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京都地方裁判所 昭和25年(ワ)679号 判決

原告 京都第一証券株式会社

被告 今村佳市 外一名

一、主  文

原告に対し被告佳市は金二十九万七千八百円、被告繁次は金二十四万二千二百円、及び夫々これに対する昭和二十五年七月二十一日以降完済に至る迄年六分の金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告において、被告佳市に対し金十万円、被告繁次に対し金八万円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告は有価証券の売買媒介取次を業とする会社であるが、被告等の注文により夫々別表<省略>第一記載の日時に同表記載のような銘柄の権利株(将来の株主権)を、その数量代金は各該当欄記載のとおりとして売渡し、代金は株金払込領収証と引換に支払を受けることを約した。そこで原告会社は右約旨に従い昭和二十五年二月被告等方に夫々株金払込領収証を持参してその代金の支払を求めたが、被告等は代金を支払うことができなかつたので原被告双方合意の上、原告会社は別表第二記載の日時に記載のような価格で先に売渡した権利株を被告等より買受けて右債権債務を対等額において消滅させたところ、差引被告等が負担しなければならない差額は被告佳市の分が金三十万三千八百円、被告繁次の分が金二十四万八千二百円となつた。そしてこれらの金額は被告等において遅滞なく原告に対し支払う約であつたのに、被告等は何れもその内金として金六千円を支払つたのみである。よつて本訴において原告は被告佳市に対しその残額金二十九万七千八百円、被告繁次に対し同じく二十四万二千二百円及び夫々これに対する本件訴状送達の翌日たる昭和二十五年七月二十一日以降完済まで商法所定年六分の遅延損害金の支払を求めると述べ、被告等の抗弁に対し、原告会社が京都証券取引所の会員でない事実及び被告等が原告より前記の如く新株を買受けた当時右新株については何れも証券取引法第四条による有価証券発行の届出の効力発生前であつて、従つて亦株金払込領収証が未だ発行されるに至つていなかつたことは認める。併し(一)被告等は本件取引が証券取引法第百三十三条第一号に違反して無効であるというが右取引は証券取引所における上場有価証券の売買ではないから証券取引法第百三十三条の適用はないのであり、(二)被告等は本件取引が証券取引法第二百一条に違反する無効のものであるというが請求原因事実中にも述べたとおり原告は後日被告等に対し夫々払込金領収証を持参してその代金の請求をしているところよりも明かな如く差損又差益の授受を目的としてなされたものでもない。(三)被告等は本件取引が同法第十五条第一項第百九十八条第二号に違反して無効であるというがたとえ同法条に該当する行為であるとしても右は取締法規であるから私法上の効力には影響を及ぼすものではないと述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張の事実中原告が有価証券の売買媒介取次を業とする会社である事実、及び被告等が夫々原告から原告主張のような銘柄の新株若干を代金は株金払込領収証の引渡を受けると引換に支払う約で買受けた事実は認めるが、その余の事実は全部否認すると述べ、抗弁として、(一)原告会社は京都証券取引所の会員でなく、なお被告等が原告より新株を買受けた当時(仮りに原告主張の日時とするも)本件各新株については証券取引法による有価証券発行の届出の効力発生前であり勿論株金払込領収証の発行も未だなく、従つて原告会社はいわゆる本件新株を当時所有していなかつたのであるから、前記取引は証券取引法第百三十三条第一号にいわゆる「有価証券を有しないで売付けたもの」で同様に違反し当然無効の売付である。而してたとえ証券取引所外におけるいわゆる店頭取引には同法条の適用がないとしても本件の取引は当事者間の自由意思でその価格を決定したものでなく、多数の証券業者間において非公式に市場を形成して立てられた相場価格(気配)によつたものである。従つて同条の規定が準用されなければならぬ。(二)仮りにそうでないとするも本件売買は有価証券市場によらないで、多数証券業者間において形成される有価証券市場類似のものの相場により、差金の授受を目的としてなされたものであるから同法第二百一条に違反し無効たるを免れない。(三)仮りにそうでないとしても右取引は前述の如く証券取引委員会に対する有価証券発行の届出の効力発生前に有価証券の売付をしたのであるから、同法第十五条第一項第百九十八条第二号に違反し無効のものである。従つて被告等は原告に対しその代金支払の義務を有しないと述べた。<立証省略>

三、理  由

原告会社が有価証券の売買媒介取次を業とする会社であること、及び被告佳市は大阪商船、日本石油の、被告繁次は右両会社及び日本郵船の各新株若干を何れも株金払込領収証の引渡を受けると引換に代金を支払う約で原告会社より買受けたことについては当事者間に争がない。被告等は右新株買受の日時数及び代金額について争うので先ずこの点について考えてみる。前記争のない事実に原告会社の商業帳簿であること当事者間に争のない甲第一号証、証人川村昭子の証言原告会社代表者本人訊問の結果により原告会社の商業帳簿を整理して作成されたものと認め得る甲第四号証、並びに証人竹岡正太郎(以下認定に反する部分を除く)及び杉野藤光(以上何れも第一、二回)の各証言、及び原告会社代表者本人訊問の結果を綜合すると、被告等は予てより原告会社と株式の売買取引をしていたものであるが、昭和二十四年十一月原告会社に対し別表第一記載の銘柄の新株の買受方を注文したので、原告会社では訴外竹岡正太郎がその衝に当り当時それ等の新株は増資決議があつただけで未だ証券取引委員会に対する届出もなく勿論払込金領収証も発行されていなかつた(この点は当事者間に争がない。)ので、払込金領収証を引渡すと引換に右代金の支払を受ける約で、別表第一記載の日時記載のとおりの数代金で夫々被告等に売渡し、原告会社備付の売約定帳(甲第一号証)には浦上兵造、北村茂、小野庄四等の仮名を使用して記帳を済ませた事実が認められ、右認定に反する証人竹岡正太郎の証言の一部並びに被告繁次本人訊問の結果は措信できない。次に被告等に売渡した右権利株を原告会社が反対買し、前記売渡代金との差額は被告等において直ちに原告会社に支払う旨約したとの原告主張事実について証拠を按ずるに、原告会社の商業帳簿なること当事者間に争のない甲第二、三号証、成立に争のない乙第一号証、前記甲第四号証及び前記各証人の証言更に原告会社代表者本人訊問の結果を綜合すると、前に認定したとおり原告会社は被告等に別表第一記載の如く権利株を売渡したので、その約旨に従い昭和二十五年二月頃竹岡が被告等方に日本石油の払込金領収証(当時日本郵船、大阪商船の払込金領収証が未発行であつたことは乙第一号証により明白である)を持参してその代金支払の請求をしたが、被告等に支払能力がなかつたので領収証は会社に持帰つた事実、及びその後も原告会社の岡野、杉野等が再三領収証を持参して代金支払を督促に行つたところ被告等は引取ることができないで遂にこれを原告会社に売戻すことにし、なおその頃日石以外の商船、郵船の新株についても被告等の買付当時より株価がかなり下落していたため、更に下落を続けて被告等の損失の増すことをおそれここに原被告双方合意の上原告会社は先に被告等に売渡した権利株を順次別表第二記載の如く反対買しその代金の差額は被告等において遅滞なく支払う旨を約した事実が認められ右認定に反する竹岡正太郎の証言の一部及び被告繁次本人訊問の結果は措信し難い。なお右認定の基礎となつた甲第四号証について被告等は、同号証が昭和二十七年二月二十八日の本件口頭弁論期日において始めて提出されたものであるから民事訴訟法第百三十九条第一項及び第二百五十五条により却下されたい旨申立てているのであるが、訴訟の経過を査閲するに証人杉野藤光(第一、二回)川村昭子の各証言及び原告会社代表者本人訊問の結果によれば被告等と直接本件売買の衝に当つたのは原告会社の竹岡正太郎であり、同人は被告等との取引を原告会社の商業帳簿に記載するに当つて仮名で取扱つたので仮名と本名との連絡は同人の記憶等によるの外ないところから原告会社に於て帳簿を整理し甲第四号証(本名を明にした帳簿)を作成するに当つては同人をして川村昭子に指示をなさしめた事実を認めうるから原告訴訟代理人としては同人に於て右事実をありのままに証言したならば甲第四号証の提出を要しないものと信じていたところ同人が証人として当公廷に喚問された時予期に反し右事実を明確に証言しなかつたがために、原告はこの点の立証として甲第四号証の提出を余儀なくされたものであることを窺知することができる。とすればこの点の立証は証人竹岡の証言のみを以て足ると考えていた原告に故意又は重大なる過失あるものとは認め難く、他の要件についての判断を省略し、民事訴訟法第百三十九条第一項による被告の申立を却下する。更に準備手続調書に右証拠の記載のないことは明かである(一度準備手続で申出たが後に撤回した。)が、前記の事情を考え合わすときは準備手続において提出しなかつたのは原告の故意又は重大な過失に基くものでないとの疏明があつたものと認めるを相当とする。従て民事訴訟法第二百五十五条本文の場合にも該当しないものであり、又継続審理規則の規定は民事訴訟法の右各条項を変更したものとは解し難い。よつて右書証をとつて前記事実認定の用に供する次第である。

以上要するに原告会社は被告等に対し別表第一記載の如く売渡し、別表第二記載の如く買受けて夫々債権債務を対等額において消滅させ被告等は夫々その差額を負担することにしたのであるから、その額は被告佳市において金三十万三千八百円、被告繁次において金二十四万八千二百円となること計算上明白である。(尤も別表第二繁次の分中郵船及び商船株については原告会社のなした買戻当時に於ても未だ領収証の発行なく(乙第一号証参照)従て原告会社に於てこれを被告繁次方に持参したことは考へられないのであり売買代金支払時期未到来の感があるが、領収証未発行のままと雖もこの権利株を被告繁次に於て原告会社に売戻し買値と売値の差額を原告会社に支払うことを約した以上もはやその差額の支払時期はその時即時到来したものと認めるのが相当である。)そこで更に進んで被告等の抗弁について判断する。(一) 被告等は本件取引が有価証券を有しないでなされたもので証券取引法第百三十三条第一号に違反し無効であると抗弁するので審究するに本件取引当時、日石、商船、郵船の新株については株金払込領収証が未発行であつたことは前述のとおりであるから、これが売付をなした原告会社は右有価証券を有しないでその売付をなしたことは明かである。しかし乍ら証券取引法第百三十三条第一号は何人も証券取引委員会規則の定めるところに違反して空売してはならないと規定してあつて、これに基いて定められた証券取引委員会規則第十六号では有価証券市場内の売買について制約を設けているに止まり有価証券市場外の所謂店頭取引については触れていないのである。即ち法第百三十三条第一号規則第十六号は株券が発行され上場されているものについての制限規定であつて本件の如き非上場有価証券の取引には適用乃至準用ないものと解するのが相当である。よつて右抗弁は採用しない。(二) 次に被告等は本件売買が有価証券市場によらないで有価証券市場類似のものの相場により差金の授受を目的として行われたものであるから同法第二百一条に違反し無効であると抗弁するが本件取引が当初より差金授受を目的としてなされたと認めるに足る証拠がないのみならず、却つて前記認定の如く本件取引は株金払込領収証(従つて株券)の入手を目的としてなされたものでそのため株金払込領収証と引換に代金の支払をなすべきことを約したのであり、さればこそ原告会社より後日被告等に対し日本石油の株金払込領収証を提供して代金支払を求めたのであるが、被告等に支払能力がないため遂に引取ることが出来なかつたものであり、その他の商船郵船新株についても同様当初は株金払込領収証の入手を目的として売買がされたにも拘らず前記の如き事情で領収証発行前(佳市の分の商船新株については発行後)原告会社に売戻されたものであると言い得る。従つて本件の売買を目して当初より差金授受を目的としてなされた取引だと言えず、この点よりして右抗弁は採用できない。(三) 次に同法第十五条第一項違反の抗弁につき考えるに、証券取引法第十五条第一項は所謂取締法規に属しこれに違反するも罰則の適用を受けるに止まつて行為そのものの効力には影響がないと解するのでこの抗弁も採用しない。以上被告等の抗弁は何れも採用できないところである。

そうすると原告が前記株式代金残額として被告佳市に対し金二十九万七千八百円、被告繁次に対し金二十四万二千二百円及びこれに対し本件訴状送達の翌日であること記録に徴し明かな昭和二十五年七月二十一日以降完済に至るまで商法所定年六分の遅延損害金の支払を求める本訴請求は全部正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条、仮執行の宣言について同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 宮崎福二 中島一郎)

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