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京都地方裁判所 昭和24年(行)12号 判決

原告 安田小三郎

被告 乙訓村農地委員会・京都府農地委員会

一、主  文

被告乙訓村農地委員会が原告所有の別紙目録記載の土地について昭和二十三年十一月六日なした未墾地買收計画を取消す。

被告京都府農地委員会が昭和二十四年三月一日原告の右買收計画に対する訴願を棄却した裁決を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めその請求の原因として被告乙訓村農地委員会は昭和二十三年十一月六日原告所有の別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)について未墾地買收計画を樹立し縱覧期間を同年同月八日から同月二十七日までと定めたが原告は右計画に対し不服であつたので、右期間内に異議の申立をしたところ、同委員会は同月八日付で原告に対し右申立を棄却する旨の決定をした。そこで原告は同月二十八日被告京都府農地委員会に対し訴願したが、同委員会においても昭和二十四年三月一日訴願棄却の裁決をなし、右裁決書は同年四月四日原告に送達された。しかしながら本件買收計画には次のごとき違法があるから取り消さるべきものであり、これを看過して原告の訴願を棄却した裁決も從つて違法として取り消さるべきである。

本件土地に生立する竹はいずれも原告の努力によつて計画的に植林したものであるから、本件土地は自作農創設特別措置法(以下措置法と略称する)第二條にいわゆる牧野であつて未墾地ではない。即ち同法第二條第一項後段には「牧野とは家畜の放牧又は採草の目的に供される土地(農地並びに植林の目的その他家畜の放牧及び採草以外の目的に主として供される土地を除く)をいう」と規定している。しからば本件土地のごとく主として植林の目的に供せられ毛上を採取している土地は牧野と解すべきである。

仮に本件土地が牧野でないとしても、同法第三十條第一項第一号によれば「農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとするもの」でなければ未墾地として買收の対象とはならないのである。しからば孟宗林又は本件土地のごとく特殊の黒竹を採取する目的をもつて既に開発して土入をなし肥料を施し、且つ除草をしている土地は未墾地でなく既墾地と解すべきである。

以上いずれにせよ本件土地を未墾地として定めた本件買收計画は違法である。

仮に本件土地が未墾地であるとしても措置法第三十條第一項の規定によれば「政府は自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進するため必要があるとき」でなければ未墾地の買收はできないのである。しかるに本件土地は敷地であつてその毛上は黒竹の集団である。從つてこれが開発には莫大な費用を要するばかりでなく竹の地下莖は繁殖力が旺盛で少しでも残つていればそれから芽を出して二年や三年では地下莖を絶滅させることは困難である。たとえ開墾し得たとしても本件土地は砂地で水利の便なくその上日陰で作物の育成に適しない。從つて開発をしても自作農創設に役立つものではなく又本件土地に生立する黒竹は長尺の優良品であつて他にその比を見ない。そして戰前魚釣竿、スキー棒及び家具用竿その他細工品、美術品として欧洲諸国に多数輸出されその一束の價格は金七百円見当で本件土地からは一年約百五十束を伐採し得る。終戰後日本は外貨獲得に役立つものは何をおいても先ず輸出しなければならないのが国是であることは論を俟たない。しからば本件土地はこれをその儘存置する必要があるものといわなければならない。又本件土地は乙訓村今里部落に位置するものであるところ被告はこれを買收して耕地の僅少な粟生部落に賣渡す計画であると主張するが、措置法第六條第四項には市町村農地委員会は農地買收計画を定めるには自作農となるべき者の農地を買い受ける機会を公正にすること、自作農となるべき者の耕作する農地を集団化し、且つ当該地方の状況に應じて当該農地につき田畑の割合を適正にすることを勘案しなければならない旨規定されているにも拘らず、被告乙訓村農地委員会は本件買收計画を定めるに際してこれ等の事項を考慮することなく、たゞ無計画に定めたものである。即ち粟生部落には部落人家の有る所に五六反の竹籔がある。これ等は集団的の耕地として地域上からみて最も耕地に適しているが買收していない。又同部落の内で六部の西方には田地続きの竹林が数十町歩、光明寺門前から京都府向日町に至る街道に副い田地続きに北方に数十町歩の竹林及び雜地がありこれ等はいずれも開墾すれば附近の田地のためにも良くそこに生立する竹は、本件土地に生立する黒竹のような名竹でもない普通の自然竹林であるのに、これ等の土地を買收しないで本件土地のごとく名竹が生立し、しかも日当りの惡い地質が農作物に適しない土地を買收することは措置法第六條第四項に違反している。

以上のような違法な諸点を伴つた本件買收計画は、違法な処分として到底取消を免れないところであるといわねばならない。從つて被告乙訓村農地委員会に対しては本件買收計画の取消を又被告京都府農地委員会に対しては原告の訴願に対する棄却の裁決の取消を求めるために本訴に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告乙訓村農地委員会代表者及び被告京都府農地委員会指定代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として被告乙訓村農地委員会が原告所有の本件土地についてその主張日時未墾地買收計画を樹立し、原告主張のような異議申立並びに訴願を経て原告主張日時被告京都府農地委員会において訴願棄却の裁決をなし、右裁決書が原告主張日時原告に送達されたことは認める。本件買收計画及び訴願の裁決には原告主張のような違法はない。即ち、

被告乙訓村農地委員会は措置法に基き自作農創設と土地の農業上の利用を増進するため村内の事情を考慮し綜合的なる開発計画を作成して本件土地の買收計画を樹立した。本件土地は、黒竹の成育にとつて適地でないばかりでなく、過去の経驗によれば竹林を開墾した土地は極めて農作物の育成に適しており、その開墾は森林開墾に比較すれば容易であるばかりでなく、地元に余剩労力が存するので開墾費用は必要としない。從つて本件買收に際して所轄地方事務所の未墾地買收予定地審査会は適地調査を実施し適地なりとの判定をした。竹林の重要なことは充分認識考慮している。しかし原告の主張は抽象的一般的な理論であつて具体的な本件の場合竹材の品質管理保存手入の程度、用途等を考慮しなければならないのであつて、抽象的一般論をその儘適用することは失当である。本件土地を賣渡す予定であるところの粟生地区の開墾希望者は二十七名に達しその耕作面積は殆んど一反歩に満たないものであり、内二名は全く耕作地を有しない。

以上のように本件買收計画には何等原告主張のような違法な点はないので、被告乙訓村農地委員会の本件買收計画並びにこれを維持した被告京都府農地委員会の訴願棄却の裁決はいずれも適法な行政処分であるから原告の本訴請求はすべて失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告所有の本件土地について原告主張日時被告乙訓村農地委員会が未墾地買收計画を樹立し、原告主張のような経緯を経て原告から被告京都府農地委員会に対し訴願が提起されたが、昭和二十四年三月一日訴願棄却の裁決がなされ右裁決書が同年四月四日原告に送達されたことは当事者間に爭いがない。

原告は本件土地が措置法第二條にいわゆる牧野であると主張するが、同法第二條によれば牧野とは「家畜の放牧又は採草の目的に供される土地(農地並びに植林の目的その他家畜の放牧及び採草以外の目的に主として供される土地を除く)」であるところ、本件土地が黒竹の生立する竹林であることは当事者間に爭いがなく、主目的は勿論のこと副目的としても、家畜の放牧及び採草に供されていることの立証がないから、原告の右主張は採用できない。

次に原告は本件土地が未墾地ではなく既墾地であると主張するので考えてみる。措置法第三十一條第一項には同法第三十條の規定による買收は未墾地買收計画によるものと規定している。即ち農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとするものは未墾地として買收の対象たり得るのであるが、本件土地が牧野ではないことは前段に明らかにした通りであり、又原告本人の訊問の結果によれば、本件土地は竹材採取を目的として造林植林に必要な程度において肥料管理が施されていることを認め得るのであるが、それだからといつて竹材そのものが産物である以上、本件土地を目して耕作の目的に供されている土地即ち農地と見ることは到底許されない。されば本件土地を未墾地として買收の対象に採上げたこと自体には違法の瑕疵はないものといわねばならない。

ところで前記法條を発動して未墾地を買收するには、まず農地の開発に供すべき土地であるから、その土地が農地として開発に適しているものでなければならない。法の掲げる必要即ち自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進するためには、その土地を買收することにより農地開発を行う必要がなければならない。而も農業上の必要があるとしても、国家は農業以外の面を無視して、農業の必要のみに捉われてよい筈はなく、そこには他の観点立場からする必然の制約があるのであるから、右農業上の必要は当該土地をそのまゝ存置し或いは他の目的に利用することゝの利害得失を勘案して、なお正当性が認められる程度のものでなければならないと解するを相当とする。從つて右に述べた買收土地の開発適性、買收の必要性、必要の正当性の才量を誤れば、右法條による買收は違法といわなければならない。ひるがえつて本件証人八木卯之助、同辻徳太郎、同井ノ内熊次郎、同城戸平右衞門、同桂数一の各証言、原告本人訊問の結果、鑑定人上田弘一郎の鑑定の結果、檢証の結果成立に爭いのない甲号各証を綜合すれば本件土地中向芝九番地(以下單に向芝と略称する)の竹林の東側は幅員二間の府道丹波街道を西側は幅員一間余りの山道を隔てゝ南側は直接孟宗林に接し、北側は約一町歩余の斑竹林を隔てゝ今里部落の人家が存すること、口山三番地及び三番の二(以下單に口山と略称する)の竹林は向芝の竹林の南約八十八間の所に位置し、西側は丹波街道を北側は幅員一間余の山道を隔てゝ孟宗林に東側は直接眞竹林に南側は直接蔬菜畑に接していること、日照の点は向芝において西方及び西南方は傾斜約十度以内の緩い孟宗林の丘陵がある外日照を遮ぎるものがなく口山と共に良好であること、向芝口山共に水利の便が惡いこと、向芝の丘陵側三分の二は砂礫質残余の三分の一及び口山は粘土質であつて酸度は幾分強い値を示しているが一般農地の土壤成分に略似ていて石灰を施し適切な肥培管理を行うときには開墾当初は甘藷類その後は菜大根の栽培が可能であるが、一般農地に比して十分な收穫が期待し得ないこと、竹林開墾には多大の労力と費用を要すること、本件土地の近傍には開墾のため竹林を伐採しながらその後手もつけずに放置してある土地が数町歩存すること、本件土地を農地として必要とすると被告等の主張する粟生部落は戸数三十数戸、平均一戸当り反別孟宗畑五反素畑四十坪余りであるが同部落の農業経営は主として孟宗畑に依存し余剩労力の存する農家は山稼ぎ等に吸收され、部落全般より見るならばさして素畑の必要を感じていない状態にあり、且つ同部落には開墾可能であつて未開墾のまゝ放置されている籔山林が相当町歩存在するのにこれ等は買收の対象にされていない現状にあること、本件土地は以前松林であつたのを茶畑に開墾し、その後黒竹林になつたものであるが、原告は向芝を昭和九年に口山を昭和十九年に買い受け並々ならぬ努力によつて育成し、今次大戰以前には原告が十分な肥培管理を行い、向芝からは良質の黒竹を生産していたが戰時中肥培管理が不行届のため品質が低下したこと、向芝の黒竹の品質はやゝ良好、口山のそれは良好とはいえないという現状であるが短期間内に以前の通りの優秀林に復元する可能性があること、京都府下の黒竹林の面積は昭和二十三年十一月現在で十九町歩であるが乙訓村において一町歩に近い集団黒竹林は本件竹林以外に一ケ所しかないこと、黒竹の用途としては建築裝飾用、籠類、竿、傘の柄、家具等相当廣く、從つてその需要は大で價格も高く就中竿等として輸出竹材の八割を占め外貨獲得の重要な役割をつとめていること、京都府林務課では右の点を重視し増殖を奬励していること、右認定に反する証拠は信用しない。右認定事実から考えると、本件土地は農地としての開発適性を有するものということはできるが、これを買收の対象とする必要性と必要の正当性を欠くものといわなければならない。

しからば前段説明に照し被告乙訓村農地委員会のした本件買收計画は才量権の行使を誤つた違法があるものというべく、從つて京都府農地委員会が右買收計画を取り消さず原告の訴願を棄却した裁決も違法を免れない。

依つて原告の本訴請求はいずれも正当として認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條第九十三條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 平峯隆 星智孝 岸本五兵衞)

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