすぎない指導要綱に京都市中高層建築物に関する指導要綱においても、敷地境界から五メートルを超える部分における日影について定めているのみであって、敷地境界から五メートルの範囲内においては、日影が長時間に及ぶこともやむを得ないとしていることがうかがわれる。

(ク) 以上の事情を総合的に考慮すると、原告高橋、原告山川、原告浅井及び原告小澤の本件マンションによる日照の阻害も、いまだ受忍限度を超えるものとまでは認められない。

ウ 通風阻害について

前記1の(5)のイのとおり、本件マンションの建設によって北側の原告浅井、原告小澤、原告高橋、原告山川方居宅では南風が遮られることになったものの、本件マンションの周辺では夏季でも北よりの風が中心で南風が少ないことから、本件マンションによる夏季の通風阻害が同原告らの受忍限度を超えるとまでいうことはできない。

エ 風害について

仮に原告らの主張するとおり、原告浅井らの物干し竿等が風で飛ばされそうになったなどの事実があったとしても、それらが同原告らの受忍限度を超えているということはできず、同原告らに賠償に値する精神的損害があるとはいえない。

オ プライバシー侵害について

前記(3)のイの(ク)のとおり、原告らに受忍限度を超えた精神的損害は存しない。

カ マンションの管理不備について

仮に、原告らの主張するとおり、本件マンションへの引っ越し作業の際の路上駐車、町内会への通知の懈怠、ごみの放置、入居者による車両騒音などがあったとしても、未だ原告らの受忍限度の範囲内といわざるを得ず、原告らに賠償に値する精神的損害があるとはいえない。

(5) 精神的損害の慰謝料金額について

前記(2)及び(3)で被告らに不法行為もしくは債務不履行に基づく賠償義務を認めた原告らの精神的損害に対する慰謝料額は、各損害を総合し、それによって平穏な生活が侵害された程度、期間、本件工事現場から各原告方までの距離、その他本件に現れた一切の事情を斟酌して、次の金額が相当であると認める。

(ア) 原告高橋 五〇万円

(イ) 原告舩本 一五万円

(ウ) 原告鬼頭 一五万円

(エ) 原告古澤 一五万円

(オ) 原告山川 二〇万円

(カ) 原告藤原 二〇万円

(キ) 原告浅井 二〇万円

(ク) 原告小澤 二〇万円

(6) 損害についての結論

結局、原告らの損害額(ただし弁護士費用相当額を除く)は、別紙(2)請求額・認容額一覧表の各原告らの損害額小計欄記載のとおりであり、事案の内容、認容額等を考慮すると、被告会社の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は、同一覧表の各原告らの弁護士費用相当額欄記載の金額をもって相当と認められる。とすれば、賠償されるべき原告らの損害額は原告一覧表の各原告らの損害額合計欄記載の各金員となる。

3  結論

以上の次第で、原告ら各請求は、別紙請求額・認容額一覧表の認容額欄の損害額合計欄記載のとおりの限度で理由がある(なお、上記認定の不法行為は、いずれも遅くとも本件マンションが完成し、被告山中に引き渡された平成八年九月二七日までには終わっているから、遅延損害金の起算日は同日(原告高橋については請求の趣旨拡張申立書(二)の送達の日である平成九年六月一六日と認める。)から、その限度でそれぞれ認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法六一条、六四条、六五条一項ただし書、仮執行の宣言については同法二五九条一項に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・水上敏、裁判官・井戸謙一、裁判官・田邉実)

別紙

(2) 請求額・認容額一覧表

原告氏名

高橋雅夫

舩本正之

鬼頭喜代子

古澤龍二

山川弘皓

藤原淳信

浅井増雄

小澤稔子

請求額

18,636,605

770,000

770,000

770,000

3,190,000

770,000

1,350,000

1,870,000

認容額

財産的損害

3,464,544

325,500

0

精神的損害

500,000

150,000

150,000

150,000

200,000

200,000

200,000

200,000

損害額小計

3,964,544

150,000

150,000

150,000

525,500

200,000

200,000

200,000

弁護士費用

相当額

400,000

20,000

20,000

20,000

50,000

20,000

20,000

20,000

損害額合計

4,364,544

170,000

170,000

170,000

575,500

220,000

220,000

220,000

遅延損害金

の起算日

被告

山中敏弘

平成9年

6月16日

平成8年

5月25日

平成8年

5月25日

平成8年

5月25日

平成8年

5月25日

平成8年

5月25日

平成8年

5月25日

平成8年

5月25日

被告

安藤建設

株式会社

平成9年

6月16日

平成8年

5月27日

平成8年

5月27日

平成8年

5月27日

平成8年

5月27日

平成8年

5月27日

平成8年

5月27日

平成8年

5月27日

(注)請求額、認容額の欄の数字の単位はいずれも円である。

別紙(3)~(12)<省略>

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