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京都地方裁判所 平成8年(ワ)3096号 判決 1997年11月27日

台湾高雄市瑞豐街二二〇號(無番地)

原告

黄瀛徳

右訴訟代理人弁護士

上村正二

右輔佐人弁理士

伊東忠彦

京都市南区吉祥院中島町二九番地

被告

株式会社ワコール

右代表者代表取締役

塚本能交

右訴訟代理人弁護士

白波瀬文夫

右輔佐人弁理士

佐藤公博

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、金八一万円及び平成八年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙目録一記載の謝罪文を同二記載の各新聞に各一回ずつ掲載せよ。

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本件は、「両側が平らになるパンツ」に係る実用新案権を有する原告が、被告に対し、被告が製造・販売したパンツは、右実用新案権の権利範囲に属し、同パンツを製造・販売した行為は同権利を侵害するものであるとして、通常実施料相当の損害八一万円の支払いを求めるとともに、被告は、同パンツを粗悪な布地で廉価で製造・販売し、原告の業務上の信用を傷つけたとして、謝罪広告を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  原告は、次のとおりの日本における実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有する(甲一、二)。

登録番号 第一九五八〇二三号

公告番号 平四-二六四〇三号

公告日 平成四年六月二五日

出願番号 平二-一〇七五六九号

出願日 平成二年一〇月一二日

考案の名称 両側が平らになるパンツ

2  本件実用新案権の実用新案公報(甲一-以下「本件公報」という)に記載された「実用新案登録請求の範囲」(以下「本件請求の範囲」という)は、次のとおりである。

(1) 着用者の腹と背中の下部に覆い被さり、ある間隔をへだてて相対する二対の側面縁を持ち、腰バンドと一対の脚穴を形成する弾力手段を含む主要部と、着用者の両側の腰骨の突起に覆い被さり、主要部の側面縁の間に縫い付けられる一対のわき布とよりなり、弾力手段はわき布の部分の両端(側面)で終了する様に構成された両側が平らになるパンツ。

(2) その中の主要部は一対の相対する腰の縁と一対の相対する脚穴を持ち、その弾力手段は腰縁に沿う一本の弾力のあるバンドと各脚穴に沿う一本の弾力バンドを含む請求項第1項記載のパンツ。

3  本件公報の「考案の詳細な説明」に記載された「考案の効果」は、次のとおりである。

本考案のパンツを着用した人が、わき腹を下に横たわっても、パンツの両わきには何も突き出たものがないので、身体を圧迫して血液の循環を悪くすることは全くない。又立ったままのときは、パンツの両わきが身体に特別の圧迫を与えないので、身体の収縮を何も感ずることなく、気持ちがよい。

4  被告は、女性用下着等の製造・販売等を業とする会社であり、被告が別紙物件目録一記載のとおり特定する女性用パンツ(品番PTJ452-以下「被告パンツ」という)(検甲二)を平成五年八月生産し、同年秋冬物として販売した。

三  争点

1  被告パンツが本件考案の権利範囲に属するか。

2  (1が肯定された場合)原告の損害

3  (1が肯定された場合)謝罪広告の必要性

四  争点に対する当事者の主張

1  原告

(一) 本件請求の範囲第一項の構成要件は、次のとおりである(以下、第一項の考案を「本件考案(一)」といい、その各構成要件を「本件考案(一)の構成要件(1)」等という)。

(1) 着用者の腹と背中の下部に覆い被さり、ある間隔をへだてて相対する二対の側面縁を持ち、

(2) 腰バンドと一対の脚穴を形成する弾力手段を含む主要部と、

(3) 着用者の両側の腰骨の突起に覆い被さり、主要部の側面縁の間に縫い付けられる一対のわき布とよりなり、

(4) 弾力手段はわき布の部分の両端(側面)で終了する様に構成された、

(5) 両側が平らになるパンツ。

(二) 一方、被告パンツは、別紙物件目録二記載のとおり特定でき、その構成は次のとおりである。

(1) 着用者の腹の下部に覆い被さる主要部1aと背中の下部に覆い被さる主要部1bとは、ある間隔をへだてて相対する二対の側面縁5a、5bを持ち、

(2) 主要部1bは一本の腰バンド2を有し、主要部1a、1bは弾力手段として各脚穴3を形成する一本の脚穴バンド4を有し、

(3) 主要部1a、1bの相対する側面縁5a、5b間に左右に一対のわき布6が縫着されており、わき布6は折り返しはあるものの単なる平地であり、このわき布6部分が着用者の両側腰骨部分に覆い被さりうる、

(4) 各バンド2、4の両端はわき布6の側面縁5a、5bで終わるように縫着されている、

(5) 両側が平らなパンツ。

(三) 本件考案(一)の構成と被告パンツの構成との対比

(1) (一)(1)と(二)(1)の対比

全く同一である。

(2) (一)(2)と(二)(2)の対比

被告パンツの主要部1bの上縁には、フリルのついた腰バンド2があり、対する主要部1aの上縁には、特別な弾力手段はなくレース状の主要部1aがそのままである。また主要部1a、1bの側面は脚穴バンドが縫着されている。以上の構成からみて、腰バンドと一対の脚穴3を形成する脚穴バンド4を主要部は含んでいることになり、(二)(2)は(一)(2)を充足する。

(3) (一)(3)と(二)(3)の対比

被告パンツのわき布6も着用者の両側腰骨部分に覆い被さり、そのわき布6は、主要部1a、1bの両側縁5a、5b間に縫着されている。したがって、(一)(3)と(二)(3)は同一である。

(4) (一)(4)と(二)(4)の対比

腰バンド2は、わき布の側面で終了していることは、被告パンツにおいても同じであり、(一)(4)と(二)(4)は同一である。

(5) (一)(5)と(二)(5)の対比

被告パンツにおいては、わき布6は、折り返しがあっても単なる平地であるため両わきにバンドのように突出することはない。したがって、両側が平らになるパンツであることは被告パンツにおいても同じである。

(6) よって、被告パンツは本件考案(一)の構成要件を充足する。

(四) 本件請求の範囲第二項の構成要件は、次のとおりである(以下、第二項の考案を「本件考案(二)」といい、その各構成要件を「本件考案(二)の構成要件(1)」等という)。

(1) その中の主要部は、一対の相対する腰の縁と一対の相対する脚穴を持ち、

(2) その弾力手段は腰縁に沿う一本の弾力のあるバンドと各脚穴に沿う一本の弾力バンドを含む、

(3) 請求項第一項記載のパンツ。

(五) 本件考案(二)の構成と被告パンツの構成との対比

(1) (四)(1)と(二)(1)との対比

全く同一である。

(2) (四)(2)と(二)(2)の対比

被告パンツの主要部1bの上縁にはフリルのついた腰バンド2があり、対する主要部1aの上縁には特別な弾力手段はなくレース状の主要部1aがそのままであり、側縁はわき布6に縫着されている。一本の弾力バンド2が腰縁(主要部1bの上縁)に付されており、被告パンツの各脚穴に一本の弾力バンドを含んでいるので(二)(2)は(四)(2)を充足している。

(3) (四)(3)と(二)(3)との対比

請求項第一項は、被告パンツを含むものであることは前記(三)のとおりであり、(四)(3)と(二)(3)は同一である。

(4) よって、被告パンツは、本件考案(二)の構成要件を充足する。

(六) 以上のとおり、被告パンツは、本件考案(一)及び(二)の各構成要件をいずれも充足し、かつ、被告パンツを着用した場合には腰バンドで腰の両側を圧迫することなく、血液の循環を悪くすることもないから、その作用効果も同一である。したがって、被告パンツは、本件考案(一)及び(二)の権利範囲に属する。

(七) 被告は、被告パンツを日本国内において約一万着製造・販売したところ、一着当たりの販売価格を約二七〇〇円として、原告は、通常実施料三パーセント相当の人一万円の損害を受けた。

また、被告は、原告の警告を無視して被告パンツを粗悪な布地で廉価で販売したため、原告の業務上の信用を傷つけた。その信用回復措置として、被告に対し、別紙目録一記載の謝罪文を同二記載の各新聞に各一回ずつ掲載させることが必要かつ相当である。

(八) 被告の主張に対する反論

(1) 被告は、被告パンツは、「腰バンド」を有していないと主張するが、弾力手段がないからといってバンドを構成しないとはいえない。バンドは弾力手段の有無とは関係がない。一つの物体あるいは人体を結びつけるものが「バンド」として理解されていることは周知の事実である。本件考案においては、「腰バンド」とは腰の周りに巻いてパンツがずり落ちない程度の弾力があり被着用者の腰部をしめつける状態にあるものの全部又はその一部を指称しているのであり、腰に巻き付ける部分全体が弾力手段を有する必要はない。

(2) 被告は、被告パンツにおいては、着用者の股から腰にかけてのサイズによっては、わき布が腰骨部分に覆い被さる場合もあれば、腰骨部分より上方に覆い被さる場合もあるから、本件考案(一)の構成要件(3)に該当しないと主張するが、着用者によって本件実用新案権の侵害になったりならなかったりするようなパンツはあり得ない。わき布が腰骨に覆い被さるように構成されていれば右構成要件は充足される。

(3) 被告は、被告パンツの主要部1aの上縁にはストレッチテープからなる弾力手段が全く設計されていないから「弾力手段はわき布の両端(側面)で終了するように構成」されていないと主張するが、本件考案においては、その目的からみて弾力手段がわき布上に設けてなく、わき布の側面で終了していればそれでよいのである。すなわち、本件考案は、弾力手段がわき布以外の主要部、側面縁の全部若しくは一部に存在すればよいのであり、主要部の一つの側面縁に弾力手段が存在する場合でも、わき布部分の側面で終了すれば、本件考案(一)の構成要件(4)は充足される。

また、被告は、被告パンツにおいては、わき布自体がトリコット編地から構成されており、わき布そのものが弾力手段となっているから、右構成要件を充足しないと主張するが、布地自体の弾力性は、本件考案では問題にならない。本件考案においては、いわゆる弾力手段がバンドや脚穴部分に当初より存在している場合を予定しているのであって、素材自体の弾力性を問題としていないのである。

(4) さらに、被告は、被告パンツのわき布の下側縁が結果的に四重になっているから上側縁より突出部となり「両側が平らになるパンツ」ではないと主張する。しかし、本件考案に即して検討するならば、わき布部分を設けた目的は、従来のパンツの如く全周にわたり弾力手段を設けたパンツを長時間着用したり、あるいは着用したままわき腹を下にして寝るような場合、わき布に極端な段差があった場合にはわき腹を強く圧迫することにより、不快感をもたらすことになるが、それを避けるためゴムバンドのないわき布を設けることにある。わき布部分に弾力手段等を設けるなど意図的にわき布に段差を設ける場合が問題なのであって、仮に素材たる生地の厚さを二重から四重にしたからといって、その段差によるわき腹への圧迫が大きいなどということはない。

被告が、被告パンツにおけるわき布の下側縁を意図的に四重にしたとすれば、それは本件考案の技術的範囲を迂回するための改悪である。

2  被告

(一) 被告パンツは、別紙物件目録[記載のとおり特定でき、本件考案と対比して次のような特徴を有している。

(1) 臀部に覆い被さる主要部1bのみの内側上縁のウエストラインに沿ってストレッチテープからなる弾力手段2が設けられ、

(2) 着用時わき布6は、着用者の両側の側面の腰骨部分より上方に覆い被さりうる。

(3) 弾力手段2の両端はわき布6の片端の側面縁5bのみで終わっており、腹部に覆い被さるリバーレース地からなる主要部1aの上縁はストレッチテープからなる弾力手段は全く設けられていない。また、わき布6は、横方向に弾力性を有するトリコット編地から構成されている。

(4) わき布6の下側縁7の部分は4重の布と縫糸13とから構成されていて、わき布6の上側縁のおよそ二・七倍の厚みになっている。

(二) 右にあげた被告パンツの特徴は、本件考案の各構成要件と次の点で異なることを示している。

(1) 被告パンツは、臀部に覆い被さる主要部1bのみの上縁のウエストラインに沿ってストレッチテープからなる弾力手段2が設けられているものであり、腹部に覆い被さる主要部1aの上縁には弾力手段が設けられていない。

そして「バンド」とは、「洋装に使う皮・布などの帯」を、「帯」とは「着物の上から腰に巻いて結ぶ細長い布」(広辞苑第四版)をそれぞれ意味するところ、被告パンツのように臀部の上の部分すなわち腰の後ろ側部分のみに設けられる部材は、ここでいう「腰バンド」とはいえない。したがって、本件考案(一)の構成要件(2)の「腰バンドー………を形成する弾力手段を含む主要部と、」の内、被告パンツは「腰バンド」を有していないから右構成要件を充足しない。

なお、本件クレームは、「腰バンドを形成する弾力手段」と記載されているから、本件考案に関する限り、腰バンドが弾力手段によって形成されなければならないことは当然である。

(2) 被告パンツは、着用時わき布6が、着用者の両側の側面の腰骨部分より上方に覆い被さりうる。すなわち、被告パンツのわき布6の上下方向の幅は、前側が広く、後側が狭くなっており、部位により幅が異なるが、おおむね二ないし三センチメートル程度の幅しかないため(同製品のサイズはMサイズ一本である)、着用者の股から腰にかけてのサイズによって、腰骨部分に覆い被さる場合もあれば、腰骨部分より上方に覆い被さる場合もある。

本件考案(一)の構成要件(3)は、「着用者の両側の腰骨の突起に覆い被さり………一対のわき布とよりなり」であるところ、実用新案出願において実用新案登録請求の範囲は、考案の構成に欠くことができない事項のみを記載する(平成二年改正前の実用新案法五条四項二号)ものであるから、そのような必須の技術的要件を備えないものは考案の技術的範囲に属しないことは当然である。そして、前記のとおり、被告パンツは、着用者によって腰骨の突起に覆い被さったり被さらなかったりするのであるから、右構成要件を充足するとはいえない。

(3) 被告パンツは、弾力手段2の両端がわき布6の片端の側面縁5bのみで終わっており、腹部に覆い被さるリバーレース地からなる主要部1aの上縁はストレッチテープからなる弾力手段は全く設けられていない。

右のような構成は、前記(1)のとおり、被告パンツが腰バンドを備えていないことを意味するが、同時に本件考案(一)の構成要件(4)を充足しないことをも意味する。

すなわち、本件考案の構成要件(四)は、「弾力手段はわき布の部分の両端(側面)で終了する様に構成された」であるが、被告パンツは、そもそも腰バンドを有しておらず、腹部の上縁部分すなわち、腰の前側部分に弾力手段が設けられていない以上、弾力手段が「わき布の部分の両端(側面)」で終了することはあり得ないのである。

また、被告パンツは、わき布6が横方向にほぼ一・五倍の弾力性を有するトリコット編地から構成されており、わき布自体が弾力手段となっている。この意味でも「(主要部の)弾力手段はわき布の部分の両端(側面)で終了」していないのである。

よって、被告パンツは、本件考案(一)の構成要件(4)を充足しない。

(4) 被告パンツのわき布6には、主要部1bの上縁や脚穴3の裾回りのようなストレッチテープは設けられておらず、ストレッチテープによる突出部は存在しない。しかしながら、わき布6の下側縁7の部分が四重の布と縫い糸13から構成されていて、わき布6の上側縁のおよそ二・七倍の厚みになっている結果、わき布6は下側縁部分に突出部ができることになり、本件考案(一)の構成要件(5)の「両側が平らになるパンツ」を充足していない。

原告は、被告パンツがわき布の下側端を意図的に四重にしたとすれば迂回であると主張するところ、もとより被告パンツは本件考案を意識してわき布の下側端を厚くしたものではないが、本件考案の要諦はわき布部分を薄く平らにして一定の作用効果をあげようとするものであるところ、意図的にせよわき布部分を薄く平らにしないパンツは本件考案の構成要件を備えないばかりか、考案の予定する作用効果を奏することができないからこれを迂回とは呼ばない。

被告パンツが、わき布の下側端部に、裁ち端を内側で包んで縫う(結果的にその部分の布が四重になるような)縫製手段をとっているのは、布の裁ち端のほつれを防止するとともに、見た目の美しさを考慮し、裁ち端の縫い目が外に表れないようにしたものである。

(三) 以上のとおり、被告パンツは、本件考案(一)の構成要件(2)ないし(5)のいずれも欠いており、同様に、本件考案(二)の構成要件(2)及び(3)のいずれも欠いている。また、本件考案の必須要件をほとんど欠いている以上、被告パンツが本件考案が意図した作用効果を奏しないことは当然である。

よって、被告パンツは、本件考案の技術的範囲に属しない。

第三  当裁判所の判断

一  被告パンツの特定

検甲二(被告パンツであることに争いがない)によれば、被告パンツは、別紙物件目録一記載のとおり特定できることが認められる。

原告は、別紙物件目録二記載のとおり被告パンツを特定し、同目録一の記載中の「トリコット編地からなる」、「弾力性を有するポリエステルトリコット生地」等の被告パンツの生地の説明並びにわき布の厚み部分を示す「わき布6の上側縁のおよそ二・七倍の厚みになって」等の記載及び添付第2図は不要であり削除すべきであると主張する。しかし、前記第二、四2のとおり、被告は、被告パンツの生地やわき布の厚み等も、被告パンツが本件考案の権利範囲に属しないとの主張の根拠としていることから、被告パンツと本件考案の対比においては、検甲二とともに、別紙物件目録一の記載を被告パンツを特定する説明として参照しつつ検討を進めることとする。

二  本件考案(一)及び(二)の構成

本件公報(甲一)によれば、本件考案(一)の構成は、前記第二、四1(一)の(1)ないし(5)(本件考案(一)の構成要件(1)ないし(5))のとおりであると認められ、本件考案(二)の構成は、前記第二、四1(四)の(1)ないし(3)(本件考案(二)の構成要件(1)ないし(3))のとおりであると認められる。

三  本件考案(一)と被告パンツの対比

1  被告は、被告パンツは本件考案と対比して、前記第二、四2(一)のとおりの特徴を有すると主張するところ、検甲一及び別紙物件目録二の記載によれば、被告パンツにつき次の事実が認められる。

(一) 臀部に覆い被さる主要部1bのみの内側上縁のウエストラインに沿ってストレッチテープからなる弾力手段2が設けられている。

(二) 弾力手段2の両端はわき布6の片端の側面縁5bのみで終わっており、腹部に覆い被さるリバーレース地からなる主要部1aの上縁はストレッチテープからなる弾力手段は全く設けられていない。

2  被告は、右(一)の点から、腰の後ろ側だけに存在する部材(弾力手段)は「腰バンド」とはいえないと主張している。

そこで検討するに、バンドとは、「洋装に使う皮・布などの帯」(広辞苑第四版)を指し、「帯」とは「着物の上から腰に巻いて結ぶ細長い布」(同)をそれぞれ意味するから、腰の後ろ側の部材と前側の部材が異なることのみをもって、前の部材の部分がバンドに当たらないということはできない。また、一般には、バンドは、それが弾力手段を有するか否かは関係がないというべきである。

しかしながら、本件考案(一)の構成要件(2)は、「腰バンドと一対の脚穴を形成する弾力手段を含む主要部」であるところ、文言上「腰バント」と「脚穴」は弾力手段を形成すると解するのが自然である上、本件公報(甲二)の「考案の詳細な説明」の「問題点を解決する手段」には、「上縁に沿って腰バンドを縫い付け、脚穴を構成する縁に沿って脚穴バンドを縫い付け、これらのバンドは全て弾力あるものを使用して伸縮性を持たせ」との記載があり、実施例の中にも「弾性のある上端に縫いつけた腰バンド」との記載があることなどに照らすと、本件考案における「腰バンド」は弾力性を有するものであることを前提に、本件請求の範囲第一項に「腰バンドと一対の脚穴を形成する弾力手段を含む主要部」と明記されていると解するのが相当である。

3  もっとも、原告は、本件考案においては、「腰バンド」とは腰の周りに巻いてパンツがずり落ちない程度の弾力があり被着用者の腰部をしめつける状態にあるものの全部又はその一部を指称しているのであり、腰に巻き付ける部分全体が弾力手段を有する必要はないと主張するところ、確かに、本件請求の範囲の「腰バンドと一対の脚穴を形成する弾力手段を含む主要部」の記載のみからは、腰バンドの全てが弾力を有することが規定されているか否かは明らかではない。

しかし、本件請求の範囲には「弾力手段はわき布の部分の両端(側面)で終了する様に構成された」との記載(本件考案(一)の構成要件(4))が存するところ、腰バンドの弾力手段がわき布の「両端」で終了することを要するのであれば、腰バンドは、双方が弾力手段であることが前提とされていることになると考えられる。そこで、次に、本件考案(一)の構成要件(4)について検討する。

4  被告は、前記1の(二)のように、被告パンツは、腹部に覆い被さるリバーレース地からなる主要部1aの上縁にストレッチテープからなる弾力手段は全く設けられていないから、弾力手段が「わき布の部分の両端(側面)」で終了していないと主張する。一方、原告は、本件考案においては、その目的からみて弾力手段がわき布上に設けてなく、わき布の側面で終了していればそれでよく、主要部の一つの側面縁に弾力手段が存在する場合でも、わき布部分の側面で終了すれば、本件考案(一)の構成要件(4)は充足されると主張する。

そこで、検討するに、既に述べたとおり、本件請求の範囲には、「弾力手段はわき布の部分の両端(側面)で終了する様に構成された」と明記されており、わき布の両側に弾力手段が存在し、それがわき布の両端で終了することを要するとされていると解するのが自然であるところ、実用新案登録請求の範囲には、考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載することとされている(平成二年法律第三〇号による改正前の実用新案法五条四項二号-現同条五項二号)ことからすれば、右構成は、必須の要件として、権利範囲を限定するものと解するのが相当である。また、本件公報の「考案の詳細な説明」の「問題点を解決する手段」には、「主要部はある間隔を隔てて相対する二対の側面縁を持ち、その間隔の処に左右わき布を縫い付け、上縁に沿って腰バンドを縫いつけ、脚穴を構成する縁に沿って脚穴バンドを縫い付け、これらのバンドは全て弾力あるものを使用して伸縮性を持たせ、又バンドの両端は全てわき布の両端で終わらせて」と記載されており、実施例においても、弾性のある上端に縫いつけた腰バンド、突き出る部分を持たない上端縁を持つ左右のわき布を主要部に縫いつけて構成されるとして、第3図で説明され、同図においても前後の腰バンドがわき布の両端で終了するように描かれている。このように、本件請求の範囲や「考案の詳細な説明」の記載等を総合しても、本件考案者が腰バンドの弾力手段が片方で終了する場合もその権利範囲に含めると認識していたことを窺わせるような記載も存在せず、かえって、わき布の両端で弾力手段が終了することを前提としていることが窺われるから、前記の本件請求の範囲の記載に反して、腰バンドの弾力手段が片方で終了するパンツを本件考案の権利範囲に含めて解釈する理由はない。

したがって、本件考案(一)の構成要件(4)は、「弾力手段はわき布の部分の両端で終了する様に構成」されることを要すると解すべきである。そうすると、前記1(二)のとおり、被告パンツは、わき布の両端で弾力手段が終了しているとはいえないから、右構成要件を充足しているとは認められない。

5  本件考案の作用効果は、前記第二、二3のとおりであるところ、なるほど、原告が主張するように、被告パンツのわき布部分には、本件公報の実施例に従来技術として図示(第1、2図)されているパンツのような弾力手段による突出はなく、本件考案と同一若しくは類似の作用効果があると考えられる。

しかし、そうであるとしても、前記のとおり本件請求の範囲においてその権利範囲が限定され、被告パンツがその構成要件を充足しない以上、前記認定が左右されるものではない。

四  本件考案(二)と被告パンツの対比

次に本件考案(二)についてみるに、その構成要件(3)は、「請求項第一項記載のパンツ」とされ、本件考案(一)が引用されているところ、本件考案(一)の構成要件(1)ないし(5)と本件考案(二)の構成要件(1)ないし(3)を対比しても、その相違は必ずしも明らかではない。しかし、本件請求の範囲や「考案の詳細な説明」の記載等を総合しても、本件考案(一)を引用する本件考案(二)の構成要件(3)が、本件考案(一)の構成要件(4)を排除しているとは解せられない。したがって、本件考案(二)の構成要件(3)を充足するためには、本件考案(一)の構成要件(4)を充足することを要するところ、被告パンツが右構成要件を充足すると認められないことは前記のとおりであるから、結局、被告パンツは、本件考案(二)の構成要件(3)を充足するとは認められない。

なお、本件請求の範囲第二項では、「一対の相対する腰の縁と一対の相対する脚穴を持ち」とされ、「腰の縁」も「脚穴」も各一対であることが明記されているにもかかわらず、「その弾力手段は腰縁に沿う一本の弾力のあるバンド」と記載され、その部分のみからは、腰の縁の一方にのみ弾力のあるバンドが設けられている場合を指すのではないかとの疑問も考えられる。しかし、それに続く「各脚穴に沿う一本の弾力バンド」との記載も、本来「各脚穴に沿う各一本の弾力バンド」と記載されるべきものであることが明らかであることや、前記三4のとおり、考案の詳細な説明等の記載においても、腰縁の一方のみに弾力手段が設けられるような場合が想定されていることが窺われないことを総合すると、「腰縁に沿う一本の弾力のあるバンド」とは、その前の「一対の相対する腰の縁」との記載を受けて、「各腰縁に沿う各一本の弾力のあるバンド」の意味であることが明らかである。

五  以上のとおり、被告パンツは、本件考案(一)及び(二)の構成要件を充足するとは認められず、被告パンツは、本件考案の権利範囲に属するとはいえない。

よって、原告の請求は、その余の点を検討するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 松本利幸 裁判官 中尾彰)

目録

一 謝罪文

弊社は貴殿所有の登録第一九五八〇二三号(考案の名称「両側が平らになるパンツ」)実用新案権を侵害して貴殿に御迷惑をかけたことをここに謝罪する。

平成 年 月 日

京都市南区吉祥院中島町二九

株式会社ワコール

右代表者 代表取締役 塚本能交

台湾国高雄市瑞豐街二二〇號

黄瀛徳殿

二 掲載新聞

日本経済新聞社発行の「日本経済新聞」

朝日新聞東京本社発行の「朝日新聞」

読売新聞社発行の「読売新聞」

毎日新聞社発行の「毎日新聞」

物件目録一

添付第1図にみられるように、腹部に覆い被さるリバーレース地からなる主要部1aと臀部に覆い被さるトリコット編地からなる主要部1bと、股部9と、一対の脚穴3とを有し、主要部1aと1bとはある間隔をへだてて相対する二対の側面縁5a、5bを持ち、その側面縁5a、5b間に、左右に一対のわき布6が縫合されているパンツであって、臀部に覆い被さる主要部1bのみの内側上縁ウエストラインに沿ってストレッチテープからなる弾力手段2が設けられ、また、脚穴3の裾回り内側には、ストレッチテープからなる弾力手段4が設けられている。

前記わき布6は、一枚の弾力性を有するポリエステルトリコット生地を筒状に形成し、わき布6の下側縁7で縫合されており、前記わき布6の下側縁7の縫合構造は、添付第2図(第1図のA-A線の断面図)に示される様に、生地の両縁12がそれぞれ内側に折り返され、折り返された部分が縫合されていて、従ってわき布6の下側縁7の部分は4重の布と、縫糸13とから構成されていてわき布6の上側縁のおよそ2・7倍の厚みになっている。

前記わき布6は、横方向に弾力性を有するトリコット編地から構成されている。

着用時わき布6は、着用者の両側の側面の腰骨部分より上方に覆い被さりうる。

各弾力手段4の両端は全てわき布6の両端の側面縁5a、5bで終わっているが、弾力手段2の両端はわき布6の片端の側面縁5bのみで終わっており、腹部に覆い被さるリバーレース地から成る主要部1aの上縁はストレッチテープからなる弾力手段は全く設けられていない。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

物件目録二

添付図にみられるように、腹部に覆い被さる主要部1aと啓部に覆い被さる主要部1bと、股部9と、一対の脚穴3とを有し、主要部1aと1bとはある間隔をへだてて相対する二対の側面縁5a、5bを持ち、その側面縁5a、5b間に、左右に一対のわき布6が縫合されているパンツであって、臀部に覆い被さる主要部1bのみの内側上縁ウエストラインに沿ってストレッチテープからなる弾力手段2が設けられ、また、脚穴3の裾回り内側には、ストレッチテープからなる弾力手段4が設けられており、側面縁5a、5b間に縫合されている左右に一対のわき布6は、それぞれの生地の裁ち端をその表側同士が重なる様に縫合されており、更に前記縫製部分を、主要部1aに縫合し、側面縁5bの前記縫製部分は、主要部1bに縫合されている。

前記わき布6は、一枚の生地を折り合わせて形成し、わき布6の下側縁7で縫合されている。

各弾力手段4の両端は全てわき布6の両端の側面縁5a、5bで終わっており、弾力手段2の両端はわき布6の側面縁5bで終わっている。腹部に覆い被さる主要部1aの上縁はストレッチテープからなる弾力手段は設けられていない。

<省略>

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