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京都地方裁判所 昭和52年(わ)1290号 判決 1978年1月24日

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  昭和五二年一〇月二日午前一一時四五分ごろ、京都府向日市寺戸町久々相八番地イワノ電気器具販売店こと岩野祥一(当時三〇才)方において、同人所有のラジオカセット一台(時価三万七、八〇〇円相当)を窃取し

第二  同日同時刻ごろ右窃取の事実を右岩野に発見され追跡をうけて同店から約一四〇メートル離れた同市森本町上森本一七番地先路上に至ったが、同人から左腕をつかまれるや、逮捕を免れるため手拳で同人の後頭部、下顎部を殴打して暴行を加え

第三  同年九月一六日午後八時ごろ、宇治市六地蔵柿ノ木町二番地松枝利治方において、同人所有のカセットコーダー一台(時価約三万円相当)を窃取し

第四  同月二七日午後六時ごろ、京都市伏見区向島二ノ丸町二四番地三崎鎮夫方において、同人所有のカセットコーダー一台(時価約四万三、八〇〇円相当)を窃取し

第五  昭和五一年四月一五日午後五時ごろ、京都府向日市寺戸町渋川一の五株式会社藤井電気店店舗内において、同会社代表取締役藤井政雄管理にかかるラジオ一台(時価約一万八、五〇〇円相当)を窃取し

第六  同月二二日午前一一時ごろ、京都市南区西九条比永城町一二二竹口デンキ株式会社店舗内において、同会社代表取締役竹口良門管理にかかるラジオカセット一台(時価約四万二、八〇〇円相当)を窃取し

第七  同月二四日午後零時ごろ、前示株式会社藤井電気店店舗内において、前示藤井政雄管理にかかるカセットデッキ一台(時価約七万三、八〇〇円相当)を窃取したものである。

(証拠の標目)《省略》

(昭和五二年一〇月一二日付起訴事実につき準強盗罪を認めなかった理由)

判示第二の暴行は判示のように窃盗犯人である被告人が逮捕を免れるためになした行為であり、一般に逮捕者の顔面を手拳で殴打する行為は一般私人の逮捕遂行の意欲を制圧するに足りる程度の暴行であると認められる場合が多く、また準強盗罪の成立には現実に逮捕者の逮捕意思が制圧されたことを要しないとされているけれども、なお、右暴行が逮捕者の逮捕遂行の意思を制圧するに足りる程度のものであるかどうかは、これを抽象的に決すべきではなく、逮捕を免れようとしたときの具体的情況に徴してこれを決すべきであるし、また現実に逮捕意思が制圧されたか否かは、暴行の程度を判断する上で重要な事情になると思料されるところ、前掲各証拠によれば、まず、逮捕者である岩野祥一自身暴行を受けたときの状況について「私はなぐられましたが相手が弱そうなので、別段痛いとも思わず、またこわいとも思いませんでした。ただ急になぐられたので若干ひるんだ程度で、むしろ私は腹が立ちましたので、宮田に、おれをなぐったんやでと二度ほどどなってくみついて行きました。」旨供述している(検面調書)ところから、現実には逮捕意思を抑圧されていなかったものと認められるほか、本件犯行の時刻が午前一一時四五分ごろであり、場所は公道上で人通りもあり、現に自転車に乗った通行人及び岩野の知人一名が被告人の逃走を妨害する行為に出ているような状況のもとで、逮捕者の顔面及び頭部を二回ないし三回手拳でなぐりつける行為は、逮捕者が年令三〇才のかつて陸上競技の選手をしていたことのある男子であり、かけつけた警察官二名の姿を認めたためとはいえ、被告人は一、二分で抵抗をやめていること、殴打の結果も軽微に終っていることなどの諸事実に徴すれば、本件被告人の暴行が、逮捕者の逮捕意思を制圧するに足りる程度に達していたと断定することは困難である。よって本件訴因を窃盗と暴行の併合罪と認定した。

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第三ないし第七の各所為はいずれも刑法二三五条に、判示第二の所為は同法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するので、判示第二の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中九〇日を右刑に算入し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 河上元康)

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