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京都地方裁判所 昭和27年(ワ)1519号 判決 1955年3月17日

原告 松本敏夫 外九二九名

被告 関西電力株式会社

主文

被告は、原告中西杉松、同井関昭二郎、同石川健市に対し、別紙目録(ロ)記載の金員を、その余の原告等に対し、別紙目録記載の金員を、それぞれ支払え。

原告中西杉松、同井関昭二郎、同石川健市のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告等において第一項記載の金員の三分の一に相当する金員(但し、その金員が金十円以下の端数を有する場合においては、これを切捨てるものとする)の担保を供するときは、それぞれ仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、被告は原告等に対し別紙目録記載の金員(但し、原告中西杉松、同井関昭二郎、同石川健市については、別紙目録(イ)記載の金員、以下同じ)をそれぞれ支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決竝に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告等はそれぞれ別紙目録記載の職場に勤務して、その記載の業務に従事している被告の従業員で、日本電気産業労働組合(以下単に電産と略称する)関西地方本部京都府支部の組合員であるところ、電産は昭和二十七年三月二十八日以降当時無協約状態にあつた労働協約の改訂及び賃金のベース・アツプを要求して、被告と十数回にわたり団体交渉をなし、更には中央労働委員会の調停に付されもしたが、いずれも不調に終つたゝめ、遂に同年九月十六日以降電源スト等の合法的実力行使を実施し、その一環として電産京都府支部は、電産関西地方本部の指令を確認し、電産京都府支部斗争指令により同年十月六日から十一日までの間、いわゆる上部遮断スト(以下単に上部遮断と略称する)を実施したのである。しかしながら上部遮断を実施したとはいえ、原告等の大部分の者は、平常と何等変ることなく勤務したのであり、又他の一部の者も所定の勤務時間を平常どおり勤務したのであるのにもかゝわらず、被告は一方的に上部遮断期間中の原告等の就業は、被告の指揮命令を排除して勝手に業務に従事したもので、被告の意図に従つて就業したものではないのであるから、賃金は全額支払う必要がないが、一部の職場では平常どおりの業務が行われていたことを確認するので、零と百との中間で五十パーセントと認定したと説明し、それぞれ別紙目録記載の金員、すなわち上部遮断期間中の基準労働賃金の半額を、それぞれの原告の賃金から差引き、履行期を過ぎた今日までその支払をしない、よつてこれが支払を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の抗弁事実を否認し、被告は同月六日の団体交渉の席上で、賃金は「五十パーセント以上」差引く旨申入れたというが「五十パーセント」差引くと申入れたものである、上部遮断の実態は、被告の主張するようなものではない、被告の主張は、組合の指令を曲解し、事実を歪曲したものである、すなわち組合指令第二十三号(甲第六号証)は、単に給電給与指令を除き組合員と非組合員(会社側利益代表者の意、以下同じ)との遮断を指令したのみであつて、これは争議行為の一種ではあるが、同盟罷業ではなく、非組合員とこれに直接つながる立場にある組合員との間の一部の業務、例えば非組合員である課長と直接の交渉をもつ組合員である係長との間における、報告書、禀議書等の一部の書類の一時的な運行の遮断を目的としたものであり、かつそれに限定されていたものである、しかも被告の業務は、原則として会社内規(営業々務運行要綱等、以下同じ)によつて行われており、直接非組合員の指揮命令によつて行われるものは極く一部であり、特に発変電所、営業店等においては、非組合員には無関係で完全に業務が行われているのであつて、上部遮断をしても何等の変りもなかつたのである、従つて、その他の業務は、すべて日常どおり完全に運行され、適切な方法によつて処理されていたのであつて、被告の主張するように、全組合員が一団となつて非組合員と組合員との間の一切の意思疏通を遮断することを目的としたり、そのように実施したりしたものではなく、又被告の有機的機構の外で業務を実施したものでもないのである、要するに、上部遮断を実施したのは、前記のとおり非組合員に直接つながる立場にある一部の原告等のみであつて、大部分の原告等は単に上部遮断を実施した組合に所属していたゞけであつて、これを実施したわけではなく、就業規則に定められた一日拘束八時間(但し、土曜日は四時間)の勤務時間を平常どおり就業し、平常と何等異るところがなかつたのであるから、これら大部分の原告等に債務不履行の責任がある筈がない、もとより組合員である原告等が争議団を構成している以上、指令に忠実であるべきことは当然であるが、同盟罷業でさえ組合の決議によつて一部の職場においてのみ実施されることは往々あることであつて、争議団が全組合員によつて構成されているということは、直ちに全組合員が争議の実施者であるということにはならないのである、仮に原告等が共同して上部遮断を実施したものであるとしても、原告等の労務提供の債務は、各原告が個々別々に負担しているのであつて、連帯債務ではないのであるから、個々の債務を日常どおり完全に履行した大部分の原告等に債務不履行の責任があろう筈がないのである、被告は無意識裡に共同不法行為の理論と混同してか、切同債務不履行というような法理があろう筈もないのに、各原告についての個別的な不履行の事実を主張することもなく、単純に原告等の労務の提供は債務の本旨に従わないものであると主張しているが、かゝる主張は、それ自体理由がないものと考えられる、只問題となるのは、上部遮断を実施した原告等についてゞあるが、これら一部の原告等といえども、非組合員との間の文書、指示の授受を拒否して局部的な特定業務の停滞を来させたゞけであつて、その他の業務は他の大部分の原告等と同様会社内規に従つて、平常どおり実施し、殊に就業規則に定められた勤務時間を平常どおり就業し、少くとも債務の本旨に従つた労務の提供をしているのであるから、債務不履行とはならないのである、仮に労働の質や量の点において不完全なところがあるとしても、現行の賃金制度は、労働時間を基準にして賃金を算出することゝなつており、出来高払制ではないのであるから、就業規則に定められた勤務時間を平常どおり就業した以上、賃金差引の理由はないのである、従つて被告の行為は労働基準法第二十四条に違反するものである、仮にそうではないとしても、被告はこれら一部の原告等についても個別的に如何なる不履行の事実があつかを主張せずに、前記のとおり共同債務不履行なる誤つた法理に基く主張をしているのであるから、主張自体理由がないものと考えられる、仮にそうではないとしても、被告の主張する業務の阻害は、余り緊急を要しない机上業務の若干の停滞を捉えて誇張したり、無根の事実を述べたりしており、しかも具体的に支障を来した事実は何一つ主張しておらず、単に抽象的な可能性を主張しているに過ぎないのであるから、何等反ばくする必要がないのであるが、事実に則しない主張や誇張があるのでこれをさけるために一言すれば、報告書、禀議書等の一部の書類の一時的な停滞があつたことは認めるが、そのために日常業務の運営に支障を来したということはなく、統計その他に関する日報、旬報類は、営業所、電力所ともに正常に作成しており、提出期日は多少遅延したが、書類の内容についてはその都度電話で報告したのみならず、これらの日報類は非組合員が指揮命令をする直接の資料にはならないものが大部分であるから、業務の運行には何等の支障も来していないのであり、上部遮断期間中に持たれるべきであつた会議は、機構改革による営業所、電力所間の給電上の打合会、電力所、支店現業係間の工事予算の打合会等であつて、これら電力供給に必要な会議は現実に開かれており、電気事業の本質である電力の供給には何等の支障もなかつたのであり、更に資材の倉出、倉入は、組合員である課長又は係長の承認によつて行つたのであり、しかも後日所長の決裁をえているのであつて、このように事後承認の形で倉出、倉入が行われることは、緊急の場合における慣例となつているのであるから、このために支障を招来したというような事実はなかつたのである、従つて非組合員等が時宜に即した計画、施策をすること、指示命令をし又はその変更をすることができなかつたとか、計画的に業務が運行できなかつたとか、サービスが低下したというようなことはなかつたのである、又被告主張の事実中、

(一)  は、支店長及び次長が非組合員に対してのみ指揮命令できたのにすぎなかつたというが、支店長や次長が直接組合員に対して命令するというようなことは極めて稀なことであつて、通常は課長、係長を通じて指揮命令が下されるのである、又同支店の九課長及び三係長の担当業務が、ヴエールの向側で葬り去られたというが、全くの誇張であり、電気事業の正常な運営を阻害した事実はない、

(二)  は、一週間の遅延が上部遮断によるものといつているが、これは他の理由による遅延であつて上部遮断とは関係がなかつたのである、被告の主張は悪らつな陰謀に外ならない、考査係では、上部遮断期間中は、既に行つた考査(調査及び監査の意、以下同じ)の整理と今後の準備をしていたのであるから、業務の停滞はなかつたのである、

(三)  は、処理件数が平常の約五分の一に減じたというが、そのような事実は全くなく、事実を無視した被告の独善的な断定にすぎない、又乗用車運転手が運転業務に従事しなかつたのは、上部遮断期間中の二日間のみであり、その二日間も平常酷使していた自動車の修理及び整備を行つたのであるから、会社の業務を行わなかつたということにはならない、受付人についての主張は全部否認する、

(四)  は、同課に勤務している組合員が平常どおりの業務を遂行していたし、重大な労務管理上の連絡は、各所属長が電話によつて処理していたので、支障を来していないのである、

(五)  は、課長の捺印はなかつたが、日常の伝票処理、記帳業務は平常どおり行われ、課長が資産の変動及び収支の状況を把握するために、係員の机上にある書類を随時閲覧していたので、経理業務の遂行に支障は起らず、殊に当時実施中であつた昭和二十七年度上期の決算が完全に遂行されたことをみても、業務の停滞のなかつたことが明らかである、

(六)  は、資材の倉出、倉入の実際は前記のとおりであり、又資材課の業務はその性質上、決裁ずみの書類を係員が処理するのに少くとも一週間は必要であつて、上部遮断期間中はこれら決裁ずみの書類の処理をしたのであり、又見積徴収及び決定等の中には処理できないものもあつたが、緊急なものは被告の主張するとおり、課長自ら処理していたし、通常の業務は会社内規に従つて遂行したので、業務上障害はなかつた、なお貯蔵品の管理は、課長ではなく係員が担当しているのであるから、被告の主張は不当であり、不安な状態におとし入れられたというのは単なる危惧にすぎないものである、

(七)  は、サービス業務は平常からなされており、上部遮断によつてこれが行えなかつたということはなく、擅用業務(電力の不正使用に関する業務、以下同じ)のための課長の出張は、虚構の事実の主張であり、仮に出張したとしても三日間で被告の主張する五営業所管内の擅用業務の実態調査や指導をすることは極めて困難であつて、おそらくできもしないことであろう、現に宮津営業所へは上記遮断期間中に京都支店サービス係長が出張して、この問題を処理しており、何等の支障もなかつたことが報告されている、又営業統計報告に所属長の捺印を受けることはできなかつたが、その内容はその都度本店に報告されたのであるから、業務に支障はなかつたし、需要家からの照会があつたとしても過去の実績により回答がなされうる訳であるから、これによつて公共の福祉を害するようなことは起つていない、若し公共の福祉を害するようなことが起つたとすれば、社会問題として取上げられていた筈である。

(八)  は、料金課の報告書は、殆んどが数字的な集計表であり、課長はこれを確認する程度のもので、課長の意向を伺つて改変するというようなことはなく、いずれも上部遮断後に承認をえているのであるから、会社の意思に反して勝手に処理したのではない、又重要な事項については課長が自ら連絡にあたり、処理されたゝめ、具体的には何等の支障もなかつたのである。

(九)  は、新制度業務運営要綱は、既に同月一日から実施され、実施前から再三説明会が開かれており、殊更に同月六日にその指示会議を開かなければ業務の運営に支障を及ぼすようなことはなかつたのであり、かつ緊急な問題や疑義については、組合員間において連絡が行われたゝめ、業務の運営に支障を来した事実はない。

(十)  は、電気課の業務の性質上緊急切迫した工事を施行しているのではないから、会議がおくれたゝめに送電上支障を来したものは皆無であり、上部遮断期間中は工事実施中のものを施行し、次期施行予定のものゝ設計をしていたのであつて、日常と何等変つたことはなかつた。

(十一)  は、課長が係長や保線所長の決裁箱から必要書類を選び、急を要するものについては自ら処理することは、日常行われており、上部遮断中に限つたことではなく、当然のことであり、単に係長等が課長の机に書類をのせるか、課長が係長の机まで足を運ぶかの相違にすぎない、従つて業務が停滞したと断定することはできないのである、又業務が二、三日遅れることは日常よくあることであつて、設計図の作成が二、三日遅れてもそのために工事に支障を招き電力の供給に障害を与えたことはなかつた、日誌はその日その日の記録であつて、日誌の内容によつて作業が左右されたり、指示命令をされたりするものではなく、従つて日誌が遅れたゝめに業務に支障を来したことはなかつた。

(十二)  は、禀議書三通が遅れたことはあるが、平常でも所長が不在等のために決裁の遅れることは度々あることであつて、そのために多大な業務に遅延が生じたとは考えられないのである、又集金回収状況報告書は毎月五日に同支店料金課に提出するのが原則であるが、毎月二、三日は遅延しており、殊に同月分の報告書は、所長の決裁ができなかつたゝめに送付が遅延したのであつて、作成すること自体が遅延したのではない、その他の報告事項でも緊急のものや総括的な数字は、逐一電話によつて連絡報告されたので、事務は遅延することなく処理された、従つて、書類の一部が一時停滞したことはあつても、業務運営に支障を及ぼしたという事実はない、新機構による業務の運行については、所長の指示を待つまでもなく、業務運行要綱によつて運行され、明確でない点は当該係員間の連絡により、指示されたとおりに運営し、後日支障を来したというようなこともなかつた。

(十三)  は、負担金の収入が遅れたのは、負担金業務が遅れたゝめではなく、所長の決裁がえられなかつたゝであり、平常でも収入が遅れることはありうることで、そのために業務に支障を来したことはなかつた、又配電課においては工事負担金の計算等は遅滞なく行われ、需要家に対して支障を与えたというような事実はなかつた。

(十四)  は、所長の決裁だけが遅れたことは認めるが、このようなことは通常の場合においても度々起ることであつて、このためにサービスに甚大な影響を及ぼしたと即断することは不当であり、被告が具体的な支障の事実を挙げていないことを考え併せると、殊更とりあげるに足らない問題である。

(十五)  は、組合員は営業所会議を持つことすら知らなかつたし、又会社側から会議を持つから上部遮断を中止してくれというような申入れを受けてもいないのである、しかも会議の議題は派生的に生ずる運営についての打合せであつたのに過ぎないと思われ、かつ予定であつたのであつて、会議がもてなかつたゝめに電気供業務に支障を及ぼした事実はない。

その他電気事業の公共性についての被告の主張は、独善的な誇張であつて反ばくの必要がない、仮に具体的な事実の主張があり、それが債務不履行になるとしても、その形態は、履行遅滞であるといわなければならない、けだし前記のとおり一部の書類の運行が一時的に停滞したのに止まり、被告の業務である発変電には何等の支障も来していないからである、そうすると、その法的効果としては、契約の解除及び遅滞による損害賠償の権利があるのみであるところ、上記のような上部遮断は正当な争議行為であるのであるから、被告がこれらの権利を行使することができないことは、法律上疑がなく、又貨金を差引く根拠はどこにもないのである。次に被告は、原告等が供出した労力を百分の五十以下零と判定したというが、仮に原告等に債務不履行の責任があり、貨金の差引ができるとしても、提供した労働が無価値となるわけではなく、一部不履行の部分だけの責任があるのにすぎないのである、従つて一日八時間の労働時間中における労働の質と量とから割出して、何時間分の不履行があつたかを客観的な資料に基き、合理的な根拠によつて実証してこそ始めて賃金差引は正当視されるのである、漠然と労働本来の性質を一年以上失つているからというような不合理なことは許されない。被告は労働基準法第二十六条を援用して社会観念に従つたというが、同条は百分の六十という数的基準を立法的に解決しているだけであつて、本件のような事案に援用することはできないのである、なお、被告は、会社内規は単に業務処理の準則を示すのみのものであるから、それ自体では死文であり、云々と主張するが、被告のような大企業にあつては、一々非組合員によつて具体的な業務命令が出され、それによつて担当業務を遂行するというようなことは、殆どありうべからざることである、職階制によつて組織的に担当業務が分担され、その業務内容は内規等によつて予め継続的な計画に基いて定められているのであり、通常の事務的な日常業務は一々非組合員の具体的な指図を仰いで行うというようなことはなく、予定された一貫した業務を日々規則的に処理してゆくにすぎない、従つて内規がそれ自体では死文であるというようなことは到底言えないのである、却つて会社の組織的、継続的、包括的な業務命令なのである、もつとも原告等としても内規だけで業務が運行されるものとは考えないが、内規の運用については業務上多くの慣例があり、その慣例によつて内規は有機的に運用されるのである、従つて内規に基き慣例に従つて日常業務を処理することは、決して会社の指揮命令に反するものではなく、業務命令の忠実なる履行である、又被告は、電力所及び電気関係部門には同年九月一日に、営業所等には同年十月一日に、それぞれ機構改革と業務運行方法の改革が行われた矢先であつたから、云々と主張するが、電力所は旧配電局電気課の業務をそのまゝ承継し、従業員も殆ど転属になつているので、能率は低下していないし、業務は発変電所保守運転規程、給電規程、業務運行要綱等に基いて遂行され、電力所の主任務である発変電の業務には支障がなかつた、又営業所においては配電、営業関係の業務処理方法が一部変更されたが、それは営業所長がしたのではなく、業務運行要綱に基いて変更されたのであるから、疑義はそれぞれの業務担当者である係員相互の連絡によつて充分解明されうるものであつて、非組合員の指揮命令を必要としなかつたのである、従つて、特に他の事業に倍して非組合員の意思が組合員に疏通浸透しなければならなかつたというようなことはなかつたのである、更に被告は電力事情の不安定からしても云々と主張するが、電力事情の不安定による需給上の操作は、日常業務としてすべて給電所が行い、その指揮命令は正常な系統に従つて遅滞なく行われているものであり、又需要家への連絡及びサービスについても内規に定められているとおり、給電指令に基き非組合員の指揮命令がなくても自動的に行いうるようになつており、しかも給電関係は上部遮断の指令から除外していたのであるから、この点についての被告の主張は当らないのであると述べ、再抗弁として、仮に賃金差引の根拠がありうるとしても、上部遮断は一部机上業務の怠業にすぎず、解除後の労働強化によつて、書類の停滞が一掃され、何等電気事業に支障を来さなかつたのであるから、履行は追完され、履行遅滞は治癒されたものである、従つて、賃金差引の理由は消滅したものというべきであると述べた。(立証省略)

被告訟訴代理人は、原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告等主張の事実中、原告等がそれぞれその主張の職場に勤務して、その主張の業務に従事している被告の従業員で、その主張の労働組合の組合員であること、電産が原告等主張の要求を掲げて、その主張のとおりの団体行動をしたこと、電産京都府支部が原告等主張の指令によつて、その主張の期間、いわゆる上部遮断を実施したこと、被告が原告等主張のとおりの金額をそれぞれの原告の賃金から差引いたこと、及びその金額が後記三名の原告等以外の原告等の上部遮断期間中の基準労働賃金の半額であることは認めるが、その余の事実はすべて否認する、原告等の中、乗用車運転手である中西杉松、井関昭二郎、石川健市の三名については、上部遮断期間中の基準労働賃金の全額を差引いたものである、と述べ、抗弁として、被告が右のように賃金を差引いたのは、原告等がいわゆる上部遮断を実施して債務の本旨に従つた労務を給付しなかつたからである、すなわち、労働法上の労働は、労働者がその恣意によつて労力を供出することをいうものでなく、使用者の指揮命令に従つて労働力を提供すること、すなわちいわゆる従属労働をさすものであることは一般に是認されているところであつて、労働契約においてはかゝる労働力の提供を価値があるものとしてそれにその報酬としての賃金を支払うのであるから、使用者の指揮命令に従わない労働力の供出は、労働契約上価値がなく、従つて債務の履行があつたものとはいえないのである、殊に会社の業務は、各課毎に大きく分担されているのであるから、縦横に緊密な連絡をとることによつて、換言すれば唇歯輔車の関係が有機的になされることによつてのみ遺憾なく実施せられるのであり、又電気は需要に比して供給が少く、常に天候、雨量等の自然現象や石炭の需給に左右され、時々刻々に変転する性質をもち、しかも生産と配給と消費とが直結しているという特異性をもつているため、常時精密にして鋭敏な機動力のある計画の設定と遂行とが要請され、従つて業務全般の計画遂行を主宰する使用者その他監督的地位にある者の企業内における指揮命令系統の保持を図ることは、事業の一大要部をなすものであるから、労働者は常に誠実に使用者その他監督的地位にある者の指揮命令に従わなければならないものであるところ、原告等は被告が同年十月六日の電産関西地方本部との団体交渉の席上で、「本六日以降実施を指令された上部遮断は、会社の業務運営を阻害するところ多大なものがあり、貴組合におかれても事態の重要性を認識せられ、かゝる手段に出られることについては自重されることを要望するものであります、不幸にして敢えて右手段を実施される場合は、その内容に応じて該期間中の賃金は五十パーセント以上差引くことに致しますから、念のため命により御通知致します」との被告労務部長より電産関西地方本部委員長宛の申入書を読み、その旨申入れたのにかゝわらず、原告等は右申入れを拒否して上部遮断を実施したのであつて、こゝにいわゆる上部遮断とは、電産京都府支部がその組合員である被告の従業員に指令を発し、給電、給与関係者等の一部の従業員を除くその余の従業員を一体として、被告の下命する指揮命令を一切拒否して執務するように命じ、もつて上下にわたる業務活動の連絡交流を断ち切ることを目的とする行動をいゝ、その方法として、各職場を通じ口頭、文書その他一切の方法による社内外の連絡、非組合員よりする指揮命令、組合員よりする報告、答申、禀伺及び立案等の一切の意思疏通を非組合員との間において遮断し、各種速報、日報及び月報を非組合員に提出せず、業務上必要な会議に出席せず、資材の倉出、倉入を非組合員の決裁なくして実施し、各職場における業務を上席組合員の指示乃至組合員個々の判断により被告の有機的機構の外で実施し、組合員のみの判断で処理できない業務は放置するものである、これによつて、各職場を通じて上記各業務が阻害されたことはいうまでもないところであり、非組合員等は時宜に即した計画、施策をすることはもとより、指示命令をし、又はその変更をすることもできず、日常業務の処理も著しく阻害され、公益事業の生命であるサービスも亦甚しく低下したのである、そして上部遮断が異つた業務分掌をもつ各職場に如何なる業績の低下又は障害を与えたかを事実に則して明らかにすると、

(一)、被告京都支店の最高指揮監督者である支店長及びその輔佐役である次長は、上部遮断期間中は、非組合員に対してのみ指揮命令ができたのにすぎず、又通常は担当従業員の直接見聞したところを当該所属長よりの報告によつて知り、状況判断をなし、緊急措置として組合員に直接指示命令するのであるが、該期間中はかゝる処置は完全にできない状態におかれ、従つて会社の業務に関して盲目状態におかれ、更に非組合員である同支店の九課長、三係長についても、それぞれ所管の担当業務の全部が上部遮断というヴエールの向側で葬り去られ、事業の正常な運営が阻害され、

(二)、同支店考査係は、同支店管内の業務全般を計画的に又は随時的に考査し、業務上の誤謬、不正の発見に努めると共に、内規等の実施の状況の考査を行い、以て業務改善の資に供することを任務としているが、同係が同月九日から実施を予定していた資材及び旅費の考査は一週間遅延し、

(三)、同支店庶務係は、各種禀議書の運行を司つているが、その処理件数は平常の約五分の一に減じた、又乗用車運転手である前記三名の原告等は、運転業務に従事せず、単に運転業務に付随する車輌の清掃、整備等を短時間実施したのに止まり、受付人は会社側に対して部外者の連絡案内を一名もせず、只消極的に受付として着席していたのみであり、又平常はよく会社側の伝言、申送等を授受していたのに、この業務を完全に拒否し拘束八時間を全く不完全に就業したのみであり。

(四)、同支店労務課においては、給与、診療所関係の者を除き、組合員よりの一切の書類が廻付されず、ために課長及び人事労務両係長は上部遮断後に漸くこれを閲覧しえた状態であつて、業務の把握ができず、又業務上の指示は全く出来なかつたので、課長、係長が自ら実施するか、又は上部遮断後に指示せざるをえない事態に追い込まれた、例えば各事業場の人事関係報告書が遅延したゝめ、重要な労務管理は半盲目下におかれ、本店より送付された労務通信第六十一号が同支店庶務課に留保されていたゝめ、本店の労務関係の状勢及び方針が不明となり、同支店の労務管理上重大な支障を来した。

(五)、同支店経理課においては、通常経理伝票は課長及び次長の捺印により処理しているのであるが、これらの捺印なしに伝票の処理記帳が行われたゝめ、会社資産の変動及び収支の、状況が不明となり、統轄及び監督上の支障は少なからざるものがあつた。

(六)、同支店資材課においては、すべての業務は課長の決裁又は認印をえたうえで処理されなければならないことになつており、決裁文書は一日百通以上、各課所より廻付される物品購入請求書、修理請求書、工事請負契約請求書等課長の認印を要するものは一日平均二十六・七通あるのにかゝわらず、課長には一通も閲覧に供されなかつた。従つて課長は已むなく係長の決裁箱にあるものを自ら処理しなければならなかつたし、業務上の指示監督もできなかつた、殊に金一億八千万円にのぼる貯蔵品が被告の管理権を排除した状態におかれてしまつたのであるから、被告としては財産管理上極めて不安な状態におとし入れられたのである、更に各課所より廻付される物品購入請求書等は、一日平均六通位しかなかつた。

(七)、同支店営業課は、管内全般の営業中枢として営業業務の統轄指導に当つているが、当時強調していたサービスを積極的に推進することができなかつた、又当面の重要業務であつた擅用業務の実態調査及び指導のため、課長が同月七日から九日までの間、同支店宮津、舞鶴、福知山、小浜、八木の各営業所に出張する予定であつたのが、中止の已むなきに至つた、その他同課においては、五十種に及ぶ活きた営業統計報告の殆んどを毎月十日乃至十五日までに本店に到着させるように送付しなければならないのに、同支店内各長の決裁ができなかつたゝめに、遅延した、このことは被告にとつては、対外的にも対内的にも緊急かつ一日も忽せにできない営業業務を完全に麻ひさせられたことゝなり、需要家からの照会に対しても満足な解答ができず、社会公共上最も肝要な電気事業を司る経営者としてまことに不本意極まりないありさまとならざるをえなかつた。

(八)、同支店料金課においては、集金成績概況速報、月末大口竝に官庁旬報、九月分事業未収金振替会計伝票及び調定速報が課長の意向を伺わず、被告の意思に反して勝手に係長限りで処理された。

(九)、同支店配電係では、同月一日発足の新制度業務運行要綱の指示会議を同月六日午前九時より開催する予定であつたが、これが阻まれたゝめに業務運行制度の推進対策の確立が遅延したし、同月八日の本店定例課長会議に引続き同月十四日に同支店課長会議を開催したのであるが、その準備指令の指達ができなかつたし、同月九日に開催した定例工事人懇談会により業務の改善を図ろうとしたが、その改善事項の通達指示が遅延した、又同月十日に訴外近畿電気工事会社との工事連絡会議を開催して、工事計画実施の隘路を見出したが、その通達指示が遅延して工事の推進に支障を来し、更に同課所属の九条修理工場及び新町試験所と、それぞれ同月六日及び七日に業務懇談会を開催することゝしていたが、開催不能となり、業務改善に支障を来した。

(十)、同支店電気課においては、同課において起案する支店禀議書が一年間に約五百七十二通あるのに、既に作成されていて提出が遅延したと認められるものが、二条変電所特別高圧抽入遮断器修理の件等十五通にのぼり、又課長名をもつて本店又は同支店内へ発信する文書が一年間に約八百五十通あるのに、遅延し事後承認の形となつたと認められるものが、被告近畿支社給電課長宛横大路変電所継電器試験成績書送付の件等九通に及んだ。

(十一)、同支店電路課では、総ての書類、報告書、伝票が係長、保線所長限りで運行され、又はそのまゝ停滞したので、課長自ら係長、保線所長の決裁箱から重要なもの或は緊急なものを探し出して、決裁のうえ自ら関係課へ廻付せざるをえなかつた、又同課架空線係では、吉祥院分岐柱の改良工事の設計をしていたが、設計の根本方針が指示できなかつたゝめ、上部遮断後に設計図の変更をせざるをえなくなり、そのために設計図の作成が二、三日遅延した、更に課長に毎日提出されるべき、電路関係勤務日誌、京都送電線保線所勤務日誌、新庄保線区勤務日誌が提出されず、又電話による連絡もできなかつたので、送電系統及び通信線の保守について非常に不安を覚えた。

(十二)、同支店上京営業所においては、所長決裁の禀議書三通が上部遮断解除の後である同月十三日に漸く決裁済となり、それだけ事務の渋滞を生じ、関係者の業務が手遅れとなつた、同営業所料金課においては、料金課長が毎日の所管業務運行状況殊に集金回収状況を報告しなかつたゝめ、所長の料金業務の指揮監督ができなかつた、又同営業所営業課及び配電課においては、業務が組合員によつて勝手に処理された、更に同営業所管内の営業店、出張所に対して、新機構による業務運行状況、殊に派生すべき個々の問題について照会をしたが、報告がなかつたゝめ業務の円滑な運営ができなかつた。

(十三)、同支店福知山営業所営業課においては、工事負担金業務中、十二件が台帳記載の停頓を来し、負担金収入が遅れた、同営業所配電課においては、工事は所長の決裁を経て実施することゝなつているのに、約十二件が決裁を受けえず、従つて工事負担金の計算も請求もできなかつたのみではなく、計器の取付、検査、送電等の関連業務も延滞し、サービスの低下は勿論、営業収入にも影響を及ぼした。

(十四)、同支店小浜営業所においても、同月六日に査定済の工事負担金の決裁ができなかつたゝめ、福知山営業所と同様の事態が五件発生した。

(十五)、同支店上京、中京、宮津、八木の各営業所においては同月十日に、小浜営業所においては同月七日に、同月一日から実施された新機構による業務運行についての細部の打合わせをするために、それぞれ営業所会議を開催する予定であつたのが、中止の已むなきに至つた。

右によつて明らかなように、組合員等の労力の供出は、被告の指揮命令を計画的に排除して行われたものである。これを要するに、原告等は被告の指揮命令に従つて労働力を提供しなければならないのに、上部遮断期間中は、被告の指揮命令を排除して原告等の恣意によつて労力を供出したのにすぎないのであるから、債務の履行とはいえないのである、従つて被告としては全然賃金を支払わないこともできるのである。又如何に控え目にみても被告の指揮命令を排除してなされた労力の供出は、労働本来の性質を一半以上失つており、従つてその価値は百分の五十以下零の範囲内のものといわなければならないのである。而してかゝる価値判断は、労働関係法規全体を観察してなすべきものであつて、その数字的判定は、労働基準法第二十六条にいわゆる休業手当として、平均賃金の百分の六十以上を支払うべき旨定められている根拠、すなわち社会観念によるべきものである、なお乗用車運転手である前記三名の原告の基準労働賃金の全額を差引いたのは、以上の外にこれら三名の原告の上部遮断期間中の業務の内容を考慮して、その供出した労働力を無価値と判断したことによるものである、以上のとおりであるから、も早何等の債務も存在せず、従つて原告等の請求には到底応じられないと述べ、原告等の会社内規等により平常どおり就業したとの主張に対して、内規等は単に業務処理の準則を示すのみのものであるから、それ自体では死文であり、その時々の具体的事態に即した指揮命令に従つてこそ有機的な業務の処理をなしうるのであつて、このことは事業経営についての共通の実態である、殊に被告の電力所及び電気関係部門には同年九月一日に、営業所等には同年十月一日に、それぞれ機構改革と業務運行方法の改革が行われた矢先であつたし、炭労ストライキによる入炭の不安、及び電源ストライキ、渇水等による電力事情の不安定からしても、被告の事業においては他の事業に倍して、非組合員の意思が下部に疏通浸透する必要性が大きかつたのである、と付演した。(立証省略)

理由

原告等がそれぞれ別紙目録記載の職場に勤務して、その記載の業務に従事している被告の従業員であつて、電産関西地方本部京都府支部の組合員であること、電産が昭和二十七年三月二十八日以降当時無協約状態にあつた労働協約の改訂及び賃金のベース・アツプを要求して、被告と十数回にわたり団体交渉をなし、更には中央労働委員会の調停に付されもしたが、いずれも不調に終つたこと、電産が同年九月十六日以降電源ストライキ等の実力行使を実施したこと、電産京都府支部が電産関西地方本部の指令を確認し、電産京都府支部斗争指令により、同年十月六日から同月十一日までの間、いわゆる上部遮断を実施したこと、及び被告が右上部遮断に関して原告等の賃金からそれぞれ別紙目録記載の金額を差引いたことは、当事者間に争がない。

被告は、被告が右のように賃金を差引いたのは、原告等がいわゆる上部遮断を実施して債務の本旨に従つた労務を給付しなかつたからであると主張するので、以下にこの点について判断することとする。

そこで先ず原告等に債務不履行の責任があれば、被告がその賃金の一部乃至全部を支払わないことができるかどうかについて考えるに、弁論の全趣旨によれば、原告等の有する賃金債権は期間をもつて定められているものであることが明らかであるから、その期間が経過すれば被告は原則としてその全額を支払わなければならないものではあるけれども、一般に使用者は労働者が争議行為をして債務不履行の責任を負う場合においても、それが正当な争議行為によるものであれば法律上労働契約を解除したり、損害賠償を請求したりすることができないこととなつているのであつて、もしそのうえに賃金は期間が経過したことの故をもつその全額を支払わなければならないものとすれば、労働者は働かずして賃金を受けることとなつて、公平を失うこととなるのみならず、後記のとおり後日その不履行となつた労務の提供をして履行の追完をすることは、その性質上不能なことであるので、不履行の部分に相当する賃金債権を、その不履行が追完されるまで履行しなくてもよいものとして残存させておく必要もないから、労働者が正当な争議行為をしたことによつて債務不履行の責任を負う場合においては、使用者はその不履行の部分に相当する賃金債権の減額を請求することができるものと解するのが相当である、然るところ本件上部遮断が争議行為として不当なものであつたことについては何等の主張立証もなく、被告は賃金債権の一部の減額を請求しているものと解せられるのであるから、原告等に債務不履行の責任があれば、被告はその不履行の割合に応じて賃金の一部を支払わないことができるものといわなければならないのである。

そこで次に、いわゆる上部遮断が如何なるものであつたかについて考えることとする。成立に争のない甲第九、十号証、証人岡本甲子郎の証言によつて真正に成立したものと認める甲第五、六号証に、本件に顕われた全証人の証言及び全原告本人訊問の結果、竝に弁論の全趣旨によれば、被告はその京都支店管下において、同支店の最高指揮監督者である同支店長及びその輔佐役である次長の下に、考査係長及び庶務、労務、経理、資材、営業、料金、配電、電気、電路の九課長、竝に上京、中京、下京、伏見、舞鶴、福知山、宮津、八木、小浜の九営業所長、宮津火力発電所長、舞鶴電力所長をおき、庶務課長の下に庶務、管財の両係長、労務課長の下に人事、労務、厚生の三係長、経理課長の下に計理、出納の両係長、資材課長の下に調度、配給の両係長及び倉庫長、営業課長の下に営業、サービス、渉外の三係長(但し、渉外係長は同課長が兼任)、料金課長の下に検針、調定、集金の三係長、配電課長の下に内線、外線の両係長、及び九条修理工場長、新町試験所長、電気課長の下に給電、現業、電気、土木の四係長、及び京都給電所長、南北両修理所長、十六人の発電所長、二十七人の変電所長、電路課長の下に架空線、地中線、通信線の三係長、及び京都送電線保線所長、上京、中京、下京、伏見の各営業所長の下にそれぞれ庶務、営業、配電、料金の四課長、及び数人の営業店長、舞鶴、福知山、宮津の各営業所長の下にそれぞれ庶務、営業、配電の三課長及び数人の営業店長、八木、小浜の各営業所長の下にそれぞれ配電、業務の両課長、及び一乃至二人の営業店長、宮津火力発電所長の下に技術、事務の両課長、舞鶴電力所長の下に事務、技術の両係長をおき、各営業所の課長の下にそれぞれ課長代理又は統括者、宮津火力発電所の技術課長の下に電気、機械の両係長、同所の事務課長の下に庶務、経理の両係長をおき、その各下に必要な数の係員をおき、それぞれに一定の業務を割当て、右の中、同支店長、次長、同支店の各課長、同支店の考査、人事、労務各係長、蹴上変電所長、新庄発電所長、各営業所長、上京、中京、下京、伏見各営業所の庶務営業、配電課長、舞鶴、福知山、宮津各営業所の庶務課長、小浜、八木各営業所の業務課長、宮津火力発電所の所長、事務課長、舞鶴電力所の所長、事務係長を非組合員とし、使用者及び非組合員等のその余の従業員等に対する具体的な指揮命令その他の連絡等、竝にその余の従業員等が作成する伝票その他の文書、使用者及び非組合員等に対する報告、答申、禀伺等を、同支店庶務課に勤務する乗用車運転手等の乗用車運転に関する業務についてのものを除き、原則として前記組織に従つて、上部より順次下部へ伝達させ、又は下部より順次上部へ逓送させ、もつて統一的有機的に業務の運営ができるようにしていたものであるところ、本件上部遮断は、給電、給与(旅費、保険、貸付金等の業務を含む)、診療所、電話交換等の業務に関するものを除き、前記のような組織で行われていた同支店管下の業務についての、使用者及び非組合員等の具体的な指揮命令その他の連絡等の接受、竝に組合員が作成した伝票その他の文書、使用者及び非組合員等に対する報告、答申、禀伺等の逓送を、非組合員とそれに直接接触する地位にある組合員との間において遮断し、もし非組合員等がこれを排除しようとして右のような地位にある組合員以外の組合員に業務命令を出しても、その組合員はこれを拒否すべきものとし、もつて上下にわたる業務活動の連絡、交流を断ち切ることを目的としたもので、その結果として、被告の業務に次に記載するような影響を与えた外は、平常どおりの業務が行われたものであることが認められ、右認定に反する前記証拠方法の一部は信用できないし、他にこれを動かすに足る証拠はない。すなわち、給電給与指令を除き、非組合員とこれに直接つながる立場にある組合員等との間における一部の業務、例えば、非組合員である課長と日常直接の交渉をもつ組合員である係長との間における報告書、禀議書等の一部の書類の運行が一時的に停滞したことは、原告の自認するところであり、

(1)、同支店考査係においては、上部遮断期間中に同年九月頃に考査を終つていた同支店管下の小払資金、厚生資金等の出納業務及び現金受入業務の結果の報告書を作成したのであるが、報告書の作成にあたつては、係長と係員等との間の意思疏通が重要であるのに、係長が係員等に対して指示を与えることも意見を聞くこともできなかつたため、係員等の作成した文書の一部が反古になり、同支店長への提出が若干遅れたこと、

(2)、同支店庶務課においては庶務係で発行すべき支店週報の記事の決定及び発行ができなかつたこと、同係で取扱う各種文書が非常に減少したこと、乗用車運転手等は乗用車の運転とその整備清掃(但し、修理は含まない)をしているのに、同年十月六日から十日までの五日間は、全然運転業務に従事しなかつたこと(但し、この中二日間については、当事者間に争がない)、課長の決裁を要する各種文書、日誌等が両係長のもとで止り、課長に提出されなかつたこと、受付係員等は、公私の訪問客の取次をしているのに、庶務課長に対する訪問客の取次をしなかつたこと、

(3)、同支店労務課においては、各係で作成された文書、殊に速報、旬報等が人事、労務両係では係員等のもとで、厚生係では係長のもとで止り、非組合員等に提出されなかつたこと、本店から送付された労務通信第六十一号が非組合員に提出されなかつたこと、人事、労務両係では、課長及び係長等と係員等との連絡によつて処理する仕事が多かつたのに、連絡ができなかつたため、業務が著しく阻害されたこと、

(4)、同支店経理課においては、経理伝票が課長及び同支店次長の捺印なしで処理されたこと(このことは、原告等が明らかに争わないから自白したものと看做す)、同支店の上半期の決算が通常は同月十五日頃までにできるのに、各職場からの伝票類の廻付が遅れたため、若干遅れ、又資材、工事関係の収支で本来上半期の決算に組入れられるべきものが、通常の場合よりも若干多く組入れられなかつたこと、営業所長等から課長に対して資金のことについての問合わせがあつたが、その状況が判らなかつたため回答できなかつたこと、同支店管下の各職場からの会計に関する禀議書が廻付されなかつたこと、

(5)、同支店資材課においては、資材の倉出、倉入が課長の決裁なしで行われたこと(このことは、原告等が明らかに争わないから自白したものと看做す)、課長の決裁を要する伝票、禀議書、資材請求書等が一日平均少くとも百二十六通はあるのに、各職場からのものは廻付されなかつたし、同課内のものは、各係長のもとで止つたため、上部遮断期間中を通じて課長が決裁したものは僅か六通にすぎなかつたこと、そのために、資材の購入や工事の請負等の関連業務が停滞したこと、

(6)、同支店営業課においては、同支店管下の各営業所からの営業上の意向を聞くことができなかつたため、営業計画が立てられなかつたこと、一箇月に約五十種の同支店管下各営業所からの営業統計報告を整理決裁すべきであつたのに、各営業所においてこれらの報告書類が非組合員に提出されなかつたため、所属長である非組合員の決裁ができず、その廻付がなかつたから、上部遮断期間中その整理決裁ができなかつたこと、電力制限をしていた時であつたから、需要家からの照会が多数あつたが、資料の入手ができなかつたため、課長として回答ができなかつたこと、課長が同月六日から八日までの間同支店管下の営業所へ擅用業務の実態を調査するために出張する予定であつたのが、出張できなかつたこと、

(7)、同支店料金課においては、集金成績概況速報、月末大口竝に官庁旬報、九月分事業未収金振替会計伝票及び調定速報に課長の捺印がえられなかつたこと(このことは、原告等が明らかに争わないから自白したものと看做す)、同支店管下の各給配電所からの統計資料が廻付されなかつたため、課の一般業務が停滞したこと、

(8)、同支店配電課においては、同課所属の九条修理工場及び新町試験所とそれぞれ同月六日及び七日に業務懇談会を開催することになつていたのが、開催できなかつたため、業務の改善に支障を来したこと、同月十日に開催された訴外近畿電気工事会社との工事連絡会議により工事計画実施の隘路を見出したが、その通達指示が遅れて工事の推進に支障を生じたこと、同月九日に開催された定例工事人懇談会により業務の改善を図ろうとしたが、その改善事項の通達指示が遅れたこと、同月十四日に開催された同支店課長会議の準備指令の指達ができなかつたこと(以上の各事実については、原告等が明らかに争わないから自白したものと看做す)、同月六日に同課の内外線両係員全員と九条修理工場及び新町試験所の代表者を集めて、同月一日から施行されていた営業々務運行要綱の細目の質疑についての指示会議を開く予定であつたのが開けなかつたこと、各係員の業務の実態を把握し、指示を与え、その他業務の円滑な遂行を期するために必要な日報が各係長のもとで止り、課長に提出されなかつたこと、

(9)、同支店電気課においては、同課で起案する禀議書、伺書等が十五、六通作成されておりながら係長のもとで止り、課長に提出されなかつたこと、その中には緊急を要した二条発電所特別高圧油入遮断器の修理工事の設計についての禀議書があつたこと、課長名をもつて被告本店又は同支店管下の各職場へ発信する文書が九通作成されておりながら、係長のもとで止り、課長に提出されなかつたこと、その中には緊急を要するものもあつたこと、

(10)、同支店電路課においては、架空線係で吉祥院分岐柱の改良工事の設計をしていたが設計の根本方針が指示できなかつたため、上部遮断後に設計図の変更をせざるをえなくなり、そのために設計図の作成が二、三日遅れたこと、課長に毎日提出されるべきであつた、電路関係勤務日誌、京都送電線保線所勤務日誌、新庄保線区勤務日誌が提出されなかつたこと(以上の各事実については原告等が明らかに争わないから自白したものと看做す)、同課の業務が主として文書の作成であるのに同支店長への報告書、担当課への業務伝票等の大部分が各係長のもとで止り一部は課長の決裁なしで処理されたこと、

(11)、同支店管下各営業所において、資材の倉出、倉入が非組合員の決裁なしで処理されたこと(このことは、原告等が明かに争わないから自白したものと看做す)、

(イ)、同支店上京、中京、下京、伏見各営業所においては、日常作成すべき業務文書、各種伝票、報告書等が、料金課では課長のもとで、その他の各課では課長代理又は統括者のもとで、営業店では店長のもとで止り、非組合員に提出されなかつたこと、

(ロ)、上京営業所においては、所長の決裁を要する禀議書三通の決裁が遅れたこと、料金課長が集金回収状況の報告をしなかつたこと、同営業所管内の各営業店、出張所に対して、新機構による業務運行状況、殊に派生すべき個々の問題についての照会をしたが、報告がなかつたこと(以上の各事実は、原告等が明らかに争わないから、自白したものと看做す)、前記禀議書の決裁が遅れたため、関運業務が遅れ、需要家から苦情があつたこと、需要家から所長に対して平常一日三乃至五回位電話で申込や問合わせがあるのに取次がれなかつたこと、

(ハ)、伏見営業所においては、同支店からの重要文書約二十通がどこかで止り、非組合員に提出されなかつたこと、需要家からの工事申込の中、所長の決裁をえずに工事を進めたものがあつたこと、

(ニ)、上京及び中京営業所においては、いずれも同月十日に、下京及び伏見営業所においては、いずれも同月八日に、各課長、各営業店長、担当係員を集めて同月一日から施行されていた営業々務運行要綱の細目の質疑についての協議会を開く予定であつたのか、開けなかつたこと、

(ホ)、同支店福知山、宮津、舞鶴各営業所においては、所長、庶務課長の決裁を要する文書が、庶務課においては課長代理のもとで、その他の各課では課長のもとで、営業店では店長のもとで止り、非組合員に提出されなかつたため、関連業務が遅れたこと、

(へ)、福知山営業所においては、約十二件の工事についての所長の決裁がえられなかつたこと(このことは、原告等が明らかに争わないから自白したものと看做す)、そのために工事負担金の計算、収入、計器の取付、検査、送電等の関連業務が遅れたこと、

(ト)、宮津営業所においては、同月十日に各課長、各営業店長、担当係員を集めて、同月一日から施行されていた営業々務運行要綱の細目の質疑についての協議会を開く予定であつたのが、開けなかつたこと、

(チ)、同支店八木、小浜各営業所においては、非組合員の決裁を要する各種文書が、業務課では課長代理のもとで、配電課では課長のもとで、営業店では店長のもとで止り、非組合員に提出されなかつたため、関連業務が遅れたこと、

(リ)、小浜営業所においては、同月六日に査定済の工事負担金の所長決裁が遅れたこと(このことは、当事者間に争がない)、そのために工事に着手できず、関連業務が遅れたこと、所外から所長に宛てて来た文書が所長に廻付されなかつたこと、

(ヌ)、八木営業所においては、同月十日に、小浜営業所においては同月八日に、いずれも各課長、各営業店長、担当係員を集めて、同月一日から施行されていた営業々務運行要綱の細目の質疑についての協議会を開く予定であつたのが、開けなかつたこと、

(12)、同支店宮津火力発電所においては、事務関係の文書が各係長のもとで止り、非組合員に提出されなかつたこと、

(13)、同支店舞鶴電力所においては、文書が事務係では係員のもとで、技術係では係長のもとで止り、非組合員に提出されなかつたこと、

上記各職場において、非組合員等と組合員との間における口頭、電話等による指揮命令、報告、連絡等ができえない状態にあつたこと、以上の各事実により非組合員等がその担当業務の実態を把握することが困難となり、日々具体的に起りうべき事態に即した施策や指揮命令をすることができず、組織的一体としての被告の事業の正常な運営ができなかつたこと、及び需要家へのサービスが若干低下したこと等である。

被告は、原告等は被告の指揮命令に従つて労働力を提供しなければならないのに、上部遮断期間中は、被告の指揮命令を排除して原告等の恣意によつて労力を供出したのにすぎないから、債務の履行とはいえない、従つて賃金は全然支払わないことができるというので、この点について考えることとする。およそ労働者の給付した労働が債務の本旨に適しないという場合としては、二つの場合が考えられるのであつて、その一つは、労働者の給付した労働が、その方法において使用者の定めた組織から逸脱しており、かつその成果が使用者に帰属しない場合であり、他の一つは、労働者の給付した労働が質的に又は及び量的に不完全な場合であるということができるのである。そして使用者は、そのいずれの場合においてもその受領を拒絶しうるのではあるけれども、前者の場合においては、その給付した労働が債務の履行とは認められないのであるから、仮に受領したとしても賃金を支払う必要がないが、後者の場合においては、不完全ながら債務の履行があつたものと解するのが相当であるから、一旦受領した以上は、その不完全であつた労働の割合に応じて賃金の一部の減額を請求することができるのにすぎないものというべきである。然るところ前記認定事実を詳細に検討すれば、原告等を含めた組合員等が、本件上部遮断期間中、給電、給与(旅費、保険、貸付金等の業務を含む)、診療所、電話交換等の業務以外の業務についての、被告及び非組合員等の具体的な指揮命令その他の連絡等の接受、竝に組合員等が作成した伝票その他の文書、被告及び非組合員等に対する報告、答申、禀伺等の逓送をしないこととしたために、一部の組合員等の労働の量が減少し、一部の組合員等の作成した文書の一部が反古になり、一部の組合員等が非組合員の決裁をえずに一部の業務を実施したのではあるが、その余の業務は平常どおり実施されたのであるから、原告等の上部遮断期間中の労働は、被告に対する債務の履行であつたものといわなければならないのである。しかも被告は、原告等の給付した労働を受領しているのであるから、も早賃金を全然支払わないということはできないのであつて、単に不完全であつた労働の割合に応じて賃金の一部の減額を請求することができるのにすぎないものというべきである。そうすると、これと反対の見地に立つ所論は理由がないものといわなければならないのである。

被告は、原告等の上部遮断期間中の労働は、使用者の指揮命令を排除してなされたものであるから、労働本来の性質を一半以上失つており、その価値は社会観念によつて百分の五十以下零の範囲内で定めるべきものであると主張するので、この点について考えるに、その主張するところが、上部遮断期間中の原告等の労働が債務の履行とはいえないというのであれば、その理由のないことは前段において説示したとおりであり、又そうではなくて不完全ながら債務の履行があつたというのであれば、原告等の賃金債権がその平常なすべき労働の量と質とに基いて時間に即応したものとして算定されるべきものであること、及び原告等の債務が個々別々の労働契約に基いて発生した個々別々のものであることからして、個々の原告についてその平常なすべき労働の量、質及び時間と、不完全であつたそれとの関係を立証して、その不完全であつた部分に相当する賃金の減額を請求すべきものであるところ、後記三名の原告以外の原告等については、本件に顕われた全証拠によつても、その立証がないのであるから、これらの原告等に対する右主張も亦理由がないものといわなければならないのである。

もつとも、証人岡田敬太郎の証言によつて真正に成立したものと認める乙第一号証に、同証人の証言を綜合すると被告は、同月六日の電産京都府支部との団体交渉の席上で、上部遮断をすればその期間中に賃金を五十パーセント以上差引く旨申入れたことが明らかであるが、かかる申入をしたというだけでは賃金を五十パーセント以上差引く理由にはならないのである。勿論、不完全履行の場合における賃金減額の方法として上述したところは、実に繁雑ではあるけれども、不可能なことではないのであるから、所論のような方法によることには到底賛成することができないのである。

よつて進んで、原告中西杉松、同井関昭二郎、同石川健市について考えることとする。同原告等が同支店庶務課に勤務する乗用車の運転手であることは、前記のとおり当事者間に争がなく、同原告等の平常なすべき業務が乗用車の運転とその整備清掃(但し、修理は含まないものであること、及び同原告等が同月六日から十日までの五日間全然運転業務に従事しなかつたこと(但し、この中二日間については、当事者間に争がない)は、前記認定のとおりである。

原告等は、上部遮断解除後の労働強化によつて、阻害された業務が追完されたと抗争するので、この点について考えることとする。およそ期間によつてなされるべき労働力の提供は、数日分を一日にまとめてしてもよいというようなものではなく、その日その時間になすべきものとされている労働を、その日その時間にしなければならないものと解するのが相当であるから、その日その時間になすべきものとされている労働を、その日その時間にしなければ、その日その時間は労働力の提供がなかつたことになるのである、換言すれば、労働力を提供しなかつた一日一時間は、永久に失われた一日であり一時間なのである、従つて今日労働力を提供せずにおいて、明日二日分の労働力を提供したとしても、今日労働力を提供しなかつたことが治癒されて、今日労働力を提供したことにはならないのである、そうすると、原告等の右抗弁はその主張自体において理由がないものといわなければならないのである。

そして同原告等が従事した整備清掃業務は、運転業務と切離しては殆んど問題にならない程のものと考えられるのであるから、被告は同原告等の前記五日間の賃金の全額についてその減額を請求することができるものというべきである。而して同原告等の差引賃金額が同月六日から十一日までの六日間のものであることは、前記のとおり当事者間に争のないところであるから、被告の同原告等に対する主張は、前記差引賃金額の六分の五に相当する金額については理由があり、その余すなわち別紙目録(ロ)記載の金額(銭位未満四捨五入)については理由がないものというべきである。

以上のとおりであるから、原告中西杉松、同井関昭二郎、同石川健市を除く、その余の原告等の請求を全部認容し、右三名の原告の請求を別紙目録(ロ)記載の金額の限度において認容し、その余を棄却し、民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木英五郎 石崎甚八 坂本武志)

(別紙省略)

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