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京都地方裁判所 昭和44年(ワ)506号 判決 1972年8月19日

原告 久米村庄一郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 野村清美

同 田中恭一

同 吉水三治

被告 株式会社 間組

右代表者代表取締役 神部満之助

右訴訟代理人弁護士 山田半蔵

同 山田賢次郎

主文

一  被告は原告久米村庄一郎に対し、金四、四四三、六八〇円およびこれに対する昭和四四年四月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告久米村ハルに対し、金二、五二五、〇八九円およびこれに対する昭和四四年四月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告のその余を原告らの負担とする。

五  この判決は一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の申立ならびに主張は別紙準備手続要約調書のとおりであるからこれを引用する。

二  証拠≪省略≫

理由

一  (事故の発生)

本件事故の発生に関する請求原因第一項記載の事実は当事者間に争いない。

二  (事故の態様)

≪証拠省略≫によると、

1  本件事故現場(以下本件カート足場という。)は、建設中の水室の床から約一四メートルの高さのところに、厚さ三・六センチメートルの板で、巾約一・八メートル、長さ約八〇メートルのコンクリート運搬用カート車のために設置されたつり足場であり、右足場には片側にコンクリートを流し込むための開口部(縦六〇センチメートル、横五五センチメートル角)がほぼ等間隔に九ヶ所設けられてあり、コンクリートを流し込むために使用中の二ヶ所以外は、木製の蓋がしてあったこと。

2  本件事故のあった開口部のもの以外の木蓋は、縦七五センチメートル、横六〇センチメートル、厚さ三・六センチメートルであり、即ち開口部の穴の大きさに比べ縦に於て一五センチ横に於て五センチの余裕を持つに過ぎないこと、蓋の裏側には、すべり止めのために長さ五〇センチメートル、巾一〇センチメートル、厚さ三・六センチメートルの横桟が二本打ちつけてあるものであったが、本件開口部の蓋のみは、厚さ四・八センチメートル(縦、横の長さは同じ)であり、その裏側にすべり止めの横桟はなく、木蓋の周囲にもすべり止めの設備はなかった。しかし、蓋そのものはいずれも長さ約九センチメートルの釘を四隅に二本づつ計八本打ち込んで足場板に固定されていたこと。

3  コンクリートの運搬に用いられたカート車は、巾六五センチメートル、高さ六五センチメートル、長さ一・四三メートルの手押車で、車輪の後方には停止したときに車体を支える金属製のスタンドが二本付置され、その重さは空の状態で二〇ないし三〇キログラムであること。

4  本件カート足場における作業は、足場の南端にあるグランドホッパーから、使用している開口部まで足場上を、カート車でコンクリートを運搬するものであり、カート車は木蓋の上を通過しないように指示されてはいたが、右の指示は徹底しておらず、木蓋のある部分で、コンクリートを入れた車と空の車がすれ違う場合等に空の車が木蓋の上を通ることがしばしばあったこと。

5  足場の点検は甲龍建設所の安全管理者である訴外若曽根力雄および本件足場の責任者である工長の安藤芳彦が、毎日することになっていたが、訴外若曽根の点検は必ずしも毎日なされてはおらず、また開口部の点検は右両名とも足で蓋を蹴ってみる程度であったこと。

6  訴外亡久米村譲は、甲龍建設所工事現場でブルドーザーの運転手として働らいていたが、たまたま本件事故当日は盆で帰郷中の者が多く、カート車によるコンクリート運搬の作業員が不足したため、命じられて初めて他四名とともに右作業に従事したこと。

7  当日は、五名の作業員のうち、一名がそのとき使用していた開口部での作業に従事し、訴外譲を含む他の四名がカート車を押して南端のグランドホッパーと右開口部との間を往復してコンクリートを運搬したこと。

8  訴外譲は、右開口部でコンクリートを落して、空のカート車を押して右足場上をつぎの積載のためグランドホッパーにかえる途中、本件開口部の木蓋上を通過する際、前記事故に遭遇したこと。

9  事故直後、本件開口部の木蓋は、床面からはずれ、四隅に打ちこまれていた釘の数本は木蓋の裏側で折れ曲っていたこと。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

三  (責任原因)

以上の事実によれば、本件事故は、カート車が上を通る衝撃で、本件開口部の木蓋を止めた釘がゆるんでいたため、訴外久米村譲のカート車が通ろうとする時の衝撃でついに釘が抜け、蓋がずれその一部が穴の中へ落ち込み天秤状になって同人は開口部から転落して生じたものと考えざるを得ない。

ところで、一応カート車は木蓋の上を通行しないよう指示されていたとはいえ、実際には、しばしば、蓋の上を通っていたのであり、蓋は三・六センチメートル(本件蓋は四・八センチメートル)足場床面より高くなっているのだから、空でも二、三〇キログラムあるカート車が通過するときの衝撃で、蓋を止めている釘がゆるみ、場合によっては蓋が外れることも予想されるところであり、被告としてはそのようなことのないよう、蓋にあたる時の衝撃をやわらげるとか、蓋のすべりを止めるとかの設備をなすべきであったのである。そして、事実本件開口部以外の木蓋は、全て裏側にすべり止めの桟を打ちつけてあったのに、本件木蓋のみは、その桟もなく、また蓋の周囲にもすべり止めの設備は何もなかった。又前記のように木蓋の大きさが穴の大きさに比し縦一五センチ横五センチの余裕しかなかった。従って本件木蓋の大きさにもう少し余裕があり右のような設備が施されていれば本件事故が防げたことは明らかである。

そうだとすると、本件木蓋の大きさや右のような設備を欠いていた点において本件カート足場の設置には瑕疵があり、右瑕疵によって本件事故は生じたものといえるところ、右カート足場を被告が所有していたことは当事者間に争いないから、原告のその余の主張につき判断するまでもなく、被告は本件事故による損害につき民法七一七条一項による責任がある。

四  (過失相殺)

被告は、本件事件につき訴外久米村譲にも重大な過失があったと主張するが、前掲各証拠によれば、

1  訴外譲の本来の仕事はブルドーザーの運転であるが、本件事故当日はお盆で人手が足りなかったため、工長の安藤芳彦の指示でカート車でコンクリートを運搬する作業に従事していたこと。

2  同人が右作業に従事するのは、本件事故当日が初めてであったが、同人に対し、木蓋の上を通行しないように等の作業上の注意は何もなされなかったこと。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右の事実に、前認定の作業者が蓋の上をしばしば通っていた事実を合わせ考えれば、訴外譲が本件木蓋の上を通行しようとしたことをもって同人に過失ありとすることはできず、他に同人に過失があることを認めるべき証拠はない。

従って、被告の過失相殺の抗弁は採用できない。

五  (損害)

1  逸失利益

訴外譲が本件事故当時二八年一一ヶ月であり平均余命が四〇年以上あったことは当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば同人の昭和四三年四月二一日から同年七月二〇日までの平均賃金は一日二、九九七円であることが認められる。なお被告は、訴外譲は本件事故当時は危険を伴う労働に従事していたため特別賃金を支給されていたと主張するが右主張を認めるべき証拠はない。

訴外譲が従事していた職業が肉体を非常に使うものであり、かつ同人の給与が出来高払制であったことを考えると、同人は本件事故に遇わなければ、なお四五歳までは現在の職業に従事して現在を下らない収入を得ることができ、四五歳以後は六〇歳まで何からの職業に従事し、産業計男子労働者の平均賃金を下らない額の収入を得ることができたものと認めるのが相当である。昭和四三年度賃金センサス第一表によれば産業計男子労働者の平均賃金は、年当り七五七、六〇〇円であり、訴外譲が右の収入を上げるのに要する必要経費は、経験則によれば全期間を通じて収入の五割を越えないものと認められる。

そこで訴外譲の得べかりし利益を年毎ホフマン式計算法で、年五分の割合による中間利息を控除して現在価額に換算すると、以下のとおり九、一五六、五一〇円となる。

(計算式)

{2997×365×12.08+757,600×(18.81-12.08)}×1/2=9,156,510

但12.08は17年の18.81は32年のホフマン系数

2  訴外譲の慰謝料

同人の慰謝料としては一〇〇万円が相当である。

3  原告らの相続

原告らが訴外譲の父母であることは当事者間に争いない。従って、原告らは譲の死亡により各五、〇七八、二五五円ずつ、譲の右1、2記載の損害賠償請求債権を相続したものである。

4  原告久米村庄一郎が支出した交通費等

≪証拠省略≫によれば、原告庄一郎は本件事故の知らせを受け鹿児島から福岡まで国鉄を、福岡から大阪まで飛行機を利用して来たこと、大阪の知人の家に三泊ほどして譲の通夜を行ない、大阪から鹿児島まで飛行機を利用して帰ったこと、飛行機の料金は福岡、大阪間が六、四〇〇円、大阪、鹿児島間が八、八〇〇円であったこと、通夜の費用は被告会社が負担したこと、以上の事実が認められる。

右によれば、原告庄一郎が支出した交通費一五、二〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害であると認められるが、宿泊費、通夜法要費、雑費の損害については何ら立証がないので認められない。

5  原告らの慰謝料

原告らの慰謝料としては各一〇〇万円が相当である。

6  合計

以上を合計すると、原告庄一郎の損害は、六、〇九三、四五五円、同ハルの損害は六、〇七八、二五五円となる。

六  (被告の抗弁について)

被告は労災補償が成立する場合には民法上の不法行為は成立しない旨主張するが、労災補償の要件ならびに補償の範囲が民法上の不法行為とは異なること、労基法八四条二項の規定は、労災補償の成立する場合にも民法上の責任が成立することを前提としていると解されることからみて、労災補償と民法上の不法行為責任とは競合の関係に立つものと解するのが相当である。

従って被告の右抗弁は採用できない。

七  (控除)

原告らの受くべき遺族補償年金の総額が原告庄一郎において金一、五一二、三二〇円、同ハルにおいて金三、四一五、七一一円であり、右額を損害額から控除すること、および被告が原告らに対し葬祭料として一二四、九一〇円、弔慰金として一五〇、〇〇〇円を支払ったことは当事者間に争いない。従って、原告らの損害賠償請求債権の額は、原告庄一郎において四、四四三、六八〇円、原告ハルにおいて二、五二五、〇八九円となる。

なお、被告は原告らが遺族補償年金の一時仮払金として受領した一、一九八、八〇〇円も控除すべき旨主張するが、既に遺族補償年金の総額は控除済であるから右主張は採用できない。

八  (結論)

以上によれば被告は、民法七一七条一項所定の工作物所有者の責任を原因として損害賠償として原告庄一郎に対し四、四四三、六八〇円、同ハルに対し二、五二五、〇八九円および右各金員に対する本件事故後である昭和四四年四月二二日から各完済まで年五分の割合による民法所定の遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告らの請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田常雄 裁判官 伊藤博 房村精一)

<以下省略>

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