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京都地方裁判所 昭和33年(行)22号 判決 1960年2月12日

原告 株式会社村上商店

被告 上京税務署長

訴訟代理人 今井文雄 外四名

主文

被告が昭和三二年一二月二七日原告に対してなした原告の昭和三一年五月一日から昭和三二年四月三〇日に至る事業年度の法人税の所得金額を七〇六、八〇〇円税額を二四七、三八〇円とした更正決定のうち所得金額四六〇、四〇〇円税額一六一、一四〇円を超える部分(但し審査決定により取消された「所得金額六五八、五〇〇円税額二三〇、四七〇円を超える部分」を除く)を取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告代表者は、「被告が昭和三二年一二月二七日原告に対してなした原告の昭和三一年五月一日から昭和三二年四月三〇日に至る事業年度の法人税の所得金額を七〇六、八〇〇円税額を二四七、三八〇円とした更正決定のうち所得金額四五九、九〇〇円税額一六〇、九六〇円を超える部分(但し審査決定により取消された「所得金額六五八、五〇〇円税額二三〇、四七〇円を超える部分」を除く)を取消す。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告会社は京都市上京区小川通上長者町上る下小川町一八九番地においてモール及びレースの製造販売を営む法人であるが昭和三二年六月二九日被告に対し原告会社の昭和三一年五月一日から昭和三二年四月三〇日に至る事業年度の法人税の所得金額を五四八、六一八円税額を二〇五、五九〇円として確定申告をなしたところ、被告は昭和三二年一二月二七日原告会社に対し所得金額を七〇六、八〇〇円税額を二四七、三八〇円とする更正決定をした。そこで原告会社はこれを不服として昭和三三年一月一〇日被告に対し所得金額を四五九、九〇〇円税額を一六〇、九六〇円とするよう再調査の請求をしたが右再調査の請求は訴外大阪国税局長に対する審査の請求とみなされたところ、同局長は同年一〇月一日原告会社に対し所得金額を六五八、五〇〇円税額を二三〇、四七〇円とする審査決定をした。

二、しかしながら、被告が右更正決定において法人税法第三一条の三第一項を適用して原告会社がその取締役訴外村上泰市郎に対し支給した役員報酬の一部二四六、九〇〇円(但し審査決定で認容された部分四八、八〇〇円を除く)を過大給与として損金算入を否認し所得金額に計上している点は違法である。

すなわち役員に対する報酬額の妥当性は原則としてその役員の会社に提供する労働力の質と労働時間の相乗積により決定すべきものであるところ、

(1)  訴外村上泰市郎は大正五年小西製紐商から暖簾別けを受けて独立し資本金三、〇〇〇円で営業をはじめ、昭和七年原告会社を設立し、以事約一七年間その代表取締役をし次いで現在に至るまで取締役をし、創業以来営業の進展をはかつてきたものであること、

(2)  右訴外人の営業経験営業上の交友関係は無形の大なる財産であること、

(3)  同訴外人がその経験をもつて現代表取締役村上恭平に有効適切な助言の提供をなしていること、

(4)  同訴外人が次の業務を担当していること、

(イ)  事業経営面補佐

(ロ)  暖簾より事業達成の炯眼をもつてする一般あらゆる面の管理監督対外面の融和及び従業員人事問題雑多

(ハ)  糸商買入受染色業者より加工完成受け工場及び下請業者受払伝票等事務掌理等の原材料品受払

(ニ)  外渉面におけるクリスマス盛期の造花屋方面外交集金補佐

(ホ)  外職面の管理

(ヘ)  原料糸買付に関する長い経験による糸質名柄等の教示

(ト)  従業員教育として店員から暖簾別家までの間の体験談をなし指導すること

からすれば同訴外人に対する役員報酬額は適正額である。同訴外人は現場業務をも担当しているが、そのため現場労務者の最高給与額をもつて同訴外人に対する役員報酬の妥当額とすることはできない。

三、よつて原告は被告のなした本件更正決定のうち審査決定により取消された部分を除き所得金額四五九、九〇〇円法人税額一六〇、九六〇円を超える部分の取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、

被告の主張に対し、

一、被告主張の二の事実は認める。

二、原告会社役員の報酬の絶対額は決して不合理に高額ではないすなわち原告会社の社員構成は老練な中堅社員に不足し、中小企業の通例として従業員の水準が低く責任感不足等のため、役員が販売経理製造等にわたり中間管理或は極端なばあいは職長係長以下の役割もし時には一工員として作業に従事することもあり経営責任者の作業量は余りにも多く、その責任も余りにも一身に集中し過ぎているからである。そして原告会社の経営の殆どにわたり代表取締役村上恭平及び取締役村上泰市郎があたつており、すべての責任は右両名にかかつているのである。

三、被告は訴外村上泰市郎に対する報酬の適正額は訴外中島誠一の給与額と同額であると主張するが、右中島誠一は一会計員に過ぎず勤続六年であるのに対し、訴外村上泰市郎は会社設立以来二九年勤続してきたもので、その差は実に二三年間である。

四、訴外村上泰市郎は本件事業年度中に二回昇給しているが、これは従来の役員報酬額が余りにも低きに過ぎたので当然あるべき妥当な水準に戻したものであり過大給与ということはできない。また役員報酬の昇給率が一般従業員のそれと同率でなければならない理由はない。しかも昭和二六年を基準として昭和三〇年までについてみるに右訴外人の昇給率は他の従業員よりも遥かに低率である。

五、訴外村上泰市郎に役員として従業員のように残業及び休日出勤手当の支給を受けていないと述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、原告主張の請求原因事実中一の事実及び二の事実のうち被告が法人税法第三一条の三第一項の規定により原告主張の二四六、九〇〇円を過大給与として損金計上を否認したことは認めるが、その余は争う。

二、原告会社は株式の保有割合八一パーセントの法人税法第七条の二にいう同族会社であり個人商店と変らない法人であるが、被告の行つた更正決定の内容は次のとおりである。

1、確定申告による所得金額     五四八、六一八円

2、未納事業税(損金に算入済分)   二二、三五四円

3、損金に算入した府市民税         四八〇円

4、過大給与(投員報酬限度超過額) 二四六、九〇〇円

5、前期否認貸倒金         一一〇、一四三円

6、法人税還付金            一、二五〇円

7、価格変動準備金             一二五円

差引更正所得金額        (1+2+3+4-5-6-7)

七〇六、八〇〇円(三四円切捨)

つぎに訴外大阪国税局長のなした審査決定の内容は次のとおりである。

1、更正決定による所得金額     七〇六、八三四円

2、過大給与(取消額)        四八、八〇〇円

3、更正決定における法人税還付金の計算誤謬 四八〇円

差引審査決定所得金額            (1-2+3)

六五八、五〇〇円(一四円切捨)

三、被告及び訴外大阪国税局長が右各処分をなした経過は以下のとおりである。

まず被告は原告会社の確定申告が適正であるかどうかを調査したところ、役員報酬金額が本件事業年度の途中で増築されていたので報酬増額の手続が正規に行われているかを検討するため株主総会議事録の提出を求めたが、原告会社はこれを提出しなかつたので報酬増額の手続が正規になされていなかつたと判断したのである。すなわち原告会社は前記の如き同族会社であり会社設立以来正当な手続による株主総会取締役会を持つていない状態であると認められた。そこで被告は原告会社が役員報酬の増額決議を株主総会において承認を受けていないものと認め、従前に定められていた役員報酬の範囲額を超過する額は損金に算入せられるべきでないとして、その超過額二四六、九〇〇円を否認更正したものである。

次いで原告会社が被告に提出した再調査請求は審査の請求とみなされたので訴外大阪国税局協議団京都支部において原告会社の不服の点について検討し、その結果投員報酬限度額を超過しているものとして被告が否認した金額については誤りであることが発見されたのである(この金額以外の否認事項はすべて適法であると認められた)。先に被告が原告会社に株主総会の議事録の提出を求めたが遂にその提出がなかつたのであるが、大阪国税局協議団京都支部の調査になつて初めてこれを提出した。そして、その議事録には役員報酬増額の議事の記載があつたので、この点に関する被告の決定を改めることとしたのである。しかしながら各役員の報酬金額について検討したところ極めて不合理な支給のなされていることを発見した。すなわち代表取締役村上恭平の報酬額は適正であると認められたが、取締役村上泰市郎の報酬額はその従事する業務からみて余り高額と認められたので、適正額を原告会社従業員中最上席者の訴外中島誠一に対する支給給与総額一九四、五〇〇円として、これを超える報酬額一九八、一〇〇円の損金算入を否認すべきものとした。そこで訴外大阪国税局長は右事項につき更正決定による過大給与二四六、九〇〇円から四八、八〇〇円を減額し、なお法人税還付金計算誤謬による四八〇円を加算し、前記計算のとおり所得金額を六五八、五一〇円とする審査決定をなしたのであると述べた。

(立証省略)

理由

原告会社が京都市上京区小川通上長者町上る下小川町一八九番地においてモール及びレースの製造販売を営む法人であり、且つ法人税法第七条の二に規定するいわゆる同族会社であること、原告会社が昭和三二年六月二九日原告会社の昭和三一年五月一日から昭和三二年四月三〇日に至る事業年度の法人税の所得金額を五四八、六一八円税額を二〇五、五九〇円として確定申告をしたところ、被告が昭和三二年一二月二七日原告会社に対し右申告所得金額五四八、六一八円につき法人税法第三一条の三第一項の規定により原告会社取締役訴外村上泰市郎の役員報酬の一部二四六、九〇〇円を否認して加算したほか損金算入の未納事業税二二、三五四円並びに府市民税四八〇円を加算したうえ、前期否認貸倒金一一〇、一四三円法人税還付金一、二五〇円価格変動準備金一二五円を各控除し、所得金額を七〇六、八〇〇円(三四円切捨)法人税額を二四七、三八〇円とする更正決定をなしたこと、そこで原告会社が右更正決定中役員報酬二四六、九〇〇円否認の点を不服として昭和三三年一月一〇日被告に対し所得金額を四五九、九〇〇円法人税額を一六〇、九六〇円とするよう再調査の請求をなし、右再調査請求は訴外大阪国税局長に対する審査の請求とみなされたところ、同局長は同年一〇月一日更正決定による所得金額七〇六、八三四円について、更正決定が過大給与として否認した前記役員報酬のうち四八、八〇〇円を投員報酬と認定してこれを控除し、なお更正決定の法人税還付金計算誤謬による四八〇円を加算し、所得金額を六五八、五〇〇円(一四円切捨)法人税額を二三〇、四七〇円となし、前記更正決定の一部を取消す審査決定をなしたことは、いずれも当事者間に争がない。

そこで被告が本件更正決定において訴外村上泰市郎に対する役員報酬の一部二四六、九〇〇円(但し右のうち審査決定により認容された四八、八〇〇円を除く。)を否認した点が違法であるかどうかを判断する。

ところで被告が右役員報酬の一部否認をした事由は本件事業年度中の役員報酬の増額について原告会社からその株主総会議事録が提出されなかつたので株主総会の報酬増額決議がなかつたものとみなしたためであるところ、後に審査の際に右決議を記載した株主総会議事録が提出されたため被告のなした役員報酬の一部否認の事由とするところを維持できなくなつたことは被告の自ら陳述するところであるけれども、本件において裁判所が審理する対象は被告のなした更正決定の所得金額法人税額の当否であるから、被告が更正決定において処分の事由としなかつた点をもつて処分の正当なことの主張することは何ら妨げないと解すべきであるから、以下前記の争点について被告主張の審査決定がその事由としたところについて検討する。

まず証人木村昌隆の証言及び弁論の全趣旨を綜合すれば、大阪国税局においては本件更正決定に対する審査請求は同庁協議団京都支部木村昌隆協議官がこれを担当し、同協議官が昭和三三年六月中旬頃調査のため前後二回にわたり予告することなく原告会社に赴いたところ、第一回目は勤務時間中の午後一時過頃であるのに取締役訴外村上泰市郎が近所に遊びに出掛けているとのことで同訴外人に面接できず、第二回目の右の約一週間後の前同時刻頃右訴外人に面接を求めたが取次の者より午睡中であるとの事由により断わられたため原告会社職員の案内によりその工場等を視ている途中、下着のままの右訴外人に出会い、次いで同訴外人に対し勤務内容等を質問したが、同訴外人がその勤務内容は工員の出動時に工場入口にいて監視し早く出勤するようにすること、原料である絹糸の受払とその記帳であると答えたので、更に原料受払帳簿を点検したところ最近一週間程の記帳がなかつたため、同協議官は訴外村上泰市郎の職務内容が簡単で、且つ勤務時間も短く会社経営に対する態度も消極的であると考え、原告会社の使用人中最高の給与を受けている訴外中島誠一の月額給与が一万数千円であることを確め、原告会社が訴外村上泰市郎に対して本件事業年度中に役員報酬として支給した金額中、右訴外中島誠一の給与を超える部分は法人税法第三一条の三第一項を適用し過大給与として否認すべきであるとの協議決定をなし、これに基いて本件の審査決定のなされたことが認められるのである。

しかしながら成立に争のない甲第一号証及び証人村上泰市郎の証言を綜合すれば、原告会社取締役訴外村上泰市郎は現代表取締役村上恭平の父であるが、今より約四〇年前に個人営業を初め、ついで昭和七年原告会社を設立し以来その代表取締役をしてきたが、今より約一〇年前にその地位を右村上恭平にゆずつてからは恭平と二人常勤の役員として、取締役をしているもので、社長恭平の後だてをしてこれを扶け、約三〇名の従業員の勤怠の監視等のほか、多年の経験を要するため一般従業員のすることができない原料糸の用途選別というモール及びレース製造工程上重要な役割を今尚自ら担当しており、その報酬月額についてみるに本件事業年度中昭和三一年四月に九、〇〇〇円を昇給して三〇、五〇〇円となり更に昭和三二年一月に五、五五〇円昇給して三六、〇五〇円となり、二回にわたり一般従業員の昇給のばあいと比較して遥かに高額の昇給をしているけれども、一般従業員が毎年一、二回ずつ昇給しているのに前記訴外人のみは昭和二七年一一月乃至昭和三〇年九月の約四年間昇給を停止されていたこともあり、右訴外人の本件事業年度中の二度の昇給による報酬月額も過去数年間の一般従業員の昇給の指数からみれば決してこれ以上の指数を示すものでもないこと、訴外中島誠一は昭和二六年六月にはじめて原告会社に入社した使用人であることが認められるのであり、一般に同族会社が取締役に支給した報酬の額が適正であるかどうかということは、その会社の業種業態収益等に応じその取締役の地位能力勤務の状況等のすべてにつきこれを決定すべきものと解せられるところ、この観点に立つて右認定の諸事実を綜合すれば必ずしも訴外村上泰市郎に対する報酬が適正額でないということはできない。そして従業員中最高の給与を受ける訴外中島誠一の使用人報酬額をもつて訴外村上泰市郎の役員報酬の適正額となすべきいわれもなく、上叙木村昌隆協議官がその調査の際にたまたま知り得た事実だけから訴外村上泰市郎の役員報酬中右訴外中島誠一の給与を超える部分を過大給与としたことは早急に過ぎたというべきである。

なお被告は証拠として国税庁作成昭和三一年分民間給与実態調査結果麦(乙第一号証の一乃至四)を提出するけれども本件のばあいは上叙事実関係に徴し右調査結果の存在によりその結論を異にするものではない。

以上説明したとおりであるので訴外大阪国税局長がその審査決定において訴外村上泰市郎に対する役員報酬の一部二四六、九〇〇円(但し審査決定で役員報酬として認容された四八、八〇〇円を除く)につき被告の更正決定を正当とした点はその理由がなく失当であるから、この点に関する被告の更正決定もまたその理由がなく失当である。ところで被告は訴外大阪国税局長が審査決定において更正決定の法人税還付金の計算誤謬による四八〇円を所得金額に加算したことを主張しているが、これについては原告も何らその違法を主張し争うところではないので、右四八〇円はこれを所得金額に加算すべきである。従つて本件更正決定は、更正決定による否認給与二四六、九〇〇円から審査決定により給与と認容された四八、八〇〇円を控除した金一九八、一〇〇円を審査決定による所得金額六五八、五〇〇円(一四円切捨、前記四八〇円加算済)から差引いた四六〇、四〇〇円(一四円切捨)を超える部分に限りこれを違法として取消すべく、また本件更正決定の法人税額二四七、三八〇円は右四六〇、四〇〇円に法人税法第一七条第一項第一号所定の一〇〇分の三五の税率を乗じて得た一六一、一四〇円を超える部分に限りこれを違法として取消すべきである。

よつて原告の本訴請求は以上の範囲内でこれを正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 平田孝 大西リヨ子)

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