京都地方裁判所 昭和49年(ワ)1077号 判決 1975年8月22日
原告 城下重男
右訴訟代理人弁護士 上西喜代治
被告 千切屋織物株式会社
右代表者代表取締役 鈴木竹四郎
右訴訟代理人弁護士 前堀政幸
同 前堀克彦
主文
被告は原告に対し金五〇六万円、およびこれに対する昭和四九年一〇月一〇日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は金一五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文一、二項同旨の判決、並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
一 被告は、昭和二四年六月三日絹人絹織物の製造販売、生糸等の売買、損害保険代理業等を行うことを主たる目的として設立された株式会社であり、原告は昭和二五年八月から昭和四八年一二月まで被告会社に雇われ、その社員として会計係を担当してきたものである。
二 被告会社には就業規則があり、その第二二条によると、イ、勤続年数満五年以上の従業員にして退職または死亡したときには退職金を支給する。ロ、その額は勤続年数満二〇年以上の者には勤続年数一年につき退職当時の本給の月額の二ヶ月分とすると定められている。
したがって原告のうくべき退職金は退職当時の本給が月額一一万円であり、その勤続年数は二三年余であったから、これによって計算すると一一万円×二×二三=五〇六万円となる。
三 よって右金五〇六万円、およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年一〇月一〇日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。
と述べ、被告の抗弁に対し、
一 原告が昭和三八年六月二七日被告会社の監査役となり、以後退職時まで監査役であったことは認める。
二 しかしそれは被告会社代表者須磨勇作の指示に従った名目上のもので、監査役になったからといって、仕事の内容、給与その他の待遇が変ったわけでなく、退職に至るまで同じ状態が続いたのである。したがって原告は監査役就任後も被告会社の一社員であり、現に監査役就任時に社員としての退職金は支給されていない。
と述べ(た。)≪証拠関係省略≫
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として、
一 請求原因第一項については、被告会社の設立年月日および目的、原告が昭和二五年八月から被告会社の会計係として勤務していたことは認める。しかし原告は昭和三八年六月二七日に被告会社の監査役に就任し、昭和四八年一二月退職時までその地位にあった。
二 同第二項については、被告会社に原告主張の就業規則給与規定があることは認める。しかし原告が被告会社の従業員として勤続したのは、昭和二五年八月から昭和三八年六月までの一二年間であり、右給与規定第二二条一号によると、勤続年数満一〇年以上二〇年未満の者は勤続年数一年につき退職当時の本給の一ヶ月半分と定められており、原告が従業員を退職した昭和三八年六月当時の原告の本給は、月額三万三、〇〇〇円であったから、原告が得るべき退職金額は三万三、〇〇〇円×一・五×一二=五九万四、〇〇〇円である。なお、昭和四九年六月二八日に開かれた被告会社の第二五期定時株主総会において、原告に対する退職慰労金の件につき取締役会に一任することが決議され、同取締役会は同年八月五日原告に対し退職慰労金として、金一〇〇万円を贈呈する旨決定した。
と述べ(た。)≪証拠関係省略≫
理由
一 被告が、昭和二四年六月三日絹人絹織物の製造販売、生糸等の売買、損害保険代理業等を行うことを主たる目的として設立された株式会社であること、原告が昭和二五年八月から昭和四八年一二月まで被告会社に勤務していたこと、担当業務は会計係であったが、その間昭和三八年六月二七日監査役に就任以後退職時までその職にあったこと、被告会社には就業規則があり、その第二二条に、イ、勤続年数満五年以上の従業員にして退職または死亡したときには退職金を支給する、ロ、その額は勤続年数満二〇年以上の者には勤続年数一年につき退職当時の本給の月額の二ヶ月分とする、旨の定めがあること、はいずれも当事者間に争がない。
二 ≪証拠省略≫によると、被告会社の従業員は原告が退社した当時一五名であって、代表取締役の須磨勇作、取締役鈴木竹四郎、および原告を除いた一三名は、夜警、糸繰り、織工であって、会社の事務は須磨が販売と仕入れ、鈴木が納品、原告が会計、庶務を分担としており、このことは原告が監査役に就任した前後を通じて変らないこと、原告の監査役としての仕事は、年に一回自分のした会計事務を監査して報告書を作成して株主総会に提出することだけであること、したがって原告に支払われる給与は前記会計、庶務の労務に対する報酬であること、監査役に就任しても、原告の給与その他の待遇が格段に向上したことはなかったこと、がそれぞれ認められる。右認定を左右するにたる証拠はない。
三 本件の争点は労働基準法に規定する就業規則に関し、被告会社の就業規則の退職金条項が原告に適用ありや否やに存するものであるところ、同法にいう労働者とは、同法の適用をうける事業に使用される者で、賃金を支払われる者であることはその第九条により明らかである。原告は被告会社を代表する権限を有せず、業務執行権を有する取締役会の構成員でもなく、また≪証拠省略≫によると、代表取締役須磨勇作の指揮命令によって庶務、会計の事務に従事していたことが認められるから、事業に使用される者であることに相違なく、また前記事務の労務に対し報酬が支給されていたものであることは前に認定したとおりであるから、賃金を支払われる者であり、労働基準法にいう労働者である、というべきである。したがって被告会社の就業規則の退職金条項が原告にも適用あること明らかである。
もっとも≪証拠省略≫によると、原告に支給される報酬は、須磨、鈴木の分を合せて一年分の総額が毎年株主総会で決定されることが認められるが(なお、右各証拠によると金額の割振は須磨が決定していたもので、一〇年間に三回位金額が引上げられたことが認められる。)、右事実によるも前記認定を左右するにたる証拠はない。≪証拠判断省略≫
四 ≪証拠省略≫によると原告の退職時の本給は金一一万円であることが認められ(≪証拠判断省略≫)原告の在職期間が二三年余であることは計数上明らかであるから、前記就業規則第二二条を原告に当てはめると、原告の退職金は金五〇六万円となる。そうだとすると被告は原告に対し金五〇六万円、およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな、昭和四九年一〇月一〇日より支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある、というべきであるから、その支払を求める原告の本訴請求はすべて理由がある。よってこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 野田栄一)