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京都地方裁判所 昭和26年(行)22号 判決 1955年7月19日

原告 山口真久 外一名

被告 中京税務署長・下京税務署長

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、被告中京税務署長が昭和二十六年九月十日付で原告山口に対してした、昭和二十五年度分の課税総所得金額を金二十六万三千円、所得税額を金七万三千八百円とする更正決定処分を取消す、被告下京税務署長が昭和二十六年九月十四日付で原告高野に対してした、昭和二十五年度分の課税総所得金額を金三十八万九千円、所得税額を金十四万八千三百五十円とする更正決定処分を取消す、訴訟費用は被告等の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、昭和二十五年度においては原告等には後記のとおり事業所得がなかつたのであるから、確定申告をする必要もなかつたのであるが、被告等の部下の勧めがあつたので、申告所得税額を零として確定申告書を提出しておいたところ、被告中京税務署長は、昭和二十六年九月十日付をもつて原告山口に対し、昭和二十五年度分の事業による課税総所得金額を金二十六万三千円、所得税額を金七万三千八百円とする旨の更正決定をし、被告下京税務署長は、昭和二十六年九月十四日付をもつて原告高野に対し、昭和二十五年度分の事業による課税総所得金額を金三十八万九千円、所得税額を金十四万八千三百五十円とする旨の更正決定をし、原告山口はその頃、原告高野は同月十五日に、それぞれその通知を受けたのであるが、右各更正決定処分(以下単に本件処分と略称する)は違法である、すなわち、原告等は昭和二十五年度中は訴外都文化企業組合(以下単に訴外組合又は組合と略称する)の組合員としてその事業に従事していたのであつて、個人としての事業はしていなかつたのであるからである、被告等は昭和二十六年六月三十日に訴外組合を、昭和二十五年十二月三十一日までの所得の計算については、法人税法の規定の適用を受けない企業組合と認定して、訴外組合の所得をすべて原告等組合員個人の事業所得として課税することに決定して、本件処分をしたのであるが、訴外組合は中小企業等協同組合法に基いて設立された法人であつて、他の一般法人に比して遜色のない経理をし、帳簿の整理をしているのであるから、その事業から生じた所得については訴外組合の法人税を課すべきものであつて、原告等組合員に課すべきものではないのである、被告等は、法人税法の解釈を誤つてか、企業組合を同法の適用があるものとないものとに区別しているのであるが、同法には勿論、中小企業等協同組合法にもかゝる区別をする法文上の根拠はないのみならず、法人税法、所得税法、民法、及び中小企業等協同組合法等の全法律体系の純一的な解釈からしても、一部の企業組合の法人格を税法上に限つて否認すべき合理的な根拠はどこにもないのである、被告等が訴外組合を法人税法の適用を受けない企業組合と認定した唯一の根拠は、訴外国税庁長官の「企業組合の組合員が当該組合から受ける所得に対する所得税等の取扱方について」と題する同年十月二十四日付通達(以下単に九原則と略称する)らしいが、これは単に一行政官庁の通達にすぎないから、これをもつて国会の議決を経た法律を左右することはできないのである、従つて、九原則にいわゆる、実質上法人たる企業組合の存在と相容れない事実があつたとしても、形式上の法人格を否認することはできないのである、株式会社にも世上往々法人としての実質を備えないものがあるが、だからといつて法人税法の適用が除外され、株主や取締役に所得税が課せられたという例をきかないし、又そのようなことができるわけがないのである、企業組合も法人としては株式会社等と何等異るものでないのみならず、法人としての実質を伴わない企業組合については、中小企業等協同組合法によつて処罰され、或は解散の請求をされるのであつて、その是正を図る方法は別に講ぜられているのである、殊に同法施行後、日尚浅く、経営上種々の弱点をもつた企業組合に対して、指導育成の労をとることなく、根拠薄弱な事実に基いて、法人格を否認することが如き九原則は明らかに違法であり、これを根拠とする本件処分の違法なことはいうまでもない、そこで原告山口は昭和二十六年十月九日に、原告高野は同月十一日に、それぞれ当該被告に対して再調査の請求をしたのであるが、被告等は爾来三箇月になんなんとする同年十二月十日まで、これを何等の調査も決定もしないまゝで放置しておきながら、一方では本件処分に基いて徴税を強行しようとして、同年十月頃に原告等に対して同年十一月末頃までの指定期限までに納税しなければ、差押をする旨督促したうえ、原告高野の電話加入権を差押えたりして滞納処分に着手しているのであるから、再調査に対する決定を待つていては、原告等の財産が競売されることは必至であり、かゝる状態は所得税法第五十一条第一項但書後段に該当するものというべきであるから、右決定を経ないで請求の趣旨記載のような判決を求めるため本訴に及んだと述べ、被告等の主張事実を否認し、本案前の抗弁に対して、所得税法第五十一条第一項但書後段の規定を被告等の主張するように解釈すべき根拠はどこにもない、一見して明らかに違法であるとわかる課税処分の執行によつて、国民の財産権に不法な侵害が加えられる虞があればよいのである、そして滞納処分の前提として督促があれば差押がなされることは必至であり、差押があれば何時物件を引揚げられ公売に付されるかわからないのであるから、督促や差押があれば右にいわゆる虞があるものというべきである、被告等は、滞納処分のようなものは、仮にそれを取消されたとしても容易に金銭をもつてその間に生じた損害を償うことができるものであるというが、中小企業者や勤労階級にとつては営業設備や営業資金は全く貴重なものであり、僅かな資金の不足から商売がつぶれたり、生活に破綻を来す場合は往々にしてあるのであるから、所論には到底従うことができないのである、なお、原告等の再調査の請求は、単に訴外組合の所得を原告等の所得とすることが違法であるということだけのものであるから、被告等が決定をしようと思えば容易に決定しうる問題であるのにかゝわらず、数箇月にわたつて放置しているのであるから、これを黙殺しているものといつても過言ではないのである、このように被告等が原告等の再調査の請求を無視している場合においても、なお六箇月の経過を待たなければならないものであろうか、殊に一方において前記のように徴税を強行しようとしている場合において、原告等としては、かゝる状態は訴願前置主義の原則によりがたい正当な事由といつて毫も差支えないものと考えるのである、仮にそうではなくて、原告等の訴が不適法なものであつたとしても、原告等が前記のように被告等に対して再調査の請求をした日から、被告等の決定がないまゝで昭和二十七年八月六日までに既に六箇月を経過してしまつたのであるから、その瑕疵は治癒されたものというべきである、従つて被告等の本案前の抗弁は失当であるというの外はない、本案の主張に対して、原告等は本件処分の課税総所得金額や所得税額は争わない、昭和二十八年八月七日に公布された所得税法の一部を改正する法律(同年法律第百七十三号)によつて、所得税法第三条の二、第四十六条の三という二箇条が加えられ、法人であつても場合によつては法人に課税することなく、法人の構成員である個人に直接課税しうるものとしたのであるが、右二箇条を加えるに当つては、全国の企業組合の猛烈な反対運動があり、政府も極めて苦慮したところであつて、大修正を受けてようやく国会を通過したのである、そして国会においては、右二箇条の通過に際し、「第三条の二、第四十六条の三の施行は、中小企業法人の組織と発達とに重大なる影響を及ぼすものであるから、政府はその実施に当り十分慎重を期せられたい。よつて法第四十六条の三の適用に当つては当該地方に於ける所轄官公庁、当該法人の所属する団体の代表者並びに学職経験者によりなる諮問機関の意見を徴したるうえ、当該地方国税局長がこれを決定することゝし、以つて中小企業法人の発達を阻害するが如きことのないよう厳重留意されたい。」旨付帯決議をしたのである、右の事情から断定しうることは、この二箇条が新に加えられる以前においては、実質課税と称して法人の構成員に対して直接課税する法律上の根拠はなかつたということである、けだし、従前においても何等かの法律上の根拠があつたのであれば、全国の企業組合より猛烈な反対を押切つて、しかも大修正までして右二箇条を加える必要がなかつたからであると述べ、更に被告等の一乃至六の主張に対して、次のとおり付演した。

一、訴外組合への加入を承諾されたものは、従来の個人営業を廃業して組合に加入するものであり、組合はその廃業した店舖を借受けて組合事業所として新設するのであるが、この場合、加入者が加入時に保有していた手持商品、原材料等は、組合職員と加入者とが立会つて棚卸をし、仕入原価で組合が加入者個人から買取り、その代金は買掛金としておき、組合の資金繰とにらみ合わせて支払い、什器備品、機械器具等は、物件目録を作成して組合が加入者個人から賃借し、賃料は固定資産税の課税標準等を基準にして、組合が評価額を決定し、これの年五分の割合により年二回に分割して支払い、店舖、作業場等は、組合が加入者個人から賃借し、賃料はその種類、坪数、立地条件等を勘案し、通常支払われている家賃等を基準として時価に適した賃料を協議決定し、これを毎月支払うことゝしているのである、

二、組合員は、九十日前の予告をもつて事業年度の終に脱退することができ、脱退した時は、組合はその事業所を閉鎖し、在庫商品等は閉鎖の日に棚卸をして仕入原価で脱退者に引渡し、売掛金、買掛金等は整理して脱退者に引渡し、脱退者と組合との間の債権債務として閉鎖事業所整理勘定に移して清算しているのである、只被告等が昭和二十五年度における組合の法人性を否認し、組合の事業を組合員個人の事業と認定して、組合員個人に所得税の申告をさせ、申告をしないものに対しては確定決定処分をしたゝめ、組合は閉鎖事業所整理勘定の清算ができない実情となつている、すなわち、これを動機として訴外組合を脱退したものは、組合を軽侮しているのみならず、不法な納税義務が課せられたゝめ、組合に対する債務の履行をしないので、組合は他の脱退者に対する債務を履行しようとしてもできないのである、

三、被告等主張のような事実がないことは、右一、二、において述べたとおりである、

四、組合員が事業所においてえた売上金等を組合員個人のものと解釈すれば、仕入代金や給料その他の諸経費も売上金等の中から支払い、組合に取上げられたものが組合費と称せられるかもしれないが、これは公私を混同したもので根本的に間違つている、本部経費のことを組合費と考えるような組合員は昭和二十五年度中にすべて脱退している、

五、この点も四、同様の間違で、真実は本部経費から支出されていたものである、

六、組合は組合本部に指導課をおき、昭和二十五年十二月頃においては常任理事一名、担当課員十一名をして、二百三箇所の事業所を毎日巡廻させ、組合員等に法の趣旨を周知徹底させ、組合の設立目的達成のため努力していたのである、殊に組合員等をして長年の個人営業の慣習から脱却させ、法人の構成員として組合の統一経営方針の下で行動するよう指導育成することに全力を尽し、又硝子張経営の指導や経理の監査を行い、各事業所に毎月作成させている試算表により営業の実態を調査し、疑問があれば直ちに実地監査を行う外、三箇月に一回宛実地監査を行い、法人の事業所として万遺漏のない指導監督を行つて来たのである。

(立証省略)

被告等指定代理人は、本案前の抗弁として、原告等の訴を却下する、訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求め、その理由として、原告等がその主張の日に本件処分について再調査の請求をしたこと、被告等が昭和二十六年十二月十日までに右請求に対して決定をしなかつたこと、被告等が原告等主張の頃に原告等に対して、その主張のような督促をしたこと、及び被告下京税務署長が原告高野の電話加入権を差押え、滞納処分に着手したことは認めるが、本訴が所得税法第五十一条第一項但書にいわゆる、再調査の決定を経ることに因り著しい損害を生ずる虞のあるときに該当するものとして適法であるとのことは否認する、右規定は、行政事件訴訟特例法第二条但書と同趣旨の規定であつて、容易に回復することのできない甚大な損害を生ずる虞のあるときと解すべきものであるところ、滞納処分のようなものは仮にそれが将来取消されたとしても、容易に金銭をもつてその間に生じた損害を償うことのできる性質のものであるから差押をしたとしてもこれをもつて直ちに右規定に該当するものとはいえないのである、しかも再調査の決定を経ることなくして訴を提起することの実益は、これによつて同法第十条の執行停止決定をうることにあるのが現状であるが、本件のような事例では右の執行停止をすることができないのであるから、その実益もないのみならず、所得税法は迅速確実な租税収入の確保を図り、国家財政の円滑な運営を期する建前の下に、課税処分等に対する不服の申立があつても税金の徴収を猶予しない原則をとり、只政府において已むをえない事由があると認めるときにのみ例外として、その一部又は全部の徴収を猶予しうることゝし、処分の執行が妨げられないようにしているのであるから、本訴が適法なものとされ、かつ本件処分の執行が停止されるにおいては、右の原則は全く没却されてしまうことになるのである、以上のとおりであるから原告等の本訴は不適法であるというの外はないと述べ、本案の答弁として、主文同旨の判決を求め、原告等主張の事実中、原告等が昭和二十五年度の所得税額を零とした確定申告書を提出したこと、被告等が原告等の主張のとおりの更正決定をしたこと、原告等がその主張の日にその通知を受領したこと、被告等が昭和二十六年六月三十日に、原告等主張のような認定をして、原告等組合員の事業所得として課税する旨の通知をしたこと、訴外組合の経理方法、帳簿の整理方法が他の一般法人に比して遜色がないこと、九原則があること、原告等主張の日にその主張のような趣旨の規定が所得税法に加えられたこと、及び原告等主張のような付帯決議がなされたことは認める、訴外組合が中小企業等協同組合法によつて設立された法人であるとのこと、及び原告等が昭和二十五年度中訴外組合の組合員であつたとのことは争わない、原告等が訴外組合の事業に従事していたとのこと、原告等が個人として事業をしていなかつたとのこと、所得税法第三条の二、第四十六条の三の二箇条を加えるに当つて、全国の企業組合の猛烈な反対があり、政府が苦慮したとのこと、及び右二箇条が加えられる以前に実質課税と称して法人の構成員に対して直接課税する法律上の根拠がなかつたとのことは否認する、その余の事実はすべて争うと述べ、主張として、被告等が本件処分をしたのは、企業組合は企業組合それ自体が事業の主体となつて、営利事業を営むものであるから、各組合員の行う事業活動の成果は、企業組合そのものゝ事業活動の成果として、形式的にも実質的にも完全に企業組合に帰属させられなければならないのであつて、もし各組合員の事業活動の成果が計画的にそのまゝ当該組合員に帰属するようになつておれば、そこにはも早企業組合としての事業活動はなく、各組合員の個人としての事業活動があるのみといわなければならないものであるところ、原告等は訴外組合の理事者と馴合いのうえ、専ら自己個人のためにする意思をもつて事業活動をなし、その成果を直接自己に帰属させており、訴外組合の記帳経理は単なる経理上の操作にすぎず、換言すれば、法人名義を仮装して個人として事業を営んでいるからである、而してその根拠は、次のとおりである、

一、訴外組合は加入者から加入時現在における棚卸資産を買収つた形式を整えているが、その評価方法は著しく杜撰で、加入者等が一方的に提出した棚却表を組合においてう呑にしている有様である、もつとも棚卸に際して組合職員が立会つている場合もあるが、単に形式的に立会つているにすぎない、このようなことは、組合において真実所有権を取得する意思がなく、加入者等においても真実これを譲渡する意思がなかつたことを有力に物語るものである、

二、組合員が脱退する場合においては、組合はその組合員に対して、当該事業所に存在する棚卸資産を売却した形式を整えているが、その評価も一、同様著しく杜撰で、組合員の一方的に作成した棚卸表がそのまゝう呑にされ、或は現実の棚卸を行わずに組合で任意の数字を記入した棚卸表を作成しているものさえあるのである、このことの意味も一、同様であつて、組合員等の各事業活動の間の損益を共通にするためには、このようなことは絶対に許されないことである、

三、右一、二、の棚卸資産の売買代金の決済は、何等行われていない、かくして組合員等は、現状有姿のまゝ組合に加入し、現状有姿のまゝ組合から脱退して行くのである、このことは、損益共通と全く矛盾するもので、かような仕組の下においては損益共通が行われる筈がないのである、

四、組合は組合員等から毎月定額の組合費を徴収しているが、このことは企業組合の性質と全く相容れないことであつて、現に中小企業等協同組合法第八十二条第一項は同法第十二条の企業組合への適用を排除して、その趣旨を明らかにしているのである、

五、組合は組合員等に対して、その営業所で使用する帳簿、伝票等を売渡しているが、このことも亦企業組合の性質と全く相容れないことである、

六、各組合員の事業活動、並にこれに関する報告が各組合員に一任され、組合においてはこの点について何等の統制乃至監督をも行つていないのであり、組合員等はこれを当然のことゝして別にあやしんでもいないのである、

而してこれらの事実を綜合すれば、訴外組合は組合に加入したものゝ事業を自己の事業として吸収することなく、たゞ組合員等の個人事業について形式的な経理を行つていたに過ぎないと推認されるのであると述べ、なお、被告等が訴外組合を法人税法の適用を受けない企業組合と認定したのは、昭和二十五年中には訴外組合に組合としての事業活動による所得がないと認めるから、法人税法を適用する余地がない、という趣旨であつて、訴外組合の法人格そのものを否定したものではない、又九原則は、企業組合が中小企業者等が公正な経済活動の機会を確保し、もつてその自主的な経済活動を促進し、かつその経済的地位の向上を図ることを目的として相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために設立される組合であつて、中小企業等協同組合法所定の他の三つの組合とは異り、組合自身が事業の主体となつて営利事業を行う組合であるから、組合員の行う事業活動は、組合そのものゝ事業活動として形式的にも実質的にも完全に組合の計算に帰属させられなければならないのにかゝわらず、同法が制定公布されるや中小企業者であつて、同法及び法人税法によつて与えられる税負担軽減の特典の享受のみを唯一の目的とし、何等自己の営業を組合に没却させる意思がなく、従前と全く同様に自己自身の事業を営み、その成果を直接自ら享受しているのにかゝわらず、企業組合を結成しているものが現われるに至つた、このような場合にその事業活動を組合自体のそれと認め、その成果に対して法人税法所定の税法上の特典を付与する理由は全くなく、もし税務当局がこれを容認したならば、却つて他の善良な事業者との間の税負担の均衡を失する結果となるのである、そこで右のように実質的に個人企業を営み、個人としての事業所得を収めているものに対しては、所得税法の定めるところによつて所得税を賦課すべきである、というのであつて正に当然の事理を宣明したのに過ぎないのであると付演した。(立証省略)

理由

先ず被告等の本案前の抗弁を取上げて、本訴の提起が適法であるか否かについて考えることゝする。原告等の本訴請求は、要するに原告等に対する本件処分が違法なものであるから、これを取消されたいというのである。そうすると原告等としては、所得税法第五十一条第一項但書に該当する事由がある場合の外は、同法第四十八条、第四十九条に基いて裁判所に出訴する前に再調査の請求及び審査の請求をして、それぞれその決定を経なければならないものであるところ、原告等は、本訴は同法第五十一条第一項但書に定める再調査の決定を経ることに因り著しい損害を生ずる虞があり、又正当な事由がある場合に該当すると主張するので考えることゝする。被告中京税務署長が昭和二十六年九月十日付をもつて、原告山口に対し、昭和二十五年度分の事業による課税総所得金額を金二十六万三千円、所得税額を金七万三千八百円とする旨の更正決定をし、被告下京税務署長が昭和二十六年九月十四日付をもつて、原告高野に対し、昭和二十五年度分の事業による課税総所得金額を金三十八万九千円、所得税額を金十四万八千三百五十円とする旨の更正決定をしたこと、原告山口がその頃、原告高野が同月十五日に、それぞれその通知を受けたこと、原告山口が同年十月九日に被告中京税務署長に対して、原告高野が同月十一日に被告下京税務署長に対して、それぞれ再調査の請求をしたこと、その後原告等が本訴を提起した同年十二月十日までに、被告等が何等の決定もしなかつたこと、被告等が同年十月頃に原告等に対して、同年十一月末頃までの指定期限までに納税しなければ、差押をする旨督促したこと、及び被告下京税務署長が原告高野の電話加入権を差押えて滞納処分に着手したことは当事者間に争のないところであるが、被告等が、原告等が本訴を提起した当時まで、再調査の請求に対して何等の調査もせずに放置していたとのこと、及び被告等が再調査の請求に対する決定を原告等の財産の競売をするまで放置しておくとのことについては、何等の証明もなく、却つて弁論の全趣旨によれば、被告下京税務署長は原告高野に差押えた電話を使用させていることが認められるのみならず、その公売期日の公告があつたとのことについての証明もないのであるから、このような事情の下では本訴の提起が所得税法第五十一条第一項但書後段にいわゆる、再調査の決定を経ることに因り著しい損害を生ずる虞がある場合その他正当な事由がある場合に該当するものということはできないのである。そうすると、本訴はその提起当時においては、訴願前置の要件を欠くものとして不適法であつたといわなければならないのである。

原告等は、右の瑕疵は既に治癒されたものであると主張するので、以下にこの点について考えることゝする。原告山口が同年十月九日に、原告高野が同月十一日に、それぞれ再調査の請求をしたことは、前記のとおり当事者間に争がなく、被告等が昭和二十七年八月六日までに原告等の再調査の請求に対して何等の決定もしなかつたことについては、被告等が明らかに争わないから、これを自白したものと看做すべきである。そうすると、本訴は右再調査の請求の日から六箇月後である、原告山口については同年四月九日、原告高野については同月十一日の経過と共に、その瑕疵が治癒され、適法なものとなつたというべきである。従つて被告等の本案前の抗弁は、結局その理由がないものといわなければならないのである。

よつて次に、本案について検討することゝする。原告等が所得税額を零として、昭和二十五年度分の確定申告をしたことは、当事者間に争がなく、被告中京税務署長が昭和二十六年九月十日付をもつて原告山口に対し、昭和二十五年度分の事業による課税総所得金額を金二十六万三千円、所得税額を金七万三千八百円とする旨の更正決定をし、被告下京税務署長が昭和二十六年九月十四日付をもつて原告高野に対し、昭和二十五年度分の事業による課税総所得金額を金三十八万九千円、所得税額を金十四万八千三百五十円とする旨の更正決定をし、原告山口がその頃、原告高野が同月十五日に、それぞれその通知を受けたことは、前記のとおり当事者間に争がなく、訴外組合が中小企業等協同組合法によつて設立された企業組合で、法人であること、及び原告等が昭和二十五年度中その組合員であつたことについては、被告等が明らかに争わないからこれを自白したものと看做すべきである。

然るところ、被告等は被告等が本件処分をしたのは、原告等が訴外組合の組合員であるのにかゝわらず、その理事者と馴合いのうえ、専ら自己個人のためにする意思をもつて事業活動を行い、その成果を直接自己に帰属させており、訴外組合の記帳整理は、単なる経理上の操作にすぎず、換言すれば、法人名義を仮装して個人として事業を営んでいるからである、と主張するので、仮に原告等に被告等の主張するような事実があるとした場合においては、原告等に所得税を納付する義務があるということができるか否かについて、考えることゝする。

所得税法第一条、第二条には、同法の施行地に住所を有する個人は、その事業から生ずる所得に対する所得税を納める義務があると規定し、法人税法第一条、第二条には、同法の施行地に本店又は主たる事務所を有する法人は、その事業から生ずる所得に対する法人税を納める義務があると規定しているのであるから、客観的に一個と認められる事業から生じた一定の所得がある場合において、その所得が特定の個人に帰属するものであれば、その個人に所得税を納める義務があるのであり、又その所得が特定の法人に帰属するものであれば、その法人に法人税を納める義務があるものといわなければならないのである。而してこの帰属関係は、通常はその形式と実質とが一致しているので特に問題とはならないのであるが、形式と実質とが一致しない場合においては、その形式的に帰属するものに納税義務を課すべきか、或はその実質的に帰属するものに納税義務を課すべきかについて問題が生ずるのである。ところが所得税法、法人税法は、かゝる場合を予想していなかつたゝめにそのいずれによるべきかについて規定を設けていなかつたのであるから、解釈によつて決しなければならないのである。然るところ、本件処分が行われた当時の所得税法第四条は、個々に課税することが困難である、多数の委託者の信託財産を合同して運用する合同運用信託の場合を除き、信託財産の所有者ではなくて、信託財産から生ずる所得を信託の利益として受けるべきものを、信託財産の所有者と看做して、その実質的に帰属するものに所得税を課するものとし、又同法第十一条は、公債、社債又は無記名の株式の所有者が、他人をして利子、配当等の支払を受けさせた場合においては、事前に利札等を売却したりしてその売却代金を取得しているのにかゝわらず、表面上は利子、配当等の支払を受けたことにならないので、公債等の所有者が利子等の支払を受けたものと看做して、実質的に所得をえたものに所得税を課するものとしていたのであつて、これらの規定からすれば、同法は所得の帰属についてその形式の如何にかゝわらず、その実質によるべきものとしていたものということができるのであり、このことは、租税がその負担力に応じて課せられるべきであるとする、租税法の最も重要な公平の原則にも合致するのみならず、昭和二十八年法律第百七十三号によつて加えられた、所得税法第三条の二は、後記のとおり本件のような場合における帰属関係はその実質によるべきものであることを確認しているのであるから、仮に原告等に被告等の主張するような事実があれば、原告等に納税義務があるものといわなければならないのである。

原告等は、被告等が訴外組合を法人税法の規定の適用を受けない企業組合と認定して本件処分をしたが、かゝる区別をする何等の根拠もないと主張するので考えるに、被告等が訴外組合を右のように認定したことは当事者間に争のないところであるが、弁論の全趣旨によれば被告等が右のように認定したのは、訴外組合にはそれ自体の事業活動による所得がないから、法人税法を適用する余地がないという趣旨であつたことが明らかであり、このことは被告等が本訴において主張しているところと同じであるから、右の判断に影響を及ぼすものではないのである。

又原告等は、株式会社にも往々法人としての実質を備えないものがあるが、だからといつて法人税法の適用が除外され、株主や取締役に所得税が課せられたという例をきかないとも主張するが、所論のような事例があつたとしても、右の判断に影響を及ぼすものではないのである。もとより租税法は、国家又は地方公共団体の収入を目的とする手段としての性質を有する技術法であるのみならず、個々の法人についてその帳簿その他を離れて真実所得が帰属するものを探究することは事実上困難でもあり、帳簿その他の記載が一応真実に合致するものと推定することは、通常の場合自然のことであるから、税務行政機関がそれに従うことは、税務行政における事務処理の立場からは一応是認されるものというべきであるが、だからといつて税務行政機関が実質的に所得の帰属するものを発見して、これに納税義務を課することが違法となるものではないのである。

更に原告等は、本件処分後である昭和二十八年八月七日に公布された所得税法の一部を改正する法律(同年法律第百七十三号)によつて、所得税法第三条の二、第四十六条の三という二箇条が加えられ、法人であつても場合によつては法人に課税することなく、法人の構成員である個人に直接課税しうるものとしたのであるが、この立法事情からすれば右法律が施行される以前においては、いわゆる実質課税と称して法人の構成員に直接課税する法律上の根拠はなかつたと断定しうると主張するので考えるに、所論の二箇条が所論の日に公布されたこと、及び右二箇条が国会を通過するに際して、「第三条の二、第四十六条の三の施行は、中小企業法人の組織と発達とに重大なる影響を及ぼすものであるから、政府はその実施に当り十分慎重を期せられたい。よつて法第四十六条の三の適用に当つては当該地方における所轄官公庁、当該法人の所属する団体の代表者並に学識経験者によりなる諮問機関の意見を徴したるうえ、当該地方国税局長がこれを決定することゝし、以つて中小企業法人の発達を阻害するが如きことのないよう厳重留意されたい。」旨付帯決議がなされたことは、当事者間に争のないところであるが、右二箇条が公布される以前においても課税物件の帰属関係を、その形式によらずに実質によつて定めるべきであつたことは、前記判断のとおりであり、又家屋税の課税物件である家屋の所有権の帰属についての行政裁判所、大正九年六月二十八日判例(行録三十一輯四百九十頁)、戸数割の課税物件である営業所得の帰属についての行政裁判所、大正十三年十月十四日判例(行録三十五輯七百八十二頁)、所得税の課税物件である株式配当金の帰属についての行政裁判所、昭和七年一月三十日判例(行録四十三輯十頁)、昭和十年七月十九日判例(行録四十六輯六百頁)、昭和十六年三月十三日判例(行録五十二輯六十九頁)等は、いずれも課税物件の帰属関係を、その形式によらずに実質によつて定めるべき旨判示しているのであつて、これと反対の判例を見ないのであり、更に前記二箇条の審議をした、衆議院及び参議院の大蔵委員会における会議録によれば、所得税法第三条の二は、課税物件の帰属関係をその実質によつて決すべきであることを確認し、明らかにするために立法されたものであることが明らかであるから、所論には賛成することができないのである。

よつて進んで原告等に被告等が主張するような事実があるかどおかについて、検討することゝする。

先ず被告等主張の一乃至三の点について考えるに、弁論の全趣旨によれば、訴外組合は、従来個人として営業していたものを組合員として加入させ、加入の際に従来の個人営業を廃業させて、加入者が加入時に保有していた商品、原材料等を組合が買取り、その店舖を組合の事業所として設置し、加入者をその事業所の所長として、右商品、原材料等をもつて組合の事業に従事させ、又組合員が脱退する場合においては、その組合員が所長であつた事業所を閉鎖し、その事業所にある商品、原材料等をその脱退者に売渡し、脱退者と組合との間の債権債務として決済する、という形態において運営されているものであるところ、成立に争のない乙第一号証の五、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外山本兼次郎は、昭和二十七年頃に脱退したものであるが、脱退に際しては同訴外人が所長であつた事業所の売掛金、買掛金、商品、材料等を同訴外人が単独で調査して組合に報告し、そのまゝ清算もせずに同訴外人のものとしたこと、いわゆる後記現金管理(事業所の売上金等の収入金を組合本部に送付し、組合本部において管理すること、以下同じ)の残金約千八百円をそのまま返して貰うことになつていること、脱退後の同年四月十日頃に組合の連絡員訴外某が、鉛筆で金五万六千余円を組合から訴外山本に支払うことになつている旨を記載した紙片を持参して、「税務署から来て調査されたら、このように言つてくれ」と言つたこと、同事業所の閉鎖事業所整理勘定(以下単に閉鎖勘定と略称する)によれば、同訴外人が組合に対して金五万五千九百五十四円九十四銭の債権を持つていることになつていること、及び同訴外人としては、かゝる債権はないと思つていることが認められ、成立に争のない乙第二号証の七、証人中尾兵之助の証言によつて真正に成立したものと認める同号証の一、三に、同証人の証言によれば、訴外中尾兵之助は昭和二十五年一月一日に加入し、昭和二十六年頃に脱退したものであるところ、加入に際して行われた商品、材料等の棚卸には、組合の事務員訴外宮本某が立会つたが、これらは無償で組合に提供したことゝし、脱退する時にはそのまゝ無償で返して貰う約束であつたから、組合へ売渡すという考えはなかつたこと、訴外中尾は、加入期間中である昭和二十五年九月十日頃に、その名義で訴外大東京火災海上保険株式会社と、商品、製品、未製品、材料等を保険の目的とする火災保険契約を締結したこと、脱退に際しては、訴外中尾が所長であつた事業所の売掛金、買掛金、商品等を清算もせずに、そのまま同訴外人が引継いだこと、いわゆる後記現金管理の残金は、そのまゝ返して貰つたこと、脱退後に組合から、鉛筆で金二十八万五千二百六十五円を同訴外人が組合へ支払うべき旨を記載した清算書を貰つたが、その際組合では単にそうなつていると言つたゞけで、支払つてくれとは言わなかつたこと、その後においても全然支払つていないし、請求されたこともないこと、及び同訴外人としても支払義務があるとは思つていないことが認められ、成立に争のない乙第三号証の十四、証人山口啓二郎の証言によつて真正に成立したものと認める同号証の一に、同証人の証言によれば、訴外山口啓二郎は昭和二十四年十一月一日に加入し、昭和二十五年十二月三十一日に脱退したものであるところ、加入に際して行われた商品の棚卸は同訴外人が単独で行い、組合に売渡したことにはしたが、脱退時にはそのまゝ返して貰うという約束であつたこと、脱退に際しては、同訴外人が所長であつた事業所にあつた商品を棚卸もせずに、そのまゝ同訴外人のものとして引継いだこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、組合が同訴外人に対して金九千十五円の債権を持つていることになつているのに、何等の請求もされていないことが認められ、成立に争のない乙第四号証の五、七、八、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一、二によれば、訴外中森武雄は、同年一月一日に加入し、昭和二十六年八月三十一日に脱退したものであるが、加入に際して組合本部へ行つた際、訴外組合の理事長である訴外大西左相(以下単に大西理事長と略称する)が、「商品や什器備品は、組合へ引継いで貰うことになるが、商品は組合が現金を出して買うわけではなく、買つたような形にしておくだけである、又什器備品は、無償で組合に譲渡するということにするだけである、企業組合は法人であり、貴方は税務署に廃業届を出して組合に加入し、組合で法人税を納めるようになるのだから、そうして貰わなければならない、又脱退は自由であるから、何時でも嫌になつたら脱退届を出して脱退することができる、脱退したときは、組合が買取つたことにしてある商品や、無償で譲渡したことにしてある什器備品は、そのまゝ、お返しするから、組合に加入しても従来どおり自分の営業を続けておればよい」旨説明したこと、商品等の加入時の棚卸は組合の職員訴外潮田某と共にしたが、商品等を組合へ売渡す意思はなく、従つて金銭的な決済はしていないこと、脱退に際しては訴外中森が所長であつた事業所にあつた商品等は、同訴外人が単独で棚卸をし、清算もせずにそのまゝ同訴外人が引継いだこと、いわゆる後記現金管理の残金は、そのまゝ返して貰つたこと、同営業所にあつた現金は、そのまゝ同訴外人のものとしたこと、脱退後に組合の事務員訴外某が、訴外中森が組合に対して金一万千百七十五円十銭を支払うべき計算になつていることを記載した紙片を持参し、「税務署から調査に来たら見せてくれ」と言つたこと、同事業所の閉鎖勘定によれば、組合が同訴外人に対して右と同額の債権を持つている旨の記載があること、及び同訴外人としては、組合に対して何等の債務もないと思つており、組合からも請求されたことがないことが認められ、成立に争のない乙第五号証の五乃至十四、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外井深英太郎は、昭和二十四年十月一日に加入し、昭和二十六年六月三十日に脱退したものであるところ、加入に際して、什器備品類の管理権を組合に無償で譲渡し、脱退時には無償で返して貰う約束をしたこと、脱退の際は、同訴外人が所長であつた事業所にあつた什器備品等を、そのまゝ同訴外人が引継いだこと、同事業所にあつた現金をそのまゝ同訴外人のものとしたこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金五千三百十四円七十五銭の債権を持つていることになつているが、この記載は真実に反しており、同訴外人も、かかる債権はないと思つており、組合からもそのことについて全然話がないことが認められ、成立に争のない乙第六号証の二、五、七及び二十、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外横田利三郎は、昭和二十四年十月一日に加入し、昭和二十六年六月三十日に脱退したものであるところ、加入の際に商品等を組合の職員訴外上条某と共に棚卸をし、組合に売渡した形をとつたが、売渡す意思はなく、依然自己のものと思つていたこと、脱退の際は同訴外人が所長であつた事業所にあつた商品等は、形式的には組合から買取つたことにしたが、棚卸もせずにそのまゝ同訴外人のものにしたこと、棚卸のことについては組合から何等の連絡もないこと、同事業所にあつた現金は、そのまゝ同訴外人のものとしたこと、昭和二十七年九月初頃に組合の事務員訴外某が、「組合が貴方に金一万四千円程払うことになつている」と言つたが、訴外横田としては何のことか不明であつたので問返したところ、「この金は貰つたことにしておいてくれ」とのことであつたこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金一万四千百三十円六十五銭の債権を持つていることになつているが、この記載は真実に反するものであることが認められ、成立に争のない乙第七号証の三、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外尾中理一は昭和二十四年十一月頃に加入し、昭和二十五年十二月末頃に脱退したものであるが、加入の際手許に約金二千円に相当する材料を持つていたのに、組合の事務員訴外某が「加入後に仕入れたことにして棚卸資産はないことにせよ」と言つたので、そのとおりにしたこと、脱退の際は、訴外尾中が所長であつた事業所の売掛金、買掛金、材料等を清算もせずに、同訴外人のものにしたこと、同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金四万八千四百七円五十二銭の債権を持つていることになつているが、右売掛金等についての記載はなく、真実に反するものであること、及び右債権については、組合からは何等の通知もなく、清算もしていないことが認められ、成立に争のない乙第八号証の五、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外野口正雄は、昭和二十六年五月頃に、同年一月に遡つて脱退したこと、同訴外人が所長であつた事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金一万六千百七十五円二十四銭支払わなければならないことになつているのに、却つて組合から金五千余円を現金で返して貰つたこと、同訴外人は閉鎖勘定の清算をする意思を持つていないことが認められ、成立に争のない乙第九号証の四、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外小瀬善之助は、昭和二十七年二月十三日に脱退したものであるが、同訴外人が所長であつた事業所にあつた商品や原料を同訴外人が清算もせずに、そのまゝ引継いだこと、同事業所にあつた現金三、四千円を、そのまゝ同訴外人のものにしたこと、同事業所の閉鎖勘定によれば、組合が同訴外人に対して金十五万六千三百七十四円五十銭の債権を持つていることになつているが、右商品等についての記載はなく、真実に反するものであること、及び同訴外人はも早や何等清算するものはないと思つていること、成立に争のない乙第十号証の四、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外嘉田儀一郎は、昭和二十六年頃に脱退したものであるが、同訴外人が所長であつた事業所の買掛金四万六千八百三十八円、売掛金三万二千七百三十三円、商品金五万千四百四十円を、清算もせずに同訴外人がそのまゝ引継いだこと、同事業所の閉鎖勘定によれば、組合が同訴外人に対して金十一万六千六百六十三円の債権を持つていることになつているが、右買掛金についてはその額が違い、又商品についての記載はなく、真実に反するものであること、及び同訴外人はその清算をする必要がないと思つていることが認められ、成立に争のない乙第十一号証の五、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一、二によれば、訴外石井俊之助は、昭和二十七年一月一日に加入し、同年三月三十一日に脱退したものであるが、加入の際製品及び原材料を組合の職員訴外潮田某の立会で棚卸をし、組合に売渡すことにしたが、代金は貰つていないこと、脱退の際同訴外人が所長であつた事業所の商品をそのまゝ同訴外人のものにしていること、同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金千九百二十九円の債権を持つていることになつているのに、同訴外人はかゝる債権はないと思つていることが認められ、成立に争のない乙第十二号証の三、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外野村富三郎は昭和二十四年十月一日に加入し、昭和二十六年一月頃に脱退したものであるが、加入の際材料等を組合の職員訴外某と共に棚卸をして、組合に無償で引渡したことにしたこと、脱退の際同訴外人が所長であつた事業所にあつた商品、材料等を組合の事務員訴外某と共に棚卸をして、そのまゝ同訴外人が引継いだこと、同事業所の閉鎖勘定には、これらの商品、材料、現金については、何等の記載もないこと、そして同訴外人が組合に対して金八千二百九円の債権を持つていることになつているのに、清算をする意思がないことが認められ、成立に争のない乙第十三号証の五、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外菱垣音次郎は、昭和二十五年一月一日に加入し、昭和二十六年三月三十一日に脱退したものであるが、加入の際は商品を棚卸して形式的に組合に売渡すことにしたが、依然自己のものであると思つていたこと、代金は貰つていないこと、脱退の際は同訴外人が所長であつた事業所の商品を、単独で棚卸をして組合に報告したのみで、そのまゝ同訴外人のものとしたこと、同訴外人は帳簿上はとも角、当然にその所有になると思つていること、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金四万三千八百七十九円四十七銭の債権を持つていることになつているが、帳簿上の操作で真実と違い、貰う権利はないと思つていることが認められ、成立に争のない乙第十四号証の五、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外藤田留次郎は、昭和二十五年一月一日に加入し、昭和二十六年三月末頃に脱退したものであるが、加入の際材料等を組合の職員訴外某と共に棚卸をして組合に売渡すことにしたが、代金の授受はなかつたこと、脱退の際訴外藤田が所長であつた事業所にあつた材料等は、棚卸はしたが代金の決済もせずに、そのまゝ同訴外人のものとしたこと、いわゆる後記現金管理の残金はそのまゝ返して貰つたこと、同事業所にあつた現金は、そのまゝ同訴外人のものにしたこと、及び同事業所の閉鎖勘定には、材料等や現金については何等の記載もないことが認められ、成立に争のない乙第十五号証の三、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外沢田松造は、昭和二十五年十二月末頃に脱退したものであるが、脱退時の在庫品については何等の清算もせずに、そのまゝ同訴外人が引継いだこと、脱退後に組合から清算書のようなものが送付されたが、帳簿を整理するためのものと思つて気にもしていないこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金七万二千三百四十二円七十銭の債権を持つていることになつているのに、同訴外人はかゝる債権はないと思つていることが認められ、成立に争のない乙第十六号証の三、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める同号証の一によれば、訴外林一男は、同年一月十五日に同月一日に遡つて加入し、同年十二月三十一日に脱退したものであるが、加入の際組合の職員等が「組合にたゞ出すだけで、脱退の時はそのまゝ返す、組合で取つてしまうものではない」旨言つたので、自己の損得に関係がなく、個人営業の当時と変りがなく、脱退の時はそのまゝ個人営業になれるという考えで加入したこと、加入の際の棚卸は、単独でして報告したところそのまゝ認められたこと、代金は貰つていないこと、脱退の際は同訴外人が所長であつた事業所にあつた商品及び現金を、棚卸もせずにそのまゝ同訴外人のものとしたこと、及び同事業所の閉鎖勘定にはこれら商品や現金についての記載はなく、同訴外人が組合に対して金三千二百五十七円の債権を持つていることになつているのに、貰う権利はないと思つていることが認められ、証人勝山捨次郎の証言によつて真正に成立したものと認める乙第十七号証に、同証人の証言を綜合すれば、訴外勝山捨次郎は、同年一月頃に加入し、昭和二十六年三月三十一日に脱退したものであるが、加入の際大西理事長が、京都市右京区西院の某寺で、青果業者等に対して「商品等は組合で買取つた形式に一応するし、什器備品等は管理物件として組合に無償で譲渡したことにするが、これは単に形式だけのことで、脱退する時にはそのまゝ返す」旨説明したので、そのつもりで加入したこと、加入の際の商品等の棚卸は、組合の事務員訴外某の立会でしたが、組合へ売渡す意思はなかつたこと、脱退の際は、いわゆる後記現金管理の残金を返して貰つただけで、清算はしなかつたこと、その際、訴外組合の理事である訴外大橋良雄(以下単に大橋理事と略称し、他の理事の場合も同様とする)が「これで組合との間の清算は全部済んだ」と言つたこと、訴外勝山が所長であつた事業所にあつた商品等は、同訴外人がそのまゝ引継いだこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金七万三千八百七十四円九十六銭の債権を持つていることになつているのに、組合からは何の連絡もなく、同訴外人は単なる帳簿上の操作と思つていることが認められ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第十八号証によれば、訴外前川友二は、昭和二十四年末頃に加入し、昭和二十六年一月三十一日に脱退したものであるが、加入の際は単独で棚卸をして商品を組合に売渡したことにしたが、それは組合に加入するために形式的にそうしたゞけであつて、真実売渡す意思はなかつたこと、売渡代金は貰つていないこと、脱退の際も同訴外人が所長であつた事業所の商品を単独で棚卸をし、棚卸表を組合に渡したゞけで、清算もせずにそのまゝ同訴外人のものとしたこと、同事業所の閉鎖勘定については何も知らず、組合からは何の通知もないこと、及び同訴外人としては、組合のやりくりと思つていることが認められ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第十九号証によれば、訴外松井数枝は昭和二十五年六月頃に加入し、昭和二十六年二月二十八日に脱退したものであるが、加入の際材料等は棚卸をして組合に売渡したことにしたが、加入の直前頃に堀理事、大橋理事が、「材料は棚卸をして組合に売却することにして貰い、道具類は組合に賃貸したことにして貰うが、それは形式だけであつて、財産が組合のものになるわけではなく、又売上金が組合のものになるわけでもない、貴方の商売はこれまでどおり自由にやつていただけばよい」旨説明したゝめ、真実売渡す意思はなかつたこと、脱退の際同訴外人が所長であつた事業所の商品及び現金は、何等の手続もせずに同訴外人のものにしたこと、清算をするというようなことは考えたこともないこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金三万八千三百四十四円五十銭の債権を持つていることになつているのに、同訴外人は何のことか知らず、又清算をする気がないことが認められ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第二十号証によれば、訴外若林政元は、昭和二十四年十月頃に加入し、昭和二十六年八月三十一日に脱退したものであるが、加入前に大西理事長に組合のことを尋ねた際、同理事長が「組合に加入すれば、貴方の店にある棚卸資産や事業用財産は組合のものになり、貴方は給料取になるわけですが、これはあくまでも形式だけのもので、実際は今までどおり個人として営業してよい」と言つたので、材料は組合に売渡した形にしたが、真実売渡す意思はなかつたこと、脱退時同訴外人が所長であつた事業所にあつた商品は、同訴外人が単独で棚卸をし、そのまゝ同訴外人のものにしたこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば組合が同訴外人に対して金二万千一円五十五銭の債権を持つていることになつているが、これは同訴外人が滞納している後記組合費の額と一致していることが認められ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第二十一号証の一、二によれば、訴外鹿野喜一郎は、昭和二十四年十月頃に加入し、昭和二十六年七月三十一日に脱退したものであるが、加入の際原材料等の棚卸は同訴外人が単独でしたこと、そしてそれを組合に売渡す形式をとつたが、真実売渡す意思はなかつたこと、脱退の際は同訴外人が所長であつた事業所にあつた材料等は、棚卸もせずにそのまゝ同訴外人が引継いだこと、いわゆる後記現金管理の残金は、支払依頼書によつて全部引出して零としたこと、及び同事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金四万四千八百四十一円八十八銭の債権を持つていることになつているのに、同訴外人はこのことを知らず、決済する考がないことが認められ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第二十三号証によれば、訟外北村庄一郎は、昭和二十五年一月頃に加入し、昭和二十六年六月三十日に脱退したものであるが、加入の際大橋理事が「商品は棚卸をして組合が買取つたことにするが、これは税務署に対する関係で形式的にそうするだけだし、什器備品、店舖は組合が賃借したことにするが、賃料を払うわけではない、個人営業と別に変つたことはない」と言つたので、商品を組合に売渡す形式はとつたが、真実売渡す意思はなかつたこと、脱退の際大橋理事が「貴方には一万いくら返す金がある」と言つていたこと、その後組合の職員訴外某が訴外北村に対し、「大橋理事が言つた一万いくらの金は、帳簿上そうしているのであるから、税務署の者が来て尋ねたら組合からこれだけ返して貰う金があると言つてくれ」という趣旨のことを言つたこと、同訴外人が所長であつた事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人が組合に対して金一万八千八百七十円二十銭の債権を持つていることになつているのに、同訴外人としては、かゝる権利はないと思つていることが認められ、成立に争のない乙第二十六号証の三、原告高野本人訊問の結果によつて真正に成立したものと認める同号証の一、二に、同原告本人訊問の結果を綜合すれば、同原告は、昭和二十五年一月頃に加入し、昭和二十六年末頃に脱退したものであるが、加入の際組合本部で堀理事が、「組合に加入すれば、貴方は給料取ということになるが、そのためには貴方の店の什器備品、原材料等を組合に出して貰うことにしなければならない、しかしこれは帳簿上だけのことであつて、これらの物は引続き貴方のものであることに変りはなく、貴方は何時でも好きな時に脱退してよく、その時にはそのまま貴方に返してあげる」と言つたので、商品、原材料等は同原告が単独で棚卸をして組合に売渡したことにしたが、真実売渡す意思はなかつたこと、その代金は貰つていないこと、脱退の際も商品、原材料等の棚卸は同原告が単独でして、そのまゝ引継いだこと、同原告が所長であつた事業所の現金をそのまゝ同原告のものにしたこと、いわゆる後記現金管理の残金は、全額返して貰つたこと、同事業所の閉鎖勘定によれば、組合が同原告に対して金八十四万八百十九円四十七銭の債権を持つていたが、その後に同原告が合計金五十四万四千六百九十八円を支払つたことになつているのに、同原告はこれを全然知らないこと、昭和二十七年六月頃に同原告が組合へ行つた際、組合の職員である訴外某が「組合の方では貴方に貸があることになつているが、これをそのまゝにしておいたのでは恰好が悪いから、貴方から支払を受けたことにして整理しておく、貴方の方も心得ておいて貰いたい」と言つて、領収証数枚を手渡したこと、及び乙第二十六号証の三の領収証が右のとおり手渡された領収証であることが認められ、原告山口本人訊問の結果及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第三十六号証によれば、同原告は昭和二十五年一月一日に加入したものであるところ、加入の際材料等を棚卸して組合に売渡したが、その代金は貰つていないことが認められ、更に証人志賀美夫の証言によつて真正に成立したものと認める乙第二十二号証に、同証人の証言を綜合すれば、訴外組合は昭和二十六年六月頃に、現在都マートになつている京都市上京区釜座通丸太町上る所在の建物を買受けて市場にし、店舖を希望者に貸付ける旨広告したことや訴外桝村島三がその申込をしたところ、大西理事長及び大森理事等が「店舖を借りる人は皆組合に加入して貰いたい、権利金として金五万五千円支払つて貰いたい、家賃は確実に払つてくれ」等と言つたので、これを了承して店舖を賃借し、組合に加入したこと、動力線工事、ガス工事、営業用機械設備、造作、及び商品等の仕入は、各賃借人がその費用で随意にしたこと、訴外桝村は、「組合に加入するという報告をしなければならないから商品や什器備品等の品名、数量、及び価格を組合へ報告してくれ」とのことであつたので、単独で品名、価格等を調査して記入し、これとその価格の合計額を記載した領収証とを組合に渡したが、現物出資をしたわけでもなく、組合に売渡したのでもないと思つていること、従つて代金も貰つていないこと、賃借人は昭和二十七年三月頃に全員脱退したが、その際各自棚卸表を作成して提出したのみで、清算もせずに商品、売掛金、買掛金等を引継いだこと、及びいわゆる後記現金管理の残金をそのまゝ返して貰つたことが認められ、証人山口啓二郎、同大西藤一郎(第一回)、同大西左相、同大橋良雄の各証言の中、右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定を動かすに足る証拠はない。而して右認定事実に、証人志賀美夫の証言によつて認められる、被告等が乙号証として提出した前記各書証(但し、原告等のものを除く)は、被告等が訴外組合の脱退者を地域別、脱退年別に区分し、比較的加入期間の長い者を対象として調査したものであること、及び弁論の全趣旨を綜合して考えると、訴外組合と原告等を含めたすべての組合員との間の、加入時及び脱退時における商品、原材料等の譲渡契約は、いずれも真実譲渡する意思がないことを相互に認識してなされた、いわゆる通謀虚偽表示であること、及びその間には全然代金の授受が行われていないことが認められ、証人井上一雄、同弘田誠克、同安田金吾、同宮角義輝、同大西藤一郎(第一回)、同大橋良雄、同大西左相の各証言及び原告山口本人訊問の結果の中、右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

次に被告等主張の四及び五の点について考えるに、前顕乙第一、二号証の各一、乙第四号証の二、乙第五乃至第十二号証の各一、(但し、乙第十号証の一については一部)乙第十四、五号証の各一、乙第十六号証の一、三、乙第十七乃至第二十号証、乙第二十一号証の一、乙第二十二号証、乙第二十六号証の一、乙第三十六号証、成立に争のない乙第一号証の二乃至四、乙第二号の四、五、乙第三号証の三乃至八、乙第四号証の三乃至五、乙第五号証の二乃至四、乙第六号証の三、四、六及び十二乃至十八、乙第八号証の三、四、乙第十号証の二、三、五、乙第十一号証の四、六、乙第十三号証の二、四、乙第十四号証の二乃至四、乙第三十号証の一、二、乙第三十二乃至第三十四号証、乙第三十五号証の一乃至三に、証人大西藤一郎(二回共)、同大西左相、同大橋良雄、同政道吉太郎の各証言の一部、及び原告山口本人訊問の結果の一部を綜合すれば、訴外組合はその設立当時である昭和二十四年十月頃から昭和二十六年一月頃までは、各事業所の売上金等の収入金をその所長である組合員に保管させ、その中から仕入その他の経費を所長をして自由に支出させ、組合員や従業員に対する給料(以下単に給料と略称する)は、組合本部において給料支払計算書を作成してこれを空の給料袋に入れ、これを各事業所に送付し、これと引換に給料の受取書と源泉徴収税額に相当する現金を交付させ、各所長の保管する収入金の中から適宜とらせて支給したことにし、組合が組合員個人から賃借したことにしている、什器備品、店舖等の賃料(以下単に賃料と略称する)は、組合から現実に支払わないのに、支払われたように記帳させ、組合本部の職員の給料や組合本部の諸経費に充てるために、組合費とか定額とか本部経費とかいう名目で各所長の保管する収入金の中から毎月一定の金を現金で組合本部に送付させ(以下この金のことを組合費と略称する)、又各事業所に備える帳簿及び伝票等を実費で買わせ、その代金(以上単に帳簿代と略称する)を右収入金の中から現金で組合本部に送付させ、残余の収入金は各所長に自由に処分させ、組合本部においては単に記帳整理をしていたのみであつたこと、昭和二十五年十月末頃に九原則が発表され、その頃国税庁の訴外村山所得税課長が、いわゆる現金管理をしなければ企業組合とは認められない旨説明したことから、訴外組合においても現金管理をすることゝなり、大西理事長、堀、大森、大橋各理事等が組合員を集めて、その説明をしたのであるが、その内容は「現金管理をしなければならないから、売上金は組合へ送付して貰わねばならない、しかし送付した金は、給料とか仕入資金とかいうことにして何時でもお返しするから、決して心配しないで貰いたい、組合では各事業所間の混同を避けるために、三和銀行に組合員毎の口座を設けて、出入を確実にして貰うように話しているから、現金管理が始つたといつてもそれは丁度貯金をしているようなもので、何時でも引出せる、脱退される時には、組合費や帳簿代を差引いた残金は全部返す、結局は皆さんの手許に帰るのだから是非協力して欲しい」というのであつたこと、組合ではその頃に、別紙第一、二の書面を作成した、各組合員に配布したこと、昭和二十六年一月頃からは、組合員をして各事業所の収入金と、これを記載した送金票二通を組合本部に送付させ、組合本部においては、送金票の一通に受領印を押してこれを組合員に返し、他の一通に基いて各事業所別総勘定元帳の備金口座の借方欄及び各事業所別の備金カードの入金欄に記帳し、現金は理事長名義で預金したりして保管し、仕入代金、給料、賃料、その他の経費は、当該事業所からの送金額の限度内において、その所長の発行する支払依頼書のみに基いて無条件に払出し、これを右口座の貸方欄及び備金カードの出金欄に記帳し、その払出の責任を当該所長に負わせ、右残額が給料額に満たないときは、送金があるまで当該事業所関係の給料を遅払としておき、組合費や帳簿代等は右同様の支払依頼書に基いて送金額から控除し、これを右備金カードの出金欄に記帳していたこと、右備金カードは、訴外株式会社三和銀行に各事業所別の口座を設け、これに現金管理のために送付された金を預け入れる予定であつたのが、同訴外銀行で断られたゝめ、理事長名義で一括して預金し、その代りとして各事業所の送金残高を判然するために設けられたものであること、訴外若林政元は、組合費を納めないということを理由として、組合から脱退を勧告されたこと、訴外林一男、同勝山捨次郎、同中西昭三郎、同前沢新太郎が所長であつた各事業所の閉鎖勘定によれば、同訴外人等が組合に対して債権を持つていることになつているのに、同訴外人等が脱退後に組合費を納めていること、及び訴外組合の組合員に対する配当は、出資金額によるものと、事業所毎の営業成績によるものとの二本立になつているのに、少くとも昭和二十九年三月三十一日までには、全然配当をしていないことが認められ、右認定に反する乙第一号証の六乃至八、乙第四号証の一、九、十、乙第十号証の一の一部、及び証人大西藤一郎(第一回)、同大西左相、同大橋良雄、同政道吉太郎の各証言の一部、証人宮角義輝、同井上一雄、同弘田誠克、同安田金吾の各証言、並に原告山口本人訊問の結果の一部は、信用できないし、他に右認定を動かすに足る証拠はない。而して右認定事実に弁論の全趣旨を綜合して考えると、各事業所の売上金等の収入金は、組合費、帳簿代等を除き、すべてその所長である組合員が自由に処分することができ、組合はこれに対して何等の権限も持つていないこと、及び組合が自由に処分することができるのは、組合費、帳簿代等のみであることが認められ、右認定に反する証人大西藤一郎(第一回)、同大橋良雄の各証言の一部は信用できないし、他にこれを左右するに足る証拠はない。

よつて進んで被告等主張の六の点について考えるに、前顕乙第一号証の一、乙第二号証の三、乙第三号証の一、乙第四号証の二、乙第七号証の一、乙第十七乃至第二十号証、乙第二十一号証の一、乙第二十二号証、乙第二十三号証、乙第二十六号証の一を綜合すれば、訴外組合は、各事業所の帳簿及び伝票等の記帳を指導していたのみで、事業自体については何等の統制乃至監督をも行つていないこと、及び組合員等はこれを当然のことゝしてあやしんでもいないことが認められ、右認定に反する証人大西藤一郎(第一回)、同大西左相、同大橋良雄、同安田金吾、同井上一雄の各証言は信用できないし、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

そこで以上の認定事実を綜合して考えると、原告等は訴外組合の組合員として、その事業に従事していたような形式をとつてはいたが、実質的には専ら自己個人のためにする意思をもつて事業活動を行い、その成果を直接自己に帰属させていたもの、換言すれば、法人名義を仮装して個人として事業を営んでいたものというべきであるから、その事業から生じた所得について所得税を納める義務があるものといわなければならないのである。

然るところ原告等は、本件処分の課税総所得金額や所得税額については、これを明らかに争わないから、自白したものと看做すべきである。

そうすると、本件処分は適法であり、原告等の請求はその理由がないから、これを棄却することゝし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条、第九十五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木英五郎 石崎甚八 坂本武志)

(別紙省略)

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