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京都地方裁判所 昭和35年(ワ)1223号 判決 1965年1月12日

原告 小笹滝三

被告 浪速糖業株式会社 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告会社は原告に対し別紙登記目録(1) 、(2) 記載の各登記の抹消登記手続をせよ。被告沖山は原告に対し別紙登記目録(3) 、(4) 記載の各登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

「(一) 被告会社は、昭和三二年七月一九日、訴外株式会社三四郎商店(以下、訴外会社と略称する)との間に、砂糖を訴外会社に売渡す砂糖売買取引契約を締結し、訴外会社の代表取締役であつた原告は、同日、訴外会社が、被告会社に対し、右砂糖売買取引契約にもとづいて負担する一切の債務を、担保するため、別紙物件目録<省略>記載の土地(本件土地)について、債権元本極度額金四〇万円の根抵当権設定契約を締結するとともに、訴外会社が被告会社との砂糖売買取引契約終了時の債務の履行を怠るとき、被告会社において、右債務の代物弁済として本件土地の所有権を取得しうる、旨の代物弁済予約を締結し、別紙登記目録記載(1) 、(2) の根抵当権設定登記、代物弁済予約に因る所有権移転請求権保全仮登記を経由した。

(二) 被告会社と訴外会社との間の砂糖売買取引契約にもとづく砂糖売買取引は、昭和三三年二月五日の売買をもつて終了し、訴外会社は、昭和三三年五月一九日、取引残代金を全部支払うともに、前記根抵当権設定契約である砂糖売買取引契約を合意解除した。

(三) その後、本件土地について、被告沖山のために、別紙登記目録記載(3) 、(4) の根抵当権移転仮登記移転の各付記登記が経由された。

(四) よつて、原告は、被告会社に対し、登記目録(1) 、(2) の各登記の抹消登記手続、被告沖山に対し、登記目録(3) 、(4) の各付記登記の抹消登記手続を求める。」

と述べ、

被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「(一) 原告主張の(一)および(三)の事実は認めるが、(二)の事実は争う。

(二) 被告会社は、昭和三三年二月上旬、その営業を砂糖製造部門に限定し、被告沖山が、被告会社よりその砂糖販売部門の譲渡を受けて、砂糖販売業を経営することになり、被告沖山は、被告会社より、前記根抵当権および前記代物弁済予約に因る仮登記上の権利を、根抵当権設定の基本契約である砂糖売買取引契約上の債権者の地位とともに、譲受け、訴外会社(代表者原告)および原告は、いずれもこれを承諾した。

(三) 訴外会社は、昭和三三年二月一八日より、訴外会社が手形不渡りをした昭和三四年八月下旬まで、被告沖山より、右砂糖売買取引契約にもとづいて砂糖を買受け、被告沖山は、訴外会社に対し、金九七万三七四円の残代金債権を有している。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

原告主張の(一)および(三)の事実は当事者間に争がない。

ところで、根抵当権の基本契約である継続的取引契約上の債権者の地位が第三者に譲渡され、債務者がこれを承諾するとき、その根抵当権は、いわゆる抵当権の随伴性によつて、反対の特約のないかぎり、当然、新債権者に移転すると解すべきである。(根抵当権の基本契約上の債権者の地位の譲渡については、通常の抵当権付債権譲渡の場合と同じく、物上保証人の承諾を必要としないが、基本契約上債権者が義務を負担していない場合においても、通常の債権譲渡の場合と異なり、債務者は、新債権者との間に、従前よりの継続としての継続的取引契約関係を発生させるか否かの自由を有するから、債務者の承諾を必要とするものと解するのが相当である。ただし、基本契約上債権者が義務を負担していない場合、債務者が、旧債権者より、基本契約上の債権者の地位譲渡の通知を受けながら、旧債権者との間の基本契約を解除することなく、新債権者との間に従前どおりの取引を開始すれば、債務者の默示の承諾を容易に認定できるであろう。)

つぎに、根抵当権の基本契約終了時の被担保債務について、不動産代物弁済予約が締結され、代物弁済予約に因る所有権移転請求権保全仮登記が経由されている場合、根抵当権の基本契約上の債権者の地位が第三者に譲渡され、債務者がこれを承諾するとき、反対の特約のないかぎり、右譲渡契約の当事者の意思解釈として、代物弁済予約に因る仮登記上の権利譲渡が包含されているものと解すべきであるから、代物弁済に因る仮登記上の権利は、新債権者に移転する。

これを本件についてみるに、証人沖山弘の証言(第一回)により成立を認めうる、乙第一ないし第五号証の各一、二、第六号証の一ないし九〇、被告沖山敏子の供述により成立を認めうる、乙第七、第八号の各一、二、成立に争ない乙第九ないし第三八号証、証人西村長光、同沖山弘の各証言(いずれも第一、二回)、被告沖山敏子の供述を総合すれば、被告会社は、昭和三三年二月上旬、その営業を砂糖製造部門に限定し、被告会社の当時の代表者沖山藤吉の妻である被告沖山が、被告会社よりその砂糖販売部門の譲渡を受けて、沖山商店の商号で砂糖販売業を経営することになり、被告会社は、昭和三三年二月上旬、被告沖山に対し、前記根抵当権設定契約の基本契約である砂糖売買取引契約上の債権者の地位を譲渡し、訴外会社(代表者原告)に対し、その旨通知し、訴外会社は、これを承諾し、同月一八日より、訴外会社が手形不渡りをした昭和三四年八月下旬まで、被告沖山より、右砂糖売買取引契約にもとづいて砂糖を買受け、被告沖山は、訴外会社に対し、金九七万三七四円の残代金債権を有していること、原告主張の基本契約合意解除の事実のないことを認めうる。原告本人の供述(第一、二回)中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

上記認定によれば、本件根抵当権の基本契約上の債権者の地位の譲渡とともに、本件根抵当権は、随伴性によつて、当然、新債権者である被告沖山に移転し、本件代物弁済予約に因る仮登記上の権利も反対の特約が認められないから、新債権者である被告沖山に譲渡されたものと認められる。

よつて、原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝)

別紙

登記目録

物件目録記載の土地についてなされた京都地方法務局下京出張所受付登記

(1)  昭和三二年七月二二日受付第二四九八八号根抵当権設定登記

原因 同年七月一九日商取引契約による現在負担し又は将来負担する一切の債務を担保するため同日根抵当権設定

債権元本極度額 金四〇万円也

損害金 元金百円につき一月金五銭

特約 債務の履行を怠つたときは期限の利益を失い即時元利金を弁済しなければならない。

債務者 株式会社三四郎商店

根抵当権者 浪速糖業株式会社

(2)  前同日受付第二四九八九号所有権移転請求権保全仮登記

原因 同年七月一九日代物弁済予約

権利者 浪速糖業株式会社

(3)  昭和三五年九月一九日受付第一三七五八号根抵当権移転登記((1) 附記登記)

原因 同年六月二〇日基本契約と共にする根抵当権譲渡契約

取得者 沖山敏子

(4)  前同日受付第一三七五九号仮登記移転登記((2) の附記登記)

原因 同年六月二〇日権利譲渡

取得者 沖山敏子

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