京都地方裁判所 昭和34年(わ)315号 判決 1959年8月04日
被告人 増田弘
昭三・五・五生 日雇人夫
主文
被告人を懲役壱年六月に処する。
未決勾留日数中四拾日を右の刑に算入する。
本件公訴事実中昭和三十四年二月十日頃および同月末日頃の各強姦の点は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和三十三年九月十七日頃から昭和三十四年一月三十日頃まで京都市下京区東七条屋形町十四番地所在のバラツク建に独り住居をしていたものであるが、昭和三十三年十二月下旬頃ふとしたことから近隣に住むAの内縁の妻Bの実子(連れ子)C(当時十四年)と親しくなり、昭和三十四年一月二十日頃から右Aの許しを得て同女をその弟Dと共に自宅に寝泊りさせるまでになつたのであつたが、同年一月二十四日夜たまたまこのようにして弟Dと共に同家に泊まりに来て自己の傍に寝ている同女を見て、かねて右Aから同人が右Cと関係したことがある旨を聞かされていたところから、にわかに劣情を催し、同女を強いて姦淫しようと企て、同日午後九時頃前記バラツク建奥二畳の間において、傍に就寝中の同女の上に乗りかゝり、そのズロースを引き下げようとして同女にこれを拒まれるや「お前はお父さんと関係があるのやし、わしの言うことも聞け、若し、言うことを聞かなければお父さんと関係のあることを皆に言いふらすぞ。」と申し向け、同女において若し極力抵抗するにおいては右Aよりかねて姦淫されたことのあることを他人に吹聴されるかも知れないと畏怖させ、その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫したものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法第百七十七条前段に該当するところ、被告人には前示前科があるから、同法第五十六条第一項、第五十七条により同法第十四条の制限内で累犯の加重をなし、犯行後の被告人および被害者の関係その他犯罪の情状を考慮して、同法第六十六条、第七十一条、第六十八条第三号により酌量減軽をした刑期範囲内で被告人を懲役壱年六月に処し、同法第二十一条により未決勾留日数中四十日を右の刑に算入し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人にこれを負担させないこととする。
(一部無罪の点についての判断)
なお本件公訴事実中被告人が、昭和三十四年二月十日頃の午後九時三十分頃および同月末日頃の午後九時頃の二回にわたりいずれも肩書住居において前記Cを強いて姦淫したとの点については、被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書、当裁判所の証人Cに対する尋問調書中に右各公訴事実にそう供述がないでもないけれども、しかし、本件において取調べた全証拠を綜合すれば、被告人が昭和三十三年十二月末頃近所に住んでいた右Cと知り合いついで同女の実母Bの内縁の夫Aとも知り合い気の合うところからA方によく出入りしたりして相当親しく交際していたこと、右Cは被告人から小遺を貰つたり映画に連れて行つて貰つたり相当親しくしており又Aの家が狭いため昭和三十四年一月二十日頃からAの子D(五才)を連れてよく当時の被告人方(判示住居)に泊まりに行つては被告人と同じふとんで寝ていたこと、被告人は同月末頃被告人所有の右住居を売り払い同月三十一日頃からA方に同居人として住み込み以来同年四月頃まで同居しておりその間常に右Cと同じふとんで寝ていたこと、この間(同居以前も含めて)被告人は右Cと少くとも十数回(被告人の供述によれば二十数回、右Cの供述によれば十数回)肉体関係を結んでおり、同年三月末頃右Cが妊娠していると判つたときにも被告人は「病院へ連れて行つてやろう。お前が生んだらわしが育てる。」等と言つたことがあつたこと、右Cが同年四月二十二日、母のEに妊娠のことを打ち明けたときも父Aに強姦されたとだけ言つて被告人のことは何も言つておらず、取調に当つた警察官から被告人の方はどうなのかと問われて始めて被告人にも二回(後三回と改めている)強姦されたと打ち明けるにいたつたものであること等の事情も認められ、右に認定した本件における被告人と被害者との日頃の関係、その肉体関係の回数、犯行後の被告人被害者の態度、発覚した時の被害者の態度等によれば、本件は通常の事例とは著しくその態様を異にしその全部の関係がすべて強姦とは到底認められず、最初の関係であつて特に強姦と認めるに足る事情のある判示事実は別として少くも十数回ある肉体関係のどこに位置するかも明確でなく他のそれと較べて特色のあるものかどうかも明かでない残余の公訴事実についてはむしろ和姦を推測せしめる疑が濃く従つて、右公訴事実にそう被告人と被害者の前記供述は右の情況から見てにわかにこれを採用しがたく、外に右事実を認めるに足る証拠もないから、結局右各公訴事実については犯罪の証明がないことに帰し、刑事訴訟法第三百三十六条後段により無罪の言渡をなすべきものである。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 岡田退一 石田登良夫 川口富男)