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京都地方裁判所 昭和44年(ワ)1462号 決定 1970年2月02日

原告

野村信一

代理人

和田栄重

外一名

被告

斎藤晃繁

代理人

山崎小平

主文

本件移送の申立を却下する。

理由

一被告代理人弁護士山崎小平(札幌市南六条西一一丁目)は原告に対し、昭和四四年一〇月一日付書留郵便をもつて、左記内容の損害賠償請求をした。

1  事故の状況

(一)  発生日時

昭和四四年一月一八日

(二)  場所

京都市中京区三条富小路西入

日昇別荘(経営者 原告)

(三)  被害者

北海道上川郡下川町二七線南三番地

農業 被告

明治四四年四月一五日

(四)  事故の状況

被告は、前記日時日昇別荘へ宿泊中、夜中に、部屋に据付けてあつたガスストーブの管が脱落し、このため一酸化炭素中毒にかかり、後遺症で現在なお治療中である。

これは民法第七一七条にいう土地の工作物たるガス設置又は保存の瑕疵によるものである。

2  治療状況と後遺症

(一)  事故日から一月二九日まで京都第二赤十字病院救急分院へ入院

(二)  二月一〇日から四月七日まで旭川厚生病院へ入院、その後通院、現在は町立下川病院に通院している。

(三)  一酸化炭素中毒後遺症で、著しい障害としては、視力障害、精神神経症状、言語障害がある。

3  損害額

(一)  働けなかつたことによる損害額

金六〇万一、六四七円

(二)  労働能力喪失による損害額

金一九七万九、一八〇円

(三)  慰謝料

金一五〇万円

(四)  合計

金四〇八万〇、八二七円

二原告は、昭和四四年一〇月一四日当京都地方裁判所へ、原告は被告に対し上記被告請求の不法行為に因る損害賠償債務金四〇八万八二七円を負担しないことを確認する旨の判決を求める本訴を提起した。

三民事訴訟法第一五条第一項(不法行為地の特別裁判籍)は、被害者が提起する不法行為に関する訴のみでなく、加害が提起する不法行為に因る損害賠償債務不存在確認の訴についても適用があると解するのが相当である。けだし、不法行為に関する訴はその行為のなされた地の裁判所で審判するのが証拠調に便宜である点が、同条の立法趣旨であるからである。

したがつて、本件不法行為加害者が提起した不法行為に因る損害賠償債務不存在確認の訴について、当裁判所は、本件不法行為のなされた地の裁判所として、管轄権を有する。

四よつて、進んで被告の民事訴訟法第三一条にもとづく旭川地方裁判所への移送の申立について判断する。

1(一)  原告訴訟代理人は、(1)京都市所在の本件事故発生の部屋の現物検証、(2)(イ)本件ガス機具・設備を施した者およびその管理状況を知る者、(ロ)事故前の本件部屋の状況および事故発見の状況を知る者(本件部屋係二名その他)(ハ)本件事故の捜査担当の警察官一名、(ニ)被告を診察した医師二名等合計八名の証人および原告本人(以上いずれも京都市内に居住)を申請している。

(二)  被告訴訟代理人は、「本件事故発生の部屋に被告と宿泊した者二名、被告と同じ旅行団に属していた者二名、被告の治療担当の医師二名、被告の損害額立証等のための農協職員、被告の妻等の証人および被告本人(以上のうち医師一名は札幌市居住、その余はいずれも旭川地方裁判所管内に居住)の申請を予定している。」と主張する。

(三)  本件訴訟が損害額の立証段階まで入るとすれば、現場検証、原告申請、被告申請予定の証人の大多数および双方本人の各尋問が必要であると認めうる。(本件訴訟が本件ガス設備の設置又は保存の瑕疵の有無の立証段階で終るとすれば、その点に関係のない証人の尋問は当然、必要でなくなる。)

2  被告訴訟代理人は、「被告は、一酸化炭素中毒後遺症のため遠隔の地に出頭困難であり、経済的にも苦しい状態である。」と主張する。

3  仮に、被告主張の2の事実が真実であるとしても、1、2の事実を綜合した事実関係の下において、民事訴訟法第三一条所定の「著キ損害又ハ遅滞ヲ避クル為必要アリ」の要件を充足しないものと判断する。

五よつて、本件移送の申立を却下する。(小西勝)

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