京都地方裁判所 昭和54年(行ク)3号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
日本住宅公団男山団地の入居者Aは、公団Yの家賃値上げに反対する有志三五名で値上げ反対協議会Xを結成し、その総会開催のために右団地内にある公団の管理する二つの集会所の使用願を提出したが、いずれもYの京都営業所長に認められなかつたため、右不許可処分の取消訴訟を提起する一方、本案確定まで右不許可処分の執行停止を申立てた。裁判所は、行訴法上の執行停止は、(イ)行政庁を相手方とし、(ロ)その公権力の行使を取消対象としたうえ、(ハ)その直接の法効果として暫定的にも申立人の権利保全と損害発生が防止される場合に認められるとし、本件においては、(イ)、(ロ)の要件も疑問があると付言したうえで、(ハ)の要件を吟味し、執行停止が認められたとしても使用が許可されたと同一の状態が作出されるわけではないという理由で、申立ての利益を否定した。
【判旨】
1疎明資料によれば、申立人は、日本住宅公団男山団地の家賃の値上げ反対運動に賛同する同団地居住者有志により昭和五三年九月二三日に結成された団体で、被申立人は日本住宅公団法に基づき設立された法人であること、申立人は右男山団地A地区集会所(以下「A地区集会所」という。)において、その総会を昭和五三年一〇月二二日、同一二月一〇日、同五四年三月一一日、同六月一七日に、その役員会を月一・二回程度開催し、その都合許可申請をして許可を得、集会所使用料を支払つて右集会所を使用していたこと、申立人は同五四年九月四日、申立人の役員伊藤勝美を通じ、A地区集会所の使用願を団地セイコー男山南店に提出したところ、同月一七日被申立人の男山管理事務所から右伊藤勝美に集会所使用不許可の通告がなされ、同月一九日、右伊藤勝美が男山団地南センター集会所(以下「南センター集会所」といい、前記A地区集会所と合わせて「本件集会所」という。)の使用願を提出したが同日不許可にされたこと、申立人の役員会は同年一〇月二〇日に同年一一月二五日に申立人の総会を開催する旨を決定し、申立人代表者は、同年一〇月二一日にA地区集会所の使用願を提出したが同月二三日、被申立人の京都営業所長より使用不許可の通告を受け、さらに、同年一一月二日にも南センター集会所の使用願を提出したが同月五日に同様使用不許可の通告を受けたことが一応認められ、また、本件記録によれば、申立人は被申立人を被告として右一〇月二三日と一一月五日の各不許可処分の取消しを求める訴えを提起し(当裁判所昭和五四年(行ウ)第一五号集会所使用不許可処分取消請求事件)、右本案判決の確定に至るまで右不許可処分の効力の停止を求めるため本件申立てに及んだことが明らかである。
2ところで行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)における執行停止の制度は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同法三条一項、二項参照)について、当該行政庁を被告とする取消訴訟に勝訴してもその実効を期しえない虞れがあるので、右事態を防止するため、本案判決の確定に至るまでの間、当事者間の法的状態につき暫定的な安定を図り、申立人の権利保全及び損害防止に役立てる目的で認められたものである(同法二五条二項参照)から、右執行停止が許されるのは、行政庁を被申立人とし、その公権力の行使に当たる行為を取消対象とした場合であり、かつ、仮に、執行停止が認容された場合にその直接の法効果として暫定的にも申立人の権利保全が図られ、これにより損害の発生が防止される場合に限定されるというべきである。
これを不許可処分についての取消訴訟についてみるに、その被告適格を有するのは当該不許可処分をした行政庁(行訴法一一条参照)であり、執行停止においても右行政庁を被申立人とすべきところ、本件においては、日本住宅公団が右行政庁に該当するか疑問があるうえ、日本住宅公団がその入居者の本件集会所の使用についてなす許可、不許可が公権力の行使に該当するかについても少なからず疑問があるが、仮にこれらの点としばらく措くとしても、本件集会所の使用不許可処分の執行停止をしても申立人の側用許可の申請がなされたにすぎない状態が現出されるにとどまり、これにより被申立人が使用許可をなしたと同一の法的状態が作出されるわけではない(この点、申立人は申立人構成員たる日本住宅公団男山団地入居者が共益費を負担しており、申立人には当然に本件集会所の使用権があると主張するが、本件集会所の使用に際してはその都度使用の許可申請と集会所使用料金の支払いを要すること等に鑑みれば、本件集会所の使用権が当然に認められているとはいい難い。)。
もつとも、不許可処分の執行停止決定がなされることによりこれが当該行政庁に対して何らかの影響力をもつことはありうるが、右影響力は事実上のものであり、そのために執行停止決定を認めることは、その制度の趣旨に照らして相当ではない。
そうすると、申立人の本件申立ては、申立ての利益を欠き不適法といわざるをえない。
(田坂友男 東畑良雄 岡原剛)