大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和42年(行ウ)7号 判決 1974年3月01日

京都市左京区川端通二条東入上る大文字町一六二番地

原告

岡田初太郎

右訴訟代理人弁護士

吉田隆行

右訴訟復代理人弁護士

高田良爾

京都市左京区聖護院円頓美町一八番地

被告

左京税務署長

尾原栄夫

右指定代理人

兵頭厚子

鬼束美彦

金原義憲

藤田康人

関襄

中谷透

三上耕一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立および主張は別紙要約調書のとおりである。

第二、証拠

一、原告

1. 甲第一ないし第六号証。

2. 証人岡田武夫、原告本人。

3. 乙第七ないし第九号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告

1. 乙第一ないし第九号証、第一〇号証ないし第一二号証の各一、二。

2. 証人宗像豊平、同河口進。

3. 甲第四号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二、よつて本件処分の適否について考察する。

原告の本件係争年分の所得は譲渡所得と不動産所得とであり、そのうち不動産所得についてはその金額が金五四九、七五〇円であることは当事者間に争いがないから、以下譲渡所得金額について判断する。

1. 譲渡収入金額

原告が昭和三六年七月一三日、原告所有にかかる本件不動産を訴外近鉄に対し、代金二九、四九九、四〇〇円で売渡したことは当事者間に争いがない。従つて右金額を右売買による譲渡収入と解すべく、原告も右金額を譲渡収入と認めていたところである。

原告はのちに譲渡収入金額は金一一、五九九、四〇〇円であり右自白は真実に反し、錯誤に基くものであるから、これを撤回する旨主張している。

しかしながら原告のこの点に関する主張は、要するに本件不動産の不法占拠者を排除するために金一七、九〇〇、〇〇〇円を出費し、原告の手許には右訴外会社より支払われた金二九、四九九、四〇〇円よりこの出費を引いた金一一、五九九、四〇〇円しか残らなかつたと云うに帰するのであつて、自白たる代金二九、四九九、四〇〇円での売買の事実についての陳述を変更するものではなく、右出費額が譲渡経費と認められなければ売買代金額よりこれを引いた金一一、五九九、四〇〇円が譲渡収入であるとの主張は自白の撤回には当らず、譲渡収入についての法的見解を述べるに過きない。そしてこの見解は右出費相当額について譲渡の対価性が認められる以上採用し得ず、原告の譲渡収入は金二九、四九九、四〇〇円と解すべきである。

2. 控除すべき取得費

(一)  取得価額

成立に争いのない乙第一ないし第五号証、第一〇ないし第一二号証の各一、二、証人河口進の証言により成立の認められる乙第七、第八号証、証人岡田武夫の証言、原告本人尋問の結果および当事者間に争いのない事実によれば、

(1)  訴外丸江伸銅株式会社は昭和二六年五月四日本件土地および右土地上の建物八九八・三四平方米の所有権を取得したこと。

(2)  昭和二七年頃右会社の支配権をめぐり原告の兄弟である訴外岡田庄三郎、同岡田武夫の間で紛争が生じ、原告も右争いにまきこまれ、原告は昭和二七年九月迄の間に同社の株式を一株六〇円程度で相当数入手していたこと。

(3)  昭和二八年一月二五日、右紛争収拾のため、原告、岡田庄三郎、岡田武夫、丸江伸銅らの間で、原告は丸江伸銅より代金一〇〇万円で本件土地および旧建物を買い受け、その支払に代えて原告の所有する同社の株式の内三、〇〇〇株を控除した残株式を同社に譲渡することを約し、なお控除した三、〇〇〇株を原告は無償で訴外鈴木光夫に譲渡する旨の和解が成立したこと。

(4)  原告は、右約定に従い、代金一〇〇万円の支払いに代え当時所有していた株式一七、八二〇株を丸江伸銅に対し譲渡したこと。

(5)  訴外鈴木光夫は当時丸江伸銅の取締役をしており、原告は前記紛争の円満解決の謝礼として同人に対し三、〇〇〇株を無償で譲渡したものであること。

(6)  当時丸江伸銅の株式の時価は、一株(額面五〇円)五〇円程度であつたこと。

以上の各事実が認められる。前掲乙第三、第四号証中には、原告は丸江伸銅に対し二万株を譲渡した旨の記載があり、原告本人も同趣旨の供述をしているが、右は前掲乙第二号証、第七号証に照らしにわかに措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上のとおり原告は本件土地および旧建物を金一〇〇万円で譲受け、その支払として訴外丸江伸銅の株式一七、八二〇株を金一〇〇万円と評価して譲渡したものであるところ、原告は右不動産の取得価格は、原告が右株式取得のために要した金一六〇万円及び鈴木に譲渡した三、〇〇〇株の取得に要した金二四万円の外紛争解決のために支出した訴訟費用金四六万円合計金二三〇万円と評価すべきであると主張するが、原告が譲渡した右株式は前記和解成立前より既に取得していたものであつて、右譲渡のために取得したものではないから、株式取得に要した価額を以て評価すべきものでなく、又鈴木への三、〇〇〇株の譲渡は、前記紛争の円満解決の謝礼としてなされたものであるから、右不動産取得の対価としての性質を持つものではない。更に訴訟費用金四六〇、〇〇〇円は、仮にその支払が真実であるとしても、前記丸江伸銅の経営支配をめぐる紛争解決のための訴訟費用であることが明らかであり、これを右不動産取得の対価に算入すべきでないことは多言を要しない。すると、原告の本件土地および旧建物の取得価額は前記約定のとおり金一〇〇万円と解すべきである。

本件不動産のうち、原告が昭和三〇年一月増築した建物二〇七・五〇平方米の建築費が金一、八八三、一〇〇円であることは当事者間に争いがない。

従つて、原告の本件不動産の取得価額は金二、八八三、一〇〇円となる。

(二)  償却費

本件土地および旧建物の取得価額は前記のとおり一〇〇万円であるから、旧建物のみの取得価額を、右土地および建物の当時の相続税評価額によつて按分算出すると金七九七、二三九円となる。

そこで右旧建物および増築建物の減価償却費を計算すると要約調書別紙三被告の主張欄記載のとおり、旧建物金二〇九、三八八円、増築建物金三七九、三三二円、合計金五八八、七二〇円となる。

(三)  設備費

原告が前記建物を増築した際、同時に伸銅用機械類合計金三、一七四、〇〇〇円、焼鈍炉金二、一〇〇、〇〇〇円を購入して本件建物内に設置したが、右機械類、焼鈍炉は昭和三二年一〇月または一一月頃、訴外島田勝二により持ち去られ、本件不動産の譲渡時には存在しなかつたことは当事者間に争いがない。原告は右合計五、二七四、〇〇〇円を設備費として然らずとしても雑損として控除の対象と認むべきであると主張するが、譲渡当時既に存在しないから、その価額を本件不動産の取得価額に算入することはできず、又昭和四〇年三月三一日法律第三三号による改正前の所得税法第一一条の四によれば、右機械類等が持ち去られたことにより生じた損失額は、右損失の生じた昭和三二年分の原告の総所得金額から控除されるべきものであつて、本件係争年分の総所得金額から控除することは認められない。

(四)  以上によれば、譲渡収入金額から控除すべき取得費は、(一)取得価額金二、八八三、一〇〇円から(二) 償却費金五八八、七二〇円を控除した金二、二九四、三八〇円である。

3. 譲渡経費

(一)  本件不動産の譲渡に関する仲介手数料、立退料、移転費の合計が金二一五万円であることは当事者間に争いがない。

(二)  原告は本訴において、(1)当初不動産譲渡収入金額は金二九、四九九、四〇〇円、譲渡経費は右(一)の金二一五万円および金一、七九〇万円の合計金二、〇〇五万円であると主張していたが、(2)その後主張を改め、不動産収入金額を金一一、五九九、四〇〇円、譲渡経費を金二一五万円とし、(3)さらにその後、仮に譲渡収入金額が金二九、四九九、四〇〇円であるとするならば、譲渡経費は金二、〇〇五万円である旨の主張をするに至つた。

被告は原告の右(2)の主張は、譲渡経費が金二一五万円であることを自白したものであるから、右(3)の二、〇〇五万円の主張は自白の撤回であり、これには異議がある旨主張している。

しかし、原告の(1)から(2)への主張の変更は、当初訴外丸江伸銅へ支払つた金一、七九〇万円を譲渡経費として主張していたものを、譲渡収入そのものから差引いて譲渡収入を金一、七九〇万円減額し、その分だけ譲渡経費を減額したものであり、譲渡収入代金が当初の主張どおり金二九、四九九、四〇〇円と認められる場合には、当初の譲渡経費の金額を予備的に主張するものであることは、弁論の全趣旨により窺われるから、右(2)の主張をもつて、譲渡経費が金二一五万円に限られる旨の自白をしたものとすることはできない。従つて、被告の主張は採用できない。

そこで、右争いのない金二一五万円以外に原告の主張する金一、七九〇万円が譲渡経費と認められるかにつき判断する。

前掲乙第三ないし第五号証、第一〇ないし第一二号証の各二、証人岡田武夫の証言および原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告は本件不動産を原告が全株を有する京都恒産株式会社名義で登記して所有占有してきたところ、昭和三二年九月中旬頃、同社の経営に参加してきた訴外島田勝二らが本件不動産を不法に占有し、第三者に賃貸するに至つたこと。

(2)  原告は右島田らの占有を排除するため、実弟の訴外岡田武夫の協力を求め、本件不動産を担保として中小企業金融公庫より借受けていた元利金四五〇万円を岡田武夫が保証人として弁済し、その求償権により本件不動産の競売を申し立て、岡田武夫自ら競落し形式上その所有者となり、訴外島田らの本件不動産に対する占有を排除するため諸種の手段を講じ腐心し引渡命令の執行により漸くその明渡を得たこと。

(3)  右訴外島田らの本件不動産からの立退きは、昭和三五年一〇月頃までにほぼ完了したこと。

原告は、金一、七九〇万円の出費の内訳として前記のとおり主張するが、旧所得税法第九条第一項第八号にいう「譲渡に関する費用」とは、譲渡のための周旋料、登録料、借家人を立ち退かせるために支払われる立退料等のような、資産の譲渡のために、通常、直接必要とされる経費を指すのであるから、右支出の内訳についての原告主張自体によつても、原告の求償債務の支払及び訴外島田らの不法占有を排除し占有を回復するために支出したものと云うべきであり、本件譲渡がなされた昭和三六年七月一三日の九ケ月も前に、訴外島田らの立退きが完了していることを考えると、原告主張の支出は、本件譲渡を直接実現するために必要な費用ということはできず、従つて、原告の主張する金額は譲渡経費とすることはできない。

4. 特別控除額

本件譲渡所得の特別控除額が金一五万円であることは当事者間に争いがない。

5. 譲渡所得金額

よつて、譲渡所得金額は、1譲渡収入金額から、2控除すべき取得費、3譲渡経費、4特別控除額を差引いた金二四、九〇五、〇二〇円の二分の一に相当する金一二、四五二、五一〇円である。

三、原告は、被告は昭和三八年一〇月訴外丸江伸銅に対し、本件不動産の譲渡所得について課税徴収しているから、原告に対する課税は二重課税である旨抗弁している。

しかしながら、本件不動産の譲渡所得が原告に帰属するものであることは前記のとおりであるから被告が本件再更正処分以前に右譲渡所得の帰属の認定を誤り、訴外丸江伸銅に対し課税したとしても、そのことは原告に対する課税に何らの影響を及ぼすものではないから、原告の右抗弁は主張自体失当であり採用することはできない。

四、以上によれば、原告の本件係争年度の総所得金額は、譲渡所得の金額と不動産所得の金額の合計金一三、〇〇二、二六〇円であり、課税総所得金額は、右金額から基礎控除金九万円を控除した金一二、九一二、二〇〇円となる。

よつて、右の範囲内で原告の総所得金額、課税総所得金額を認定してなされた本件再更正処分は適法である。

五、無申告加算税について

昭和三七年法律第六七号による改正前の所得税法第五六条第三項によれば、政府は、法定申告期限内に確定申告書の提出がなかつたことについて正当な事由がないと認めるときは、決定にかかる不足税額について、申告期限の翌日から当該決定にかかる通知をなした日までの期間が三ケ月をこえるときは百分の二五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課することとなつている。

原告が昭和三六年分の所得税につき、確定申告書を提出しなかつたことおよび同年分の確定申告書等の提出期限である昭和三七年三月一五日の翌日から本件処分の通知をなした日までの期間は、三ケ月を超えていることは当事者間に争いがない。

原告は、要約調書第四、二、4(確定申告書の提出について)記載のとおり、申告書の不提出につき正当な事由があつた旨抗弁する。

原告本人尋問の結果中には、昭和三七年三月、原告は左京税務署に赴き本件譲渡所得について係官に相談したところ、本件不動産の登記手続完了後に申告するよう指示された旨の供述をしている。

しかし、原告の供述及び前出乙第一〇ないし第一二号証の各一、二によれば、

(1)  本件土地三筆のうち二筆については昭和三六年九月二九日に譲渡登記が既に終つていたこと。残一筆についても昭和三七年八月六日に完了しているにもかかわらず、原告は右譲渡所得を申告していないこと。

(2)  原告は左京税務署に相談に赴いた際、契約書、登記簿等の資料を全く持参していなかつたこと。

(3)  原告は昭和三六年分の不動産所得が五〇万円程度あつたことを認識していたにもかかわらず、費用もかかつており申告の必要はないものと考え、右所得を申告することもしていないこと。

以上の事実が認められ、これらの事実に原告が本訴において当初、本件譲渡により金七、七〇〇円の損失を生じた旨主張していたことを合わせ考えると、税務署の係官に登記手続完了後に申告するよう指示された旨の前記原告の供述はにわかに措信し難く、原告が申告書を提出しなかつたのは、税務署の係官に右のような指示をなされたためではなく、同人が申告すべき譲渡所得はないと速断したためと考えられる。

原告の主張のうち、4(確定申告書の提出について)(二)記載の主張は、昭和三八年九月以降に行なわれた原告と税務署との交渉の経過を正当の事由として主張するものであるが、本件係争年分の確定申告書の提出期限(昭和三七年三月一五日)の翌日から三ケ月を経過した後の事情は、原告が申告書を提出しなかつたことにつき正当の事由とはなりえないから、右主張は、主張自体失当である。

すると、本件において決定にかかる不足税額は、金四、三四九、八〇〇円であるから、その百分の二五は、金一、〇八七、四五〇円であり、右範囲内でなされた本件無申告加算税賦課決定処分は適法である。

六、よつて、原告の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林義雄 裁判官 富川秀秋 裁判官 房村精一)

昭和四二年(行ウ)第七号所得税再更正決定処分等取消請求事件

要約調書

原告 岡田初太郎

被告 左京税務署長

第一、当事者の申立

一、原告の申立

「被告が原告の昭和三六年分所得税につき昭和四一年三月三一日付でなした再更正および無申告加算税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二、被告の申立

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、請求原因

一、1. 原告は、昭和三六年当時伸銅業を営んでいたものであるところ、被告は、原告の同年分所得税について、昭和三九年一二月一七日付で、「一時所得金四、九七四、七〇〇円および不動産所得金六二二、五〇〇円」との決定、および、「無申告加算税金四九一、二五〇円を賦課する。」との決定(以下これを原決定という。)をなし、後に、昭和四一年三月三一日付で、「課税総所得金額金一〇、二九五、一〇〇円」との再更正、および、「無申告加算税金一、〇八七、二五〇円を賦課する。」との決定(以下これを本件処分という。)をなした。

2. 本件処分について、原告が被告に対しなした異議申立は、同年五月一一日棄却され、本件処分について、原告が大阪国税局長に対しなした審査請求は、昭和四二年五月四日棄却され、原告は、同月一七日その旨の通知を受けた。

二、しかし、本件処分は、原告の総所得金額を事実に基づかずに過大に認定し、かつ、原告の申告を無視してなした違法のものであるから、その取消を求める。

第三、請求の原因に対する被告の答弁および主張

一、被告の答弁

1. 請求原因一の事実は認める。

2. 同二の事実は否認する。

二、被告の主張

1. (本件処分の経過)

(一)(1) 原告は、昭和三六年七月一三日、原告所有にかかる京都市南区東九条河辺町四八番地宅地七三・一二平方メートル外数筆の土地合計一、六五九・四七平方メートル(五〇一坪九合九勺)(以下本件土地という。)および、右地上建物合計一、一〇五・八五平方メートル(三三四坪五合二勺)(以下本件建物という。また、本件土地、建物を合わせて、以下本件不動産という。)を訴外京都近鉄自動車株式会社(以下訴外近鉄という。)に譲渡した。また、原告は、昭和三六年中に不動産所得を得ていた。

(2) しかるに、原告は、昭和三六年分所得税につさ、納税申告書を提出しなかつた。

(二) ところで、本件不動産は、当時、原告の所得かつ占有するところであつたけれども、登記簿上は訴外岡田武夫(以下訴外岡田という。)の所有名義であつたので、被告は、当初、本件不動産の売主は同訴外人が代表者となつている訴外丸江伸銅株式会社(以下訴外丸江伸銅という。)であり、原告は同会社から立退料を受領したものと認めて、原告に一時所得があつたものとして原決定をなし、後に、本件不動産の実質上の所有権者は原告であつたと判明したので、原告が売主であると認めて、原告に譲渡所得があつたものとして本件処分をなした。(本件処分の内容については、別紙一参照)

2. (原告の昭和三六年分所得税の計算)

(一) 原告の譲渡所得金額の計算は左のとおりである。(別紙二(一)参照)

(1) 譲渡収入金額 金二九、四九九、四〇〇円

右は、原告が本件不動産を訴外近鉄に譲渡したことによる収入金額である。

右金額についての原告の自白の撤回には異議がある。

(2) 控除すべき取得費 金二、二九四、三八〇円

右は、左記取得価額から償却費を控除した額である。

 取得価額 金二、八八三、一〇〇円

内訳イ 原告が、昭和二八年一月二五日、訴外丸江伸銅から買受け取得した本件土地の価額金二〇二、七六一円、および、建物八九八・三四平方メートル(二七一坪七合五勺)(以下旧来の建物という。)の価額金七九七、二三九円の合計金一、〇〇〇、〇〇〇円(当時の相続税評価額により按分算出)

ロ 本件不動産のうち、原告が昭和三〇年一月に増築した建物二〇七・五〇平方メートル(六二坪七合七勺)の建築費金一、八八三、一〇〇円

 償却費 金五八八、七二〇円(別紙三被告の主張欄参照)

内訳イ 旧来の建物の減価償却費 金二〇九、三八八円

ロ 増築建物の減価償却費 金三七九、三三二円

(3) 譲渡経費 金二、一五〇、〇〇〇円

右は、本件不動産の譲渡に関する仲介手数料、立退料、移転費である。

内訳イ 仲介手数料

訴外畑山富彦に対し 金二〇〇、〇〇〇円

同林喜久雄に対し 金三〇〇、〇〇〇円

ロ 工場占有者立退料および移転費

訴外三栄金属工業所に対し 金五〇〇、〇〇〇円

同雪谷化学京都工場に対し 金一、〇〇〇、〇〇〇円

同正面政吉に対し 金一五〇、〇〇〇円

(4) 特別控除額 金一五〇、〇〇〇円

右は、所得税法(改正昭和三六年法第一二九号)九条一項本文括弧書に規定する金額である。

(5) よつて、譲渡所得金額は、(1)譲渡収入金額から、(2)控除すべき取得費、(3)譲渡経費、(4)特別控除額を差引いた金二四、九〇五、〇二〇円の二分の一に相当する金一二、四五二、五一〇円である。

(二) 原告の不動産所得の金額は金五四九、七五〇円である。

(三) よつて、総所得金額は、譲渡所得の金額と不動産所得の金額との合計金一三、〇〇二、二六〇円であり、課税総所得金額は、右金額から基礎控除金九〇、〇〇〇円を控除した金一二、九一二、二〇〇円である。

3. (無申告加算税について)

(一) 旧所得税法五六条三項の規定によれば、政府は、確定申告書等の提出がなかつたことについて正当な事由がないと認めるときは、決定にかかる不足税額について、確定申告書等の提出期限の翌日から当該決定にかかる通知をなした日までの期間に応じ、その期間が一か月以内のときは百分の一〇の割合、一か月をこえ二か月以内のときは百分の一五の割合、二か月をこえ三か月以内のときは百分の二〇の割合、三か月をこえるときは百分の二五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を徴収することとなつている。

(二) ところで、原告は、昭和三六年分所得税につき、不動産所得だけでも申告すべき義務があつたにもかかわらず、前主張のごとく何ら確定申告書を提出しなかつたのであり、期限内に申告書の提出がなかつたことについて正当な事由があることは認められない。

(三) 昭和三六年分所得税の確定申告書等の提出期限内の翌日から、本件処分の通知をなした日までの期間は、三か月をこえている。

4. 以上のとおりであるから、金一二、九一二、二〇〇円の範囲内で課税総所得金額を認定し、これを基準に無申告加算税の賦課決定をした本件処分は適法である。

第四、被告の主張に対する原告の答弁および主張

一、原告の答弁

1.(一) 被告の主張1.(一)の事実のうち、(1)は認めるが、(2)は否認する。

(二) 同(二)の事実は認める。

2.(一)(1) 原告は、当初、被告の主張2.(一)(1)の譲渡収入金額を認めた。しかし、原告が本件不動産を譲渡して現実に受領した金額は金一一、五九九、四〇〇円であるから、これを譲渡収入金額とすべきであるのに、原告は、本人が本訴を追行していた当時、契約書に売買代金として記載されている被告主張の金二九、四九九、四〇〇円が即ち譲渡収入金額であり、原告が本件不動産の不法占拠者を排除するために要した金一七、九〇〇、〇〇〇円を譲渡経費として右金額から控除すべきものであると誤信していたためであつて、右自白は真実に反し、錯誤に基づくものであるから、これを撤回し、右金額を否認し、原告の譲渡収入金額は金一一、五九九、四〇〇円であると主張する。

(2) 被告の主張2.(一)(2)の事実のうち、控除すべき取得費の金額は否認する。取得価額の総額および内訳イは否認し、内訳ロは認める。償却費の総額および内訳イは否認し、内訳ロは認める。

(3) 同(3)の事実は認める。

(4) 同(4)の事実は認める。

(5) 同(5)の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実は認める。

(三) 同(三)の事実は否認する。

3.(一) 同3.(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実は認める。

二、原告の主張

1. (二重課税について)

被告は、昭和三八年一〇月、訴外丸江伸銅に対し、本件不動産の譲渡所得について課税徴収ずみであるから、原告に対する課税は二重課税である。

2. (原告の昭和三六年分所得税の計算中控除すべき取得費について)(別紙二(二)参照)

(一)(1) 本件土地および旧来の建物の権利関係は、昭和二八年一月頃まで二年間に亘り、原告、訴外岡田等の間における訴外丸江伸銅の経営支配をめぐる紛争として争いの対象となつていたところ、右紛争は、その頃、利害関係人の間において、「イ、原告が訴外丸江伸銅から本件土地および旧来の建物を買受け、右売買代金の支払は、同会社の株式二〇、〇〇〇株、額面総額一、〇〇〇、〇〇〇円の譲渡をもつてなす。ロ、原告は訴外鈴木光夫に対し、同会社の株式三、〇〇〇株を譲渡する。」などの趣旨の和解が成立して解決されるに至つた。

(2) そこで、原告は、その頃、金一、六〇〇、〇〇〇円を支出して同会社の株式二〇、〇〇〇株を取得し、これの譲渡をもつて右売買代金一、〇〇〇、〇〇〇円の弁済に代え、同じ頃、訴外鈴木光夫に譲渡すべき株式三、〇〇〇株を取得するため金二四〇、〇〇〇円を支出した。さらに、右紛争解決のため訴訟費用金四六〇、〇〇〇円を支出した。

よつて、本件土地および旧来の建物の取得価額は、以上合計金二、三〇〇、〇〇〇円である。

(3) 原告は、昭和三〇年一月金一、八八三、一〇〇円を支出して建物を増築した際、同時に、伸銅用機械類合計金三、一七四、〇〇〇円、焼鈍炉金二、一〇〇、〇〇〇円を購入して本件建物内に設置し、設備費合計金五、二七四、〇〇〇円を支出した。

(4) よつて、本件不動産の取得価額は、以上合計金九、四五七、一〇〇円である。

(二) 旧来の建物の取得価額は、本件土地の取得価額と按分すれば、金一、八三三、六五〇円であり、その減価償却費は金四八一、五〇五円である。(別紙三原告の主張欄参照)

よつて、償却費は、右と増築建物の減価償却費金三七九、三三二円との合計金八六〇、八三七円である。

(三) よつて、控除すべき取得費は、(一)の合計額から(二)の合計額を控除した金八、五九六、二六三円であり、結局、譲渡所得の金額は金三五一、五六九円である。

3. (原告の昭和三六年分所得税の計算中譲渡経費について)

(一) 原告は、将来相続により本件不動産が相続人に分散することを危惧し、相続人が本件不動産を利用し、共同して事業を継続するように、本件不動産の所有名義を、原告が全株式を所有し代表取締役となつていた訴外京都恒産株式会社にしておいたところ、昭和三二年頃同会社役員であつた訴外小川幸四郎が訴外島田勝二と共謀のうえ、原告の印鑑および所有株式を窃取し、原告に無断で、訴外島田勝二を代表取締役に選任したうえ、本件不動産を不法占有し、さらに、訴外中小企業金融公庫から金四百万円を借受け、本件不動産に抵当権を設定したので、原告は、右妨害を排除するため、訴外丸江伸銅の協力を求め、右公庫からの借受金四、〇〇〇、〇〇〇円および利息金五〇〇、〇〇〇円合計金四、五〇〇、〇〇〇円を代位弁済させたうえ、本件不動産を競売にふして金五、六〇〇、〇〇〇円で競落させ、債権額金四、五〇〇、〇〇〇円を差引いた金一、一〇〇、〇〇〇円を支払わせたが、訴外島田勝二らが、暴力団を雇つてなおも本件不動産の不法占有を継続したので、その対抗上他の暴力団の協力を求め、その費用として、金六、〇〇〇、〇〇〇円を要した。その外本件処理のため弁護士費用その他諸経費合計金三、一〇〇、〇〇〇円を要した。

以上合計金一四、七〇〇、〇〇〇円は、訴外丸江伸銅が原告に代位して弁済したものであるところ、原告は訴外丸江伸銅に対し、右債務の弁済に充てるべき資産がなかつたので、本件不動産を売却し、売買代金のうちから右債務金一四、七〇〇、〇〇〇円およびその利息金三、二〇〇、〇〇〇円合計金一七、九〇〇、〇〇〇円を支払つた。

(二) よつて、仮に、譲渡収入金額について自白の撤回が認められないとしても、右経費は、本件不動産売却の直接、唯一の原因となつたものであるから、本件不動産の譲渡経費となるべきものであり、従つて、原告の昭和三六年分所得税の計算中譲渡経費については、被告主張の金額の他に、原告の訴外丸江伸銅に対する債務の弁済金一七、九〇〇、〇〇〇円が加算さるべきであり、結局、譲渡所得の金額は金三五一、五六九円である。

(イ)自白とは、自己に不利益な事実の陳述をいうものであるところ、譲渡経費に関する主張はこれに該当しないこと、(ロ)右主張は、譲渡収入金額について自白の撤回が認められない場合の主張であること、(ハ)原告は譲渡経費について、右主張と同旨の当初の主張を撤回し、被告主張と同旨の主張をしたが、さらにその主張を撤回したのが右主張であるから、これは自白の撤回の問題ではないこと、以上の諸点に鑑みれば、右主張は、自白の撤回にあたらないというべきである。

4. (確定申告書の提出について)

(一) 原告は、昭和三七年三月、原告の昭和三六年分の所得につき申告するため被告税務署に出頭し、被告に対し、原告に本件不動産の譲渡所得がある旨申述し、確定申告書を提出しようとした。

ところが、本件不動産は、当時、登記簿上訴外岡田武夫の所有名義であり、かつ、訴外岡田庄三郎を債権者とする処分禁止の仮処分がなされていたため、被告は原告に対し、本件不動産の所有権移転答記手続完了後に申告せよと指示した。

(二) 原告は、本件不動産の売買および所有権移転登記手続等を訴外岡田に委託してあつたのであるが、昭和三八年九月五日、大阪国税局調査第三部門訴外長野信行の訪門を受け、本件不動産の売買に関して事情聴取され、このとき初めて本件不動産の所有権移転登記手続が完了していることを知つた。

その際、原告は訴外長野信行から、原告が本件不動産の売買に関して受領した金員は立退料であるとの職旨の聴取書に署名捺印を求められ、一旦は原告が売主である旨主張してこれを拒絶したが、同人から、立退料であつても売買代金であつても税額は変らない旨の説明を受けたので、結局これに署名捺印した。

原告は、翌日、訴外長野信行の指示に従つて所得申告のため被告税務署に出頭し、同税務署職員の係長訴外筒井某、係員訴外吉田某に対し、本件不動産の売買の事実関係を申述し、確定申告書を提出しようとしたところ、同職員らは、「登記簿上の名義人が売主である。」としてこれを受理せず、原告に対して事情書を提出するよう指示した。そこで、原告は、事情書および売買関係書類を交付した。

原告はその後も二〇回以上に亘り被告税務署に出頭し、事情を説明したが、被告はこれを聞き入れず、担当職員は事務の引継もなさずに転勤してしまつた。

(三) その後、請求原因一のとおり、原決定および本件処分がなされるに至つた。

(四) 右のとおり、原告は、所得の確定申告のため被告税務署に出頭し、本件不動産の譲渡の事実関係を十分説明したうえ確定申告書を提出しようとしたのに、被告は、自己の事実認定を固執してこれを受理しようとしなかつたので、原告はやむをえず被告の指示に従つていたものである。

従つて、形式的、結果的に原告の確定申告書が提出されていないのは当然のことであつて、実質的には申告がなされており、このような場合、原告が無申告であるとはいえない。

(五) 仮に、そうでないとしても、右のごとき事情のもとにおいては、原告が期間内に申告書を提出しなかつたことについて正当な事由があるというべきである。

第五、原告の主張に対する被告の答弁および反論

一、被告の答弁

1. 原告の主張1.の事実は否認する。

本件不動産の譲渡所得は原告に帰属するものであるから、原告に対する課税は訴外丸江伸銅に対する課税により何ら影響を受けない。因みに、訴外丸江伸銅に対する課税処分は、昭和四一年三月一一日付で大阪国税局長により取消されている。

2.(一)(1) 同2.(一)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実は否認する。

原告が譲渡した株式は、原告が和解成立前から所有していたものであるから、本件不動産の取得価額に含まれない。

(3) 同(3)の事実は認める。

(4) 同(4)の事実は否認する。

(二) 同(二)、(三)の事実は否認する。

3.(一) 同3.(一)の事実のうち、原告が、本件不動産の売買代金のうち一七、九〇〇、〇〇〇円を訴外丸江伸銅に対する債務の弁済に充てた事実は認めるが、その余の事実は知らない。

(二) 同(二)の事実は否認する。

原告の仮定主張は自白の撤回にあたるというべきであり、それには異議がある。

仮に、右主張が自白の撤回にあたらないとしても、旧所得税法九条一項八号に規定する「譲渡にに関する経費」とは、「譲渡のための周施料、登録料、借家人を立退かせるために支払われる立退料等のような資金の譲渡のために通常必要とされる経費」を指すものであり、仮に、当該借入金債務の内容が原告の主張するようなものであるとしても、それは事業経営上の借入金(訴外中小企業金融公庫関係)の返済のために生じたものであり、また、事業経営ないし本件不動産の維持管理のために生じた特別のものであつて、その弁済に要した費用は、本件不動産の譲渡を実現するための通常直接必要な支出とは認められないから、原告の右主張は、主張自体失当である。

4.(一) 同4(一)、(二)の事実は否認する。

(二) 同(三)の事実は認める。

(三) 同(四)、(五)の事実は否認する。

二、被告の反論

原告の主張2.(一)(3)の伸銅用機械類、焼鈍炉は、昭和三二年一〇月または一一月頃、訴外島田勝二により持ち去られ本件不動産の譲渡時には存在しなかつたから、譲渡資金に含まれず、従つて、その価額は本件不動産の取得価額に含まれない。

なお、右時期に、右機械類等が持ち去られたことにより生じた損失額(購入費ではない。)は、原告の昭和三二年分の総所得金額から控除されるべきものであり、本件年分の総所得金額から控除されるべきものではない。(旧所得税法一一条の四参照)

第六、被告の反論に対する原告の答弁

被告主張のとおり、伸銅用機械類、焼鈍炉が訴外島田勝二により持ち去られたことは認める。

従つて、仮に、右機械類等の購入費が設備費として認められないとしても、雑損控除の対象とさるべきである。

別紙一 本件処分の内容

<省略>

別紙二 譲渡所得金額の計算

(一) 被告の計算

<省略>

(二) 原告の計算

<省略>

別表三

減価償却費の計算

<省略>