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京都地方裁判所 昭和50年(ワ)349号 判決 1976年9月16日

原告

末谷開広

原告

志水鈴江

原告

山田孝顕

右原告三名訴訟代理人

冨島照男

外一名

被告

大正海上火災保険株式会社

右代表者

平田秋夫

被告

洛陽交運株式会社

右代表者

粂田禎雄

右被告二名訴訟代理人

宮原守男

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張<中略>

二、交通事故の発生(以下本件事故という)

亡一芳は次の交通事故で死亡した。

1  発生日時 昭和四八年四月二日午前一時五五分ころ

2  発生場所 大津市富士見台一の一五先路上

3  第一加害者 普通貨物自動車(岐一一う一〇八八号)

右運転者 訴外細野和政

4  第二加害者 普通乗用自動車(京五五あ二九八五号)

右運転者 訴外谷口清

5  被害者 亡一芳

6  態様と結果 2記載道路を歩行中の一芳を前記両加害車両が相前後してはねとばした上、轢過し、亡一芳は即時同所において死亡した。

<後略>

理由

一請求原因一の1ないし5の事実は当事者間に争いがない。

右争いない事実及び<証拠>によると次のとおり認められる。

(1)  本件現場は東南の草津方面から北西の京都方面に通ずる直線の国道一号線上で両側の歩道を徐き巾員約10.5米の道路である。当時は深夜であるが付近にモーテルがあり、そこの広告看板灯等のため薄暗い状況であつた。ひばりモーテルはその道路の西側にある。事故はこのひばりモーテル前の京都方面に向う車線上で起つた。

(2)  亡一芳は昭和四五年末バイクに乗りダンプカーに衝突し左大腿骨を骨折し八ケ月余り滋賀病院に入院した後同四八年二月から近江電設の電工として働いていた者である。同人は事故の前日夕方から大津市柴屋町のノンノンというスナツクで飲んでいたが午後九時四五分頃更に友人の岡田清吉、磯田要助を呼出し、三人でビール一〇本程を飲みついで浜大津の浜市でビール三本程を飲み翌二日午前一時三十分頃三人で前記ひばりモーテルに来た。ここに来てから亡一芳は酩酊状態にあり、足腰もふらふらで吐き始めていたので岡田と磯田が背中をさすつたり塩水を呑ませたりしたが益々苦しがるので岡田は亡一芳の家に電話をかけていたが通じなかつた。そのため磯田がタクシーで送り届けようと思い表ヘタクシーを探しに出た。岡田が電話を掛け磯田が表にタクシーを探しに出た後一芳は磯田の後を追い表へ出たがそのまま道路上に倒れうつ伏せになつていた。岡田も磯田も一芳が外に出たのは知らなかつた。午前一時五十分頃である。

(3)  当時第二加害車は約二〇米の間隔をおき、第一加害車に追随し、ともに時速約六〇粁で現場に来たがその二人の運転者はこの道路上に人間が横たわつているとは全く考えなかつた。

(4)  第一加害車の運転手細野和政は一芳の手前約二九米の地点に差しかかつた際前方に茶色様のものが横たわつているのを発見したが犬が横たわつているものと思い車輪で踏まないようそれを両側の車輪の間に挾むようにして通過しようとしたところ、一芳の身長からして挾んだまま進行することはできず、そのダブルの左後輪が一芳の背中を轢過した。このため一芳は肝臓、左腎臓、肺、心臓の各破裂、脊髄大動脈気管離断脳挫滅の致命傷を負つた。そこへ第二加害車が来て更に一芳の右大腿部を轢過し頭部に損傷は与えた。一芳は即死した。

(5)  一芳の頭部挫滅損傷は第一加害車と第二加害車の双方の衝突によるのであるが一芳の致命傷となつたのは肺、心臓の破裂と脊髄と大動脈の離断であり、第二加害車による右大腿部の轢過が致命傷ではない。

(6)  死亡後の血液検査によると一芳の血液一ml中にアルコール1.11mgが含まれていた。

(7)  細野和政は業務上過失致死罪で起訴された。

(8)  第二加害車はタクシー業者である被告洛陽交運の自動車で谷口清はその業務上の運転中であつた。

以上のごとく認められこの認定に反する証拠はない。

右認定事実によると第二加害車と第一加害車の車間距離は僅か二〇米に過ぎず、これを時速約六〇粁で進行していたものであり、人間の死亡は致命傷が与えられても瞬間的に死亡するとは限らず、多少の時間がかかるであろうから第二加害車が被害者を轢過した時に一芳が既に死亡していたのかどうかは正確には判らないが第一加害車は肺と心臓の破裂、脊髄と大動脈の離断という致命傷を与えたのであるからこの致命傷によつて即死したものとみてよく、それが即死でなかつたとしても間もなく死亡したこと、即ち第二加害車の轢過がなくても死亡したことは明らかであるから一芳の死亡と第二加害車の轢過との間に因果関係はないといわねばならない。況や第二加害車と一芳の死亡との間に通常困果関係があるという相当因果関係があるとみることはできない。

よつて爾余の判断を俟つまでもなく被告洛陽交運が保有者である第二加害車の轢過と一芳の死亡との間に困果関係があることを前提とする原告らの本訴請求は何れも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担に民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(菊地博)

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