大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和45年(ワ)593号 判決 1972年9月27日

原告

菅月泉

右訴訟代理人

毛利与一

外四名

被告

宗教法人臨済宗相国寺派

右代表者

久山忍堂

被告

村上慈海

右両名訴訟代理人

箕田正一

外四名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

原告と被告らの間において、原告が宗教法人慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

二、被告ら

(本案前の申立)

主文同旨の判決

(本案についての申立)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  原告の請求原因

一、宗教法人慈照寺(以下、単に慈照寺という)は、昭和二九年三月二五日設立登記された宗教法人法の規定にもとづく宗教法人であるが、原告は、慈照寺成立と同時に慈照寺の代表役員および責任役員に就任した。

二、慈照寺の僣称代表役員および僣称責任役員である被告村上慈海ならびに慈照寺の包括法人である被告宗教法人臨済宗相国寺派(以下、単に被告相国寺派という)は、原告が慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることを争うので、本件訴に及んだ。

第三  被告らの本案前の抗弁

一、宗教法人における代表役員および責任役員の地位の確認を求める訴は、当該宗教法人を被告として提起すべく、かつ、これをもつて足りるのであつて、現に当該宗教法人の代表役員および責任役員たる個人または当該宗教法人の包括団体たる宗教法人を被告とする訴訟は、仮に判決が確定してもその効果は当該宗教法人に及ばず、紛争の根本的解決に役立たないから、即時確定の利益を欠く(最高裁判所昭和四四年七月一〇日第一小法廷判決参照)。

二、被告相国寺派を相手方とする、原告が慈照寺の代表役員および責任役員の地位を有することの確認を求める請求は、右最高裁判所判決により、訴訟要件欠缺を理由に却下されており、その瑕疵は、補正できない性質のものであるから、同判決は、その限度で確定力を有する。

第四  被告らの本案前の抗弁に対する原告の答弁

右最高裁判所の判決は、「宗教法人の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求める訴は、当該宗教法人を相手方としない限り確認の利益がない」と判示したのにとどまり、「当該宗教法人のみを相手方とすべきである」とか、「包括宗教法人および僣称代表役員個人を当該宗教法人の共同被告とすることが不適法である」との趣旨を含んでいない。

理由

一、原告は、被告相国寺派と大津櫪堂を共同被告として、「原告は、慈照寺の住職、代表役員、責任役員であるところ、昭和三一年五月一日、原告が、被告相国寺派の管長山崎大耕に対し、慈照寺の住職、代表役員、責任役員を辞任する旨の意思表示をなしたことにより、被告相国寺派は、被告大津を慈照寺の特命住職に任命したので、被告大津は、慈照寺規則にもとづき、同時に慈照寺の代表役員、責任役員に就任し、同月八日、原告より被告大津へ、右代表役員、責任役員の変更登記がなされた。しかし、原告の慈照寺住職、代表役員、責任役員の辞任は無効である。」と主張して、「原告が慈照寺の住職、代表役員、責任役員であることを確認する。」との判決を求める訴を当裁判所に提起し、当裁判所第四民事部は、昭和三六年五月二〇日、原告の請求を棄却する旨の判決を言渡し、原告の控訴にもとづき、大阪高等裁判所第九民事部は、昭和四一年四月八日「原判決を取消す。控訴人が慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることを確認する。控訴人の請求のうち住職の地位確認を求める部分を却下する。」

との判決を言渡した。

右被控訴人らの上告にもとづき、最高裁判所第一小法廷は、昭和四四年七月一〇日

「被上告人は、本訴において、宗教法人慈照寺を相手方とすることなく、上告人らに対し、被上告人が同宗教法人の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求めている。しかし、このように、法人を当事者とすることなく、当該法人の理事者たる地位の確認を求める訴を提起することは、たとえ請求を認容する判決が得られても、その効力が当該法人に及ばず、同法人との間では何人も右判決に反する法律関係を主張することを妨げられないから、右理事者の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決する手段として有効適切な方法とは認められず、したがつて、このような訴は、即時確定の利益を欠き、不適法な訴として却下を免れないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和三九年(オ)第五五四号同四二年二月一〇日第二小法廷判決民集二一巻一号一一二頁、同三九年(オ)第一四三五号同四三年一二月二四日第三小法廷判決裁判集民事九三号登載予定参照)。法人の理事者が、当該法人を相手方として、理事者たる地位の確認を訴求する場合にあつては、その請求を認容する確定判決により、その者が当該法人との間においてその執行機関としての組織法上の地位にあることが確定されるのであるから、事柄の性質上、何人も右権利関係の存在を認めるべきものであり、したがつて、右判決は、対世的効力を有するものといわなければならない。それ故に、法人の理事者がこの種の訴を提起する場合には、当該法人を相手方とすることにより、はじめて右理事者の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決することができることとなる。

もつとも、本訴においては、宗教法人慈照寺を包括する宗教法人である上告人臨済宗相国寺派を当事者の一員としているのであり、また、原審の認定事実によれば、慈照寺の代表役員は同上告人管長において任免権を有する同寺の住職の職にある者をもつて充てることとなつているのではあるが、もとより、両宗教法人はそれぞれ別個独立の法人であり、原審が適法に確定した事実によれば、同上告人管長が直接慈照寺の代表役員につき任免権を有するものではなく、同寺の代表役員は同寺の住職の職にある者をもつて充てるとする慈照寺規則の定めるところにより、同寺の住職という宗教上の地位に、同寺の代表役員たる法律上の地位が与えられるにすぎないというのであるから、同寺の代表役員および責任役員たる地位は、宗教法人慈照寺における固有の地位であつて、包括宗教法人たる同上告人における地位ではなく、したがつて、同上告人を相手方として慈照寺の代表役員および責任役員であることが確認されたとしても、上告人大津櫪堂を相手方とする場合と同じく、右の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決することにはならないのである。」

と判示し、「被上告人の上告人らに対する請求中、被上告人が慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求める部分につき、第一審判決を取消す。右部分につき、原判決を破毀し、被上告人の訴を却下する。その余の本件上告を棄却する。」との判決を言渡した(民集二三巻八号一四二三頁)。

村上慈海は、昭和四五年三月一日、大津櫪堂の後任として、慈照寺の代表役員、責任役員に就任し、同月五日、代表役員就任の登記がなされた。

二そこで、原告は、昭和四五年五月四日、慈照寺、臨済宗相国寺派、村上慈海を共同被告として、「管告が慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることを確認する。」との判決を求める訴を当裁判所に提起した。

当裁判所は、右の訴のうち、相国寺派、村上慈海の両名に対する部分(本件訴)を分離した。

なお、本訴訟係属中の昭和四六年三月一日、被告村上慈海は、慈照寺の代表役員、責任役員を辞任し、佐分春応は、村上慈海の後任として、慈照寺の代表役員、責任役員に就任し、同月一五日、右代表役員辞任・就任の各登記がなされ、昭和四七年四月三〇日、佐分春応は、右役員の地位を弁任し、久山忍堂は、佐分春応の後任として、慈照寺の代表役員、責任役員に就任し、同年五月一五日、右代表役員辞任・就任の各登記がなされた。

三、本件訴の適法性について判断する。

(一)  甲法人の理事者Aが辞任したとして、BがAの後任理事者に就任したとき、Aが、Aの理事者辞任は無効であると主張して、Aが提起する、「Aが甲法人の理事者の地位にあることの確認の訴」の被告適格者は、甲法人のみであり、甲法人以外の第三者(Bを含む)は、甲法人と共同被告とするときでも、被告適格者とならないと解するのが相当である。その理由はつぎのとおりである。

(1)  甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決するため、右の訴に対する本案判決の効力を訴訟当事者以外の第三者に拡張する必要があるところ、右の訴は甲法人とAとの間の法律関係の確認を求めるものであり、甲法人は右の法律関係について最も直接の利害関係を有するものであるから、甲法人以外の第三者を被告とする右の訴に対する本案判決の効力を訴訟当事者以外の第三者(甲法人を含む)に拡張することはできない。したがつて、甲法人以外の第三者を被告とする右の訴は、甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決する適切有効な手段とは認められないから、訴の利益を欠く。すなわち、甲法人以外の第三者は、単独で、右の訴の被告適格者でない。

(2)  これに対し、甲法人を被告とする右の訴に対する本案判決の効力は訴訟当事者以外の第三者に拡張され、甲法人は、単独で、右の訴の被告適格者である。けだし、甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決するため、右の訴に対する本案判決の効力を訴訟当事者以外の第三者に拡張する必要があり、甲法人を被告とする場合、右の法律関係について正反対の、かつ、最も直接の利害関係を有する両者(甲法人とA)が対立当事者となることによつて、最も充実した訴訟追行がなされ、訴訟当事者以外の第三者(Bを含む)の利益が確保されるからである。

(3)  右のように、甲以外の第三者が、単独で、被告適格者でなく、甲が、単独で、被告適格者であり、甲を被告とする訴に対する本案判決の効力が、第三者に拡張される場合、甲以外の第三者が、甲を共同被告とすることによつて、被告適格者となる、と解すべき理由はない。

(二)  右(一)の場合、Aが、Aの理事者辞任の無効を理由としてBの理事者就任は無効であると主張して、「Bが甲法人の理事者の地位にないことの確認の訴」を提起することは、甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決する適切有効な手段とは認められないから、訴の利益を欠く。この場合、Aは、甲法人を被告として、「Aが甲法人の理事者の地位にあることの確認の訴」を提起すべきであり、右の訴に対する本案判決の効力は訴訟当事者以外の第三者(Bを含む)に拡張されるから((一)の(2)参照)、「Bが甲法人の理事者の地位にないことの確認の訴」は、「Aが甲法人の理事者の地位にあることの確認の訴」に併合するときでも、訴の利益を欠く。

(三)  右(二)の場合と異なり、Aが「Bが甲法人の理事者の地位にないことの確認の訴」を提起する訴の利益がある場合、甲法人とBとを共同被告とする必要がある(固有必要的共同訴訟)。けだし、甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決するため、右の訴に対する本案判決の効力を訴訟当事者以外の第三者に拡張する必要があるところ、右の訴は甲法人とBとの間の法律関係の確認を求めるものであり、甲法人とBは右の法律関係について正反対の、かつ、最も直接の利害関係を有する者であるから、両者(甲法人とB)を訴訟当事者としない右の訴に対する本案判決の効力を訴訟当事者以上の第三者に拡張することができないのに対し、両者(甲法人とB)を訴訟当事者とする右の訴に対する本案判決の効力を訴訟当事者以外の第三者に拡張することができるからである((一)の(1)、(2)参照)。

(四)  上記の法理は、宗教法人であるか、その他の法人であるかによつて、異別に解すべき理由はない。

(五)  本件原告Aは、「Aが甲宗教法人の代表役員および責任役員の地位にあることの確認の訴」を、甲宗教法人以外の第三者(甲宗教法人を包括する乙宗教法人と本件訴提起当時のAの後任代表役員および責任役員であるB。なお、現在、Bは、甲宗教法人の代表役員および責任役員を辞任し、後任代表役員および責任役員が選任されている)と甲宗教法人とを共同被告として提起したものであるから、上記(一)の法理により、甲宗教法人以外の第三者(乙宗教法人とB)を被告とする本件訴は不適法である。

四、よつて、原告の本件訴を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小西勝 工藤雅史 飯田敏彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例