大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和30年(行モ)1号 決定 1955年12月13日

申立人 松岡与一

被申立人 亀岡市議会

主文

被申立人が、昭和三十年十月三日申立人に対してなした亀岡市議会議員除名処分の執行を、当裁判所昭和三十年(行)第二〇号市会議員除名決議取消請求事件の本案判決が確定するまで停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

申立人は主文第一項同旨の決定を求め、その理由とする要旨は、申立人は昭和三十年二月以降亀岡市議会議員であるが、被申立人は昭和三十年十月三日申立人の除名決議をなした。しかしながら右除名決議にはつぎのような違法がある。

(一)  申立人には、亀岡市議会議員として何等除名に該当するような非行がない。除名決議文には、「……自己の反対せる議決事項の攪乱に狂奔し、執行阻害の暴挙に出で、市民の福祉を蹂躙する等の行為を平然と行い、恥ずるところも知らず、第三回定例会議に於て、再三、再四に亘り、忠言、勧告、飜意を促すも敢えて意とせず、頑迷振りを発揮し、市民に対し議会の権威を失墜せしめ……」とあるが、その経緯を述べると、昭和三十年度本予算決議の際、市長から亀岡市春日坂舗装については、国及び京都府が決定しているから、分担金の金額を認めて貰い度い旨の説明があつたので、申立人は昭和三十年七月二十日建設省に赴き、地方道路課課長補佐大串事務官に尋ねたところ、右の舗装は国においては決定していないが、京都府から申出がある旨の回答があり、続いて申立人は同年八月一日建設省道路局長に面会し、「町村合併促進法により、建設省に亀岡市五ケ年建設計画が送付されている筈である。亀岡市議会は建設計画の変更の議決をしていないのに拘らず、市長から国及び府が決定したとの説明があつたので、春日坂舗装の決議をしたが、元合併促進協議会副会長として考えるに、この五ケ年計画及び十二項目の合併条件で合併をしたので、市会がこの条件を無視して、旧亀岡町の分だけを全額市費で負担するということになれば、多数の市民がその事実を知れば反対する。町村合併促進法違反の疑いも考えられる」と陳情したところ、同局長より、京都府に調査を依頼したうえで決定するとの回答があつたのである。申立人は昭和三十年十月三日の議会で、以上の行為について、執行権の妨害、議決無視であると強く責められたのであるが、申立人の右行為は執行権を妨害したものではないし、その他執行権を妨害したことはない。しかし議長が申立人に対し、謝罪を強く要求したので、申立人は反省したいから二日間の余裕を欲しいと述べたに過ぎない。

(二)  本件除名決議文の理由は、地方自治法及び亀岡市議会会議規則に該当しない。

(三)  懲罰は会期中の行為に対し、当該会期に限り、これを科し得るのであつて、前の会期の行為について、後の会期において懲罰を科することはできない。

よつて申立人はこれが取消を求めるため、京都地方裁判所に対して、本件除名決議取消の訴を提起しているのであるが、現在、国庫補助金の使途に関する予算決議及びその執行の適正化、市税負担の地域的平等化のための亀岡市税条例の改正等、亀岡市議会において、申立人が緊急になすべき問題が山積しているうえ、右二点の不当を、市議会において論難できるだけの資料と経験を有する者は申立人だけであり、これが市議会議員としての職務遂行につき、申立人を選挙した曽我部町民多数の要望と激励が背後にあるので、申立人は本件除名決議の執行により、償うことのできない損害を蒙るのである。

よつてこれが執行の停止を求めるというにある。

申立人は疏甲第一乃至第六号証、同第八乃至第十四号証を提出し被申立人は意見書及び疏乙第一乃至第四号証、同第五号証の一乃至五、同第六乃至第九号証を提出した。

そこで考えるに、被申立人の意見書及び本件疏明資料に徴し、また、議員がその職務を遂行するのは、報酬その他の財産的利益を得ることを主たる目的とするのとは異なり、選挙民より託された議決権を行使することにより市政に参与すること自体が主たる目的であり、議員その人の重大な権利であるという特殊性、及び議員の任期が四年であること等を併せ考えると、本訴の確定に至るまで、申立人が議員たる権利の行使を阻止せられるならば、償うことのできない損害を蒙る虞れがあり、これが損害を避けるため緊急の必要があるので、結局申立人の本件申立は理由あるものと認め、申立費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 青木英五郎 石崎甚八 佐古田英郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例