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京都地方裁判所 昭和47年(行ウ)135号 中間判決 1975年4月25日

原告(第一三五号事件)

古館三徳

原告(第一三六号事件)

池田康宏

原告(第一三七号事件)

白石利一

右原告ら訴訟代理人

柴田茲行

外五名

被告

京都市人事委員会

右代表者委員長

日下部秀太郎

右訴訟代理人

田辺照雄

主文

京都市人事委員会を被告とする本件訴えは適法である。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が昭和四七年四月二五日付でなした原告古館三徳に対する減給一ケ月、給料月額一〇分の一の処分及び同池田康宏、同白石利一に対する各戒告処分をそれぞれ取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告の本案前の答弁

1  原告らの訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告古館は元京都市立山科中学校教諭、同池田は京都市立朱雀中学校教諭、同白石は京都市立洛東中学校教諭であり、昭和三七年三月三一日当時、原告古館は京都市中学校教職員組合副委員長、同池田は同組合朱雀中学校分会分会長、同白石は同組合洛東中学校分会評議員の役職についていたものであるが、現在原告池田、同白石は京都市教職員組合の組合員である。

2  訴外京都市教育委員会(以下、教育委員会という。)は、昭和三七年三月三一日付で、原告ら三名は「同三六年一〇月二六日、教育委員会が実施した京都市立中学校学力調査(以下、本件学力テストという。)に際し、生徒にその調査反対を指導するなど教育公務員としてふさわしくない行為をなした。このことは地方公務員法二九条一項に該当する。」との理由で、原告ら三名をいずれも懲戒免職処分に付した。

そこで、原告ら三名は、昭和三七年四月三日付で被告に対し右各懲戒免職処分の取消を求めた(京都市人事委員会昭和三七年第一ないし第四号事件)ところ、被告は同四七年四月二五日付をもつて右各懲戒処分を取消し、請求の趣旨記載の処分に修正する旨の裁決(以下本件裁決という。)を行ない、同日原告ら三名にその旨通知した。

3  本件裁決は、いずれも憲法判断を回避し、かつ法律解釈適用と事実認定を誤つた違法があり取消されるべきである。すなわち

(一) 本件学力テストは憲法二三条、二六条に違反しているにもかかわらず、被告は憲法判断を回避する違法を犯した。

(二) 本件学力テストは教育基本法一〇条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条五号、一七号、五四条二項、学校教育法三八条に違反しているにもかかわらず、被告は右各法律の解釈、適用を誤まり、本件学力テストを適法とする誤まちを犯した。

(三) 原告らは前記教職員組合の活動家として憲法二八条により保障された団結活動に従事したまでのことであるが、被告は教育委員会による事実のねつ造と、これを理由とする不当違法な前掲各懲戒処分を一部認容するという違法を犯した。

4  よつて、本件裁決は前記各点において違法であるから、その取消を求めるため本訴に及ぶ。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち被告が修正裁決につき憲法判断を回避したことは認めるが、その余は争う。

三、被告の本案前の抗弁

原告らは、被告が原告らに対して懲戒処分をなしたものであるとの見地から、その取消を求めている。しかし、被告のなした裁決は、処分庁である教育委員会の行なつた処分の法律効果を変更させるだけの効力しかもたず、原処分は、その法律効果を変更してそのまま存在しているのであつて、被告が直接審査請求者である原告に対して処分をしたものではなく、本訴の被告適格を有するものは教育委員会であり、被告は被告適格を有しない。

なお本件の如く処分庁と上下の関係にない行政委員会が準司法的機能として原処分を変更した場合は、当該行政委員会すなわち裁決庁は、その本質上、原処分庁のなした処分を行なう権限を有しないし、本件に即していえば、被告は原告を懲戒処分に付する権限を有しないのであるから、原処分庁たる教育委員会の処分が、その法律的効果を変更して存続すると解するのが素直である。また、取消訴訟を追行する当事者として、いずれが適当かという実質的見地からみても、原告と本質的に対立する関係にたつ原処分庁たる教育委員会が被告適格を有すると解するのが正当である。

さらに、被告のなした本件裁決は、教育委員会が原告らに対してなした懲戒処分の法律効果を軽減、修正したものであるから、本件裁決を取消すと右修正の効果が消滅し、当初の免職という法律効果が復活することとなり、本訴請求は原告らにとつて無意味であり、訴の利益を欠くものである。

四、被告の本案前の抗弁に対する原告らの認否及び反論

1  被告の本案前の抗弁は争う。

2  被告のなした本件裁決は、単に教育委員会の懲戒処分の法律効果をそのまま存続させ、その内容に変更を加えて修正したものではなく、原処分たる教育委員会の懲戒処分を完全に取消して新たな処分をなしたものと考えるべきである。さらに、被告のなした裁決と教育委員会のなした懲戒処分とは、その種類、内容が質的に異なつているばかりではなく、本件裁決は被告独自の事実認定、法律解釈、裁量によつて行なわれているのであるから、原告にとつても被告を相手方として本件裁決の取消を求めたほうが、より救済を求めやすくなるし、教育委員会としても、本件裁決の内容については全く関知していないから、被告適格ありとして本件裁決によつて修正された懲戒処分の正当性について主張、立証することはきわめて困難であるといわざるをえない。

また、被告のなした本件裁決によつて、教育委員会の懲戒処分を取消し、新たな処分をしたことになるから、本件裁決によつて教育委員会の懲戒処分は消滅すると考えるべきである。その結果、本訴請求においては、新たな処分である本件裁決の内容の当否が審理の対象となつているのであるから、本件裁決が取消されても一たん消滅した教育委員会の懲戒処分が復活することはなく、原告らに対する懲戒処分そのものが消滅するのである。従つて、本件裁決を取消すと、当初の教育委員会の懲戒処分が復活し、かえつて原告らにとつて不利益な結果となるから被告に対する本訴請求は訴の利益を欠くとの被告の主張は理由がない。

よつて、いずれの見地からしても被告の本案前の抗弁は失当である。

理由

一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、京都市人事委員会を被告とする本件訴えが適法か否かにつき判断する。

処分取消しの訴えと裁決取消しの訴えとの関係につき行政事件訴訟法一〇条二項は原処分主義の立場をとり、原処分の違法は処分取消しの訴えによつてのみ主張することができ、裁決取消しの訴えにおいては原処分の違法を理由として取消しを求めることができず、裁決固有の瑕疵(違法)のみに限定されるとしている。そうすると、被告に対する本件訴えの適否、すなわち京都市人事委員会の被告適格性は、教育委員会のなした懲戒免職処分が、被告のなした本件裁決によつて消滅するとともに、新たな処分が行なわれたものとみることができるか否かによつて決せられることになる。

ところで、人事委員会は、職員に対する不利益な処分についての不服申立に対してその当否を審査し、その結果にもとづいて右処分の承認、修正、取消等の裁決をなす権限を有する(地方公務員法八条一項一〇号、五〇条三項)ものであるが、右修正裁決とは、原処分は違法ではないが処分の量定上の裁量に不当の点がある場合に、原処分を全部取消したうえ新たに処分をする裁決をいうと解すべきところ、被告のなした本件裁決は、被告独自の権限にもとづき、原処分たる懲戒免職処分の全部を取消したうえ、新たな処分をなしたものとみるべきであるから、被告に対する本件訴えは、行政事件訴訟法一〇条二項の制限を受けず、適法であるといわなければならない。

さらに、実質的に考えても、本件の如く被告が教育委員会とは別個の立場で独自の判断にもとづいてなした原処分を修正する裁決の結果について、教育委員会が被告となり攻撃防禦を行なわなければならないとするのは不合理であるといわざるを得ない。また、前記の如く、被告のなした本件裁決によつて原処分たる懲戒処分は消滅しているから、仮に本件訴えにおいて右裁決が取消されたとしても、原処分が復活することはありえない。

よつて、被告の本案前の申立は理由がないので、主文のとおり中間判決する。

(上田次郎 谷村允裕 安原清蔵)

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