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京都地方裁判所 昭和37年(ワ)680号 判決 1963年12月19日

判   決

札幌市白石町本通七〇八番地

原告

阿部尚

右訴訟代理人弁護士

渡辺敏郎

京都市上京区室町通下立売下る武衛陣町二三〇番地

被告

有馬花枝

主文

被告の原告に対する京都地方裁判所昭和二五年(ワ)第六四七号約束手形金等請求事件昭和二五年七月三一日和解調書に基づく強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「(一) 原・被告間には、主文第一項記載の債務名義(本件和解調書)が存在する。

(二) 本件和解調書には、原告は、被告に対し、金二五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和二五年七月一四日から支払済まで年六分の割合による損害金を、同年一〇月三〇日限り持参支払うこと、という記載がある。

(三) 被告は、本件和解調書に基づき、名古屋地方裁判所昭和二八年(ル)第八一号債権差押命令を申請し、債権差押命令(請求金額、二九三、七五〇円、差押うべき債権の種類および金額、原告が第三債務者中央チンローラー株式会社より支給を受ける給与月額の四分の一に相当する金員で、昭和二八年六月の給与支給日より前記請求金額に満つるに至るまでの分)は、同年六月二八日原告および第三債務者に送達された。

(四) 原告は、同年六月二五日、右第三債務者より解雇されていたが、右債権差押命令送達当時、被差押債権は、金二、五〇〇円の限度において存在していた。

(五) しかるに、被告は、右金二、五〇〇円の債権について移付命令の申請をしないで、昭和三六年九月一一日、右債権差押命令申請の取下をした(取下書謄本は、同年九月一三日第三債務者に送達されたが、債務者への送達は転居先不明にて不能)。

(六) 右債権差押による時効中断の効力は、右取下によつて消滅した。

(七) したがつて、被告の原告に対する本件和解調書に基く債権は、弁済期から満一〇年を経た昭和三五年一〇月三〇日の経過をもつて、時効により消滅したから、原告は、本訴において右時効を援用する。

(八) よつて、原告は、本件和解調書の執行力の排除を求めるため本訴に及んだ。」

と述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「(一) 原告主張の(一)ないし(五)の事実は認める。

(二) 被告の債権差押命令申請の取下は、札幌市に転居した原告に対し別の強制執行をするに必要な本件和解調書正本の返還を受けることを意図してなされたのであるから、時効中断の効力は失効しない。」

と述べた。

証拠(省略)

理由

原告主張(一)ないし(五)の事実は当事者間に争がない。

債権差押命令が債権者および第三債務者に送達されたが被差押債権が不存在のため、債権者が債権差押命令申請の取下をした場合は、債権差押えによる時効中断の効力は失効しないものと解すべきである(大審院大正一五年三月二五日判決、民集五巻二一四頁参照。)

しかし、本件のように、移付命令の申債費用を償うて余りある額の被差押債権が存在する(被差押債権が無価値であるとの主張立証はない。)のにかかわらず、債権者が移付命令の申請をしないで債権差押命令申請の取下をした場合は、債権差押による時効中断の効力は失効するものと解するのを相当とする。

被告の債権差押命令申請の取下が、被告主張のとおり、本件和解調書正本の返還を受けることを意図してなされたとしても、そのような申請取下の動機は、前記時効中断失効を妨げる理由となりえない。

したがつて、本件和解調書に基づく債権は、弁済期から満一〇年を経た昭和三五年一〇月三〇日の経過をもつて、時効により消滅したものと認められる。

よつて、原告の本訴請求は、正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

京都地方裁判所

裁判官 小 西   勝

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