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京都地方裁判所 昭和34年(ワ)488号 判決 1967年2月07日

原告

高畑洲太郎

右訴訟代理人

佐藤義雄

小林定雄

被告

橋本誠一

被告

橋本末男

右被告等訴訟代理人

山村治郎吉

主文

別紙目録第一の(1)の土地と同第二の(1)の土地との境界線は別紙図面ロ、ハを結ぶ線であることを確定する。

別紙目録第一の(3)の土地と同第二の(1)の土地との境界線は別紙図面ハ、ニ、ホを結ぶ線であることを確定する。

別紙目録第一の(4)の土地と同第二の(2)の土地との境界線は別紙図面ホ、カを結ぶ線であることを確定する。

別紙目録第一の(4)の土地と同第二の(3)の土地との境界線は別紙図面カ、リを結ぶ線であることを確定する。

被告橋本末男は原告に対し別紙目録第三の(5)の土地を明渡せ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その一を原告、その四を被告等の負担とする。

本判決第五項は、原告が被告橋本末男に対し金五万円の担保を供するとき、仮りに執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、「主文第一ないし第五項同旨。被告橋本誠一は原告に対し別紙目録第三の(1)ないし(3)の土地を明渡せ。被告橋本末男は原告に対し同第三の(6)の土地を明渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決と土地明渡請求部分について仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、原告は、昭和六年一月二三日、家督相続により、別紙目録第一の(1)ないし(4)、同第二の(1)ないし(3)の土地の所有権を取得した(第一の(1)ないし(4)の土地について昭和三一年一〇月二二日相続登記)。

二、昭和二二年七月二日、国は、自作農創設特別措置法により、別紙目録第二の(1)ないし(3)の土地を買収し、訴外橋本万吉(被告橋本誠一の父)、訴外大西増太郎、被告橋本末男は、自作農創設特別措置法により、それぞれ、別紙目録第二の(1)、(2)、(3)の土地の売渡を受けその所有権を取得し(昭和二五年四月二〇日登記)、被告橋本誠一は、昭和三二年五月一一日、橋本万吉より、贈与に因り、別紙目録第二の(1)の土地の所有権を取得し(同日登記)、被告橋本末男は、大西増太郎より、売買に因り、別紙目録第二の(2)の土地の所有権を取得した(昭和三三年二月二五日京都府知事所有権移転許可)。

三、別紙目録第一の(1)、(2)、(3)、(4)の土地の範囲は、それぞれ、別紙目録第三の(1)、(2)、(3)、(4)((5)および(6))の土地である。

四、したがつて、別紙目録第一の(1)の土地と同第二の(1)の土地との境界線、同第一の(3)の土地と同第二の(1)の土地との境界線、同第一の(4)の土地と同第二の(2)の土地との境界線、同第一の(4)の土地と同第二の(3)の土地との境界線は、それぞれ、別紙図面ロ、ハを結ぶ線、同ハ、ニ、ホを結ぶ線、同ホ、カを結ぶ線、同カ、リを結ぶ線である。

五、被告橋本誠一は、別紙目録第二の(1)の土地の一部であると主張して、同第三の(1)ないし(3)の土地を占有耕作し、被告橋本末男は、それぞれ、同第二の(2)、(3)の土地の一部であると主張して、同第三の(5)、(6)の土地を占有耕作している。

六、よつて、原告は、土地境界確定を求めるとともに、所有権にもとづき別紙目録第三の(1)ないし(3)、(4)((5)および(6))土地の明渡を求めるため、本訴に及んだ。」

と述べ、

被告等の抗弁に対し、

「七、被告等の四の(1)ないし(3)の各(イ)の事実は認めるが、被告等主張の二、三、四の(1)ないし(3)の各(ロ)の事実は争う。

八、売渡を受けた別紙目録第二の(1)、(2)、(3)の土地の一部として、それぞれ、別紙目録第三の(1)ないし(3)、(5)、(6)の土地を自主占有することは、両土地の面積、両土地の境界に畦畔が存在していたことより考えて、悪意であり、仮りに善意としても、過失がなかつたものといえない。

九、被告橋本末男は、大西増太郎より別紙目録第三の(5)の土地の賃借権の譲渡を受けるについて、農地法第三条所定の許可を受けていない。

一〇、被告等およびその前主は、別紙目録第三の(1)ないし(3)、(5)、(6)の土地に対する賃借権を、農地改革の時以降放棄した。」

と述べた。

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の一、二、五の事実は認めるが、原告主張の三、四、一〇の事実は争う。

二、仮りに、原告主張の三、四の事実が認められるとすれば、橋本万吉、大西増太郎、被告橋本末男は、それぞれ、別紙目録第二の(1)、(2)、(3)の土地の売渡を受けて以来、それぞれ、別紙目録第三の(1)ないし(3)、(5)、(6)の土地を、右売渡を受けた土地の一部と信じて、所有の意思をもつて、平穏、かつ公然に、占有し、占有の始、善意、かつ無過失であり、被告橋本誠一、同橋本末男は、それぞれ、橋本万吉、大西増太郎より別紙目録第二の(1)、(2)の土地の所有権譲渡を受けて以来、それぞれ、別紙目録第三の(1)ないし(3)、(5)の土地の占有を承継した。

三、したがつて、被告橋本誠一、同橋本末男は、原告の本訴提起(昭和三二年一一月二九日)以前に、一〇年の時効に因り、それぞれ、別紙目録第三の(1)ないし(3)、(4)((5)および(6))の土地の所有権を取得した。

四、仮りに、そうでないとしても、原告の土地明渡請求はつぎの理由により失当である。

(1)(イ)橋本万吉は、原告より、別紙目録第三の(1)ないし(3)の土地を賃借していたところ、橋本万吉は、昭和三十二年六月一〇日死亡し、被告橋本誠一は、万吉の長男として、共同遺産相続をした。

(ロ) したがつて、被告橋本誠一は右土地に対する賃借権を相続した。

(2)(イ) 大西増太郎は、原告より、別紙目録第三の(5)の土地を賃借していた。

(ロ) 被告橋本末男は、大西増太郎より、別紙目録第二の(2)の土地買受と同時に、同第三の(5)の土地の賃借権の譲渡を受けた。

(3)(イ) 橋本辰之助(明治二五年一月一六日生)は、原告より別紙目録第三の(6)の土地を賃借し、被告橋本末男は、橋本辰之助の同居の家族(四男)である。

(ロ) 被告橋本末男は、右土地を、同居の老齢の父橋本辰之助の有する右賃借権にもとづいて、占有耕作している。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

原告主張の一、二の事実は被告等の認めるところである。

<証拠>によれば、原告主張の三、四の事実を認めうる。<証拠>によれば、原告主張の三、四の事実は認めうる。<証拠判断省略>

甲番地の土地の所有権を取得したXが、隣地の乙番地の土地の所有者Yを被告として、両土地の境界確定の訴を提起した場合、Yが、(1)「Yは甲番地の土地の一部を時効に因り取得したから、X所有の土地とY所有の土地との境界は甲番地の土地内にある。」と主張し、右時効取得の事実が認められても、XとYは、甲番地の土地と乙番地の土地の境界確定の訴の当事者適格を有するものと解するのが相当である。けだし、右の場合、Xは、甲番地の土地中Y時効取得部分を除く部分の所有者として、甲番地の土地と乙番地の土地の境界確定に密接な利害関係を有し、XとYを当事者とする両土地の境界確定の訴を認めることは、境界確定の訴の性質に合致するし(境界確定の訴は、双方の土地所有権の範囲の確認を目的とするものではなく、したがつて、裁判所は、当事者の申立線に拘束されず自由に、境界線を確定できるし、当事者は境界確定の訴に対する判決確定後に、取得時効等を主張して、所有権の及ぶ範囲をあらためて争うことができる)、実際的にも妥当であるからである。

したがつて、Yの(1)の時効の抗弁は、境界確定の訴の当事者適格の有無を決定するためには、判断する必要がない。

これに反し、設例の場合、Yが、(2)、「Yは甲番地の土地全部を時効に因り取得した。」と主張し、右甲番地の土地全部の時効取得の事実が認められるとき、XとYとは、甲番地の土地と乙番地の土地の境界確定の訴の当事者適格を有しないものと解するのが相当である。けだし、右の場合、Xは、甲番地の土地全部について、所有者でなくなり、Yが、甲乙両番地の土地の所有者となるからである。

したがつて、Yの(2)の時効の抗弁は、境界確定の訴の当事者適格の有無を決定するためにも、判断する必要がある。

よつて、被告等主張の時効の抗弁について、判断する。

上記境界認定に示した各証拠によれば、橋本万吉、大西増太郎、被告橋本末男が、それぞれ、別紙目録第二の(1)、(2)、(3)の土地の売渡を受けた当時、右土地と別紙目録第三の(1)、(3)、(5)、(6)の土地との前記認定の境界線には、畦畔が存在しており、登記簿、土地台帳附属図面、隣接地所有者等について調査すれば、別紙目録第三の(1)、(2)、(3)、(4)((5)および(6))の土地が原告所有の土地であることを容易に知りうること、橋本万吉、大西増太郎、被告橋本末男(または父橋本辰之助)等は、上記調査をしていないことを認めうる。上記境界認定において採用し難い証拠として示した各証拠中、右認定に反する部分は採用し難い。

したがつて、橋本万吉、大西増太郎、被告橋本末男(または父橋本辰之助)は仮りに、占有の始、善意であつたとしても、過失がなかつたものと認めえない。

被告等主張の時効の抗弁は採用し難い。

よつて、原告は、現在、別紙目録第三の(1)、(3)、(4)((5)および(6))の土地を所有し、本件土地境界確定の訴の当事者適格を有するから、本件土地境界は、主文第一ないし第四項のとおり確定すべきである。

つぎに、原告の土地明渡請求について判断する。

前記認定のとおり、被告等主張の時効の抗弁は採用し難いから原告は、現在、別紙目録第三の(1)、(2)、(3)、(4)((5)および(6))の土地所有するものと認めうる。

賃借権の抗弁に対する判断。

被告等主張の四の(1)ないし(3)の各(イ)の事実は原告の認めるところである。

仮りに、被告等主張の四の(2)の(ロ)の事実を認めうるとしても、被告橋本末男が農地法第三条所定の許可を受けた事実の主張立証がないから、別紙目録第三の(5)の土地についての賃借権の抗弁は採用しえない。

よつて、原告の被告橋本末男に対する別紙目録第三の(5)の土地明渡請求は、正当としてこれを認容すべきである。

原告主張の賃借権放棄の再抗弁事実は、これを認めうる証拠がない。

したがつて、被告等主張の四の(1)および(3)の抗弁は理由がある。

よつて、原告その余の請求(被告橋本誠一に対する別紙目録第三の(1)ないし(3)の土地明渡請求、被告橋本末男に対する同第三の(6)の土地明渡請求)は、失当としてこれを棄却すべきであり、民事訴訟法第九二条第九三条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

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