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京都地方裁判所 昭和41年(ワ)446号 判決 1967年9月27日

原告 高照寺

右代表者代表役員 中村純孝

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 都馬有恒

被告 真宗大谷派

右代表者代表役員 大谷光暢

右訴訟代理人弁護士 表権七

主文

本件訴は、いずれも、これを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告が昭和四〇年一二月一二日施行した宗議会議員総選挙の無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、被告は、宗祖親鸞聖人の立教開宗の本旨に基いて、教義をひろめ儀式行事を行い、僧侶及び門徒を教化育成し、社会の教化を図り、寺院及び教会を包括し、その他右目的を達成するための財務その他の業務及び事業を運営することを目的とする宗教法人である。

二、被告は、昭和四〇年一二月一二日宗議会議員総選挙を施行したが、右総選挙は無効である。

(一)(1)  被告の宗議会は、被告宗門の規定である真宗大谷派宗憲のさだめに従って選挙された宗議会議員六五人以内で組織し、宗憲、条例、その他の規則の制定、改廃、予算その他の事項の議決、決算の審査、宗務総長の選挙の権限を有するところ、

(2)  被告は昭和四〇年一一月七日、臨時宗議会を招集し、同臨時宗議会は同月一〇日、宗議会議員選挙条例の一部を別紙のとおり改正する旨議決して、同日解散した。

(二)  そして、被告より(イ)右改正条例にのっとり同年一一月二二日附をもって同年一二月一二日を選挙期日と定めた総選挙が告達第四号をもって発令され、立候補届出期日を同年一一月二七日午後四時、選挙運動の締切期日を同年一二月八日と夫々定められ(ロ)右改正条例及び選挙に関する告達は被告機関紙「真宗」の昭和四〇年一二月一日を発行日とする一二月号(第七四三号)に掲載され、同紙は京都中央郵便局の同年一二月七、八日両日の受附で全国三〇教区の各寺院宛に発送され、

右総選挙は、右発令通りに実施されたが、

(三)  右改正条例及び選挙に関する告達は、全教区各寺院への到達は区々であり、大部分の寺院へは立候補届締切日或は選挙運動期間経過後において到達し、北海道教区の如きは総選挙実施後に到達したような有様である。原告らに対しては、立候補締切日までには到達しなかった。

このような方法による告達は、被告において定める達令式を遵守しないのみならず、宗教法人法第一二条第二項の規定の趣旨に反するものである。

従って右告達は時期的に違法であり、違法な告達により行われた前記総選挙は無効である。

三、原告高照寺の代表役員中村純孝及び原告永宗寺の代表役員永崎徹は、いずれも、被選挙資格を有する。

ところで、中村純孝は、昭和四〇年一一月二七日に配達された中外新聞に前記総選挙が行われる旨の掲載記事を見て、その選挙区である長浜教区の教務所へ電話で照会し、立候補締切日が当日午後四時であることを知り、直ちに同教務所へ立候補届出をしたが、その時は既に同日午後二時であり、選挙運動に著しく立遅れ、そのために落選した。

永崎徹は、宗議会議員選挙条例第四条第三号にいう組長の職にあったが、その選挙区の富山教区の教務所は、改正条例を適用し、総選挙発令の日までにその職を退いていない者として、その立候補届の受理を拒否した。しかし、右改正条例は、これが掲載された機関紙「真宗」が到達して初めて効力が発生するものであり、当時、富山教区にはこれが到達していなかったから、改正条例は発効しておらず、右のような立候補届の受理を拒否することは、違法である。

四、なお、原告らの当事者適格及び訴の利益について左のとおり主張を附加する。

宗議会においては、前記のとおり予算を議決するが、予算中、最も重要なものは賦課金項目であり、原告らのような被告の被包括寺院が賦課金納付義務を負担する。この賦課金納付義務は寺院の代表者や住職が負担するものではない。従って、宗議会の議決について、最も利害関係を有するのは、原告らのような各寺院であり、原告らにおいて、宗議会の選挙の効力を争う資格を有し、かつ、前記のような違法な選挙の無効確認を求める利益を有するものである。

と陳述し(た。)立証≪省略≫

被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一、第二項(一)(二)記載の事実は認める。

同第二項(三)記載の事実は争う。

同第三項記載の事実は、原告高照寺の代表役員中村純孝が昭和四〇年一二月二七日に立候補届をしたことを認めその余の事実を争う。

同第四項記載の事実は争う。

旨陳述し(た。)立証≪省略≫

理由

請求原因第一、第二項(一)(二)記載の事実は、当事者間に争いがない。

原告らは、右総選挙の無効確認を求めるものであるが、このような特別な権利義務関係にある団体内部の選挙の効力に関し、直接に一般司法裁判所に対しその無効の確認を求める訴を提起し得るか否かの問題は、しばらく措くとしても、凡そ、選挙に関し、本件のようにその手続上の違法を事由として争訟を提起し得るのは、当該選挙において選挙資格或は被選挙資格を有する者に限るのであり、その他の第三者は、これを為し得ないと解するのが相当である。このことは、一般的には公職選挙法中の選挙争訟に関する規定の趣旨、或は、≪証拠省略≫中の宗議会議員選挙条例第九章の規定の趣旨に照らしても肯首し得るところである。

原告らは、いずれも宗教法人たる寺院であり、その代表役員が前記総選挙における選挙資格及び被選挙資格を有することは、弁論の全趣旨により認められるところであるが、各寺院が右の選挙資格及び被選挙資格を有するものでないことは≪証拠省略≫により明らかである。代表役員と宗教法人たる寺院とは、法律上別人格と解すべきであり、その代表役員が選挙資格及び被選挙資格を有するからといって、その代表する寺院までが同様の資格を有するものとすることはできない。

仮に違法な選挙が実施され、その選挙により選出された者により宗議会が構成され、該宗議会がその権限を行使することによって、原告らが主張するような利害関係が原告らに生じることがありうるとしても、それは、宗議会の権限の行使により影響を受けるに過ぎないものであり、そのようなことがあるからと言って、直ちに、当該選挙そのものに対しその無効を主張することは、許されないと言うべきである。

そうすると、原告ら各寺院は、いずれも、本件選挙無効確認の訴を提起することができない者と言う他なく、原告らの訴は、いずれも、不適法として却下を免れない。よって、民事訴訟法第八九条、第九三条の規定を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木辰行 裁判官 渡辺常造 石井玄)

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