京都地方裁判所 昭和42年(ワ)248号 判決 1970年3月19日
原告(反訴被告)
渕ノ上モト
ほか二名
代理人
上田信雄
被告(反訴原告)
中小路泰夫
代理人
仁藤一
主文
原告(反訴被告)の請求を棄却する。
反訴被告(原告モト)は反訴原告(被告)に対し金五〇万円及び之に対する昭和四二年二月一六日以降完済迄年五分の割合による金員を支払え。
反訴原告(被告)その余の請求を棄却する。
訴訟費用は本訴、反訴何れも原告(反訴被告)の負担とする。
事実《省略》
理由
原告モト亡夫武盛が昭和三五年一二月二六日、京都市下京区西大路七条附近の路上に於て交通事故に遭いその結果死亡した事実については当事者間に争いがない、<証拠>によれば該交通事件に関する刑事被告事件に於て、被告は第一審に於て有罪判決を受けたが、第二審の判決に於て第一審判決は破毀され、被告は無罪となり該判決は確定した。右の無罪判決に於て、その理由とするところは本件事故が被告の運転する車によつて惹起されたと断定する証拠が充分でないというのであつて、本件事故については直接証拠は無く、情況証拠として、一、岡本達也の証言、二、被告の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書の供述の任意性及信用性、三、被告の当時運転した車の損傷の程度、四、被害者武盛の身体の創傷特に両下腿の骨折の成因、五、同被害者の被服の損傷状況の他本件事故現場に於ける被害者の転倒地点及び被害者の所持品の散乱状況等が挙げられ、前記判決理由中にその一つ一つについて詳細なる考察を加えた結果右の結論に達した事が窺われる。尤も右の中被害者の被服に付着していた塗料の性質とか、被告の供述による「何か轢いたショックでガクガクした」旨の供述等に対する疑点も残るが、本件に於ては何等新たな立証はなく、従つて之等の疑点を解明する手懸りはない。そうすると、本件事故に於ける被告を当事者として認める証拠は無く、賠償責任も無いと言わざるを得ない。
そこで被告の反訴請求について(原告等は明かな答弁はしていないが弁論の全趣旨よりして否認しているものとする)考えるに、<証拠>によれば本件事故後原告親子と被告との間で示談の交渉が行われ、原告側より最低三〇〇万円の要求を為した事が窺われ、之に対し被告より昭和三六年三月九日五〇万円を提供したが、原告モトは、自分の一存では受取れないと言つて一たん拒否したが、被告の懇望を容れ右の内金として一応預つたものであること、一方被告は当時刑事被告事件が進行中であり被告としては自己に刑事責任があるかも知れないと考えていたので刑事々件の進行並結果を有利にするため原告側の示談要求に対し一応誠意を示す意味に於て内金として提供したものであること等が認められ右認定に反する証拠はない。そうすると右の金員は、被告に事故に対する賠償責任が存在する事を前提として提供されたものと見るべく、自己に賠償責任が無いことが明かになれば当然返還を要求し得べき性質であつて、前記認定のように被告に賠償責任が無いとされた以上、原告モトは右金員を被告に返還すべき義務がある。ただ、その遅延損害金については、被告に返還請求権の発生した右無罪判決確定の日(昭和四二年二月一五日)の翌日より起算すべきものとする。尚預ヶ金の原因に関する被告の主張は何等立証がないから採用出来ない。
依つて原告の本訴請求は棄却し被告の反訴請求の中右認定以外の部分を棄却し、本件については諸般の事情に鑑み仮執行の宣言は付さないこととし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。(山田常雄)