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京都地方裁判所 昭和43年(ワ)1085号 判決 1972年1月20日

原告

宮川銑十郎

原告

岡本俊治

右両名代理人

山口貞夫

外一名

被告

株式会社木村桜士堂

右代表者

木村甚

被告

栢場憲一

右両名代理人

山本寅之助

外三名

主文

1被告らは各自原告宮川銑十郎に対し、金三二万七、一九〇円およびこれに対する昭和四三年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岡本俊治に対し、金一六三万五、五三〇円および内金一三三万円に対する昭和四三年九月三日から、内金二四万五、五三〇円に対する昭和四六年一〇月三〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2原告らのその余の請求を棄却する。

3訴訟費用はこれを五分し、その三を被告らの、その二を原告らの各負担とする。

4この判決は、第1項につき仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一(事故の発生)

(一)  本件事故の発生に関する請求原因(一)項1ないし5の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件事故の態様について検討する。

<証拠>を総合すると、本件交差点は交通整理が行なわれておらず、東西に通ずる仁王門通は歩車道の区別がない巾員約12.95メートルの道路であり、これと交差する南北に通ずる岡崎通は歩車道の区別がない巾員右交差点北側約7.6メートル、南側約七メートルの道路であること、岡崎通を北方から南方に向つて右交差点に進入する場合、その前方左右道路に対する見通しは橋の欄干などにさまたげられてわるく、同交差点手前には一時停止の標識が設置されていたこと、仁王門通を西方から東方に向つて右交差点に進入する場合、その前方左右道路に対する見通しは橋の欄干、家屋などにさまたげられてわるいが、同交差点手前には一時停止の標識はないこと、被告栢場は加害車を運転して岡崎通を北方から南方に向つて時速約三〇キロメートルで進行してきたが、同交差点手前には右のように一時停止の標識があつたにも拘らず、時速約一五キロメートルに減速したのみで同交差点に進入したため、右方道路から東進してき被害者をその殆んど直前で発見し、直ちに急制動をかけたが及ばず、自車右前フエンダー附近を被害車の左前部にであいがしらに衝突させたこと、原告宮川は原告岡本を助手席に同乗させ、被害車を運転して仁王門通を西方から東方に向つて時速約三〇ないし四〇キロメートルで進行してきたが、衝突地点前方約一七メートルの地点にさしかかつたとき、左方道路から自動車前照灯の光がさしてくるのを発見し、さらに約四メートル進んだ地点で危険を感じて急制動をかけたが及ばず、であいがしらに右のように左方道路から進入してきた加害車と衝突したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する原告宮川、被告栢場各本人の供述部分は採用せず、外に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  つぎに、原告らの傷害の部位、程度について検討する。

<証拠>を総合すると、

1  原告宮川は、本件事故によりむち打ち損傷、腰部挫傷の傷害を受け、事故直後から同年五月二七日まで通院して医師の治療を受け、その後約一月間あんま機械を購入して肩、頸筋、頭、腰部のこりを自ら治療し、自宅で安静の生活を送つたこと。

2  原告岡本は、本件事故によりむち打ち損傷の傷害を受け、この治療のため、昭和四三年四月二二日から同年五月一三日まで病院に入院し、同年四月一三日から右入院期間を除き翌四四年一二月一九日まで退院して治療を受けたが、結局頭痛、両肩筋痛、腰痛などの後遺症状が固定残存し、右後遺症は労働者災害補償保険級別一二級に該当し、これは右固定時期からなお数年間継続する見込であること。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(四)  本件事故により、原告宮川所有の被害車が損傷したことは、当事者間に争いがない。

二(責任原因)

1  被告栢場の責任原因に関する請求原因(二)項1の事実は、当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告栢場は民法七〇九条により本件事故で原告らが蒙つた損害を賠償すべきである。

2  被告会社の責任原因に関する請求原因(二)項2の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告会社は本件事故により原告らの蒙つた人損は自賠法三条、物損は民法七一五条により賠償すべきものである。

三(損害)

(一)  原告宮川の損害

1  物損

イ  本件事故により、原告宮川所有の被害車が損傷したことは前記認定のとおりであり、<証拠>によると、被害車は同原告が昭和四三年一月一〇日ごろ購入し、本件事故にいたるまで累積約一万キロメートル走行していたこと、同原告は同車を金六〇万円で下取りに出し、あらためて同種の新車を金一〇三万円で購入し、その差額金四三万円を支出したこと、本件事故により同車は左前面バンバー、グリル、ランプ、左フエンダー、ボンネットなどを損傷したが修復が可能であつたこと、以上の事実が認められ、この認定を左右する証拠はない。

ロ  同原告は第一次的に右下取価格と新車購入費用との差額が本件事故による損害である旨主張するけれども、右に認定したように、被害車は本件事故より約三月前に購入され、本件事故にいたるまでに累積約一万メートルも走行していたのであるから、原告主張のようにこれをもつて新車同様の状態にあつたものということはできないし、被害車の損傷部分が修復可能であつたことは右に認定したとおりであるから、右差額をもつて直ちに本件事故による損害ということはできない。

ハ  つぎに、同原告は第二次的に被害車の修理見積額をもつて本件事故による損害である旨主張する。被害車の修理費用が本件事故による損害と認むべきことは明らかであるところ、<証拠>によると、被害車の損傷部分を修理するのに要する費用は少なくとも金一一万三、〇七〇円を要することが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

ニ  よつて、右物損額は金一一万三、〇七〇円と解するのが相当である。

2  休業損害

イ  <証拠>によると、原告宮川は本件事故当時三栄木工株式会社に勤務し、木材の仕入業務を担当し、一月金一二万円の給与を支給されていたが、本件事故の翌日から同年六月三〇日まで欠勤し、その間右月収を支給されなかつたことが認められ、これを左右する証拠はない。右事実に前記認定にかかる同原告の傷害の部位、程度をあわせ考えると、少なくとも同原告の治療期間中(本件事故から同年五月二七日まで)の休業は本件事故と相当因果関係があるものと解されるから、同原告の本件事故による休業損害は金一八万円となる。

ロ  もつとも、被告らは同原告は右会社の役員であつたから、右月収から役員報酬分を減額すべき旨主張するけれども、前記各証拠によると、たしかに同原告は右会社の取締役であつたことが窺われるものの、同社では役員報酬は支給せず、右のように同原告は同社の仕入担当社員として稼働して右月収を得ていたことが明らかであるから、右主張は採用しない。

3  過失相殺

イ  前記認定にかかる本件事故の態様ならびに被告栢場の責任原因に関する当事者間に争いがない事実によると、被告栢場は本件交差点手前に一時停止の標識が設置され、左右道路の見通しが困難な状況であつたにも拘らず、一時停止をして左右道路の安全を確認せず、単に時速約一五キロメートルに減じたのみで進入した過失があつたものというべきである。しかし、一方、原告宮川も右交差点の左右道路の見通しが悪かつたけれども、衝突地点前方一七メートルの地点で左方道路から進行する前照灯の光を認めていたのであるから、徐行してその安全を確認すべきであつたのに、十分な減速をしないまま同交差点に加害車と同時に進入した過失があり、これが本件事故発生に寄与したものというべきである。もつとも、前記認定のように、被害車の進路は加害車の進路と比較すると、明らかに広路にあたるものと認められるが、右のような具体的な事情があつたことを考えると、直ちに本件のごとき広路進行車に徐行義務を免除することは当を得ない。その過失の割合は前記事実に徴すると、被告栢場八、原告宮川二と見るのが相当である。

ロ  そうすると、同原告の財産上の損害(弁護士費用を除く。)は、右割合の過失相殺をすると、金二三万四、四五六円となる。

4  慰藉料

同原告が本件事故により前記の傷害を受けて治療、休業を余儀なくされ、治療打切後も頭部、腰部などに異常が残存して悩まされたこと、同原告にも本件事故発生につき一端の責任があることは前記のとおりであり、これに本件事故の態様その他諸般の事情を考えると、同原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料としては金六万円が相当である。

5  相殺

イ 民法五〇九条の立法趣旨は、被害者の保護と弁済を受けられない債権者による自力救済的不法行為による清算の防止にあるから、本件のように双方の債権が同一の事故により生じたものである場合には、相殺を禁止すべき理由がなく、むしろ相殺を認めるものと解するのが相当である。

ロ  そこで、被告会社の原告宮川に対する賠償請求権の有無を判断する。

原告宮川に、本件事故発生に関する過失があつたことは前記のとおり明らかであり、<証拠>によると、本件事故により加害車の前部フエンダー部分などが損傷し、その修理費用として金三万六、三三〇円を支出したことが認められ、これを左右する証拠はない。

ところで、被告栢場は前記のように被告会社の被傭者であり、被告会社の事業執行中に本件事故を惹起したこと、被告栢場にも本件事故発生につき過失があり、その割合は被告栢場八、原告宮川二と見るべきことは前記のとおりであるから、前記損害額を右割合で過失相殺すると、被告会社がその賠償を求むべき額は金七、二六六円となる。

ハ  そこで、被告会社が昭和四四年三月二四日の本件口頭弁論期日になした(この点は記録上明らかである。)相殺の意思表示は、右の限度で効力を生じたものというべきである。

6  弁護士費用

<証拠>によると、被告らが任意に右損害を支払わなかつたため、同原告は弁護士たる本件訴訟代理人にその取立を委任し、本訴訟提起に関する着手金として金五万円を支払い、本件判決後報酬として金六万円を支払うことを約したことが認められ、右事実に本件訴訟の難易度、前記の請求認容額、本件訴訟の経緯などに鑑みると、本件事故と相当因果関係にたつ弁護士費用は金四万円と認めるのが相当である。

(二)  原告岡本の損害

1  休業損害

イ  <証拠>によると、原告岡本は本件事故当時岡本木材株式会社代表取締役として勤務し、製材工場の監督、仕入などの業務一切を担当し、一月金一二万円の給与を支給されていたが、本件事故直後から昭和四三年八月末日までは完全に欠勤し、同年九月一日から一応出勤はしたものの、翌四四年四月までの間、通院のため約半分は欠勤を余儀なくされたこと、以上の間の給与相当分は一応仮払(貸付)金として支給されたが、後日返還する約束であることが認められ、これを左右する証拠はない。右事実に、前記認定にかかる同原告の傷害の部位、程度をあわせ考えると、同原告主張にかかる本件事故後四月間の休業は右事故と相当因果関係があるものと解されるから、同原告の本件事故による休業損害は金四八万円となる。

ロ  もつとも、被告らは同原告は右会社の役員であつたから、右月収から役員報酬分を減額すべき旨主張するけれども、前記各証拠によると、同社では役員報酬は支給せず、同原告は実際に右のような業務に従事して右月収を得ていたことが明らかであるから、右主張は採用しない。

2  治療費

<証拠>によると、同原告主張のような治療費として金二四万五、五三〇円を支弁したことが認められる。

3  過失相殺

イ  被告らは本件事故発生に関する原告宮川の過失を理由に過失相殺を主張するけれども、<証拠>によると、原告岡本は、本件事故当日、京都材木市場からの帰途、たまたま同業者である原告宮川運転の被害車に同乗したにすぎないことが認められ、原告宮川とは同業者の関係があるにすぎなく、身分上あるいは生活上一体関係にあるものとは認めがたいから、原告宮川の過失をもつて原告岡本の損害算定につき過失相殺として斟酌することはできない。

ロ  つぎに、被告らは原告岡本自身にも被害者として過失があつた旨主張し、<証拠>によると、原告岡本は自動車運転免許を有し、本件事故当時被害車に助手席に同乗していたのに、本件事故現場では運転者たる原告宮川に徐行などの注意を与えなかつたことが認められるけれども、原告岡本が常時原告宮川の運転につきとくに警告、注意をなすなど、いわば運転補助者たる地位にあつたことを認めるに足りる証拠がない本件においては、本件事故前に徐行などの注意を与えなかつたからといつて、これをもつてただちに原告岡本自身の過失ということはできない。

また、原告岡本が仮に原告宮川との関係でいわゆる好意同乗にあたるとしても、共同不法行為者の一方である被告らに対する関係では損害額を減ずる理由となるものではない。

4  慰藉料

同原告が本件事故により前記の傷害を受けて入院、通院治療ならびにその間の休業を余儀なくされ、治療終了後も頭痛、両肩筋痛、腰痛などの後遺症状が固定残存したことは前記のとおりであり、これに本件事故の態様その他諸般の事情を考えると、同原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料としては金八〇万円が相当である。

5  弁護士費用

<証拠>によると、被告らが任意に右損害を支払わなかつたため、同原告は弁護士たる本件訴訟代理人にその取立を委任し、本訴提起に関する着手金として金五万円を支払い、本件判決後報酬として金六万円を支払うことを約したことが認められ、右事実に本件訴訟の難易度、前記の請求認容額、本件訴訟の経緯などに鑑みると、右約旨にかかる弁護士費用は本件事故と相当因果関係にたつものと解するのが相当である。

四(結論)

1 以上のとおり、被告らは各自宮川に対し、金三二万七、一九〇円およびこれに対する訴状送達ののちであることが記録上明らかな昭和四三年九月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、また原告岡本に対し、金一六三万五、五三〇円および弁護士費用のうち報酬分ならびに治療費を除いた内金一三三万円に対する前記昭和四三年九月三日から、治療費分の内金二四万五、五三〇円に対する訴変更申立書送達の翌日である昭和四六年一〇月三〇日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

2 原告らの本訴請求は、右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。(伊藤博)

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