京都地方裁判所 昭和23年(ヨ)232号 決定 1948年11月15日
申請人
前田重信
被申請人
網野町会
主文
本件仮処分申請はこれを却下する。
訴訟費用は申請人の負担とする。
申請の趣旨
被申請人が地方自治法第百三十四條、網野町議会規則第百四十六條に基いて昭和二十三年二月二十三日にした申請人を町会議員から除名する旨の議決は、申請人から被申請人に対する右除名処分取消の本案判決確定に至る迄、その執行を停止するとの決定を求めた。
理由
申請人援用に係る昭和二十三年(行)第四号除名処分無効確認請求並びに同年(行)第八号除名処分取消請求併合事件記録によれば、
(一) 申請人主張の除名処分の議決をした昭和二十三年二月二十三日の議会は同月十七日の議会の延会でありこの十七日の議会は決定の三日の予告期間をおくことなく招集せられたこと。
(二) 昭和二十三年二月二十三日の議会に於て、申請人に対する除名議決の表決を無記名投票に因つた処、初め議長には投票権がないものと法律を誤解し議長を除く出席議員二十名に於て投票し一旦開票後この点に関し異議おこり議長にも投票権ありと判明したので、開票後ではあつたが議員全員の承認のもとに引続き議長に於て更に一票を行使したものなること、從つて右議長の投票は無記名投票の趣旨に添わないものであること。
を一應認めることが出來る、右の如き事実は招集手続並びに表決手続に於ける瑕疵として、斯る瑕疵ある手続に基く申請人に対する被申請人の除名議決に又取消し得べき瑕疵を與えるものである。
併しながら右除名処分の執行に因り申請人が償うことのできない損害を避ける緊急の必要があるかどうかは暫く措くとするも除名の理由たる申請人の行爲は網野高等学校建築用建物の買收に際し、殊に右の事業が多年町民の熱望してやまないところであるばかりでなく、その経費総額金七百万円中金六百万円迄町民の負担するというものであるのに、申請人に於て、町の代理として訴外山崎新八から同人所有の工場建物を買受くるに当り昭和二十二年十一月末頃、右建物を金十万円で買い受けながら町には金十二万円で買い受けた旨僞り差額二万円を私した行爲であり、右行爲が町民を憤激せしめるところとなり、議会をして懲罰権を行使するに至らしめたこと、その他右記録により認め得べき一切の事情を參酌すれば右除名処分の執行を停止することは公共の福祉に重大なる悪影響を及ぼす虞あるものと認めざるを得ない。
仍つて行政事件訴訟特例法第十條第二項、民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り決定する。