京都地方裁判所 昭和32年(ワ)415号 判決 1964年3月30日
原告 牧野義一
右訴訟代理人弁護士 前田外茂雄
被告 株式会社銭屋
右代表者代表取締役 湯浅賢太郎
右訴訟代理人弁護士 小田美奇穂
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三二年六月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
(一) 原告は、古物商を営むものであるが、訴外富永徳三郎、田中某の両名から、昭和二五年一〇月一〇日、中古ふとん三一枚を代金二二、〇〇〇円で、翌一一日、中古ふとん一九二枚を代金一二五、〇〇〇円で、買受けた。
(二) 富永、田中両名は、被告所有の右中古ふとん計二二三枚(本件ふとん)を、被告より騙取して、原告に売渡したのである。
(三) 原告は、右両名の共有物であると信ずるについて過失がなかつたから、民法第一九二条により本件ふとんの所有権を取得したものである。
(四) 原告は、同年同月一一日、本件ふとん買受に関し、臓物故買の嫌疑を受け、川端警察署に本件ふとんを任意提出し、同警察署係官は、同日、本件ふとんを領置し、翌一二日、本件ふとんを被告に仮還付した。
(五) 被告は、貸物業を営み、仮還付を受けた本件ふとんを他に賃貸し賃料を取得した。
(六) 被告は、仮還付を受けた昭和二五年一〇月一二日から少くとも昭和二七年一〇月一二日頃までの七三〇日間、本件ふとんを他に賃貸し、賃貸料合計金八、一三九、五〇〇円(一日金一一、一五〇円の割合による七三〇日分)を取得し、原告の損失において同額の利益を得たものである。
(七) よつて、原告は被告に対し右不当利得内金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三二年六月一日から支払済まで年五分の割合による損害金の支払を求める。
と述べ、
被告は、主文同旨の判決を求め、答弁として、
(一) 原告主張の事実中、(一)、(二)、(四)、(五)の事実は認めるが、その余の事実は争う。
(二) 原告は、本件ふとんを富永田中両名の共有物であると信じたことについて、過失があるから、本件ふとの所有権を取得することはできない。
(三) 仮りに、原告が本件ふとんを即時取得したとしても、被告は、騙取された本件ふとんを川端警察署係官より仮還付を受けたのであるから、本件ふとんの善意の占有者である。
被告が本件ふとんを賃貸して取得した賃貸料は、本件ふとんの法定果実である。
したがつて、被告は、本件ふとんの善意の占有者として取得した本件ふとんの賃貸料を、不当利得として、原告に対し、返還する義務はない(民法第一八九条第一項)。」と述べ、
証拠として、≪省略≫
理由
原告主張の(一)、(二)、(四)、(五)の事実は当事者間に争がない。
仮りに、原告が民法第一九二条により本件ふとんの所有権を取得し、被告が原告主張の賃貸料を取得したとしても、原告の本訴請求はつぎの理由により失当である。
被告は、騙取された本件ふとんを警察署係官より仮還付を受けたものであるから、本件ふとんの善意の占有者(民法第一八九条第一項)であると認められる。
ところで善意の占有者は、その取得した果実を、それを消費したか否かを問わず、不当利得として返還する義務を負わないものと解するのを相当する。
けだし、民法第一八九条第一項は果実消費の有無に因り返還すべきと否とを区別して規定していないし、右の解釈にもとづく実際的結論が不当であるともいえない(同条項は不法行為にもとづく損害賠償責任の発生を妨げるものではないと解すべきである。)からである。
したがつて、被告の得た本件ふとんの賃貸料(本件ふとんの法定果実に該当する)について、不当利得返還請求権は発生しない。
よつて、原告の本訴請求を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小西勝)