大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和43年(ワ)1664号 判決 1972年11月20日

原告(反訴被告)

右代表者

法務大臣

郡祐一

右指定代理人

岸本隆男

<外五名>

被告(反訴原告)

飯田雅治

主文

一、京都市下京区松原通室町東入玉津島町三〇八番地の三宅地86.28平方メートル(本件土地)は原告の所有であることを確認する。

二、被告は、原告に対し、金一六、八八〇円およびこれに対する内金一二、九三五円については昭和三八年八月九日から、内金三、八四九円については同四二年六月八日から内金九六円については同年八月六日から、右元金完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、被告の反訴請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

五、本判決第二項は仮に執行できる。

事実《省略》

理由

一、下記(一)、(二)の事実は当事者間に争がない。

(一)  本件土地および同地上の本件建物は中村市次郎の所有であつたところ、原告は、同人から、昭和二三年二月七日本件土地所有権を、同年一一月一八日本件建物所有権を各取得した。

(二)  被告は、中村市次郎から本件建物を賃借していたところ、原告は、被告に対し、昭和二四年三月一六日本件建物を売渡し、同年五月二三日所有権移転登記を完了した。

二、被告は、「被告は、昭和二四年三月一六日、原告から、本件土地を、本件建物とともに、買受けた。」と主張するが、<証拠>によれば、四(本訴抗弁、反訴請求原因に対する認否)の(2)の原告主張事実を認めうるから、乙第一ないし第三号証によつては、右事実を認めえない。証人伏見二郎の証言のうち右事実に符合する部分は採用できない。他に右事実を認めうる証拠はない。したがつて、被告の右主張は採用できない。

三、被告は、「被告は、昭和二四年三月一六日原告から本件建物を買受けると同時に、所有の意思を以て平穏、公然に本件土地を占有し、占有の始、善意、無過失であつたから、昭和三四年三月一五日の経過とともに本件土地の所有権を取得した。」と主張する。

建物のみを買受ける契約を締結し、建物敷地を買受ける契約を締結していない者が、建物敷地を建物とともに買受けその所有権を取得したと信じて、所有の意思を以建物敷地の占有を始めた場合、建物敷地について全く売買契約を締結していないのであるから、占有の始、建物敷地を建物とともに買受けその所有権を取得したと信じたことについて、一般に過失があるものと解するのが相当である。

本件において、被告が昭和三四年三月一六日本件建物を買受けその敷地である本件土地の占有を始めた時、被告が本件土地の所有権を取得したと信じたとしても、そのように信じたことについて過失がなかつた事実を認めうる証拠はない。

したがつて、原告が本訴を提起した昭和四三年四月一日当時、被告の本件土地の取得時効は完成していないから、被告の取得時効の主張は採用できない。

四、建物およびその敷地の所有者が建物のみを売渡した場合、特別の事情のないかぎり、建物売渡と同時に、建物敷地について、相当賃料額を賃料とする賃貸借契約が締結されたものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年一月二〇日第一小法廷判決、民集二〇巻一号二二頁参照)。

したがつて、建物売渡と同時に、原被告間に本件土地について、相当賃料額を賃料とする賃貸借契約が締結されたものと解するのが相当である。

五、<証拠>によれば、本件建物売渡当時の本件土地の相当賃料額が年額九二三円九四銭である事実を認めうる。

六、<拠証>によれば、本件請求原因5の賃料支払催告の事実を認めうる。

七、よつて土件土地は原告の所有であることの確認並びに、昭和三四年七月二〇日から同四二年七月八日までの本件土地賃料合計金一六、八八〇円およびこれに対する各支払催告の期限の翌日から元金完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は、正当としてこれを認容し、本件土地は被告の所有であることの確認および本件土地につき所有権移転登記手続を求める被告の反訴請求は、失当としてこれを棄却し、民事訴訟法第八九条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(小西勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例