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京都地方裁判所 昭和44年(行ウ)4号 判決 1974年3月22日

京都市下京区寺町通松原下る植松町七三一の一

原告

竹原富之助

京都市下京区間之町五条下る大津町八番地

被告

下京税務署長

木村祐一

右訴訟代理人弁護士

川井信明

右指定代理人

井上郁夫

岡本実

山口一郎

藤田康人

嗚海雅美

井上政之

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立および主張は別紙要約調書のとおりである。

第二証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし一〇、第二号証の一ないし三、第三ないし第七号証

2  証人米沢かつみ、原告本人。

3  乙第八、第九号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第六号証、第七号証の一ないし六、第八、第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二。

2  証人田端哲。

3  甲第三ないし第六号証は不知。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因第1、第2項は当事者間に争いがない。

二  よつて、本件処分の適否について考察する。

原告の本件係争年分の所得は事業所得と不動産所得とであり、そのうち不動産所得についてはその金額が金五五一、五三四円であることは当事者間に争いがないから、以下事業所得金額について判断する。

1  原告が本件係争年当時、肩書記載の住居地及び立命館大学内(本部及び衣笠分校)において、靴販売、同修理業を営み、原告とその家族四名(原告の妻、長女、長男及びその妻)がこれに従事していたことは当事者間に争いがない。

2  収入金額について

(一)  原告の本件係争年分の収入金額のうち、立命館大学店舗分の収入金額が金六、八七九、八六七円であることは当事者間に争いがないが、自宅店舗分については、被告は実額により計算することができないとして、抗弁3(一)記載の方法により推計すべきことを主張し、原告は実額によるべきものとしてこれを争つている。

成立に争いのない甲第一号証の一ないし一〇、乙第三号証、証人米沢かつみ、同田端哲の各証言、原告本人尋問の結果および当事者間に争いのない事実によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は本件係争年分の自宅店舗の収支につき帳簿書類を備え付けていなかつたこと、

(2) 原始記録としては、同店舗の売上高を記録したレジペーパーが存在するが、これは同年の二月一七日以後の売上高しか記録していない上に、誤打、日付の打ち忘れ等が極めて多く、売上高の全く記録されていない日も相当数あり、右レジペーパーが売上高を正確に記録しているものとは認め難いこと。

(3) その他の伝帳、領収書等の原始記録も不完全なものであつたこと。

以上の事実によれば、原告の自宅店舗の係争年分の売上高を実額により計算することはできないものと言わざるをえない。

(二)  そこで、被告の主張する推計方法について検討する。

被告の主張する推計方法の骨子は、

(1) 大学店舗における靴売上高に同店舗における靴の原価率(一から靴の販売差益率を差引いたもの)を乗じて、同店舗における靴の売上原価を算出し、

(2) 原告の全店舗の靴売上原価から右を差し引いて、自宅店舗の靴売上原価を求め、

(3) 右売上原価を自宅店舗の靴の原価率で除して、同店舗の靴売上高を算出し、

(4) 右に自宅店舗における靴以外の売上高(靴修理売上高)を加えて、総売上高(収入金額)を求める。

というものである。

自宅店舗における靴以外の売上高の額については当事者間に争いがないので、同店舗における靴の売上高を右方法により求めればよいのであるが、原告全店舗の靴売上原価は後記((四)の(1))のとおり認定することができ、大学店舗の靴売上高は当事者間に争いがないから、要は大学店舗、自宅店舗の靴の原価率が正確なものであれば、本件において、右の推計方法は妥当なものといいうる。

(三)  ところで、被告は先ず差益率を求め、一から差益率を差し引いて原価率を求めているので、以下差益率について検討する。

(1) 自宅店舗差益率

原告が自宅店舗に別表(一)のとおりの靴の売価および原価を記載した一覧表を備えつけていたことは当事者間に争いがないところ、被告は右一覧表記載の各単価の商品につき、前記レジペーパーに基いて算出した各商品の販売度数をその売価および原価に乗じて売上額および売上原価を算出し、その差の合計を売上額の合計で除して靴販売差益率を求めている。

右一覧表記載の各商品の売価は七〇〇円から八、二〇〇円の巾があり、各商品ごとの差益率も異なる(七〇〇円の靴では〇・〇七一、八、二〇〇円の靴では〇・三二九)から、各商品の販売度数が把握できれば、被告主張の計算方法は、類似する他店の差益率を適用したりするより、はるかに合理的であり、実際の差益率に近い結果を得られるものと考えられる。

ところで、各商品の販売度数を算出するに際し被告の利用したレジペーパーには、誤打、打ち忘れ等が見受けられ、その記録をにわかに信頼し難いことは前述のとおりであるが、右の誤打等が特定の単価の商品にかたよつているものと認むべき事情は存しないし、通常レジは各商品ごとに打つものであるから、右レジペーパーは原告自宅店舗における各単価の商品の販売度数のすう勢を示しているものと考えられる。

なお原告本人尋問の結果中には、レジを打つにあたつて、時々いくつかの商品をまとめて打つことがあつたことが窺えるが、販売度数のすう勢に影響を与えるほどのものとは認められない。

そこで原告のレジペーパーである前掲甲第一号証の一ないし一〇によれば、一覧表の各単価の商品の販売度数は別表(一)の足数欄記載のとおりであり、売上高の合計は金二、五九一、五五〇円、差益額の合計は金五二一、〇〇〇円となるから、差益率は〇・二〇一となる。

(2) 大学店舗分差益率

大学店舗についても、原告が自宅店舗と同様、別表(二)のとおりの一覧表を備えつけていたことは当事者間に争いがないところ、被告は同店舗については、自宅店舗と異なり、各商品の販売度数を示す資料が存在しないとして、右一覧表の差益額の合計を売価額の合計で除して、差益率〇・二四一を求めている。

しかし、大学店舗においても自宅店舗同様、販売されている商品の単価には大きな巾(七五〇円から八、六〇〇円)があり、各商品ごとの差益率も異つているのであるから、各商品が同数づつ販売されない限り、実際の差益率は被告主張の方法により計算した数値と異つてくるのであり、七五〇円から八、六〇〇円までの巾のある単価の各商品が同数づつ販売されるものとはとうてい考えられない。

試みに自宅店舗について、右の方法(一覧表の単純平均)による差益率を算出してみると〇・二一五となるのであり、より合理的で真実に近いと思われる前記(1)の方法による〇・二〇一よりだいぶ高い数値となつてしまう。

右の自宅店舗の例に照らしても、被告主張の一覧表の単純平均の方法によることは、実際の差益率よりも相当過大な差益率となるものと思われ、右差益率を利用して前記の推計方法により計算するならば、大学店舗の売上原価を不当に低くみつもることになり、ひいて自宅店舗の売上高を過大に認定することになる。

従つて被告の主張する方法による大学店舗の差益率を用いることはできず、他に合理的基準を求めねばならない。

ところで、大学構内に設けられた大学店舗と、市中にある自宅店舗とでは、当然顧客の構成も異なり、販売される各商品の種類、頻度も異なるものと考えられるのみならず、前記のとおり一覧表の単純平均による差益率によつても大学店舗〇・二四一、自宅店舗〇・二一五と相当異つているのであるから、同一人の経営にかかるとはいえ、大学店舗の差益率を自宅店舗の差益率と同一であるとすることも相当でない。

そこで大学店舗の各商品の販売頻度を示す資料として適当なものがあるかを検討するに、係争年の期末における、原告の各店舗の在庫品の量を記載した成立に争いのない乙第六号証が存在し、これは考慮に値するものと思われる。

在庫量はその時点での売れ残りを示すものであるが、同時に販売準備状態を示すものと理解することができ、別紙一覧表に明らかなとおり原告主張によれば、大学店舗分の売上高は自宅店舗分の約二・五倍にも及ぶ好条件を示ているから、各商品の在庫量はその需要度を反映しているものと考えられる。試みに乙第六号証に基き、右と同様の方法によつて自宅店舗の差益率を計算してみると、〇・一九二となり、前記のより合理的な値である〇・二〇一と〇・〇〇九しか違わない結果を示している。このことによつても、右の方法にはかなりの合理性があることが肯けるのであり、すくなくとも前記の一覧表の単純平均の方法や、他店(原告の自宅店舗も含めて)の差益率によるよりも真実に近いものと思われる。

そこで乙第六号証に基づき、各単価の商品の在庫量を求めると別表(二)足数欄記載のとおりであり、売上額合計は金二、三一六、七〇〇円、売上原価額合計は一、七八四、二五〇円となる。従つて差益額合計は両者の差である金五三二、四五〇円となり、これを売上額合計で除すと、差益率は〇・二二九となる。

(四)  右の差益率を使用して、以下原告の自宅店舗の収入金額を計算する。

(1) 原告全店舗の靴売上原価金七、六〇八、八一八円

原告の係争年の期末棚卸高金四、九七四、七五〇円、雑品(靴以外の商品)期末棚卸高金六六、〇〇〇円、年間の靴仕入金額金九、八一七、七五六円についてはいずれも当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第四、第五号証、第一〇号証の二、三および原告本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

(イ) 原告は係争年の所得税に関する審査請求に際し、期首棚卸高を金二、七三六、一一二円と申し立てたがこれは実際の棚卸高が原告にも不明のため、昭和四一年(係争年)一、二月の売上高が昭和四二年一、二月の売上高の五五%にあたるため、期首棚卸高は期末棚卸高の五五%になるとして求めたこと。

(ロ) 原告の従前の店舗は三坪程の小さなものであつたが、係争年の期首直前に店舗を改築し、原告は改築後、逐次内装等を完成させ、商品等を充実させていつたものであつて、期末に比較し期首の在庫は相当少かつたと思われること。

(ハ) 係争年の買掛金の額についてみると、期首におけるその金額は期末の四一%にしかすぎないこと。

以上の事実によれば、原告の係争年の期首棚卸高は、原告が修正申告において申し立てたとおり、期末棚卸高の五五%にあたる金二、七三六、一一二円と認めるのが相当である。

雑品期首棚卸高については、棚卸高のうち雑品棚卸高の占める割合は、棚卸高の大小により大きく変化するとは考えられないから、他に特段の主張立証のない以上、雑品期末棚卸高の五五%にあたる金三六、三〇〇円と認めるのが相当である。

以上により原告の係争年の靴売上原価を求めると次のとおり金七、六〇八、八一八円となる。

(期首棚卸高) (雑品期首棚卸高) (靴期首棚卸高)

2,736,112-36,300=2,699,812(円)

(期末棚卸高) (雑品期末棚卸高) (靴期末棚卸高)

4,974,750-66,000=4,908,750(円)

(靴期首棚卸高)(仕入金額) (靴期末棚卸高)(靴売上原価)

2,699,812+9,817,756-4,908,750=7,608,818(円)

(2) 立命館大学店舗の靴売上原価金四、八〇八、一六一円

同店舗の靴売上高が金六、二三六、二六七円、差益率が〇・二二九であることは前記のとおりであるから、その売上原価は次のとおり金四、八〇八、一六一円となる。

(売上高) (1-差益率) (売上原価)

6,236,267×(1-0.229)=4,808,161(円)

(3) 自宅店舗の靴売上原価 金二、八〇〇、六五七円

前記(1)の靴売上原価金七、六〇八、八一八円から右(2)の大学店舗の靴売上原価金四、八〇八、一六一円を差し引いた金二、八〇〇、六五七円となる。

(4) 自宅店舗の靴売上金額 金三、五〇五、二〇二円

自宅店舗の差益率は前述のとおり〇・二〇一であるから同店舗の靴売上金額は次のとおりとなる。

(売上原価) (1-差益率) (売上金額)

2,800,657÷(1-0.201)=3,505,202(円)

(5) 自宅店舗総売上金額 金三、五二七、六四六円

原告が係争年中に自宅店舗において四回の特売を行つており、右期間中の値引額の合計が、抗弁3(一)(3)<5>記載のとおり金六一、五五六円となることは当事者間に争いがない。ところで右(4)で求めた自宅店舗売上金額は、靴がすべて定価で販売されたことを前提として算出されているから、実際の自宅店舗売上金額を求めるにあたつて右値引額を(4)の売上金額から差し引かなければならない。

また自宅店舗における係争年の靴修理売上金額が金八四、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

従つて、原告自宅店舗の係争年の総売上金額は次のとおり金三、五二七、六四六円となる。

(前記(4)) (値引額)(靴修理売上金額)(総売上金額)

3,505,202-61,556+84,000=3,527,646(円)

(五) よつて、原告の係争年の収入金額は、立命館大学店舗の金六、八七九、八六七円と自宅店舗の金三、五二七、六四六円の合計額金一〇、四〇七、五一三円となる。

3 売上原価について

原告の係争年の仕入金額が金一〇、一三七、〇〇五円であり、期末棚卸高が金四、九七四、七五〇円であることは当事者間に争いがなく、期首棚卸高は前認定のとおり金二、七三六、一一二円である。

従つて、売上原価は次のとおり金七、八九八、三六七円となる。

(期首棚卸高) (仕入金額) (期末棚卸高) (売上原価)

2,736,112+10,137,005-4,974,750=7,898,367(円)

4 その他の必要経費について

その他の必要経費のうち、備品費、修繕費、什器備品等減価償却費、雇人費を除くその余の費目についてはその額が別紙所得額等一覧表に記載のとおりであり、その合計が金七一八、一五四円であることは当事者間に争いがない。

そこで、以下争いのある費目について検討する。

(一)  備品費、修繕費、什器備品等減価償却費について

原告本人尋問の結果および同結果により成立の認められる甲第三ないし第六号証および成立に争いのない甲第七号証によれば、

(1) 原告は昭和四一年一月に大学店舗を修理し、その費用として金二〇、四〇〇円を支払つたこと。

(2) 同年三月中に、陳列用の備品として金属ロツカー三個を金一五、〇〇〇円で購入したこと。

(3) 原告は自宅店舗に備え付けるため、昭和四〇年一一月又は一二月頃、レジスターを金四〇、〇〇〇円で、昭和四一年三月に応接セツトを金三五、〇〇〇円で、同年四月に日よけテントを金四〇、〇〇〇円で、それぞれ購入したこと。

以上の事実が認められる。

なお成立に争いのない乙第七号証の四には、レジスターの購入時期が昭和四二年三月である旨の記載があるが、右は、原告本人尋問の結果および前掲甲第一号証の一ないし一〇に照らしてにわかに措信し難く、他の右認定を左右するに足る証拠はない。

また原告は右(2)の金属ロツカーの外に、一〇、〇〇〇円および七、〇〇〇円の陳列棚を購入し備品費として合計金三二、〇〇〇円を支出した旨主張しているが、これを認めるに足りる証拠はない。

右各支出のうち、(1)修繕費金二〇、四〇〇円および(2)備品費(金属ロツカー)金一五、〇〇〇円は、全額必要経費となるが、(3)の什器備品等については、係争年中の減価償却費の額が必要経費となるにとどまり、その額は以下のとおりとなる。

<1> レジスター

<省略>

<2> 応接セツト

<省略>

<3> 日よけテント

<省略>

右以外に、係争年中の什器備品等減価償却費として、要約調書添付什器備品等減価償却一覧表記載のとおり車輌運搬具(自動二輪車)二台、什器備品(陳列棚)の減価償却費合計金二六、二三〇円が存することは当事者間に争いがない。

従つて、原告の係争年中の什器備品等減価償却費の額は右の金二六、二三〇円に前記のレジスター金七、二〇〇円、応接セツト金三、二八〇円、日よけテント金三、三七五円を加えた合計金四〇、〇八五円となる。

(二)  雇人費について。

原告が係争年中に、同人の長男夫婦に対して給与として金三八四、〇〇〇円を支払つたこと、同夫婦の下宿代金四二、〇〇〇円を原告が代つて支払つたこと、右夫婦およびその長男は原告宅において毎日三度の食事をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。原告本人尋問の結果によれば、支給された右給与は、長男と長男の妻の分とを区別しないまま支給されていることが認められ、原告と長男夫婦とは、相扶けて日常生活の資を共通にしており、所得税法第五七条第二項にいう生計を一にする親族に該当するものと解すべきであり、原告が同夫婦に支払つた給与等は、必要経費とは云えず、事業専従者控除の適用が認められるにとどまる。

(三)  従つて、売上原価以外の必要経費の額は、争いのない金七一八、一五四円に、備品費金一五、〇〇〇円、修繕費金二〇、四〇〇円、什器備品等減価償却費金四〇、〇八五円を加えた金七九三、六三九円となる。

5  事業専従者控除

原告の妻、長女、長男およびその妻の四名が、原告の営む靴販売、同修理業に従事していることおよび原告の妻、長女が原告と生計を一にする親族であることは当事者間に争いがなく長男夫婦が原告と生計を一にする親族であることは前認定のとおりである。また事業専従者控除前の原告の靴販売、修理業にかかる所得金額は次のとおり金一、七一五、五〇七円となる。

収入金額 売上原価 その他の必要経費

1,040,751-(7,898,367+793,639)=1,715,507円

そこで所得税法第五七条第二項に基き、事業専従者控除額を算定すると次のとおりである。

<1>  所得税法第五七条第二項第一号、昭和四二年法律第二〇号所得税法改正附則第三条所定の額 金一四二、五〇〇円

<2>  所得税法第五七条第二項第二号の額 金三四三、一〇一円

(事業所得額) (事業専従者数+1)

1,715,507÷5=343,101(円)

<3> いずれか低い額 金一四二、五〇〇円

<4> 必要経費算入額 金五七〇、〇〇〇円

142,500×4=570,000

6 事業所得金額

以上によれば、原告の係争年分の事業所得金額は、金一、一四五、五〇七円となる。

三  従つて、原告の係争年分の総所得金額は、右(6)の事業所得金額一、一四五、五〇七円と不動産所得金額五五一、五三四円との合計金一、六九七、〇四一円となり、裁決により一部取消後の本件処分の総所得金額は一、六七八、六〇六円であるから、結局右に認定した所得の範囲内で処分がなされていることになるから、原告の本件請求は理由がない。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林義雄 裁判官 芳村精一 裁判官富川秀秋は病気のため署名押印できない。裁判長裁判官 林義雄)

昭和四四年(行ウ)第四号所得金額更正決定処分取消等請求事件

要約調書

原告 竹原富之助

被告 下京税務署長

第一 当事者の求めた裁判

一 原告

1. 被告下京税務署長が昭和四二年四月二八日になした原告の昭和四一年分所得税についての更正決定処分のうち、総所得金額一、一〇五、五二九円を超える部分はこれを取り消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二 被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二 当事者の主張

一 請求原因

1. 原告は被告に対し、原告の昭和四一年度所得税について別紙経過等一覧表(一)記載のとおり確定申告したところ、

被告は右確定申告に係る所得税額について、昭和四二年四月二八日別紙経過等一覧表(二)記載のとおり更正決定(以下本件更正決定という)をなした。

2. 原告は本件更正決定について昭和四二年五月二日被告に対し異議申立をしたが同年七月二七日右申立は棄却された。そこで原告は同年八月二八日大阪国税局長に対し、審査請求をしたところ、同局長は昭和四三年一二月四日別紙経過等一覧表(三)記載のとおりの裁決をなし、右裁決書謄本は同日原告に到達した。

3. しかしながら本件更正決定には、原告の所得金額を過大に認定した違法があるからこれが取消を求めるため本訴に及んだ。

二 請求原因に対する答弁

第1、第2項は認める。

三 抗弁

1. 原告は本件係争年度たる昭和四一年当時、住居地の京都市下京区寺町松原下る植松町七三一の一及び立命館大学内(本部及び衣笠分校)において、靴販売、同修理業を営み、原告とその家族四名(原告の妻、長女、長男およびその妻)がこれに従事しまた右住居地に鉄筋コンクリート造り四階建建物を所有し、この二、三階部分を賃貸して不動産収入を得ていたものである。

2. 原告は本件係争年度分の所得金額算定の根拠となる帳簿書類を備え付けておらず、また原始記録も売上レジペーパー、仕入伝票、領収書等の一部のみしか存しなかつたためその所得金額を実額によつて計算することは不可能であつた。

そこで被告は右原始記録、取引先の調査等によつて得た資料にもとづきその所得金額を算定したところ、原告の確定申告書記載のそれと相違したので本件更正決定並びに本件裁決に及んだものである。

3. 本訴において、被告の主張する所得金額の数額及び内訳は別紙所得金額等一覧表「被告の主張欄」記載のとおりであるが、なお原告の争う項目についての算定の根拠を詳述すれば以下のとおりである。

(一) 自宅店舗分収入金額について。

(1) 原告は自宅店舗分の収入金額については本件係争年分の二月一七日から一二月三一日までの期間の売上金額を記録したレジペーパーが存在し、これにより実額計算が可能であると主張するが、右レジペーパーの記録はレジの機械そのものが不完全で、かつ原告も自認するとおり操作ミスによる誤打が多いうえ、原告の事業上の取引記録のうち、単に売上金額のみが記載されているだけで、仕入代金の支払や経費の支払等の出金面の記載が全くなされておらず、又他に金銭出納帳の記載もなく、実際の現金の手元有高と右記録上の現金残高との照合による売上金額等の取引の正否検討の手段が全く講じられていない。これがため、個々の売上金額等の取引の記録もれがあつても全く発見することができないものであつて、被告が適正に把握した売上原価および原価率よりみて多額の売上金額の脱ろうが推認される状況であつた。

従つて、被告は右レジペーパーの記録によらないで、取引先の反面調査や、原告備え付けの靴の販売価額ならびに仕入価格表等により客観的に明らかとなつている売上原価および原価率により売上金額を算定したのである。

(2) 被告の行つた原告店舗分の収入金額の計算方法については、まず取引先等を調査して原告の年間靴総仕入金額(修理材料費を除く。)を算定し、この額に靴の期首棚卸高を加えた額から靴の期末棚卸高を差し引き靴売上原価を求めた。

右金額は自宅店舗分と立命館大学分の合計額であるから、このうちの立命館大学分の靴売上原価を同店舗の売上金額と販売差益率を基礎に算定し、前記靴売上原価から差し引くことによつて自宅店舗分の靴売上原価を求めた。

なお自宅店舗では三月、七月、一〇月、一二月に特売期間(各月約一〇日程度)を設け、三月、七月の特売期間には通常の販売価格の五分引、一〇月、一二月のそれには一割引で販売しているのでこの値引額を原告の申し立てに基づいて算出し、これを前記自宅店舗分の靴売上金額から差し引き、更にこの額に原告が申し立てた靴修理売上高を加えた額が自宅店舗における総売上金額となる。

(3) 以上の計算過程及び各項目の数額を示せば次のとおりとなる。

<1> 原告店の靴売上原価 7,608,818円

(期首棚卸高) (雑品期首棚卸高) (靴の期首棚卸高)

2,736,112-36,300=2,699,812(円)

(期末棚卸高) (雑品期末棚卸高) (靴の期末棚卸高)

4,974,750-66,000=4,908,750(円)

(靴の期首棚卸高)(仕入金額)(靴の期末棚卸高)(靴売上原価)

2,699,812+9,817,756-4,908,750=7,608,818(円)

<2> 立命館大学分の靴売上原価 4,733,326円

(立命館大学靴売上高) (1-差益率) (立命館大学靴売上原価)

6,236,267×(1-0.241)=4,733,326(円)

<3> 自宅店舗分靴売上原価 2,875,492円

(前記<1>) (前記<2>) (自宅店舗分靴売上原価)

7,608,818-4,733,326=2,875,492(円)

<4> 自宅店舗分靴売上金額 3,598,863円

(前記<3>) (1-差益率) (自宅店舗分靴売上金額)

2,875,492+(1-0.201)=3,598,863(円)

<5> 自宅店舗特売値引類 61,556円

イ 3月および7月の特売期間中の値引後の売上高 154,709円

上記期間の値引率 5分

<省略>

ロ 10月および12月の特売期間中の値引後の売上高 480,731円

上記期間の値引率 1割

<省略>

ハ (前記イ) (前記ロ) (年間の値引額)

8,142+53,414=61,556(円)

<6> 自宅店舗分総売上金額 3,621,307円

(前記<4>)(前記<5>)(靴修理売上高)(自宅店舗分総売上金額)

3,598,863-61,556+84,000=3,621,307(円)

なお、期首棚卸高、雑品期首棚卸高、靴販売差益率についての算定根拠は後記のとおりである。

(4) 靴販売差益率について

原告は自宅店舗及び立命館大学店舗にそれぞれの店舗で販売する靴の販売価格と、その売上原価を対比記載した一覧表(乙第一一号証の一、二)を備え付けていたので、被告はこの表をもとにして両店舗における差益率を計算した。

<1> 自宅店舗分

自宅店舗における右一覧表の売価及び原価は、別表(一)記載のとおりである。

また原告は自宅店舗において売上レジペーパーを記録保存していたが、これは原告自宅店舗の販売状況の一般的趨勢を示しているものと推定されたので、これから各商品についての販売度数を抜き出し計算すると、前記一覧表<3>足数欄記載のとおりとなる。

以上を基礎として、売価及び原価に販売度数を乗じて売上額及び売上原価を算出し、その差(差益額)の合計を、売上額の合計で除して販売差益率を計算した。

以上の計算過程を数式で示せば次のとおりである。

売上額合計(一覧表<4>欄) 売上原価合計(同<5>欄) 差益額合計(同<6>欄)

2,591,550-2,070,550=521,000(円)

差益額合計 売上額合計 差益率

521,000÷2,591,550=0.201

なお、右差益率を求めるに当つて、原告の提出したレジペーパーの記録により各商品の販売頻度を求めたのは、レジペーパーは記録もれがある不完全なものであるとしても、その記録されている部分はその記録からみても特定の期間とか特定の販売商品に片寄つて記録されているものとは推認できないし、すくなくともその期間における記載部分については販売の趨勢が反映されているものと認められ、価格表による販売価格等の単純算術平均や、他の同業者の趨勢などによるよりもはるかに原告の自宅店舗の実情に即しかつ合理的であると認めたからである。

<2> 立命館大学分

立命館大学店舗における前記一覧表の売価および原価は、別表(二)記載のとおりとなる。

なお、原告は立命館大学店舗においては、自宅店舗と異なり、販売度数を把握するための資料を保存していなかつたため止むなく各種商品が平均的に販売されたものと推定し、全商品の販売価格合計額とその差額合計を算出し、その差益率を計算した。

以上の計算過程を算式で示せば次のとおりである。

差益額合計 販売価格合計 差益率

34,490÷142,800=0.241

(二) 期首棚卸高および雑品期首棚卸高について

(1) 原告は期首棚卸高についての資料を保存していなかつたが、原告が審査請求に際して作成し提出した損益計算書(乙第一〇号証の一ないし三)による数額二、七三六、一一二円は、その計算に根拠があり(右損益計算書の三丁の「その他参考事項」欄に、期首商品の計算は、昭和四二年一月及び二月の売上と、四一年一月および二月の売上の対比が五五%となるためと記載された方法により期末棚卸高の五五%として計算されている。)、右審査請求の審理に当つた大阪国税局協議官田端哲もこれを検討した結果妥当であるとして(乙第四号証)認めたものである。

原告はその後本訴になつてから右申し立て数額を、誤算であつたとの理由で変更し二、三六九、八四〇円を主張しているが、この数額については何ら明確な根拠もなく措信し難いものである。

(2) 雑品期首棚卸高についても、期首棚卸高の算出方法と同一の方法によつて算出すると、雑品期末棚卸高が六六、八〇〇円であるから、雑品期首棚卸高はその五五%の三六、三〇〇円となる。

(三) 什器備品等の減価償却について

什器備品等償却の対象となる資産は、自動二輪車二台、自宅店舗及び立命館大学店舗の陳列棚(計二個)のみである。これら資産の取得価格ならびに減価償却費は別紙什器備品等減価償却費一覧表「被告の主張」欄記載のとおりである。

なお右減価償却費については法定償却方法(定額法)により大蔵省令に基づいて計算したものである。

(四) 原告長男夫婦の雇人費及び事業専従者給与額について

(1) 原告は、原告の長男夫婦に対して支給した現金三八四、〇〇〇円、右夫婦の下宿代を原告が代つて支払つた額四二、〇〇〇円、右夫婦およびその長男が原告宅において毎日三度の食事をした食事代の推定額一四四、〇〇〇円合計五七〇、〇〇〇円は雇人費として全額必要経費に算入されるべきであると主張している。

しかし、原告は青色申告者でない一般納税者であり、また長男夫婦の下宿代を原告が支払い、長男夫妻及びその長男の三度の食事は原告宅で行われているうえ、支給した給与についても長男分、長男妻分としての区別も明らかでないまま支給されている状態であるから、原告と長男夫妻の関係は、有無相扶けて日常生活の資を共通にする所得税法第五七条第二項にいう生計を一にする親族に該当し、雇人費の支給対象ではなく、事業専従者控除の適用を受ける場合に該当する。

そこで所得税法第五七条第二項に基づき長男夫婦について必要経費算入限度額を算定すると次のとおりである。

<1> 所得税法第五七条第二項第一号、昭和四二年法律第二〇号所得税法改正附則第三条・所定の額 一四二、五〇〇円

<2> 所得税法第五七条第二項第二号の額 四八一、八〇四円

(事業所得額) (不動産所得額)(事業専従者数+1)

(1,857,486+551,534)÷5=481,804(円)

<3> いずれか低い額 一四二、五〇〇円

<4> 必要経費算入額 二八五、〇〇〇円

142,500×2=285,000(円)

(2) 仮りに原告と長男夫妻の関係が生計を一にする親族ではなく所得税法の前記条項に該当しないとしても、原告の支給した現金三八四、〇〇〇円以外の下宿代および食事代は長男夫婦の生活援助といつた要素を含み、所得税法第四五条第一項にいう家事上の経費ならびにこれに関連する経費である。この場合は、家事上の経費に関連する経費の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要でありかつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費のみが、所得税法上必要経費に算入されるのであつて(所得税法施行令第九六条)、原告の場合はこれに該当しない。

従つて原告の場合雇人費として必要経費となるのは三八四、〇〇〇円のみである。

四、抗弁に対する答弁

1. 第1項認める。

2. 第2項中、本件係争年度において、原告が帳簿書類を備えつけていなかつたことは認めるが、レジペーパーが一部しか存しなかつたとの点は否認する。

レジペーパーは本件係争年分につき、一〇ケ月分以上完全に保存されており、所得金額についてこれを基礎として実額計算をすることが可能であつた。

3. 第3項において被告の主張する所得金額の数額についての原告の答弁及び主張は、別紙所得金額等一覧表「原告の答弁及び主張」欄記載のとおりである。

(一) 同項(一)自宅店舗分収入金額についての認否

(1) 被告主張の原告自宅店舗分収入金額の算定方法は争う。

原告が保存しているレジペーパーには被告の主張するような脱ろうはなく、これに基づいて収入を計算することが可能である。

右レジペーパーの存在する二月一七日より一二月三一日までの売上高はレジペーパーによれば二、六〇四、四八九円であり、一月一日より二月一六日までの売上高は二七九、九〇四円と推定されるから、原告の係争年度の自宅店舗分収入金額は、二、八八四、三九三円である。

(2) 同項(一)(3)記載の各数額のうち、期末棚卸高四、九七四、七五〇円、雑品期末棚卸高六六、〇〇〇円、仕入金額九、八一七、七五六円、立命館大学靴売上高六、二三六、二六七円、自宅店舗特売値引額六一、五五六円、靴修理売上高八四、〇〇〇円はいずれも認めるが、販売差益率、期首棚卸高、雑品期首棚卸高については否認する。

(3) 同項(一)(4)のうち、原告が自宅店舗及び立命館大学店舗においてそれぞれ被告主張の一覧表を備えつけていたこと、右一覧表記載の売価が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

被告主張の差益率の算出方法は正確ではない。すなわち、自宅店舗分に関して言えば、原告の保存していた売上レジペーパーに表示された金額は靴数足の売価を一括合計した額が記載されていることもあるのであつて、必ずしも靴一足の売価を正確に表示していない。現に原告は、本件係争年度においては、被告主張のように売価八、二〇〇円の靴は一足も売つていない。

また自宅店舗及び立命館大学店舗においても、特売日と、そうでない通常日ではそれぞれ売価が相違するのであつて、これを無視して差益率を一率に算定することは相当でない。

(二) 同項(二)のうち、本件裁決に際し、原告が被告主張のような申立をしたことは認めるが、右申立額は原告の誤算であつた。

(三) 同項(三)については、什器備品等減価償却の対象となる資産は被告主張のもののほか、建物附属設備たる日除けテント、レジスター、応接セツトが存する。これらの資産についての取得価格、減価償却費は、別紙什器等備品減価償却費一覧表「原告の主張」欄および別紙什器備品等の算式記載のとおりである。

(四) 同項(四)のうち、原告が本件係争年度当時、青色申告書提出の承認を受けていなかつたこと及び原告長男夫妻に現金三八四、〇〇〇円を支給していたほか、その下宿代を原告が支払い、かつ長男夫妻とその長男計三名についての三度の食事を原告住居地で行ない、その費用を原告が負担していたことはいずれも認めるが、その余は争う。

原告長男夫妻は原告と住居を異にし、また原告は長男夫妻に対し、下宿代(四二、〇〇〇円)及び食事代(一四四、〇〇〇円)を差し引いた上で、現金三八四、〇〇〇円を、その事業に従事した対価として支払つたものである。従つて原告長男夫妻は原告の使用人に該当するから、右下宿代、食事代、現金支給額合計五七〇、〇〇〇円は雇人費として必要経費に算入されるべきである。

4. 被告主張の方法により原告の所得を算定する場合の数額等の認否は以上のとおりであるが、原告の所得は、実額で算定すべきであり、その場合の総所得金額は八八九、三〇七円になる。

経過等一覧表

<省略>

所得金額等一覧表(単位円)

(事業所得)

<省略>

<省略>

(不動産所得)

<省略>

(総所得金額)

<省略>

什器備品等減価償却一欄表(単位一個・円)

<省略>

什器備品等減価償却費の算式

前表記載の減価償却費は下記の算式によつて算出した。

(取得価額-残存価額)×償却費×償却期間×事業使用割合=減価償却費

<1> 自動二輪車

<省略>

<省略>

<2> 陳列棚

<省略>

<3> 応接セツト

<省略>

<4> レジスター

<省略>

<5> 日除けテント

<省略>

別表(一)

<省略>

<省略>

別表(二)

<省略>

<省略>

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