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京都地方裁判所 昭和48年(行ウ)13号 判決 1974年7月19日

原告 吹上祐一

被告 大阪国税局長 外二名

訴訟代理人 井上郁夫 外八名

主文

本件訴えはいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告中京税務署長が、原告に対して昭和四四年三月一三日付でなした、原告の昭和四〇年分、同四一年分、同四二年分の各所得税の総所得金額をそれぞれ金一九五万五、三九〇円、金三一七万六、五九〇円、金二九三万二、〇四三円と更正した処分のうち、それぞれ金四五万九、〇〇〇円、金七六万四、〇〇〇円、金一一七万円を超える部分及び右各年分所得税の過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  被告大阪国税局長が昭和四五年四月二一日付で原告に対してなした、昭和四〇年分、同四一年分、同四二年分の各所得税更正決定処分に対する審査請求事件における原告の弁明書副本送付請求及び書類閲覧請求についての決定を取消す。

3  被告国税不服審判所長(原告は大阪国税不服審判所長と表示するが、国税不服審判所長の誤記と認める。)が昭和四八年七月一三日付で原告に対してなした、昭和四〇年分、同四一年分、同四二年分の各所得税更正決定処分に対する審査請求についての裁決を取消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文と同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の被告らに対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  <省略>

2  <省略>

3  そこで、原告は昭和四四年一二月一一日付で被告大阪国税局長に対して審査請求をなし、あわせて同日付で同被告に対し、行政不服審査法二二条、 三三条二項に基づき、原処分庁たる被告中京税務署長の弁明書副本の送付及び更正決定処分の理由となつた事実を証する書類の閲覧の各請求をしたところ、被告大阪国税局長は、同四五年四月二一日付で原告に対し、被告中京税務署長に弁明書の提出要求をしていないからその副本を送付できない旨回答し、また、右書類閲覧請求に対しては、「更正及び加算税の賦課決定決議書」「異議申立決定決議書」のみについてこれを許可した。

しかし、被告大阪国税局長としては、原告の審査請求が期間徒過による不適法な場合とか、審査請求を全部認容する場合など特別な事由がある場合以外は、弁明書の提出要求を被告中京税務署長にすべきであつて、被告大阪国税局長が、その提出要求をしなかつたことは、前記法条に違反するばかりか、審査手続において最も重要な、争点の整理、確定をしようとしないものであつて行政不服審査制度の趣旨に反する。また、被告大阪国税局長が原告に閲覧を許した前記各書類はいずれも更正処分の理由となつた事実を証するものではなく、このような書類に限つてなされた閲覧許可は実質的に閲覧拒否に等しいものであつて、違法である。

4  被告大阪国税局長に対する原告の前記審査請求は、国税通則法の一部を改正する法律(昭和四五年法律第八号)の施行に伴い、国税不服審判所に引き継がれたが、同被告は昭和四八年七月三一日付で原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした。

しかし、被告国税不服審判所長のなした審査手続には次に述べる違法取消事由がある。

(一) 被告大阪国税局長は、前記のとおり、被告中京税務署長に弁明書の提出を求めないで右審査を行い、原告の右弁明書副本の送付請求に応じず、また、原告の書類閲覧請求に対し、更正処分の理由となつた事実を証する書類の閲覧を許さなかつた。これは、行政不服審査法二二条、 三三条二項に違反するものである。

(二) 原告は、昭和四四年一二月一一日付で被告大阪国税局長に対し、行政不服審査法二五条一項に基づく意見陳述の機会を与えるよう申立をしたところ、同被告は昭和四五年四月二一日付で原告に対し同月二八日に意見陳述を聞く旨通知してきた。ところが、右通知は同月二七日夜原告に送達されたため、当日は原告の都合がつかなかつた。そこで、原告は同月二八日付で意見陳述期日変更申請をしたが、結局意見陳述の機会は与えられなかつた。これは同法条及び国税通則法八四条一項に違反する。

(三) 前記国税通則法の改正により、被告大阪国税局長から原告の右審査請求事件を引き継いだ被告国税不服審判所長は、その審査手続に前記(一)、(二)の各違法事由があることと知りながら、これを是正する処置をとらず、担当審判官が原告と一度も面談しないまま、昭和四八年七月三一日付で原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(四) 以上のとおり、右裁決は、瑕疵ある手続に基づき、なんら実質的審理を経ない違法のものである。

5  そこで、原告は、請求の趣旨記載のとおりの判決を求めるため本訴に及んだ。

二  被告の本案前の主張及び請求原因に対する認否

1  被告の本案前の主張

(一) 原告の被告中京税務署長及び同国税不服審判所長に対する訴えは、いずれも行政事件訴訟法一四条に規定する出訴期間を徒過したもので不適法である。すなわち、原告は、被告中京税務署長のなした更正処分等を不服として被告国税不服審判所長(被告大阪国税局長から引継いだもの)に審査請求したところ、同被告は、昭和四八年六月二九日付で請求棄却の裁決をし、その裁決書謄本は同年八月一日原告に到達した。これに対し、原告が本件訴えを提起したのは昭和四八年一一月三日であるから、本件訴えは、裁決書謄本が原告に送達された日、すなわち、原告が裁決のあつたことを知つた日から三ヶ月の期間を徒過して提起されたものである。

(二) 原告の被告大阪国税局長に対する訴えも同じく不適法である。すなわち、原告の弁明書副本の送付請求、書類閲覧請求及びこれに対する被告大阪国税局長の回答ないし通知の性質は、いずれも審査請求事件の本体についての審判である裁決処分を目標とし、これを達成する過程における手続の連鎖の一環たる行為であつて、当該審査手続の終局処分である裁決の前提たる手続的意味及び効果を有するにすぎない。したがつて、原告の右請求に対する被告大阪国税局長の行為の適否については、当該審査請求事件の手続に関する瑕疵として、その裁決の取消訴訟における争点となしうる底のものであつて、行政事件訴訟法三条にいう抗告訴訟の対象たるべき処分性を有しない。

仮に、被告大阪国税局長の行為に処分性が認められるとしても、裁決の取消請求は出訴期間の徒過により不適法であるから、裁決に至る審査手続過程の行為をとり出して、その取消を求める利益はない。

(三) 以上により、原告の訴えは、いずれも不適法であるから却下すべきである。

2  請求原因に対する認否

(一) <省略>

(二) <省略>

(三) 請求原因3の事実のうち、原告主張の日に原告が被告大阪国税局長に対して審査請求をし、併せて、同日付で同被告に対して行政不服審査法二二条、 三三条二項に基づき、被告中京税務署長の弁明書副本の送付と書類の閲覧を請求し、これに対し、被告大阪国税局長が被告中京税務署長に弁明書の提出要求をしていないから、その副本を送ることができないと回答し、かつ、原告主張の各書類の閲覧を許可したことは認めるが、その余は争う。

(四) 請求原因4前文の事実は認めるが、審査手続に違法取消事由があるとの主張は争う。

同4の (一)の事実については、さきに同3の事実についてした認否と同様である。

同4(二)の事実のうち、原告主張の日に原告が被告大阪国税局長に意見陳述の申立をし、これに対して同被告が意見陳述を聞く旨通知したこと、及び原告が意見陳述期日変更申請をしたことは認めるが、意見棟述の機会が与えられなかつたとの主張は争う。

同4の(三)の主張は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  原告の被告中京税務署長及び同国税不服審判所長に対する訴えについて

原告は、本件訴えにおいて、被告中京税務署長に対し本件更正処分等の取消を、被告国税不服審判所長に対し、右更正処分等についての原告の審査請求に対する裁決の取消を、それぞれ求めている。そこで、原告の本件訴えが適法であるか否かにつき判断するに、国税通則法七五条、 一一五条、行政事件訴訟法一四条一項によれば、税務署長の課税処分に対する不服申立方法として、異議申立てと審査請求が認められ、審査請求についての裁決を経た後でなければ、右処分の取消を求める訴を提起できず、その訴えは審査請求に対する裁決のあつたことを知つた日から三ヶ月以内に提起しなければならないものと定められているところ、本件審査請求に対する裁決書の謄本が昭和四八年八月一日原告に送達されたとの被告主張事実は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべく、この事実に照らすと、原告は同日右裁決のあつたことを知つたものと推認することができる。そして、本件訴訟が同年一一月三日に提起されたことは当裁判所に顕著な事実であるから、原告の右被告両名に対する本件訴えがいずれも右出訴期間経過後に提起されたものであることは明らかである。そうすると、原告の被告中京税務署長、同国税不服審判所長に対する本件各訴えは、いずれも訴提起の要件を欠く不適法な訴えとして却下を免れない。

二  原告の被告大阪国税局長に対する訴えについて

原告は、被告大阪国税局長に対して行政不服審査法に基づく弁明書副本の送付請求及び更正処分の理由となつた事実を証する書類の閲覧を請求したが、前者については拒否の回答をし、後者については実質的に拒否と同じ通知を原告に対してしたとして、その回答及び通知の取消を求めている。そこで判断するに、審査請求人である原告の被告大阪国税局長に対する右各請求及び同被告のこれに対する判断は、いずれも審査請求事件の本件についての終局処分である裁決に向けられた一連の手続的行為の一環を組成する行為として、これと連鎖関係にたつ他の手続的諸行為とあいまつて、審査手続の円滑な進行と裁決の適正公平を担保することをその本来の目的とするものであるから、このような行為の違法については、裁決の前提をなしこれと不可分の関係にある審査手続に関する瑕疵として、当該裁決の取消しを求める訴訟において争うことができる一方、右行為の効力についての紛争を、個々的にその終局目標たる裁決と切り離して独立の訴訟的救済の対象とすることは、かえつて審査手続の円滑な進行を妨げその安定を脅やかす結果を招くことになつて、適当でない、そして、行政不服審査法が同法に基づく処分につき行政上の不服申立てを許さない建前をとつている(同法四条一項本文)のは、その行政的救済についてこのような不合理を排除しようとしたものにほかならないのであるから、右処分に該当し行政上の不服申立てすら許されない被告大阪国税局長の本件各拒否行為の違法は、当該審査請求事件の終局処分たる裁決の取消を求める訴訟において、その審査手続に関する瑕疵としてこれを争いうるに止まり、右裁決と独立して抗告訴訟の対象となりえないものと解するのが相当である。そうすると、原告の被告大阪国税局長に対する本件訴えは、抗告訴訟の対象たるべき処分性を有しない同被告の行為についてその取消しを求めるものであつて、不適法な訴えとして却下を免れない。

三  よつて原告の被告らに対する本件各訴えはいずれも不適法として却下することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 谷村允裕 安原清蔵)

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