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京都地方裁判所 昭和40年(ワ)321号 判決 1967年12月27日

主文

被告らは、各自、原告賀津子に対し金九〇〇、〇〇〇円、原告洋子に対し金五〇、〇〇〇円およびそれぞれに対する昭和三九年八月二五日いこう完済までの年五分の金銭を支払わなければならない。

原告らの被告らに対する残余の請求は棄却する。

被告らに、訴訟費用を負担させる。

原告らは、被告らに対し、勝訴の部分をかぎり、仮執行することができる。

理由

申立

(一)  原告らは、「被告らは、各自、原告賀津子に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、原告洋子に対し金一〇〇、〇〇〇円およびそれぞれに対する昭和三九年八月二五日いこう完済までの年五分の金銭を支払わなければならない。被告らに訴訟費用を負担させる。」との判決のほか、仮執行の宣言をも求めた。

(二)  被告らは、(一)に対し、「原告らの請求を棄却する。原告らに訴訟費用を負担させる。」との判決を求めた。

主張

原告らは、要約として、

(三)  原告賀津子、洋子の母子は、昭和三九年八月二五日、宇治市宇治妙楽一七五番地を東西にかけわたす幅員八メートルの宇治橋の南側を徒歩で東行していたところ、被告会社の被用者の被告河崎が東方から第一種原動機付自転車を運転し対面してくるなり、原告賀津子に接触して原告洋子とともに転倒させ、原告賀津子には即日から六四日間を宇治病院に入院し治療をしなければならなかつたほどの頭部外傷二型左前額部割挫創左下腿肘部肩胛骨部打撲傷右手三、四指擦挫創を、原告洋子には同じく三八日間を入院し治療しなければならなかつたほどの頭部外傷一型右前額部打撲傷左前額部耳介後部膝部擦過傷を負わせるにいたつた。

(四)  原告らが、しかし、同上の事故にあつたのは、被告会社のがわでかねて運送業を営むため前記の被告河崎を自動車助手としてはたらかせ、ときどき問題の自転車を運転させていたおりから、同人のほうで事故日は定時の勤務をおわつたあとながら、それを運転し、針路の前方が安全であることの確認をおこたつたという過失をおかしたけつかにほかならないゆえ、被告会社においては使用者、被告河崎のほうでは加害者として、原告らに生じた損害をそれぞれ賠償しなければならない義務がある。

(五)  原告らは、かくて、

(い)  金一、〇〇〇、〇〇〇円、ただし、原告賀津子が前述のような長期にわたり治療を要する傷害を負わされたばかりでなく、前額部に六センチメートルのみにくい傷あとができたうえ、後遺症の頭重頭痛めまいが消えないため従前どおり家事にも従事できなく、精神上少しとしない苦痛をうけたのを慰藉するため支払われることを要する、

(ろ)  金一〇〇、〇〇〇円、ただし、原告洋子がこれまた前述のような治療を要する傷害を負わされ精神上の打撃をうけたのを慰藉するため支払われることを要する。

損害をこうむつた。

(六)  原告らは、そこで、被告らを相手とり、各自に、原告賀津子の分として金一、〇〇〇、〇〇〇円、原告洋子の分として金一〇〇、〇〇〇円およびそれぞれに対する昭和三九年八月二五日いこう完済までの年五分の損害金の支払を求めるわけである。

被告らは、

(七)  原告らの(三)で主張する事実のうち、さような日時と場所で被告会社の被用者の被告河崎が問題の自転車を運転し、本件の事故をおこしたことのみは認めるけれども、残余の部分は不知として争う。

(八)  原告らの(四)で主張する事実のうち、被告会社が主張のような事業主で被告河崎が前示のとおり被用者であつたことは認めるけれども、残余の部分は認めるわけにゆかない。

被告河崎は、職制上の積卸夫としてつかい車両を運転させる被用者ではなかつたにかかわらず、問題の自転車を管理者に無断で運転したものであるから、被告会社の業務と関係がなくおこなわれたものというべきである。

(九)  原告らの(五)で主張する事実は、すべて争う。

(一〇)  原告らの(六)で主張する金銭は失当なものである。

原告らは、ことに、被告らとの間で、前掲の傷害の治療費として金一〇七、一一二円の支払をうけたほかに別途共済組合の「御見舞」として金一〇〇、〇〇〇円の交付をうけ、それ以上の請求はしないという示談を成立させていることからみても原告らの主張は全くいわれがないものである。と主張した。

証拠

(一一)  〔略〕

(一二)  〔略〕

判定

(一三)  原告らの(三)で主張する事実のうち、被告らの認める以外の部分は、〔証拠略〕を総合するとき(甲号各証の成立は弁論の趣旨から認める)原告らの主張するとおりをうべなうに十分である。

(一四)  原告らの(四)で主張する事実のうち、被告らの争う部分は、〔証拠略〕に徴するとき、原告らの主張するとおりを認めることができるのであつて、たとい、〔証拠略〕のように、被告河崎が抗争のとおり無断で問題の自転車を運転したものであつたとしても、それは、いわゆる内部的な規制を破つたものにすぎなく、外部的にみれば、被告会社が正常な業務をおこなつている場合といささかもことなるところがないから、被告会社のがわでは使用者、被告河崎のほうでは加害者として、原告らに生じた損害を賠償しなければならない義務があるものと断ずるのを相当とするからである。

(一五)  原告らの(五)で主張し被告らの争う損害の存否および数額は、〔証拠略〕にしたがうとき、

(い)の金銭ではそれの一〇分の九、

(ろ)の金銭ではそれの一〇分の五、

を損害として認めることができるにとどまり、これをこえる部分は、通念上過大に失するものとすべきである。

(一六)  原告らの(六)で主張する金銭は、以上のとおりであれば、被告らから各自に原告賀津子に対し金九〇〇、〇〇〇円、原告洋子に対し金五〇、〇〇〇円およびそれぞれに対する昭和三九年八月二五日いこう完済までの年五分の損害金さえ支払えば足るものであることもちろんである。

被告らは(一〇)で抗争のような示談が成立しているもののようにいうけれども、〔証拠略〕では認めることができなく 抗争はとりあげることができないのである。

原告らの被告らに対する請求は、結局、そうであれば、前認の金額の支払を求める限度でのみ正当として認容すべきにとどまり、これをこえる部分は失当として棄却をまぬがれないものとし、被告らのかわに訴訟費用の全額を負担させたうえ、原告らのかわに勝訴の部分をかぎり仮執行することを許容したしだいである。

(裁判官 松本正一)

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