大判例

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京都地方裁判所 昭和25年(ワ)148号 判決

原告 末広紀雄

被告 横田貢

一、主  文

被告は原告に対し、金三万六百二十五円及びこれに対する昭和二十五年二月二十六日より右金員完済に至るまでの年五分の割合の金員を支拂え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告において金一万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

二、事  実

原告代理人は主文第一、二項記載のような判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十一年五月中、被告に対し大正十年頃建築されたその所有の京都市上京区相国寺東門前町六百三十七番地上の家屋一棟を、期間の定めなく、賃料一ケ月金三百円毎月末日送金支拂を受ける約定で賃貸し、且つ、合法的適正家賃の支拂を受ける約束であつた。右家賃は昭和十五年十月二十日以後に初めて定められたものであるから、昭和十五年勅令第六七八号旧地代家賃統制令により適正家賃であつて、昭和二十一年勅令第四四三号地代家賃統制令の施行と共に停止統制額になつたものであるが、右統制額は物價廳告示に從い、昭和二十二年九月一日金七百五十円に、昭和二十三年十月十一日金千八百七十五円に、更に昭和二十四年六月一日金三千円に修正増額せられた。然るに被告は、原告法定代理人末廣恭雄が学究に没頭して世故に疎いのに乘じ、從前の適正家賃額の調査に藉口して、原告側の家賃修正の協定交渉を拒否し、一方的に不当過少の家賃を送金し、而も家賃の支拂を延滞し、現に昭和二十三年十一月一日から昭和二十五年一月三十一日までの適正家賃額合計金三万七千百二十五円に対しても、被告は三回に合計金六千五百円を送附したのみで、残金三万六百二十五円の支拂を延滞しており、原告の支拂請求にも應じないから、茲に右家賃不足額及びこれに対する本件訴状が被告に送達せられた翌日である昭和二十五年二月二十六日から、右金員完済に至るまでの年五分の遅延利息の支拂を求めるため本訴請求に及んだと陳述した。<立証省略>

被告代理人は、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、被告が昭和二十一年五月中原告から本件家屋を賃借するに当つては、賃料を一ケ月金三百円毎月末原告に支拂う旨約定した以外何等の特約をしたことがない。昭和二十一年勅令第四四三号地代家賃統制令が公布施行される前である本件賃貸借契約締結当時に、家賃の統制額が後日修正増額されるなどとは予想していなかつたから、被告が原告主張の如く將來変更される適正家賃を支拂う等と特約する理由がない。原告は地代家賃統制令の停止統制額が三回に亘り修正増額されたから、当然被告に該修正家賃の支拂義務があるように主張するが、家賃の額、その支拂時期等は法令並びに公序良俗に反しない限り、当事者の合意によつて定まるものであり、地代家賃統制令は只国家がその統制額を超えて、賃貸借人が家賃の契約又は授受をすることを禁止したものに過ぎない。仍て契約当事者は統制額の範囲内においてのみ家賃の約定、授受を許されると言うに外ならない。後日統制額が修正増加されたからと言つても、当事者の合意のない限り賃貸人にこれを請求する権利を與える趣旨ではない。被告は原告とかかる増額の合意をしたことはないから原告の増額に基く請求は失当である。仮に家賃増額修正のあつた場合、当事者間に右のような合意が不必要であるとしても、賃貸人は増加された額につきこれを請求する旨の通知を、賃借人に対しせなければならないもので、修正当時原告からかかる通知がなかつたから、修正と同時に被告に増額賃料の支拂義務は発生しない。從て原告の本訴請求は理由がないと陳述した。<立証省略>

三、理  由

被告が昭和二十一年五月中原告からその所有の本件家屋を、賃料一ケ月金三百円毎月末支拂の約定で賃借したことは当事者間に爭のないところである。そうすれば右賃料は、当時施行されておつた昭和十五年勅令第六七八号地代家賃統制令第三條第一項第二号及び現行の昭和二十一年勅令第四四三号地代家賃統制令第四條第一項により、昭和二十一年九月三十日本件家屋に対する家賃の停止統制額となつたことは明かである。そうして本件家屋が大正十年頃に建築されたものであることは、原告法定代理人末廣恭雄本人の訊問の結果によりこれを認め得るから、右家賃はその後の物價廳告示に從い、昭和二十二年九月一日二・五倍の金七百五十円に、同二十三年十月十一日その二・五倍の金千八百七十五円に、更に同二十四年六月一日その一・六倍の金三千円に各修正増額されたものと言わなければならない。

被告は現行地代家賃統制令の施行により停止統制額となつた本件家屋の賃料金三百円は、物價廳の告示により当然修正増額するものでなく、増額には必ず当事者間の合意を要するものであり、仮に合意が不必要としても、原告より被告に対し増額請求の通知があることを要し、これがない限りは当然に増額されるものでないと主張するが、物價廳長官によつてなされた家賃の停止統制額の変更は、一般物價の昂騰により家屋の維持、管理の費用が増大し、從來の家賃停止統制額が実情に即しないで、経済上公正を欠くと認められるに至つたためなされたものである。從つて賃貸人が特に反対の意思を表明しない限りは、当事者の合意の有無を問わず、又賃貸人よりの増額請求の通知がなくとも、自働的に家賃は変更されるに至るものと解さなければならない。若し常に当事者の合意を要するものとすれば、賃借人の同意なき限り、増額は有名無実となり、賃貸人をして不当に不利益を被らさせ、法規の目的としたところは実現されない結果となるし、又、増額修正は勅令の公布によつて当然賃借人に周知されたと見るのが相当であるからである。されば被告の本主張は採用することができない。

そうすれば、被告は原告主張の昭和二十三年十一月一日から同二十四年五月三十一日までの一ケ月金千八百七十五円の割合の賃料合計金一万三千百二十五円及び同二十四年六月一日から同二十五年一月三十一日までの一ケ月金三千円の割合の賃料合計金二万四千円中、被告の弁済した合計金六千五百円を控除した残額金三万六百二十五円並びにこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であること顕著である昭和二十五年二月二十六日より右金員完済に至るまでの年五分の割合の遅延利息の支拂義務を免れないものである。仍て原告の本訴請求を正当とし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、仮執行の宣言につき同法第百九十六條を適用し主文のように判決する。

(裁判官 箕田正一)

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