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京都地方裁判所 昭和43年(行ウ)112号 判決 1973年8月03日

京都市伏見区北尼ヶ崎町四八三番地

原告

酒井伊之加

右訴訟代理人弁護士

小林為太郎

京都市伏見区深草鑓屋町

被告

伏見税務署長 篠原秀峰

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長 丸山英人

被告両名指定代理人

二井矢敏朗

田中亘

山本昌二

鳴海雅美

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

被告伏見税務署長が原告の昭和三八年分の所得税につき、昭和四一年八月二七日付でした更正処分のうち、総所得金額金一六一万八、〇〇〇円を越える部分、および、原告の昭和三九年分の所得税につき、同日付でした更正処分のうち、総所得金額金七九万九、三九四円を越え金五〇七万一、六一六円に達するまでの部分をいずれも取り消す。

被告大阪国税局長が昭和四三年六月七日付でした右各更正処分についての原告の各審査請求に対する各裁決をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨の判決。

第二、当事者の事実上の主張

一、請求の原因事実

(一)  原告は、不動産売買および仲介業を営んでいるものであるが、昭和三八年分の所得税につき総所得金額を金一六一万八、〇〇〇円と修正申告し、昭和三九年分の所得税につき総所得金額を金七九万九、三九四円と申告したところ、被告伏見税務署長は、昭和四一年八月二七日付で原告の昭和三八年分の所得税につき、総所得金額を金八八二万三、〇五五円と更正する決定(以下本件更正処分(一)という)、原告の昭和三九年分の所得税につき、総所得金額を金五八九万〇、一四一円と更正する決定(以下本件更正処分(二)という)をした。

(二)  原告は、昭和四一年九月一日、本件更正処分(一)および(二)につき各異議申立てをしたところ、被告大阪国税局長は、これらをいずれも審査請求とみなし、昭和四三年六月七日付で、本件更正処分(一)についての審査請求を棄却する旨の裁決(以下本件裁決(一)という)、および、本件更正処分(二)についての審査請求に対し、原告の昭和三九年分の総所得金額を金五〇七万一、六一六円に減額し、本件更正処分(二)をその限度において取り消す旨の裁決(以下本件裁決(二)という)をした。

(三)  しかし、本件更正処分(一)および(二)は、いずれも原告の総所得金額を事実に基づかずに過大に認定した違法なものである。

(四)  国税通則法八三条一項によると、審査庁たる国税局協議団は、中立公正の立場から審査裁決をなす独立の機関であり、また、国税庁協議団及び国税局協議団令(昭和二五年政令二一四号)によると、協議官は国税局長とは別個の機関であるべきはずであるところ、被告大阪国税局長は、国税局協議団を同被告の下部組織として取り扱い、従つて、国税局協議団は独自の議決をしていないから、本件裁決(一)および(二)は、いずれも違法である。

(五)  そこで、本件更正処分(一)のうち総所得金額金一六一万八、〇〇〇円を越える部分、および、本件更正処分(二)のうち総所得金額金七九万九、三九四円を越え金五〇七万一、六一六円に達するまでの部分、ならびに、本件裁決(一)および(二)の取り消しを求める。

二、請求の原因事実に対する被告らの答弁

(一)  被告伏見税務署長の答弁

請求の原因事実中、(一)および(二)の各事実は認めるが、(三)の事実は争う。

(二)  被告大阪国税局長の答弁

請求の原因事実中、(一)および(二)の各事実は認めるが、(四)の事実は争う。

三、被告伏見税務署長の主張

原告の昭和三八年分所得税の計算

(一)  事業所得金額の計算は、次のとおりである。

(1) 売上金額は、(イ)ないし(ホ)の金額の合計金五、〇六二万八、三六二円である。

(イ) 京都市伏見区景勝町 金三、四二七万〇、一五〇円(別表1のとおり)

なお、訴外杉本信造に対する土地の売却価額の認定は、次のとおりである。

原告は、訴外森田機械工業株式会社に対し、昭和三八年中に景勝町三番地一七の土地建物および同町三番地一九の土地を代金合計金二六五万円で売却しているが、同町三番地一七の土地建物の代金が金一二五万円であることは争いがないのであるから、同町三番地一九の土地の代金は金一四〇万円となる。従つて、同町三番地一九の土地五〇六七坪は、一坪当り約金二万七、〇〇〇円で売却されたことになる。そうだとすると、杉本信造に売却した同町三番地三九の土地二五・五坪は、道路に面した角地であり、右同町三番地一九の土地と比べて立地条件がすぐれていても劣るものとは思われないので、その売却価額は、一坪当り金二万七、〇〇〇円で計算し、金六八万八、五〇〇円と認定すべきである。

(ロ) 同区善導寺町 金五七四万四、九四〇円

善導寺町の分については、原告と訴外梅津市之丞ほか二名との共同事業であり、原告の持分は四分の一であるから、原告に帰属する売上金額は、同町の分合計金二、二九七万九、七六〇円(別表2の<イ>のとおり)の四分の一に当る金五七四万四、九四〇円である。

(ハ) 同区毛利町 金五三七万三、二七二円

毛利町の分については、原告と梅津市之丞との共同事業であり、原告の持分の一であるから、原告に帰属する売上金額は、同町の分合計金一、〇七四万六、五四五円(別表2の<ロ>のとおり)の二分の一に当る金五三七万三、二七二円である。

(ニ) 同区野手町 金一八六万一、四〇〇円(別表2の<ハ>のとおり)

(ホ) 仲介手数料 金三三七万八、六〇〇円(別表3のとおり)

(2) 売上原価は、(イ)ないし(ニ)の金額の合計金三、三三三万四、六一八円である。

(イ) 景勝町 金二、三三八万二、三一四円

右は、(A)および(B)の金額の合計額である。

(A) 土地原価 金五八〇万六、三一四円

右は、別表4の備考欄記載の一坪当り原価金九、九一六円に別表1の昭和三八年分売却坪数五八五・五五坪を乗じたものである。

なお、原告は、訴外株式会社シミズ工務店および訴外田中建設工業こと田中龍三郎に景勝町の土地の造成工事を請負わせたところ、株式会社シミズ工務店において、右工事の一部を訴外株式会社森田組および訴外中井建材こと中井清太郎に下請させたが、原告は、株式会社森田組に対する請負代金九六万八、〇〇〇円および中井清太郎に対する請負代金四〇万円を株式会社シミズ工務度を通じて株式会社森田組および中井清太郎に支払つた。

(B) 建物原価 金一、七五七万六、〇〇〇円

右は、別表1のとおり原告が売却した一四坪の建物二四戸(三三六建坪)および一五・五二坪の建物一戸(一五・五二建坪)の合計建坪数三五一・五二坪に一坪当りの建築費金五万円を乗じたものである。

(ロ) 善導寺町 金四六四万九、五五〇円

前記のとおり、善導寺町の分については共同事業であり、原告の持分は四分の一であるから、右は、(A)および(B)の金額の合計金一、八五九万八、二〇〇円の四分の一に当るものである。

(A) 土地原価 金九七二万四、二〇〇円

右は、別表5の備考欄記載の一坪当り金二万一、三二五円に別表2の<イ>の昭和三八年分売却坪数四五六坪を乗じたものである。

(B) 建物原価 金八八七万四、〇〇〇円

右は、別表2の<イ>のとおり原告が売却した一四・五坪の建物一二戸分の合計建坪一七四坪に一坪当りの建築費金五万一、〇〇〇円を乗じたものである。

(ハ) 毛利町 金四〇八万一、〇四〇円

前記のとおり、毛利町の分については共同事業であり、原告の持分は二分の一であるから、右は、別表7記載の合計金八一六万二、〇八〇円の二分の一に当るものである。

(ニ) 野手町 金一二二万一、七一四円

右は、別表6の<イ>の備考欄記載の一坪当り原価金二万六、九一〇円に同表の<ロ>の昭和三八年分の売却坪数四五・四坪を乗じたものである。

(3) 営業経費は、別表8のとおり金二八二万二、四三五円である。

(4) 事業所得金額は、(1)売上金額金五、〇六二万八、三六二円から(2)売上原価金三、三三三万四、六一八円および(3)営業経費金二八二万二、四三五円を差し引いた金一、四四七万一、三〇九円である。

(二)  不動産所得金額は金四万二、〇〇〇円である。

右は、訴外西畑隆義および同中島新蔵より受領した家賃金七万二、〇〇〇円から必要経費金三万円を差し引いたものである。

(三)  配当所得金額は金一万〇、四〇〇円である。

右は、訴外伏見信用金庫への出資二、六〇〇口に対するものとして、昭和三八年五月二五日に確定したものである。

(四)  譲渡損失金額は金二四万三、一一六円である。

右は、車両の譲渡により発生したものである。

(五)  従つて、総所得金額は、事業所得、不動産所得および配当所得の各金額の合計額から譲渡損失金額を差し引いた金一、四二八万〇、五九三円であり、この範囲でした本件更正処分(一)に違法はない。

原告の昭和三九年分所得税の計算

(一)  事業所得の計算は、次のとおりである。

(1) 売上金額は、(イ)ないし(ホ)の金額の合計金三、六九五万五、八五〇円である。

(イ) 京都市伏見区景勝町(土地)金五万六、六一九円(別表9の<イ>のとおり)

右土地は、各買主の所有地の附属的な土地に当るため、原価で売却したものと推定し、右は、合計売却坪数に一坪当り原価金九、九一六円(別表4参照)を乗じたものである。

(ロ) 同区善導寺町(土地建物)金七五万円

善導寺町の分については、原告と梅津市之丞ほか二名との共同事業であり、原告の持分は四分の一であるから、原告に帰属する売上金額は、別表2の<イ>により推計した同町の分合計金三〇〇万円(別表の9の<ロ>とおり)の四分の一に当る金七五万円である。

(ハ) 同区野手町(土地建物)金三、三七四万五、二三一円(別表9の<ハ>のとおり)

(ニ) 同区矢倉町(土地建物)金一〇〇万円

右は、同町四の二八の土地一五・三二坪および同地上の木造二階建(二階四坪、一階九・一坪)の建物を訴外佐野政雄に売却した代金額である。

(ホ) 仲介手数料金一四〇万四、〇〇〇円(別表10のとおり)

(2) 売上原価は、(イ)ないし(ニ)の金額の合計金二、六八三万七、七八五円である。

(イ) 景勝町 金五万六、六一九円(前記(一)(イ)参照)

(ロ) 善導寺町 金六二万七、四一〇円

前記のとおり、善導寺町の分についは、共同事業であり、原告の持分は四分の一であるから、右は、(A)および(B)の金額の合計金二五〇万九、六三八円の四分の一に当るものである。

(A) 土地原価 金一〇三万〇、六三八円

右は、別表5の備考欄記載の一坪当り原価金二万一、三二五円に別表9の<ロ>の昭和三九年分売却坪数四八・三三坪を乗じたものである。

(B) 建物原価 金一四七万九、〇〇〇円

右は、別表9の<ロ>のとおり原告が売却した一四・五坪の建物二戸の合計建坪二九坪に一坪当りの建築費金五万一、〇〇〇円を乗じたものである。

(ハ) 野手町 金二、五二五万三、七五六円

右は(A)および(B)の金額の合計額である。

(A) 土地原価金 一、二〇九万二、八八六円

別表9の<ハ>のとおり、売却坪数は四三〇・〇一坪であるが、このうち、三二・四坪(四〇の四〇番地)は、訴外山本芳太郎より譲り受けたものであるから、右は、残余の三九七・六一坪に、別表6の<イ>の備考欄記載の一坪当り原価金二万六、九一〇円を乗じた金額一、〇六九万九、六八六円に、右訴外人より譲り受けた右三二・四坪の土地の取得価額金一三九万三、二〇〇円を加えたものである。

(B) 建物原価 金一、三一六万〇、八七〇円(別表11のとおり)

(ニ) 矢倉町 金九〇万円

右は、前記(1)(ニ)の建物の代金として訴外古田充に支払つたものである。

(3) 営業経費は、別表12のとおり金二四四万三、一二九円である。

(4) 事業所得金額は、(1)売上金額金三、六九五万五、八五〇円から(2)売上原価金二、六八三万七、七八五円および(3)営業経費金二四四万三、一二九円を差し引いた金七六七万四、九三六円である。

(二)  不動産所得金額は、(1)および(2)の金額の合計額金五六万一、七三五円である。

(1) 京都市伏見区西柳町 金五一万九、七三五円

原告は、同町五三七の一および五三七の二の建物を山本芳太郎と共同で店舗および住宅として貸し付けており、別表13のとおり金一一八万八、九〇〇円の賃貸料および権利金を得ている。右収入金に対する必要経費は、固定資産税金三万四、四五〇および右建物の減価償却費金一一万四、九八〇円であるから、差引所得金額は金一〇三万九、四七〇円である。ところで、原告の持分は二分の一であるから、原告に帰属する不動産所得金額は金五一万九、七三五円である。

(2) 宇治市莵道平町および京都市伏見区景勝町 金四万二、〇〇〇円

右は、前記昭和三八年分と同じである(前記1(二)参照)

(三)  給与所得金額は金二万七、六〇〇円である。

右は、原告が代表取締役である訴外山城土地株式会社より支給を受けた金五万二、〇〇〇円から給与所得控除額金二万四、四〇〇円を差し引いたものである。

(四)  譲渡損失金額は金二七万一、七二八円である。

右は、車両の譲渡により発生したものである。

(五)  従つて、総所得金額は、事業所得、不動産所得および給与所得の各金額の合計額から譲渡損失金額を差し引いた金七九九万二、五四三円であり、この範囲でなした本件更正処分(二)に違法はない。

四、被告大阪国税局長の主張

国税局協議団は、大蔵省設置法(昭和四五年法律八号による改正前のもの)四五条によると、国税通則法(昭和四五年法律八号による改正前のもの)八三条一項に規定する議決を行う国税局長の附属機関として設置されたものであり、国税局長の下級行政機関ではない。また、国税局協議団における議決の方法、議決内容の報告等は、国税庁協議団及び国税局協議団令(昭和四五年政令五〇号による廃止前のもの)に規定されている。本件においても、この手続に従つて国税局協議団として独自の議決がなされ、これに基づいて被告大阪国税局長の本件裁決(一)および(二)が行われたものであるから、本件裁決(一)および(二)は適法である。

五、被告らの主張に対する原告の答弁

被告伏見税務署長の主張について

原告の昭和三八年分所得税の計算

(一)(1)(イ) 同被告の主張事実中、1(一)(1)(イ)の事実のうち、別表1記載の杉本信造に関するものは否認し、その余の事実は認める。

(ロ) 同(ロ)の事実のうち、別表2の<イ>記載の訴外田口茂造、同福井義朗、同金順南、同大西勢津子、同有限会社牛宗および同荻野一広に関するものは否認し、その余の事実は認める。

(ハ) 同(ハ)の事実は認める。

(ニ) 同(ニ)の事実は認める。

(ホ) 同(ホ)の事実のうち、別表3記載の訴外宇野商店、同寺内幸次郎、同長谷川淳、同佐野運送店、同佐野幾次郎および同林秀次に関するものは認め、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実のうち、(イ)(A)の別表4記載の株式会社シミズ工務店に関するものおよび(イ)(B)の事実は否認し、その余の事実は認める。

(3) 同(3)の事実は認める。

(4) 同(4)の事実は争う。

(二) 同(二)ないし(四)の事実は認める。

(三) 同(五)の事実は争う。

原告の昭和三九年分所得税の計算

(四) (一)(1)(ホ)の別表10記載の訴外株式会社利根酒造に関するもの、(一)(4)の事実および(五)の事実は否認し、その余の事実は認める。

六、原告の主張

原告の昭和三八年分所得税の計算に関する被告伏見税務署長の主張に対して

(一)  (一)(1)(イ)について

別表1記載の杉本信造に対しては、京都市伏見区景勝町三の三九の土地を売却したのではなく、杉本信造所有の同区舞台町五四の八原野二五坪と原告所有の三の三九の土地とを交換したのである。

(二)  (一)(1)(ロ)について

別表2の<イ>記載の田口茂造、福井義朗、金順南、大西勢津子、有限会社牛宗および荻野一広に対して、同表記載の各土地および建物を原告が売却したことはなく、右土地および建物は、昭和三九年中に、訴外砂川四郎が原告より一戸分金一三〇万円ないし金一三一万円で買い受け、梅津市之丞の仲介で右訴外人らに売却したものである。

(三)  (一)(1)(ホ)について

別表3記載のうち、訴外星野豊次郎、同木下喜芳、同糟野源太郎、同山下組、同徳田幸次郎、同林田機械、同星野市之助、同松田五三郎、同木下広一、同光山忠三郎、同植村タニ、同山本英太郎、同鳥山市次郎および同松沢梅次郎に関するものは、原告と訴外辻三之助との共同仲介であり、訴外大橋和孝に関するものは、原告と梅津市之丞との共同仲介であり、訴外右垣エイに関するものは、原告、梅津市之丞、砂川四郎および訴外久保田某の共同仲介であつた。なお、仲介者の持分はいずれも等分であつた。

(四)  (一)(2)(イ)(A)について

別表4記載の株式会社シミズ工務店に対しては、被告伏見税務署長主張の金三五万円以外に金三二七万七、八五〇円を支払つている。

(五)  (一)(2)(イ)(B)について

原告は株式会社シミズ工務店に対し、別表1のとおり原告が売却した二五戸の建物の建築請負代金合計金一、九四三万円を支払つた。その内訳は、訴外大西政和、同黒川清一および同田中勝に売却した各建物に関するもの合計金二五二万三、〇〇〇円、ならびに、その他の二二戸の建物に関するもの一戸分金七六万八、五〇〇円合計金一、六九〇万七、〇〇〇円である。

第七、証拠関係

一、原告

甲一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第六号証を提出、証人杉本信造、同黒川シヅヱ、同辻三之助の各証言を採用、乙第一ないし第四号証、第一二、第一三号証の各成立は不知、その余の同号各証の成立は認める。

二、被告ら

乙第一ないし第四号証、第五ないし第一〇号証の各一、二、第一一ないし第一三号証を提出、証人大槻角一郎、同辻倉幸三、同大沢守(第一、二)回の各証言を援用、甲第四ないし第六号証の各成立は不知、その余の同号各証の成立は認める。

理由

一、請求の原因事実中、(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

二、原告の昭和三八年分所得税の総所得金額について判断する。

(一)  原告の同年分の不動産取得金額が金四万二、〇〇〇円であること、配当所得金額が金一万〇、四〇〇円であること、譲渡損失金額が金二四万三、一一六円であること、以上のことは当事者間に争いがない。

(二)  被告伏見税務署長が主張する原告の同年分の事業所得金額算定上の基礎事実(同被告主張の昭和三八年分所得税の計算中(一)の事実)のうち、次に検討するもの以外は、当事者間に争いがない。

(1)  別表1記載のうち訴外杉本信造に対する土地の売却について

同被告は、原告は同訴外人に対し京都市伏見区景勝町三の三九の土地を売却した旨主張し、証人大槻角一郎の証言および同証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証中には右主張に沿う供述ないし記載部分が存在するが、これらは、証人杉本信造の証言と対比して採用できないし、ほかにこれを認めることができる証拠はない。

却つて、証人杉本信造の証言によると、原告は、右訴外人との間、原告所有の右土地一八・五坪と同訴外人所有の同区舞台町五四の一六の土地二五・四坪のうち約一六坪とを交換したことが認められる。

(2)  別表2の<イ>記載のうち訴外田口茂造、同福井義朗、同金順南、同大西勢津子、同有限会社牛宗、同荻野一広に対する各土地建物の売却について成立に争いのない乙第五ないし第一〇号証の各一、二によると、右訴外人らはいずれも昭和三八年度中に右の各土地建物を買い受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

原告は、右訴外人らは昭和三九年中に原告から右各土地建物を買い受けた砂川四郎からこれを買い受けたものである旨主張するが、これは右認定事実と明らかに矛盾する主張であつて到底採用することはできない。そして、原告は右主張中において右各土地建物がもともと原告の所有であつたことを自認しているのであるから、このことと右認定事実とを併せ考えると、右各土地建物は原告が右訴外人らに直接売り渡したものであることを推認することができる。

(3)  別表3記載のうち共同仲介について

証人大沢守の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第三、第四号証、証人大沢守(第一、二回)、同辻三之加の各証言によると、同表3記載のうち、訴外星野豊次郎、同木下喜芳、同糟野源太郎、同山下組、同徳田幸次郎、同林田機械、同星野市之加、同松田五三郎、同木下広一、同光山忠三郎、同植村タニ、同山本英太郎、同鳥山市次郎、同松沢梅次郎に関するものは、原告が訴外辻三之助の斡旋によりその取引の仲介をしたもので、その仲介手数料として被告伏見税務署長の主張する各金員はいずれもすべて原告がこれを取得し、辻三之助に対しては原告から若干の足代が支払われたにすぎないことが認められ、これに反する証拠はない。

また、証人大沢守の証言(第一、二回)によると、原告は、本件を提訴する前の税務署員による調査段階において、別表3のうち訴外大橋和孝、同石垣エイに関するものについて、それが自己の単独仲介であることを自認していたことが認められる一方、原告が主張するような共同仲介の事実を窺わせる証拠は全く存在しない。

以上の事実によると、右の各仲介はいずれも原告の単独仲介であるとするほかはない。

(4)  別表4記載のうち訴外株式会社シミズ工務店に対する土地造成費支払金額について

原告が訴外会社に対し右土地造成費として金三五万円を支払つたことは、原告と被告伏見税務署長との間において争いがない。原告は、右土地造成費として訴外会社に対しこのほかに金三二七万七、八五〇円を支払つた旨主張し、その立証として甲第四号証を提出している。しかしながら、証人大槻角一郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二、第一三号証、証人大槻角一郎、同黒川シヅヱの各証言によると、右甲第四号証は原告の強い求めに応じて訴外会社の一従業員が昭和四一年一二月三〇日付で作成したもので、その記載内容を裏付ける資料は何もないうえ、真実施工しない工事を施工したかのように記載してその代金の授受を証明した文書であることが認められるから、右甲第四号証は証拠にならないし、他に原告の右主張事実が認められる証拠はない。

(5)  別表1記載の各建物の原価について

前掲乙第一三号証、証人大槻角一郎の証言によると、右各建物の原価は、一坪当り金五万円を越えないものであつた(被告伏見税務署長は金五万円として計算)ことが認められ、右認定に反する甲第五、第六号証(証人黒川シヅヱの証言によりいずれも真正に成立したものと認められる)は、いずれも採用できないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(三)  以上の当事者間に争いのない事実や認定事実から、次のことが結論づけられる。

(1)  原告の昭和三八年分の事業所得金額は、被告伏見税務署長が主張する金一、四四七万一、三〇九円から、別表1記載のうち杉本信造に関するものを控除した金額である。そして、右控除金額は、同訴外人に対する土地売却価格として計上された金六八万八、五〇〇円から、右土地二五・五坪の原価として計上された金二五万二、八五八円(一坪当り金九、九一六円)を差し引いた金四三万五、六四二円になるから、事業所得金額は金一、四〇三万五、六六七円になる。

(2)  原告の同年分所得税の総所得金額は、事業所得金額金一、四〇三万五、六六七円、不動産所得金額金四万二、〇〇〇円、配当所得金額金一万〇、四〇〇円の合計額から譲渡損失金額金二四万三、一一六円を差し引いた金一、三八四万四、九五一円になる。

(3)  従つて、この範囲でした本件更正処分(一)(金八八二万三、〇五五円と更正する決定)には、原告が主張するような総所得金額の認定を誤つた違法はない。

三、次に、原告の昭和三九年分所得税の総所得金額について判断する。

(一)  原告の同年分の不動産所得金額が金五六万一、七三五円であること、給与所得金額が金二万七、六〇〇円であること、譲渡損失金額が金二七万一、七二八円であること、以上のことは当事者間に争いがない。

(二)  被告伏見税務署長が主張する原告の同年分の事業所得金額算定上の基礎事実(同被告主張の昭和三九年分所得税の計算中、(一)の事実)は、別表10記載の訴外株式会社利根酒造に関するものを除いて当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第一一号証によると、原告は、昭和三九年一〇月、訴外会社から仲介手数料として金三三万一、〇〇〇円を受領したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  以上の当事者間に争いのない事実や認定事実から、次のことが結論づけられる。

(1)  原告の昭和三九年分の事業所得金額は、被告伏見税務署長が主張するとおり、金七六七万四、九三六円である。

(2)  原告の同年分所得税の総所得金額は、事業所得金額金七六七万四、九三六円、不動産所得金額金五六万一、七三五円、給与所得金額金二万七、六〇〇円の合計額から譲渡損失金額金二七万一、七二八円を差し引いた金七九九万二、五四三円になる。

(3)  従つて、この範囲でした本件更正処分(二)(金五八九万〇、一四一円と更正する決定、但し本件裁決(二)で金五〇七万一、六一六円に減額)にも同様の違法はない。

四、原告の被告大阪国税局長に対する請求について判断する。

証人大槻角一郎の証言によると、大阪国税局協議団京都支部は、本件更正処分(一)および(二)に対する各みなし審査請求について、三名の協議官で構成する合議体で審理、調査を行い、被告大阪国税局長に対しその議決の内容を報告し、それに基づいて同被告は本件裁決(一)および(二)をしたことが認められる。

そうすると、本件裁決(一)および(二)には、原告が主張するような違法の点はない。

従つて、原告の被告大阪国税局長に対する請求は失当である。

五、むすび

以上の次第で、原告の本件請求は、いずれも理由がないから失当として棄却し、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 谷村允裕 裁判官 島田周平)

別表1

(伏見区景勝町 38年分)

<省略>

別表2

<イ>(伏見区善導寺町 38年分)

<省略>

<ロ>(伏見区毛利町 38年分)

<省略>

<ハ>(伏見区野手町 38年分)

<省略>

別表3

(仲介手数料売上 38年分)

<省略>

別表4

(景勝町 土地取得価額)

<省略>

別表5

(善導寺町 土地取得価額)

<省略>

別表6

<イ>(野手町 土地取得価額)

<省略>

<ロ>(年分別売却坪数)

<省略>

※ <ハ><ニ>は、39年分の所得金額にのみ関係するものである。

<ハ>(野手町 建物取得価額)

<省略>

<ニ>(年分別 売却建物の戸数、坪数、原価等)

<省略>

別表7

(毛利町 土地取得価額)

<省略>

別表8

(営業経費 38年分)

<省略>

別表9

<イ>(伏見区景勝町 39年分)

<省略>

<ロ>(伏見区善導寺町 39年分)

<省略>

<ハ>(伏見区野手町 39年分)

<省略>

別表10

(仲介手数料)

<省略>

別表11

(野手町 建物原価 39年分)

<省略>

(注) 値引率について

原告がシミズ工務店に対して建築を依頼した建物は全部で17戸(総建坪271.25坪)であつて、この見積額は15,152,500円である。この見積額の支払について原告は第1期建築分から88,500円を最終支払残額から1,000,000円を値引している。従つて次の算式により、値引率は0.07となる。

(88,500円+1,000,000円)÷15,152,500円=0.07(別表6の<ハ>参照)

別表12

(営業経費 39年分)

<省略>

別表13

(西柳町不動産所得の収入金)

<省略>

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