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京都地方裁判所 昭和51年(行ウ)16号 判決 1979年4月27日

原告 天草開発株式会社

被告 右京税務署長

代理人 高須要子 森江将介 曽我謙慎 高田正子 ほか二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の法人税につき昭和五〇年六月三〇日付でなした

(一) 昭和四五年三月一日から同四六年二月二八日までの事業年度(以下「第三期」ともいう。)につき所得金額一、二五九、〇四七円、納付税額三五二、五〇〇円とする更正処分、

(二) 昭和四六年三月一日から同四七年二月二八日までの事業年度(以下「第四期」ともいう。)につき所得金額八六六、二四三円、納付税額二四二、四〇〇円とする更正処分、

(三) 昭和四七年三月一日から同四八年二月二八日までの事業年度(以下「第五期」ともいう。)につき、所得金額一、四七〇、〇二九円、納付税額三七九、七〇〇円とする更正処分のうち、所得金額一、三四二、五一九円、納付税額三四三、八〇〇円を超過する部分、

(四) 第三期につき一〇五、六〇〇円、第四期につき七二、六〇〇円の各重加算税賦課処分、

をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、旧商号を堀口左官工業株式会社といい、左官工事を業とする株式会社(同族会社)であり、第三ないし第五期の各事業年度の法人税について各法定期限までに左記表に記載のとおり青色申告書による申告をなしたのに対し、被告は昭和五〇年六月三〇日付で左記表記載のとおり更正をなし、かつ第三期につき重加算税一〇五、六〇〇円、第四期につき同七二、六〇〇円の各賦課決定処分をなした。

原告申告額(円)

更正額(円)

所得金額

納付すべき税額

所得金額

納付すべき税額

△三〇五、九五三

一、二五九、〇四七

三五二、五〇〇

八六六、二四三

二四二、四〇〇

一、三四二、五一九

三四三、八〇〇

一、四七〇、〇二九

三七九、七〇〇

原告は、右処分に対し昭和五〇年八月三〇日付で国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同五一年八月三一日付で棄却され、同年九月一三日その裁決書謄本の送達を受けた。

2  しかしながら、右各事業年度における原告の所得金額は右申告額どおりであり、被告の右各更正(以下「本件各更正」という。)は原告の所得金額を過大に誤認した違法があり、かつ、右各重加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)も違法であるから、請求趣旨記載どおり各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因一項の事実を認め、同二項を争う。

2  本件各更正の理由は左のとおりである。

(一) 被告は、本件各事業年度の所得金額について、後記のようにその取引先である足立住宅株式会社(以下単に「足立住宅」という。)よりの収入金の一部を除外して申告していたので、被告はこの除外金額の一部(第三期につき一、五六五、〇〇〇円、第四期につき六七五、三〇〇円、第五期につき一四〇、〇〇〇円)を原告の申告額に加算して原告の所得を左表のとおり認定したものである。

第三期

第四期

第五期

<1>

申告所得額

△三〇五、九五三

一、三四二、五一九

<2>

足立住宅からの収入

一、五六五、〇〇〇

六七五、三〇〇

一四〇、〇〇〇

<3>

繰越欠損金

二六六、四八三

三九、四七〇

<4>

未納事業税

七五、五四〇

五一、九六〇

<5>

所得金額

<1>+<2>+<3>-<4>}

一、二五九、〇四七

八六六、二四三

一、四七〇、〇二九

右表のうち<3>繰越欠損金は、原告が第三期につき三〇五、九五三円の欠損金が生じたとして、第四期に二六六、四八三円、第五期に三九、四七〇円の各繰越欠損金を損金に算入していたものを、第三期について欠損金が生じないので右各繰越欠損金の損金算入を否認し、原告の申告所得額に加算したものであり、<4>の未納事業税は、各前年度の更正所得金額にかかる事業税の未納額で当年度の損金に算入すべきものである。

(二) 原告は、昭和四四年一月頃から足立住宅との間で同社の行なう建売住宅建築工事のうち左官工事の請負工事取引を開始し、同四八年九月頃まで右取引を継続した。この間における請負工事の数も多く、取引金額も多額に及んでいるが、本件係争事業年度分の各月毎の取引金額は、別表被告主張額欄記載のとおりである。右取引は出来高払いの約でなされ、原告が出来高に応じて足立住宅に請負代金を請求した時に原告の債権は確定しているわけであるから、右表記載の各月に現実に支払いがなされたか否かにかかわりなく、原告の収入として計上すべきものである。

被告は、右表記載のうち四六年一月分の差額一、五六五、〇〇〇円、四七年二月分の差額六七五、三〇〇円及び四七年九月分の一四〇、〇〇〇円について、当該各期の原告申告にかかる収入金額を加算して本件各更正をなしたものである。

3  本件賦課決定の理由は左記のとおりである。

原告と足立住宅との前記取引については、原告会社取締役堀口俊治が専ら当つていたところ、同人は、多数回多額の取引のうち、前記の四六年二月及び四七年二月の各取引による収入金の一部を故意に原告会社に報告せずにこれを隠ぺいし、このため原告は右の分を収入金から除外して納税申告書を提出したものである。国税通則法六八条に規定する重加算税賦課要件たる隠ぺい、仮装は、法人の場合はその代表者本人の行為に限定すべき理由なく、取締役、監査役等がこれをなした場合にも、代表者がその事実を知るか否かにかかわりなく、これがあつたものとして重加算税を賦課すべきものである。

本件において第三、第四期分の更正決定により納付すべき税額(第三期三五二、五〇〇円、第四期二四二、四〇〇円)を基準に同法六八条一項所定の一〇〇分の三〇を乗じた額は、前記の各重加算税額となる。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  原告と足立住宅との左官工事請負取引において、第三ないし第五期中に原告が受領した請負代金は、別表原告主張額欄記載のとおりであつて、これ以外にはない。

2  原告と足立住宅との取引は、原告会社取締役堀口俊治が当つていた。俊治は、工事現場に駐在し、足立住宅からの注文を受け、見積書を作成し、工事材料を直接業者に注文して現場に納入させ、現場の職人の指導監督をし、出来高により請求書を作成して足立住宅に請求し、足立住宅からの支払いを受領していた。

原告は、月末に俊治から取引高と集金高の報告を受け、これに基づいて記帳し、右材料代、職人等工事関係者に対する給料の支払いは原告会社においてこれを行ない、俊治の報告と右支払金等の関係を検討し、この間に特段不合理な点がなかつたのでそのまま経過していたものであり、原告がその受取工事代金の一部を除外して記帳していたようなこともない。したがつて、原告が足立住宅より受取つたのは原告の記帳どおり(前記原告主張額と同じ)であつて、これ以外には存在しない。

3  被告が原告において収入金の一部を除外したと主張する分は、俊治個人と足立住宅との取引分である。

すなわち、俊治は、足立住宅の工事現場において、タイル工事とブロツク工事について個人として足立住宅から材料支給で請負つていた。このようなことは好ましいことではないが、当時重要な得意先である足立住宅に対するサービスとして原告も認めていた。しかしこれは原告とは全く関係のない工事であり、これによる収入金が原告の収入となるものではない。

また、本件第三ないし第五期当時、足立住宅関係の工事が多く、原告の職人だけではその受注分を消化できなかつた関係から、俊治は知人である下中良治に材料同人持ちで左官工事を下請させた。これも足立住宅に対するサービスである。俊治は右下請について中間利益をとらず、足立住宅からの支払金のうち下中の工事分はそのまま同人に支払つていた。これも俊治が個人としてなしたところであり原告に関係の無いものである。仮りにこれを原告の下請とみるならば、下中に支払つた金額は経費として減算されるべきであり、これなくして右の分を全額原告の収入とみるのは不当である。

俊治は、個人として足立住宅と請負契約をするに際して、その大部分を堀口左官という通称名でなしていた関係から、注文主たる足立住宅としては、原告会社との契約か俊治個人との契約か明確に区別せず、工事関係の請求書、領収書等についても右の区分が明確にされていないところもある。右の関係は、足立住宅と原告ないし俊治との関において、俊治の無権代理の問題が生じる余地があるとしても、右工事はいずれも完成し、注文主である足立住宅も異義なく工事代金の支払いを了しているのであるから、俊治の無権代理による原告と足立住宅との契約関係も終了しており、仮に俊治の無権代理が成立するとしても、この分の工事代金は結局俊治に帰するものというべきである。

被告が主張する四六年二月分の収入金に関してみれば、原告の受領分一、八二〇、七〇〇円については同月二七日付領収書、俊治個人の受領分一、五六五、〇〇〇円については同月一五日付領収書を各発行して区別されており、四七年二月分に関しても、同月二九日付の二通の領収書について原告の受領分は「堀口左官(株)」、俊治個人の受領分は「堀口左官」とその領収名義人を区別して記載し、四七年九月分の受領分については俊治の個人名で領収書を発行していることから、被告主張の分は俊治個人の収入となるものであり、原告の収入分と区別されていることは明らかである。

四  原告の反論に対する被告の再反論

俊治が原告とは別個に個人として足立住宅の工事を請負つていたこと、工事の一部を下中に下請させたとの原告主張を否認する。

原告が収入金より除外したと被告が主張している分は、いずれも、原告が足立住宅から継続して受注していた左官工事代金の一部であり、これを他の部分と区別する合理的根拠はない。足立住宅においても、右代金部分を他の代金と一括して原告との取引として処理、記帳しているところであり、右部分に関する原告発行の請求書、領収書等につき「堀口左官」、「堀口左官店」等他の場合と同様名義で発行している。また一部「堀口俊治」名義のものもあるが、他の場合にも同名義を用いているものもあり、右発行名義により会社か個人かの区別はつけられない。

第三証拠関係 <略>

理由

一  請求原因一項記載の事実は当事間に争いない。

二  (本件各更正の適否)

1  第三ないし第五期において、原告が足立住宅と同社の建売住宅等建築工事の左官工事を継続して請負い、この間足立住宅から原告に対して少なくとも別表原告主張額欄記載の工事代金が支払われたことは当事者間に争いない。

2  別表記載の双方主張額の差額中、昭和四六年二月分の一、五六五、〇〇〇円、同四七年二月分の六七五、三〇〇円、同年九月分の一四〇、〇〇〇円が原告の収入であるか否かが本件の主たる争点である。

原告は、足立住宅との請負工事に関しては、原告会社取締役堀口俊治が専らこれを担当しているが、この間に俊治は原告と関係なく個人として足立住宅から一部工事の請負をなし、また一部を下中良治に下請させ、右三口の工事代金は俊治個人の請負工事代金か下中へ支払つた下請工事代金であり、原告とは関係の無いものであると主張し、<証拠略>は右主張に添う趣旨の供述をなし、また原告の足立住宅関係の帳簿(<証拠略>)には右工事代金収入の記載がなされていない。

原告の帳簿に記載されていない点については、<証拠略>によると、原告と足立住宅との取引については、俊治が専ら担当し、原告会社の経理担当の取締役堀口初子(原告会社代表者の妻)が俊治の報告のみに基づいて右帳簿に記入していたものであり、初子は記帳について請求書、領収書等を点検することなく、またこれらの書類の保管もしていないことが認められるところからして、俊治が初子に報告しなければ記帳されないわけであるから、右帳簿に記載されていないことをもつて原告の収入でないとすることはできない。

<証拠略>も、そのいうところの個人請負分、下中に下請させた分についての具体性、明確性を欠くところがあり、表記の事実関係からみても直ちに信用できないところであつて、原告提出の<証拠略>の下中の各領収書も、これに見合うべき<証拠略>とその金額が合致せず、<証拠略>の分がそのまま下中に対する下請分とすることもできない。

また、原告は、俊治個人分に関する領収書の発行名は、他の分と相異するとも主張するが、<証拠略>を検討しても俊治の作成した請求書、領収書の発行名が原告主張のように明確に区別されているとは認められない。

他に原告の前記主張事実を認めるに足る証拠はない。

3  <証拠略>によると、原告と足立住宅との取引は昭和四四年から同四七年まで継続して行われ、工事代金は各月二五日締切りで月末支払いを原則とし、締切日の出来高により俊治が請求書を作成して足立住宅側の確認をえた後に工事代金が支払われていたことが認められ、右<証拠略>を検討してみると、前記三口の工事代金に関する請求書である<証拠略>と、他の原告の工事であると自認する分の請求書を比較しても、その記載の工事内容に特別の差異はなく、むしろ継続する同一工事に関する出来高による請求内容が記載されているのであり、また<証拠略>の足立住宅の帳簿には右三口の工事代金は他の工事代金と区別することなく原告に対する工事代金として支払つたとの記載がなされていることが認められる。

以上認定の各事実と前記の原告帳簿の記載方法からして、右の三口の工事代金は、原告が足立住宅から請負つた工事代金として支払われたものであるが、俊治がこの分を初子に報告しなかつたために、原告の帳簿に記載されなかつたものと認めるのが相当である。

4  そうすると、右三口の工事代金を原告会社の収入であるとし、これを原告の申告額に加算し、これによつて第三期における欠損金が生じないことになる関係から第四、第五期の各繰越欠損金を否認し、かつ右収入増加にともなう未納事業税を減算してなした本件各更正は、相当というべきである。なお、第五期分の一四〇、〇〇〇円は<証拠略>によると昭和四八年四月一二日に現実に原告に支払われたと認められるが、<証拠略>によると同四七年九月二六日に右の分の請求がなされていると認められるから、右請求日には原告の権利は確定しており、これを第五期の収入金に算入するのは相当である。

三  (本件賦課決定の適否)

前記認定事実によると、原告の第三、第四期分についての過少申告の原因は、俊治による所得の一部隠ぺいにあつたと認められる。しかも、俊治は原告会社取締役で足立住宅との取引につき専任担当していたものであり、原告と足立住宅との取引は、第三期についてみるとその売上高七二、四五五、八四三円(<証拠略>により認められる)に対して足立住宅分は少くとも三二、四一三、三〇〇円(別表原告主張額欄)であり、その比率は約四五%弱に達し、第四期についても売上高五六、九三五、三七九円(<証拠略>)に対し足立住宅分が少くとも一四、八四九、四二〇円(前同)であつてその比率が約二六%に及ぶことからして、足立住宅との取引は原告として主要な取引であり、これを担当した俊治は、原告の主要な義務を担当していたものというべきである。してみると、俊治の右所得隠ぺい行為については、重加算税制度の目的からして、法人代表者がその事実を知つていたと否とにかかわらず、納税義務者たる法人が正当な所得を申告すべき義務を怠つたものとして重加算税が賦課されるのもやむをえないと解すべきである。

前認定の第三期、第四期につき更正により納付すべき税額に国税通則法六八条一項所定の率を適用すれば、被告主張の重加算税額となるから、本件賦課決定も違法なものというべきである。

四  よつて、原告主張の本件各更正、本件賦課決定には違法な点はないから、その取消を求める原告の請求は理由がなく、棄却を免れないところである。よつて訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 野崎薫子 岡原剛)

別表 <略>

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