京都地方裁判所 昭和39年(ワ)832号 判決 1964年12月17日
理由
一、原告主張事実一、二並びに三の事実のうち、原告主張公正証書の一定金額の支払を目的とする条項として債務者は債務を不履行したときは第二条の現に在る債務に代るものとして違約金一、五〇〇、〇〇〇円を直ちに債権者に支払う。債権者は右受領金を第二条の債務の弁済に充当し、もし剰余あるときは之を債務者に返還するものと定められていることは当事者間に争がない。
二、仍て本件公正証書が一定の金額の支払を目的とする具体的の確定的請求について作成されたものと認められるかどうかについて判断する。
予め一定の取引限度額を定めおき将来その範囲内で金銭の貸付行為を反覆することを約する所謂与信契約にあっては、証書上表示されている、極度額は債務者が現実に債権者に対し負担すべき確定的金額を示したものでなく将来の貸付限度を示したものに過ぎないから、このような公正証書は給付すべき金額が一定しないものとして債務名義とすることはできないものと解せられる。
ところで本件公正証書にあつては債務者に於て債務不履行があるときは、現在ある債務に代るものとして極度額同額の違約金を直ちに債権者に支払う旨当事者間で一応支払うべき金額が特定されているが、他方右違約金を受領の上は現在の債務弁済に充当し、剰余あるときは、之を債務者に返還することを定めているのであつて、結局債権者が取得する金額は当事者間の合意にかかる違約金でなく、債務者の現実に負担する貸付金債務に過ぎないことは明である。右の如き条項は、本件債務名義たり得ない与信契約について、執行文の付与を受けるために用いられた技巧上の表現に過ぎず給付すべき金額は本件公正証書の記載自体からは明にすることはできないものと認めるのが相当である。
してみれば本件公正証書に基く強制執行の排除を求める原告等の請求は正当であるから之を認容。