京都地方裁判所 昭和23年(ワ)659号 判決
原告 長沢明 同補助参加人十河善藏
被告 須田由太郎
一、主 文
原告の請求は之を棄却す。
訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は原告の負担とし、補助参加人と被告との間に生じた分は補助参加人の負担とす。
二、事 実
原告訴訟代理人は、原告は被告に対し、借受け日昭和二十二年九月五日、金額弐拾五万円の債務の存在せざることを確認す、被告は原告に対し別紙目録<省略>記載の不動産に付き昭和二十二年九月九日附賣買予約を原因として被告名義に爲したる所有権移轉請求権保全の仮登記、並に昭和二十二年十二月十八日附賣買を原因として被告名義に爲したる所有権移轉登記の各抹消登記手続を爲せ、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、其請求原因として、
原告は昭和二十二年九月五日被告から金弐拾五万円を弁済期同年十二月末日、利息月壱割として借受け、右債務を担保する意味で、原告所有の別紙目録記載の不動産を原告より被告に賣渡す旨の予約を爲し、原告が右弁済期までに右債務を完済したときは、右賣買予約は当然解除となり、原告が右弁済期までに右債務を完済し得ないときは右借受け元利金債務の代物弁済として右不動産を給付する旨被告と特約し、同年同月九日右不動産につき被告名義に賣買予約を原因とする所有権移轉請求権保全の仮登記を了した。而して原告代理人訴外十河善藏は原告が被告に対して負担する右債務の弁済として昭和二十二年十一月十五日東海銀行京都支店宛小切手を以て拾五万円、更に同年同月二十二日訴外西村彦一を使者として現金で弐拾万円合計参拾五万円(内弐拾五万円は元金、拾万円は利息)を被告に支拂ふたので、右約旨に基き、右賣買予約は右最後の支拂により当然解除となつた。被告は右仮登記をすぐ抹消すと言ひながら、之を抹消せざるのみか、同年十二月十八日不法にも原告に無断で、右不動産につき被告名義に賣買による所有権移轉の本登記を了した。
原告所有の右不動産に右の様な仮登記と本登記があることは原告の所有権を害することになるから、原告は所有権に基き右各登記の抹消登記手続を求む、仮に所有権に基き抹消登記手続を求むることが理由ないときは、当初の契約の趣旨に鑑みると、被告は原告に対し契約上右各登記を抹消する義務があるから之を原因として抹消登記手続を求む、又被告は今尚原告が被告に対して右弐拾五万円の債務を負担すと主張するから、此債務が存在せざることの確認をも求める爲め本訴に及んだと述べ、
被告の主張に対し昭和二十二年十月一日頃被告主張の様な意思表示があつたこと、並に被告主張の頃原告が被告に対し約二百万円の債務を負担して居たとのことは何れも否認すと陳述した。<立証省略>
当裁判所は原告代理人の申請により原告本人を訊問することとなり、原告本人は昭和二十四年十一月三十日午後一時、昭和二十五年三月二十八日午前十時、同年六月二十日午後一時の各本人訊問期日に正式の呼出を受けながら、正当の事由あることの疏明を爲さずして出頭しない。
参加人代理人は原告主張の請求原因前段と同趣旨の陳述を爲したる上、参加人は昭和二十二年十月二十五日原告から金六拾弐万五千円で別紙目録記載の不動産を買受け代金を支拂ふて所有権の移轉を受け同年十一月二十五日引渡をも受けて爾來之に居住して居るのであつて、所有権の移轉の登記は受けて居ないけれども、本訴訟の結果に重大なる利害関係を有するから民事訴訟法第六十四條により原告を補助する爲め参加したと陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求は之を棄却す、訴訟費用は原告の負担とすとの判決を求め、答弁として、
原告主張の事実中、被告が原告主張の日原告に対し、金弐拾五万円を利息月壱割で貸與し、右原告の債務を担保する意味で、原告所有の別紙目録記載の不動産を被告が原告から買受ける旨の予約を爲し、原告主張の日に原告主張の様な仮登記を受け、次で原告主張の日に所有権移轉の本登記を了したこと、並に被告が原告主張の各期日頃原告主張の様に拾五万円と弐拾万円の支拂を受けたことは認める。けれども右貸金の弁済期は昭和二十二年十二月末日ではなく、同年九月末日であり右賣買予約の際の特約は、原告主張の様な趣旨ではなく、原告が弁済期に支拂をしないときは、被告に於て賣買完結の意思表示を爲し得べく、被告が意思表示をしたときは、之により当然右不動産の所有権は被告に移轉し、原告の右元利金債務は消滅する趣旨のものであつたのであつて、其際被告は原告から所有権移轉の本登記に必要な書類を貰ふて居たのであり、又右原告からの支拂は其頃被告が原告に対して有して居た別口約弐百万円の貸金の内入として爲されたものであつて、原告主張の弐拾五万円の元利金の支拂ではなかつた。然るところ原告は右九月末日の弁済期に支拂をしなかつたので、被告は右約旨に基き昭和二十二年十月一日頃口頭で原告に対し、賣買完結の意思表示を爲し、之により所有権が原告から被告に移轉したので、右書類を使用して所有権移轉の本登記をしたのである。
右の様な次第であるから被告は原告が本訴を提起した当時から、原告に対し、原告主張の弐拾五万円の債権を有する等と主張したことはないし又別紙目録記載の不動産は現在被告の所有で原告の所有ではないのだから、原告の債務不存在の確認並に所有権に基き抹消登記手続を求める本訴請求は失当である。
原告が当初の契約の趣旨に鑑み被告が原告に対し、契約上原告主張の抹消登記手続をする義務があると主張するのは、不当な請求の変更であるから異議があると述べた。<立証省略>
三、理 由
原告主張の事実中、被告が原告主張の日原告に対し金弐拾五万円を利息月壱割で貸與し、右原告の債務を担保する意味で原告所有の別紙目録記載の不動産を被告が原告から買受ける旨の予約を爲し、原告主張の日に原告主張の様な仮登記を受け、次で原告主張の日に所有権移轉の本登記を了したこと、並に原告主張の各期日頃被告が原告から拾五万円と弐拾万円の支拂を受けたことは被告の認めるところである。
原告は右貸借の弁済期は昭和二十二年十二月末日で原告が右期日までに債務を完済したときは賣買予約は当然解除となり、原告が右期日までに債務を完済し得ないときは、借受け元利金債務の代物弁済として右不動産を給付する旨の特約があり原告主張の様に二回に参拾五万円を支拂ふたのだから右賣買予約は当然解除となつたのに、被告は今尚原告が被告に対して弐拾五万円の債務を負担すと主張し、又登記の抹消手続もしないので、債務不存在の確認と所有権に基き抹消登記手続を求むる旨主張し、被告は右貸借の弁済期は昭和二十二年十二月末日ではなく、同年九月末日であつて、原告が弁済期に支拂をしないときは被告に於て賣買完結の意思表示を爲し得べく、被告が意思表示をしたときは、之により当然右不動産の所有権は被告に移轉し、原告の元利金債務は消滅するといふ特約があり、原告は右弁済期に支拂をしなかつたから被告に於て昭和二十二年十月一日頃原告に対し賣買完結の意思表示をしたので、右不動産の所有権は原告に移轉し、現在も原告は右不動産の所有者であり、以上の様な次第であるから被告は原告が本訴を提起した当時から原告に対し原告主張の弐拾五万円の債権を有する等と主張したことなく、又原告主張の参拾五万円は別口約弐百万円の貸金の内入として受取つたものなる旨主張するので、当裁判所は右双方の主張に関し、原告本人を訊問する爲め、事実摘示の様に三回原告を呼出したのに、原告は正当の事由なくして之に應じないから民事訴訟法第三百三十八條を適用して右被告の主張を眞実なものと認める。
然らば原告の右請求は理由がないこと明かである。
次に被告は、原告が当初の契約の趣旨に鑑み被告は原告に対し契約上原告主張の抹消登記手続をする義務があると主張するのは不当な請求の変更であるから異議ある旨抗爭するので按ずるに、原告は所有権に基き抹消登記手続を請求して居たが昭和二十五年三月二十八日の口頭弁論に於て、前示事実摘示の様に主張し、即所有権に基く請求が理由ないときは契約上の義務履行として抹消登記手続を求むと主張するに至つたのであるから、係爭中の訴に新たな訴を予備的に併合したものと謂ふべきであつて、係爭中の訴と右併合せられた訴とは請求の基礎に変更なく、又右併合により著しく訴訟手続を遅延せしむるものでもないから、右の様な併合は許さるべきものであつて、被告の異議は理由がない。然しながら、右の様に被告の主張を眞実なものと認める以上、原告が予備的に併合した訴も理由ないこと勿論である。
仍て原告の本訴請求は何れも失当なりとして、之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 山口友吉 千葉実二 松本保三)