京都地方裁判所 昭和28年(ワ)974号 判決
原告 大野毅
被告 福田金三郎 外二名
一、主 文
被告国は被告福田金三郎、同福田あやに対し別紙目録<省略>記載不動産につき所有権移転登記手続をしなければならない。
被告福田金三郎、同福田あやは原告に対し金十九万八千三百円と引換に別紙目録記載不動産につき所有権移転登記手続をしなければならない。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として被告国は別紙目録記載不動産の所有者であつたところ、該物件を昭和二十四年二月二十二日訴外亡福田亀雄に売渡し、同訴外人は代金四万五千円を同年四月二日完納し、右物件の所有権を取得した。その後右訴外人は昭和二十五年一月十九日死亡したので、同日被告福田金三郎、同福田あやが相続によりその所有権を取得した。而して原告は昭和二十六年七月五日被告金三郎、同あや両名から該不動産を金二十五万円にて買受け、同日手附金として金二万円を支払ひ、残代金は分割払とし、代金の半額を支払つた場合は原告へ所有権移転登記をなすこと及び代金の最終支払期日を昭和二十七年三月中とすることを約した。右契約後原告は被告金三郎、同あやに対し契約の趣旨に基き五回に分ち金三万一千七百円の内金支払をし、最終支払期日に於て残額全部の支払をなすを以て右物件の所有権移転登記をなすよう請求したが、右被告等は故なく之に応じない。従つて被告国は買受人訴外福田亀雄の相続人である被告金三郎、同あやに対し右物件の所有権移転登記をなす義務があり、又被告金三郎、同あやは前記契約により原告の残代金十九万八千三百円の支払と同時に右物件の所有権移転登記をなす義務があるので本訴に及ぶものであると述べ、
被告国の答弁中右物件の買受人訴外福田亀雄及びその正当相続人の何れからも登記の請求はなかつたとの点はこれを否認し、買受人訴外亀雄は同家屋を訴外三和銀行を経て買取つたものであるところ、その正当相続人である被告福田金三郎が財務局に登記を請求したところ被告国は三和銀行に交渉されたいと言つて相手にならなかつたので右所有権移転登記を完了するに至らなかつたものであると陳述し、
被告金三郎、同あやの答弁事実中原告の主張に反する部分は全部之を否認し、原告は復員後現住所の栗田イト方に同居して図案業に従事しているものであるが、家族も多いので被告福田宅に赴き当時売家として周旋屋に出ていた本件家屋を買取つたが、これは被告あやと交渉の結果、前記契約が成立したもので、被告あやは被告金三郎と共に本件売買契約の当事者であり、右売買を知らなかつた等と一切言えた筋合のものでない。従つて前記契約は被告金三郎単独の売買で右契約は無効であるとの被告の主張は理由がない。仮に被告等の主張する如く右契約が被告金三郎が共有者である被告あやの同意なくして単独で売買したものであるとしても右売買契約書である甲第四号証被告福田あや名下の印は被告金三郎との共有印で且つ被告等は夫婦であるので原告は被告金三郎を被告あやの代理人と信ずるにつき正当の理由を有するもので被告金三郎は右被告あやの表見代理人であるから右契約は有効である。又原告は被告等に対し前後数回に亘つて内金として合計金五万一千七百円を交付したが、その多くは被告あやに対して交付され、右被告あやに交付した金員中には原告外出中原告の同居人である栗田イトに依頼して被告あやに交付した分も含まれているもので被告金三郎のなした右売買契約を追認しているから右契約は有効であると陳述した。<立証省略>
被告国指定代理人は、
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として被告国が原告主張の不動産を訴外福田亀雄に売払ひ、同人より右売払代金四万五千円の納入のあつたこと及び同人が原告主張の日に死亡したことは認めるがその余の原告主張事実は不知である。国有不動産を売払つた場合の登記手続は、登記権利者の請求により当該所管官庁より登記所に嘱託して之をなすもので登記権利者の請求がなければ登記することができない。本件の場合被告国は登記権利者たる訴外福田亀雄の請求あり次第嘱託登記をなすべく当初からその準備を整えていたのであるが、今日に至るまで同人及びその正当相続人の何れからも全然請求がないために登記嘱託をすることができない状態にあるものであると述べ、
原告の再答弁に対し原告主張の被告に対する登記請求の事実を否認し、仮に右事実があつたとしても、登記嘱託をなすには登録税の提供が必要であるので、登録税の提供のなされない以上被告国は登記をする義務はないと陳述した。<立証省略>
被告福田金三郎、同福田あや両名訴訟代理人は、
原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として訴外福田亀雄が原告主張の本訴物件の所有者であつたこと及び被告等が相続によつて亀雄より該物件の所有権を取得したことは認めるが、原告主張の前記売買契約が右被告等両名との間になされたこと及び被告金三郎は契約の際売買代金支払の最終期を昭和二十七年三月中と定めたとの点を否認する。而して原告主張の前記売買契約は被告金三郎が被告あやの同意なく単独でなしたものであるから右売買契約は右物件の共有者である被告あやの同意なくして被告金三郎の権限なき行為によりなされたものであると述べ、
原告の再答弁に対し、被告あやが訴外栗田イトより右売買代金の一部を受領したとの点を否認し、又被告あやと被告金三郎は夫婦であるから第三者は被告金三郎を被告あやの代理人と信じたものであるとの主張は、原告の単なる推測にすぎないと陳述した。<立証省略>
三、理 由
先づ被告国に対する請求について判断する。
被告国が原告主張の別紙目録記載物件を訴外亡福田亀雄に売払ひ同訴外人より代金四万五千円の納入された事実及び同訴外人が原告主張の日に死亡したこと並に同被告より右売払いによる買受人亀雄又はその相続人に対する移転登記手続未了なることは当事者間に争はない。よつて本訴物件の所有権は反対の事実の認めるべきもののない本件に於て払下により訴外亀雄に移転したものである。
而して成立に争なき甲第三号証、及び被告本人福田金三郎、同福田あやの各尋問の結果(後に信用しない部分を除く)に徴すれば昭和二十五年一月十九日訴外福田亀雄死亡により右被告等が同訴外人の遺産たる本件物件を相続しその所有権を取得したものである事実を認めることができる。被告国は原告主張の登記請求の事実を否認し、国有不動産を売払つた場合には登記権利者の請求により当該官庁より登記嘱託をなすもので、被告国に於ては本件物件売払の当初から登記請求あり次第之に応ずべき準備を整えていたが、訴外福田亀雄及びその正当相続人の何れよりも請求がないため登記手続ができない状態にあると抗争するのでこの点につき按ずるに、国有不動産に関する権利につきなすべき登記は登記権利者の請求により当該官庁の嘱託登記によるものであること被告主張の如くであり、原告の全立証によるも登記権利者である訴外亀雄及びその正当相続人である被告金三郎、同あやより右登記請求ありたる事実を認むるに足る証拠はない。(尤もこの点に関する被告本人金三郎の証言はたやすく信用できない。)
然しながら元来国有財産の払下は原則として国と払下げを受けるものとの間の私法上の売買契約であり只移転登記手続に於て通常の場合が申請によるに反し嘱託によるにすぎないものであるから一般私法規定は原則として総て適用あるべく、後に認定する如く原告は被告国に対する登記権利者亀雄の遺産を相続し登記権利者たる地位を承継した被告金三郎、同あやより右物件を買受けその所有権を取得し、被告金三郎、同あやに対する登記請求権を有するものであるからこれを保全するため同人等に代位して被告金三郎、同あやの被告国に対する登記手続の請求権を行使しうる地位にあるものであり、原告の本件訴状請求原因事実中には被告国に対しその余の被告両名の有する移転登記請求権を代位して行使する旨明記されてはいないけれども、右代位請求権を行使する趣旨を窺うに足るものがあるから、本件訴状が被告国に送達せられたことに因り、原告は登記権利者たる被告福田両名に代位して登記請求をなしたものというべきである。
然るところ被告国は登記手続には、登録税の提供が必要であるので登録税の提供のなされない以上登記に応ずる義務はないと抗争するのでこの点につき考うるに成立に争なき甲第一号証により被告金三郎、同あやが登記に要する登録税その他の費用を負担することは明かで且つ本件払下による登記嘱託には登録税の納付が必要であることは被告主張の如くであるが、登録税の納付の如きは所有権移転登記義務と対価関係に立つことなくこれが支払のないことを理由に登記嘱託手続を拒むをえないものであつて被告国が登記嘱託を任意になさない限り原告はこの判決を登記原因として被告国より被告福田両名えの移転登記申請をなすの外なくその際その登記に要する登録税を納付すれば足るものである。よつて被告の右抗争は理由なく原告の被告国に対する請求は理由がある。
次に被告金三郎、同あやに対する請求について判断する。
訴外福田亀雄が別紙目録記載物件の所有者であつたこと及び右被告等が昭和二十五年一月十九日相続により右物件の所有権を取得したことは当事者間に争ない。
而して成立に争なき甲第一、二号証が原告の手裡に存する事実と成立に争のない甲第四号証、証人大野亀小枝(被告本人あや尋問の際に於ける同証人の証言を含む)藤野喜兵衛、中沢利八、竹内長生、栗田イトの各証言によれば原告が本件家屋を買受けるに至つた動機は周旋業者の店頭の貼紙を見たことによるものであつて、売買の交渉は原告妻亀小枝と被告本人あやとの間に行われ、甲第四号証の契約証もあや自身が原告方に持参し手付金を受取つたのみならずその後の支払金の一部もあや自身が受領しており従て原告は甲第四号証に記載されている通り被告金三郎同あや両名より昭和二十六年七月五日右物件を金二十五万円にて買受け、同日手付金として金二万円を支払ひ、代金の半額を支払つた場合は原告え所有権移転登記をなすこと及び代金の最終支払期日を昭和二十七年三月中と約したものであり原告主張の計金五万一千七百円の代金も被告両名に対し支払われたものと認定するのが相当である。
被告福田両名本人尋問の際の各供述中右認定に反し本件売買契約に被告あやが全然関与しない旨の供述部分はたやすく信用し難い。そうであるならば被告等が本件物件は共有者の一人たる被告金三郎が他の共有者たる被告あやの意思によらずに勝手に売却したもので右売買行為は無効なる旨抗争するのは全くいわれのないことであつて原告が右売買代金二十五万円より前認定に係る内金五万一千七百円の支払額を控除した残額十九万八千三百円の支払と同時に右被告等に対し所有権移転登記を求むる原告の本訴請求は理由がある。
よつて原告の請求は爾余の争点に関する判断を俟つ迄もなくすべて理由があるので之を認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 宅間達彦)