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京都地方裁判所 平成6(ワ)2364 知的財産裁判例

主 文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告は別紙(一)(二)記載の行灯を製作し、販売してはならない。

2 被告は前記の行灯を廃棄せよ。

3 被告は原告に対して金六〇〇万円及びこれに対する平成六年九月四日から右支

払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 原告は肩書地において空生(うつぎ)工房なる名称で美術品の製作を業とする

ものである。

2 原告は、昭和六二年ころ、別紙(三)の一、(三)の二及び(四)記載のアン

コウなる著作物(以下それぞれ「本件作品一の一」「本件作品一の二」「本件作品

二」といい、本件作品一の一と同一の二をまとめて「本件作品一」といい、また

「本件作品一」「本件作品二」をまとめて「本件各作品」という。)を創作し、著

作権を取得した。

3 本件各作品は次のとおり著作物性を有する。

(一)本件作品一について

本件作品一は、神秘的な空間を表現することを目的として、不燃性素材を材料と

する縦方向にわずかに引き延ばされた球形の容器を形成した上で内部に空洞を設

け、容器底部に液体収納部を形成し、容器正面の壁面中央からやや下寄りの部分

に、横方向に引き延ばされ、下側を弦部、上側を弧部とする半月状の明かり窓を穿

ち、容器底部の液体収納部に液体を満たし、その表面に蝋燭などの発光体を浮かべ

て自由に浮遊せしめ、もって微妙な気の流れ、火の熱による効果を生ぜしめる美術

著作物である。この本件作品一により、原告は、神秘的な空間のイメージを創作的

に表現している。

(二)本件作品二について

本件作品二は、神秘的な空間を表現することを目的として、不燃性素材を材料と

する釣鐘状の容器を形成した上で内部に空洞を設け、容器底部に液体収納部を形成

し、容器正面に同様の釣鐘状の明かり窓を穿ち、容器底部の液体収納部に液体を満

たし、その表面に蝋燭などの発光体を浮かべて自由に浮遊せしめ、もって微妙な気

の流れ、火の熱による効果を生じせしめる美術著作物である。この本件作品二によ

り、原告は、神秘的な空間のイメージを創作的に表現している。

4 被告は、別紙(一)、(二)記載の行灯(以下それぞれ「イ号作品」「ロ号作

品」という。)を製作し販売した。

5(一)著作権の保護範囲は、「表現形式上の本質的な特徴自体を直接感得」する

ような表現類似の作品に対して及ぶ。

(二)原告の著作物の表現形式上の本質的な特徴は、いわゆる従来の「火もらい」

とは異なるデザイン重視の容器を製作し、さらにその容器内部に液体を満たして、

その表面上に発光体を浮かべて、一体のものとして幽玄な空間を表現している点に

ある。

(三)イ号作品は、容器外形以外にも明かり窓、容器内部の液体収納部に液体を満

たしてその表面上に蝋燭などの発光体を浮かべている点など、本件各作品の複数の

構成要素をそのまま模倣している。その結果、イ号作品から、本件各作品の表現形

式上の本質的な特徴自体を直接感得することができ、イ号作品は、本件各作品の著

作権を侵害している。

(四)同様のことは、ロ号作品についてもいえる。

6 被告は、平成三年九月一九日から同年一〇月八日にかけて、被告本店内のスタ

ジオ・コムにおいて原告作品の展覧会を開催している。

被告は、右展覧会等を通じて、本件作品一、同二に接する機会を有し、その結

果、本件作品一、同二の著作権が原告にあることを知りつつ、これに依拠し、もっ

てイ号作品、ロ号作品を製作したものである。

7 被告は平成四年四月から現在までイ号作品及びロ号作品を合計三〇〇個以上製

作販売し、右の販売額の合計は一五〇〇万円以上である。もし、被告においてイ号

作品及びロ号作品を販売していなかったならば、原告は五〇〇万円の利益を得たは

ずである。また、原告の著作人格権の侵害に対する慰謝料は一〇〇万円を下らない

ものである。

8 よって、原告は被告に対して、本件各作品の各著作権及び著作者人格権に基づ

き、イ号作品及びロ号作品の製作販売停止及び廃棄並びに六〇〇万円及び本訴状送

達の日の翌日である平成六年九月四日から右支払済みに至るまで年五分の割合によ

る遅延損害金の支払を求める。

二 請求の原因に対する認否

1 請求原因1は認める。

2 同2、3は否認する。

素材及び形状に関しては、古来からいわゆる「火もらい」という原告の本件各作

品に類似した実用品が存在しており、本件各作品の素材、形状には特段の創作性が

認められない。

3 同4は認める。

4 同5は争う。

5 同6のうち、前段は明らかに争わない。後段は否認する。

6 同7については、被告が平成四年四月から本日まで、イ号作品及びロ号作品を

合計三〇〇個以上製作販売したという点については認めるが、その販売額の合計が

金一五〇〇万円以上であるとする点については否認する。その余の主張については

争う。

7 同8は争う。

第三 証拠《省略》

理 由

一 まず、本件各作品の著作物性について検討する。

1 本件作品一の一について

検証の結果によると、本件作品一の一は、自然石ないし石様の外観を呈する素材

を用い、横方向にわずかに引き延ばされた球形の形状であり、容器内部に空洞を設

け、容器底部に液体収納部を設け、容器正面の壁面中央からやや下寄りの部分に横

方向に引き延ばされ、下側を弦部、上側を弧部とする半月状の明かり窓を穿ち、容

器内部の壁面に凹凸状の特殊な加工を施したうえで釉薬をかけて焼き上げ、容器内

部に水を浮かべて浮き蝋燭の明かりを灯すことにより、容器内部の明かりの乱反射

と相まって微妙な気の流れによる神秘的・幻想的な空間を表現しているものであ

り、著作者の思想、感情の表れとしての著作物性を認めることができる。

2 本件作品一の二について

検証の結果によると、本件作品一の二は、自然石ないし石様の外観を呈する素材

を用いた縦方向にわずかに引き延ばされた球形の形状であり、容器内部に空洞を設

け容器底部に液体収納部を設け、容器正面の壁面のほぼ中央部分に横方向に引き延

ばされ、下部を弦部、上側を弧部とする半月状の明かり窓を穿ち、容器内部に水を

浮かべて浮き蝋燭の明かりを灯すことにより、微妙な気の流れによる神秘的・幻想

的な空間を表現しているものであり、著作者の思想、感情の表れとしての著作物性

を認めることができる。

3 本件作品二について

検証の結果によると、本件作品二は、滑らかな表面を持つ漆黒色の陶器を素材に

用い、上下に細い釣鐘状の形状をしており、容器の内部に空洞を設け、容器底部に

液体収納部を設け、容器正面に容器外形と相似形の釣鐘状の明かり窓を穿ち、容器

内部の壁面に凹凸状の特殊な加工を施したうえで釉薬をかけて焼き上げ、容器内部

に水を浮かべて浮き蝋燭の明かりを灯すことにより、容器内部の明かりの乱反射と

相まって微妙な気の流れによる神秘的・幻想的な空間を表現しているものであり、

著作者の思想、感情の表れとしての著作物性を認めることができる。

4 被告は、本件各作品は、古来から存在する「火もらい」に類似しているから著

作物性がない旨主張するが、本件における全証拠を子細に検討しても、本件各作品

と同一の作品が過去に存在したことを認めることはできず、また、本件各作品は、

右1ないし3のとおりの構成により「アンコウ」というタイトルに連想されるよう

な神秘的・幻想的な空間を表現しようとするものであって、著作者の思想又は感情

を創作的に表現しているものと認めることができるので、被告の主張を採用するこ

とはできない。

二 そこで、イ号作品及びロ号作品が、本件各作品の著作権を侵害するか否かにつ

いて検討する。

1 著作権侵害行為は、既存の著作物を利用してある作品を作出する場合に成立す

るが、その利用の態様としては、①既存の著作物と全く同一の作品を作出した場

合、②既存の著作物に修正増減を加えているが、その修正増減について創作性が認

められない場合、③既存の著作物の修正増減に創作性が認められるが、原著作物の

表現形式の本質的な特徴が失われるに至っていない場合、④既存の著作物の修正増

減に創作性が認められ、かつ、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われてしま

っている場合が存在する。そして、著作権(著作財産権)との関係からいえば右①

②の場合は著作権中の複製権(著作権法二一条)の侵害であり、右③の場合は著作

権中の改作利用権(同法二七条)の侵害であり、右④の場合には、全く別個独立の

著作物を作出するものであって、著作権侵害を構成しない。また、著作者人格権と

の関係からいえば、右②③の場合が同一性保持権の侵害であり(最高裁判所昭和五

五年三月二八日判決民集三四巻三号二四四頁参照)、右④の場合は著作財産権の場

合と同様、侵害にあたらない。したがって、著作権ないし著作者人格権に対する侵

害の有無は、原作品における表現形式上の本質的な特徴自体を直接感得することが

できるか否かにより決められなければならない。

2 そして、①著作物が思想又は感情を創作的に表現したものであって、同一人に

よる著作物であっても個々の著作物により別々にその表現は異なるものであり、著

作者の思想ないし感情は、いわばその著作物の個性に具現されていると考えられる

こと、②著作権の享有にいかなる方式の履行も要しないことを考えると、前項にい

う「表現形式上の本質的特徴」は、それぞれの著作物の具体的な構成と結びついた

表現形態から直接把握される部分に限られ、個々の構成・素材を取り上げたアイデ

アや構成・素材の単なる組み合わせから生ずるイメージ、著作者の一連の作品に共

通する構成・素材・イメージ(いわゆる作風)などの抽象的な部分にまでは及ばな

いと解するべきである。

3 そこで、右の観点からイ号作品及びロ号作品において本件各作品の本質的特徴

部分を直接感得し得るか否かについて検討する。

(一)本件作品一とイ号作品、ロ号作品について

本件作品一の特徴としてまず目につく点は、本件作品一の一及び同一の二とも、

その素材として天然石又は天然石様の外観を呈する素材を用いている点、その中央

部に横長の半円形の明かり窓が開いている点であり、少なくともこの点は本件作品

一の本質的特徴部分を形成していることは明らかである。イ号作品、ロ号作品との

共通点といえば、明かり窓を穿ち、容器内部に水を浮かべて浮き蝋燭の明かりを灯

しうることとなっている点であるが、本件作品一はいずれも天然石又は天然石様の

素材と、アンコウの口のような横長の半円形の明かり窓とその中の水に浮かべた蝋

燭からもれる光とが相まって、天然石の中に現実とは違う空間が潜み、それが石の

裂け目からのぞいているような神秘的で幽玄な世界を表現することに成功している

のに対し、イ号作品、ロ号作品とも、外観は一見して陶器とわかるものであり、明

かり窓もイ号作品は「松」を象り、ロ号作品は容器上部の半分を切り取るような形

状の口であって、たとえ、内部に水を満たして浮き蝋燭を灯したとしても、前記の

ような本件作品一の本質的特徴部分を直接感得できるものと認めることはできな

い。

よって、イ号作品、ロ号作品が本件作品一の著作権又は著作者人格権を侵害して

いると認めることはできない。

(二)本件作品二とイ号作品について

(1)検証の結果によれば、本件作品二の本質的な特徴は、①滑らかな表面を持つ

漆黒色の陶器を素材に用いていること、②上下に細い釣鐘状の形状をしているこ

と、③容器外形と相似形の釣鐘状の明かり窓を穿っていること、④容器内部の壁面

に凹凸状の特殊な加工を施したうえで釉薬をかけて焼き上げていることである。

(2)これに対し、イ号作品は、滑らかな表面を持つ漆黒色の陶器を素材に用い、

明かり窓を穿っている点は共通しているが、①形状は釣鐘状ではなくわずかに引き

延ばされた球形の形状であり、②明かり窓の形はいわば松を象った形をしており、

③容器内部の壁面の加工も存在しない。

(3)そして、本件作品二は、つるりとした漆黒の釣鐘状の容器の中央に、釣鐘形

の窓が、水に浮かべた蝋燭の直接の光とその光が内部の凹凸状の壁面に反射した光

とによって浮かび上がり、いわば別世界の洞穴の中をのぞくような神秘的な空間を

表現し得ているのに対し、イ号作品は、日本古来からよくみられる「松」形の明か

り窓と内部の壁面の加工の違いと全体の形状の違いから、前記のような本件作品二

の本質的特徴部分を直接感得できると認めることはできない。したがってイ号作品

が本件作品二の著作権又は著作者人格権を侵害していると認めることはできない。

(三)本件作品二とロ号作品について

(1)本件作品二の主要な特徴は前記(二)(1)のとおりである。

(2)これに対し、ロ号作品は、検証の結果によれば、①素材は、釜の中で炭と一

緒に焼くいわゆる「炭焼き」と呼ばれる手法による陶器であって、全体に茶褐色で

あり、まだら様の模様が存在し、②外形は全体として釣鐘状であるが、容器の頂上

部分に穴があり蔦製のとってが取り付けられ、③容器上部の半分を切り取るような

形状の口が存在している。

(3)右三点の違いにより、ロ号作品も、前記(二)(1)(3)にみられるよう

な本件作品二の表現形式上の本質的特徴部分を直接感得することができないから、

ロ号作品が本件作品二の著作権又は著作者人格権を侵害していると認めることもで

きない。

(四)原告は、原告の著作物の表現形式上の本質的な特徴は、いわゆる従来の「火

もらい」とは異なるデザイン重視の容器を製作し、さらにその容器内部に液体を満

たして、その表面上に発光体を浮かべて、一体のものとして幽玄な空間を表現して

いる点に存する旨主張するが、こうした点は個々の著作物を離れた抽象的なアイデ

アに属するものであり、右の点の類似のみを理由として著作権侵害の有無を論じる

ことはできない。

三 以上のとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、原告の本

訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九

条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鬼澤友直 難波雄太郎 本田敦子)

<30549-001>

<30249-002>

<30249-003>

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