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京都地方裁判所 平成9年(行ウ)24号 判決 2003年3月27日

原告

A

B

原告ら訴訟代理人弁護士

村井豊明

中島晃

中村和雄

井関佳法

小笠原伸児

杉山潔志

被告

荒巻禎一

C

D

E

F

被告ら参加人

京都府知事

山田啓二

被告ら及び同参加人訴訟代理人弁護士

置田文夫

被告ら参加人指定代理人

高見英伸

外一名

主文

一  原告らの本件訴えのうち、被告Cに対して損害賠償を求める部分をいずれも却下する。

二  被告荒巻禎一は、京都府に対し、一億一五四八万九五七七円及びこれに対する平成九年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は、原告らと被告荒巻禎一及び被告ら参加人との間においては、原告らに生じた費用の一〇分の一を同被告及び同参加人の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らとその余の各被告との間においては全部原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

(原告らの請求)

一  被告荒巻禎一及び同Cは、京都府に対し、連帯して七億七一〇八万三七三四円及びこれに対する平成九年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Dは、京都府に対し、一億一五四三万七三六七円及びこれに対する平成九年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告Eは、京都府に対し、六五四三万六六二七円及びこれに対する平成九年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告Fは、京都府に対し、五〇〇〇万〇七四〇円及びこれに対する平成九年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(被告ら及び参加人の本案前の答弁)

本件訴えのうち、別表(1)の「⑦」(平成七年度の登記測量業務等委託契約及びこれに基づく公金の支出)に係る損害賠償を求める部分を却下する。

(被告ら及び参加人の本案の答弁)

原告らの請求をいずれも棄却する。

第二  事案の概要

一  本件は、京都府(以下、「府」ともいう。)が、平成七年度及び平成八年度において、公共土木事業用地の取得にともなう登記、測量及び調査等の業務を、それまでの個別契約による方式を変更し、土地家屋調査士の団体、司法書士の団体及び測量業者(測量士)の団体の三団体に対して一括して包括的な委託をしたが、①その委託代金は、実際には実施されない作業分も含めて一律に一六の作業工程があるものとして算定された高額なものであり、②本来は、個別の事業毎に入札を経た上での個別の業者との契約によるべきものであるにもかかわらず、随意契約の方法により、上記の各業者団体に、予め一年度分の業務を包括的に一括委託する旨の各委託契約を締結し、その後に業務実施箇所の指示があって個々の事業毎に委託代金が確定され、それぞれ違法な支出負担行為及び公金支出があったとして、京都府の住民である原告らが、当時、京都府知事であった被告荒巻、京都府土木建築部長であった被告C、宮津土木事務所長であった被告D、同土木事務所の出納員に充てられた職員の被告E及び同Fに対し、平成一四年三月三〇日法律第四号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号前段に基づき、府が被った損害として、平成七年度及び八年度に支出された委託料のうち実施されなかった作業工程分への支出金の総額に相当すると推認される損害金、及び、上記の各一括委託契約の締結により上記の三団体が中間取得することとなった「業務受託分担金」の総額に相当する損害金、並びに、これらに対する遅延損害金を府に支払うことを求めた住民訴訟である。

なお、原告らは、本件請求を、「主位的請求」及び「予備的請求」としていいるが、請求としては、前記第一の(原告らの請求)のとおりとすべきことは、後記で判示のとおりである。

二  争いのない事実、並びに、本件各証拠(甲1ないし19、丙1ないし83〔それぞれ、枝番を含む。〕、証人L及び同Mの各証言、調査嘱託の各結果)及び弁論の全趣旨により認定できる事実は、以下のとおりである。

1(1)  原告らは、いずれも京都府民である。

(2)  被告荒巻は、平成七年度(平成七年四月一日から平成八年三月三一日まで、以下同じ。)及び平成八年度において、京都府知事の地位にあった者である。

(3)  被告Cは、平成七年度及び平成八年度において、京都府土木建築部長の地位にあった者である。京都府部制設置条例(昭和三一年京都府条例第五三号)(丙62)によれば、府の土木建築部は、京都府知事の権限に属する、(1)道路及び河川に関する事項、(2)都市計画に関する事項、(3)住宅及び建築に関する事項、(4)港湾その他土木に関する事項の事務を分掌するものとされている。

(4)  被告Dは、平成七年度及び平成八年度において、宮津土木事務所長の地位にあった者である。京都府会計規則五条二号、二条二号、及び昭和五五年京都府告示第二九〇号によれば、宮津土木事務所長は、京都府知事から、宮津土木事務所に対する配当の予算の範囲内で契約等の支出負担行為及び支出命令を行う権限を委任されている。

(5)  被告Eは平成七年度において、被告Fは平成八年度において、それぞれ、宮津土木事務所次長兼庶務課長及び同事務所庶務課庶務係長事務取扱の地位にあった者である。京都府会計規則一〇条二項によれば、府の土木事務所において庶務課長の職にある者は、出納員の職に充てられるものとされており、同規則六条によれば、支出審査権を有する京都府の出納長から、支出命令の審査、現金の出納及び補完、支出負担行為に関する確認などを行う権限を委任されている。

2  府においては、公共土木事業用地として府が取得する不動産についての測量業務、境界確定業務、その他の登記手続に関する業務(以下、一括して「登記測量業務等」という。)について、従来は、そのうち登記簿等の事前調査は府の職員と測量業者(測量士)が行い、土地調査、現地での境界測量及び用地実測平面図の作成等は測量業者が行い、登記業務は原則として府の職員がこれを行うが、その一部を土地家屋調査士及び司法書士もそれぞれ行い、測量業者への委託だけについて、指名競争入札を実施した上で委託契約をするという方式が採用されていた。

しかし、府は、平成六年ころ、この方式を変更することにし、地元の測量業者(測量会社)が組織する任意団体、司法書士が組織する団体及び土地家屋調査士が組織する団体に対し、予め各土木事務所等の一年分の業務を包括して、それぞれの団体内部での各業務担当者の選定も含めて一括して委託することとし、府から上記の各団体に対して支払われる委託料は、各委託契約に基づく実施箇所の指定がされて委託額が特定した後に、予め定めた算定基準に従った額をその都度、各団体に支払う方式によることを決定した。

3  そこで、府は、平成六年四月一五日、社団法人京都公共嘱託登記土地家屋調査士協会(以下「調査士協会」という。)代表者理事長G、社団法人京都公共嘱託登記司法書士協会(以下「司法書士協会」といい、調査士協会と併せて「本件二団体」ともいう。)代表者理事長H、及び、社団法人京都府測量設計業協会(以下「京測協」という。)代表者会長Iとの間で、以下の①ないし⑦等の内容を含む「公共土木事業用地の取得に伴う登記測量業務に関する協定書」と題する書面(丙4)による協定を締結した。その後、府は、平成六年八月五日付及び平成七年三月二二日付で、上記協定のうち、上記の三団体の担任業務の区分を定める部分を一部変更する旨の協定を締結した(丙5、6、以下、この変更された内容も含めて、この協定を「本件協定」という。)。なお、本件協定の締結は、京都府設置条例により、当時京都府知事であった被告荒巻からその権限を委任された京都府土木建築部長であったJがこれを行った。

① 府は、公共土木事業の用地の取得に伴って必要となる登記測量業務等の処理を、司法書士協会、調査士協会及び京測協に委託し、これらの三団体はこれを連帯して引き受ける。

② 上記の三団体は、登記測量業務等を引き受けるに際しては、別途委託契約を締結して行うものとする。上記の三団体は、登記測量業務等を処理するに際しては、別に定める仕様書に基づき処理するとともに、仕様書に定めのない細部の事項については、府の指示を受けるものとする。

③ 上記の三団体が処理する登記測量業務等の担任区分は、原則として、別表(5)のとおりとする。

④ 上記の三団体が処理する登記測量業務等の委託単価は、府とこれらの三団体とが協議して定めるものとし、委託単価は、土地家屋調査士報酬額表、司法書士報酬規定、公共測量に関する業務委託費積算基準及び標準歩掛等を勘案の上、適切に決定するものとする。

⑤ 上記の三団体は、登記測量業務等を処理する社員について、予め登録させるとともに、その写しを府へ送付するものとする。この登録について必要な事項は、上記の三団体が補償コンサルタント登録規程(昭和五九年建設省告示第一三四一号)に準じ、定めるものとする。

⑥ 上記の三団体は、土木事務所毎に、登記測量業務を処理する社員を指名し、各土木事務所用地課長に通知するものとし、前記の登録及び指名を変更した場合にあっては、変更通知を行うものとする。

⑦ 上記の三団体は、登記測量業務等の適正な執行を図るとともに、公共用地取得の円滑な推進に寄与することを目的として、京都府に公共用地登記測量協議会を設立するものとする。府は、同協議会の運営に関して上記の三団体に対して必要な助言を行うものとする。

4(1)  そして、府の一三の各土木事務所、府港湾事務所及び府流域下水道建設事務所である別表(1)の「公所名」欄記載の各公所(以下「本件土木事務所等」という。)の長は、本件協定に基づいて、平成七年四月一日から同月一四日までの間に、それぞれ、本件二団体及び京測協との間で、以下の内容を含む一五の各委託契約をそれぞれ締結した(丙7、以下「本件七年度各契約」という。)。そのうち、宮津土木事務所を通じての委託契約(以下「本件七年度宮津契約」という。)の締結は、当時宮津土木事務所長であった被告Dが行った。

① 本件土木事務所等に係る公共土木事業用地の取得に伴い必要となる登記、測量及び調査等の業務を本件二団体及び京測協へ委託する。

② 委託期間は平成七年四月一日ないし一四日から平成八年三月三一日までとする。

③ 府は、その都度書面により本件二団体及び京測協に業務実施箇所を指示するものとする。府がこの指示を行うときは、併せて監督職員を上記の三団体に通知するものとする。監督職員を変更するときも同様である。

④ 上記の三団体は、委託業務を実施するに際して、当該業務を実施する責任者(業務責任者)を書面により府に届け出るものとする。業務責任者を変更するときもまた同様とする。

⑤ 上記の三団体は、業務実施箇所の指示を受けたときは、遅滞なく委託業務の工程表を作成し、府に提出するものとする。

⑥ 上記の三団体は、業務実施箇所の指示を受けた委託業務を完了したときは、直ちに仕様書で指示する成果品を添えて府に業務完了報告書を提出しなければならない。府は、同報告書を受理したときは、その日から一〇日以内に業務の完了の確認のため検査を行わなければならない。

⑦ 上記の三団体は、上記検査の結果不合格となり、補正を命じられたときは、遅滞なく当該補正を行い、再検査を受けなければならない。

⑧ 上記の三団体は、業務完了の確認のための検査に合格したときは、請求の内訳を明らかにした委託料内訳書を添付して、府に対して書面をもって委託料の支払を請求するものとする。

⑨ 府は、委託料の請求を受理した日から三〇日以内に委託料を支払わなければならない。

⑩ 委託価額は、「測量業務価額」、「登記業務価額」、「境界確定業務価額」及び「その他業務価額」の総和に1.03を乗じることにより算定する。

⑪ 「測量業務価額」は、当該測量業務の対象となる用地の地域区分に応じて定められる一〇〇〇m2当たりの単価に、測量対象面積を乗じ、一〇〇〇で除したものに、上記対象用地の地域区分及び面積に応じて定められる「一業務当たり単価」を加え、これに一と諸経費率の和を乗じることにより算定する。

測量業務価額=(一〇〇〇平方メートルあたりの単価×登記測量業務対象面積÷一〇〇〇+調査調整費)×(一+諸経費率)

(2)  また、本件土木事務所等の長は、本件協定の趣旨に基づいて、平成八年四月一日又は同月一九日、それぞれ、本件二団体及び任意団体である京都公共用地測量協会(代表者理事長K)(以下「用測協」という。)との間で、委託期間を平成八年四月一日から平成九年三月三一日までとするほかは前記(1)と同様の内容を含む一五の各委託契約をそれぞれ締結した(丙8、以下「本件八年度各契約」といい、本件七年度各契約と本件八年度各契約を併せて「本件各委託契約」という。)。そのうち、宮津土木事務所を通じての委託契約(以下「本件八年度宮津契約」といい、本件七年度宮津契約と本件八年度宮津契約を併せて「本件宮津契約」という。)の締結は、当時宮津土木事務所長であった被告Dが行った。

5  本件各委託契約の内容は、いずれも、前記のとおり、委託契約の期間としてほぼ一年間を定めており、本件土木事務所等の各公所毎に、その期間中に予定される個々の公共土木事業用地の取得に伴う登記測量業務等を包括して、本件二団体及び京測協か、又は本件二団体及び用測協に委託する内容であり、それぞれの契約締結の時点においては、平成七年度の委託期間分、あるいは平成八年度の委託期間分の業務内容の全体は特定されておらず、具体的に委託を受ける業務内容は、契約締結日以後に本件土木事務所等の長からされる具体的な業務実施箇所の指示によるものとされていた。したがって、本件各委託契約のみでは、それぞれの契約に基づいて府が各団体に支払うべき委託金の額は確定せず、その額も、本件土木事務所等の長からされる前記の指示によって、はじめて確定するものとされていた。

6  司法書士協会は、各司法書士がその事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに設立する強制加入団体である司法書士会(司法書士法一四条)やその上部団体である日本司法書士会連合会(同法一七条)とは別に、同法一七条の六の規定に基づいて設立された京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する司法書士によって構成される任意加入の社団法人である。その目的は、その専門的能力を結合して官庁、公署その他政令で定める公共の利益となる事業を行う者(官公署等)による不動産の権利に関する登記の嘱託又は申請の適正かつ迅速な実施に寄与することであり(同条の六第一項)、その目的を達成するため、官公署等の嘱託を受けて、不動産の権利に関する登記につき司法書士の業務を行うもの(同法一七条の七)とされている(丙64ないし68)。司法書士協会は、上記のような資格を有する者のうち約四割の司法書士が加入している法人である。

7  調査士協会は、各土地家屋調査士がその事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに設立する強制加入団体である土地家屋調査士会(土地家屋調査士法一四条)やその上部団体である日本土地家屋調査士会連合会(同法一七条)とは別に、同法一七条の六に規定に基づいて設立された京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する土地家屋調査士によって構成される任意加入の社団法人である。その目的は、その専門的能力を結合して官庁、公署その他政令で定める公共の利益となる事業を行う者(官公署等)による不動産の表示に関する登記に必要な調査若しくは測量又はその登記の嘱託若しくは申請の適正かつ迅速な実施に寄与することであり(同法一七条の六)、その目的を達成するため、官公署等の依頼を受けて、不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査、測量、申請手続又は審査請求の手続を行うもの(同法一七条の七、二条)とされている(丙69ないし73)。調査士協会は、上記のような資格を有する者のうち約六割の土地家屋調査士が加入している法人である。

8  京測協は、京都府内に本店又は本社を有する測量業者(測量士法に基づき登録を受けた者)の任意加入の社団法人であり、その目的は、測量設計業のもつ社会的使命に応えるため、技術の研究・開発、経営の安定化に関する調査研究及び教育指導を行うことにより、京都府内における測量設計業の健全適正な発展及び行政の効率化に寄与すると共に、地域社会の発展と公共の福祉の増進を図ることであるとされている。(丙74ないし79)。

京測協の定款に基づいて設けられた用地測量受託委員会の運営規程(丙77、78)によれば、京測協と本件土木事務所等の長との間で合意された本件各委託契約により受託した用地測量業務は、同委員会において会員に適正に配分するものとされている。そして、同委員会は、その小委員会において、会員の中から、京都府の測量業務実績、用地測量実績、営業年数、資本金、技術者数(有資格者数)、営業の規模、難易度、発注の時期及び工期、地元事情と業務の関連性、特殊性、その他小委員会が特に必要と認めた事情を選考基準として、受託者を選定するものとされている。

9  用測協は、京測協が受託する公共用地測量業務を遂行するために京測協の内部に設けられた団体であり、平成六年ころに京測協に加盟している京都の地元の測量業者(測量会社)により任意的に組織された。用測協は、平成八年当時、約六〇業者(社)が加盟していた。この団体は、平成九年四月一日に社団法人として設立認可されるまでは法人格もなく、むろん、法律上に規定された団体でもなかった。そして、この団体内部において、本件各委託契約によって受託した業務について、どの測量業者を業務責任者とするか(業者選定の方法や基準)、その報酬額をどうするかについては、結局、その内部で決められることになっていた(丙80、81)。

10  ところで、登記測量業務等は、(1)測量業務、(2)登記業務、(3)境界確定業務、(4)その他業務の四つに区分される。

そのうち、平成七年度の測量業務は、①地図の転写、②土地登記簿の調査、③建物登記簿等の調査、④戸籍簿調査、⑤転写連続図作成、⑥境界確認、⑦補足多角測量、⑧境界測量、⑨現況測量、⑩用地境界仮杭設置、⑪面積計算、⑫用地実測図原図作成、⑬用地実測図写図作成、⑭準備打合せ(全体計画・計画準備)、⑮現地踏査、⑯準備打合せ(公共用地)の一六作業工程によって構成されており、平成八年度の測量業務は、上記①ないし⑬の各作業工程、並びに⑭準備打合せ(相互)、⑮現地踏査、⑯準備打合せ(公共用地・法務局等)の各作業工程によって構成されていた。

11  本件各委託契約による測量業務の単価は、いずれも、個々の実施箇所の指示によって特定された個々の実際の業務に基づいて積算されるのではなく、予め、通常の作業工程を想定して、各工程毎の標準的単価を積算して単価を決定し、それに基づく金額とするものとされた。具体的には、府作成に係る「業務委託費設計単価資料」及び「業務委託費・積算基準及び標準歩掛表」に基づいて積算され、単価設定にあたってはさらに積算額に0.9を乗じて単価が算出されていた。委託単価は、上記①ないし⑬の作業工程については、一〇〇〇平方メートルあたりの単価により、上記⑭ないし⑯の作業工程については一業務当たりの単価の積み上げ方式によっていた。そして、実際の測量業務委託単価は、一〇〇〇平方メートルあたりの単価に測量業務対象面積を乗じて、一〇〇〇で割った額と一業務あたりの単価の積算額との合計額に諸経費率(87.8〜44.9パーセント)を乗じて算出されていた。

単価設定の根拠となった資料は、平成七年度においては、府作成に係る平成五年度「業務委託費設計単価資料(七月改正版)」及び平成五年度「業務委託費・積算基準および標準歩掛表」、平成八年度においては、府作成に係る平成六年度「業務委託費設計単価資料(六月改正版)」及び平成七年度「業務委託費・積算基準および標準歩掛表」であった(丙1)。

12  なお、登記測量業務単価について、平成七年度と平成八年度とでは、別表(2)のとおり、以下の変更がされた。

(1) 測量業務単価については、平成七年度単価において、その他業務の中に調査士協会の表示登記関連調整業務として計上されていたfile_3.jpg受託者相互の協議、file_4.jpg現地踏査、file_5.jpg法務局等との連絡調整が、平成八年度単価においては、測量業務の中の一業務として、調査士協会の⑭準備打合せ(相互)、⑮現地踏査、⑯準備打合せ(公共用地・法務局等)と計上される区分変更がされた。また、平成七年度単価において、その他業務の中に司法書士協会の権利登記関連調整業務として計上されていたfile_6.jpg受託者相互の協議、file_7.jpg現地踏査、file_8.jpg法務局等との連絡調整が、平成八年度単価においては、測量業務の中の一業務として⑯準備打合せ(法務局等)と計上される区分変更がされた。

(2) 登記業務単価については、平成八年度単価において、表示に関する登記について、家屋調査士協会業務報酬額表に合わせ、④地目変更登記単価及び同加算額単価を追加し、③合筆登記及び⑤地積更正登記にそれぞれ加算額単価を設定し、家屋調査士協会業務報酬額運用基準に基づき、⑤及び⑥の各地図訂正申出につき、図面添付が不要なもの(⑤)については地積更正登記の報酬額を準用することとし、それぞれ基本報酬額単価及び加算額単価を設定した。

(3) その他業務単価については、平成八年度単価において、計上区分変更により、立会謝金支給業務、押印収集業務となった。

13(1)  本件土木事務所等の長は、本件七年度各契約に基づいて、平成七年度中に、合計四三二件の各登記測量業務等について、それぞれ業務実施箇所の指示を行った。それに応じて、本件二団体及び京測協においては、それぞれ所属の司法書士、土地家屋調査士及び測量業者を、各業務を実際に担当させる「業務責任者」に選定し、選定されて業務責任者となった司法書士、土地家屋調査士及び測量業者が、前記の各指示に従ってそれぞれの業務を担当した。そして、本件二団体及び京測協は、平成七年度中に、前記の各指示によって特定した各業務を完了したものとして、業務完了報告書を提出した。このようにして、本件七年度各契約及び前記の指示による委託額が決定し、府の会計から、平成七年八月四日から平成八年五月二九日までの間に、別表(1)のとおり、各委託料合計一〇億二四一八万三二九〇円(調査士協会に対する委託料二億六五八三万九八二〇円、司法書士協会に対する委託料一億〇四六二万九四六〇円、京測協に対する委託料六億五三七一万四〇一〇円。)が支出された(以下「本件七年度各支出」という。)。

本件七年度各支出のうち、本件七年度宮津契約に基づくものは、宮津土木事務所長の業務実施箇所の指示によって特定した業務件数が五七件で、別表(1)のとおり、委託料の合計が一億三〇〇八万七七三〇円であった。業務実施箇所の指示及び委託料の支出命令は、いずれも、被告Dがこれを行い、委託料の支出は、平成八年三月三一日までの分については被告Eがこれを行い、平成八年四月一日から同年五月二九日までの分については被告Fがこれを行った。

(2)  本件土木事務所等の長は、本件八年度各契約に基づいて、平成八年度中に、合計四三三件の登記測量業務等について、業務実施箇所の指示を行った。それに応じて、本件二団体及び用測協においては、それぞれ所属の司法書士、土地家屋調査士及び測量業者を業務責任者に選定し、それらの者が前記の各指示に従ってそれぞれの業務を担当した。そして、本件二団体及び用測協は、平成八年度中に、前記の各指示によって特定したそれぞれの業務を完了したものとして、業務完了報告書を提出した。このようにして、本件八年度各契約及び前記の指示による委託額が決定し、府の会計から、平成八年九月一三日から平成九年五月二九日までの間に、別表(1)のとおり、各委託料合計一一億二〇八九万九九四〇円(調査士協会に対する委託料三億〇七二三万六五〇〇円、司法書士協会に対する委託料一億一七三七万七七七〇円、用測協に対する委託料六億九六二八万五六七〇円。)が支出された(以下「本件八年度各支出」といい、本件七年度各支出と本件八年度各支出を併せて「本件各支出」という。)。

本件八年度各支出のうち、本件八年度宮津契約に基づくものは、業務件数が六一件で、別表(1)のとおり、委託料の合計が二億一八九〇万四一一〇円であった。業務実施箇所の指示及び委託料の支出命令は、いずれも、被告Dがこれを行い、委託料の支出は被告Fが行った。

14(1)  平成七年度の登記測量業務等を実際に担当した司法書士、土地家屋調査士及び測量業者は、それぞれ、その所属する本件二団体及び京測協から、行った業務に応じた報酬を受け取ったが、それぞれ、上記の三団体に対し、配当業務に応じて「業務受託分担金」として、京測協(外注手数料収入名目)については3.5パーセント、調査士協会(会費収入〔比例会費〕名目)については10.0パーセント、司法書士会(報酬比例会費収入名目)については7.0パーセントの割合(市が上記の三団体に対し、それぞれ、支払った委託料に対する割合)の各金員を支払った(甲17ないし19)。その合計額は、五六七八万八〇三四円であった。

(2)  同様に、平成八年度の登記測量業務等を実際に担当した司法書士、土地家屋調査士及び測量業者は、それぞれ、その所属する本件二団体及び用測協から、行った業務に応じた報酬を受け取ったが、それぞれ、上記の三団体に対し、配当業務に応じて「業務受託分担金」として、用測協(用地特別会費収入名目)については3.5パーセント、調査士協会(会費収入〔比例会費〕名目)については8.5パーセント、司法書士会(報酬比例会費収入名目)については7.0パーセントの割合の各金員を支払った(甲17ないし19)。その合計額は、五八七〇万一五四三円であった。

15  用測協は、平成九年四月一日、社団法人化され、その設立が認可され、その代表者である理事長にKが就任した。

16  平成九年四月二七日、同日付の朝日新聞によって、府が用地測量業務を入札せずに業者団体に丸ごと委託し、業者の選定まで団体内の「調整」に任せていたことが判明したと報道された(甲9)。

17  原告らは、平成九年六月二六日付で、京都府監査委員に対し、本件各委託契約、本件各支出は違法・不当である旨の監査請求をしたところ、同監査委員は、同年八月二五日付で、原告らに対し、同監査請求のうち、本件七年度各支出にかかる部分については監査請求期間を徒過しており正当な理由もないとしてこれを却下し、本件八年度各支出にかかる部分については理由がないとしてこれを棄却する旨の決定をし、その旨原告らに通知した(甲16)。そこで、原告らは、平成九年九月二四日付で、本件訴訟を提起した。

18  府は、平成九年七月一八日、競争性、公平性及び透明性が求められている社会状況を踏まえたとして、その後、登記測量業務等の発注について、予定価格が二五〇万円を超えるものについては競争入札方式を導入し、二五〇万円以下のものについては現行制度のとおりに行う旨の決定をし、以後、現在に至るまで、かかる方法により登記測量業務等は行われている。

三  争点について

1  原告らの主張のうち、法律上、請求原因となる部分を整理すると、本件各支出の法律上の原因となる支出負担行為である司法書士会、調査士協会及び京測協又は用測協と府との間の本件各委託契約は、①上記の各三団体にそれぞれ支払われる各委託料が実際に実施されない工程分まで含めて算定された単価に基づいて算定されていること、②それぞれ、入札手続を経た上で、司法書士、土地家屋調査士及び測量業者等との間で個別に契約をせずに、上記の各三団体へ一括し、しかも、一年度中に実施される各事業者毎の登記測量業務等を、実際に各業者を担当する者の選定までを各団体内部に委ねる形態でいわば「丸投げ」の内容の随意契約としてされたこと、以上の観点から財務会計法規上違法であって、このような違法な支出負担行為による本件各支出も違法であり、これにより、府は、実施されなかった工程の単価分の損害、あるいは少なくとも、業務受託分担金相当の損害を被った、との内容になると解される。

2  以上の理解を前提とすると、本件の主要な争点は、①本件監査請求のうち、本件七年度各契約と本件七年度各支出に係る部分について、法二四二条二項の監査請求期間を徒過したことについて、同項但書の「正当な理由」があったといえるか、(争点①)、②本件各委託契約は財務会計法規上違法であるか(争点②)、③被告らは、それぞれ法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に該当して責任があるといえるのか(争点③)、④府が被った損害の額はいくらか(争点④)、である。なお、原告らの請求についての理解の仕方、本件協定自体は財務会計行為に該当しないこと等については、後記の当裁判所の判断のとおりである。

四  各争点についての当事者の主張

1  争点①について

(被告ら及び参加人の主張)

法二四二条二項但書の「正当な理由」があるときとは、当該監査請求において問題とされた財務会計行為が、住民に隠れて秘密裡にされた場合等のように、法的安定性を図る同項本文の趣旨を貫くことが相当でない例外的場合に限られる。本件七年度各支出は、予算、決算に計上されて、正規の支出手続がとられ、秘密裡に行われたものではない。また、各委託契約及びその支出について、住民がこれを調査して知りうることにつき、これを特に阻害するような特別な事情はなかった。府では、昭和六三年から調査士協会及び司法書士協会に対して数個所の土木事務所において嘱託登記事務の委託を試行的に実施し、その後平成六年四月から、本件協定に基づく正式な制度として発足させ、本件監査請求のあった平成九年六月までの間においても相当数の業務を反復・継続して実施した。原告らが主張するように、新聞報道によって初めて明らかにされたような事態はない。監査請求期間を徒過したことについては、「正当な理由」はない。

(原告らの主張)

「正当な理由」の有無は、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。必ずしも、当該行為が秘密裡にされたことを要するものではない。また、予算、決算審議だけではその行為の個別的内容がわからない場合が多く、予算決算審議がされた事実のみをもって正当な理由を否定することはできない。本件においては、本件七年度各契約及び本件七年度各支出がされていたことは、住民にはまったく知らされておらず、平成九年四月二七日の朝日新聞の報道により初めて知ることができた。原告らは、その後直ちに被告ら参加人に対し情報公開請求により資料の公開を求め、入手した資料に基づき、同年六月二六日、本件監査請求をした。よって、前記部分について、監査請求期間を徒過したことには「正当な理由」がある。

2  争点②について

(原告らの主張)

本件各委託契約による委託料は、後記(争点④)において主張するとおり、実際にはそもそも実施が予定されていない、従って委託の内容ではない作業工程分も含めて単価が設定され、府は、それらの作業工程もすべて実施されることを前提とした委託料を支払った。このような委託料の定めを内容とする本件各委託契約は、法二条一四項及び地方財政法四条一項に違反する違法な財務会計行為である。

普通地方公共団体がある業務の委託契約を締結する場合、一般競争入札によるのが原則であり、随意契約を締結することができるのは、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」(法二三四条、法施行令一六七条の二第一項二号)等の例外的な場合に限定されている。登記測量業務等は、平成五年度以前は府においても指名競争入札が行われていた。他の地方自治体においては現在も指名競争入札が行われている。実際に業務を行っていた司法書士、土地家屋調査士及び測量業者に指名競争入札によって、直接に、登記測量業務等を委託することは可能である。登記測量業務等は、委託業者ごとに種類や性能が異なるというわけではない。そして、司法書士、土地家屋調査士及び測量業者(測量士)は、いずれも有資格者であり、業務遂行に必要な能力は誰もが有しており、当該業務が一旦終了すれば、通常の場合、業務終了後の保守点検などは必要ない。司法書士、土地家屋調査士及び測量業者の間の競争を排除し、実際に業務を担当する測量業者の選定をも含めて、いわば丸投げの形で一括して委託する本件各委託契約は、上記の例外的な場合に該当せず、財務会計法規上違法であることは、明らかである。

(被告ら及び参加人の主張)

本件各委託契約は、法二条一四項及び地方財政法四条一項に反しないのはもちろん、法二三四条、法施行令一六七条の二第一項二号にも反しない。そもそも、前記の一六の作業工程は、測量業務を行う場合にすべて必要な工程であり、府はそれを前提として三団体に委託した。また、委託業務の設定については、大量の業務を効率よく発注するため、予め必要とされる作業工程を組み込んで設定している。成果品が存在しなければ委託料を支払ってはならないという原告らの主張は、短絡的で誤った結論付けによるものであり、実際に現場で行われている測量業務の実務を無視又は看過した机上の理論である。

法施行令一六七条の二第一項二号「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当する場合には、競争入札方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成するうえでより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進に繋がると合理的に判断される場合も含まれる。登記測量業務等は、買収に必要な土地の登記簿等の事前調査から、買収面積を確定するための境界測量、さらに登記に至るまでの複雑かつ困難な業務であり、調査から測量、登記に至るまで密接に関連する一連の業務を連携して一体的に処理する必要があり、しかも、限られた工期内において大量かつ大規模な業務を迅速かつ的確に遂行する必要がある。したがって、その都度競争入札により業務を委託するということでは、迅速かつ的確な処理ができない。また、三つの団体の各業務担当者に連携して引き受けさせることにより、要求される技術水準、経験、能力、信用等の確保が無理なく図れ、業務を効率的に行うことが可能となり、個々の業者への発注では得ることが出来ない相互協力等について、専門家としての立場から助言、協力が得られるとともに、業務を迅速かつ的確に行うことができる。このようにして、公共事業を円滑に促進することが可能となっており、行政事務の簡素化等の改善にも繋がっている。

そもそも、府が、調査士協会や司法書士協会に登記測量業務等を随意契約により委託することは土地家屋調査士法一七条の六第一項及び司法書士法一七条の六第一項の規定するところであり、さらに、測量業者(測量士)については、上記と同様の法規上の根拠はないが、京測協及び用測協が公共登記嘱託業務を円滑迅速に実施し、効率的な公共事業の円滑な進歩を期して設立されたものであることからすれば、京測協や用測協は、調査士協会及び司法書士協会と同様の団体であるといえる。

3  争点③について

(原告らの主張)

(1) 被告荒巻は、京都府知事として、本件各委託契約及び本件各支出について、本件土木事務所等の長やその余の被告らに対する指揮・監督責任があり、違法な丸投げ委託方式に変更することを知りながら、故意又は過失によってこれを阻止することを怠り、府に損害を生ぜしめた。

(2) 被告Cは、京都府土木建築部長であったところ、本件土木事務所等を統括し、監督する地位にあったものであり、本件各支出の統括責任者として本件協定に基づき、本件土木事務所等の長に指示・命令をして違法な公金支出をなさしめた。

(3) 被告Dは、宮津土木事務所長として、京都府知事の委任により、宮津土木事務所における契約締結や公金支出命令の権限を有していたところ、本件宮津契約を締結し、違法な公金支出をなさしめた。

(4) 被告Eは、平成七年度の宮津土木事務所次長兼庶務課長・宮津土木事務所庶務課庶務係長事務取扱として、現金出納権限を有しており、支出命令を受けた場合、当該支出行為が法令又は予算に違反していないことを確認する義務があるが、本件七年度宮津契約に基づく支出の決定に際し、上記確認義務に違反した。

(5) 被告Fは、平成八年度の宮津土木事務所次長兼庶務課長・宮津土木事務所庶務課庶務係長事務取扱として、現金出納権限を有しており、支出命令を受けた場合、当該支出行為が法令又は予算に違反していないことを確認する義務があるが、本件八年度宮津契約に基づく支出の決定に際し、上記確認義務に違反した。

(被告ら及び参加人の主張)

すべて争う。

4  争点④について

(原告らの主張)

(1) 本件各委託契約及び本件各支出により、府は、競争入札を実施した場合より多額の委託料を支払い、多額の損害を被った。少なくとも三団体が各加盟業者から受託している「業務委託分担金」相当額(京測協又は用測協は3.5パーセント、調査士協会は平成七年度一〇パーセント、平成八年度は8.5パーセント、司法書士協会は七パーセント)は、本来府が支払う必要のなかったもので、本件各委託契約が違法であることによる府の損害である。その金額は、次のとおりである。

ア 平成七年度の損害額(府全体)

五六七八万八〇三四円

① 京測協 二二八七万九九九〇円

② 調査士協会

二六五八万三九八二円

③ 司法書士協会

七三二万四〇六二円

イ 平成七年度の損害額(宮津土木事務所) 七五一万一九三〇円

① 京測協 二七三万六〇五〇円

② 調査士協会

三八〇万六一三五円

③ 司法書士協会

九六万九七四五円

ウ 平成八年度の損害額(府全体)

五八七〇万一五四三円

① 用測協 二四三六万九九九八円

② 調査士協会

二六一一万五一〇二円

③ 司法書士協会

八二一万六四四三円

エ 平成八年度の損害額(宮津土木事務所) 一一〇九万六六四七円

① 用測協 五〇四万八八五四円

② 調査士協会

四六五万九二二〇円

③ 司法書士協会

一三八万八五七三円

(2) また、本件宮津契約によって委託された各登記測量業務等のうち、原告らが任意に抽出した別表(3)(本件七年度宮津契約)及び別表(4)(本件八年度宮津契約)の「業務名」欄記載の各業務については、同表「実施されなかった作業工程」欄記載のとおり、それぞれ、実際には実施されなかった作業工程が存在した。実際に実施された測量業務及びその他業務の作業工程に対する委託料の相当額は、同各別表の各「原告ら主張の相当委託料額」欄記載の各金額であったにもかかわらず、府は、すべての作業工程が実施されたものとして、「支払委託料額」欄記載のとおりの各金員を支払った。そうすると、府は、「支払委託料額」欄記載の各金額と「原告ら主張の相当委託料額」欄記載の各金額の差額である「原告ら主張の根拠のない支払額」欄記載の各金額の金員を根拠なく支払ったことになるから、同金額相当額の損害を受けたものであり、平成七年度及び平成八年度において、府が被った損害を推認すると、次のようになる。

ア 平成七年度において府が被った損害額

別表(3)のとおり、「原告ら主張の根拠のない支払額」欄記載額の合計額の、「支払委託料額」欄記載額の合計額に対する割合は、48.8パーセントである。したがって、府は、本件七年度宮津契約に基づいて支払った測量業務の委託料九七八八万五〇二〇円及びその他業務に対する委託料二一九八万三〇五〇円の合計一億一九八六万八〇七〇円の48.8パーセントにあたる五八四九万五六一八円に相当する損害を受けたものと推認できる。そして、本件七年度宮津契約に基づく公共用地登記測量業務全体の委託料の総額は、一億三〇〇八万七七三〇円であり、これに対する上記測量業務及びその他の業務の委託料の割合は92.1パーセントであるから、本件七年度各契約に基づく府全体の委託料総額である一〇億二四一八万三二九〇円の92.1パーセントにあたる九億四三二七万二八一〇円が、測量業務及びその他業務に関して支出された委託料の合計額であり、結局、その48.8パーセントにあたる四億六〇三一万七一三一円が、平成七年度において、府が被った損害額であることになる。

イ 平成八年度において府が被った損害額

別表(4)のとおり、「原告ら主張の根拠のない支払額」欄記載額の合計額の、「支払委託料額」欄記載額の合計額に対する割合は、19.6パーセントである。したがって、府は、本件八年度宮津契約に基づいて支払った測量業務の委託料一億九八四九万〇二七〇円の19.6パーセントにあたる三八九〇万四〇九三円に相当する損害を受けたものといえる。そして、本件八年度宮津契約に基づく公共用地登記測量業務全体の委託料の総額は、二億一八九〇万四一一〇円であり、これに対する上記測量業務の委託料の割合は90.7パーセントであることから、本件八年度各契約に基づく府全体の委託料総額である一一億二〇八九万九九四〇円の90.7パーセントにあたる一〇億一六六五万六二四五円が、測量業務及びその他業務に関して支出された委託料の合計額であり、結局、その19.6パーセントにあたる一億九九二六万四六二四円が、府の被った損害額であることになる。

(被告ら及び参加人の主張)

(1) すべて争う。府には、原告が主張するような損害は発生していない。

(2) 委託価格については、従前の指名競争入札における請負率(予定価格に対する落札額の比率)の状況を十分に調査したうえ、随意契約という性格を考慮して、測量業務部分は、「公共測量に関する業務委託費積算基準及び標準歩掛表」等に基づき積算した額をさらに下回る額で単価が設定され、また、登記業務部分は、法務大臣認可の報酬額の基準をさらに下回る額で単価が設定されて本件各委託契約が締結されており、府には損害は発生していない。標準歩掛表等は、業務委託の実績を十分調査しその結果を反映させている。したがって、府が必要以上に多額の委託料を支払っているということはない。なお、原告らが主張する業務受託分担金は、前記の各三団体がそれぞれの財政事情等に応じて定めた会費であり、三団体の各総会で議決されて会費として各内部において会員に支払いを義務づけたものに過ぎず、直ちに府が本来支払う必要のない金額に直結するとはいえない。

(3) なお、別表(6)のとおり、そもそも原告らが主張するような実施されなかった作業工程は存在しておらず、府に損害は発生していない。

(4) なお、府の各土木事業所の各年度における測量業務、登記業務、その他の業務の支出額は、年度の工区等の事情によりまちまちであり、宮津土木事務所の本件宮津契約に基づく各支出の割合数値を一律に他の土木事務所の測量業務等の支出額に当てはめることはできず、原告が主張する損害額は理由がない。

第三  当裁判所の判断

一1  被告ら及び参加人は、原告らが本件訴訟係属中の平成一一年九月六日付準備書面でした、実際には実施されない作業工程分の委託料を支払ったことが損害であるとする損害賠償の追加請求は、監査請求期間を徒過したもので、不適法であるとの主張をする。

しかし、前記の追加請求の内容は、記録上、本件各委託契約に基づく登記測量業務等に実施されていない部分があって、それは債務不履行であるのに、それに対して京都府側が適切な対処をしなかったことを問題とするものではなく、本件各委託契約の内容として予め定められた算定方法による委託料の額が、実際には実施されないことになる工程分までもその算定の基礎にして不当に高額になり得るように設定されたこと自体が違法であるとの趣旨の主張によるものと解される。したがって、本件請求の請求原因は、前記第二の三に判示したとおりであって、上記追加請求は、本件各委託契約が財務会計法規上違法であることを基礎付ける違法事由の追加の主張と府の損害の主張の追加にすぎず、当初の本件の請求(訴訟物)と上記追加請求の請求(訴訟物)は同一のものであると解され、法二四二条二項の出訴期間の関係では、前記の追加請求も適法にすることができるものと解されるから、この点に関する被告らの主張は、そもそも失当である。また、原告らも請求(訴訟物)が別であることを前提として「主位的請求」「予備的請求」と表示するが、この点も失当であって、原告らの請求の表示としては、前記「第一 当裁判所の求めた裁判(原告らの請求)」のとおりになると解される。

2  なお、原告らは、本件各委託契約が本件協定を具体化したものであることからすれば、本件協定も財務会計上の行為に該当する旨の主張をする。しかし、本件協定は、本件各支出に係る府の債務の発生原因事実(各委託料の支払債務の発生原因となる要件事実)ではなく(同要件事実は、本件各委託契約とこれらに基づく各業務実施箇所の指示であると解される。)、支出負担行為ということはできず、その他法二四二条所定の財務会計行為には該当しないと解される。

二  争点①に対する判断

1  前記第二の二の認定事実によれば、本件監査請求は、平成九年六月二六日にされており、本件七年度各契約及び本件七年度各支出がされてから(最後の支出日は平成八年五月二九日である。)、いずれも一年を経過した後にされたものであることは明らかである。そこで、期間経過につき、法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」が認められるかを検討する。

2  普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合は、法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」の有無は、特段の事情のない限り、当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて前記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁昭和六二年(行ツ)第七六号同六三年四月二二日第二小法廷判決・裁判集民事一五四号五七頁、最高裁平成一〇年(行ツ)第六九、七〇号同一四年九月一二日第一小法廷判決、同平成一三年(行ツ)第三八、平成一三年(行ヒ)第三六号同一四年九月一七日第三小法廷判決・判例タイムズ一一〇七号一八五頁参照)。そして、前記の「住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合」とは、その認識の対象となるのは、当該行為の存在だけでなく、その内容も含まれるものというべきであり、住民としては、マスコミ報道や広報誌等によって受動的に知った情報等だけに注意を払っていれば足りるものではなく、当該行為の存在や内容が住民一般の閲覧に供された文書から判明する場合等のように、住民ならいつでも閲覧等ができる状態に置かれている文書に係る情報については、そのような状態になった時点で、前記の場合には該当しなくなるものと解される(前記の平成一四年九月一七日判決参照)。

3  前記第二の二の認定事実、本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば、確かに、本件各委託契約に基づいて支出された本件各支出は、予算・決算に計上されており、正規の支払手続がとられている。

しかしながら、本件各委託契約の存在及びその内容については、予算や決算の内容から直ちに判明されるものではなく、府の一般住民がこれを知ることは通常はなく、それを知り得るのも容易ではなかったというべきである。被告ら及び参加人は、京都府議会定例会議案(丙47)、予算に関する説明書(丙48)、京都府議会定例会議録(丙49)、京都府議会定例会議案(丙50)、京都府歳入歳出決算事項別明細書(丙51)、京都府議会定例会議録(丙52)を府の情報公開条例に基づく公開請求によって入手することが可能であったなどとも主張するが、仮に住民が何らかの関心をもってそのようにして上記の各資料を入手したとしても、これらの各資料のみからでも、本件各委託契約の存在やその内容までは、判明し難いものというべきで、府の一般住民としては、本件各委託契約の存在や内容について、いつでも閲覧等ができる文書により知り得た状況にあったということはできない。

したがって、京都府の一般住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各委託契約の存在及び内容を知ることができた時というのは、平成九年四月二七日付朝日新聞(甲9、10)により前記認定のとおりの新聞報道がされた時であるというべきである。そうすると、原告らは、上記の時点から約二か月後である平成九年六月二六日に本件監査請求をしているから、相当な期間内に監査請求をしたというべきである。

よって、本件七年度各契約及び本件七年度各支出に係る本件監査請求の期間徒過につき、原告らには、法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」があるというべきである。被告ら及び参加人のこの点の本案前の主張は採用しない。

三  争点②について

1  被告らは、競争入札により個別的に土地家屋調査士、司法書士及び測量業者と委託契約を締結する場合と比較して、本件各委託契約を締結する方が、より合理的で、府に利益をもたらし、また、時間の短縮及び府の職員の労力の軽減が図れるし、また、本件各委託契約は、随意契約をする場合の要件も具備しており、財務会計法規上適法であると主張する。前記認定事実の下では、確かに、本件各委託契約の方法によれば、入札手続や司法書士、土地家屋調査士及び測量業者の選任、委託料の算定のための時間や労力、費用を節減できるし、それに三者の連携を密にして登記測量業務等の効率化を図り得る面もないではない。また、普通地方公共団体が上記のような諸点を考慮して、登記測量業務等の委託をする場合にどのような契約形態を選択するかについては、長その他の権限を有する者の一定程度の裁量があるものと解される。

2  しかしながら、本件各委託契約は、前記の裁量を逸脱したもので、財務会計法規上違法であるといわざるを得ない。その理由は次のとおりである。

(1) 地方財政法四条一項は、地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて、これを支出してはならないと定めている。また、法は、二条一四項で「地方自治体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と規定し、更に、支出負担行為一般について、二三二条の三で「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という。)は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」と規定している。そして、支出負担行為の中の契約について、二三四条一項において、売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札の方法によることを原則としており、指名競争入札、随意契約又はせり売りによることができるのは、法施行令で定める場合に該当するときに限られるものとしている(同条二項)。その上で、府においては、法施行令一六七条の二第一項一号により、委託料二五〇万円を超える業務委託契約は、他に法施行令一六七条の二第一項のその他の事由がないかぎり、随意契約によることはできないこととされている。

(2)  上記のような各規定に照らすと、法は、地方公共団体が、公共事業のための用地を取得する際に必要となる登記測量業務等を測量業者等に委託する契約をする場合においても、その個々の登記測量業務等を実施することに決まった段階で、測量業者、司法書士、土地家屋調査士相互間でできるだけ競争させた上で、できるだけ安価に具体的な委託額を決定させて契約することを要請していることが明らかである。そして、法二三四条は、あくまで、特定の登記測量業務等の委託額を決定するために競争入札の方法を原則としてすることを要請しているのであって、そもそも、一定の期間内に予定される将来の複数の事業についての登記測量業務等を、その委託内容も定まらない段階で、予め包括的に委託することなどは原則として予定しておらず、前記の各規定の趣旨に照らしても、そのような契約をすること自体が、法二条一四項、二三二条の三、二三四条一項の趣旨に反するものといわなければならない。

(3)  更に、前記第二の二の認定事実によれば、本件各委託契約は、それぞれ、業務実施箇所の指示によって特定された登記測量業務等について、調査士協会の内部で担当者となる土地家屋調査士を、司法書士協会の内部で担当者となる司法書士を、京測協又は用測協の内部で担当者となる測量業者を、それぞれ選定して決定させるもので、各同業者毎のいわば官製の談合を容認する内容となっている。しかも、その代金については、当初から、上記の三団体それぞれに支払われる代金の単価及び算定方式が定められており、個々の具体的な登記測量業務毎に、各測量業者間、司法書士間、土地家屋調査士間の競争原理によって委託代金が決定されることは全くあり得ない形態である。

したがって、本件各委託契約は、従来、府(各土木事務所等)が、各事業が実施されることが決定した後に、その事業毎に、測量業務等を、個別に、予定価格二五〇万円を超えるものについては競争入札を実施した上で委託契約をし、あるいは、予定価格二五〇万円までのものについては随意契約によって、測量業者等へ個別的に委託契約をしていた場合と比較すると、その各契約の内容自体において、まず、任意加入の団体である三団体に属していない司法書士、土地家屋調査士及び測量業者の参入を排除するとともに、それが前記のような包括的な一括委託であることによって、予定価格二五〇万円以上のものについては、三団体内部での各同業者相互間における競争も、悉く排除してしまう内容を含むものといわざるを得ない。特に、登記測量業務等の相当部分を占める測量業者が行う測量業務については、京測協又は用測協の内部において、各事業についての業務実施箇所の指示に応じて、どの測量業者が業務責任者となって実際にその測量業務を担当するのか、その測量業者は、京測協又は用測協からいくらの代金を受領するのかについてまで、このような団体の内部にいわば任せきりの内容となるものであり、その代金額からみても、各測量業者間の競争を著しく制限する極めて不明朗なものであるといわなければならない。本件各委託契約のような契約形態を採ると、特定の測量業者との不明朗な関係が生じ易くなる弊害もあるといわなければならず、前記のような法の趣旨に著しく反するものといわざるを得ない。

(4)  また、本件各委託契約は、各事業について必要となる登記測量業務等の具体的な内容が決定する前の段階で、予め、府が支払うべき代金額も、所定の算定方法に従って算出することとされていた関係上、各事業(工事)毎の委託内容の必要性の吟味も曖昧になる可能性があり、このような観点からも、前記の法の趣旨に反する危険性を内包しているものといえる。

(5)  このようにみてくると、本件各委託契約は、それが競争入札の方法ではない随意契約であるという以前に、そもそも、地方財政法四条一項、法二条一四項、二三四条が禁じている内容、形態の支出を伴う契約であるというべきで、府の長やその権限の委任を受けた者に前記のような一定の裁量があるとしても、その裁量の範囲を著しく逸脱した内容の契約であって、前記の各規定に反する違法な契約であることが明らかである。

3  もっとも、前記の三団体のうち、司法書士協会及び調査士協会は、前記認定事実のとおり、いずれも、法律で定められた同業者で組織する法人であって、それぞれの業務について、司法書士協会にあっては、司法書士法一七条の七第一項において、官公署等の嘱託を受けて、不動産の権利に関する登記につき司法書士が行うものとされている業務を行うことと、調査士協会にあっては、土地家屋調査士法一七条の七第一項において、官公署の依頼を受けて、土地家屋調査士の業務とされている土地家屋に関する調査、測量、これらを必要とする申請手続等の業務を行うことと、それぞれ規定されており、これらの法律の規定によれば、本件各委託契約のうち、上記の二団体との間の各委託契約については、そもそも、上記各法律の規定によって、それぞれの団体内部の同業者間の競争を排除することが予定されており、その限りでは違法ではないとの見方もあり得る。

しかしながら、前記認定のとおり、司法書士協会は、京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する全司法書士の約四割、調査士協会は、同じく全土地家屋調査士の約六割をそれぞれ組織するに過ぎないこと、上記各法律の規定によっても、本件各委託契約のように、特定の登記測量業務等の委託ではなく、一定期間内に実施される登記測量業務等を予め包括的に、これらの団体が委託を受けることまでは予定していないものというべきである。

したがって、上記各法律の規定の存在如何に関わらず、本件各委託契約は、全体として、財務会計法規上違法というべきである。

4  本件各委託契約は、法二三四条及び同施行令一六七条の二第一項二号並びに地方財政法四条一項に反し、財務会計法規上違法というべきである。

四  争点③について

1  被告Cについて

(1) 前記第二の二の認定事実によれば、被告Cは、平成七年度及び平成八年度において、京都府土木建築部長の地位にあった者であるが、本件各委託契約やその後の支出命令や支出について、同被告は、これらの行為、本来的権限者でないのはもちろん、受任者としても、また、専決処理する権限者でもなかったことは、弁論の全趣旨から明らかであるから、被告Cは、そもそも法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に該当しないといわざるを得ない。

(2) したがって、被告Cに対する原告らの本件訴えは、住民訴訟の類型に属さないもので、不適法であるというべきである。

2  被告D、同E、同Fについて

(1) 前記第二の二の認定事実によれば、被告Dは、平成七年度及び同八年度の宮津土木事務所長の地位にあった者であり、平成七年度及び平成八年度において、当時の京都府知事である被告荒巻から委任されて、本件宮津契約を締結し、業務実施箇所の指示及び各支出命令を行ったものである。

(2) また、前記第二の二の認定事実及び本件各証拠によれば、被告E及び同Fは、それぞれ、平成七年度及び同八年度において、宮津土木事務所次長兼庶務課長及び同事務所庶務課庶務係長事務取扱で、出納員として、本件七年度宮津契約及び本件八年度宮津契約による各支出に係る支出命令の審査、支出負担行為に関する確認などを行う権限を委任され、本件七年度宮津契約及び本件八年度宮津契約に基づく各支出をしたことが認められる。

(3) しかしながら、上記三名の被告らの府に対する責任は、法二四三条の二第一項の規定に基づく責任であって、当該行為をするにつき故意又は重大な過失があった場合に限り責任を負うことになると解されるところ、前記認定事実によれば、本件宮津契約は、府において実質的にすでに決定されていた基本方針に基づいて、本件協定が締結され、府の土木事務所全部で同様の方式で実施されたものであり、これらの事情に照らしても、被告Dがした契約締結及び支出命令、それに、被告E及び同Fがした支出の段階のいずれにおいても、上記各被告らに、故意はもちろん、重過失があったとまでは認められないというべきである。本件各証拠によっても、それらを推認し得るような事情も認めるに足らない。

3  被告荒巻について

(1) 前記第二の二の認定事実によれば、被告荒巻は、平成七年度及び平成八年度において、京都府知事として、本件土木事務所等の長に対して、本件土木事務所等に配当された予算の範囲内で契約等の支出負担行為及び支出命令を行う権限を委任し、被告荒巻から委任を受けた本件土木事務所等の長が、それぞれ、前記判示のとおり違法な本件各委託契約を各三団体との間で締結し、その後、各契約に基づき業務実施箇所の指示をし、本件各支出に関する支出命令をしたものである。そして、本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件協定及び本件各委託契約は、府の大きな方針として、平成七年度から、府において採用されたものであり、府以外の地方公共団体においてはそれまで例を見ない制度であり、被告荒巻も、制度としてその基本的な内容を了知していたこと(平成一四年九月二四日第二九回口頭弁論調書参照)が認められる。

(2) そうすると、被告荒巻としては、府知事としての職責に鑑みても、本件協定及び本件各委託契約に至る過程において、関係部署に働きかけ、或いは、それらを指揮することにより、本件協定及び本件各委託契約に至ることを中止させることができたというべきである。そうすると、同被告は、少なくとも過失により、本件土木事務所等の長が財務会計法規上違法な本件各委託契約を締結することを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したものといわざるを得ない。

(3) よって、被告荒巻は、本件土木事務所等の長が本件各委託契約を締結したことにより府が被った損害について、その賠償責任を免れないというべきである。

五  争点④について

1  まず、前記第二の二の認定事実によれば、本件七年度契約によって府が支出した委託金に係る業務受託分担金の合計五六七八万八〇三四円及び平成八年度契約によって府が支出した委託金に係る業務受託分担金の合計五八七〇万一五四三円相当額については、府が、登記測量業務等を委託するに際し、各受託業者と、直接に、個別に委託契約を締結しておれば、本来、府が支払う必要のなかった金員であることは明らかであり、少なくとも、かかる金員相当分については、府が被った損害と認めるのが相当である。

2  次に、前記の損害に加えて、更に、原告らが主張する実際に実施されなかった作業工程分の委託料相当額の損害が生じたといえるかどうかについて検討する。

(1) 本件各証拠によれば、宮津土木事務所の契約分の別表(3)(4)の各業務で原告らが実施されなかった作業工程分であると主張するもののうち、一部には、確かにその作業工程としては実施されなかったと認められるもの、又は少なくとも、委託料の算定とする程度には実施されなかったと評価せざるを得ないものも存在することが認められ、前記各業務は、原告が宮津土木事務所に係る業務を任意に抽出したもので、府全体の本件各委託契約による登記測量業務等についても、同様に実施されなかった作業工程分が存在する可能性があることが窺われる。そうすると、それらの作業工程分については、そのすべてを実施されたものとして委託料の単価を算定し、それに基づいて委託金額が確定したのであるから、その分の委託費の支出は、本来は不要であったことになる。

(2) しかしながら、前記認定のとおり、委託予定単価のうち測量業務単価については、府が作成した「業務委託費設計単価資料」及び「業務委託費の積算基準及び標準歩掛表」による積算額に更に0.9を乗じて算定されており、また、丙83及び弁論の全趣旨によれば、予定価格が二五〇万円を超えるものについて競争入札が導入された平成九年度及び平成一三年度の宮津土木事務所に係る用地測量入札の落札率は、平成九年度の平均値が設計金額の96.1パーセント、平成一三年度のそれが93.9パーセントとの報告例があることが認められる。これらの点や、更に、別表(1)の本件土木事務所等の各業務の件数、三団体へ支払われた各委託料の額等に照らすと、本件各証拠によっても、原告ら主張のように府の損害を推認することはできないというべきであり、すでに判示したとおりの前記1の損害分に加えて、更に、原告らが主張する各作業工程分を実施しなかったことによる損害が生じたものとは、未だ認めるに足らないというべきである

3  そうすると、府が被った損害額は、前記1の各業務受託分担金相当額の合計一億一五四八万九五七七円であると認められる。

第四  結論

以上の次第であり、原告らの本件訴えのうち、被告Cに対して損害賠償を求める部分は、不適法であるから、これらを却下することとし、原告らのその余の請求のうち、被告荒巻に対し、一億一五四八万九五七七円及びこれに対する本件の当初の訴状が同被告に送達された日の翌日である平成九年一〇月二二日から民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので、この限度で認容し(なお、遅滞となるのは、当初の本件訴状の送達によるものと解される。)、その余の請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法六四条、六五条一項、六六条を適用し、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・八木良一、裁判官・飯野里朗、裁判官・谷田好史)

別表(1)〜(6)<省略>

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