京都地方裁判所 昭和43年(ワ)1022号 判決 1970年1月27日
原告
城彦治郎
外一名
代理人
立野造
外一名
被告
三関木材株式会社
代理人
中井久二
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実<省略>
理由
一訴外城咲雄が昭和四〇年八月九日午後二時一〇分頃、京都市左京区府道大原今津線を軽二輪自動車を運転して北行し、京都市左京区八瀬花尻町五〇番地先道路上まで進行したこと、その頃訴外山中一郎こと閔正鎬が本件自動車を運転して、右道路を南下し右八瀬花尻町五〇番地先道路に、さしかかつていたこと、訴外城咲雄が同日午後六時一〇分頃死亡したことは当事者間に争いがない。
二原告は、原告主張の訴外城咲雄の負傷事故の際、被告が、本件自動車を自己のために運行の用に供していたもので、右事故は、その運行によつて生じたものであるから被告は本件自動車の保有者として、訴外城咲雄の負傷、かつ死亡したことによつて、生じた損害を賠償しなければならない旨主張するので検討する。
(1) <証拠>を総合すれば、訴外閔正鎬は昭和三八年頃被告から、貨物自動車による材木運搬の仕事をさせて貰つて、被告からその賃金を得るために、本件自動車を買受けたこと、然し、右訴外人は右自動車を買受ける代金を持たなかつたので、被告からその代金全額を借受けて、右自動車代金の支払いに充てたこと、右訴外人と被告とはその頃右訴外人が運送業の免許を得ることはできないと考え、右自動車の代金は全額被告から右訴外人に貸与されていた関係もあつて右自動車の所有名義人および使用名義人は、いずれも被告として、兵庫県陸運事務所に届出で右自動車に、被告会社名を記載したこと、自来右訴外人は、右自動車を使用して専ら被告の材木運搬に従事し、被告から毎月金三〇、〇〇〇円位の支給を受け、被告は、右自動車に要する、税金等の経費を右訴外人のために立替えて支払い、右訴外人が被告の材木を運搬して、その代金が月額において右金三〇、〇〇〇円位の支給額を越えたときは、その超過額は、右立替金および右借受金の返済に充当されていたこと、訴外城咲雄の負傷(後記認定)事故は、右訴外人が被告のために、本件自動車に、被告の材木を積んで、滋賀県高島郡朽木村から尼崎市に赴く途中に起つたもので、いまだ右借受金は被告に完済されていなかつたことを、各認定することができ、右認定に反する<証拠>は、たやすく措信できず、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定事実によれば、被告は、訴外城咲雄の負傷(後記認定)事故の際、本件自動車に対して運行支配と運行利益とを有していたものとして、右自動車の運行供用者に該当するものと解するを相当とする。
(2) 本件判決理由第一項の争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、次の事実を認定することができる。
訴外閔正鎬は昭和四〇年八日九日午後二時一〇分頃、本件自動車を運転して、京都市左京区府大原今津線を南下し、京都市左京区八瀬花尻町五〇番地先道路にさしかかつた。該道路はアスファルトで舗装されておりセンターラインの記載はなく、その幅員は約七、七メートルで、その制限速度は時速四〇キロメートルであるが、右訴外人は当時時速約三五キロメートルで右自動車を右道路の左側部分を進行させていたところ、同訴外人の右前方から、バイク一台が出て、右訴外人運転の本件自動車の前を横切り、同自動車の前方左側に至り、右自動車と同方向に緩く進み出したので、右訴外人は同バイクとの接触を避けるために、本件自動車を、該道路の中央辺を進行させたが、その右側には尚軽二輪自動車が進行するに十分な余裕があつた。右訴外人は、該道路の進路前方約四〇メートル先に、訴外城咲雄運転の軽二輪自動車が、該道路を制限速度をはるかに超えた高速度で、北行して来るのを認め、次いで同軽二輪自動車が、右地点から約一〇米進行したとき、右道路上に転倒したのを認めたので、訴外閔正鎬は驚いて、急制動をかけ、約一五メートル、スリップして、右転倒地点から、約一四メートル手前の地点に、その運転する本件自動車を停止させた。その瞬間、右軽二輪自動車を運転していた訴外城咲雄が、右軽二輪自動車から転落し、その勢いで、本件自動車の前車輪の間を通つて、同自動車の下に転り込み、その後車輪の辺りで止つた。訴外城咲雄の運転していた右軽二輪自動車は、右転倒地点から、本件自動車の左側を、同自動車に当ることなく、右自動車が停車した位置の斜左後方の道路端まで約三〇メートル飛んで慚く止つた。訴外城咲雄は、右二輪自動車からの転落と本件自動車の下部に突出した部分と接触したことによつて負傷し、それが原因で昭和四〇年八月九日午後六時一〇分頃死亡した。
訴外城咲雄の右転落は、専ら同訴外人が運転していた軽二輪自動車に、速度を出さし過ぎていたことと、右訴外人の運転の過りによつて惹起されたものである。
右の認定に反する<証拠>は、たやすく措信できず、その他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
思うに自賠法第三条の「その運行によつて」とは、その運行に因つて即ち自動車の運行が原因となつて、他人の生命身体を害したときに限らず、その運行に依つて即ち自動車の運行に際して、他人の生命身体が害された場合をも含むものと解すべきである。
これを本件についてみるに、前記認定事実によれば訴外城咲雄が、本件自動車と正面衝突したものではなく、また同訴外人の運転していた軽二輪自動車が本件自動車と正面衝突は勿論、何ら接触もしていないが、同訴外人が右軽二輪自動車から転落し、これによつて受けた負傷と訴外閔正鎬運転の停車中の本件自動車の下部との接触によつて受けた負傷とが原因となつて、右訴外人が死亡したものであるから、被告は本件自動車の保有者として、特別の事情のない限り、右訴外人の負傷かつ死亡によつて生じた損害を賠償する責に任じなければならない。
三そこで被告主張の抗弁(1)の事実について検討する。
(1) 前記認定事実によれば、訴外城咲雄がその運転していた軽二輪自動車から転落しこれによつて、右訴外人が負傷し、次に同所に停止していた訴外閔正鎬運転の本件自動車の下部に突出した部分と接触して負傷したのは、専ら同訴外人が右二輪自動車を高速度で運転していたことと右訴外人の運転の誤りに原因するものであり、
(2) 前記認定事実によれば訴外城咲雄がその運転する軽二輪自動車から転落する直前、訴外閙正鎬がその運転する本件自動車を、該道路の中央を走行させていたけれども、それはその左側にバイク一台が走行しており、それとの接触を避けるためで、本件自動車の右側には、軽二輪自動車が走行するに十分な余裕があり、対向車である訴外城咲雄運転の自動車は二輪車にして、しかも同二輪車と相当離れた距離においてなされたものであるから、訴外閔正鎬が本件自動車を該道路の中央を走行させたことをもつて、訴外城咲雄の右転落事故と相当因果関係に立つ過失ということはできず、前記認定事実によれば右転落事故の発生について訴外閔正鎬は本件自動車の進行に関して、注意を怠らなかつたものということができ、訴外城咲雄が本件自動車の下部に転り込むことは、被告および訴外閔正鎬にとつて、不可抗力というの外はない。
(3) 訴外城咲雄の死亡の原因となつた負傷が専ら同訴外人の行為に因るものである以上、被告が本件自動車の運行に関して注意を怠らなかつたか否かおよび本件自動車に構造上の欠陥または態様の障害がなかつたか否かについては論ずるまでもなく、被告は免責されるものと解すべきである。
四そうすれば、自余の争点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は失当であるから、これを棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法第二九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。(常安政夫)