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京都地方裁判所 昭和46年(モ)1725号 判決 1972年6月28日

申請人

守随憲治

代理人

堀合辰夫

小嶋正己

長谷川修

被申請人

学校法人 池坊学園

代理人

田辺哲崖

主文

申請人と被申請人間の当庁昭和四六年(ヨ)第三九八号地位保全仮処分申請事件について、当裁判所が昭和四六年一〇月一一日なした決定はこれを認可する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、申請人

主文と同旨の判決。

二、被申請人

前記仮処分決定を取消す、本件仮処分申請を却下する、訴訟費用は申請人の負担とするとの判決ならびに仮執行の宣言。

第二、当事者の主張

一、申請の理由

(被保全権利)

(一) 被申請人は、昭和二七年三月二四日、教育基本法、学校教育法および私立学校法に従い、私立学校を設置することを目的として設立された学校法人で、申請人は、学校法人池坊学園寄附行為(以下「寄附行為」という)一五条一項八号の規定により、被申請人学園(以下「学園」ともいう)評議員(以下八号評議員という)に選任され、同九条一項二号の規定により、学園理事(以下二号理事という)に互選され、爾来その地位を有してきた。

(保全の必要性)

(二) 被申請人は、昭和四六年六月五日、寄附行為一五条一項一号ないし七号に規定する評議員(以下前七号評議員という)の決議にもとづき、申請人に対し学園評議員を解任するとともに、学園評議員会の決議にもとづき申請人に対し、理事をも解任したと主張して、申請人の評議員並びに理事たる地位をいずれも認めない。

(三) 学園理事長池坊静子は、自己の意のままの人物を学園理事に選任している状況であり、かくては学園理事会が同人の意のままに運営され、申請人は本案において勝訴しても回復できない損害を蒙るおそれがある。

二、被申請人の答弁ならびに抗弁

(答弁)

申請の理由(一)、(二)は認める。同(三)の必要性は争う。

(抗弁)

(一) 評議員の解任及び理事の地位喪失。

1(1) 八号評議員の選任母体である前七号評議員(寄附行為一五条一項八号)は、その過半数の決議をもつて八号評議員を解任する権能をも併有するものというべきところ、昭和四六年六月五日に開催された学園評議員会において、前七号評議員は、全員一致をもつて八号評議員たる申請人を評議員から解任する旨の決議をなした。

(2) 右評議員解任決議は、学園に対する申請人の次のような背信行為を理由とした。

すなわち、申請人は、昭和四四年一一月二三日に開催された学園理事会におけるいわゆる学園納金廃止等に関する決議は、学園理事長池坊静子が、華道家元池坊専永の実母であるところから、学園の損失において家元の利益をはかろうと画策して学園理事に働きかけ、家元のなした学園納金についての措置、指示を承認させた結果の所産であると主張し、京都地方裁判所に対し右学園理事長池坊静子の職務執行停止の仮処分申請をなした(同庁昭和四六年(ヨ)第二二一号)ほか、家元池坊専永に対しても右同様の主張をして仮処分申請および本案訴訟を提起した。しかし申請人の右主張は全くの虚構であつて、学園創立以来理事の地位にあり、右理事会に出席して前記決議に賛成の意を表した申請人自身も真相を熟知している筈である。そこで、学園は、申請人の右のような紛争誘発の行為が週刊誌等でとりあげられれば事の実相を知らない大衆から好奇の眼を向けられ、教育機関である学園にとつて好ましくない結果が招来されると憂慮して内田英二常務理事をして再度にわたり申請人を訪ねさせ、学園の意向を伝えて申請人の翻意を促したところ、申請人は、前記の提訴は学園総務部長である山本良樹から、訴訟費用の一切を負担するとの約旨のもとに懇請されたことによるものであるとうそぶき、反省の色をみせずに学園の信頼を裏切つた。

2 被申請人は昭和四六年六月一五日申請人に対して評議員を解任した旨を通知した。

3 右の如くして申請人は学園評議員の地位を失つたが、それと同時にそのことによつて学園理事の地位をも喪失した(寄附行為九条二項)。

(三) 理事の解任(理事の地位喪失についての予備的主張)

1(1) 二号理事を互選する評議員(寄附行為九条一項二号)は、その決議をもつて同号理事を解任する権能をも併有するものというべきところ、昭和四六年六月五日に開催された評議員会において、二号理事たる申請人を理事から解任する旨の決議がなされた。

(2) 右解任決議は、前記評議員解任決議と同様の事実を理由とするものである。

2 被申請人は昭和四六年六月一五日申請人に対して理事を解任した旨を通知した。

三、右抗弁に対する申請人の答弁ならびに再抗弁

(答弁)

(一) 抗弁(一)1(1)のうち前七号評議員が八号評議員を解任する権能を有するとの点は争い、評議員解任の決議がなされたとの点は否認する。寄附行為一六条一項は評議員の任期を四年と定め、学園の業務決定機関である評議員会の安定をはかり、もつて学校法人の健全な運営を期するものであるから、右任期期間中は評議員を解任し得ないものというべきである。同(2)のうち昭和四四年一一月二三日開催の学園理事会において、学園納金廃止等に関する決議がなされたこと、右決議に申請人も加わつていたこと、申請人が被申請人主張の訴訟等を提起したこと、申請人が学園創立以来理事であつたこと、内田英二常務理事が再度にわたつて申請人を訪ねたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。同2は否認し、同3は争う。

(二) 抗弁(二)1(1)のうち二号理事を互選する評議員が同理事を解任する権能を有するとの点は争い、理事解任の決議がなされたとの点は認める。

寄附行為一一条一項は、学園理事の任期を四年と定め、学園の業務決定機関である理事会の安定をはかり、もつて学校法人の健全な運営を期するものであるから、右任期期間中は理事を解任し得ないものというべきである。同(2)については前記(一)1(2)について答弁したところと同じ主張をする。同2は認める。

(再抗弁)

(一) 評議員の解任並びにこれに伴う理事の地位喪失について。

仮りに前七号評議員が八号評議員を解任することができるとしても、本件評議員解任決議は、次の理由により無効である。従つて寄附行為九条二項により理事の地位を失うこともない。

1 寄附行為一五条一項二号の評議員は、池坊華道会代表理事であるところ、上野委員は、同華道会常務委員であつて代表理事ではないから、右二号評議員の資格はなく(現行池坊華道会規約には代表理事の役職はなく、二号評議員資格者は同華道会総裁である)、同人の関与してなされた本件評議員解任決議は無効である。

2 本件評議員解任決議は、評議員資格のない糸岡正一、井尻益郎、山本由美、萩野正子、角田文衛が関与してなされており、無効である。

すなわち、昭和四六年五月二六日、糸岡、井尻は寄附行為一五条一項四号評議員として、山本、萩野は同項五号評議員として、角田は同項七号評議員としてそれぞれ補欠選任されたものであるところ、学園理事会は、選任に際して、その人選を学内理事である内田英二、今木喬、橋本富士の三名に委任したが、実際は今木がほしいままに選衡し、内田にはかつて選任したもので、いずれも右寄附行為各号に定める理事の互選ないし学園理事会の決議によつたものとはいえず、これら五名は評議員としての資格はない。また、仮に右補欠選任に際して学園理事会が内田にその人選を一任する議決をなし、その委任にもとづいて同人が糸岡他四名を選任したとしても、右手続をもつて寄附行為一五条一項の四、五、七各号所定の理事会決議がなされたとはいえず、糸岡他四名は評議員としての資格はない。

(二) 理事の解任について。

仮に学園評議員会が二号理事を解任できるとしても、本件理事解任決議は、次の理由により無効である。

1 前項(一)1、2と同旨を主張する。

2 学園評議員会の決議は、出席評議員の全員参加によつて行なわれる必要がある(寄附行為一二条六項)のに、本件理事解任決議は出席した八号評議員を除外してなされており、無効である。

四、右再抗弁に対する被控訴人の答弁

(一)  再抗弁(一)1のうち、寄附行為一五条一項二号に池坊華道会代表理事が評議員となる旨の規定があること、現行池坊華道会規約に代表理事という役職はないこと、本件評議員解任決議に上野委員が関与したことは認めるが、その余の事実は否認する。池坊華道会は機構改革を行ない従来の代表理事を廃止し、常務委員長をもつてこれにかえることとした。上野は同華道会常務委員長であつて従前の代表理事に代るものであるから、寄附行為一五条一項二号評議員の資格を有する。また、仮に上野に学園評議員の資格がないとしても、学園評議員会の議事は出席評議員の過半数で決定される(寄附行為一二条六項)ところ、本件評議員解任決議は、出席せる前七号評議員の全員一致でなされているから、上野の関与如何は同決議の効力に影響はない。同2のうち、本件評議員解任決議に申請人の主張する糸岡他四名が関与したことは認めるが、その余の事実は否認する。学園理事会は評議員五名の補欠選任を常務理事内田英二に一任する決議をなし、その委任に基づいて同人が慎重に糸岡他四名を選任したもので、同人らは寄附行為一五条一項の四、五、七各号所定理事会決議により選任されたものといえる。

(二)  再抗弁(二)1に対しては右(一)と同旨の主張をする。同2は否認する。

第三、疏明<略>

理由

第一、被保全権利について

一、被申請人が、教育基本法、学校教育法および私立学校法に従い、私立学校を設置することを目的として昭和二七年三月二四日設立された学校法人で、申請人が、寄附行為一五条一項八号、同九条一項二号により、学園評議員ならびに理事にそれぞれ選任され、爾来その地位を有してきたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、被申請人の各抗弁について検討する。

被申請人は、八号評議員の選任母体である前七号評議員は八号評議員を解任することができると主張するところ、前七号評議員による選任によつて学園評議員となつた申請人は学園との間で(前七号評議員または学園評議員会との間にではない)民法上の委任類似の法律関係に立つものと解し得るから、法律的には学園がこれを解任する権限を有することは民法六五一条の趣旨に徴してみやすいところである。しかしながら、有機体としての法人に複数の意思決定機関が存在する本件の被申請人のような場合においては、評議員としての地位を有している者についてその地位を喪失(いわゆる解任)せしめるためには、実質的な面における保障は勿論のこと、形式的な面における保障もまた確立されていなければならないことはいうまでもない。前者は解任についての正当事由の存在を要求するものであり、後者はあらかじめ定められた手続の存在を前提とするものである。意思決定機関を複数有する法人においては、かように適正手続のもとにおける正当な事由によつてのみ解任権の行使ができると解してはじめて法人自体の存在及び業務執行の安定性を図りうると考えられるのである。ところで本件においては評議員の解任につき被申請人の寄附行為中には勿論他に何らの定めも見当らないのであるから、被申請人は評議員について、その在任期間中解任する余地を認めていないものと解するのが相当である。この場合単に選任権能を有するものが、解任権をも併有すると解することはできない。もつとも八号評議員については、その解任に関する手続的規定が存在しないとのゆえをもつてその在任期間中解任し得ないものと解するときは、被申請人にとつて極めて不都合な場合の生ずることを避けられないけれども、かかる事態に対処するためには、被申請人において当該評議員自らの意思による辞任を促すか、より一般的には寄附行為を改正して解任手続を定める等してその解決を図る途が残されているのであるから、右の見解が被申請人にとつて極めて苛酷な結果を招来するものということはできない。右に述べたところに依拠すれば、本件においては前七号評議員が八号評議員を解任することはできないから、被申請人の評議員解任の抗弁は主張自体失当である。また、右と同様の理由により学園評議員会が二号理事を解任することはできないから、被申請人の理事解任の抗弁もまた失当であるといわざるを得ない。そうすると申請人はその被保全権利すなわち学園の評議員ならびに理事たる地位を今なお失うことなく有することが認められる。

第二、保全の必要性について

被申請人は、昭和四六年六月五日になされた前七号評議員および学園評議員会による申請人の評議員及び理事の各解任決議がいずれも有効であると主張して、現に申請人が学園評議員および理事であることを認めないばかりでなく<証拠>によれば、被申請人は昭和四六年七月一三日付で申請人の理事解任の登記を、また同月二四日付で浅井敬太郎の理事就任の登記を経由していることが明らかであつて、かくては、申請人はいわれなく評議員および理事としての権限を行使し得ず、かつまたその責務の履行を全うすることが阻止され、これによつて生ずる申請人の不利益は、将来本案訴訟によつて申請人が勝訴しても回復するに由ないから仮の処分によつてその地位を保全する必要性があるものといわなくてはならない。

第三、以上の次第で申請人の本件申請は理由があり、主文第一項掲記の本件仮処分決定は相当であるからこれを認可することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(林義雄 右田堯雄 羽渕清司)

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