京都地方裁判所 昭和45年(わ)162号 判決 1972年7月14日
主文
被告人を懲役四月に処する。
この判決が確定した日から弐年間右刑の執行を猶予する。
理由
罪となるべき事実
被告人は、明治学院大学文学部の学生であるが、かねてより共産主義者同盟戦旗派(以下戦旗派と略称する)の主張に共鳴し、これらの同志と行動を共にしていたおりから、昭和四五年二月初旬ころ、京都市上京区所在の同志社大学内で、共産主義者同盟赤軍派(以下赤軍派と略称する)の学生らが戦旗派の土方某にリンチを加えたりしたことなどから両派間に緊迫した抗争の機運をかもし、赤軍派の拠点とされた同大学学生会館の奪還を目途とするなど気勢をあげるための集会が、戦旗派の企てで同月一四日同大学構内において催される旨を聞知するや、その企画に参加しようと考え、同日朝東京方面の学生ら数十名の者と共に京都市に赴いたが、赤軍派の学生らによる妨害行為等が十分予測される状況下にあつたので、これにそなえるため、戦旗派の学生ら百数十名の者と互いに犯意を通じ合つて、同日午後一時一五分ころから同一時二五分ころまでの間、同市上京区所在の京都御所中立売御門付近から前記同志社大学学生会館までの区間において、赤軍派の学生らの身体に対し共同して害を加える目的で、約四〇本の竹竿を携帯準備して集合したものである。
証拠の標目<略>
確定裁判の存在
被告人は、昭和四七年三月九日東京地方裁判所において、兇器準備集合罪により懲役一年(二年間執行猶予)に処せられ、右裁判は上訴期間の経過によつて確定したものである。
法令の適用
被告人の判示所為は、行為時法によれば刑法二〇八条ノ二第一項、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法第三条に、裁判時法によれば刑法第二〇八条ノ二第一項、罰金等臨時措置法第三条に該当するが、右は犯罪後の法律により刑の変更があつた場合なので、刑法第六条、第一〇条により刑の軽い行為時法に従い、その所定刑中懲役刑を選択し、この罪と前示確定裁判を経た罪とは同法第四五条後段の併合罪の関係にあるから、同法第五〇条により未だ確定裁判を経ない判示罪について処断することとし、その刑期の範囲内において被告人を懲役四月に処し、刑の執行猶予について同法第二五条第一項を、訴訟費用の負担について刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用する。
弁護人の主張に対する判断
(一) 弁護人は、本件竹竿は、被告人側の学生らが、赤旗を巻きつけた旗竿としての意識表現のもとに所持していたものであり、かつ、その竹竿は先端をとがらせたり、釘を打ちつけたりなどの加工を施していない虚弱な折れ易いものであるから、刑法第二〇八条ノ二第一項にいわゆる兇器には該当しないと主張する。
(二) おもうに、同法条にいわゆる兇器とは、およそ人を殺傷すべき特性を有する器具をいうのであつて、そのなかには、性質上の兇器のほか、用法上の兇器を含むと解すべきは多く異論のないところであり、後者をその兇器の概念に含ませても、弁護人が懸念するような罪刑法定主義の保障的機能を失うおそれがあるとは考えられない。
そして、ここに用法上の兇器と称しうるためには、具体的な見地から、それが人を殺傷するに足りる器具であつて、社会通念に照らし人の視聴覚上直ちに危険感を抱かせるに足りるものをいうと解すべきである。
(三) これを本件についてみるに、本件犯行を組成する物件として当裁判所が取り調べた竹竿三四本について、その形状や性能等を具さに検するに、右竹竿の長さは、約三、八〇メートルのもの六本を筆頭に約三メートルないし約三、八四メートルに及び、その太さは、下部の直径約三センチメートルのもの一〇本を筆頭に約二センチメートルないし三、五センチメートルに及び、そのうち約一八本は、総体的に未だ青味を帯びたいわゆる青竹としての性情を保ち、かつ、その下部は、いずれも鋭利な刃物によつて斜めに切断されたままの痕跡を残し、俗にいう竹やりと同様の形状を呈し、そのうえ、右竹竿三四本のほとんどが、かなり強靱な資質を保有し簡単に折れるような虚弱性のものではないことが認められる。そして、右竹竿のうち約二九本には、その先端に約一メートル平方からハンカチ程度に至る大きさの赤色無地の布が結びつけられているので、それらは、一見旗竿として使用されたかのような観がないものでもない。
しかしながら、右に認定したような本件竹竿三四本の形状や性能等を全体として観察し、これに、判示二月一四日午後一時二五分ころ、判示同志社大学学生会館前において、現に戦旗派の学生らが右竹竿をもつて、赤軍派の学生らに叩く突く等の暴行を加えた際の用に供した実情を合わせ考えると、戦旗派の学生らは、右竹竿を準備してこれを赤軍派の学生らとの斗争用具に使用する意図があつたものと認められるばかりでなく、客観的にも、右の竹竿特に竹やりの様相を呈しているものは、人を殺傷するに足りる器具としての性能を有し、社会通念に照らし人の視聴覚上直ちに危険感を抱かせるに足りるものと認めるのが相当である。しかして、右竹竿の一部に前記のような赤布が結びつけられていて、旗竿としての意識下に携帯されていたとしても、それが旗竿と呼称しうるかどうかはともかく、その実体からみて右の認定を妨げるものではない。
(四) かようにみると、本件竹竿は用法上の兇器として、刑法第二〇八条ノ二第一項にいわゆる兇器に該当するものと解するのが相当である。
弁護人の主張はこれを採用しない。
よつて主文のとおり判決する。
(橋本盛三郎)