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京都地方裁判所 昭和55年(わ)1697号 判決 1981年10月23日

被告人 赤城茂治

昭一一・二・二二生 トラツク運転手

主文

被告人を罰金一〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金四〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和五五年一一月一七日午後一一時一〇分ころ、大型貨物自動車を運転し、京都市南区東九条西御霊町三〇番地先の交通整理の行われている交差点を南方から北進してきて青色信号に従つて西方に向かい左折するにあたり、自動車運転者としては、左折の合図をし、あらかじめできる限り左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて徐行して、事故の発生を未然に防止するべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、左折の合図をしたが、道路左側端から約二メートルの間隔をあけたまゝの北進から道路左側に寄せることなく、漫然時速約三五キロメートルで左折した過失により、折りから自車左側を後方から進行してきて左折しようとした津呂健二(当時一九年)運転の自動二輪車右前部付近に、自車左側中央部より若干前付近を衝突させ、同人を同交差点内南西隅路上に転倒させたうえ、自車左後輪で同人を轢過し、よつて同人に腸管破裂、腸間膜断裂、腹腔内出血等の傷害を負わせ、同月一八日午前三時二五分ころ、同市下京区中堂寺庄ノ内町八番地所在の京都回生病院において、右傷害により同人を死亡するに至らしめたものである。

(証拠の標目)(略)

(過失の認定について)

弁護人は、被告人には道路交通法三四条一項の違反となるような過失はないし、仮にかかる違反があるとしても、この違反と事故発生の間に因果関係はないと主張し、被告人も同趣旨の供述をしているので過失の認定について若干付言する。

1  先ず、被告人車の進路、殊にその道路左端との間隔については、前掲の各証拠を総合すれば被告人は昭和五五年一一月一七日午後一一時一〇分ころ、竹田街道を大型貨物自動車(以下「トラツク」という。車長一〇・七七メートル、車幅二・五〇メートル。)を運転して時速約五〇キロメートルで北進中通称大石橋交差点に差しかかり、同交差点を左折して府道四ノ宮四ツ塚線(通称九条通り)を西方に進行すべく、実況見分調書(検二号)末尾添付の交通事故現場図(以下「現場図」という。縮尺は二〇〇分の一。)の<1>点(交差点手前約四五メートル)付近で前方同交差点の対面信号が青色であることを確認して左折の方向指示器を出し、<2>点(交差点手前約二四メートル)付近で左後方をバツクミラーで見て減速を開始し、<3>点(交差点手前約一〇メートル)付近でさらに左後方をバツクミラーで見て時速約三五キロメートルで左折を開始進行したが、被告人運転のトラツクの走行軌跡は、<1>点から<3>点に至るまでは一貫してセンターライン寄りであつて、北行車線(幅員約五メートルのものが交差点手前約二五メートルから若干広くなつてゆき同入口で約六メートルとなる)をトラツクの左側端から車道の左側端まで約二メートルの間隔をあけて進行し、交差点内ではそれが約二・二メートルないし約三・七メートルの間隔をあけて進行したことが認められる。被告人は、当公判廷で弁護人の問に対し、トラツクは北行車線の真ん中あたりを通つたとも供述しているが、同じ法廷での検察官の問に対し<3>の地点でトラツクの右側はセンターラインより約四、五〇センチメートルあいていたと明確に供述していること、前記現場図には<1>、<2>、<3>各点からセンターラインまで一メートルないし一・一メートルと記載されているが、右各点は運転席の被告人の中央であり、車の右側端とセンターラインの距離はこれより数十センチ短かくなること、被告人運転のトラツクを約二、三〇〇メートル程追尾する形で普通乗用車を運転し、後方から本件事故を目撃した中久保武が検面調書で、被告人運転のトラツクの左側は二メートル以上もあいていたと述べていることなどにてらし、前記のとおり<1>点から<3>点に至るまではトラツクの左側は約二メートルあいていたと認定するのが合理的である。

2  次に被告人運転のトラツクと被害者運転の自動二輪車(以下「単車」という)との位置関係等については、右中久保の検面調書によれば、中久保車が時速約五〇キロメートルで被告人のトラツクの後方を北進中、やや左後方にぴたつとつくように被害者の単車が走行しており、同交差点に差しかかり中久保が自車の速度を約四〇キロメートルに落し、現場図<A>地点あたりに進行したとき、被害者の単車は左方向指示器を出しながら時速約五〇キロメートルで中久保車を左後方より追い抜き<ア>′地点を先行し、その時の被告人のトラツクの後部が<1>′地点であつたというのである。ところで検二号の実況見分調書の現場図、添付写真から判断すると、被告人のトラツクと被害者の単車との接触地点は交差点内のサ1点付近でトラツクの左側中央部より若干前部分に接触したものと認めるのが相当である。中久保が検面調書で現場図にあてはめて述べる中久保車、トラツク、単車のそれぞれの各地点間の距離、各地点の速度を相関させて計算すると矛盾が生じてくるのでこれをそのまゝ採用することができないが、これは進行中の中久保が当時特に意識して確認したことでもない進行中の相互関係という供述事項、内容の性質からみて、若干の矛盾が生ずるのも無理からぬところであり、真摯な供述振りのうかがわれる中久保検面調書が述べるところの中久保車、トラツク、単車の大凡の相互関係はその述べるとおりであり、具体的各地点の特定に捉われてはならないものとして把握すべきである。そして中久保検面調書には単車が交差点手前で時速約四〇キロメートルに減速しているように思えた旨が述べられているが、現場図にあてはめてみると、単車が時速約三五キロメートルのトラツクを相当に速く追いあげていること、さりとて単車が中久保車を時速約五〇キロメートルで追い抜いた後更に加速したと認められる状況がなく、単車も左折車であつてさらに加速することが通常考えがたいことなどからいつて、単車は衝突時まで時速約五〇キロメートルで進行したものと認めるのが相当である。そして、時速約五〇キロメートルの単車がサ1点付近で時速約三五キロメートルのトラツク(車長一〇・七七メートル)の左側中央部より若干前部分に接触しているのであるから、トラツクの接触点をトラツク後端から七メートル位とすると、サ1点から約二三・三メートル手前で単車がトラツクの後端の並ぶ位置にあつたことになり、これを前記現場図にあてはめてみると交差点入口の手前約一六メートルということになる。以上検討してきたところにより前掲各証拠を総合すると、単車はトラツクの後続車である中久保車の左後方につくように時速約五〇キロメートルで北進してきたが、交差点が近づきトラツク及び中久保車が減速したのにかかわらず、同速度で中久保車を追い抜き、交差点入口手前一〇数メートルでトラツク後端の左側に並び、さらにトラツクの左側を追い抜き進行し、交差点内のサ1点付近でトラツク左側中央部より若干前部分に接触したものと認められる。これは中久保検面調書を前記のとおり把握して証拠とすることと矛盾するものではない。

3  そこで被告人の本件事故における過失の有無、内容について検討する。交差点における左折方法を定める道路交通法三四条一項の規定の実質は、左折車と進路が交差することとなる車両との関係のみを考えて定められたものではなく、他の左折車との関係をも考えて定められたものと解するのが相当である。何故ならば、交差点においては単なる道路の曲り角と異なり他の左折車が左折車を直進車と見誤ることによる危険が考えられるし、また左折車と他の左折車の関係では、進路変更がない限り単なる道路の曲り角と同視すべしということになると、この両車の間においては刑法上は左折の合図をなすべき注意義務がないということになろうが、これはまことに危険なことでありとうてい首肯できないからである。それゆえ、被告人運転のトラツクには被害単車に対する関係でも、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて徐行しなければならない注意義務があるというべきである。この点につき弁護人、被告人は、本件のトラツク(一一トン車)のような場合は、左折を予定していたとしても左折の際の内輪差の大きさを考慮して道路の真ん中あたりを走行するのが通例であり、そうでなければ、左折する際曲がり切れずに歩道に乗りあげたり、後輪で車や人を引つかけるおそれがあつて危険だと主張するが、検一六号の実況見分調書によれば、本件のようなトラツクでも、道路左側端から約一メートルの間隔で北進し、時速約二五キロメートルで左折した場合、トラツクの左側は交差点西南角の歩道から最も近いところで約〇・二メートルのところを通過し、右側はいわゆるゼブラゾーンに突入することなく、ある程度の間隔をあけて通過することが充分可能であるし、同調書中の弁護人の指示説明からみれば、左折速度が低いほど左折車がより道路の左側端に寄つて進行しうる関係が窺われ、被告人のトラツクが法の求めるとおり徐行して進行するつもりならば、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄る間隔として一メートル以内になしえたことが認められる。なお交差点内の左折車通路には、現場図によると道路左端から二メートル余り離れて矢印の標示が施されているが、これは方向を示したもので必ずしもこの矢印上の通過を指示したものと考えられないばかりでなく、被告人のトラツク(車幅二・五メートル)の中央がこの矢印上を通過すれば道路左端とトラツク左側との間隔は約一メートルとなることが明らかである。そして本件では、重傷の被害者がかつぎこまれた病院の職員石川優昭が検察官に対して、被害者が死の直前「バイクに乗り北向きに走つていて交差点で左折しようとしていた時に大型トラツクが急に左折してきて巻き込まれた」と述べた旨供述しているところから判断すると、被害者は、被告人運転のトラツクの左折の合図を見落し、左折の意図を認識していなかつたことがうかがわれる。従つて本件被害者は、被告人運転のトラツクの左折の意図を認識しなかつたがために、漫然時速約五〇キロメートルで左折しようとして本件事故にあつたものと考えられ、もし被告人が、道路交通法三四条一項の義務を忠実に守り徐行して左折を行うつもりで、あらかじめ交差点の前から道路左側端との間隔を一メートル以内寄せ、かつ道路左側端に沿つて左折徐行する方法をとつていたならば、被害者は被告人運転のトラツクの行動自体によつてその左折の意図を認識し、直ちに減速し、さらにトラツクへの注意を注ぐなどして、トラツクとの接触・衝突を避けるための適切な対応をしたことが充分に期待可能であり、本件事故は避け得られたものと考える。そうだとすれば、時速約三五キロメートルの高速で左折進行しようとし、この速度を前提として道路左側端から約二メートルの間隔が必要であるとし、この間隔をあけたままの北進から、道路左側に寄せることなく、漫然として徐行とはいえない時速約三五キロメートルで左折進行した被告人には過失があるといわざるをえない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、被告人の過失が重大悪質とまでいえないこと、被害者の落度が極めて大きいこと、その他総合考量して所定刑中罰金刑を選択し、その所定罰金額の範囲内で被告人を罰金一〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金四〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田治正)

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