大判例

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京都地方裁判所 昭和23年(ワ)566号 判決

原告 株式会社からき屋工務店

被告 鳥居大藏

一、主  文

被告は原告に対し金三十三万五十円及び之に対する昭和二十二年八月六日以降完済に至る迄年六分の割合の金員を支拂え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告に於て金十一万円の担保を供するときは仮りに之を執行することが出來る。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求めその請求の原因として被告鳥居大藏は山本組と称する商号を使用して大阪市に於て土木建築請負業を営んでいる商人であるが京都市上京区河原町荒神口西入下ル西生洲町に京都出張所を設け右京都出張所長に訴外和卷義一を選任し京都地方に於いて右山本組の営業一切を代行する権限を與えていた処右訴外人は被告を代理して原被告間に原告を請負人として工事場所京都市東山区東山高台寺境内、工事目的衛生博覧会々場及び附属建物建設並びに追加工事につき(一)昭和二十二年七月十二日工事請負代金十三万五千円、工事引渡期日同月二十三日、代金支拂契約と同時に金二万円、同年七月二十日金五万円請負工事完成引渡と引換えに残額(二)同月十六日請負代金十四万円工事引渡期日同月二十三日、代金支拂同月二十日金四万円請負工事完成引渡と引換に残額(三)同年八月二日請負代金九万五十円、工事引渡期日同月五日代金支拂同月五日とする三口の請負契約が成立した。そこで原告は右各約旨に從い各引渡期日に夫々請負工事を完成の上之を被告の代理人である右訴外人に引渡したのに拘らず被告は請負代金合計金三十六万五千五十円中金三万五千円を原告に支拂つたゞけで残額金三十三万五十円についてはその支拂をしないから原告は右残代金及びこれに対する同年八月六日より商法所定の年六分の割合の遅延損害金の支拂を求めると述べ、

仮に被告が前記訴外人に自己の営業を代理する権限を授與していなかつたとしても被告は右訴外人が山本組京都出張所の商号を使用して土木建築請負業を経営することを許容し右訴外人は之に基づいて同出張所名義の看板を掲げ、或は出張所長である旨の肩書を記載した名刺を使用して右営業に從事していたものであるから被告は第三者に対し右訴外人に被告の経営する土木建築請負業の代理権を與えた旨を表示したものであり、原告は善意に之を信じて右訴外人と取引をしたものであるから被告は訴外和卷のした前記取引につきその責に任じなければならないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として原告主張の事実は全部否認する。被告は独立して「山本組」の商号で土木建築請負業を営んでいたことはない。土木建築請負業「山本組」は明治四十年頃に訴外山本栄太郎が創始し現在その養子訴外山本直寛がこれを承継し本店を姫路市に置き大阪市に支店がある。被告は山本組の一使用人として昭和十一年から引続き右山本組大阪支店長をしていたが、昭和二十一年六月独立して土木建築請負の許可を受け「大阪山本組」の商号を使用して前記山本組と分離した。被告は翌昭和二十二年八月右大阪山本組を改組して株式会社大阪山本組を設立しその社長に就任して現在に及んでいるものである。原告主張の山本組京都出張所と被告とは全然無関係であり被告は訴外和卷に何等の権限を與えたこともなく、又被告の商号使用を許容したこともないから仮に同訴外人が原告主張の様な請負契約を締結したとしても被告はこれにつき責任を負う筋合でないと述べた。<立証省略>

三、理  由

仍つて按ずると証人和卷義一、同杉原豊太郎の各証言、原告本人訊問の結果を綜合すると昭和二十二年七月十二日頃、同月十六日及び同年八月二日の三回に土木建築請負業訴外和卷義一は原告会社との間に甲第一乃至第三号証の契約書を以て「山本組鳥居大藏山本組京都出張所長和卷義一」の名義を用い原告主張通りの内容の請負契約を締結し、原告は約旨に從い同月二十三日及び同年八月五日夫々工事を完成して之を右訴外人に引渡したが、同訴外人は金三万五千円を支拂つたゞけで残金三十三万五十円については未だその支拂をせず同訴外人が建物の引渡を受けた日の翌日である同年八月六日より遅滞に陥つたことが認定出來る。これを左右するに足る反証はない。

原告は右訴外和卷は被告の代理人として前記請負契約を締結したものであるから、被告は右債務を弁済する責任があると主張するけれども原告の全立証によるも、被告が訴外和卷に前記契約を締結するについての代理権を與えた事実を認める心証を惹かないから右主張は採用できない。

そこで原告の仮定主張について考えて見る。成立に爭いのない甲第四号証、前記甲第一乃至三号証に証人和卷義一の証言の一部及び証人杉原豊太郎の証言並びに原告代表者本人、被告本人の各訊問の結果を綜合すると被告は昭和十一年十月頃から土木建築業を営む訴外株式会社山本組大阪支店に支店長として勤め、昭和二十一年六、七月頃自己名義を以て土木建築請負業の免許を受け自己の主宰する土木建築請負を目的とする会社の設立の準備に当つていたが(一年余を経た昭和二十二年八月七日土木建築請負等を目的とする株式会社大阪山本組を設立しその代表取締役に就任)、終戰後かねて知合の土木建築請負の許可を受けていない訴外和卷義一より京都市内に於て土木建築請負営業を行うについて被告の名称を貸して貰いたい旨の申込があり、被告はやむなく右依頼に應じて之を了承したこと、爾來右訴外人は京都市内に於て山本組京都出張所の看板を掲げ同出張所々長という肩書を記載した名刺を使用して土建業を営み本件契約締結に当つても「山本組鳥居大藏、山本組京都出張所長和義卷一」という名義を用いたこと、原告会社代表取締役唐木半七は訴外和卷を被告の京都出張所の代表者であると信じて本件取引をしたことを認めるに十分である被告の全立証によるも右各認定を左右するに足らない。してみると被告は自己の名称を訴外和卷義一に使用することを許諾した者であり、原告は被告を営業主であると誤認して本件取引をしたものであるから被告は商法第二十三條の規定に基づきその取引に因つて生じた債務につき弁済の責任を負わねばならないことは当然のことである。(民法第百九條の規定によつても被告はその責任を免れ得ないが本件は商事に関するものであるから商法第二十三條が優先適用される。)

なお商法第二十三條の責任を負わしめるについては事柄の性質上、誤認して取引をした者が誤認につき重大な過失のなかつたことを要件とするものと解するを相当とするのでこの点を考えて見るに、原告代表者本人訊問の結果によれば被告は大阪の山本組として一般に通つておるもので、昭和二十一年頃自分の京都出張所の代表者であるとして訴外和卷を原告代表者唐木に紹介したことが認められる(反証はない)し、前認定のように訴外和卷は山本組京都出張所の看板を掲げ同出張所長の肩書名刺を使用し本件契約書にも「山本組鳥居大藏……」と表示(この表示は原告代表者等の要求により気休めのためになされたに過ぎないという証人和卷義一の証言は信用できない)したのであるから原告代表者等が被告を営業主である取引の相手方であると誤認したことについては咎めるべき過失はないものと認めるのが妥当である。姫路市に本店を有する「山本組」という土木建築会社が存在することは以上認定のような事情の下においては被告に責を帰するについての妨げとなるものではない。

されば被告は原告に対し、本件請負残代金三十三万五十円及びこれに対する昭和二十二年八月六日より商事債務として商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支拂義務があるものといわなければならない。

そこで原告の本訴請求は全部正当として認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條仮執行の宣言については同法第百九十六條第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 平峯隆 石崎甚八 岸本五兵衞)

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