京都地方裁判所 昭和52年(行ウ)16号 判決 1982年1月29日
京都市上京区大宮通寺之内下る東入西北小路町四四番地
原告
地土正秀
右訴訟代理人弁護士
高田良爾
京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地
被告
上京税務署長
三好寅正
右指定代理人
浅尾俊久
同
太田吉美
同
橋本敦
同
山崎睦子
同
井上光司
同
工藤敦久
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和四九年九月一一日付でなした原告の昭和四六年及び昭和四七年分各所得税の更正処分のうち、昭和四六年分につき総所得金額七二万円を、昭和四七年分につき総所得金額八〇万円をそれぞれ超える部分並びに各過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、肩書地においてクリーニング業を営むものであるが、昭和四六年及び昭和四七年(以下「本件各係争年」という。)分各所得税の確定申告書に別表一の(一)のとおり記載してそれぞれ法定期限までに申告したところ、被告は昭和四九年九月一一日付で別表一の(二)のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」といい、更正処分のみを指すときは「本件各更正処分」という。)をした。これに対し原告は異議申立をしたところ、同年一二月二六日付でいずれも棄却されたので、さらに国税不服審判長に対し審査請求をしたが、昭和五二年三月三一日付でいずれも棄却され、その裁決書謄本は同年四月一九日原告に送達された。
2 しかしながら、本件各処分はいずれも次の理由により違法であり、取消されるべきである。
(一) 被告は、本件各処分に先だって原告の本件各係争年分の所得税を調査するにあたり、原告の調査理由開示の要求に対して、調査理由を全く開示しなかったので、右調査は違法であり、これに基づく本件各処分もまた違法である。
(二) 本件各更正処分の通知書には全く理由が附記されていないが、原告のような白色申告者に対する更正処分であっても、処分理由を附記することが必要であり、本件各更正処分はこの点においても違法である。
(三) 原告の本件各係争年分の総所得金額は前記確定申告額のとおりであり、本件各更正処分中総所得金額について右申告額を超える部分は原告の所得を過大に認定した違法がある。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2のうち、被告が本件各処分に先だって原告の本件各係争年分の所得税を調査したこと、本件各更正処分の通知書には理由が附記されていないこと、原告が白色申告者であることは認め、その余は争う。
三 被告の主張
1 課税の経過等について
被告の部下職員は、原告の本件各係争年分の所得調査のため、昭和四八年一〇月四日から本件各処分までの間、前後七回にわたり原告方に臨場し、その都度原告に対し調査の理由及び必要性等を告げたうえ、本件各係争年分の所得金額の算定基礎となるべき帳簿、領収書及び請求書等の書類の提示を求め、調査への協力を要請したが、原告は書類を提示せず、事業規模及び取引の内容等についても具体的な説明を行なわず、被告の調査に協力しなかった。そこで、被告はやむを得ず原告の取引先等を反面調査した結果に基づき、推計によって原告の所得金額を算定し、本件各処分を行なった。
2 調査理由の開示について
所得税法二三四条一項の規定は当該職員の質問検査権を認めたものであるが、その質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知の如きも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない(最高裁判所昭和四八年七月一〇日第三小法延決定)。
本件において、被告職員は、適宜、必要な限度において、調査の理由及び必要性等を原告に告知し、調査への協力を求めており、右調査手続になんらの違法も存しない。
3 更正処分の理由附記について
所得税法上所得税の更正処分の通知書に理由附記を要するとしているのは、青色申告書にかかる年分の総所得金額の更正をする場合だけであり(所得税法一五五条二項)、いわゆる白色申告者である原告に対する更正通知書に記載すべき事項は国税通則法二八条二項に規定する事項に限られ、それ以外に更正理由を附記する必要はない(最高裁判所昭和五三年二月二八日第三小法延決定)ので、同項に規定する事項について適正に記載された更正通知書による本件各更正処分になんら違法は存しない。
4 原告の事業の概況
原告は、肩書地において富士屋クリーニング店の屋号でクリーニング業を営む者であり、本件各係争年当時、洗濯機、脱水機、各種プレス機、ボイラー等の諸設備及び四輪自動車を有し(別表四参照)、従事人員は家族従事者二名(原告及び妻)雇人二名(年換算人員)の計四名であった。原告の店舗周辺には大宮商店街があり、個人商店、一般家庭が殆んどで、近隣に大会社や大病院などはない。また、クリーニングを大別するとランドリー(水洗い)とドライクリーニングに分けられるが、原告の場合ドライクリーニングの設備を有しないため、これについては元洗いを外注し、原告において仕上げをしていた。
5 所得金額について
原告の本件各係争年分における所得金額は、昭和四六年分が二四五万四五二一円、昭和四七年分が二四五万五五九五円でその算出根拠は以下に述べるとおりであり(別表二参照)、右所得金額の範囲内でなされた本件各処分になんら違法はない。
(一) 昭和四七年分
(1) 収入金額 六二三万六二七七円
後記(2)の原価及び一般経費一四三万〇六〇二円を同業者平均原価及び一般経費率(原価及び一般経費の合計金額に対する割合、以下「同業者率」という。別表三参照)二二・九四パーセントで除して算出した。
(原価及び一般経費) (同業者率) (収入金額)
1,430,602円÷22.94=6,236,277円
(2) 原価及び一般経費 一四三万〇六〇二円
内訳は別表二の<2>のとおりであり、いずれも審査請求における原告の申立額である。
(3) 特別経費 二三五万〇〇八〇円
内訳は別表二の<3>のとおりであり、いずれも審査請求における原告の申立額である。
(4) 所得金額 二四五万五五九五円
(1)収入金額から(2)原価及び一般経費並びに(3)特別経費を控除した金額である。
(二) 昭和四六年分
(1) 収入金額 五八四万四九一二円
昭和四七年分収入金額を原告における同年の電力消費量一四八二キロワット当り収入金額を算出し、これに昭和四六年分電力消費量一三八九キロワットを乗じて算出した。
(昭和47年分収入金額) (電力消費量) (1Kw当り収入金額)
6,236,277円÷1,482Kw=4,208円
(1Kw当り収入金額) (昭和46年分電力消費量) (昭和46年分収入金額)
4,208円×1,389Kw=5,854,912円
(2) 原価及び一般経費 一二七万五九四五円
前記(1)の収入金額に昭和四六年分同業者率二一・八三パーセント(別表三参照)を乗じて算出した。
(昭和46年分収入金額) (同業者率) (原価及び一般経費)
5,844,912円×21.83%=1,275,945円
(3) 特別経費 二一一万四四四六円
以下の合計金額である。
(イ) 外注費 五五三万一八八七円
昭和四七年分収入金額六二三万六二七七円に対する同年分の外注費五六万四五三〇円の割合(以下「外注費率」という。)九・一パーセントを前記(1)の昭和四六年分収入金額に乗じて算出した。
(ロ) 雇人費 一三五万四八五〇円
昭和四七年分収入金額六二三万六二七七円に対する同年分の雇人費一四四万五三〇〇円の割合(以下「雇人費率」という。)二三・一八パーセントを前記(1)の昭和四六年分収入金額に乗じて算出した。
(ハ) 地代家賃 二一万六〇〇〇円
(ニ) 支払利子 一万一七〇九円
(4) 所得金額 二四五万四五二一円
(一) 本件同業者の選定の経過
原告の事業所得を管轄する上京税務署管内に事務所を有し、クリーニング業を営む個人営業の青色申告者すべての中から、次の項目のすべてに該当する同業者を選定した。
(1) 本件各係争年分を通じて事業を営んでいること
(2) 機械設備にドライクリーニングの設備のない者
(3) 従業人員(年換算人員)が三名から五名までの範囲内であること(但し、従事人員のうちに家族従事者以外の者が年間を通じて一名以上従事していること)
(4) 年間外注費(ドライクリーニング元洗い)が二八万二〇〇〇円から八四万七〇〇〇円までの範囲内の者であること
(5) 調査対象年分につき不服申立または訴訟係属中の者でないこと。
右同業者の抽出のため、大阪国税局長は昭和五三年二月八日付通達「昭和四六年分及び昭和四七年分同業者調査表の提出について」と題する書面をもって、被告に対し前記各条件のいずれにも該当するすべての者につき売上金額、原価及び一般経費、所得金額、参考事項として従事人員、外注費を報告するよう求め、被告から右条件に該当するすべての者四名について別表三のとおりの報告を受けた。
(二) 合理性について
原告の所得を算定するために同業者率を適用した本件推計方法は、次のとおり合理性を有する。
(1) 一般のクリーニング業はサービス業であり、加工業であるため、手作業の部分が多く、個別的特性の少ない業種であり、また、地域的差異がない、本件においては、業態、機械設備、作業工程、従事人員、加工料金(共通的である。)等を主たる類似項目の指標として、これらの各項目のすべてに該当する本件同業者四名を選定したのであるから、被告が同業者の選定のため調査したクリーニング業を営むすべての者のうちでも、その事業内容、規模等が最も類似している。
したがって、調査に際して会計帳簿等を一切提示しない等、原告の協力が得られない本件のような場合、同業者率を適用して原告の所得を推計することは合理性を有している。
(2) 被告が同業者として青色申告者を選定したのは、青色申告者の場合、一定の帳簿書類を備付け、これに事業所得の金額が正確に計算できるように資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引を正規の簿記の原則に従い、取引の都度整然かつ明瞭に記録し、その記録に基づき、総収入金額、必要経費、所得金額等を計算して申告している者であり、また所得税法もそのことを義務づけているので、青色申告者の数値は信頼に値するものであって、同業者としての比較検討が正確になし得るからである。
これに比して、白色申告者の場合、記帳のない者が多数で、また、記帳されていても記帳の不備、不正確な者が多いため、正確な数値を把握することが不能または困難であり、比較検討の対象たる同業者の選定が不可能であるか、合理性を欠いている。
(3) また、同業者をその年間外注費が二八万二〇〇〇円から八四万七〇〇〇円までの範囲の者に限定したのは、原告の昭和四七年分外注費五六万四五三〇円の上・下限各五〇パーセントに当る右各額を、原告との類似性の指標項目としたものである。
本件において選定された同業者四名の外注費の額は原告の外注費の額の一三五パーセントないし九四パーセントであり、原告の外注費の額と極めて類似している。
(4) 同業者率の算定に用いた各同業者の営業状況に差があるのは当然なことであって、その平均値を求めるのが本件推計方法の目的なのであるから、同業者の平均率による推計の場合には、業者間の通常存する程度の営業状況の差異は無視し得るし、また、納税者の個別的営業条件いかんは、それが当該平均値による推計自体を不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しないものと解すべきである。
原告については、本件同業者の平均値による推計を不合理にするほど、本件同業者との顕著な営業条件の相違はない。
(5) 被告主張の同業者の住所・氏名は被告が職務上知り得た秘密に属し、その守秘義務によりこれを明らかにし得ないものであり、本件における同業者は、無作為かつ機械的に選択されたもので、被告の恣意の介入する余地はなく、なんら信用性に欠けるところはない。
7 電力消費量により収入金額を推計することの合理性
(一) クリーニング業(ドライ加工を除く。)においては、受注した品物をマーク付け、点検、選別した後、ワッシャー(洗濯機)で洗濯(水洗、標白、ゆすぎ、糊付など)し、次いで脱水機により脱水した後、天日または乾燥機(タンブラー)で乾燥して、各種プレス機やアイロン等で仕上げし、整理、点検、袋入れ等の後に、納品(配達等)するという作業工程をとる。
ところで、クリーニング工程の動力源としては、電力、人力、蒸気力の三つがあるが、右工程の主たる機械設備であるワッシャー(洗濯機)、脱水機、プレス機等はすべて電力で稼動するものである(乾燥機(タンブラー)の動力は蒸気が主である。)
したがって、その動力源である電力消費量は、これら諸機械設備の稼動量に比例し、クリーニング仕上り量(収入金額)は、右諸機械設備の稼動量、すなわち電力消費量に左右され、比例するものであるということができる。
よって、右に述べたとおり、クリーニング業者の売上金額(収入金額)を電力消費量から推計する方法は、機械設備、従事人員、営業内容、加工料金の諸条件に特段の変化のない限り相当性、合理性があるものといわねばならない(最高裁判所昭和四〇年七月六日第三小法延判決)。
(二) 原告は、本件各係争年分において、別表四に示した機械設備を有していたが、昭和四七年四月の改善以前にもワッシャー、脱水機、ボイラー、プレス機等の主たる機械設備を保有しており、その機械設備をもって他店に伍してクリーニング業(ドライ加工を除く。)を営んでいたのであり、右改善はクリーニング作業工程のうち仕上げ工程の一部に属する機械設備(乾燥機(タンブラー)、人体プレス(ドライ加工用)、綿プレス等)を追加設置したにすぎないのであるから、洗濯工程(水洗い工程)における主たる機械設備については本件各係争年分を通じて大きな変化はなく、また、ドライ加工設備を設置する等の売上げに影響を及ぼす業態、営業内容の変化もなかったということができる。
したがって、前記(一)で述べたとおり、クリーニング仕上り量(収入金額)は電力消費量から推計し得るものであり、また、右に述べたとおり本件各係争年分の原告方のクリーニングの主要機械設備には変化がなく、業態、営業内容にも変化がないのであるから、前記5(二)(1)で述べたとおり、原告の昭和四七年分の電力消費量一キロワット当りの収入金額に原告の昭和四六年分の電力消費量を乗じて同年分の収入金額を算定することには合理性があるというべきである。
なお、昭和四七年分の電力消費量には右に述べた仕上げ工程にかかる追加機械設備の稼動に要した電力消費量も含まれているので、同年分の一キロワット当り収入金額は、その部分に相当する分だけ少なく算定されていることになり、追加機械設備がなく主たる機械設備のみであった昭和四六年分の収入金額を昭和四七年分の一キロワット当り収入金額で推計することによる誤差は、原告にとって有利なものとなるから許容されるべきである。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張1は争う。被告職員は原告に対し所得調査に来た旨告げたのみであったので、原告が調査の理由及び申告の不信な点について具体的な説明を求めたところ、被告職員は急に態度を変え、「そんなこと説明する必要はない。」と言って次々とクリーニングの品名をあげ代金を質問するなど質問検査権を濫用した。原告は過去のことであり、値上りもあったことから直ちに答えられないでいると、被告職員は協力がないなら調査できないとして帰ってしまったが、調査にあたってはもっと具体的に質問すべきである。
原告は被告職員から設備の状況等を尋ねられたり、仕事場を見せるよう求められたことはなく、また、原告がこれを妨害したこともない。被告は、所得調査のため原告方に赴いた昭和四八年一〇月当初から、既に反面調査を開始している。
2 同2及び3は争う。
3 同4のうち、原告が肩書地において富士屋クリーニング店の屋号でクリーニング業を営むものであること、原告の店舗周辺には大宮商店街があり、個人商店、一般家庭が殆んどで、近隣に大会社や大病院などがないことは認め、原告の設備の状況及び従事人員の点は否認する。
4 同5の冒頭部分は争う。
同5の(一)の(1)は否認する。原告の昭和四七年分の収入金額は、原告が審査請求において原簿たる伝票や請求書控等に基づいて申立てた四五九万一五七六円である。被告は、原告提出の右売上の資料に基づき、その中に一部金額の脱落しているものがあっても当該箇所を常識で推計して埋めることによって、ほぼ完全に近い実額を計算することが可能である。
同5の(一)の(2)の金額は否認するが、それが審査請求における原告の申立額であることは認める。原告の減価償却の対象とされる備品には償却資産とはいえないものがある。
同5の(一)の(3)の金額は否認するが、それが審査請求における原告の申立額であることは認める。
同5の(一)の(4)は否認する。
同5の(二)はそのいずれも否認する。
5 同6のうち(一)は不知、(二)は争う。被告の推計は次のとおり合理性を欠いている。
(一) 原告のクリーニング業は義父から引継いだものであるが、その当時倒産同然の状態であり、本件各係争年当時においてもまだ立ち直っていなかった。
(二) 原告は主として「白もの」を扱っているが、「黒もの」の多いところより所得率は低い。被告主張の同業者は、原告と異なり、「黒もの」を多く扱っているか、一般的にいって経営がうまくいっているものであり、原告の所得を推計する比較資料として不適格である。
(三) 被告が同業者選定の基準として年間外注費を二八万二〇〇〇円から八四万七〇〇〇円としたのは、余りに幅が広く、不合理である。また、原告の審査請求における申立額によれば昭和四七年分の外注費率は一二・二九パーセントとなり、被告主張の同業者四名の外注費の平均でも一二・九五パーセントとなるが、被告の推計による原告の外注費率は九・一パーセントと余りに低く、合理性を欠いている。
(四) 被告主張の同業者にはクリーニングに不可決な洗場用ボイラーの設備のないものがあるが、このような同業者と原告とを比較することはできない。
(五) 原告の従事人員は昭和四六年には中溝一人だけであり、昭和四七年二月までその状態が続いた。同月中溝が辞めて原告の弟達夫が来たが、全くの素人であり、週三日の割で森に仕事をしてもらった。鈴木には昔世話になったことがあり、居候していた三か月間、仕事を手伝ってもらったにすぎない。原告の妻は本件各係争年とも出産し、仕事は原告一人が切りまわしていた。したがって、このような状態の原告と被告主張の同業者とを比較するのは無理がある。
(六) 被告が同業者四名の住所・氏名を明らかにしないで提出した書証は証拠能力を欠くか信用できない。
6 同7は争う。本件各係争年当時、原告方では三世帯が一緒に同一家屋で生活しており、原告は営業用と家庭用を区別せず電気を使用していたが、その消費量は家庭用が約半分を占めていたので、このような電力消費量で推計するのは不合理である。
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証の一、二、第二号証、同号証の一ないし三、第三号証、同号証の一ないし三、第四号証の一ないし三、第五号証、同号証の一ないし三、第六号証、同号証の一ないし六、第七号証、同号証の一ないし六、第八号証、同号証の一ないし三、第九号証、同号証の一ないし三、第一〇号証、同号証の一ないし三、第一一号証、同号証の一ないし三、第一二号証、同号証の一ないし六、第一三号証、同号証の一ないし三、第一四号証、同号証の一ないし三、第一五号証、同号証の一ないし三、第一六号証、同号証の一ないし三、第一七号証、同号証の一ないし六、第一八号証、同号証の一ないし六、第一九号証、同号証の一ないし六、第二〇号証、同号証の一ないし六、第二一号証、同号証の一ないし三、第二二号証、同号証の一ないし三、第二三号証、同号証の一ないし六、第二四号証、同号証の一ないし三、第二五号証、同号証の一ないし三、第二六号証、同号証の一ないし三、第二七号証、同号証の一ないし六、第二八ないし第一〇三号証。
2 原告本人
3 乙第二号証の一、第四号証の二、三、第六号証の二ないし九、第八号証の一ないし三、第一三号証の二の成立はいずれも不知、第一〇号証の一ないし三のうち、いずれも原告の作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知、第一二号証の一、二、第一三号証の一、三のうち、いずれも官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知、その余の乙号各証の成立にいずれも認める。
二 被告
1 乙第一及び第二号証の各一、二、第三及び第四号証の各一ないし三、第五号証の一ないし四、第六号証の一ないし九、第七号証の一ないし四三、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし四、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし三、第一四及び第一五号証。
2 証人石田一郎、同高田初夫、同盛太門、同仲付義哉
3 甲号各証の成立はすべて知らない。
理由
一 請求原因1の事実、被告が本件各処分に先だち原告の本件各係争年分の所得税を調査したこと、本件各更正処分の通知書には理由が附記されていないこと、原告が白色申告者であることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 まず、原告は、被告が所得税を調査するにあたり原告の調査理由の開示の要求に対して調査理由を開示しなかった旨主張するので、検討するに、証人石田一郎の証言によれば、被告職員である石田一郎は原告の所得税調査のため昭和四八年一〇月四日ころから昭和四九年六月下旬ころまでの間に原告方に約九回臨場し、うち七回は直接原告に会い、その当初のころは原告に対し申告額が正しいかどうか調査したい旨を告げ、三回目ころ以後は、それまでの原告方臨場で右石田が見分した原告の営業状況に照らし原告の申告所得は過少であると思われる旨述べて、原告に調査への協力を要請したこと、これに対し原告はそのような理由では調査に応じられないとして調査に対する協力を拒否し、帳簿伝票類等を一切提示しなかったことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。
ところで、国税通則法二四条、所得税法二三四条一項は、税務職員が一定の処分をなすに際し税務調査としての質問検査をなし得る旨規定しているが、その実施の細目については実定法上なんら規定していないから、質問検査の範囲、程度、時期、場所等については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当と認められる範囲内である限り、税務職員の合理的選択に委ねられていると解され、調査の具体的必要性、理由を開示しなかったとしても、それが社会通念上相当な範囲内である限り適法な税務調査というべきである。
本件においては、前記認定のとおり、むしろ被告職員によって原告に対し調査の理由及び必要性は告知されているというべきであり、その税務調査が社会通念上相当な範囲内であることは明らかであってこの点について原告主張の如き違法は存しない。
三 次に、原告は本件各更正処分の通知書に理由が附記されていない点をとらえ違法であると主張するが所得税法一五五条二項は青色申告について更正した場合その通知書に更正の理由を附記すべきものと規定するのに対し、原告の如き白色申告について更正した場合には所得別の金額を附記するだけで足りるとしているところであり、右法条の趣旨は、一方、多量の事案を比較的短期間で処理しなければならない更正処分について、すべて処分理由の附記を要求することは課税の能率、徴税事務の円滑等の見地から不適当であることを考慮し、他方、帳簿備付、記帳、確定申告における明細書添付等の義務を負う青色申告者を優遇し、青色申告の普及を促進する点をも考慮した結果、更正処分の際の理由附記を青色申告に限定して要求したものと解するのが相当であるから、白色申告に対する本件各更正処分に理由を附記しないことはなんら違法となるものではなく、この点についての原告の主張は理由がない。
四 そこで、原告の所得金額について検討する。
1 被告は原告の所得金額を推計によって算定すべきである旨主張するので、まず推計の必要性についてみるに、被告職員が原告の所得税を調査するため多数回にわたって原告方に臨場し、原告に対し調査の理由と必要性を告げて調査への協力を要請したにもかかわらず、原告がこれに応じず、帳簿伝票類等を一切提示しなかったことは前述したとおりであり、これによれば、本件各処分の時点において原告の所得金額を推計する必要性は存在していたというべきである。原告は被告職員の質問調査の方法を非難するが、それが社会通念上相当な範囲内でなかったとする証拠はなく、調査への協力を拒否する根拠となるものではない。また、原告は、被告が原告方に調査のため臨場した当初から反面調査を実施していたとするが、いわゆる反面調査が納税者に対する直接調査を実施した後で、その目的を達することのできなかった場合において、その限度内で補充的にのみ許されるものと解すべき理由はないから、原告の申告額が適正であるかどうか確認するため、原告方への臨場調査と並行して当初から反面調査を実施しても、それを違法ということはできない。
ところで、所得課税は可能な限り所得の実額によるべきであるから、更正処分時において所得額等を実額で算定する資料がなかったため、これを推計せざるを得なかったとしても、後に右金額を実額計算するに足る資料が提出されたときは、実額によって算定すべきであり、推計の必要性は存しないこととなる。
本訴における被告の主張は、原告の昭和四七年分の所得金額を算出するため、審査請求において原告が申立てた原価及び一般経費の合計額をもとに、これから同年分の収入金額を推計すべきであるとするものであるが(成立に争いのない乙第一一号証によれば、本件各処分及び裁決は同業者の電力消費量一キロワット当りの売上金額から原告の昭和四七年分売上金額を推計していることが窺える。)右乙第一一号証、証人高田初夫の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は審査請求において昭和四七年分についてのみ収支計算書、同内訳明細書、請求書控、領収書、その他メモ類を提示したことが認められ、本件訴訟においてもその一部が提出されているので、これらの資料によって原告の昭和四七年分の所得金額(そのうち特に収入金額)の実額を算出できないかどうかを検討する必要がある。
成立に争いのない乙第七号証の一ないし四三、原告本人尋問の結果及びこれによっていずれも真正に成立したと認める甲第二ないし第二七号証、第二ないし第五号証の各一ないし三、第六及び第七号証の各一ないし六、第八ないし第一一号証の各一ないし三、第一二号証の一ないし六、第一三ないし第一六号証の各一ないし三、第一七ないし第二〇号証の各一ないし六、第二一及び第二二号証の各一ないし三、第二三号証の一ないし六、第二四ないし第二六号証の各一ないし三、第二七号証の一ないし六(以下「甲第二ないし第二七号証」という。)、第二八ないし第八八号証を総合すれば、原告は本件各係争年当時営業に関して売掛金元帳、金銭出納帳等の帳簿類は一切作成していないが、店頭や得意先回りで顧客から注文をとって洗濯物を預かると、その都度二枚複与で注文伝票(甲第二ないし第二七号証、裁決では「納品書兼請求書」とされている。)を作成し、クリーニングを仕上げた洗濯物を店頭渡しまたは得意先に配達して納品するが、この時、代金の支払いのないものは(支払いがあれば注文伝票にその旨記入)、毎月二〇日しめで注文伝票をもとに地域別に分けた顧客毎に一か月間の代金額を集計して集金手控(甲第二八ないし第八八号証、但し、文書の表題は「請求書」とある。)を作成し、顧客には先の注文伝票をまとめて手渡して集金し、集金手控に入金をチエックしていたことが認められる。そうすると、集金手控は納品時に代金を受領したものが除かれていることになるので、これをもって売上金額の全額を把握できないが、注文伝票にはすべての注文が記載される仕組であるから、本来これを集計することによって売上金額を把握することが可能であると考えられる。
そして、原告は、昭和四七年分の売上金額であるとする四五九万一五七六円が前記伝票類等の資料によったものであると主張し、原告本人の供述には、注文伝票(甲第二ないし第二七号証)は地域別に集計したものであり、本件訴訟において注文伝票及び集金手控のすべてを提出しているものではないが、審査請求において原告が昭和四七年分の売上金額を四五九万一五七六円と申立てた当時には右資料がすべて揃っていたとの部分も存在し、右注文伝票(甲第二ないし第二七号証)を集計すれば四〇六万五三八〇円となり、集金手控(甲第二八ないし第八八号証)を集計すれば四二七万五七六〇円となる。
また、後述するように、被告が同業者率を求めるため選定した別表三の同業者四名の昭和四七年分における外注費率を平均すると一二・九五パーセントとなるところ、原告の主張する昭和四七年分の売上金額四五九万一五七六円で同年分の外注費を五六万四五三〇円として原告の外注費率を計算すれば一二・九パーセントとなって極めて類似するのに対し、被告主張の推計による売上金額六二三万六二七七円で外注費を右同額として計算すれば、外注費率は九・〇五パーセントとなって格差が生じ、以上によれば原告主張する売上金額が実額であると考えられなくもない。
しかし、甲第二ないし第二七号証によれば、原告が本件訴訟に提出した注文伝票は昭和四七年一、二月分について不完全であるうえ、期間の連続を欠くものもあり、また、前掲乙第七号証の一ないし四二、証人高田初夫の証言によると、原告の昭和四七年における注文伝票の一部(乙第七号証の一ないし四二)のうちには金額の記入されていないものが多数見受けられ、仮に、原告本人の供述にあるとおり、集金の際には注文伝票に金額をすべて記入し集金手控を作成していたとしても、右集金手控は納品時に支払ずみとなっているものが除かれているため売上金額の全体を把握できないこと先に述べたとおりであり、しかも、原告は金銭出納帳を作成していないので、代金の入金については帳簿との照合確認が不可能である。
そして、原告の主張による売上金額四五九万一五七六円から後に認定する原価及び一般経費一四三万一六五二円並びに特別経費二三五万〇〇八〇円を控除すると、原告の昭和四七年分の所得金額は八〇万九八四四円となるが、一方、原告本人の供述によると、原告方の昭和四七年における世帯人員は五・五人(昭和四七年五月出生の子を〇・五人とした。)となるところ、成立に争いのない乙第一五号証によれば、京都市における昭和四七年の一世帯当り平均一か月間の消費支出額は世帯三・八六人で九万九六三五円であるから、これを五・五人に引き直すと一四万一九六六円、年間にして約一七〇万円となり、原告の同年分の所得金額が八〇万程度であったというのは信用し難く、しかも、証人高田初夫の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第二号証の一によると、原告は昭和四七年中に合計三二四万六〇〇〇円を投入して諸機械設備を購入していることが認められ、この購入資金のうち二〇〇万円が借入資金だとしても、八〇万程度の所得金額でこれらの購入は不可能というべきであり、先の平均的な消費支出額の点も考慮すれば、原告主張の売上金額は余りに低すぎるといわなければならない。
更に、前掲甲第二ないし第二七号証、第二八ないし第八八号証と原告本人の供述によると、売上金額を算出するための資料にしたという注文伝票、集金手控は地域別に分けられていて、昭和四六年は「No.1」「No.2」「No.8」「No.×」「公団」の五地域、昭和四七年七月ころからはこれに「メガロコープ」を加えた六地域であったとするが、その名称のつけ方からみて番号は連続を欠いていて、その他に得意先があったのではないかとの疑念を拭い去ることができず、原告提出の注文伝票、集金手控がすべての得意先を網羅したものと確認することができないことをも考え合わせると、右注文伝票、集金手控をもって原告の昭和四七年分の売上金額を算定する資料とは認め得ないものというべきである。
なお、昭和四六年分については、前掲乙第一一号証、証人高田初夫の証言、原告本人尋問の結果により、審査請求の時点においても昭和四七年分の如き伝票類等は一切提示のなかつたことが認められ本件訴訟においてもなんら提出されていないので、所得金額の実額を把握することは不可能である。
したがって、原告の本件各係争年分における所得金額を推計する必要性はなお存在しているといわなければならない。
2 昭和四七年分の所得金額
(一) 原価及び一般経費
別表二の<2>の昭和四七年分の原価及び一般経費が審査請求における原告の申立額であることは当事者間に争いがない。
前掲第二号証の一、成立に争いのない乙第一号証の一、証人高田初夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、右のうち仕入金額、期末材料たな卸高、水道光熱費、旅費通信費、広告宣伝費、接待交際費、福利厚生費、弁償費(原告は営業上損益として申立て)はいずれも原告の申立額そのものであるが、期首材料たな卸高は、原告の申立てにないが、期末材料たな卸高と同額の一三万七七四八円と推認し、公租公課は原告が配車車両費として申立てた一三万〇九四五円のうちの自動車税額二万一〇〇〇円と申立てのなかった事業税額三〇〇〇円を合計した二万四〇〇〇円、修繕費は原告申立ての八万八三五七円(四万八〇〇〇円と四万〇三五七円の合計)に原告申立ての配車車両費中の四万六六五〇円を加算した一三万五〇〇七円、消耗費は原告申立ての四万四六五〇円に原告申立ての配車車両費中の六万三二九五円を加算した一〇万七九五四円、減価償却費は原告の申立額を基礎に別表四のとおり電気設備償却費を加えた四一万六五〇八円としたうえ訂正し(但し、同表レジスターの償却額九四五〇円とあるのは一万〇五〇〇円の計算娯りと認める。この結果減価償却費は四一万七五五八円となる。)雑費は原告の申立額二九万四六九〇円(二万八五九〇円と二六万六一〇〇円の合計)からそのうち電気設備取得費二五万五〇〇〇円を資本的支出と認め控除し、これに原告申立ての景品費、諸会費、求人募集費を加算し六万〇八九〇円としたものであって、これらはいずれも原告の申立額を原告提出の領収証、原告の説明等により確認または補正した金額であることが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
結局、別表二の<2>の昭和四七年分の原価及び一般経費は、審査請求における原告の申立額を基礎としたものであり、本件訴訟においてこれを上廻るものとすべき資料はないので、これによる合計額一四三万一六五二円を相当とする(別表二の<2>の一四三万〇六〇二円を前記減価償却費の計算誤りにより訂正)。
(二) 収入金額
(1) 被告は、収入金額を算定するため、同業者の原価及び一般経費率(同業者率)を適用して推計する方法を主張するが、本件の如く原価及び一般経費を把握し得た場合の収入金額を推計する方法としては相当である。
そこで、同業者率の算定についてみるに、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、第四号証の一、証人盛太門の証言及びこれによって真正に成立したと認める乙第四号証の二、三によれば、大阪国税局長は昭和五三年二月八日付通達「昭和四六年分及び昭和四七年分同業者調査表の提出について」と題する書面をもって、被告に対し、上京税務署管内の青色申告者(個人)でクリーニング業を営む者のうち、<1>上京税務署の管轄区域内に事業所を有し、<2>年間を通じて事業を営んでおり、<3>青色決算書を提出しており、<4>ドライクリーニング用の設備がなく、<5>従事人員(年換算人員)が三名から五名までの範囲内の者であり(但し、従事人員のうちに家族従事者以外の者が年間を通じて一名以上従事していること)、<6>年間外注費が二八万二〇〇〇円から八四万七〇〇〇円までの範囲内の者であり、<7>昭和四六年分及び昭和四七年分につき不服申立てまたは訴訟係属中の者でないとのすべての条件に該当する者の青色申告決算書に基づき、「売上金額」、「原価及び一般経費」(一般経費については決算書に記載されている必要経費のうち、給料賃金、利子割引料、地代家賃、貸倒金及び減価償却費(建物)等いわゆる特別経費を控除した金額)、参考事項として「従事人員」、「外注費」を報告するよう求め、被告から右各条件すべてに該当する者は四名であり、その数値は別表三のとおりである(原価及び一般経費率を除く。)旨の報告を受けたこと、同業者番号2の昭和四六年分外注費は八五万九〇六五円であり、右外注費の範囲を超えるものであるが、特に数値が近似しているため該当者四名に含めたものであることが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。
そこで、右四名の同業者の各原価及び一般経費率を求めると別表三の<3>のとおりとなり、その平均値は昭和四六年分が二一・八三パーセント、昭和四七年分が二二・九四パーセントとなる。
(2) ところで、同業者の平均率による推計の場合、その推計の基礎となる各同業者の営業状況に差があるのはむしろ当然のことであって、その平均値を求めるのが本件推計方法の目的なのであるから、推計方法が業種の同一性、営業規模の一応の類似性及び平均値算出過程の整合性等、推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、同業者間の通常存する程度の営業状況の差異は無視し得るし、また、納税者の個別的営業条件のいかんは、それが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しないものと解すべきである。
原告本人尋問の結果によると、原告は上京税務署管内に事務所を有し、本件各係争年とも年間を通じてクリーニング業を個人で営んでおり、当時ドライクリーニング用の設備を有しなかったことが認められ、これらに関する各条件は原告と共通しており、相当である。
成立に争いのない乙第九号証の一、原告本人尋問の結果によると、原告の業務に従事していたのは、昭和四六年には原告、原告の妻、従業員の中溝の三名であり、昭和四七年には同年二月で中溝が退職するまでそのままの状態であって、その後は中溝に代わって原告の弟及び臨時の従業員の森が加わり、同年一〇月以後は更に鈴木が加わったことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。右認定の事実によれば同業者選定のための前記<5>の条件は原告との営業規模の類似性を示すものとして相当であり、原告本人の供述によって認められる原告の妻が本件各係争年とも出産し、また原告の弟が全くの素人であったとの点を考慮しても、それが同業者選定のための条件として全く不合理ならしめる程度の顕著なものとは認め難い。
次に、原告の昭和四七年分における外注費は後述するとおり五六万四五三〇円と認められるがこれを五〇パーセント減ずれば約二八万二〇〇〇円、五〇パーセント加えれば約八四万七〇〇〇円となり、原告との営業規模の類似性の指標としてこの程度の幅を設けたのは相当である。なお別表三の番号2の同業者については、昭和四六年分の外注費八五万九〇六五円が右外注費の上限を一万二〇六五円超えることになるが、超過額は右上限値の僅か一・四パーセント強にすぎず、極めて近似しているうえ、右同業者の昭和四七年分については外注費の範囲内にあること、右同業者を加えることによって平均同業者率はその余の三名によるものよりも高くなり、原告に有利となることからすれば、右同業者が加えられたことによって推計が不合理になるとは考えられない。また、後述するように、先に認定した原告の原価及び一般経費をもとに同業者率を適用して原告の昭和四七年分の収入金額を推計すると六二四万〇八五四円となるところ、これによって同年分における原告の外注費率を計算すると九・〇五パーセントとなるのに対し、別表三の同業者の昭和四七年分の外注費率を計算すると、番号1は一二・九〇パーセント、番号2は一四・一六パーセント、番号3は一〇・九三パーセント、番号4は一三・八四パーセント、これらを平均すると一二・九五パーセントとなり、原告の外注費率との間の開きを生ずることとなるが、証人高田初夫の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、クリーニング業における外注にはドライクリーニングのほか洗張り、しみ抜き、修理等種々なものがあり、外注費と売上金額とが必ずしも関連しないことが認められ、このような外注費率の差をもって本件推計を不合理ということはできない。
更に、前掲乙第二号証の一、第七号証の一ないし四三、成立に争いのない乙第五号証の一ないし四、第六号証の一、証人盛太門の証言により真正に成立したと認める乙第六号証の二ないし九を総合すると、別表三の同業者四名の減価償却資産及び品名別料金は原告のそれとほぼ同様であることが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。原告はクリーニングに不可欠な洗場用ボイラーの設備のない同業者と原告とを比較できない旨主張するが、洗場用ボイラーがクリーニングに不可欠かどうかの点についての証拠はなく、他のボイラーで代替がきかないか否か不明であって、この点の主張は理由がない。
そして、別表三の各数値は、本件各係争年分の途中で改廃業した者や不服申立中の者等不正確不確定の者は除かれており、すべて帳簿の記帳等を義務づけられている青色申告者の決算書によるものであって、より正確なものと認められ、平均値算出の整合性は備わっているといわなければならない。
原告は、本件推計が合理性を欠く根拠として、原告の営業が倒産同然の状態で引継いだもので本件各係争年当時未だ立ち直っていなかったと主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告が営業を引継いだのは昭和四二年のことであることが認められ、また、昭和四七年には三二四万六〇〇〇円もの機械設備を購入していること先にみたとおりであって、原告の右主張は理由がない。
更に原告は、別表三の同業者は原告と異なり「黒もの」を多く扱っているところで、主として「白もの」を扱う原告の比較資料とならない旨主張するが、原告本人の供述によれば、他所より白ものが多いとの感じがするというにすぎず、また別表三の同業者が原告より黒ものが多いとする証拠もないので、原告の右主張もまた理由がない。
また、原告は、被告が同業者の住所・氏名を明らかにしないで提出した書証は証拠能力を欠くか信用できない旨主張する。しかし、税務職員は国家公務員法一〇〇条、所得税法二四三条により自己が職務上知り得た秘密を洩らしてはならない法律上の義務を負っているところ、本件では推計資料として同業者の売上金額、原価及び一般経費等の決算金額を使用しているが、その同業者の各住所・氏名を明らかにするときは、同人らの申告内容が一目瞭然となるため、右守秘義務との関係上、これを開示しないことはやむを得ないものであり、右開示がないことをもって書証の証拠価値がないものとはいえず、また、これに基づく推計を不合理であるということはできない。
以上検討したところによれば、推計の基礎的要件に欠けるところはなく、本件推計を不合理ならしめる特段の事情も認められない。
(3) そこで、(一)で認定した原価及び一般経費に昭和四七年分の同業者率を適用して同年分の収入金額を算出すれば、次のとおり六二四万〇八五四円となる。
(原価及び一般経費)(同業者率) (収入金額)
1,431,652円÷22.94%=6,240,854円
(三) 特別経費
別表二の<3>の昭和四七年分の内訳の各金額が審査請求における原告の申立額であることは当事者間に争いがなく、証人高田初夫の証言によれば、これらは原告の申立額を原告提出の領収証、原告の説明等によって確認しまたは誤りを訂正した金額であることが認められ、これと異なる証拠はないので、別表二の<3>の昭和四七年分のとおり認定する。
(四) 所得金額
(二)収入金額から(一)原価及び一般経費並びに(三)特別経費を差し引いた金額が原告の昭和四七年分所得金額であり、二四五万九一二二円となる。
3 昭和四六年分の所得金額
(一) 収入金額
(1) 原告の昭和四六年分の所得金額を実額で算定する資料は一切提示がなく、これを推計せざるを得ないものであることは先に述べたとおりであるが、被告は原告の昭和四六年分の所得金額を算出するため、まず、原告の昭和四七年分の収入金額をもとに、これから原告の両年分の電力消費量の比較によって昭和四六年分の収入金額を推計する方法を主張する。
ところで、前掲乙第二号証の一、官署作成部分の成立については争いがなく、その余の部分の成立については証人仲村義哉の証言により真正に成立したと認める乙第一二号証の一、原告本人尋問の結果を総合すると、クリーニング業の作業は洗濯物の受注、選別、洗濯、脱水、乾燥、仕上げ、包装、納品、集金という工程をとるが、そのうち洗濯から仕上げまでの工程には洗濯機、脱水機、タンブラー(乾燥機)、各種プレス機等の諸機械設備が使用されており、その主たる動力は電力であることが認められるので、クリーニング業において電力消費量は諸機械設備の稼動力に比例するものということができる。
他方、一般に諸機械設備の稼動力とクリーニング業の収入金額との間に強い相関々係がみられることは経験則上明らかであるので、クリーニング業における収入金額は、設置してある機械設備取扱品目その他の営業内容に関する諸条件が一定である限り、電力消費量に概ね比例するというべきである。したがって、被告主張の昭和四六年分収入金額の推計方法は、被告が基準とした昭和四七年の事業の諸条件と昭和四六年のそれとの間に変化がなければ、一応合理的なものということができる。
本件では、原告が本件各係争年ともドライクリーニング用の設備を有していなかったことは先に述べたとおりであり、原告の取扱品目が本件各係争年において異なっていたとする証拠もない。また、前掲乙第二号証の一、第一二号証の一、原告作成部分の成立については争いがなく、その余の部分の成立については証人高田初夫の証言により真正に成立したと認める乙第一〇号証の一ないし三、原告本人尋問の結果によれば、原告は別表四のとおり、昭和四七年四月に洗濯機、脱水機、タンブラー(乾燥機)、ボイラー、人体プレス機、綿プレス機の機械設備を設置しているが、そのうち洗濯機、脱水機、ボイラーは以前からあったものを買換えたにすぎないことが認められるので、新たな機械設備が設置されたのは乾燥、仕上げ工程に関するものであって、主たる工程たる洗濯、脱水については結局変化がなかったというべきであり、しかも、昭和四七年分の電力消費量は新たに設置された仕上げ工程等の機械設備の電力消費量も含まれていることになり同年分の電力消費量一キロワット当りの収入金額は、右仕上げ工程等の機械設備がなかった昭和四六年分の電力消費量一キロワット当りの収入金額より低くなると考えられる。したがって、被告主張の昭和四七年分の電力消費量一キロワット当りの収入金額を原告の昭和四六年分電力消費量に乗じて同年分の収入金額を推計する方法は、原告に有利にこそなれ不利になるものとは考えられず、合理的なものということができる。
その他本件各係争年間において、原告の営業内容に関する諸条件について、前記推計方法によることを不合理ならしめるほどの変化があったとは認められない。
(2) そこで原告の本件各係争年分における各電力消費量をみるに、証人石田一郎の証言及びこれによって真正に成立したと認める乙第八号証の一ないし三によれば、原告の電力消費量のうち動力については昭和四六年分が一三八九キロワット、昭和四七年分が一四八二キロワットであることが認められ、これによって原告の昭和四七年分の電力消費量一キロワット当りの収入金額を求めて、これに昭和四六年分の電力消費量を乗ずれば次のとおり五八四万九〇七九円となり、これが原告の昭和四六年分の収入金額となる。
(昭和47年分収入金額) (昭和47年分電力消費量) (1Kw当り収入金額)
6,240,854円÷1,482Kw=4,211円
(1Kw当り収入金額) (昭和46年分電力消費量) (昭和46年分収入金額)
4,211円×1,389Kw=5,849,079円
原告は、本件各係争当時、原告方では三世帯が同一家屋で生活し、原告は営業用と家庭用を区別せずに電気を使用していたが、その消費量は家庭用が約半分占めていたので、このような電力消費量で推計するのは不合理である旨主張する。しかし、前掲乙第八号証の一ないし三によれば原告の電力消費量としては大口電灯または普通のものと、動力のものとがあるところ、前記推計は動力のものを使用しているものであり、また、前掲乙第一二号証の一、原告本人の供述によれば、原告は動力用については井戸水汲上げに用いているほかすべて営業に用いており、井戸水はその約半分を家庭用に使用しても、その全体の動力用の電力消費量に占める割合は僅かにすぎないことが認められ、更に、電力消費量に営業用以外のものが含まれていても、他の同業者の電力消費量一キロワット当り収入金額で原告の収入金額を推計する場合に問題となっても、本件の如く原告の後年分の電力消費量との比較で推計する場合には余り問題にならないと考えられるので原告の右主張は該らない。
(二) 原価及び一般経費
推計の必要性及び合理性については既に述べたところであり、先に認定した昭和四六年分の同業者率を適用して同年分の原価及び一般経費を算出すれば、次のとおり一二七万六八五四円となる。
(収入金額) (同業者率) (原価及び一般経費)
5,849,079円×21.83%=1,276,854円
(三) 特別経費
(1) 外注費
原告は本件各係争年ともドライクリーニング用の設備を有しておらず、その他外注に関し本件各係争年において原告の営業に変化があったと認めるべき証拠もないので、被告主張のとおり、原告の昭和四七年分の外注費の収入金額に占める割合(外注費率)で原告の昭和四六年分収入金額から同年分の外注費を推計することは合理的というべきであり、これによれば次のとおり五二万九三四二円となる。
(昭和46年分収入金額)(外注費率)
5.849,079円×9.05%=529,342円
(2) 雇人費
被告は、同じように昭和四七年分収入金額に対する同年分の雇人費の割合(雇人費率)を昭和四六年分収入金額に乗じて推計する方法を主張するが、この方法によったほうが既に認定した両年分の各従事人員からみて原告に有利であるので、被告主張の方法によることとし、これによれば次のとおり一三五万四六四七円となる。
(昭和47年分雇人費) (同年分収入金額) (雇人費率)
1,445,300円÷6,240,854円=23.16%
(昭和46年分収入金額) (雇人費率) (昭和46年分雇人費)
5,849,079円×23.16%=1,354,647円
(3) 地代家賃
昭和四七年分との間に変化があったとの証拠はないので、同年分の地代家賃二一万六〇〇〇円と同額と認める。
(4) 支払利子
証人高田初夫の証言によれば、審査請求において原告が提出した借入利息等の支払明細書に基づいて確認された金額が一万一七〇九円であることが認められ、これと異なる証拠もないので、同額と認める。
(5) 以上、特別経費を合計すれば二一一万一六九八円となる。
(四) 所得金額
(一)収入金額から(二)原価及び一般経費並びに(三)特別経費を差し引いた金額が原告の昭和四六年分所得金額であり、二四六万〇五二七円となる。
4 以上によれば、本件各処分は右認定の本件各係争年分の所得金額の範囲内でなされたものであるから、所得を過大に認定した違法があるとの原告の主張は失当である。
五 よって、原告の本訴訟請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 東畑良雄 裁判官 森高重久)
別表一(課税経過表)
<省略>
別表二、(所得金額の算出根拠)
<省略>
<省略>
(注)( )内の金額は被告の主張額を変更した認定額である。
別表三、(同業者率表)
<省略>
別表四(昭和47年分減価償却費)
<省略>