京都地方裁判所 昭和55年(ワ)770号 判決 1981年7月27日
原告
長谷部直之
被告
古川春一
ほか一名
主文
被告古川春一は原告に対し金一二八万四九二円及び内金一一六万四九二円に対する昭和五五年六月二五日から、内金一二万円に対する昭和五六年七月二八日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告橋本博一に対する請求及び被告古川春一に対するその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを七分し、その一を被告古川春一の、その六を原告の各負担とする。
この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告等は各自原告に対し八六六万二六九八円及びこれに対する昭和五五年六月二五日から支払済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告等の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(1) 事故発生の日時 昭和五四年一月一二日午後〇時二〇分頃
(2) 事故発生の場所 京都市山科区椥辻中在家町一三番地先市道外環状線路上
(3) 加害車 被告古川春一運転の普通貨物自動車(京四四み九五四七)
(4) 被害車 原告長谷部直之運転の自動二輪車(京ま七〇五四)
(5) 態様 被告古川が右事故現場道路の西側に設置されているガレージより加害車を発進した後道路中央付近で南行する対向車両の通過を待つて右折しようと一時停止していたところ、原告運転の単車が被告車両の右後輪付近に衝突した。
2 責任の根拠
(1) 被告古川春一の責任
右事故現場は交通量の多いところであり、被告古川としては南行車両の有無並びに速度に注意し、かつ北進してくる原告車の進行状況を適確に把握判断し衝突を避けるために前進または後進すべき注意義務があるにもかかわらずその義務を尽さなかつた過失があるから、不法行為責任がある。
(2) 被告橋本博一の責任
被告橋本は、加害車両の保有者であつて自己の運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。
3 傷害の程度
原告は右事故により右脛骨腓骨開放性骨折等の負傷を負い昭和五四年一月一二日以降同五五年四月三〇日まで四五五日間椥辻病院に入院し治療を受けた。
4 損害
(1) 休業損害 一九九万一八五六円
原告は事故当時株式会社洛東自動車電機に修理工として勤務し、事故前三か月間の一か月平均給与は一二万四四九一円の収入があつた。事故当時より昭和五五年四月末日に至るまで一六か月間休業を余儀なくされその間一九九万一八五六円の給与収入を得られなかつた。
(2) 入院中の雑費 三一万八五〇〇円
一日あたり少くとも七〇〇円を出費しておりその入院期間四五五日分。
(3) 特別入院費 一四一万五六五〇円
<1> 室料 一二三万五〇〇〇円
<2> 付添食費 一一万八〇〇〇円
<3> 付添寝具ベツド料 四万七五〇円
<4> 電気器具使用料 二万一九〇〇円
(4) 付添費用 七八万六〇〇〇円
原告は前記事故のため昭和五四年一月一二日から同年九月三〇日まで二六二日間付添看護を必要とし一日あたり三〇〇〇円を要した。
(5) 慰謝料 五〇〇万円
原告は前記事故による負傷のため入院を余儀なくされ自賠法施行令二条所定一二級七号相当の後遺障害を残しておりこれによる肉体的精神的苦痛ははかりしれずこれを金銭に換算すると五〇〇万円を下らない。
(6) 弁護士費用 二〇万円
(7) 損害相殺
原告は休業給付として一〇四万九三〇八円の支払いを受けている。
5 よつて、原告は被告らに対しそれぞれ右残額八六六万二六九八円とこれに対する右不法行為後である昭和五五年六月二五日から支払済みにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告らの請求原因に対する認否及び主張
1 請求原因1の事実のうち、交通事故発生の日時、場所、加害者、被害者を認め、その余の事実は否認する。同2を争う。同3、4の事実は知らない。同5は争う。
2 被告古川運転の車両はガレージを発進し道路中央付近で南行する対向車両の通過を待つて右折しようと一時停止していたところへ、原告運転の自動二輪車が制限速度を超える高速度で走行し被告車の右後輪付近に衝突したもので原告において前方を注視しもしくは制限速度内で走行しておれば被告車を発見し衝突を回避しえた状況であつたのにこれを怠つたため事故が発生したものであつて被告古川には過失がない。
第三証拠〔略〕
理由
一 交通事故の発生と被告古川春一の責任
昭和五四年一月一二日午前〇時二〇分頃京都市山科区椥辻中在家町一三番地先市道外環状線路上において被告古川運転の普通貨物自動車と原告運転の自動二輪車とが衝突したことは当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第一、第二号証、昭和五四年一月一二日古川春一撮影による被告車の写真であることに争いのない検乙第一号証、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第三、第四号証及び原告、被告古川春一各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。
被告古川春一は右日時頃同被告の保有する普通貨物自動車(被告車)を運転して自己の伏見店(食肉店)に向かうため京都市山科区椥辻中在家町一三番地先市道に道路西側の駐車場より発進し、東側南行車線に進入するため手前の北行車線を横切るに際し手前で一旦停止し右(南)方向の交差点の信号が青であり北行車線の交通量も少く安全であると考え十分安全を確認しないまま徐行しながら道路に進入しその後は南行車線上に入る機会を窺うことのみに気を奪われ中央線付近に至つて停車したところ、折りから西側北行車線上を時速約六〇キロメートルで北進してきた原告運転の自動二輪車が被告車右後側部に衝突した。
以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、被告古川は道路外の車庫から道路に進入し手前の車線を横切つて反対側車線に進入する場合手前車線を進行してくる車両の存否を十分確認したうえ道路内に進入すべき注意義務があるのにかかわらずこれを怠り手前西側北行車線の車両の存否を十分確認することなく道路内に進入し中央線付近に至つたため本件事故を惹起したから、同被告には過失があるものというべきである。
しかしながら、原告にもまた、右道路の制限速度が時速四〇キロメートルであるのに事故直前六〇キロメートル毎時に加速しており、かつ被告車が徐行しながら道路中央に向つて東進し停車したのに事故直前までこれに気付いておらず、十分前方を注視し適正な速度で進行しておれば事故の発生を未然に回避できたのにかかわらずこれを怠つた過失を認めることができる。以上の諸事情を総合考慮すると、原告と被告古川との過失割合は、原告六、被告四とするのが相当である。
二 被告橋本博一の責任
前記甲第三号証、被告古川春一本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、被告橋本博一は、被告古川春一の義弟であつて、形式上本件事故車両の登録上名義人となつているけれども同車の実質上の所有者は被告古川であると認められるのであり、また被告橋本がその運行支配及び運行利益を有していたことを認めるべき証拠もない。
三 原告の損害
原告本人尋問の結果成立が認められる甲第五ないし第一二号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 原告は前記事故により右肩関節、右胸部打撲傷、右下腿、左足部、右膝関節打撲挫創、右脛骨腓骨開放性骨折等の傷害により京都市山科区椥辻草海道町三六の六七なぎ辻病院に昭和五四年一月一二日から同五五年五月二一日まで四九六日間入院し、同月二二日から同年七月三一日まで(実治療日数五七日)通院して治療を受けた。
もつとも、原告は昭和五四年四月一六日に傷は一応閉鎖したがなお関節の機能に障害を残していたのでその後は機能回復を主目的として治療を受けていたものである。
2 本件事故と相当因果関係ある損害は次のとおりである。
(一) 休業損害 原告は本件事故当時株式会社洛東自動車電機に修理工として勤務し一か月平均一二万円の収入を得ていたが、本件事故により昭和五四年一月一二日から少くとも一六か月間休職し一九二万円の収入を得られなかつた。
(二) 入院諸雑費 入院期間のうち四五五日について一日当り少くとも七〇〇円を要したからその合計三一万八五〇〇円。
(三) 付添費 原告は入院中母長谷部ハナ子の付添を受けていたところ、昭和五四年一月一二日から同年九月三〇日まで二六二日間付添を必要とし一日当り少くとも三〇〇〇円を要したと認められるからその合計額七八万六〇〇〇円。
(四) 慰謝料 本件事故の態様、被害者の負傷の部位程度、治療経過、後遺症の内容程度(自賠法施行令二条所定後遺障害別等級表一二級七号に相当する。)その他本件に顕れた事情を斟酌すれば原告が請求しうべき慰謝料としては二五〇万円とするのが相当である。
(五) 原告は、この外特別入院費として、室料、付添食費用、付添寝具ベツド料及び電気器具使用料を支出しそれらの費用相当額を損害として請求するけれども、これらの出費を認めるべき証拠がないばかりでなく右出費があつたとしても前記諸費用に含まれる限度で請求しうるに止まりこれを越えて本件事故と相当因果関係ある損害と認めることはできない。
(六) 以上(一)ないし(四)の合計額五五二万四五〇〇円について前記過失割合により按分すると原告の請求しうべき損害額は右の四割に当る二二〇万九八〇〇円となり、原告が右損害に対し一〇四万九三〇八円の支払(休業給付)を受けていることは原告において自認しているところであるから、これを右損害額から控除するとその残額は一一六万四九二円となる。
(七) 弁護士費用 本件訴訟の内容、経過、遂行の難易、認容額等を総合勘案すると原告が支払う弁護士費用のうち一二万円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認める。
この損害に対する遅延損害金の起算日は本判決言渡の日の翌日である昭和五六年七月二八日とするのが相当である。
四 よつて、原告の本訴請求のうち、被告古川に対し一二八万四九二円及びうち一一六万四九二円に対する本件不法行為後である昭和五五年六月二五日から、うち一二万円に対する昭和五六年七月二八日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田秀文)