大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成9年(ワ)1044号 判決 2001年10月16日

本訴平成9年(ワ)第1044号 修繕積立金等請求事件

反訴同12年(ワ)第137号

主文

1  被告は,原告Aに対し,1622万1002円及びうち1135万7888円に対する平成13年3月31日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Aに対し,平成13年4月5日から本判決確定の日まで毎月5日限り37万1565円を支払え。

3  原告Aの訴え中,本判決確定の日の翌日から毎月5日限り37万1565円の支払を求める部分を却下する。

4  被告の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,本訴・反訴を通じ,被告の負担とする。

6  この判決は,1,2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  本訴

(1)  主文1と同旨

(2)  被告は,原告Aに対し,平成13年4月5日から毎月5日限り37万1565円を支払え。

2  反訴

(1)  主位的請求

ア 別紙1の1記載の管理規約は不存在であることを確認する。

イ 別紙1の2,3及び4記載の決議は不存在であることを確認する。

(2)  予備的請求

ア 別紙1の1記載の管理規約は無効であることを確認する。

イ 別紙1の2,3及び4記載の決議は無効であることを確認する。

第2事案の概要

本訴事件は,区分所有建物であるa(以下「aマンション」という。)の管理組合である原告Aが,aマンションの区分所有者である被告に対し,組合決議に基づく修繕積立金等及びこれに対する約定利率による遅延損害金とともに,将来の管理費の支払いを求めた事案であり,反訴事件は,被告が,原告Aの請求の根拠となる管理規約及び組合決議について,主位的には不存在であることの,予備的には無効であることの確認を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠によって認定する場合は証拠を示す。)

(1)  当事者等

ア aマンションは,昭和58年10月に竣工した地下1階,地上11階の分譲区分所有建物である。地下1階,地上1,2階部分は営利用であり,地上3階から11階部分は住居用であって,住居部分の合計戸数は67戸である。うち地下1階から地上2階までの専有部分延床面積は1589.96平方メートル(甲6)(登記床面積は1553.59平方メートル),3階から11階までの専有部分延床面積は3460・54平方メートル(甲1)(登記床面積は3264.46平方メートル)である。

イ 原告Aは,aマンションの区分所有者で構成される管理組合である。

ウ 被告は,aマンションの区分所有者であり,aマンションのうち地下1階,地上1,2階部分を専有している(以下「営利用部分」という。ただし,2階201部分及び1階専有部分(3.40平方メートル)については,平成12年2月25日,これを201(登記床面積220.98平方メートル),202(同面積145.72平方メートル)及び203(同面積145.06平方メートル)に区分し,同年3月22日,被告から有限会社アルファに対し,201が売り渡された。)。

(2)  原告Aは,平成8年2月6日の臨時総会において,同年3月分からの修繕積立費をこれまでの7倍の額に増額するとの決議をした(以下「平成8年2月6日決議」という。)。同決議によって,被告の修繕積立金は,3万8160円から26万7120円に増額された。なお,原告Aは,同11年6月10日の臨時総会においても,上記決議と同内容の決議をした(以下「同11年6月10日決議」という。)。

(3)  原告Aは,同9年5月16日の臨時総会において,aマンションの大規模修繕のための費用として,従来の修繕積立金と合わせ,次のとおり,一時金を徴収するとの決議をした。

支払方法 同9年5月から同年11月までの計7回払い

金額 現在の積立金の8・8倍

同決議による被告の一時金負担額は,

26万7120円×8・8÷7≒33万5810円となる。

(4)  水道料金の滞納

aマンションの全戸の水道料金は,原告Aが京都市との間で一括して契約し,原告Aが全水道料金を支払っている(原告Aと各区分所有者との間では水道料金について立替払い契約を締結している。)。そして,原告Aは,2か月に1度各戸の水道小メーターを検針して各戸の水道料金を算出し,各戸から徴収している。被告の同11年6月分から同13年2月分までの滞納水道料金は別紙3のとおりであり,合計19万5696円である。

(5)  別紙「a管理規約」(以下「本件規約」という。)67条には,管理費及び修繕積立金が未払いの場合は,年14パーセントの割合による遅延損害金を支払うとの規定がある。

2  争点

(1)  本件規約は不存在ないし無効か。

(原告Aの主張)

ア 不存在について

本件規約については,昭和59年10月以降に区分所有者全員による書面決議が成立している。仮に上記決議が不成立であったとしても,少なくとも同年12月1日,70戸中(営利用部分については各階を1戸とする。),61名が出席した(被告を含む。)臨時総会において,被告の議決権を8議決権とする本件規約改正が承認されており(ただし,被告の管理費負担額については不承認。),黙示に本件規約の設定決議がされたということができる。

また,本件規約が営利用部分を対象としていない(営利用部分についてのみ本件規約は不存在か)との主張については,単なる誤記(記載漏れ)であり,全体の記載からすれば,営利用部分を対象としていることは明らかである。仮に,本件規約制定手続に瑕疵が存在したとしても,本件訴訟に至るまでの間,永年,区分所有者全員が本件規約を規約として承認してきた以上,本件規約は管理規約としての規範的効力を有するに至ったというべきである。また,被告は,本件規約の存在に異議を述べることなく,むしろその存在を前提に行為してきた経緯が認められるのであって,そのような事情のもとでは被告が本件規約の不存在ないし無効を主張することは,信義則に違反し,許されないというべきである。

イ 無効について

区分所有法は,原則を規定しながら区分所有者の自治より当該区分所有建物の事情に応じた規約制定を認めている。そして,aマンションのような等価交換方式によって建築されたマンションでは,もとの土地所有者(本件では被告がこれに当たる。)が多くの専有部分を取得するのが通常であって,専有面積割合による議決権では,このもと土地所有者による多数決原理の濫用の高い危険性が考えられるため,その議決権を制約することには合理性が認められる。本件においても,被告は,約3分の1の専有面積を取得していたのであって,以上の理が当てはまる。また,本件では,原告A・被告間において,同61年5月24日,被告の管理費を30パーセント減じさせる協定が成立し,被告の義務の減少に努めていることも,被告の議決権の制約の合理性を支える事情となる。そして,本件においては,そもそも被告が議決権決定(8議決権)について同意していたのであって,なんら違憲・違法はないということができる。

(被告の主張)

ア 不存在について

本件規約は,同58年12月31日までの間に,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)上の規約制定手続(旧区分所有法24条,現行法31条,同法45条。集会における特別決議又は全員による書面決議)が履行されておらず,同59年1月1日以降も上記規約制定手続はいずれも履行されていないから,不存在である。また仮に,規約制定手続が履行されていたとしても,本件規約は明文をもって営利用部分を除外していることから,aマンション全体の管理規約としては,やはり不存在である。

イ 無効について

区分所有建物のうち,住居用部分と営利用部分とが存在する場合には,両者の利害が当然に対立し,それぞれの構成員は,均質・同一ではないことが明らかであって,多数決により決議し,均質でない構成員を拘束することは衡平の原則に反するから,本件規約47条は,憲法14条,同29条に違反し,信義則及び公序良俗に反し,無効である。議決について多数決原理を採用する49条も同様である。また,これら条項は,合理的理由なく区分所有法38条,14条の原則を変更するものであって,この点からも無効ということができる。また,本件規約49条については,被告に特別の影響を与えることから,その個別の承諾を成立要件とするところ,被告はこれを与えていないから,この点からも同条は無効である。

本件規約22条ないし24条は,地下1階ないし地上2階の営利用部分(8戸)と3階ないし11階の住居用部分とで,構造・複雑さの程度が異なるaマンションにおいては,単に床面積の比率によってその分担金を課することは,衡平の原則に反し,憲法14条,29条に違反し,信義則及び公序良俗に反し,無効である。

(2)  別紙1記載の2ないし4の各決議は,不存在ないし無効か。

被告は,前記(1)(被告の主張)のとおり,本件規約は不存在ないし無効であるから,本件各決議も不存在ないし無効となると主張している。

(3)  滞納金額

(原告Aの主張)

原告Aは,被告の滞納する管理費,修繕積立金及び遅延損害金(平成13年3月分まで。)の合計は,以下のとおりであると主張する。

ア 修繕積立金について

(ア) 平成8年3月分から同9年5月分までの修繕積立費(増額部分)の滞納の計算は別紙3のとおりであり,合計343万4400円である。

(イ) 同9年6月から同年12月までの修繕積立費一時金の及び修繕積立金増額分(こちらは同9年6月分のみ)の計算は別紙3のとおりであり,合計257万9630円である。

イ 同9年12月から平成11年5月までの支払いと上記(ア)及び(イ)の滞納金との精算

被告は,原告Aに対し,同9年12月分から同11年5月分まで,管理費及び修繕積立金を支払うとともに,滞納分(元金)について,30万円を5回,20万円を10回の合計350万円を支払った。

したがって,上記滞納金からこれを引くと,残額は,

(343万4400円+257万9630円)-350万円=251万4030円となる。

ウ 同11年6月からの管理費等の滞納

被告が,第2の1(1)ウのとおり,aマンション2階201部分を有限会社アルファに売却したことによる被告の専有面積の減少とこれに伴う管理費等の減額は,別紙2のとおりである。同11年6月からの管理費及び滞納金の計算は別表3のとおりであり,管理費合計348万4166円,修繕積立金合計535万9892円である。

エ 同12年12月の支払いと上記ウの滞納金との精算

被告は,原告Aに対し,同12年12月分の管理費及び修繕積立金を支払うとともに,滞納分(元金)について,200円を支払った。

したがって,上記ウの滞納金からこれを引くと,残額は,

(348万4166円+535万9892円)-200円=884万3858円となる。

カ 合計

滞納金合計(上記イとエの合計)は,251万4030円+884万3858円=1135万7888円であり,これに同13年3月までの遅延損害金(計算は別表3のとおりである。)合計466万7418円及び水道料金滞納金合計19万5696円を加えると,合計は1622万1002円となる。

なお,平成13年4月以降の滞納管理費及び滞納修繕積立金の合計は,37万1565円であり,その支払期日は毎月5日である。

(被告の主張)

被告は,原告Aに対し,昭和61年6月に,被告の所有する地下1階のキュービクル前通路部分41.14平方メートルを譲渡した。そこで,同年5月24日付協定書に基づく管理費及び積立金の計算の根拠となる被告の延床面積は,1589.96平方メートルから1548.82平方メートルに減少し,昭和61年9月20日から平成8年2月20日までの間,管理料については19万7241円,修繕積立金については,38万5350円が減じられるべきである。

(4)  相殺

(被告の主張)

原告Aは,被告に対し,キュービクル管理料として月額3200円を支払う約定になっているのに,,昭和61年6月から平成8年2月までの同管理料を支払わない(合計37万1200円)。よって,被告は,原告Aに対し,本件第7回口頭弁論において,被告の滞納金額と上記原告Aの滞納金とを対当額で相殺するとの意思表示をした。

(原告Aの主張)

原告Aと被告の間で,昭和61年5月24日,修繕積立金を従前の月額7000円の5倍である3万5000円に増額するとの合意が成立したが,うち3200円については,原告Aが被告に支払うべきキュービクル管理料と相殺することとし,結局,同年9月20日からの修繕積立金は3万1800円となった。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

(1)  不存在について

被告は,本件規約について,①そもそも設定手続が取られておらず,不存在であること,次に,仮に設定手続は存在したとしても,②本件規約は被告所有の営利用部分を除外しているから,被告との関係においては,やはり不存在である旨を主張しているので,以下,順次検討する。

ア ①について

まず,書面決議について検討するのに,証拠(甲16の1ないし46,弁論の全趣旨)を総合すれば,aマンションにおいては,aマンション購入時に,aマンションを建築した大同建設株式会社(以下「大同建設」という。)が,各区分所有権者に対し,順次,各本件規約の承認書に署名を取り付けていたこと,被告もこれに署名したことが認められるが,一方,昭和59年12月1日時点で,aマンションの住戸に数個の売れ残りがあったのであるから(争いがない。),先に認定の事実によっては未だこの時点における全区分所有者による書面決議の成立を認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。以上によれば,この時点では全区分所有者による書面決議があった事実を認めることができないので,その書面決議による本件規約成立の主張は理由がない。

次に,昭和59年12月1日臨時総会について検討するのに,証拠(甲1,8,12,17,弁論の全趣旨)を総合すれば,原告Aは,昭和59年6月30日,創立総会を開催し,同年12月1日の臨時総会において,被告の議決権を3から8に変更する本件規約改正議案について,少なくとも黙示に承認の決議がされたことを認めることができる。そして,同決議は,その決議時点で書面決議では本件規約が不成立であることを前提にして,その改正を承認するものであると認められること,同臨時総会の出席者は61名であること(甲12),同決議について反対者のいたことはうかがわれず,被告もこれに賛成していたこと(甲12,弁論の全趣旨)からすれば,本件規約は,この臨時総会において,特別決議によって設定されたと認めることができ,他にこれを覆すに足りる証拠はない。

イ ②について

本件規約が,営利用部分を除外しているかどうかについて検討するのに,証拠(甲1,2,8,12,弁論の全趣旨)を総合すれば,昭和59年12月1日まで,本件規約別表1の建物・専有部分の項には「住戸部分 延床面積3460.54㎡」とのみ記載があり,営利用部分の記載はないことが認められるが,一方,大同建設は,原告Aに対し,この点について単なる記載漏れであると説明していたこと,同年12月1日の原告A臨時総会において,同主旨の説明が出席区分所有者になされたことが認められる。このような事実関係のもと,上記アのとおり,被告の議決権の増加も含めた本件規約の設定手続きがなされたことからすれば,本件規約は,営利用部分を除外せず,aマンション全体の管理規約として成立していると認めるのが相当である。

(2)  無効について

まず,1住戸1議決権を原則とする(ただし,被告については8議決権)本件規約49条及びこれを前提とする47条が信義則ないし公序良俗に違反し,無効となるかについて検討するのに,区分所有法38条,14条1項は,各区分所有者の議決権は,その専有床面積の割合によることを規定する。しかし,同法38条は,規約による別段の定めを明文で許容しており,議決権配分をどのようにするかは,区分所有者の自治に任されている。本件においては,議決権75中,被告の議決権は8議決権であり,被告が全議決権中約10.7パーセントを占める(第2の1(1)ア,弁論の全趣旨)。ここで,被告の専有面積の占める全専有面積中の割合は,約31.5パーセントであるから(第2の1(1)ア),被告を8議決権とする定めは,被告の専有面積割合からすれば,議決権を約3分の1に制限しているとみることができる。しかしながら,被告は自らの議決権を8とする規約内容を,上記(1)アのとおり,承認していたと認められるのであり,この程度の制限では,不合理な差別・不当な財産権の制限とは認めることができず,他にこれらを認めるに足りる証拠はない。

次に,本件規約22条ないし24条の内容は,区分所有法19条を敷衍するものである。そして,区分所有法は,当該区分所有建物の具体的用途(住居用か,営利用か,その混在型かなど。)によって,規制を異にすることは予定しておらず,当該区分所有建物の具体的事情から要請される規制については,すべて区分所有者の自治に任せているものと解することができる。そうすると,本件規約22条ないし24条が,営利用部分か住居用部分かを区別することなく,管理費等を専有面積割合で算出することを規定していることが,不合理な差別・不当な財産権の制限に当たるとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  以上によれば,被告の主張はいずれも理由がない。

2  争点(2)について

前記1のとおり本件規約は有効であり,争点(2)についての被告の主張はいずれも理由がない。

3  争点(3)について

証拠(甲9ないし11,13,19ないし22,29,42,弁論の全趣旨)を総合すれば,原告A主張のとおりの計算が認められる(なお,遅延損害金が年14パーセントの割合によるものであることは,第2の1(5)のとおりである。また,同各証拠を総合すれば,平成13年4月以降の滞納管理費及び滞納修繕積立金の合計が37万1565円であり,その支払期日が毎月5日であることを認めることができる。)。被告は,原告Aに対する専有部分の一部譲渡を主張し,原告A主張の計算を争うが,被告主張の事実をうかがわせる証拠はなく,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

4  争点(4)について

被告の所有するキュービクルを原告Aが使用していること,その管理料として原告Aが,被告に対し,月3200円を支払うことで合意したことは当事者間に争いがない。しかし,証拠(甲6,7,42,証人B,弁論の全趣旨)を総合すれば,原告A主張のとおり,キュービクル管理料月額3200円は被告の月々の修繕積立金と対当額で相殺されていることが認められる。よって,被告の相殺の主張は理由がない。

第4結論

以上のとおりであるから,原告Aの請求は,本判決確定の日の翌日以降の滞納管理費及び滞納修繕積立金の請求に係る訴え(以下「本件将来部分」という。)以外の部分につき理由があるからこれを認容し,本件将来部分については,本判決確定後も被告が原告Aに対するその支払を拒否するおそれが認められない限り,予め請求をする必要がないと解すべきところ,本件においてはそのようなおそれを認めることができないので,これを不適法なものとして却下し,被告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本信弘 裁判官 中野希美)

裁判官 河田充規は,転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 松本信弘

別紙1

1 別紙添付の「a管理規約」

2 平成8年2月6日,原告Aの臨時総会における,修繕積立金を同8年3月分(支払日毎月5日)から7倍にする旨の決議

3 同11年6月10日,原告Aの臨時総会における,上記2と同内容の再決議

4 同11年12月9日,原告Aの臨時総会における,「a管理組合規約」の改正決議

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例