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京都地方裁判所 昭和48年(モ)647号 判決 1974年4月25日

申請人 佐治正雄

<ほか八名>

右九名訴訟代理人弁護士 稲村五男

<ほか一一名>

被申請人 平安自動車振興株式会社

右代表者清算人 佐藤一道

右訴訟代理人弁護士 三木今二

同 前堀政幸

同 村田敏行

主文

一  申請人らと被申請人間の、京都地方裁判所昭和四八年(ヨ)第一三一号仮処分申請事件について、同裁判所が同年四月五日になした仮処分決定を取消す。

二  申請人らの本件仮処分申請を却下する。

三  訴訟費用は申請人らの負担とする。

四  第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  申請人ら

1  主文一項掲記の仮処分決定を認可する。

2  訴訟費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

主文同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  被申請人(以下会社ともいう。)は、肩書地で京都府公安委員会(以下単に公安委員会という。)指定の平安伏見自動車教習所(以下単に伏見教習所という。)を経営し、自動車運転免許取得のための技能と学課を教育することを業としていたが、昭和四四年一〇月二七日解散登記を経由し、現在に至っている。

2  申請人らは、別紙一入社年月日表記載の日に、それぞれ被申請人に雇用され、いずれも昭和四四年六月五日当時伏見教習所において、自動車運転免許取得のための技能指導の業務に従事していた。

3  しかるに、被申請人は、昭和四四年六月五日、申請人らを解雇したとして、申請人らの雇用契約上の地位を争い、従業員としての取扱いをしない。

4  被申請人から解雇の意思表示がなされた当時、申請人らは、別紙二平均賃金目録記載の月平均賃金を得ており、解雇の意思表示がなされた翌日(昭和四四年六月六日)から昭和四八年二月五日まで(四四か月間)に受けるべき給与総額は、別紙三給与総額目録記載のとおりである。

5  申請人らは、被申請人に対し、労働契約存在確認等の本案訴訟を提起すべくその準備中であるが、前記賃金を唯一の収入として生活を維持している労働者であって、賃金の支払いがないまま本案判決の確定を待っていては、その生活上回復し難い損害を受けるおそれがある。なお、本申請に至る三年九か月間は、労働組合等から受けるわずかのカンパ、親類、友人らからの借金、失業保険の仮給付により生活を支えてきた。

6  よって、申請人らは、昭和四八年三月三日京都地方裁判所に、「被申請人は、申請人らを従業員として取扱い、申請人らに対し、別紙三給与総額目録記載の金員並びに昭和四八年二月六日以降本案判決に至るまで、毎月末日限り、別紙二平均賃金目録記載の金員を支払え。」との趣旨の仮処分申請(昭和四八年(ヨ)第一三一号)をなし、同年四月五日、同裁判所において、「申請人らが被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。被申請人は申請人らに対し、別紙目録四記載の金員を即時に、昭和四八年四月以降本案判決に至るまで別紙目録五記載の金員を毎月末日限り、それぞれ支払え。」との仮処分決定を得たので、その認可を求める。

二  申請の理由に対する被申請人の認否及び抗弁

1  認否

(一) 申請の理由1ないし3の事実は認める。

(二) 同4、5の事実は争う。なお、申請人らは、解雇予告手当、退職金、失業保険の仮払金等の収入を得ている外、被申請人が廃業後、伏見教習所の建物を占拠し自ら営業主体となって自動車教習所事業を経営しており、申請人一人あたり一か月一〇万円以上の収入があると推定され、さらに、右建物を各種催物に貸与して若干の収入を得ている。したがって、本件仮処分の必要性はない。

2  被申請人の抗弁

(一) 被申請人は、申請人らに対し、昭和四四年六月五日、廃業に伴い、解雇予告手当を支払い、解雇する旨の意思表示をした。廃業の理由は次のとおりである。

(1) 事業経営の経済的基盤の喪失

ア 一般に、自動車教習所の経営は、自動車が昭和三〇年代後半において、非常な速度で普及したことに伴い、免許取得希望者が急増したため、好調であったが、昭和四〇年代に入って自動車の普及及び免許取得希望者の増加速度が落ちると、振わなくなり、本件廃業の頃は、教習所事業の経営が困難な時代であった。

イ 被申請人は、昭和四一年に、それまで借地であった伏見教習所の敷地を借入金によって購入したが、右借入金の返済及び利息の支払が経営に決定的な負担を加え、損失を累積させることとなった。

ウ そして、昭和四三年八月を境として、被申請人の収支計算は急激に悪化し、支出が収入を大巾に上廻る月が続いた。

エ そこで、被申請人は、申請人らの属する総評全国一般労働組合、全自動車教習所労働組合(以下全自教又は組合ともいう。)に対し、経済的窮状を繰返し訴えると共に、売上収益の拡大、経費の節減等をはかったのであるが、組合の残業拒否及び職場放棄などによる収入金額そのものの減少のほか、それに伴う教習生に対する多額の賠償金支払などの事情が重なり、致命的な不利益を生じた。

オ そこで、被申請人としては、経営を継続するために、人件費等の経費の増大を防止し、労使関係を安定させるなどして、経営基盤を安定させ、企業としての競争力をつけることが必要であった。

カ そのため、昭和四四年五月三一日、組合に対し、企業の再建案を示し、これが受け入れられなければ、企業を継続することは不可能であると判断した。

キ しかるに、組合は、これを拒否した。

(2) 人的要素の欠如

公安委員会の行政指導によれば、指定自動車教習所であるためには、法令指導員、構造指導員、技能検定員につき、各二名以上の資格者を有することを要件とされているが、廃業当時これを欠如した。

(3) 経営意欲の喪失

右のような企業の経営状態であり、企業の将来性もなく、組合の協力と理解が得られなかったので、被申請人代表者は遂に経営意欲を喪失した。

(二) 申請人らは、技能指導員であって、自動車教習所の指定が解除されれば、本来的にその職務を行ないえなくなるのであるから、少なくとも、本件指定自動車教習所の指定が解除された昭和四四年六月一七日以降本件解雇は効力を生じている。

(三) 仮に右主張が認められないとしても、被申請人は、昭和四四年六月一七日指定自動車教習所の指定解除を受け、同年一〇月二七日解散登記をなし、同年一一月四日伏見教習所敷地を京都近江鉄道タクシー株式会社に売渡したのであって、現在企業廃止の状態にあるから、申請人らに対し予備的解雇の意思表示をなす用意があるので、従業員の地位確認及び今後の賃金支払を求める被保全権利は極めて乏しく、不適当である。

(四) 本件において、仮の地位を定め、「従業員として取扱わねばならない」と命じる以上、被申請人において履行可能の状況でなければならない。ところが、被申請人は、前記のとおり、すでに企業を廃止しており、申請人らを就労させることは客観的にも不可能であるから、かかる仮処分命令は許されない。したがって、また、その地位に伴って将来の賃金の仮払を命ずることは、永久に仮払を命ずることになり(企業が存続している場合は、使用者は仮処分命令に応じて解雇者を就労させて、賃金の空払を回避しうるのであるが、本件のような場合はそれができない。)、許されない。

仮に、将来の賃金の仮払が認容されるとすれば、それは申請人らが転職するに必要な準備期間(せいぜい四、五か月間)に限られるべきである。

(五) 本件仮処分申請の日(昭和四八年三月三日)から二年前以上の賃金請求権は、時効によって消滅(労働基準法一一五条)しており、被申請人は、昭和四八年五月二一日の本件第一回口頭弁論において右時効を援用した。

(六) 申請人らは、昭和四四年以来、自主教習の名の下に営業行為を続け、多額の利益を得ているのであって、本件仮処分命令によって申請人らに対する昭和四九年一月末日までの合計八〇〇万円の仮払金が支払われたことを合わせ考えれば、これ以上の仮処分の必要性は存在しない。そこで、仮処分決定後の事情の変更による仮処分の取消を求める。

三  被申請人の抗弁に対する申請人らの認否及び再抗弁

1  認否

被申請人の抗弁事実中、被申請人が、申請人らに対し、昭和四四年六月五日、解雇する旨の意思表示をした事実を認め、その余の事実は争う。

2  申請人らの再抗弁

(一) 不当労働行為

(1) 申請人らは、本件解雇の意思表示があった当時、全自教の組合員であり、全自教平安分会(以下分会ともいう。)に属していた。

(2) 昭和四三年八月七日、公然化した分会は、次々と組合活動の成果を勝取った。すなわち、組合活動の自由、事前協議制、組合事務所及び掲示板の設置、労働時間の短縮、基本給一律四万五〇〇〇円の設定、時間外割増賃金の支給等を認めさせた。

(3) 被申請人は、全自教の組合活動を嫌悪し、組合の弱体化、壊滅の攻撃をしかけてきた。すなわち、会社代表取締役佐藤一道(以下佐藤という。)は、朝礼で組合を誹謗する演説を行ない、申請人長谷川、同石橋に対し、定年制にすると脅迫して組合脱退を強要し、申請人佐治に組合脱退工作を頼み、さらに、全自教委員長新島重吉に対し、買収工作を行なった。そして、これら工作に失敗するや、昭和四三年一一月には、会社の資金を提供し、会社の部課長らをして肩書を返上させたうえ、会社の意のままになる平安自動車教習所労働組合(以下第二組合という。)を結成させ、これを利用して、分会に対し、同年年末一時金を差別支給するという攻撃をかけてきた。

(4) しかし、全自教組織破壊のための、右のような攻撃はその目的を達することができず、一方全自教は、第二組合に対しても昭和四四年の春闘共闘説得を行ない、ついに、第二組合は全自教と共闘を望むまでになった。しかも、当時第二組合の上部団体であるハイヤー、タクシー協議会が全自交(全自交は全自教と協力、協同の関係にあった)に統一され、全自交の指導により第二組合が全自教に統一される気運が急速に生じた。

(5) そこで、佐藤は、平安分会を第二組合もろとも企業外に排除する方法、すなわち、伏見教習所の偽装閉鎖以外にないと決意するに至った。

(6) 佐藤は、まず、右閉鎖の準備活動に着手し、昭和四四年四月中頃から、意識的に免許センター(伏見教習所及び佐藤が経営する平安西賀茂自動車教習所共通の入所受付事務所)にくる申込者をすべて平安西賀茂教習所に入所させ、同年五月になると、アルバイト指導員を解雇する一方、伏見教習所にくる入所生にも入所を断り始め、同月三一日には、「入所を中止する」という掲示を貼り出し、これ以降は教習生の入所を完全に拒否した。こうして、佐藤は伏見教習所の閉鎖準備行為をし、これに抗議する全自教の度重なる団交要求を拒否し続け、突如、事前協議制を無視して、再建案と閉鎖案なるものを平安分会及び第二組合に提示してきた。この案の内容は「賃金体系を組合公然化前に戻す。組合は二、三年は昇給、一時金の要求をしない。一切の争議行為をしない。これらの全条件を全自教及び第二組合が約束しないときは企業を閉鎖する。」というもので、偽装閉鎖の意図に基づく、組合の受け入れることのできない条件を押しつけ、組合がこれを拒否することを口実に企業閉鎖に持ち込もうとするものであり、右両組合の会社に対する回答期限は同年六月五日であった。

(7) 佐藤は、同年六月に入っても全自教との団交を拒否し、他方第二組合員に対して、同月三日「全自教が金を全部持ってゆくから、君らはいまのうちにやめろ。そうすれば、君らに支払う退職金は全部出せる。」とおどし、退職を強要した。そして、回答期限である六月五日に初めて全自教との団交に応じた。しかし、その席でも佐藤は「お前ら虫けらや。俺の会社を潰そうとやろうと勝手や」等の暴言を連発し、組合を全く侮辱した態度のなかで、本件企業閉鎖、全員解雇を一方的に宣言したのである。

(8) 以上のとおり、被申請人は、分会公然化以後の組合活動をことごとく嫌悪し、分会組織を一挙に完全に壊滅せんと意図して全員解雇をなしたもので、申請人らに対する本件解雇は労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為であり、憲法二八条に違反し、公序良俗に違反するもので無効である。

(二) 本件解雇は、労働条件の改変は労使協議決定の上実施する旨の協定に違反し無効である。すなわち、被申請人と全自教との間にかわされた昭和四三年八月八日付協定書によれば、「すべて労働条件の改変に関しては予め労使協議決定の上実施する」との条項(同協定書四項)があるところ、佐藤は、前記のように、突然、およそ労働組合としては承服できない内容の再建案、閉鎖案なるものを提示し、昭和四四年六月五日に一度団交に応じたものの、解雇条件等については組合と一回の協議すらしようとしなかったのであるから、右協定に違反し、解雇は無効である。

四  申請人らの再抗弁に対する認否

すべて争う。

第三疎明≪省略≫

理由

一  申請の理由(第二の一)1ないし3の事実及び被申請人が昭和四四年六月五日、申請人らに対し、解雇する旨の意思表示(以下本件解雇という。)をした事実は当事者間に争いがない。

二  まず、従業員としての仮の地位を定める申請について判断する。

およそ、「従業員たる地位を有することを仮に定める。」との仮処分命令(従業員として就労させたうえ、所定の給料を支払うなど従業員として扱うこと。)は、いわゆる任意の履行を求める仮処分であるが、債権者が従業員たる地位を有するとの点について一応の公権的判断が示されることにより、多少なりとも債務者の任意の履行が期待できる場合には無意味ではなく、法律上も許容されると解される。

しかしながら、もし任意履行が全く期待できないということになれば、右仮の地位を定める仮処分申請は、被保全権利及び保全の必要性の有無にかゝわらず、仮処分申請じたいの利益を欠く不適法なものとして、却下を免れないというべきである。

そこで、以下この点について検討する。

1  ≪証拠省略≫を総合すると、被申請人代表者佐藤は、その理由はともかくとして、昭和四四年六月五日、伏見教習所の経営を続ける意欲を喪失し、同教習所における教習を停止した事実が認められる。

2  ≪証拠省略≫を総合すれば、本件解雇当時、伏見教習所は、行政指導によって、管理者一名、法令、構造の各指導員、技能検定員は、それぞれ二名以上が必要とされており、管理者として佐藤、法令指導員として、佐藤、杜下昭三、渋谷八郎、杉本弥助、山田政治の五名、構造指導員として、西村孝之、前記杉本、堀井通正の三名、技能検定員として、足立孝志、山野時男、柳淳治、藤永祐次の四名が登録されていたことが認められる。

そして、≪証拠省略≫を総合すると、佐藤は昭和四四年六月九日、管理者を返上し、さらに、右指導員、検定員中、全自教の組合員である西村孝之を除く全員は、同年六月中ごろ退職している(佐藤は清算人として残っている。)ことが認められる。

3  ≪証拠省略≫によれば、伏見教習所は、昭和四四年六月九日、指定自動車教習所返上届を公安委員会に提出し、同月一七日、指定を解除された事実が認められる。

4  ≪証拠省略≫によれば、被申請人会社は、昭和四四年一〇月二〇日解散し、同月二七日付で、その旨の登記がなされている事実が認められる。

5  ≪証拠省略≫によれば、被申請人は、昭和四四年一一月四日、伏見教習所の敷地及び建物、電話等一切を、京都近江鉄道タクシー株式会社に二億三五〇〇万円で売却し、敷地については、昭和四五年一二月二八日、所有権移転登記がなされている事実が認められる。

以上の各事実に、弁論の全趣旨によって認められる伏見教習所の事業が昭和四四年六月五日以降現在に至るまで、約四年八か月間停止され、被申請人会社による営業が行なわれていないこと及び企業再開を企てている事実が全く認められないことを総合すると、被申請人は、昭和四四年六月五日限り伏見教習所を真実廃止することを決定したもので、企業の継続ないし再開の意思は毛頭なく、少なくとも、同教習所の敷地及び建物等の一切を売却した昭和四四年一一月四日の時点において、同教習所の従業員を全く必要としない状態になったと認めるのが相当である。

そうだとすれば、右昭和四四年一一月四日の時点において、被申請人が申請人らを従業員として取扱うことは、主観的にも、客観的にも不可能であって(企業廃止の状態にある。)、もはや被申請人の任意履行を期待しえないことが明らかであり、他に申請人らが申請の利益を有することについて特段の事情が認められない以上、従業員としての仮の地位を定める仮処分は、申請の利益を欠く不適法なものといわなければならない。

三  次に賃金仮払の申請について判断する。

1  およそ、労務者は、通常の場合、労務の提供を終った後でなければ賃金を請求できないのであるが、使用者(債権者)の責に帰すべき事由によって労務の提供ができなかったときは、民法五三六条二項により、労務の提供を終らなくても賃金を請求することができる。そして、右使用者の責に帰すべき事由とは、就労を拒否することが、法律上非難される場合をいうと解すべきである。

本件についてこれをみるに、伏見教習所について、昭和四四年一一月四日の時点で企業が廃止された事実は既に認定したところであり、被申請人が申請人らの組合活動を嫌って企業を廃止したものであるとしても、真に企業を廃止する意思である場合には、憲法二二条(職業選択の自由)に基づいて企業開始の自由、企業廃止の自由が認められており、かつ企業廃止の自由は廃止の目的や動機によって影響をうけるものではないと考えられ、右企業の廃止は、道義上問題はあるとしても、不当労働行為であるなどの理由で、許されないというわけのものではなく、右廃止に伴い、その従業員を解雇することもまた適法になしうると考えるべきである。そこで、右企業の廃止に伴い、解雇の意思表示をすることなく、就労を拒否することが、法律上非難される場合に該当するか否かについて考えてみるに、企業の廃止とは、労働と物的生産手段の結合を解くことを意味し、右企業廃止がなされれば、即就労を受けいれることが不可能な状態を生ずるのであるから、右企業の廃止が適法になしうるということは、就労を拒否することもまた法律上は許容されるものであるというべきであり、したがって、使用者の責に帰すべき事由により就労不能になったとはいえない。

そうだとすれば、申請人らは企業が廃止された昭和四四年一一月四日の翌日以降の賃金請求権を有しないといわなければならない。

2  そこで、申請人らの昭和四四年六月六日以降同年一一月四日までの間の金員仮払請求について判断する。

(一)  申請人らの主張によれば、解雇当時、申請人らは、それぞれ別紙二記載の平均賃金を得ていたというものであるところ、弁論の全趣旨によれば、本件仮処分によって、申請人らは、現在(昭和四九年一月末日)までに、別紙六記載の金員を受領していることが認められる。

(二)  ところで、既に認定したように、昭和四四年一一月五日以降は、申請人らにおいて、金員仮払請求の被保全権利を有しないところ、右期日以降の仮払金として受領した金額は、少なくとも、申請人らの昭和四四年六月六日以降同年一一月四日の間に受領すべき賃金額を満たすものであると認められる。

(三)  そうすると、現時点において、右期間の賃金請求権を被保全権利とする金員仮払請求は、保全の必要性を欠くものというべきである(なぜならば、仮処分命令によって、右期間の仮払金として、履行を命ぜられた金員の支払いをもって、その被保全権利あるいは保全の必要性の消滅事由とはなしえないが、昭和四四年一一月五日以降の金員仮払分は、被申請人において返還を求めうべきものであるところ、右金員を保有する申請人らは、もはや右期間の賃金を被保全権利とする金員仮払請求を求める保全の必要性を欠くと解されるからである。)。

四  以上のとおり、申請人らの本件仮処分申請は、申請の利益あるいは被保全権利、又は、保全の必要性のいずれかを欠き、また、保証金を立てさせて右疎明にかえることも相当でないので、その余の判断をするまでもなく理由がないことが明らかであるから、先に申請人らの右申請を容れてなした前掲仮処分決定を取消し、本件仮処分申請を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官川端敬治、同松本信弘は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 上田次郎)

<以下省略>

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