大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和35年(ワ)261号 判決 1966年2月25日

原告(本訴原告・反訴被告)

桐山誠一

補助参加人

明光莫大小株式会社

右代表取締役

桐山誠一

右両名訴訟代理人弁護士

植田広

被告(本訴被告・反訴原告)

谷津満恵

被告(本訴被告)

光洋商事有限会社

右代表取締役

谷津秀雄

右両名訴訟代理人

永島雄蔵

主文

原告の請求を棄却する。

原告は被告谷津に対し別紙目録第二の(一)、(二)記載の登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告谷津は、原告に対し、別紙目録第二の(二)記載の所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続をなし、被告等は、原告に対し、別紙目録第一記載の建物(本件建物)を明渡せ。被告谷津の反訴請求を棄却する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決と明渡部分について仮執行の宣言を求め、本訴請求原因および反訴答弁として、

「一、被告谷津所有の本件建物について、原告を権利者とする、別紙目録第二の(一)、(二)記載の根抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記(本件(一)、(二)の登記)がなされている。

二、原告は、被告谷津との間に、本件(一)、(二)の登記の原因である根抵当権設定契約、停止条件付代物弁済契約を締結したことはない。

三、明光莫大小株式会社(以下明光会社と略称する)は、昭和三一年五月二四日、被告会社との間に、商品取引契約を締結し、同日、被告谷津との間に、その所有の本件建物について右商品取引契約にもとづく債権を被担保債権として、債権極度額金百万円の根抵当権設定契約、代物弁済予約を締結した。

四、右契約にもとづく登記手続を誤つたため、明光会社を権利者としないで、明光会社の代表者である原告個人を権利者として、本件(一)、(二)の登記がなされた。

五、したがつて、本件(一)、(二)の登記は、権利者原告を明光会社に更正登記手続がなされるべきであつたが、つぎのとおり、明光会社は原告に、代物弁済予約上の権利をその被担保債権とともに譲渡したから、更正登記手続の必要がなくなつた。

六、明光会社は、昭和三六年三月一日現在、商品取引契約にもとづき、被告会社に対し金六五万円の債権を有した。

七、明光会社は、その取締役会承認の上、昭和三六年三月一日、原告に対し、右金六五万円の債権を代物弁済予約上の権利とともに譲渡し、被告等に対し、昭和三六年五月一四日送達の補助参加申出書をもつててその旨通知した。

八、原告は、被告谷津に対し、昭和三六年五月一四日送達の書面をもつて、代物弁済予約完結の意思表示をした。

九、原告は、右予約完結の意思表示によつて、本件建物の所有権を取得した。

一〇、被告等は本件家屋を占有している。

一一、よつて、原告は、被告谷津に対し、本件(二)の登記(仮登記)の本登記手続、被告等に対し、本件建物の明渡を求める。

一二、被告等主張の四の事実は争うが、五の事実は認める。」

と述べた。

被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決と敗訴の場合の仮執行免脱の宣言を求め、本訴答弁および反訴請求原因として、

「一、原告主張の事実中、一の事実は認めるが、二ないし六の事実は争う。

二、被告谷津は、原告との間に、本件(一)、(二)の登記記載のとおりの根抵当権設定契約、停止条件付代物弁済契約を締結した。

三、被告会社は明光会社に対し金二八万二、七七四円(五分引の特約にもとづき、総取引高四八〇万円の五分である二四万円を差引)の残債務を負担しているにすぎない。

四、仮りに、明光会社と被告との間に、原告主張の代物弁済予約が締結されたとしても、本件建物の時価は、予約締結当時金二〇〇万円以上であり、その後高騰しているから、代物弁済予約および予約完結の意思表示は、債務者の急迫、軽卒、無経験に乗じてなされたる暴利行為であり、公序良俗に反し無効である。

五、被告会社は、原告と、昭和三一年五月二四日に商品取引契約締結以後一回の取引をしたこともなく、原告に対し、昭和三八年一一月七日到達の内容証明郵便をもつて、右商品取引契約解約の意思表示をした。

六、よつて、被告谷津は原告に対し本件(一)、(二)の登記の抹消登記手続を求める。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

原告主張の一の事実は被告等の認めるところである。

甲会社(債権者)と乙との間に、乙所有の不動産について、代物弁済予約が締結されたが、その代物弁済予約にもとづく仮登記が、誤つて甲会社の代表者A個人を権利者としてなされた場合、権利者は登記内容の本質的部分であるから、権利者Aを甲に更正登記をすることはできない。

右設例の場合、その後、Aが、甲より代物弁済予約上の権利をその被担保債権とともに譲受け、乙に対し代物弁済予約完結の意思表示をなし、目的不動産の所有権を取得したとき、Aは乙に対し右仮登記の本登記手続を求めえないと解するのが相当である。けだし、仮登記に表示されたA名義の代物弁済予約上の権利(形式上A乙間の契約により発生した権利)とAが甲より承継取得した甲の代物弁済予約上の権利(甲乙間の契約により発生した権利)とは、全く別個の権利であつて、Aの所有権取得は、仮登記に表示されたA名義の代物弁済予約にもとづくものといえないからである。Aが乙に対し仮登記の本登記手続を請求する場合にその請求を認むべきかの問題は、A名義の仮登記の本登記がすでになされた場合にその本登記の効力を維持すべきかの問題とは区別すべき問題である。

したがつて、本件における原告の被告谷津に対する本登記手続請求は、主張自体、失当として棄却を免れない。(原告の本登記手続請求が仮登記とは独立の所有権移転登記手続を求める趣旨を含んでいるものと解しても、後記事実認定により失当である。)

<中略>

したがつて、明光会社と被告谷津との間に代物弁済予約の成立したことを前提とする、原告の被告等に対する本件建物明渡請求は、その余の判断をなすまでもなく、失当として棄却を免れない。被告等主張の五の事実は原告の認めるところである。

右解約によつて、本件(一)の登記の原因である根抵当権設定契約の基本契約である商品取引契約は終了し、本件(一)、(二)の登記の被担保債権は発生しないことに確定した。

したがつて、被告谷津の原告に対する本件(一)、(二)の登記の抹消登記手続を求める反訴請求は正当として認容すべきものである。

よつて、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例