京都地方裁判所 昭和28年(行)5号 判決 1956年3月03日
原告 佐藤工業株式会社
被告 京都労働者災害補償審査会外二名 被告審査会外一名
訴訟代理人 免田良太郎
主文
原告の被告京都労働者災害補償審査会並に被告園部労働基準監督署長に対する訴を却下する。
原告の被告瑞穂町に対する請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、(一)被告等三名は原告が高田勇松に対し、打切補償費金十万一千四十円並に休業補償費一千二百六十三円を支払うべき義務のないことを確認しなければならない。(二)被告瑞穂町は原告に対し、金四十万七千四百十八円及び本訴状送達の日の翌日から右内金三十万円の支払済に至るまで同金額に対する年五分の割合による金員、並に昭和二十九年五月二十二日付準備書面の送達の日の翌日から右内金十万七千四百十八円の支払済に至るまで同金額に対する年五分の割合による金員を各支払はなければならない。訴訟費用は被告等三名の連帯負担とする。との判決並に右金員の支払を求める部分について仮執行の宣言を求め、その請求原因として、(一)原告は土木工事請負等を業とする株式会社であるが、被告園部労働基準監督署長(以下被告署長と略記する)は、昭和二十三年三月二十六日京都府船井郡元三の宮村(現在の瑞穂町)国鉄バス三の宮駅(以下三の宮駅と略記する)敷地埋立工事において、同工事に従事していた当時同村居住の訴外高田勇松が土砂崩壊のため受傷したことにつき、原告を右埋立工事の請負人であり且つ右訴外人の使用者であると誤認し、昭和二十七年二月二十七日原告に対し、同訴外人え打切補償費金十万一千四十円、休業補償費金一千二百六十三円を支払うべき旨を決定し、その旨原告え通知してきた。よつて原告はこれを不服として同年四月十八日被告京都労働者災害補償審査会(以下被告審査会と略記する)え審査の請求をしたところ、同被告は同年十月二日被告署長の前記決定を容認し、原告の審査請求を理由なしとして棄却するとの決定をした。しかしながら原告は右埋立工事を請負つたことなく、又従つて同工事につき訴外高田勇松の使用者でもないのに、右各決定は真実の補償義務者である被告瑞穂町(以下被告町と略記する)の補償義務を否定し、却つて補償義務なき原告に対し補償の義務ありとなすものであり、被告等三名は共に原告の負担していない右補償義務が原告に存在するものとして争つているのであるから、原告は被告等三名に対し、原告が訴外高田勇松に対し前記の如き打切補償費、休業補償費の支払義務なきことの確認を求める。(ニ)実は右埋立工事は、被告町即ち当時の三の宮村の助役訴外山内鑑男が、原告の縁故者である訴外八田鉄郎と相謀つて、訴外高田勇松等を使役して施行した工事である。従つて右工事の事業主は当時の三の宮村現在の被告町であつて、右高田の使用者も被告町である。ところが訴外高田勇松が前記の通り右埋立工事で受傷するや、右訴外山内及び同八田は原告の従業員訴外今井千里並に受傷者高田勇松と相謀り、不法にも受傷場所が被告町施行の前記三の宮駅埋立工事であるに拘らず、被告町としては同工事につき労災保険に加入していないところから、それ以外の原告施行の同保険関係の成立している土木工事場において、作業中に負傷したものの如く災害の発生原因並に場所を偽称して、原告名義を以て被告署長え受傷報告並に災害補償請求の手続をなし、国を欺いて労災保険金の給付として国から訴外高田勇松え金四十万七千四百十八円四十銭を交付せしめたのである。その後右虚偽事実は発覚したが、被告署長は原告を前記三の宮駅埋立工事の請負人であり、右訴外人の使用者であり且つ、右の不法行為者であるとして、原告に対し右保険給付金相当額を右不法行為による損害の賠償として返納すべきことを求めてきたので、原告はこれに従つてその金額を国え支払つた。
(1) しかしながら前述の如く、被告町こそは右埋立工事の事業主であり右訴外人高田勇松の使用者であり且つ同訴外人の受傷についてその災害補償義務を負うものであるに拘らず、前記の如く被告町の代理人たる助役訴外山内鑑男等が、原告名義を冒用して、虚偽内容の災害補償請求をなし、国を欺いて労災保険金を騙取したために、原告は国え右給付金と同額の金員を支払うことを余儀なくされて支払い支払額相当の損害を蒙つたのであるところ、右は助役山内鑑男が職務に関してなしたことであるから、被告町は右山内の行為につき民法第四十四条により然らずとするも同法第七百十五条により原告に対し右損害として前記金員及びこれを原告が請求した各日時以降これに対する年五分の遅延損害金を賠償する義務がある。
(2) 又然らずとするも、前記高田勇松が労災保険金として国より交付をうけた金員は、前述の如く国に対する不法行為に基くものであつてこれを保留し得べきものではなく、従つて労災補償義務者たる被告町の右高田に対する災害補償は法律上は未だ果されているとは云い得ないけれども、国が右高田え給付した金員と同額の金員を原告が国え返納しているから、事実上はこれによつて被告町の右高田に対する補償義務は満足された状態にあるといえる。従つて原告の右返納によつて被告町はこれと同額の災害補償義務を免れていることとなる。この原告の損失と被告町の受益との間には因果関係があり被告町のこの受益は法律上これを保留する根拠がない。よつて民法第七百三条、第七百四条により被告町に対し不当利得として右賠償金相当額金四十万七千四百十八円及びこれに対する前同遅延損害金の返還を求める。
(3) 仮りに右のいずれも理由なしとしても、国が被告町に対して有する右不法行為による損害賠償債権を、原告が賠償したのであるから民法第四百二十二条により原告は当然国に代位して右国の損害賠償債権を行使しうるのであるから、これによりその賠償として前同額の金員と遅延損害金の支払を被告町に対し)求めると陳述し、
被告京都労働者災害補償審査会代表者、被告園部労働基準監督署長指定代理人及び被告瑞穂町訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として被告三名において、原告主張事実中、原告が土木工事請負等を業とするものであること、昭和二十三年三月二十六日京都府船井郡元三の宮村(現在の瑞穂町)三の宮駅敷地埋立工事場において、同工事に従事していた訴外高田勇松が受傷したこと、これに対し被告署長が原告主張のような決定、通知を原告になしたこと(尤も右通知は再度のもので最初の通知をしたのは昭和二十六年十一月一日である)、これに対する原告の審査請求に対し被告審査会が原告主張の如き決定をしたこと、原告主張の如く国が右訴外人え交付した労災保険金と同額の金員を原告が損害賠償として国え返納したことはいづれもこれを認める。しかしながら原告主張のその余の事実はこれを否認する。
(一) 原告は補償義務なきことの確認を求めているが、労働基準法第七十五条以下の規定による災害補償に関する労働者と使用者との権利義務は、各法条に該当する事実の生じたときに法律上当然に発生するのであつて、その権利義務の発生につき行政庁の何等かの処分の介在を要件とするものではない。同法第八十五条、第八十六条の行政官庁や労働者災害補償審査会による審査、仲裁等労災補償についての労使間の権利義務に行政機関が介入する規定の存する理由は、一般に経済力の豊でない労働者側の立場を考慮し、災害補償に関する紛争を行政機関の手によつてできるだけ簡易迅速に解決することを目的としたものに過ぎないのであつて、これらの規定による審査等は要するに紛議の解決を促進する為の単なる勧告的意味を有するものたるに過ぎない。即ち原告主張の各決定によつて関係者の権利義務に法律上何等の効果を及ぼすものでないから確認を求めるべき法律上の利益は存しない。
(二) 原告は三の宮駅埋立工事の請負人であり且つ訴外高田勇松の使用人であつて、同訴外人が工事中受傷したため労災保険金を詐取せんとして災害発生場所並に原因を詐り、被告署長に労働者受傷報告並に災害補償保険金の請求手続をなし、国を欺いて労災保険金四十万七千四百十八円を同訴外人え交付せしめたものであつて原告自ら同訴外人に対する補償義務を負うべきものであると述べ、
被告町訴訟代理人において、訴外山内鑑男が被告瑞穂町の前身たる三の宮村の助役であつたことは認めるが、同訴外人は原告主張の如き不法行為をしたものではない。不法行為をなしたものは原告の従業員である。仮りに同訴外人にかかる行為ありとしても助役としての職務行為の範囲外であつて被告村として責任を負うべき理由はないと述べた。
<立証 省略>
理由
原告主張の如く被告署長が昭和二十七年二月二十七日原告に対し、労働者訴外高田勇松の受傷につき原告を使用者と認定して同訴外人へ打切補償費金十万一千四十円、休業補償費金一千二百六十三円を支払うべき旨の決定、通知をなしたこと、これを不服としてなした原告の審査請求を被告審査会が理由なしとして棄却したことは当事者間に争のないところである。そこで先づ、
(一)、(1) 、被告署長並に被告審査会に対する右各補償費支払義務のないことの確認を求める原告の訴の適否について判断する。凡そ訴訟の当事者は、民事訴訟法上当事者能力を有する者即ち、自然人、法人、法人にあらざる社団又は財団にして代表者又は管理人の定めあるものに限られることを原則とし、例外的に行政事件訴訟特例法第三条、その他法令に特別の規定のある場合及びこれに準ずべき場合には、いわゆる職務上の当事者として行政庁その他の者も訴訟当事者たりうるものとせられているところ、被告審査会は合議制の、被告署長は単独制の、共に国の行政庁にすぎないもので、それ自体は独立に権利能力の主体たる自然人も法人でも権利能力なき社団又は財団にして代表者又は管理人の定めあるものでもないこと勿論であるから本来当事者能力を欠くものといわなければならない。而して本件各補償費の支払義務のないことの確認請求は、私人たる訴外高田勇松と私法人たる原告会社との間の現在の権利義務関係の不存在の確認を求めている当事者訴訟であり、前述の各決定が抗告訴訟の対象となりうる行政処分でありこれに重大且つ明白な理疵ありとして行政庁に対し各決定の無効確認を求める趣旨でないことは原告の主張に鑑みて明白であるから、右述の法令に特別の規定ある場合及びこれに準ずべき場合にあたらず、国の行政庁にすぎない被告審査会及び被告署長に対してこのような請求をなしうべき根拠のないことはまことに明瞭であつて原告の被告審査会及び被告署長に対する右確認の訴は不適法として却下せらるべきものである。
(2) 、次に被告町に対する前述の打切並に休業各補償費支払義務不存在確認請求の当否について判断する。凡そ確認訴訟の目的たる法律関係については何等の制限がないから当事者間の法律関係に制限されず、第三者に対する権利義務の存否でも確認の対象とすることができる代りに、原告がその存否について判決によつて即時確定を求める法律上の利益又は必要のある場合に限つて許される。即ち自已の権利義務又は法律的地位が他人の侵害或は相容れない権利義務の主張によつて、法律的因果関係をもつて脅かされ、或は妨害されている場合にはじめてその者に対して確認を求めることが許されると解すべきである。而して本件は原告が被告町に対して原被告間の権利義務でなく、原告の第三者たる訴外高田勇松に対する右各補償費支払義務不存在の確認を求める場合であるから、原告の権利義務又は法律的地位が脅かされておるとしてもこの脅威を取除くがために特に被告町を相手取つて即時確定を求める利益は、単に原告に右各補償費支払義務が存在しないことのみを以ては足らず、被告町に右各補償義務が存在し、それによつて原告の支払義務が不存在になることが明になるという相容れない権利義務関係に立つ場合にのみ存在するというべきであつて、たとえ原告に右各補償費支払の義務がないことが明かになつたとしても被告町にもまた支払義務が存しない場合は、斯る者は、原告が第三者との間の法律関係の不存在確認を求める相手方として適当なものと認めることはできず、却て、徒らに相手方に迷惑をかけるだけのことであるから、原告は被告町に対して右確認の利益を有しないものといわなければならない。
そこで被告町が訴外高田勇松に対して右各補償費の支払義務があるか否かについて検討するに右各補償費の支払義務は訴外高田勇松が労働に従事中災害をうけたその事業において、同訴外人の使用者たる地位にたつことによつて発生するものであるところ、訴外高田勇松が昭和二十三年三月二十六日京都府船井郡元三の宮村(現在瑞穂町)三の宮駅敷地埋立工事において、同工事に従事中受傷したことは当事者間に争のないところであり成立に争のない丁第三号証、乙第五、六号証、証人山内鑑男の証言により成立を認めうる丁第一号証、証人八田鉄郎の証言により成立を認めうる丁第五号証の二と証人宮島治男、同滝川省吾、同山口収一、同上田道蔵、同山内鑑男、同八田鉄郎、同真野孝太郎の各証言(但し右宮島、山口証人の各証言中後に信用しない部分を除く)を綜合すれば、原告会社は昭和二十二年秋頃より京都府下の関西配電株式会社由良川発電所魚道護岸工事を請負い、原告会社の請負工事に従事するを常態としている職長御囲与三郎、班長山口収一を指揮者とする一団の労働者を使用していたが、昭和二十三年一月乃至三月の間は出水による災害のため工事を進捗せしめ難い事情があつたので、昭和二十二年暮頃京都府園部土木工営所長からの申入れをうけて右一団の労働者の大部分を殿田、綾部間道路整備工事に移し、よつて労働者は右道路工事に就業し、主として同道路の船井郡元三の宮村地内戸津川峠の工事に従事していた。そして訴外八田鉄郎は昭和二十三年二月頃から原告会社の傭員となつて、前記の元三の宮村地内戸津川峠の道路工事に訴外山口収一、同高田勇松等の入夫とともに従事していたもので当時の原告会社京都支店長小坂太八の甥に当る関係から事実上右一団の労働者の監督役をしていたが昭和二十三年三月頃右工事も終りに近づいたので新しい仕事を求めていた。然るに偶その頃被告町の前身たる三の宮村は国鉄バスの同村までの路線の延長を誘致することになり、これが実現のため三の宮駅の敷地建物を三の宮村の費用を以て設置提供することになつた。そこで前記八田は前記道路工事に従事するに際し種々の便宜をうけて、親しくなつていた元三の宮村助役訴外山内鑑男と協議の結果三の宮村当局は臨時村議会を開いて三の宮駅敷地埋立工事を右八田を通じて原告会社に請負わすことを可決し、村の代理人たる山内助役と右八田の間で口頭によつて右工事を村は金五千円で原告会社に請負わす旨の契約がなされ、同月二十日頃より前記道路工事に従事していた労働者中八田鉄郎、山口収一、高田勇松等十名位が資材は労務者側持で右八田や山口の指揮の下に右埋立工事を遂行していた。(前示当事者間に争のない訴外高田勇松の受傷は正に本工事現場において発生したものである)、而して三の宮村側は右八田が原告会社京都支店長の甥であることやその名刺に原告会社の肩書を付けていることその他八田の諸般の行動からみて、確たる資格の証明書はなかつたけれども八田が原告会社を代理して請負契約をなしうる権限を有するものと思つていた事実を認定することができる。右認定に反する証人宮島治男の「右埋立工事は三の宮村の直営工事である」旨の証言は伝聞でもあつて措信しがたく、証人山口収一の「右埋立工事事業主は三の宮村であり助役山内鑑男が現場にきて指示していた」旨の証言も、注文者が請負仕事に付き作業員に対し敷地において指示することのあるのは小規模の工事に於ては充分考え得られるところであるからこれを以て直に三の宮村を事業主と断ずるには足らずその他右認定を覆するに足る証拠がない。以上によつて前記埋立工事の請負人が原告会社であるか訴外八田鉄郎であるかはともかくとして、被告町は自ら工事を施行することなく請負人(若し八田に原告会社を代理して請負契約を締結する権限があれば請負人は原告会社たるべく、そうでなければ八田自身が請負人としての義務を負担せざるを得ない)に請負わせた工事であることが認められる。請負の場合は仕事を完成するまでは請負人の事業で請負人が労働者の使用者となるものであるから、三の宮村は訴外高田勇松の使用者ではないことが明かであり、同村が使用者でなければ原告の同村の後身たる被告町に対する本確認請求は確認の利益を欠くものとしなければならないことは前述の通りであるから本訴確認請求は棄却を免れない。
(二)、次に被告町に対する原告の給付請求について判断する。国が訴外高田勇松に労災保険金として給付した金員と同額の金四十万七千四百十八円四十銭を原告が損害賠償として国え返納したことは当事者間に争がない。
(1) 不法行為に基く損害賠償請求について。
先づ国を欺いて労災保険金を騙取した行為は被告町の代理人たる当時の三の宮村助役山内鑑男の行為であるかについて按ずるに、証人小坂太八の証言により同人が同人名義の書類作成の権限を与えていた今井千里の作成にかかりその成立を認める乙第一号証、成立に争のない丁第三号証、乙第五、六号証、証人林庄二、同八田鉄郎、同小坂太八、同滝川省吾、同西山寛蔵の各証言を綜合すれば、昭和二十三年三月二十六日前述の埋立工事場において、訴外高田勇松の受傷事故の発生したことを知つた原告会社京都支店庶務係今井千里は支店長からの包括的に委任を受けていた庶務の仕事の一部として支店長名義で被告署長に対し事故発生場所並に原因の虚偽なる労働者死傷報告書(乙第一号証)を提出して労災保険金騙取の手続に入り、その後同年八月頃同人が退職するに際し、原告会社由良川出張所主任林庄二に情をあかして引継ぎ、林庄二は前者に準拠した手続を部下の滝川省吾をしてとらしめ、昭和二十六年七月頃園部労働基準監督署員によつて発見せられるまで三年有余数次にわたつて詐取をつゞけてきたものであることが認められる。そこで右山内鑑男が右今井千里等と共謀したものであるかどうかということであるが、証人八田鉄郎の証言によつては、高田勇松受傷の直後同証人が三の宮助役山内鑑男より善後策につき原告会社京都支店え伝達方の依頼を受け同支店労務係に伝達したことを認めうるに止り未だ山内が今井と共謀したとまでは認め難く、証人林庄二、同宮島治男の証言によれば、「助役山内鑑男が労働基準監督者も警察も了解を得てあるから、労災俣険に加入している原告会社の工事場で受傷したことに取扱つてもらいたい旨申出でた」ということであり、山内鑑男の共謀の事実を認めるに足るが如くであるけれども、右各証言はいづれも林秀一又は今井千里よりの伝聞にかかるものなるのみならず、助役山内鑑男等三の宮村側は前記埋立工事につき訴外八田鉄郎と請負契約をするに際し八田に原告会社を代理する権限があり従つて該工事は原告会社の請負仕事であり、労働者は原告会社雇傭の人夫と思つていたこと既に前認定の通りであるから右林庄二、宮島治男の証言はにわかに措信しがたく、他に助役山内鑑男が右詐取行為に関与したことを認めるに足る証拠がないから爾余の判断をなすまでもなく原告の不法行為に基く損害賠償請求は理由がない。
(2) 不当利得の返還請求について。
前記(一)の(2) に判示した如く被告町は訴外高田勇松の使用者でなく同人に対して何等の災害補償義務を負うものでないから、原告会社がその主張の金員を国に返納したことにより被告町に何等の受益もあることなく、爾余の判断をなすまでもなく右請求は理由がない。
(3) 損害賠償者の代位請求について。
前記(二)の(1) の如く被告町は国に対して不法行為責任を負うべき理由がないから、国は被告町に対して損害賠償債権を持つ筈がなく爾余の判断をなすまでもなく右請求は失当である。
されば以上認定の如く、被告審査会及び被告署長に対する訴は不適法なる故却下すべく、被告町に対する打切並に休業補償費支払義務不存在確認請求は確認の利益なしとして請求棄却すべく、同じく被告町に対する不法行為損害賠償請求、不当利得返還請求並に損害賠償者代位請求はいずれも理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宅間達彦 木本繁 吉田治正)