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京都地方裁判所 昭和55年(ワ)1360号 判決 1981年9月16日

原告

中島ゆか

被告

伊東公業株式会社

主文

一  被告は原告に対し金四二万五七六三円および内金三七万五七六三円に対する昭和五二年九月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し二〇五万五〇〇〇円および内金一八七万五〇〇〇円に対する昭和五二年九月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  本件事故の発生

1 発生日時 昭和五二年八月三一日午前九時四五分ころ

2 発生場所 京都市右京区山ノ内宮脇町二番地先路上

3 態様 訴外浅田憲(以下浅田という)運転の小型タンクローリー車(以下被告車という)が東進中、自転車に乗つて佇立中の原告に衝突し、転倒させたもの。

(二)  被告の責任

被告は被告車の所有者で、本件事故当時これを自己のため運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条により本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

(三)  原告の受傷内容および治療経過

1 受傷内容

右下腿挫傷、右足外果骨折

2 治療経過

(イ) 昭和五二年八月三一日太秦病院において応急処置と右足ギブス固定。

(ロ) 同年九月二日まで自宅静養中、痛みがはげしくなつたため、同月三日から同月二四日まで二二日間泉谷病院に入院。

(ハ) 同月二六日右病院に一回通院、以後同五三年一月一七日まで六回聖ヨゼフ整肢園に通院。

(四)  損害

1 治療費 一二万六五二七円

(イ) 泉谷病院分 一二万一七二一円

(ロ) 聖ヨゼフ整肢園分 四八〇六円

2 付添看護費 六万六〇〇〇円

母親の付添費一日三〇〇〇円宛二二日分

3 入院中雑費 二万二〇〇〇円

一日一〇〇〇円宛二二日分

4 通院交通費 九〇〇〇円

片道七五〇円宛六回分

5 通院付添費 一万〇五〇〇円

父または母の付添費一日一五〇〇円宛七回分

6 通学交通費 四万四八〇〇円

昭和五二年一〇月五日から同五三年一月二〇日までの間七〇日の通学につき、松葉杖使用のため片道三二〇円のタクシーを利用した。

7 家庭教師費用 五九万六六六七円

本件事故当時原告は中学三年生で高校入試をひかえていたが本件受傷による入通院期間中学校を欠席した。そこでその間の学力を補うため昭和五二年九月九日から同五三年三月一〇日頃まで家庭教師を依頼し、右費用の支払をした。

8 慰藉料 一〇〇万円

前記入通院の状況下、昭和五三年二月末頃まで松葉杖を使用して走行せざるを得なかつたが、走行の都度、骨折部に痛みがあり走行困難であり、同年七月頃までは跛行したり、左足で片足跳びして歩いたり、松葉杖を使用するなど非常に不便な生活を強いられ、正常な歩行をするまでに一年以上な要した。

また高校入試直前の二学期を休学したため学力の遅れがあり、その不安は倍加された。

さらに高校入学後も一学期の体育実技は全部参加できなかつた。

9 弁護士費用 一八万円

(五)  よつて原告は被告に対し(四)の損害合計二〇五万五〇〇〇円と内金一八七万五〇〇〇円に対する本件事故発生の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否および被告の主張

(一)  認否

1 請求原因(一)のうち原告が自転車に乗つて佇立中であつたことは否認するが、その余の事実は認める。

2 同(二)の事実は認める。

3 同(三)の事実は知らない。

4 同(四)(五)は争う。

(二)  主張

1 免責の主張

(1) 本件事故現場は、ほぼ東西に伸びる幅員三ないし四mの広い道路と北側の幅員一・四m、南側の幅員二・八mの南北に通ずる狭い路地とが交差する交差点内であり、東西道路の制限速度は毎時四〇kmである。

浅田は被告車を運転して前方注視を厳にしながら時速約一五kmで東進して右交差点に差しかかつたが、右路地付近に人影は全く見当らなかつたためそのままの速度で直進し通過し終ろうとした瞬間北側路地から自転車に乗つて飛び出して来た原告が、被告車左側後輪の後方に取付けられている消火器箱付近に衝突したため直ちに急制動の措置を講じ、二・三m進行して停止したものである。

従つて本件事故は原告の一方的過失によつて生じたものであり、浅田には何らの過失もなかつた。

(2) 被告車は平素から整備を怠らず、車検も受けており、本件事故当時構造上の欠陥や機能の障害はなかつた。

2 過失相殺の主張

仮に浅田に過失があつたとしても原告にも重大な過失があつたから少くとも八〇%以上の過失相殺がなされるべきである。

三  被告の主張に対する認否

被告の主張は全て争う。

原告は交差点北西角の電柱の側に停車して左右の安全を確認していたところ、浅田は「徐行注意」の看板が立てられていたのに徐行義務を怠り時速四〇km以上の速度で進行して来て、前方不注視により右原告に気づかず、原告の自転車の先端部に衝突したものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

原告主張の日時、場所において被告車と原告の乗車していた自転車が衝突する本件事故が発生したことについては当事者間に争いがない。

二  被告の責任

(一)  被告が被告車の所有者で本件事故当時これを自己のため運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。

(二)  被告の免責の主張について

被告は本件事故は原告の一方的な過失に起因するものであつて、浅田に過失はなかつたと主張するので、まずこの点について検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証、証人浅田憲の証言および原告本人尋問の結果によると、本件事故現場は南北に通ずる路地とほぼ東西に通ずる道路とがやや変形的に交差する交差点内であり、幅員は交差点の東方が約四m、西方が約三m、北方が約一・四m、南方が約二・八mで、東西道路と北方の路地とは相互に見通しが悪く、特に交差点北西角には電柱が設置されており、かつ本件事故当時これに立看板が立てかけられていたため西方と北方の相互の見通し状況は極めて悪くなつていたこと、東西道路の交通量は少く、また速度は毎時四〇kmに規制されていること、浅田は右交差点の手前で北方から左折して東西道路へ出てこれを東進して来たもので時速は一五km前後であつたこと、そして本件交差点のあることは知つていたもののその付近に人影が見えなかつたことから減速徐行等の格別の措置を講ずることもなくそのまま直進し、被告車前部が右交差点を通過した直後頃後方から女性の悲鳴を聞き、急停車し、降車して後方を確認したところ、被告車最後部付近に原告が自転車に片足を入れたような状態で倒れていたこと、明確な衝突痕は見当らなかつたけれども自転車前部に取付けられていたカゴのビニール製被覆カバーの一部が被告車左後輪の後部に取付けられている消火器箱に付着していたこと、また自転車転倒による擦過痕が右交差点内の東西道路の南端を直線で結んだ線から北側路地の中心線に向つて約二・一五m北側の地点に存したこと、なお原告および浅田が立会いの上本件事故当日作成された実況見分調書(乙第一号証)の原告の指示説明欄に「普通の速度で露地を南進し前方の道路を横断して南進しようとした」「前方の道路の右から左へ赤い自動車が進行して行つたので停止しようとしたが停止出来ず」「<×>で相手の車の左後部付近に自転車の前部が衝突」との記載があること、の各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば衝突の部位は原告の自転車の前部と被告車の左側後部であり、衝突地点は北側の路地から右交差点内へ一m前後入つた地点であると推認でき、以上のような事実を総合すると、浅田は見通しの極めて悪い本件交差点を通過するに際し、付近に人影が見えなかつたことに気を許し格別の注意を払うこともなく安全に通行できるものと軽信して漫然と運転を継続していたものであり、また原告は被告車を発見して停止しようとしたけれども停止できずそのまま被告車後部に衝突したものと認めるのが相当である。

3  そうすると浅田は右のような交差点を通過するに際して安全確認を厳にしなかつた点で過失があつたものというべきである。

従つてその余の点について判断するまでもなく被告の免責の主張は失当といわざるを得ない。

(三)  よつて被告は自動車損害賠償保障法三条により原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三  原告の受傷内容および治療経過

成立に争いのない甲第三、四号証、第一八号証、第一九号証の一ないし六、原告法定代理人および原告本人各尋問の結果によれば、原告は本件事故によりその主張のとおり受傷し、治療を受けたことが認められる。

四  損害

(一)  治療費 一二万六五二七円

前示の甲第四号証、第一九号証の一ないし六によれば、原告は本件受傷のため右金額の治療費を要したことが認められる。

(二)  付添看護費 六万六〇〇〇円

前示の甲第三号証、原告法定代理人尋問の結果によれば原告はその入院期間中の二二日間付添看護が必要な状態であつたこと、そしてその間原告の母がその付添看護をしたことが認められ、これによれば付添看護費としては一日三〇〇〇円宛計六万六〇〇〇円を相当な損害と認めるのが相当である。

(三)  入院中雑費 一万三二〇〇円

前示の原告の受傷内容、入院期間等に鑑みると入院中雑費としては入院期間(二二日間)中一日当り六〇〇円の割合による金員が相当である。

(四)  通院交通費 九〇〇〇円

原告法定代理人尋問の結果およびこれにより成立の認められる甲第二一号証によれば原告は前示の通院期間中の六日間タクシーを利用し一日当り一五〇〇円合計九〇〇〇円の支出を要したことが認められ、これによれば右は相当な損害と認められる。

(五)  通院付添費の請求について

原告法定代理人尋問の結果によれば、原告の通院の都度原告の母が付添つた事実が認められるけれども、原告の年令や当時の症状に照らしそのような付添が必要であつたことを認めるに足りる立証はないから、右請求は理由がないものといわねばならない。

(六)  通学交通費 四万四八〇〇円

前掲の甲第二一号証、原告本人尋問の結果によれば原告主張のとおりの出費を要したことが認められ、原告の当時の症状等に照らし右は相当な損害と認められる。

(七)  家庭教師費用 一九万二〇〇〇円

原告法定代理人尋問の結果およびこれにより成立の認められる甲第五ないし第一七号証、原告本人尋問の結果によれば、本件事故当時原告は中学三年生で高校入試をひかえていたこと、本件受傷による入通院期間中一カ月半位学校を欠席したこと、昭和五二年九月九日から同五三年三月一〇日頃まで家庭教師二名を依頼し、数学、国語、英語の三課目につき学校の授業の補足と入試の指導を受け一時間二〇〇〇円宛合計五九万六六六七円の支出を要したことが認められるが、原告の受傷の部位、程度、治療経過、休学期間、右家庭教師の指導の内容等を考慮するとそのうち昭和五二年一〇月まで二カ月分合計一九万二〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当である。

(八)  慰藉料 三〇万円

前示の原告の受傷の内容、治療経過その他の諸事情を総合して勘案すると、原告の慰藉料としては三〇万円が相当である。

(九)  弁護士費用 五万円

本件事案の内容、審理の経過、本訴認容額等に照らすと、原告が被告に対して弁護士費用として請求し得べき金額は五万円とするのが相当である。

五  過失相殺

前記認定の事実によれば、本件事故の発生については原告においても見通しの悪い交差点を通過するに際し左右の安全を確認しないまま進入した過失があつたものといわねばならず、その過失割合は被告が五、原告が五と評価するのが相当である。

よつて前示の損害のうち弁護士費用を除くその余の損害について五割を過失相殺することとする。

六  結論

以上の次第であるから、原告の被告に対する本訴請求は四二万五七六三円と内金三七万五七六三円(弁護士費用を除いたその余の金員)に対する遅滞の後である昭和五二年九月一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で正当であるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村田長生)

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